ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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話と脅し

給湯室から出て行った俺と綾小路は当然堀北の追求を受けていた。

 

「綾小路くん、八剣君も?!…………まさか、聞いていたの?」

 

「いや、よく聞こえなかったな。壁が意外と厚いんだ。なあ?」

 

「ああ、誰か話してるとは思ったが、堀北とは気付かなかったな。」

 

「そんなことはない。ここと給湯室は声がよく通る。」

 

そんな俺たちの最後の抵抗も虚しく打ち砕かれた。

 

「なぜこのようなことを?」

 

堀北もやはり怒っている様子だ。

 

「必要と判断したからだ。さて、お前たちを指導室に呼んだわけを話そう。」

 

「私はこれで失礼します。」

 

「まぁ、待て、Aクラスに上がるヒントが隠されているかもしれないぞ。」

 

その時、堀北の動きがピタッと止まる。

 

「お前たちは本当に面白い生徒だな」

 

茶柱先生が俺と綾小路にそう言う。

 

「茶柱、なんて奇妙な名字を持った先生には負けますよ。」

 

「そうだな、縁起良いしな。茶柱が立ちやすいんじゃないか。どうなんです?」

 

「お前ら全国の茶柱さんに土下座してみるか?うん?」

 

本当にこの人以外に茶柱って名字持った人いるのかな。いたら申し訳ない。この人が煽るから悪いんだ。

 

「入試結果を元に個別指導を思案していたら、面白いことに気がついたんだ。まず、綾小路、国語50点、数学50点、理科50点、社会50点、英語50点、おまけに今回の小テストも50点」

 

「そんな、まさか……」

 

堀北は相当驚いているようだ。でもまさか、俺と同じようなことをしていたとは。でも、この流れだと俺もバラされるんじゃ……

 

「次に八剣、国語77点、数学77点、理科77点、社会77点、英語77点、そしてこの前の小テストも77点」

 

「っ!!」

 

ですよね。堀北は驚いて声も出ないようだな。綾小路も少し目を見開いている。

綾小路はすぐに立て直し、

 

「偶然って怖いっスね」

 

「ああ、でも俺は運がいいな。全部ラッキーセブンだ。スロットだと大当たりだぞ」

 

「ほう、お前らはあくまで偶然同じ結果になったと?」

 

「偶然です。八剣は知りませんが、俺は取れるなら100点取ってますよ。」

 

別に言ってもいいけど偶然で通した方が面白いか。

 

「俺も偶然です。取れるなら全部100点とって主席で入学してますよ。」

 

「お前らは実に憎たらしいな。綾小路、最後の数学の問題正答率は学年で3%だった。だが、お前は証明式も完璧に解けている。それに比べてこの理科の76%が正解している問題を間違えるとはどういうことだ?」

 

「普通なんて知りませんよ。偶然です。偶然」

 

「そうか。では、八剣、お前はどうだ。一問5点のこのテスト、証明問題でわざと公式を抜き部分点をとった。その結果が77という点数なんじゃないのか」

 

「さぁ、俺にそんな神がかったこと出来ませんよ。」

 

「全くお前らのその割り切った態度は将来苦労するぞ」

 

「ま、それはその時になって考えますよ。」

 

綾小路も同意するのか首を縦に振る。

 

「あなた達は、何故こんなわけのわからないことをしたの?」

 

「いや、だから偶然だって、隠れた天才なんていう設定はないぞ」

 

「どうだかなぁ、ひょっとしたらお前より頭脳明晰かもしれないぞ」

 

だからあんたは余計なこと言うなよ。また堀北反応してるだろ。

 

「いや、勉強好きじゃないですし、頑張る気ないですし、だからこんな点数なんじゃないですかねえ」

 

「まあ、俺はボチボチですね。そこそこ頑張りますよ。」

 

「この学校の生徒が言うことじゃないな。もっとも、綾小路の場合は高円寺のようにDでもAでもいいと思える理由があるのかもしれんが。」

 

「なんですかその理由って?」

 

綾小路はそのまま聞き返す。だが、……茶柱先生は知っているのか?あのことを。

 

「聞きたいか?」

 

その目には鋭く覗かせる光があった。なるほど誘導か、綾小路…

 

「いえ、やめときます。発狂して部屋の備品という備品を破壊しそうなんで」

 

綾小路も気づいたようだ。いや、なんだよその言い訳。

 

「そうなったらお前はEクラス行きだな」

 

「そんなクラスありましたっけ?」

 

「Expelled、つまり退学ってことだ。まぁ、話はこれで終わりだ。学校生活を楽しんでくれ」

 

実に皮肉だな。

 

「私はもう行く。職員会議の時間だ。ほら、三人とも出ろ。」

 

俺らは肩を押されながら部屋から追い出される。それにしても、何故茶柱先生はこんなことをしたのか。今は意味がわからない。

 

「とりあえず、帰るか。」

 

綾小路がそう発言する。ここには三人しかいないのに有り得ないぐらい空気が重い。いい判断だ。

 

「そうだな。時間食っちまった。」

 

俺と綾小路は足を寮へと進める。

 

「待って」

 

待たない。

 

「あなたたち、さっきの点数本当に偶然なの?」

 

「だからそうだって言ってるだろ。証拠でもあるのか」

 

「証拠はないけど………貴方達、よくわからないわ。」

 

「それでいいよ。よく分からなくていい。」

 

俺がそう言うと綾小路も頷く。

 

「Aクラスにも興味がないの?」

 

「そうだなぁ、ポイントはもうちょっと増やさないとって思うが、Aクラスには別に興味ないな」

 

「俺も。俺、事なかれ主義だし。お前こそAクラスに並々ならぬ思いがあるようだな」

 

「………いけない?進学や就職を有利にするために頑張ろうとすることが」

 

「いや、いいんじゃねえの。自然のことだ。」

 

俺がそういうと、堀北は思い詰めたように、

 

「私はこの学校に入学して、卒業したらそれがゴールだと思ってた。けど違った、まだ始まってもいなかったのよ。」

 

「じゃあ、お前は本気でAクラスを目指すつもりなんだな」

 

綾小路がそう尋ねる。

 

「ええ。でも、まずは学校に真意を確かめる。それでDに判断されたなら全力でAクラスを目指す。」

 

「それは相当大変だぞ。今ある欠点を全部無くしてもそれでプラマイ0だ。」

 

確かに、私語や遅刻をなくすこと、テストの点数を最低限上げること、そしてそれらをやってもやっと他のクラスと同等だ。現在Aクラスとは900ポイント以上の差がある。ポイントを増やす方法もわからない今、Aクラスなんて夢のまた夢だ。

 

「わかってる。学校のミスであることに期待するわ」

 

まぁ、可能性は低いと思うが、

 

「貴方達の言いたいこともわかるわ。でも、それにポイントに関してはこのまま学校が静観を続けるとは思えない。そうでないと、競争の意味がないもの」

 

それは確かにな。

 

「自分でなんとかしようと思わない?」

 

「思わない」

 

綾小路が誇らしげに言う。

 

「誇らしげに即答しないで」

 

堀北の手刀が綾小路に刺さる。

 

「まず改善しなければいけないのは、大まかに3つ。遅刻と私語、そして中間テストで赤点を取らないこと」

 

「前者二つはわかるけど、中間テストはなぁ」

 

確かに、今回の小テストはかなり簡単だったにも関わらずあの点数だったのだ。あれを全員なんとかするのは相当骨が折れる。

 

「そこで貴方達に協力をお願いしたいの」

 

「協力ぅ?」 「断る」

 

綾小路は聞き返したが、俺は即座に断る。

堀北は俺の顔を見て喋りだす。

 

「まだ、何も言ってないのだけれど」

 

「絶対めんどくさいこと言うだろ。」

 

「貴方もポイントが多い分には困らないでしょう?私の指示に従っていれば必ずプラスポイントまで持っていくと約束する。悪い話じゃないでしょう。」

 

俺は横に並んでいた場所から出て堀北の前に立つ、

 

「興味ないかもしれないけど、俺のことをちょっと教えといてやる。俺は気まぐれな人間だ。だから俺の行動の大半は取引か興味による行動だけ。今のところお前の指示に従う意味はないと思ってるし、面白そうじゃない。やりたいなら自分でやれ」

 

俺はそう言って堀北の返事を聞く前にその場を去った。

冷たい様な言い方になるが、今後のためにもこっちの方がいいだろう。

 

 

♢♢♢♢

 

 

その日の夜、携帯に一通のメールが来ていた。帆波からだ。

 

『大丈夫?』

 

これは間違いなく0ポイントだったことに対してだろう。

 

『ああ、俺は念のためポイント節約してたからな』

 

そう送ると今携帯を見ていたのかすぐに返信が来る。

 

『そっか。迅くんの言う通りだったね』

 

『まあな。ポイント見る限りAクラスにも気づいたやついるっぽいけど』

 

そう。Aクラスは940ものクラスポイントを残している。いくら授業態度やテストが良いと言ってもこのシステムに気付けなければマイナスを60に抑えるなんて絶対に無理だ。おそらく、Aクラスにはシステムに気づくような優秀なリーダーがいる。

 

『流石Aクラスってことかな』

 

『Aクラスのことは全然わからないが、全員が初めから自分で気づいたってわけじゃないと思う』

 

『そうだよね。全然そういう噂もなかったもん』

 

『Aの気付いた奴が、他クラスに漏れないよう徹底してたんだろうな。Bクラスはどんな様子だった?』

 

『皆んな驚いてたよ。多分気づいてた子はいないかな。初めはショックを受けてた子もいたけど、皆んなで頑張ってAクラスに上がろうって感じになれたかな。』

 

どうやらBクラスは既に結束が強いらしい。そもそも気づいていないのに650も残るのは総合力が高い証拠だ。現状Dクラスはその真逆と言っていい状況にある。

 

『うちはだいぶ悲惨だったぞ。この状況じゃ来月も期待出来なそうだ。』

 

『もし、困ったらすぐ言ってね?迅くんのためなら私なんでもするから』

 

『ありがとう、助かる。悪いが俺はそろそろ寝る。』

 

『うん、おやすみ』

 

そこでチャットは終了した。だが、プライベートポイントに関しては少しあてがある。明日から忙しくなりそうだ。

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

俺は三日後、とある場所を訪れていた。遊戯部だ。

遊戯部というのは、ポーカーなどのゲームを扱っている部活で、賭け試合をしているらしい。一番変わっている点は、部員以外も勝負が出来ることだ。本来、部員だけだと思うのだが、部員数があまり多くないこともあり、認めているそうだ。

 

「ん?今日も来たのか。八剣」

 

「ええ、失礼します。」

 

そして、この遊戯部でとても有名な人がいる。それが、3年C組の黒田先輩。他の生徒とは一線を画す勝負強さを持つようで、負けが続いていてもいつも賭けポイントが多くなってきたところで、大逆転を起こすらしい。だが、そんなことがずっと続くだろうか。勝ち続けるのには何か理由があるはずだ。その理由をここ三日探るために足を運び続けていたのだ。しかし、それも今日で終わりだ。

 

「黒田先輩。ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

 

「ん?ああ、何でも聞いてくれていいぞ」

 

「ちょっと、個人的な話なんで場所を変えたいんです。」

 

俺がそう答えると、先輩はうなずき。人気のない校舎裏まで移動した。ここには監視カメラもない。

 

「担当直入に言います。先輩、イカサマしてますよね」

 

「…………なんのことだ。」

 

そこで俺は携帯を出して写真を見せる。そこにはエースを抜き取る先輩の姿が写っていた。

 

「っく!?」

 

「バレるようなイカサマするもんじゃないですよ。これが出たらこの学校なら即退学ですよね。ポイントとか以前の問題ですよ。」

 

「………何が目的だ。」

 

「ポイントください。本当なら全部って言いたいですけど、それじゃあ先輩が困りますもんね。今先輩どれくらい持ってるんですか?」

 

「……630万ポイントだ。」

 

「へー、じゃあ、530万で良いですよ。そのかわり、今後俺に全面的な協力を約束してください。」

 

根こそぎ奪うと騒ぎになるかもしれないが100万も残せば大丈夫だろう。

 

「……わかった」

 

「じゃあ、これからよろしく。先輩」

 

敬語が取れたことに先輩はさらに顔を顰める。

よし、これでポイント問題はある程度解決したな。あとは、中間テストの件か、綾小路がどう動くか次第だけどな。

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

 

5月に入って一週間が経った頃、Dクラスは授業態度はほぼ改善されたと言ってもいい状況だった。………須藤以外は。今までが壊滅的だったのでこんな当たり前のことでもちょっと感心してしまう。

そしてその日の放課後、

 

「八剣くん、ちょっといいかしら」

 

「ん?」

 

俺が帰り支度をしていると堀北に話しかけられた。

 

「どうした?俺はお前の指示を聞くつもりはないぞ」

 

「いいえ、違うわ。明日、お昼一緒に食べない?綾小路くんもいるけど」

 

俺は一瞬堀北が何を言ったのかわからなかった。堀北はおそらくこのクラスの誰よりも孤独を望んできた。それなのに誰かを自分から昼食に誘うなんて夢にも思わなかった。

 

「あ、ああ、それは構わないけど、大丈夫か?」

 

「?……何が?」

 

意外すぎてつい確認してしまった。

 

「それで、八剣くんはいつもお弁当よね。」

 

「そうだな。毎日購買や食堂はポイント消費が激しいからな」

 

「明日は私が作ってくるわ」

 

「は?何を?」

 

「お弁当よ。あなたのお弁当、私が作ってきてあげる」

 

「……………」

 

こいつは本当に堀北なのだろうか、堀北に変装した別の誰かなのではないか。そんな訳の分からない思想が頭の中を飛び交って離れない。あの堀北が、昼食を誘った上に自分が作ってくると言ったのだ。明日は槍でも降るのか?

 

「どうゆう風の吹き回しだ?」

 

流石に聞かずにはいれずそう質問する。正直、何か企んでいるとしか思えない。

 

「別に、人の好意すら受け取れなくなったら人間お終いよ。それとも嫌なの?私が作るのが」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

正直、罠の可能性は捨てきれないどころか罠丸出しではあるが、女子の手作り弁当という人生初の体験への興味が勝ってしまう。

 

「なら決まりね。というわけで、明日はお弁当用意しなくていいから。それじゃあまた明日」

 

それだけ言って、嵐のように堀北は去って行った。

 

 

 

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