ようこそ個人主義者のいる教室へ   作:ボロネーゼ

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夜の騒動

第一回勉強会の翌日、予定通り第二回勉強会は行われた。しかし、今日は櫛田の姿がなかった。何故なら堀北の方の勉強会に参加しているからだ。勉強会が終わった後、俺は部屋で読書をしながら綾小路からの報告を待っていた。報告の内容はもちろん堀北の勉強会のことだ。

 

ピコン

 

(来たか…)

 

携帯から着信音が流れた。

 

(俺の予想が外れて上手くいっていればいいが…)

 

そんなことを考えながら携帯を開く。

 

「はぁ……」

 

結果は予想通り一日どころか数時間で崩壊し、堀北と須藤達は完全に対立、その上あの櫛田にすら愛想をつかされるという結果に終わったらしい。流石堀北予想を裏切らない見事な大失敗だ。明日からは勉強会をやらないって言ってるみたいだし須藤達を切ったてことか。

俺はため息を吐きながら飲み物を飲もうと冷蔵庫を開ける。

 

「…切らしてたか」

 

冷蔵庫にはお茶はなく、キッチンを見ても茶葉は使いきっている。

 

「買いに行くか」

 

俺は寮から出て、近くのコンビニに入りペットボトルの麦茶を二本、ジンジャーエールを三本、そして麦茶、烏龍茶の茶葉を購入して外に出る。行きもそうだったが、外はもう真っ暗で街灯が灯っている。何気に入学してから夜に外出するのは初めてだったので同じ風景もいつもと違うように感じた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜」  「〜〜〜〜」

 

「なんだ?」

 

寮に近づいた時、何か言い争いの様な声が聞こえる。声がする方向の先はちょうど監視カメラがない場所のはずだ。

俺は気配を消してそっちに歩いていく。そして、建物に隠れながらスッと顔を出す。するとそこには驚きの光景が広がっていた。

 

(綾小路に堀北?それにあれは…)

 

堀北が謎の男に手首を掴まれ、強く壁に押し付けられており、綾小路はそれを俺と同じように影で覗いている。謎の男の顔はまだ角度てきによく見えないが、俺の予想通りなら少々問題になる。俺は携帯を素早く取り出してカメラモードに切り替え動画を撮り始める。

 

「兄さんーー私はー」

 

「お前には上を目指す力も資格もない。それを知れ」

 

やはりそうだ。堀北を壁に押し付けているのは、部活説明会の時に見た生徒会長だ。あれだけ強い印象を残せば簡単には忘れない。しかし、兄さんか。堀北の兄さんは生徒会長だったのか。確かに名字も一致するな。それにしても、生徒会長のスキャンダルか。

すると堀北の体がぐっと前に引かれ、宙に浮いた。あのままだと堀北はコンクリに打ち付けられることになるだろう。その時、綾小路が出て行き生徒会長の手首を掴んでそれを阻止する。

 

「何だ?お前は」

 

「あんた、今堀北を投げ飛ばそうとしただろ。ここはコンクリだぞ、わかってんのか。兄妹だからってやって良いことと悪いことがあるだろ」

 

おお、カッコいい。

 

「あ、綾小路くん!?」

 

「盗み聞きとは感心しないな」

 

「いいからその手を離せ」

 

綾小路と生徒会長が睨み合う。

 

「やめて……綾小路くん」

 

堀北から普段からは考えられない弱々しい声が出る。あんな堀北は見たことがない。綾小路はゆっくり手を離した。その瞬間、かなり速い裏拳が綾小路の顔面に放たれる。綾小路はそれをのけぞって躱し、急所を狙った鋭い蹴りも下がりながら躱す。いい反応速度だ。

 

「いい動きだな。立て続けに避けられるとは。何か習っていたのか?」

 

「ピアノと書道ならコンクールで優勝したこともあるぞ」

 

なんだよその誤魔化し方…

そろそろ出て行くか。

 

「そこまでだ」

 

俺は録画を止めて、隠れて場所から出ていく。

 

「や、八剣くんまで…」

 

「いや、マジでたまたま通りかかっただけなんだけどな。それより会長、これまずいんじゃないですか?」

 

「言っておくがここに監視カメラはないぞ」

 

「ええ、でもこの映像があるんで」

 

俺は携帯を取り出す。その時、生徒会長は一瞬で俺と距離を詰めて携帯を奪おうとするが、俺は下がりながら左腕を手刀にして会長の腕を弾き、蹴りを会長の顔面目掛けて放つ。会長はそれを両腕でガードして防ぐが、後ろに少し吹き飛ぶ。

俺は今の動きで落としてしまった飲み物の袋を拾う。炭酸大丈夫かな。

 

「いい蹴りだ。威力もスピードも申し分ない。そこらの奴なら一発で意識が刈り取られるだろう。」

 

「いや防がれた人に言われても…ていうかそこまでって言ったんですけど。証拠もありますし学校に報告を…」

 

「待って!私は大丈夫だから、やめて!」

 

その時、堀北の声が俺の発言をさえぎる。兄を庇っているということだろうか、

 

「ふむ、綾小路はどう思う?」

 

俺が念のため綾小路に尋ねると、

 

「俺も変に目立ちたくないから公にならないならそっちの方がいいんだが」

 

お前はそうだろうな。

 

「じゃあ会長、この動画30万で買ってください。そしたらこの動画は消します、無理なら学校に報告します。」

 

「良いだろう」

 

即答か。もうちょっと吹っかけてもよかったか。

 

「じゃあ、これ。俺の学籍番号とメールアドレスです。ここに振り込んでください。」

 

俺は胸ポケットから四角いふせんを取り出して、学籍番号とメールアドレスを書いたものを会長に渡す。会長はそれを受け取り、携帯を取り出して操作する。

 

ピコン

 

俺の携帯から音が鳴る。携帯を見ると会長から30万ポイントが振り込まれていた。この前もポイント稼いだばっかだけど、まぁ多いに越したことはない。携帯からさっき撮った動画を会長に見えるように削除する。これが普通の生徒ならこの弱みでさらに脅して駒にするんだけど、この人は小さいネタであんまりつつくとこっちも火傷しそうだからな。遊戯部の先輩のようにはいかない。

 

「お前達もDクラスか。なかなかユニークなやつらだな、鈴音。だが、お前にも友達がいたとは正直驚いた」

 

驚いたって全然そんな風に見えないけど、心の中で驚いてたのか。

 

「彼らは………友達なんかじゃありません。ただのクラスメイトです。」

 

否定するように堀北は兄を見上げる。

 

「相変わらず、孤高と孤独を履き違えている様だな。それからお前たち、綾小路と八剣、と呼ばれていたな。お前達がいれば少しは面白くなるかもな」

 

そう言って会長は闇の中に消えていく。ん?今のもしかして、目つけられた?それはそれで面倒かもな。

会長が去って堀北は壁際に座り込み俯いてしまっている。しかし、あの堀北がここまで弱るとは。何故かはわからないが兄関係のことは堀北には地雷だということはわかった。

俺は携帯をポケットに直して寮に戻ろうとすると、

 

「待って、貴方達、最初から聞いてたの?それとも偶然?」

 

「あー、いや、まあ、半分偶然だ。自販機でジュース買ってたら外に行くお前が見えてさ。ちょっと気になって追いかけた。ただ、立ち入る気はなかった本当だ」

 

綾小路は堀北の問いにそう答える。

 

「俺は偶然だぞ。コンビニから帰ってたら、此処らから声がしたからな。様子を見に来た。それだけだよ」

 

堀北はまた黙り込んでしまう。

 

「お前の兄さん、あれ相当強いだろ。殺気とか半端なかったし」

 

綾小路が堀北にそう言う。確かに攻撃も早かったし、相手を怯ませる気迫もあった。俺も七割ぐらいで蹴ったが見事に防がれたわけだし、

 

「空手………5段、合気道4段だから」

 

なるほど、そりゃ強いわけだ。引いてくれなかったら、とことんやるはめになってただろう。

 

「貴方達も何かやってたでしょう。それも有段者レベルで」

 

「言っただろ。ピアノと茶道やってたって」

 

綾小路がそう答える。

 

「さっきは書道って言ってたわよ」

 

「……書道もやってたんだ。」

 

(そこの設定曖昧なのかよ……そういうのが正体の発覚に繋がるってのに…)

 

俺が心の中で綾小路に注意していると堀北が俺の方を向く。綾小路にこれ以上聞いても平行線だと理解したのだろうか。

 

「俺は前に格闘技やってたって言ったろ?その経験だよ」

 

「……貴方達、テストの点数を揃えたり、綾小路くんにいたってはピアノや書道をやってると言ったり、貴方達のことは本当によくわからない」

 

堀北から見れば似たような奇行をする人物が近くに二人もいる状況だ。正直困惑するのも無理もないだろう。だが実際には、俺と綾小路には決定的に違う点がある。俺が点数を揃えたのはそうしたら面白そうって考えて実行しただけのただの遊びだ。だから力を出すことにも別に躊躇しない。しかし綾小路はおそらく目立ちたくないという理由がある。だから自分の真の力を常に隠そうとしている。まぁ、無難な点数とは言っても50点を揃えるのは逆に目立つってわからない常識の欠如は見られるが。

 

「点数は偶然揃っただけだし、ピアノや茶道、書道はマジでやってたんだって」

 

必死だな。

 

「貴方達には変なところを見られちゃったわね」

 

「むしろ堀北も普通の女の子なんだってわかってよかっ……なんでもありません」

 

綾小路が言ったのになんで俺まで睨まれてんだよ。

 

「そろそろ戻りましょう。変な噂が立ってもいけないし」

 

堀北はそう言って立ち上がり、寮のエントランスへと歩き出す。

まぁ、三人だからマシだと思うけど、

 

「なぁ、本当に勉強会はもういいのか?」

 

綾小路は堀北にそう尋ねる。

 

「どうしてそんなこと聞くの?元々は私が開くと言った勉強会よ。億劫に感じていた貴方が気にするようなことじゃない。違う?」

 

そうだな。俺なんて綾小路は仕事が無くなって良いなとか考えてたし、

 

「後味が悪いだろ。クラスの連中ともちょっと険悪になったていうか」

 

実際に状況を見ていない手前なんとも言えないが、おそらく険悪になったのは堀北だ。綾小路は大して今までと変わらないのではないだろうか。

 

「気にしていないもの。こんなことには慣れているから。それに大半の赤点組は平田くんが拾い上げたし、そっちには八剣君もいる。櫛田さんも明日からはクラスの方に戻るだろうから赤点のラインを越えるようにしてくれるはずよ。」

 

俺の方を見てそう言う。

 

「だけど私は赤点候補者に時間を割くだけ無駄と判断した。卒業までテストは続くのに、そのたびにカバーするなんて愚の骨頂じゃない」

 

「須藤達は平田を嫌ってるからクラスの勉強会に参加しないぞ」

 

「それは私の知ったことではないわ。赤点が迫っているというのに平田くんにすり寄ることも出来ないなら退学してもらうだけ。確かに私はDクラスをAクラスにあげることを目的にした。でもそれは私自身のためであって、誰かのためじゃない。他がどうなろうとも関係ない。それに今回のテストで赤点組を切り捨てれば、残ったのは必然的にマシな生徒になるでしょう。上のクラスを目指すことも容易くなる。願ったり叶ったりね。」

 

堀北の言い分は間違ってはいない。赤点組が赤点を取って退学になっても、それは赤点を取らない様に努力しなかったそいつらの自己責任だ。だから学力に余裕のある生徒がそいつらに手を差し伸べなかったとしてもそれは悪いことじゃない。そこには賛成だ。

しかし、Aクラスに上がろうと思っているなら少し事情が変わってくる。綾小路が言ってるのはおそらくそういうことだろう。分からないのは何故綾小路がそのアドバイスを堀北にするのかだ。Aクラスに興味がない綾小路にはメリットがないと思うが、

 

「堀北、その考えは間違ってるんじゃないか?」

 

「間違ってる?私のどこが間違いだと言うの?まさかクラスメイトを見捨てる人間に未来はない、なんて寝言を言うわけじゃないでしょうね」

 

「安心しろ。お前にそんな言葉が通じないことくらい、もう充分理解してる」

 

「じゃあ何故?赤点組を救うメリットなんて、何もありはしないわ」

 

「確かにメリットは少ないかもしれない。だが、デメリットを防ぐことくらいは出来る」

 

「デメリット?」

 

その後も俺は綾小路と堀北のやり取りを黙って聞き続けていた。予想通り綾小路が言ってるのは退学によるデメリットの話だった。簡単に言うと、退学者が出ることによって0ポイントからさらに見えないマイナスポイントが発生する恐れがあるということだ。様子を見る感じ堀北もその可能性には辿り着いていたみたいだが、怒りと不満でそれを見ようとしていない。綾小路も堀北の状態に気づいていたのか、話は堀北の弱点という方面に変わっていく。

 

「お前の弱点を教えてやるよ。それはお前が、他人を足手まといだと決めつけ、最初から寄せつけず突き放してることだ。相手を見下すその考え方こそ、お前がDクラスに落とされた理由なんじゃないのか」

 

言い切ることは出来ないが、確かに堀北の場合その説が有力だ。堀北は勉強も運動も人並み以上には出来る。他の学校だったら最も模範的な生徒として扱われたかもしれない。だがおそらくこの学校は学力や身体能力以外の社交性、協調性のような人の内側部分も採点基準になっている。勉強や運動が出来ても、常に上から目線で人に接する堀北は、協調性が皆無と判断されDクラスに落とされたのではないだろうか。まぁそういう俺も協調性で落とされたかもしれないけど、

 

「それじゃあ、まるで私が須藤くん達と同等と言いたげね」

 

堀北はどうしてもそれが認められないらしい。強いプライドがそうさせているのかもしれない。

 

「お前こそそうじゃないと言い切れるのか?」

 

「そんなのテストの点数を見れば一目瞭然じゃない。それこそがクラスのお荷物である証拠」

 

「確かに勉強って意味だとそうだろう。だが、それはあくまでも机の上での話だろ。学校が見ているのは知識面だけじゃない。もしも今回、学校側が出した試験がスポーツ関連だったらこんな結果にはならなかった。違うか?」

 

「それは……」

 

「堀北も運動は出来る。だが、須藤の身体能力には敵わない。今回、もし対話をベースにした試験だったら高いコミュニケーション能力を持つ池は必ず役に立っただろう。逆にお前は足を引っ張ったかもしれない。そんな時お前は無能になるのか?違うだろ。人には得意不得意がある。それが人間だ」

 

「根拠に乏しいわ。貴方の話は全て憶測よ」

 

「根拠がないなら今ある材料で予測する必要がある。思い出してみろ茶柱先生が言ってただろ。『学力に優れた生徒が優秀なクラスに入れると誰が決めた。我々はそんなこと一言も言っていない。』ってここから導き出されるのは学力以外にも求められているものがあるということだ。」

 

それにしても綾小路も堀北も普段は口数が多くないのに今日はかなり饒舌だ。特に綾小路がここまで熱弁するのはかなり意外だった。逃さないためとはいえ堀北の手まで握ってるし。

……ていうか俺帰ってもいいかな。ここにいても意味なさそうだし。

 

「貴方はどう思うの?」

 

俺がこっそり先に帰ろうと考えているといきなり堀北に話を振られる。

 

「そうだな。入試が学力も合わせた総合力で見ていたのは間違いないだろうな。だとすると、この先もいろんな要素が試される可能性は高いよな。もし体育祭とかあるなら運動がものを言いそうだし」

 

俺がそう答えると、綾小路は続ける。

 

「そうだ。お前は赤点組を切り捨てた方が後悔しないと言ったが、逆もまた然りだ。須藤達を失って後悔する日が来ることだってある。」

 

堀北は数秒間考えるようにフリーズしていた。そのあと、

 

「あなたの話、悔しいけれど概ね正しいわ。そう思わせるだけの説得力があった。でもまだ腑に落ちないのも確かよ。それはあなたの真意。あなたにとってこの学校はなに?あなたは何故そこまでして私を説得しようとするの?」

 

「なるほど、そう来たか」

 

「人を説く以上、説く人物に説得力がなければずる賢い理論も破綻する」

 

それは正論だな。だが、それには俺も興味がある。何故須藤達の退学回避のために綾小路がそこまでするのか、それは俺にも予想できなかった。

 

「今までの建前は抜きにしてその理由が知りたいの。ポイントのため?一つでも上のクラスに上がるため?それとも、友達を助けたいから?」

 

「知りたいんだ。本当の実力ってやつを、平等とは何なのかを」

 

実力と平等か……

 

「俺はそれを探すためにこの学校に来た。」

 

綾小路はそうはっきりと言った。

 

「……手を離してくれるかしら」

 

「ああ、悪い」

 

綾小路は堀北の手を離す。

 

「まさか、綾小路くんに言いくるめられるなんてね」

 

そう言って堀北は綾小路に手を差し出す。

 

「私は私自身のために須藤くん達の面倒をみる。彼らが残ることでこれから先有利に運ぶことに期待しての打算的な考え。それでもいい?」

 

「安心しろ、お前がそれ以外で動くとは思っていない。堀北らしいし」

 

そう言って綾小路は堀北の手を取る。

 

「契約成立ね」

 

なんか良いシーンに立ち会ってる様な感じはするが、やっぱりこれ、俺いらないんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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