ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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昼食と勉強会 

「たうわ!?」

 

日本史の授業中にそんな声が響く。綾小路が叫ぶのは珍しいな。

 

堀北の誘いを受けた翌日、俺は約束通り、入学して初めて弁当を持たずに登校した。授業は今までと違いとても静かになったが、俺は集中し切れなかった。そして、問題の昼休みが訪れた。

 

「八剣君、いきましょう。」

 

堀北が俺の席まで来て迎えに来る。後ろには綾小路もいる。

 

「ご飯は食堂で食べたいのだけれど、いいかしら?」

 

「ああ」

 

別に断る理由はないので了承する。だが、話を聞くとさらに驚きの事実が判明した。なんと堀北が綾小路を昼食に誘っただけではなく、なんでも奢ると言い出したそうだ。堀北だってバカじゃない、今月入るポイントが0な以上節約しなければならないというのはわかっているはずだ。4月に堀北がどれだけ節約していたとしても他人に、それも食堂のものとはいえなんでも奢る余裕なんてあるはずないのだ。俺も弁当の話を綾小路に共有すると、綾小路は一瞬目を見開いて驚いていた。そのあと、とても羨ましそうな目で俺を見ていた。やはり、女子の手作り弁当はそれほどの価値ありということだ。

 

食堂に到着した俺たちは綾小路の食券を買いに行く。弁当を作ってくれなかった恨みか節約しなければいけない状況で綾小路が選んだのは、高めのスペシャル定食だった。

 

「はい、お弁当」

 

席に着くと堀北は二つ弁当から一つを取ると俺に渡す。綾小路は目の前にスペシャル定食という豪華な食事があるのに、いまだ弁当を羨ましそうな目で見ていた。俺はそんな視線を受けつつも、期待を持って弁当の蓋を開ける。

 

「は?」

 

そんな俺を待っていたのは、弁当一面に敷き詰められた白いご飯のド真ん中に赤い梅干しが置かれている景色だった。

 

「なんで日の丸弁当なんだよ!」

 

「あら、私はお弁当を作ってくるって言っただけよ。何弁当とは言ってないわ。それより早く食べましょう」

 

まあ、堀北らしいと言えば堀北らしいが、俺が珍しく期待した心を返して欲しい。綾小路は定食に向き合い、割り箸を割っていた。弁当への興味は完全に失せたらしい。女子の手作り弁当を真の意味で食せるのは、まだ先になりそうだ。

 

「さっそくなのだけど話を聞いてもらえるかしら」

 

俺と綾小路が一口食べた瞬間に堀北はそう言った。………はぁ、まぁこうなるよな

 

「茶柱先生の忠告以降、クラスの遅刻は減り、私語も激減したわ。大半のマイナス要素は消せたと言っても過言じゃない。」

 

「まぁ、元々難しいことじゃないしな」

 

綾小路がそう答える。確かに現状は今まで出来ていなかった当たり前のことが出来ただけだ。先生も言ってたようにそこにプラスはない。改善しないよりマシだけど。

 

「次にすべきこと、それは二週間後に迫っているテストでより良い点を取るための対策よ。さっきの平田くんのようにね」

 

そう、さっき平田は赤点回避および高得点を取るための勉強会を開くと言っていた。確かに勉強会は赤点回避に効果的だろう。しかし、問題の赤点候補生が来ればの話だが、

 

「本来なら赤点を取るなんて私には考えられないけれど、取ってしまうどうしようもない生徒がいるのも事実。」

 

「相変わらず容赦ない物言いだな」

 

「事実を述べただけよ」

 

堀北は続ける。

 

「平田くんが勉強会を開いてくれるって聞いて最初は安心したの。でも、池くんや山内くん、須藤くんは参加しない様子だったでしょう?」

 

「まあ、あいつら平田を嫌ってるからな」

 

そう、池達はイケメンで性格も良く、文武両道で何より女子にモテる平田を煙たがっているようだ。完全に逆恨みだと思うがこの際それは関係ないだろう。重要なのは、そのせいで勉強会に参加しないことだ。

 

「つまり、彼らはこのままだと赤点の可能性が高い。そうなると、ポイントを稼ぐどころかマイナスの可能性が高い。Aクラスのためにはマイナスポイントを取らないことが前提、それに私はテストの点数がポイントに結びつく可能性も見ているの。」

 

なるほど、テストのご褒美が貰える可能性があるってことか。まぁ自然ではあるな。てことはもしかして、

 

「つまり、お前も勉強会を開くのか?それも池達用の」

 

俺は堀北にそう尋ねる。正直、堀北と池達の性格を考えても、一瞬で破綻する未来が鮮明に見えてしまうが。

 

「ええ、意外と思うかもしれないけれど」

 

確かに意外だ。だが、日の丸とはいえ俺に弁当を作ったり、綾小路に定食を奢るのも充分意外すぎる行動だ。それだけAクラスへの思いが強いってことだろう。

 

「お前がAクラスに行きたいって気持ちは伝わった。けど、どうやるつもりだ?現状ではまず誘うことすらままならないぞ」

 

綾小路がそう答える。確かに、赤点を取る生徒の大半は勉強が大の嫌いで、あいつらも間違いなく例外じゃない。それに堀北はクラスで孤立している存在だ。全く接点がない奴を思い通りに動かすことは相当難しい。だから、俺は入学してすぐの頃、関係性づくりに取り組んだ。こういう他人を動かさないといけないことを想定して友達作りなんて柄にもないことまでしたのだ。まぁ結果として失敗に終わったのだが。

 

「だから、こうして話しているんじゃない。幸い貴方が仲良くなった人たちでしょ」

 

「おい、まさか……」

 

「彼らは貴方が説得すれば良い。友達というありがたい立場なのだから。そうね、まずは図書室に連れてきて、勉強そのものは私が教えるから」

 

なるほど、綾小路は説得要員か。だが、綾小路にそんなこと出来るだろうか。

 

「無茶言うなよ。当たり障りのない道を歩む俺にそんなリア充も真っ青なこと出来るわけないだろ」

 

だよな。綾小路もコミニケーション能力は俺と対して変わらないし。今のところ俺より喋るやつ多いけど。

 

「出来る出来ないじゃない。やるのよ。」

 

完全に家来だな。

 

「で、俺は何すりゃいいんだ?俺も弁当作ってきたらそれでチャラにしてくれんのか?」

 

「必要ないわ。貴方のお弁当に興味ないもの」

 

「だろうな。で?何して欲しいんだよ?俺は基本関わりないから勧誘とか無理だぞ」

 

「あなたには平田くんの方の勉強会に参加して欲しいの」

 

「平田の?」

 

「ええ、平田くんなら人脈がない貴方でも参加の意思さえ表明すれば快く受け入れてくれるはずよ」

 

「………まぁ、平田が拒むことはないだろうな。」

 

「いくら平田くんが教えると言っても、そっちにも赤点候補生が四人もいて、それでなくてもギリギリの学力の生徒が多いから心配なの。だから絶対赤点を取らせない様にして」

 

「……俺が教えるのか?」

 

「ええ、貴方は成績も悪くないし、他の人との学力差を考えても貴方は講師役に充分よ」

 

学力だけ見ればそうかもしれないが、

 

「平田がなんていうかだな」

 

綾小路がそう答える。そうだ、平田がうんと言わなければまず土台から話にならない。

 

「平田くんの勉強会は私のものよりかなり大規模なものになってるはず。そして、成績を考慮してクラスで講師役を出来るのは平田くんと櫛田さんくらい。幸村くんもいるけど、彼は参加しないでしょう?ならあなたの存在はありがたいんじゃないかしら」

 

「それはそうかもしれんが……」

 

「ならつべこべ言わずに行動して。私のお弁当、食べたんでしょ?」

 

「はぁ………失敗しても文句言うなよ。」

 

「失敗しないって信じてるから。綾小路くん貴方もよ。スペシャル定食、美味しかったでしょ?」

 

「俺が奢られたポイント分奢るって言ったら……」

 

「私、人に奢られるほど落ちぶれているつもりはないのでお断りします。」

 

「………俺はお前に対して初めて怒りを覚えたかもしれない」

 

「それに櫛田さんの件私は許したつもりはないのだけれど」

 

櫛田の件?何かあったのか。

 

「う、汚ないぞ」

 

どうやら綾小路は堀北に貸しがあるようだ。堀北は立ち上がりながら一枚の紙をテーブルに置く。

 

「それじゃあ、これが私の携帯番号とアドレス、これで何かあったら連絡して。」

 

こうして俺と綾小路は不本意な形で堀北のアドレスを手に入れた。

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

放課後、早速俺は平田に声をかけた。

 

「平田、ちょっといいか?」

 

平田はクラスメイトと話していたのを中断して俺の方を向く。

 

「うん、もちろん。どうしたんだい?」

 

「平田の勉強会なんだが、俺も参加させてくれないか?講師役として」

 

「八剣くんが勉強会に?それはもちろん良いけどどうしたの?それに講師って、」

 

「言いたいことはわかる。だが、俺もクラスのためにちょっと動こうと思ってな。」

 

本当は堀北に嵌められただけなんだが…すまん、平田。

 

「講師役に関しては手が足りてないだろうと思ったんだが……ダメか?」

 

平田は顎に手を当てて少し考えると、

 

「ううん、いいよ。教える人は不足してたしね。成績も八剣くんなら大丈夫だよ。歓迎するよ、八剣くん」

 

「そうか、ありがとう」

 

「それはこっちのセリフだよ。今日からよろしくね」

 

よし、これで第一段階はクリア。俺はとりあえず、携帯で堀北に、

 

『平田の勉強会に講師役で参加することになった。』

 

っと送っておく。さて、綾小路はどうなったのだろうか。綾小路の方を見ると、櫛田を連れて廊下に出て行った。なるほど、櫛田を餌に使う気か。まぁ、櫛田の評価を考えると成功率は高いだろう。堀北がどういうかは別だが。

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

さて、第一回、Dクラス勉強会が始まって30分程が経ったわけだが、俺はただの見回り要員になっていた。まぁ、ほとんどが面識ないから仕方ないんだが、堀北も俺に頼るのは間違ってるんじゃないだろうか。いや、俺しか頼るやつがいなかったのか。今は平田と櫛田が教えて回っているある意味本来の状況だ。今はなんとか二人で回しているが、明日は櫛田が堀北の方の勉強会に参加するらしい。そうなると、平田一人では厳しいか。堀北の依頼はここの参加者を赤点にしない、極力点数を上げることだ。このまま俺が参加しにくいなら手を打つべきか……

 

「八剣殿、ここを教えてはくださらぬか?」

 

俺はそんな声が飛んできた方向を向くと、池達から博士っと呼ばれていた外村がいた。

 

「あ、ああ、もちろん」

 

俺は外村の座っている席まで行き、わからない所を聞く。

 

「ああ、二次関数の問題か。ここは……」

 

「ふむふむ」

 

以外と順調に進み、

 

「解けたでござる。感謝するでござるよ。八剣殿」

 

「ああ、また聞いてくれ」

 

手応えを感じながら、終了した。自分で問題を解けるようにもなっていたし、なんとかなるのではないか。まだ、テストまで時間もあるし、

 

「八剣くーん、教えてー」

 

次にそう声をかけてきたのは、篠原、佐藤、松下の三人だ。彼女らはいつもはクラスで影響力の強い女子である軽井沢と一緒にいるが、今はその軽井沢は平田と一緒にいるので三人になっているようだ。一気に女子三人という状況になったが仕方ない。

俺がそっちの方へ歩いて行くと、

 

「ここなんだけどさー」

 

ふむ、また数学か。数学はやはり皆んな躓きやすいのだろうか。三人になってもさっきと変わらず説明をしていると、

 

「そういえば、八剣くんって、Bクラスの一之瀬さんと付き合ってるの?」

 

松下から質問が上がる。

 

「あーそれ、私も気になってた。どうなの?」

 

佐藤からも、共感の声が上がる。

 

「一之瀬と?何で?」

 

俺がそう尋ねると、

 

「だって、この前デートしたんでしょ?だから付き合ってるのかなぁって」

 

この前のアレを見られていたのか。

 

「いや、別に付き合ってないぞ。一之瀬は同郷の友達だな」

 

なんかこんな説明前にもした気がする。

 

「そーなんだ。女子の間では色々噂になってるんだよ」

 

もう噂になってるのか。ってことは結構皆んな知ってるのか?

 

「そうなのか、って進めるぞ」

 

「はーい」

 

やはり女子は情報が早いな。何人か仲良くしていたほうが得か。

 

「そうだ、これ終わったらさー。連絡先交換しようよ。」

 

篠原からそんな提案が出る。ありがたい申し出だ。彼女達から情報を貰えれば色々便利だな。断る理由はない。

 

「ああ、いいぞ」

 

「あ、私もー」

 

「わたしもー」

 

佐藤と松下が同意したことにより、この後俺は、篠原、佐藤、松下の連絡先を入手した。

 

 

 

 

 

「今日はありがとう。とても助かったよ。」

 

勉強会が終了した後、俺は平田からお礼を言われていた。礼なんて言う必要ないんだがな。俺も堀北から言われただけだし。もちろん口には出さないが、

 

「いや、気にしないでくれ。明日もよろしく頼む」

 

「うん、よろしくね。明日も頑張ろう」

 

平田はとても満足そうにそう言った。平田はこの勉強会を通して俺をクラスに馴染ませることも目的だったのかもしれない。講師役として入ればいろんな生徒と話すことになるし、現に今日だけで三人の連絡先を手に入れた。だが、平田は何故、クラスメイトのためにそこまで気を張り巡らすのだろうか。俺にはただクラスメイトを思いやっているだけとは思えなかった。それ以外の何かがあると俺の勘が言ってる。

 

その後、俺は寮に帰ってこっちは順調そうだということを堀北と綾小路に伝えたところ、堀北は『そう』と一言、綾小路からは明日、櫛田を交えて勉強会をするということを伝えられた。やはり、綾小路の櫛田作戦は上手くいったか。だが、勉強会は一筋縄ではいかないだろう。堀北の上から目線の態度に対するのが短気な須藤ということから反発は予想できるし、綾小路いわく堀北は櫛田さえも嫌っているらしい。綾小路の苦労が目に浮かぶな。少し綾小路に同情しながらその日は眠りに着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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