10話 機雷をばら撒いた連合国軍に助走付けて殴りたい
午前0時を少し回り、深災対では先ほど集ったメンバーが第1会議室で提督と最終確認をしていた。
提督は吹雪がまとめた案を概ね認めていたが、やることが多すぎて目が回りそうになる。
まずこちらが所持している航空機を各基地に配備し自衛隊機と特攻機、その人員を後方に追いやること自体は賛成だが、自衛隊と旧日本軍を説得しないと混乱が起きるのは必須。
スパイ作戦(仮)もこちらが持っている陸攻や二式大艇では敵の防空網を突破するのは流石に厳しく、大湊や単冠湾、幌筵にも協力を仰がなければアラスカ州にたどり着くことすら、いやそもそも日本から出さんぞと言わんばかりの機雷をどうにかしないとならない。
まさに三位一体となってやらなければこれらの作戦は達成しないだろうと誰もが一致した。
「司令官、私たちはすでに覚悟ができています」
艦娘たちはそれぞれの遺書を懐から一斉に出し机の上に置く。
何度も深海棲艦と戦っていく中でいつか轟沈してしまうかもしれないため、艦娘全員が遺書を書いており自室の机の引き出しやロッカーに保管してある。
命を投げ打ち、提督さえ生き残っていればそれでいいと考えていた。
仮に轟沈しても提督さえ元の世界に戻れば、そこで新たな艦娘が建造できる。
そして二代目を育ててくれれば本望だと。
特に吹雪からすれば自分たちの指揮官であり、主人でもある司令官をみすみす死地に向かわせるわけにはいかない。
連合軍が目をつけられれば間違いなく司令官は抹殺か生け捕りにされるに違いない。
念のためいつ何時も司令官のそばでボディガードのように護衛しなければと考える。
司令官は私たちとは違い普通の人間だ。
仮に司令官が病気などで指揮ができなくなった場合、代理として吹雪が指揮を執るシステムが組み込まれているが司令官を慕っている艦娘は多く、彼を失ってしまえば立て直せないほど士気は崩壊するだろう。
例え無事に元の世界に戻れても、提督無くして普段の生活ができるとは思えなかった。
「そうか……だが誰一人欠けることなくみんな揃って帰還することだ。君たちはもう家族同然なんだからな」
提督はぐるりと皆を見回す。彼は艦娘を失うことを極度に恐れていた。
自分たちがいた世界では深海棲艦の攻撃によって轟沈してしまえば例外を除いて二度と帰ってこない。育成した時間も装備も無に帰してしまう。
一応ダメコンを装備すれば防げるも貴重なので数に限りがある。
しかしここは別世界の日本。
一発被弾して轟沈することも十分あり得るため慎重にならざるを得ない。
「帰れればまた来られる。キスカ撤退作戦を率いた木村提督の言葉を忘れないでほしい」
彼の説得は艦娘たちに響いたようで全員が顔つきを変え、礼号作戦の時木村提督のことをよく知っている大淀は特に心打たれたようだ。
「さて、ひとまずお隣の海自さんに報告だ。向こうはどうなっているのかね」
佐世保地方総監部
時を少し戻して、とある本を見つけてほしいと第2掃海隊司令を務めている
海上幕僚監部防衛部の掃海隊OBが戦後に出版した本を見つけ目次を見ていくととある項目に目が留まる。
[日本近海機雷設置図]
それを見た瞬間、心臓がドクンと跳ね上がり背中から嫌な汗が流れてきた。
急いでそのページをめくり、目を凝らしながら佐世保という地名を見つけ出し、機雷設置数を見ていくと書かれている数字を見て驚愕する。
(これはまずいぞ。急いで報告しなくては)
彼は本を手にしながら人生の中で一番速く走りつつも迷惑にならぬよう会議室へ駆け込んだ。
杉山中将と三面海将に許可をとり第2掃海隊のひらしま型掃海艇3隻と掃海ヘリMCH-101を出動させると、資料通り機雷を見つけることができた。
得た情報はすぐさま陸・空、佐世保鎮守府にも共有されるとテレビ会議が慌ただしく動き始める。
すると杉山中将からあんな短時間でいったいどうやって見つけたのだと外線電話が来たので、百聞は一見に如かずということでこちらに招待することにした。
10分後、佐世保鎮守府から杉山中将と石井参謀長、西村参謀の三人が派遣されたが、見たこともない光景に目を回しそうになっていた。
パソコンといった機械がたくさんあったり、昼のように明るく輝く細長い電灯が天井に等間隔で埋め込まれていたり、大きいテレビが壁にかかっている。
しかも大きさの割にかなり薄くどうやって部品を詰め込んだのか不思議に思っていた。
さらにそのテレビには緑のまだら模様を着ている軍人が鮮明に映っている。
確かあれは陸上自衛隊と説明されていた気がする。
広告映像でちらっと映っていたが海自の軍服とはまた違った色でかなり目立っていたのを覚えていた。
「画面に映し出される方は何者なのだ?」と杉山中将が画面の向こうにいる人物について三面海将に尋ねてきた。
「彼は西部方面隊で一番偉い関川 龍之介陸将です。陸上自衛隊も5つの方面隊に分かれていて西部方面隊は主に九州と沖縄の防衛警備や災害派遣を担当しています」
「なるほど。彼はここにいるのか?」
「いえ、関川陸将は熊本県にいます。テレビ会議システムと呼ばれてるもので遠隔拠点にいてもあれを使えばほぼズレがなく、まるでそこにいるかのよう会話できます」
我が国とかけ離れた技術力に杉山中将たちは顔を見合わせてただただ脱帽するしかなかった。
会議が再開されると、皆眉間にしわを寄せたり難しい顔しながら共有された資料を見ていた。
「よって早急に佐世保港を機能させる必要があります。ソーナーで判明しただけでも連合国軍が設置いたと思われる機雷は佐世保港付近でおよそ60個、資料によれば周辺海域では500個前後にものぼりますがそれだけではありません。飢餓作戦によって関門海峡や瀬戸内海は倍以上の機雷によって封鎖されています」と小勝 2等海佐は浮かない表情で説明していく。
飢餓作戦という言葉が出た途端に周りからため息が漏れる。
それは連合国軍が海上交通遮断のため本土周辺に大量の機雷を敷設し、補給路を絶つ作戦。
効果は絶大で関門海峡や主要港は機能不全に陥りシーレーンは麻痺。
修理設備がある港も機雷で封鎖され、傷ついた船が修理できずそのまま放っておかれている。
当然食糧も入ってこないので全国各地で飢饉状態が相次いでいる状態だ。
朝鮮半島にいる残党部隊も日本に向かう航路が多数の機雷で遮断されており、輸出したくてもできないという歯がゆい思いをしている。
死を覚悟し運よく機雷源を抜けても今度は連合国軍の潜水艦が待ってましたといわんばかりに待ち構えており、多数の輸送船等が海の藻屑へとなり果ててしまった。
特に陸自の方々は焦りが感じ取れた。
というのも先ほど川内駐屯地から輸送艦しもきたで重機類を運べないかと打診があったのだが、それがおじゃんになってしまった。
「佐世保港をクリアしても予定地の港には機雷があるだろうな。時間がかかりすぎる。砂岡陸将、これらの情報を至急川内駐屯地に伝えろ」
関川陸将の命令に第8師団長の砂岡陸将は暗号化された電話で伝えていく。
そこからの川内駐屯地の動きは早かった。港が使えないと分かるとすぐ部下に命じて陸路による撤退に切り替えていった。
「待ってくれ。我が海軍が防衛のため設置した機雷もあるのだ。それも撤去するのは佐世保港の防衛力が低下してしまうのではないか」と石井参謀長は憤る。
機雷を易々と掃海されては設置した意味がないし、命を懸けて設置した部下たちに対する冒涜であり許せなかった。
石井参謀長の言うことは理解できるが、それが原因で湾内から出港できないのはよろしくない。
なら帝国海軍が設置した機雷を避けるしかないのだが、どこに設置したのかを問うと頑なに首を横に振って教えてくれない。
ソーナーだけではどちらかの機雷かを判別するのは難しく、結局無人機か水中処分隊員の目視による確認作業となるが人・数も限られているので時間がかかってしまう。
どう説得しようか三面海将達は悩んでいると、杉山中将が石井参謀長にこそこそと耳打ちしていた。
「君の言うことはもっともだが、連合国軍の機雷をすぐ見つけられるのは素晴らしい。それに長官室で見せられた彼らの映像を見ただろう? こけおどしの可能性もあるが、本当ならあんな強力無比な海軍は連合軍を屠れるかもしれんぞ」
「ですが……彼らの土壇場になってしまいます。それでもよいのですか?」
「構わん。第一あんな兵器は世界中のどこを探してもないだろう。つまり補給はできない可能性が高い。動けなくなったところをかき集めた特攻でぶつけ戦果を分捕ればいいではないか」
その考案に石井参謀長は時代劇の悪代官のような笑みを浮かべ賛同し、機雷掃海を許可するとともに生き残っている数少ない掃海艇も出し協力するとまで言われた。
態度が変わったことやこそこそ話に不安が募るも、今はありがたく受け入れよう。
三面海将は頭を切り替え今動けるのはどれか。
のしろは点検中、みくまは海上公試中で佐世保から離れており転移には巻き込まれておらずここにはいない。
「そうなると第2掃海隊ともがみ、ぶんご、水中処分隊をフル稼働して機雷を処分するしかない……どれくらいかかる?」
三面海将の問いに周りの目がこちらに集中するのが分かる。
第2掃海隊の司令と艦長、水中処分隊長、もがみ、ぶんごの艦長は互いに顔を見合わせひそひそと話し合う。
「そうですね……第二次世界大戦レベルの機雷なら確実に処理できます。ペルシャ湾の例ですとおよそ三か月半の間で34個の機雷を処分できましたが技術の進歩があるので、佐世保港だけならそれほどかからないかと。しかし関門海峡や豊後水道も含めると数年、いや数十年かかってもおかしくないかと……」
小勝2等海佐は申し訳なさそうに答える。
「我々も同じ意見です。戦後70年以上経っても完全に掃海されていないのを見るとそれくらいかかることを覚悟したほうがいいかと」
ましゅう副長を経てぶんご艦長になった
そう、戦中にばらまかれた機雷は今現在においても年平均数個を処理しており厄介極まりない存在となっているのだ。
下手すれば数十年もかかる……その言葉に会議室の空気が意気消沈するさなか、1つの伝言メモが部下から三面海将に渡されたのでチラリと読み進めていくと深災対の提督代理である吹雪から電話が来たとのことだった。
このタイミングはちょうどよいと思い、ひとまず会議を中断した。
三面海将は少しの間離席すると周りに伝え、会議室を後にし折り返し電話をかけるとすぐに繋がり、吹雪さんの声が聞こえる。
内容は深災対の方針が決まったのでそちらにお伝えしたいとのことだった。
それを聞いてもう決定したのかと心の中で驚くも、メモを取りながら話を聞いていく。
「なるほど。そちら側の対応は分かりました。我々も深災対と円滑に物事を進めたいと思っていたところなのでテレビ会議はできますか?」
『機材はありますが』
「わかりました。でしたら隊員をそちらに派遣し、繋げられるようにします」
『ありがとうございます! 派遣される人数とお名前もお伺いしてもよろしいでしょうか?』
「そうですね……少し相談しなければならないのでまた掛けなおします」
『了解です。決まりましたらまたご連絡ください』
「わかりました。お気遣い感謝いたします」
『いえ、こちらこそ。それと、鵠提督から提案がありまして』
吹雪から伝えられた内容に三面海将は目を見開く。
数時間前の杉山中将らと深災対との会議で自衛隊は法律的なしがらみがあることを伝えていた。
ただでさえ激戦が予想されるところに部隊をどうするのか、戦闘に参加するのかで議論が続いている。
そのさなか鵠提督の提案はまさに渡りに船であった。
「なるほど……その手がありましたか。ありがとうございます。ではまた後程」
三面海将は受話器を置きすぐさま佐世保システム通信隊の司令である
「急に呼びつけてすまない。実は深災対のテレビ会議システムをこちらに繋げるために数名の隊員を選抜や志願でもいいから直接出向いてほしい。場所はニミッツパークがあった場所に転移してきたそうだ」
「なるほど事情は分かりました。すぐに取り掛かります」
「助かるよ。よろしく頼む」
その後派遣する隊員の準備が完了したとの連絡を受け、深災対に折り返し電話を掛けると吹雪さんが対応してくれた。
「準備が整いました。今すぐ向かいます」
『了解いたしました。門衛室には川内さんが担当しています。私は正門のところでお待ちしております』と終始丁寧な口調だった吹雪さんにほっこりしながら通話を終える。
(さて、まずは古間空将に彼の提案を伝えなくてはな)
なぜならば連合国軍の上陸予定地には宮崎海岸があり、その近くには第5航空団などが配備されている新田原基地があるためだ。
健軍駐屯地に電話し古間空将を呼び出し、保留音が数十秒ほど鳴り響くと古間空将が電話に出る。
『待たせて申し訳ない。一体どうしたんだ?』
「実は……深災対からある提案が上がってきまして」
『提案だと?』
古間空将の言葉に三面海将は先ほどのやり取りを話していく。
『ふむ……こちらもどうするべきか悩んでたところだ。その提案はありがたいな。早速第5航空団司令部と話し合ってくる』
電話が切られると三面海将は小さくため息をつく。
2人は徒歩で向かい正門をくぐり門衛室を見つけると、ツーサイドアップの髪型で首に白いマフラーを巻いて忍者みたいな恰好をした艦娘が目に入る。
「おっ、来たね。私の名前は川内型軽巡洋艦1番艦の川内。君たちのことは吹雪から聞いているよ」
かなりの美人で声も艶っぽく、思わず惚けてしまう。
「あっ……海上自衛隊佐世保地方総監部のシステム通信科から来ました
彼は黒の短髪で度が強めの眼鏡をかけている。身長は170cmぐらいあり先日29歳を迎えたばかりで、仕事熱心で上司からの信頼も熱い期待のホープとされている
「はっ、はじめまして。田麦 豊 海士長 と申します」
彼は21歳で185cmもある大柄な坊主頭、ニキビ跡が少しまだ残ってる青年という感じだ。
見た目に反して女性と話すと少し緊張してしまうが、芯が強く思いやりのある性格をしている。
しどろもどろに挨拶してしまい、体温がカッと上がっていくのがはっきりと分かる。
すると川内はクスッと笑いながら言う。
「大丈夫よそんなに緊張しなくても。怪しいもの持ち込んでないか身体検査させてもらうよ」
ポケットやカバンの中身を全て出したり、服の上から触られたりするが川内さんからいい匂いがふわっと香ってくるのでそれどころじゃない。
気を紛らわせるために保倉1等海尉はふと気になったことを言う。
「あの……吹雪さんはどちらに?」
「えっ、最初から君たちの後ろにいるけど?」
ざわっと空気が変わり木々が風で揺れた様な気がする。
あんな熱かった体温も急速に下がり鳥肌が一斉に立つ。
後ろを振り向くのが怖いが勇気を出すと、彼女がいたので心臓が縮みあがりかけた。
最初から居たというが気配も音もしなかったのに。
「あ、驚かせてしまいましたか? すみません……私が吹雪です。宜しくお願い致します」
吹雪は申し訳なさそうにお辞儀をする。
彼女の容姿は事前に教えられていたが、本当にセーラー服を着た中学生みたいな姿なのにここまで気配を消せるとは只者ではないと思ってた。
「三面様からお話を伺っております。こちらの許可証をお渡ししますので、首にかけて無くさないようお願い致します。私がご案内いたしますが、立ち入り禁止の場所が数多くありますので私のそばを離れぬようについてきてください。隙を見てこっそりと抜け出して探ろうとするならば……お分かりですよね?」
門衛室の電灯で照らされた吹雪の顔はにっこりと微笑んでいるが目は笑っていないことに気圧されて、こくこくと頷くしかない。
こうして彼ら二人は吹雪の監視の下、佐世保鎮守府司令部内に足を踏み入れた。
玄関に入ると外見も内部も総監部とほぼ変わらず親近感があったが、細部までみると掲示板の内容や張られているポスターとか異なっていていた。
じっくりと見たいが今は見学会ではないので気持ちを抑え吹雪さんの後を付いていきながら
階段を上がっていくと、執務室と書かれた部屋に到着する。
「こちらが司令官が執務するお部屋になります。今いらっしゃいますのでご挨拶を」
重厚そうな扉をノックすると中から若い声が聞こえ、吹雪が扉を開け入室すると20代後半の男性とサラサラな黒髪ロングヘアーで眼鏡をかけた艦娘がいた。
「ようこそ。私が提督を務める鵠と申します」と丁寧な口調で挨拶をしたので通信システム課の2人もピシっとお辞儀しながら挨拶する。
「私が軽巡洋艦大淀です。艦隊指揮の補佐や鎮守府運営、通信などを担当しています」
川内さんとはまた違った雰囲気と清楚な声、眼鏡もあり見た目も知的そうな女性……なのだがスカートのサイド部分がなぜか開いており、見えてはいけない一部が見えてしまいそうだったので全力でそこから目をそらす。
ここの風紀はどうなっているんだと内心思いつつ、平静を装いながら大淀さんにも挨拶していく。
「深災対のテレビ会議システムを繋げるために来て頂きありがとうございます。早速お願いしてもよろしいでしょうか」
提督と吹雪が前に、大淀が後ろに挟まれるように階段を随分と下っていくと、地下のある一室で足を止め提督が説明する。
「こちらが地下指揮所です。深海棲艦による大規模侵攻が確認された場合こちらで指揮を執っています。万が一の砲撃及び爆撃にも耐えられるよう頑強に作られております」
地下ということもあって昔のような暗い室内を2人はイメージしていたがいざ入室してみると、照明がしっかり灯されており明るく、換気扇も作動しているのかジメジメしておらず清潔に保たれていた。
そして数々のモニターやマイク等が設置されている。
ビデオ会議に必要な機材は揃っていたので回線を繋げるだけならすぐに終わりそうだ。
早速大淀さんとセッティングや構築作業を進めていくが、隣に来るたびにまたいい香りが漂い集中できなくなりかけたのが何度かあった。
それでも耐え地下のほうが終わると地上にある会議室も同様に作業を進め、午前1時半に完了することが出来た。
後は無事に繋がれば成功で電源を入れてみると、エラーを吐き出すことなく接続でき2人は安堵の溜息をつく。
「全てが無事接続できたみたいですね。これでテレビ会議ができますがなにかあればまた何時でも呼んでください」
「ありがとうございます。とても助かりました」と鵠提督は感謝を述べると、吹雪さんと大淀さんも天使のような笑顔でお礼を言ってきたので昇天しかけた。
こんなところで働きたいと思いつつも理性が果たして持つかどうか……自問しつつ提督と吹雪さんの案内で佐世保鎮守府司令部を後にする。
門衛室にいる川内さんにもお礼すると「お疲れ様。気を付けてねっ」と微笑みながら手をひらひらと振って見送りしてくれた。
佐世保鎮守府司令部からだいぶ離れると、2人とも緊張から解き放たれたかのように息を大きく吐く。
今日だけで一体幾つの心臓を撃ちぬかれただろうか。
あんな美人と可愛い娘がいるなんて予想外で、彼女に囲まれて仕事できるあの提督はなんと羨ましい。
2人はどこか夢心地な気分で帰路に就き、部隊に戻った時は質問攻めにされたとかないとか。
ひとまずテストで佐世保地方総監部と深災対とのテレビ会議をしてみると遅延もなくスムーズに出来たので、午前2時にいよいよ自衛隊とテレビ会議することが決定される。
佐世保地方総監部は三面海将らを中心とした海自の幹部と帝国海軍佐世保鎮守府の幹部3名。
健軍駐屯地には鎮西演習会議で集まっていた各駐屯地・基地の幹部。
春日基地には西部航空方面隊司令官と主要幹部。
佐世保鎮守府司令部では鵠提督と吹雪、大淀が出席し予定時刻ちょうどに関川陸将から挨拶が始まると皆引き締めた表情をする。
『これより合同会議を始める。事前に佐世保地方総監部から通達があった通り、本時刻をもって深海棲艦特設災害対策執行組織が会議に加わることになった』
画面に深災対の3人が映し出されると健軍駐屯地の幹部たちから歓待の声が漏れる。
どちらも美女なのも驚いたが、パッと見コスプレ会場から抜け出してきたかのような服装で困惑してしまうのも一部見受けられた。
深災対が軽めの自己紹介を終えると歓待からざわめきが大きくなる。
世界中の海軍が驚愕したとも言われる特型駆逐艦Ⅰ型と、大日本帝国海軍最後の連合艦隊旗艦であった艦が人になっているというのは常識外れ過ぎていた。
若者の隊員の中にはMMDやVチューバーの類ではと思っていたのも多かったが、映像越しではまるで人間そのものであり認識を改めていった。
本来ならじっくりかけて艦娘について説明したいところだが時間が惜しい。
ひとまずPDFにした資料を秘密回線で転送し、本題である佐世保湾に巣くう機雷の件に移る。
三面海将が機雷の設置数や掃海艇の所持数等を説明していくと、深災対の方々も機雷があることは米艦娘からの報告で分かったらしい。
『なら我が艦隊には掃海艇の艦娘はいませんが、機雷除去ができる海防艦娘がいます。どの海防艦娘も機雷掃海具を持っているので多少なりとも時間短縮できるかと思いますが』
「ちなみに海防艦娘はどれくらいの人数で容姿はどんな感じですか?」
小勝2等海佐が手を挙げて質問すると提督は困った顔を浮かべる
『17人いますが容姿はですね……えぇと」
なぜか歯切れが悪くなる。言っていいのかどうか悩んでいるようであり誰もが固唾を飲んでどんな発言が出るのか見守る中、提督が意を決して口を開く。
『小学生低学年くらいなんです……』
暫く時が止まり、聞き間違えじゃないのかともう一度丁寧に尋ねるがやはり答えは変わらない。
予想よりも斜め上の発言に自衛隊側は驚愕、唖然、絶句が混じりあったような騒ぎになり中には頭を抱えたりしていた者もいた。
理由は国際法において18歳未満の子供は徴兵されないとしているが、それが引っかかるどころか小学生低学年は数え役満でスリーアウトゲームセットだ。
杉山六蔵らも流石に驚いていた。
国民義勇戦闘隊を各地に配備しているとはいえ原則男性は15歳から60歳、女性は17歳から40歳(妊産婦は除外)と義勇兵役法で定められており、年齢制限外の方も志願として認められていた。
しかし実態はなりふり構わずどの世代でも強制的に徴兵されているのが現状であった。
(小学生低学年ということは向こうもそれほど追い詰められているのか……が、それでもお国のために戦うとはなんと素晴らしいことか!)と内心感動さえしていた。
来るべき決戦において老若男女問わず赤ん坊だろうが障害者だろうが関係なしに戦え。
むしろ囮や罠として使えと推奨している。
武器がなくても各々持っている物で工夫し、大和魂で一人でも多くの米英鬼畜共を屠れと洗脳教育や訓練を行ってきた。
これに賛同しない、協力しない国民もある程度いたが非国民として弾圧したり村八分で社会的に孤立させている。
「杉山中将殿、たしか海防艦は占守型だと1940年辺りに竣工されたはずでは?」
西村参謀は周りに聞こえないよう2人に耳打ちする。
「うむ、そうなると向こうの年代は確か2022年だから82年が経過している計算になる」
「本来なら高齢者なのだが本当に小学生低学年の見た目なのか怪しい。この目で見なければ納得はできまい」
隅でこそこそと話し合って海防艦を連れてくるようにと言おうとしたが、鵠提督はそうなることが分かっていたかのようにすでに海防艦娘を呼んできていたようで手招きすると、ひょっこりとフレームインしてきた。
黄色より薄い灰色みたいな髪の毛にエメラルドグリーンのくりくりとした目、濃い緑のセーラー服なのに襟は松葉のような色、お腹辺りは白色、袖口にはファーが取り付けられていて見たこともない制服だがそれよりも身長が吹雪より小さい。
目視だと130cm前後くらいしかなさそうで、本当に小学生低学年くらいの身長だということが証明され再度頭を抱えてしまう。
『占守型海防艦1番艦、占守っす!』
しかも語尾がまさか「~っす」とは予想外で最早色々と衝撃的過ぎて皆言葉が出ない。
帝国海軍の3人ももう訳が分からないといった表情を浮かべていた。
なにせ艦としての占守北海道方面に所在しており、大淀は呉空襲によって大破着底していたはずであるからだ。
自衛隊側でもどうするよこれ、と言いたげな雰囲気になっていた。
見た目は子供、年齢は高齢者という某推理漫画の主人公も推理を放棄するレベルだろう。
このままでは小学生低学年に武器を持たせて戦争に参加させるという犯罪的行為に加担することになり、そもそもこんな幼女達を戦場に立たせるなんて深災対は狂気の沙汰でしかない。
しかし帝国海軍の掃海艇と海自の艦だけでは足りず一日でも早く湾内を安全に航海できるようにしたいという気持ちもある。
「あの、どうして小学生低学年の女の子を戦場に?」
ちょうかい艦長の姫野1等海佐は怒りと困惑が混じった声で問う。
「こればかりは未だ研究中なのです。一説によれば元の艦の大きさが関係しているらしいですが……。初めて邂逅したときはすでにその姿でしたので」
鵠提督はそれに、と付け加える。
当然私たちがいた世界でも海防艦娘が初めて確認されたときは同じような反応であった。
大本営のお偉いさんや鎮守府の提督は頭を抱え、国民やマスコミ、政治家の反応はというとおおまかに分かれたそうだ。
″艦娘のおかげで各国の経済は徐々に立て直し、国民の生活も上向きになってきている″
″今更騒ぎ立てるのもナンセンス″等と受け入れる声が多かった。
一方で一部の野党議員やマスコミ、人権団体、反艦娘団体は″駆逐艦よりも小さい艦娘を戦場に立たせるのは流石にどうなのか″、とまともな意見が出たことでスムーズに事が進み、大本営と鎮守府はどうすれば納得してもらえるか連日話し合ったり海防艦娘の特性を調べていくにつれ、とある事実が判明した。
″消費資源が駆逐艦よりも少なく、敵潜水艦に対してはほぼ先制攻撃ができる″
特に消費資源が少ないことは大本営だけでなく財務省も歓迎していた。
この事実をすぐさまマスコミに公表したり観艦式では海防艦の演習等をライブ中継したりと不安を払拭するようにした結果批判の声は萎み、今では受け入れられていることを真摯に伝える。
ここでは言わなかったことだが本来なら反艦娘派は連日連夜国会前や各鎮守府でのデモ活動や議事妨害、質問主意書の乱発、SNSによる工作活動、聞くに堪えない罵詈雑言なシュプレヒコールなどあらゆる手段を用いていっただろう。
そういった思想は自由であるも日本政府は差別・侮辱的な言動に対しては断固たる態度で臨む。
自衛隊や米軍ですらギリギリなのに艦娘はいともたやすく撃破するのだから、艦娘がそっぽを向かれてしまえば国そのものが滅びかねない。
ゆえに反艦娘の声が大きくなり結託して一大勢力を築くようなことは何としても避けたい。
そのため徹底的に艦娘に対して好意的な情報を出すようにコントロールしたり、適切な処置を講じていったことで単に反艦娘の力が弱体していっただけである。
しかし姫野1等海佐は怒りをより露わにする。
「いくら大将とはいえこれは人道に反するのではないでしょうか? たとえどのような理由があるにせよ、幼い子だけでなく中学生のような子を戦場に立たせるなどあまりにも無責任ではないのでしょうか」
姫野1等海佐の指摘はごもっともだ。
彼女は家庭持ちで中学生と小学生の子供がいるから余計に思うところがあった。
「お気持ちは分かります。しかし彼女たちは誇り高き大日本帝国海軍の軍艦の生まれ変わりであり、責務を全うするために命を懸けて深海棲艦と戦い海を鎮魂しています。どうか理解していただきたい」
真剣な眼差しで諭す鵠提督。
それでも食い下がろうとする姫野1等海佐だったが、やることが山のように積み重なっているのに堂々巡りの議論をするわけにはいかないと判断した三面海将が間に入り落ち着くよう促す。
「申し訳ありません。少し熱くなりすぎました」
そう言うと彼女は頭を下げ謝罪をする。
しかし怒りの感情は隠せておらず、手のひらには爪の跡が残るほど強く握られていた。
時間も限られているので強行採決をとることにしたが横暴なのではと反発の声が当然あがってくる。
ここで反論したのが護衛艦の艦長たちである。
″連合軍は重要港湾でもある佐世保を空襲する可能性が十分にあり得る″
″護衛艦が係留で密集しているままで対空戦闘を行うのは非常に好ましくないので一刻も早く機雷除去してほしい″
そこまで反論されるとぐうの音も出せず渋々ながら了承する。
ちなみに杉山中将達にも聞くと当然のように賛成の立場である。彼女達は素晴らしい大和魂を持っているのに貴様らはなぜ時間をかけるのだ……と軽く説教されかけた。
「では採決を取らせていただきます。帝国海軍の掃海艇と海防艦娘で協力して機雷除去を行うべきだと思う方は挙手を」
全員が手を挙げる。やっと一歩前進したことで安堵の空気が流れる。
「では海防艦娘は除いては…いませんね」
よって帝国海軍と海自、海防艦娘のタッグによる史上初の機雷除去に挑むことになり、すぐさま別室の会議室で打合せをすることを決定した。
長らくオーパーツだった震電を無事にゲットできたのでヨシ!
北海道と佐世保行きたかったな。けど通年なのはありがたいし次は舞鶴みたいですね。舞鶴といえば吹雪ちゃん。つまりグッズや限定グラがでるってこと…?!