ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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実力者とは

ホームルームが終わった後、俺は屋上にいた。教室が荒れに荒れており、そこから逃れるためだ。ポイントがない者は嘆いたり、物を他の生徒に売りつけたりと見るに耐えない状況で自分がDクラスの落ちこぼれということに納得のできないやつが荒ぶって喧嘩寸前だったりと、ある意味、地獄絵図だった。平田のおかげでなんとか収まったようだが、巻き込まれるのは御免だ。

 

(それにしても、ここから綾小路がどう動くかだな。我関せずを通すのかそれとも……、ま、とりあえず、プライベートポイントだけでもなんとかするか)

 

そんなことを考えながら俺が空を見つめながら黄昏ていると、

 

「ちょっと、いいかしら」

 

急に声をかけられる。そこには、堀北の姿があった。

 

「どうした?もうすぐ授業が始まるぞ。」

 

「それはあなたもでしょう。………この学校のことであなたの知っていることを全部教えて」

 

「随分といきなりだな。あと、なんで俺なんだよ。」

 

「あなた、この学校のシステムが説明されたとき、ちっとも驚いていなかった。むしろ、予想通りって感じだったわね。欠伸までしていたし」

 

なんで欠伸したことまで知ってんだよ。

 

「そんなことまで観察する必要ないだろ。ストーカーか?」

 

そう軽いジョークを入れてみるが、堀北はジッと俺を見ている。睨んでいるようにさえ感じる。この前までの余裕はどこにいったんだか。

 

「ふざけないで、早く教えて」

 

「他にも動揺してなかったやついるだろ。高円寺とか」

 

「彼は動揺はしていなかったけれど今日気づいた様子だったし、話が通じると思う?」

 

それはそれで辛辣だな。ま、事実だけど、

 

「いや、教えてって言われてもな。俺が知ってる内容もほとんど茶柱先生が言った通りだぞ。」

 

「じゃあ、なんで誰よりも早くそのことに気づけたのか教えてくれる?」

 

「別に、この学校の妙なとこを考えてたらそう思っただけだ。」

 

「妙なところ?」

 

「毎月10万貰えるとか、裏があるって考えるだろ。それにあの教師も意味深な発言ばっかりしてたしな」

 

「意味深?」

 

「学年ごとのクラス替えはない、とか、一日にポイントは振り込まれるとかな。」

 

「?」

 

「分からないか?10万振り込まれることが決まってるなら、毎月10万振り込まれるって言えばいいし、クラス替えがないなら、この学校にクラス替えは存在しないって言えばいいだろ?そういうことだよ。」

 

「っ!!」

 

「この学校はとにかくひっかけが好きみたいだな」

 

「………じゃあ、私は何でDクラスなの?」

 

「そんなの学校側に聞けよ」

 

「そのつもりよ。一応聞いただけ。」

 

「でも、それもよく考えたらわかることだ。」

 

「なっ?!あなたにはわかっているというの?その理由が」

 

「ま、でもそれくらい自分で考えろよ。落ちこぼれじゃないんだろ?」

 

「………………」

 

チャイムの音が聞こえて来る。

 

「じゃあ、先に戻ってるぞ」

 

俺は堀北を置いてその場を後にした。

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

その日の放課後、俺は授業が終わり次第教室を出る。クラスでは平田がこれからどうするか、考察会を開くそうだが、俺は参加を見送っておいた。俺がその場にいてもやれることは限られてるしな。

とりあえず、寮に戻ろうと思っていたのだが、

 

『一年Dクラスの綾小路くん、八剣くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

という放送が流れる。なんか面倒な予感がする。俺と綾小路が呼び出されるってのも含めて、

俺はとりあえず職員室に向かい。職員室の扉を開くが、茶柱先生も綾小路も見当たらない。

 

「失礼します。茶柱先生いますか?」

 

俺が職員室に入り、そう尋ねると、

 

「え?サエちゃん?えーっとねー。さっきまでいたんだけど」

 

髪がウェーブになっている。雰囲気が柔らかい先生がそう答える。茶柱先生とはある意味対局だ。

っていうかサエちゃんって、友達か何かなのか?まぁ、教師同士友達でもおかしくないけど、

 

「席を外してるみたいだし。職員室で待ったら?」

 

そう言って、自分の隣の席をポンポンと叩く。いや、隣かよ、

 

「いえ、外で待ってます」

 

変に注目を集めるのも良い気はしないので、そう言って廊下に出ると、その先生も俺についてきて廊下に出てきた。

 

「私はBクラス担任の星之宮知恵って言うの。紗枝とは高校時代からの親友でね。サエちゃん、チエちゃんって呼び合う仲なのよ〜」

 

「はあ、そうですか」

 

別に聞いてないが。っていうかこの先生はともかく、あの茶柱先生がこの先生をチエちゃんと呼んでる姿が全く想像できない。しかし、Bクラスの担任か、一之瀬の担任ってことだよな。

 

「ねえ、サエちゃんにどういう理由で呼び出されたの?ねえねえどうして?」

 

近い。この人距離感がかなり近い。……ちょっとドキッとするって違う。

 

「いや、それが俺にもさっぱりで……」

 

そう答えながら一歩離れる。

 

「わかってないんだ。理由も告げずに呼び出したの?ふーん、君、名前は?」

 

「八剣迅です」

 

すると、一瞬、星之宮先生の目が変わり。俺をジッとみた後、

 

「八剣くんかぁ〜。カッコいいね。イケメンだし。モテるでしょ?」

 

さっきの一瞬、俺を見定めたな。上手く隠せたのか、それとも……

 

「いや、別にモテないですよ。」

 

「彼女とかいないの?興味ないわけじゃないんでしょ?」

 

「いませんよ。面識ある女子すら少ないですし。」

 

面識ある男子も少ないがそれは言わなくていいだろう。

 

「え〜、ほんとに?私が生徒なら絶対ほっとかないのに〜。つんつんっと。」

 

星之宮先生の細い手が俺を掴み。頬を突いてくる。

教師なので強引に振り解くわけにもいかず、どうしようかと考えていると、

 

「何やってるんだ、星之宮」

 

突然現れた茶柱先生が手にしていたクリップボードで、スパンッと響きの良い音をさせ、星之宮先生の頭をしばいた。痛そうに蹲る星之宮先生。茶柱先生の後ろには綾小路がいる。先に合流していたようだ。

 

「いったぁ。何するの!」

 

「うちの生徒に絡んでるからだろ」

 

「サエちゃんに会いに来たって言ってたから。不在の間、相手をしてただけじゃない」

 

「ほっとけばいいだろう。待たせたな、八剣。ここじゃなんだ。生活指導室まで来てもらおうか」

 

「はぁ、なんかやらかしましたか?」

 

「口答えはいい。ついてこい」

 

俺は綾小路に何かしたのかっと目でうったえる。綾小路は気づいたようで首を横に振る。

すると、笑顔で星之宮先生もついてくる。茶柱先生は鬼の形相で、

 

「お前はついてくるな」

 

「え〜冷たいこと言わないでよ。聞いても減るものじゃないでしょ?だって、サエちゃんって個別指導とか絶対しないタイプじゃない?それなのに、新入生の八剣くんとこの子をいきなり指導室に呼び出すなんて……何か狙いがあるのかなぁ?って」

 

ニコニコとそういった後、俺の後ろに周り両肩に手を置いた。ニコニコしてるのに空気がぶつかり合うのを感じる。

 

「もしかして、サエちゃん下克上でも狙ってるんじゃないの〜?」

 

下克上?どういう意味だ。

 

「バカを言うな。そんなこと無理に決まっているだろう」

 

「ふふ、確かに。サエちゃんにはそんなこと無理だよね〜」

 

この人ら絶対仲悪いだろ。

 

「どこまでついてくるつもりだ?これはDクラスの問題だ。」

 

「え?一緒に指導室だけど?ダメなの?ほら、私もアドバイスするし〜」

 

「え、迅くんと星之宮先生?」

 

その時、聞き覚えのある声が耳に入る。

 

「一之瀬か」

 

「なんで一緒にいるの?」

 

一之瀬が俺に尋ねてくる。一之瀬は何故か不安そうな表情で俺と星之宮先生を見ていた。

 

「いや、まぁ、色々あっ「一之瀬さんと知り合いなの?ねえねえどういう関係?」いや、だから…」

 

俺が一之瀬と話していると星之宮先生に思いっきり話に割り込まれた。っていうか状況がどんどんややこしくなってる。綾小路なんか完全に蚊帳の外だ。

 

「一之瀬とは友達です。それより一之瀬、何か用があったんじゃないか?」

 

ここは職員室の前だ。用がないのに近づくことはないだろう。

 

「う、うん。星之宮先生に」

 

「ほら、お前に客だ。早く行け」

 

パン、とクリップボードで星之宮先生のケツを叩く。

 

「もう〜。これ以上からかってると怒られそうだから。またね、八剣くんっ。じゃあ、職員室に入りましょうか。一之瀬さん」

 

「…はい。またね、迅くん。」

 

「ああ、またな」

 

軽く手を振って去っていく一之瀬に軽く手を上げて返す。

 

一之瀬と星之宮先生を見送った後、ポリポリと頭をかいたあと、指導室に向かうのか歩き出した。程なくして職員室の近くにあった指導室へと入る。俺と綾小路もそれに続く。

 

「で………何なんですか。俺たちを呼んだ理由って」

 

綾小路がそう切り出す。

 

「うむ、それなんだが……話をする前にちょっとこっちに来てくれ」

 

茶柱先生は時間を確認しながら、給湯室に入っていく。

 

「お茶でも沸かせばいいんですかね。ほうじ茶でいいですか?」

 

綾小路はそう言いながら、ほうじ茶の容器を手に取る。そういうことじゃないと思うが、

 

「余計なことはしなくて良い。黙ってここに入ってろ。いいか、私が出てきていいと言うまでここで物音を立てずにジッとしていろ。破ったら退学にする」

 

「「は?言ってる意味が全く……」」

 

言うことが綾小路と被り、顔を見合わせると、バンッと扉が閉められる。一度、扉に視線を向け、もう一度顔を見合わせる。すると、綾小路が消えるような小声で、

 

「どういうことだと思う?」

 

っと聞いてくる。だが、俺にもさっぱりなので首を傾げる。

しばらくすると、ガラッという入り口の扉が開く音がする。誰かが入ってきたのか。

 

「まあ入ってくれ。それで?私に話とはなんだ。堀北。」

 

堀北?なんで……ああ、朝のあれか。結局、先生に聞くことにしたんだな。……あの教師が素直に答えるかはわからないが、

 

「素直にお聞きします。何故、私がDクラスに配属されたのでしょうか」

 

「本当に素直だな」

 

「先生は本日、優秀な人間から順にAクラスに選ばれたとおっしゃいました。そして、Dクラスは落ちこぼれの最後の砦だと」

 

「私が言ったことは事実だ。どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな」

 

まぁ、成績はいいことは事実だけどな。

 

「入学試験の問題はほとんど解けたと自負していますし、その後の面接でも大きなミスをした覚えはありません。少なくともDクラスになるとは思えません。」

 

なら別の面が評価されて、その結果Dになったってとこまで考えられたらいいんだがな。

 

「入試問題は本来生徒に見せないんだが、今回は特別に見せてやろう。ここにお前のテスト用紙がある」

 

「随分と用意がいいんですね。まるで私がこのことを聞きに来るとわかっていたみたいに」

 

「これでも教師なんでな。生徒の性格は把握しているつもりだ。堀北鈴音。お前の入試結果は見ての通り今年の一年の中では三位の成績を収めている。一位二位とも僅差。充分すぎるできだな。面接でも特に問題はなく、むしろ高評価だったと記憶している。」

 

「ありがとうございます。では、何故?」

 

「その前に、お前は何故Dクラスであることに不満なんだ?」

 

「正当な評価をされていない状況を喜ぶ者などいません。ましてこの学校はクラスによって大きく将来が変わります。当然のことです。」

 

「正当な評価?ふん、随分と自己評価が高いんだな」

 

茶柱先生は失笑して続ける。

 

「お前が学力に秀でているのは認めよう。しかし、学力に優れた生徒が優秀なクラスに入れると誰が決めた。我々はそんなこと一言も言っていない。」

 

「それは………常識的な話です。」

 

「常識?その常識とやらがダメな日本を作ったんじゃないのか?テストの結果だけで人を判断し、優劣を決めてきた。そして無能な人間を上へと押し上げ、その地位を守ろうと真に優秀な人間を蹴落とそうと躍起になる。そして、行き着くのが世襲制だ。」

 

世襲制とは地位や権力を血統で受け継がせるやり方だ。

 

「確かに勉強ができることは一つのステータスだ。それを否定する気はない。だが、それで全てが決まるということじゃない。成績がいいだけで上のクラスになれると思っているのなら大間違いだ。それに須藤を見てみろ勉強だけで測っているなら入学できていること自体おかしいとは思わないか?」

 

「っ………」

 

そう、この学校は屈指の進学校にも関わらず成績だけ見ると入学できないような生徒も入れている。それは勉強面以外が評価された証拠でもある。

 

「それに、正当に評価されないことを喜ぶ者も世の中にはいる。Dクラスにもいるはずだぞ、下のクラスに入れられて喜んでいる変わり者が」

 

それって綾小路のことか。こいつは実力を隠すことに徹底してるからな。下のクラスなら比較的目立ちにくいというのはあるかもしれないが、

 

「説明になっていません。とにかく、私がDクラスになったことが間違っていないか、再度確認をお願いします。」

 

「それなら無駄だ。残念ながら間違いはないお前がDクラスになったのは、なるべき人物だったからだ。」

 

「……………そうですか、改めて学校側に聞くとします。」

 

諦めるのでなく。今度はもっと上に訴えるつもりのようだ。自己評価の高い人間は何度も見たことがあるが、ここまで高い人間はそういない。ちなみに一番は高円寺。

 

「上に掛け合っても結果は同じだ。それにDクラスになったことを悲観する必要は無い。朝にも言った通りクラスは上下する。Aクラスに上がればいいだけの話だ。」

 

「簡単な道のりとは思えません。未熟者が多いDクラスがどうやってAクラスより高い点を取れというんですか。不可能じゃないですか」

 

「それは、私の知ったこっちゃない。険しい道のりを進むかどうかは本人次第だ。それとも、堀北、お前は絶対Aクラスに上がらなければならない理由があるのか。」

 

「それは…………今日のところはこれで失礼します。ですが私が納得していないことは理解していてください。」

 

「わかった。そうだ、お前と関係のある人物を呼んでいたんだった。」

 

「関係のある人物?まさか兄さ………」

 

「出てこい。お前ら、」

 

こんな状況で呼ばれたくない。気まず過ぎるだろ。しかも、兄さんとか言いかけてたし、希望と違いすぎる人物が出て来たら堀北に目の敵にされる可能性すらある。面倒くさい。

だが、出ていかないわけにもいかず、俺と綾小路は給湯室から出ていった。




まだ話の途中ですが長くなるので一旦切りました。
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