ネットで調べまくったけど法律って難しいね…。
法学部出身ではないので法律に関しては間違いや至らない点があるかと思われますがご了承ください。
海自の鹿屋基地は鎮西演習で参加予定だった第61航空隊のC-130Rが3機休んでいた為それを使って270名近くの人数を一気に輸送できるが、この基地には1600名近くの隊員がいるので足りない分を要望しておいた。
航空燃料や武装を積んだ車両等は国道504号線を通り水俣市や八代市、佐賀市、鹿島市を経由するが下道で8時間以上もかかるため、健軍駐屯地で休憩をとってから大村飛行場へ輸送する。
配備されている15機のP-1はできる限り誘導弾や爆弾、魚雷を装備して同じく大村飛行場へ向かうことになった。
空自の新田原基地ではF-15等の航空機を築城基地と春日基地に振り分けて配備する。
ちなみに高畑山分屯基地の隣にはヘリパッドがあり、CH-47やV-22が離発着できるくらいのスペースなので使わない手はない。
関川陸将は輸送機・輸送ヘリには数の限りがあるため、乗り切れなかった分はトラックや人員輸送車になるべく詰めるよう各駐屯地・基地に通達した。
自家用車に関してはどうしても持っていけない車があったら所有者に許可をとり、ガソリンを1/2トン燃料タンク車に入れてから焼却なり爆破処分する。
これも連合国軍が手に入れて解析されるのを防ぐためである。
そして各方面からまとめられた要望を元に
まず即応性が高い回転翼機でさっさと運んだあと、輸送機で残った分を一気に詰め込んでいくことにした。
その結果国分・川内・都城駐屯地にはV-22、CH-47J、UH-60JAを中心に派遣する。
新田原と高畑山、鹿屋も同様であるが、鎮西演習のため派遣された空自の第1輸送航空隊の第401飛行隊からC-130Hが8機、空中給油仕様のKC-130Hが2機、第404飛行隊からKC-767が2機。
第402飛行隊からはC-1が3機。
第403飛行隊からC-2の2機の計17機を投入することになった。
なるべく昼間を避け夜間で済ませたいが日の出は午前6時の予報なので、あと3時間しかないし連合国軍が上陸するまであと1日しかない。
それまでには何としても終わらせないといけないので恐るべし集中力で進めていく。
やることが……やることが多い!と阿鼻叫喚の光景が空中輸送員の間で繰り広げられていた。
ー築城基地ー
地震による滑走路点検のため戦闘機はすぐに飛ばせなかったが、スクランブル命令が来てもすぐ行けるよう各パイロットは飛行装具を付けたまま待機室で休んでいた。
整備士たちも機体の最終点検を行い、いつでもスクランブル発進できるように準備万端である。
そんなときブリーフィングをリモートで行うとアナウンスが入ったので各パイロット達は疑問に思いながらも待機室を後にする。
ブリーフィングルームに入り全員が集まったのが確認されると部屋の電気が落とされ、遮光カーテンが自動で閉じられプロジェクターが作動する。
すると第5航空団第305飛行隊のイーグルパイロット達だけでなく、陸空海の三将や幹部たちも一緒にスクリーン上に映し出された。
「まず自衛隊法第95条により撤退支援としてF-35Aを飛ばしてもらいたい。そして我々はJTF-鎮西の下に組み込まれ、それに伴い防衛出動待機命令が発令される可能性が高まった」
貝津空将補の代わりに副司令官である
自衛隊の歴史上初となる防衛出動待機命令に驚きを隠せなかったからだ。
「自衛隊法95条って確か″自衛隊の武器等の防護のための武器の使用″……でしたよね?」
第302飛行隊の飛行隊長
「その通りだ。武器等というのは武器、弾薬、火薬、車両、液体燃料、船舶、航空機、有線電気通信設備、無線設備となる。これらを各駐屯地から安全地へ運び出すため、空から警護に当たってもらいたいそうだ。しかし武器の使用に当たっては人に危害を加えてはならず、正当防衛または緊急避難に該当しなければいけないのは周知の事実だ。その3つの条件は、急迫不正の侵害と防衛の意思、手段の相当性だ。君たちも耳に胼胝ができるほど教えられたと思うが、改めて復習しておこう」
黒板に白チョークを打ち付けながら鳥越1等空佐が分かりやすく説明していく。
「まず刑法では″急迫不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するため″とあるので他人を守護る行動ができる。複数の敵機が地上部隊に飛来し機銃掃射してきた場合、今まさに攻撃を受けているので″急迫不正の侵害″に関してはクリアできている。そして明らかに敵機が隊員に向けて攻撃しているのが客観的に判断出来ている場合、権利の防衛では生命が一番高く身体が真ん中、財産が一番低めとなっている。更に敵機襲来時に塹壕を掘っても間に合うわけないし、逃げようとしても車両より航空機のほうが圧倒的に速いので適当な手段がないともいえる。″相当性″においては、相手が機銃掃射のみで攻撃していたら我々も機銃のみでしか地上部隊を守れない。なぜなら武器の使用は″必要最小限度″でなければならないからだ」
一呼吸おいて空いたスペースに書き足し、チョークが打ち付けられる音が室内に響いていた。
「では、君たちが乗る戦闘機が敵機に補足され射撃されたら正当防衛は成立するのか。答えは否に近い。航空機は財産の一種とみなされ、権利の防衛だと一番低いのは財産だと先ほど説明した。財産を守る為に敵機を撃ち落すのは相手の生命を奪いかねない行為であり相当性がない。そして我々が所持している機体はマッハを超えることができるジェット戦闘機なので、反撃以外にも″逃走″という手段があるため適当な手段がある、ということになる」
全て書き終えた鳥越1等空佐はチョークを置きパイロットたちに目を向けると、皆分かっているようで軽く頷いていた。
「質問よろしいでしょうか」と挙手したのは第302飛行隊パイロットの
「敵機が爆装しており地上部隊に向けて爆撃した場合、我々は
「敵機が無誘導爆弾を装備しているのなら必要最小限度に則るため無理だろう。ただ、誘導爆弾ならAAM使用できると思うが、その爆弾の見極めが難しい。そうなると″第88条 武力行使″が発令されるまでは機銃のみとする」
『これって無事に現代に戻れた場合、映像に残して証拠を集めてないと後々面倒なことになりそうですね』
空自で二人目の女性イーグルパイロットになった第305飛行隊の
タイムスリップから戻った、という前代未聞のことなので必然的に各捜査機関がこぞって取り調べをするのは間違いない。
『第二次世界大戦末期の航空機と戦ったなんて言っても信じてもらえないだろうな。まぁ撮ったとしても今度は映像加工されてると思われるだろうがその手の専門家が調べれば分かるし、やっておいたほうが確実に良い』
『だがどうやって撮る? 手順通りでの写真撮影している暇はないぞ』
その他のイーグルパイロット達がやいのやいのと議論する。
通常のスクランブル発進は対象機を目視で確認したのちに、1番機が写真撮影をし2番機は離れたところで監視していく。
現代なら問題ないがここは戦争真っ最中。いくらジェット機とはいえ即撃ってくるであろう相手に写真撮影できるほど近づくのはリスクが大きすぎる。
「ゴープロはどうだ? 空自の広告や撮影でよく使ってるから使い方には慣れているし、コックピットかヘルメットとかに固定して撮ればいいと思う」
第305飛行隊長の
確かに近頃はテレビ局の撮影で芸能人を乗せて体験飛行することも多くなったので一通りの機材は持っているのだ。
『よし、では次の話に移ろう』
スクリーンにオリンピック作戦の連合国軍の配置図および上陸予想経路と南九州の空域図がセットで映し出される。
『まず敵の戦力数について説明する。資料および無人偵察機による調査の結果、宮崎海岸には第3艦隊がいる。正規空母14隻・軽空母6隻・戦艦9・巡洋艦19・駆逐艦75の計123隻。志布志湾付近にはイギリス太平洋艦隊で正規空母6隻・軽空母4隻・護衛空母9隻・戦艦4・巡洋艦10・駆逐艦35の計68隻。吹上浜海岸には第5艦隊で護衛空母36隻・戦艦11・巡洋艦26・駆逐艦387の計460隻。さらに各種輸送艦や揚陸艇などの支援艦は1,371隻。すべて合わせると計2,040隻にも上る』
三面海将の説明は聞いたこともない数にパイロット達からどよめきの声が漏れる。
「2,000隻以上も……さすが米帝ですね」
第302飛行隊パイロット
『それだけではない。航空戦力も凄まじい。B-29はもちろん、イギリスの戦略爆撃隊も600機はいる計算だ』
『そして陸上戦力については陸軍兵士と海兵隊兵士だけでも約40万人。工兵や戦務、支援要員も約34万人。合わせると最低でも約74万人だ』
古間空将と関川陸将の説明で途方もない数に誰もが気が滅入ってしまう。
さらに付け加えるように関川陸将が言い放つ。
『これはあくまでこちら側が持っている資料であるから、歴史が変わっている可能性も大いにあり得る。戦力は増減している可能性もあることを頭に入れてくれ』
『君たちはどの空域に向かえばいいのか今説明する。0400に離陸し吹上浜海岸上空のX-18空域、日向灘上空のX-22-1空域、高知沖上空のX-20にそれぞれ2機、計6機のF-35Aが高高度巡航し30分後の0430に
実は鹿屋基地に米軍の無人機MQ-9が22年11月から1年間運用することが決まっており、米軍との連携を強化するとともに東シナ海を中心として周辺海域の情報収集を目的として鹿屋に一時的に展開をすることになっていた。
その飛行エリアはA-1空域と名付けられ志布志湾から鹿児島湾口部、東シナ海まで飛行エリアを設置したものの、地震と共に基地や人員丸ごとタイムスリップしてしまったので配備はおじゃんとなっているだろう。
お偉いさんと米軍と海自の心境を思うと申し訳ないがあれは不可抗力だと内心で謝罪しておいた。
『そしてE-767よりも即応性があるE-2Dも飯塚駐屯地の上空付近を飛び君たちを支援するそうだ。後から空中給油機も第405飛行隊のKC-46Aが大村湾の上空を飛ぶ。しかし万が一のため第8航空団のF-2を飛ばし護衛してほしいと古間空将から伝達があった。頼めるか?』
「はっ、お任せください」
「指一本たりとも触れさせません」
第6飛行隊飛行隊長の
F-2は対艦攻撃だけが華ではない。対空もこなせるマルチロール機なのだ。
第8航空団飛行群のパイロット達と話し合った結果、第6飛行隊がE-2Dの護衛をし、第8飛行隊がKC-46Aの護衛をすることを決定した。
「船名については私たちだけでは判別がつきません。JTF-鎮西だけでなく帝国海軍と深災対にもデーターを共有しましょう」
大伯2等空佐の提言に反対の声は出ず可決された。
F-35Aには
真後ろだろうが真下だろうが
さらに機首下に
もしF-35があの時に採用されなかったらと思うと苦労していたことであろう。
そして第302飛行隊のパイロット達はどの空域に誰が向かうか話し合った結果、飛行隊長の大伯2等空佐と真賀3等空佐がX-22-1空域とA-1へ向かう。
X-20空域は下鳥屋3等空佐と
一先ずベテランパイロットで固めたが302飛行隊に異動される前はF-15やF-2でブイブイ言わせた猛者だ。
次に第305飛行隊のイーグルパイロット達はまずどの方向に逃げるか確認しあっていた。
西都市方面か高鍋町方面かで迷ったが、新田原西回廊に向かうには西都市方面がいい。
そしてF-35Aが
第3航空団整備補給群も鎮西演習のため築城基地に集っており、F-2だけでなくF-35Aを飛ばすことになったため緊急ブリーフィングが開始された。
30分程でブリーフィングを終えると、けん引車を使ってF-2とF-35Aを格納庫から駐機ポイントまで移動させると、タイヤに車輪止めをつけてから1機に対し3名が飛行前点検を行っていく。
すぐにでも飛ばさないといけないため、手順は簡略化され点検を素早く進めていく。
給油車をフル稼働して航空燃料をMAXまで入れ終えると、燃料が漏れることないようにしっかりと締めて燃料員たちは指さし確認をする。
更に予備機も飛行前点検を終えた後プリタキシー・チェックも行っていく。
もし作戦機が何らかのトラブルで飛べなくなった場合、すぐに予備機で飛ばせるようにするためだ。
F-35Aのパイロットも目視で機体に異常がないか確認してから梯子で駆け上がり、それぞれの愛機へと乗り込んでハーネスを装着する。
HMDを装着し電源をONにするとタッチパネル式のカラーディスプレイやその他の液晶から情報がズラッと表示される。
初めて目にしたとき40代前後のベテランパイロット達は情報の多さに酔いそうだった。
また、他の戦闘機にはない操作なので最初の訓練の頃はアナログ機器に慣れていたので苦戦したが、入ったばかりの20代後半から30代前半の隊員はVRゲームやスマートフォン類のタッチパネル操作に慣れていたこともあってかあっという間にマスターした。
まだ若いもんには負けんと奮起したベテランパイロットの中には慣れ親しんだガラケーからスマホに機種変更したパイロットもいたほどだ。
後ろから閉じられるキャノピーが完全に閉じられると自分だけの世界になる。
垂直尾翼やフラップ、エンジンノズル等が操縦通りに動くか確かめると問題なく作動するのを整備員と共に確認し有線でのやり取りを終えると、整備員達はタキシングの邪魔にならないよう有線機器や車輪止めを素早く回収する。
管制塔と英語でやり取りをしながらエンジンスタートすると、乗りなれたF-2やF-15とはまた違った甲高いエンジン音を周囲に響かせる。
整備員は横一列に並ぶとビシッと敬礼する。
パイロット達も敬礼を返し、F-2を先頭にF-35Aがカルガモの親子の如くゆっくりと滑走路へタキシングし離陸位置につく。
そしてもう一度垂直尾翼やフラップ、エンジンノズル等が操縦通りに動くか確かめると、しっかりとスムーズに動いておりご機嫌が良さそうだ。
F-2が滑走路から飛び立ち、相棒と4機のF-35Aが離陸位置についたことを確認すると左手にあるエンジンのスロットルレバーを最大出力にしグッと押し込み、アフターバーナーが点火され加速によって身体が座席に押し付けられ滑走路を滑るように走行し、引き上げ速度を超えると機首を上げていく。
滑走路から飛び出し周防灘に差し掛かると、機首を更に上げハイレートクライムで高度をぐんぐんと稼いでいく。
後方乱気流による墜落を防ぐため、ある程度時間を置いて相棒のF-35Aが飛び立つ。
隊長機は高度を稼ぐと右旋回し作戦空域へ機首を向ける。
こんなずんぐりむっくりとした見た目とは裏腹に機動性はかなり良く、きびきびと動いてくれる。
作戦機のF-35Aが全て滑走路から飛び立ち、2機1組になると管制塔からE-2Dの周波数に切り替える。
対洋上目標も難なくこなせるE-2Dの背中をゆっくと回転させている円盤状のレーダーはすでに多数の連合国軍艦艇を捉えており、得た情報を即座にF-35Aと本部等に共有していく。
『情報通り敵艦艇はかなりいるが、今のところ目立った動きはない。このまま作戦空域へ向かえ』
「了解した。このまま向かう」
エンジンの音と酸素マスクによる呼吸音だけが辺りを支配し、ディスプレイの灯りと赤と緑の航行灯だけが安堵の光だ。
しかしナイトビジョン機能のおかげでまるで昼間のように明るく見え、相棒のF-35Aもくっきりと見える。
『全機、作戦空域に到達する前に電子装備を起動させ異常がないか確かめてほしい。もし異常があれば基地に引き返し予備機を飛ばさせる』
大伯2等空佐が指示を出しEOTSの1つの機能である
ディスプレイにはデジタル化された地図が映りチラリと見ると、現在地は飯塚市辺りを飛んでいるので第56軍司令部らしい。
試しに飯塚駐屯地のほうにカメラを向けズームすると、だいぶ離れているのに飯塚駐屯地の窓やそこを歩いている隊員すらはっきりと見えることに驚いた。
さらに数分後、山家村(現筑紫市)に差し掛かると第56軍司令部より多い兵舎と警備している兵士がはっきりと見えた。
(あれが第16方面軍の司令部か。やはり本土決戦の備えて地下壕を掘ったんだな)
そんなことを思いつつもEODASを起動すると、熱画面には海面にエンジンを動かしている艦船らしきものがいくつも浮かび上がった。
それだけでなく佐世保港に停泊している護衛艦、滑走路で待機しているF-15やP-1等、今まさに飛びだっているF-2の航空機も1つの映像としてHMDに浮かび上がる。
EODASは360度全球をカバーしているとは聞いたが、初の実戦でここまで偵察ができるこの機体に畏怖する。
『九州上空なのにここまで見えるってすごいですね……』と真賀3等空佐が驚嘆の声を上げる。
『あぁ、同感だ。恐れ入ったよ』
そして他のF-35Aも問題なく電子装備が作動したことが無線で伝えられると、大伯2等空佐は(さすが優秀な整備員たちだ)とホッとする。
あとはトラブルなく作戦空域へ行くだけだ。
松原展望台付近の林では、新聞記者がちらほらと隠れていた。
「いやぁ、まさかこんなことになるとは思いもしませんでしたね」
「あぁ、これは特ダネ中の特ダネだよ」
西日本新聞では深夜に築城飛行場の隣に突然謎の建物がいきなり現れたと近隣住民からタレコミが入り、酔っぱらいが冷やかしの電話したのかと怪しんだが、次々と同じ内容の電話が入ってくる。
更に春日や北九州市、久留米市でも同じような報告が次々と入り込んでくる。
これはただ事ではないと編集長は事実確認のため記者をかき集め、それぞれの地域に記者を振り分け車をすっ飛ばせと命令した。
ベテランの青野記者と20代前半の新人記者が築城に到着すると、見たこともない建物にランランと光り輝く滑走路が目に入った。
いったい何なのだこれはと唖然するも我に返りカメラに収めていくと、後を追うように
忌々しいライバル会社だが今は縄張り争いしている場合ではない。
なにか分かることはないかと聞くも、全く分からない様子だったので少し落胆した。
上に有刺鉄線がついたフェンスに沿ってとりあえず一緒に歩いていくと、築城駅まで歩いてきた。
そこには驚きの光景が広がっており、第56軍と築城海軍航空隊の隊員や警察、築城村等の住民でごった返しになっていた。まるで正月とお盆が一気に来たような騒ぎになっており、おそらく数百人、いやもっといるだろうか。
群衆の後ろに回ると正門らしき所が見え、門は締まっているがそこには見たこともない制服とヘルメットを着た人が対応に追われていた。
おそらく恰好からしてこの基地の警備員だろうか。
更にその後ろでは基地内を突破させまいと盾や警棒で守りを固めている警備員が何十人もおり、あとジャーマンシェパードも何匹かいる。
その様子をカメラで撮ると後ろから殺気だった声が聞こえた。
「責任者を早く出せーっ! あれは何なのか説明しろー!」
そうだそうだと、群衆から同意の声がいくつもあがり、閉まっている守衛門を掴みガシャガシャと揺らしたり守衛門を登ろうとする市民もいたが鋭利な忍び返しをみて断念する。
すると警備員から「落ち着いてください! もう少しで来ますから! というか私も何が何だか分からないんですよ!」と悲鳴に近い声が上がる。
ピリピリとした空気が蔓延し更に騒ぎを聞きつけた近隣住民も増えてきて流石にまずいと感じた陸軍と築城海軍航空隊の隊員、警察官は近隣住民を守衛門やフェンスから遠ざけるように引き離していく。
ということは見たこともないあの基地が突然現れたかのように出てきたとでもいうのか。
確かにあそこはだだっ広い林が広がっていたがいったいどんな手品をつかったのだろう。
そして建物の奥のほうから責任者らしき軍人が出てきたようで陸軍と築城海軍航空隊、警察官の偉い人と話し合っている。
その様子を記者たちはお構いなくカメラに収めていくも、徐々に険しい顔になりなんだかとんでもないことになっているようだ。
そして責任者らしき軍人が陸軍と築城海軍航空隊のお偉いさんの数人をあの謎の建物へ案内しようとしていた。
記者達もどさくさに紛れて後からついていこうとしたが、それに気づいた陸軍兵士と警察官たちに阻止されてしまう。
抗議するも「この事案は重大な機密に関わるため今後一切許可なしに立ち入りを禁止し、これを破ったものは特高と憲兵を呼ぶぞ」と脅され、住民たちもそれに恐れたのかそそくさと帰宅していく。
心の中で悪態つきつつも帰ったふりをして近くで様子をうかがったが、門前で警備を始めてしまい滑走路に至っては定期的にパトカーらしき車が巡回しており突撃取材は難しくなったので今に至る…というわけだ。
もう一度突撃取材する手も考えていたが、ふとあのことを思い出し躊躇してしまう。
実際、過去に地方の新聞社が政権や軍部を批判する記事を懲りずに記事を出したところ、憲兵や特高がやってきてまるで打ち壊しにあったかのように荒らされ、更に記事を書いた記者や上司だけでなくその家族までもが連れていかれ拷問された、なんていう話も聞いている。
結局その新聞社は圧力がかかって廃刊に追い込まれてしまった経緯がある。
(全く、この国は歪んでやがる)と青野記者は深い溜息をつく。
ふと懐中時計をみるとすでに午前4時になっていた。
通りで眠気が襲ってくるはずだ。ふぁ……っとあくびをしながらぶるりと身体を震わせる。
ないよりはマシの配給されたペラペラの防寒着を着ているとはいえ、10月下旬の夜は身体が冷える。
ここで寝てしまったら凍死、とまではいかないが命の危険はあるので定期的にストレッチしたりする。
動きも見られないので暇だがここで撤退しては記者としての名が廃る。
せめて特ダネになるようなスクープ写真を撮らければ……と青野記者は物思いにふけっていると、どこからか甲高い音が聞こえてきた。
「ん? なんだこの音…?」
「レシプロ機のエンジン音しては違いますよね……」
隣にいた新人記者がキョロキョロと辺りを見回す。
すると滑走路から翼端灯がピカッピカッと点滅している航空機が地上走行してるのを見つけた。
音の発生源はあれだとすぐ分かったが、様々な航空灯火によって浮かび上がった航空機を見て愕然とした。
色までは分からないが秋水や橘花とは全く異なり、大きいが一つはスリムで、もう一つはずんぐりとした見た目に思わず息をのむ。
「あれは……まさかロケット、いやジェット戦闘機なのか!?」
「なんですかあれ!? 新兵器ですかね?」
「分からん。おい、なにぼさっとしている! はよカメラで撮れ!」
「は、はい!」
新人記者は急いでフィルムを巻き上げシャッターを切る。ネガで現像するのでどんな映りになっているか分からないが今は一心不乱に撮っていく。
勿論他社の記者も我先にと撮っておりちょっとした熱狂に包まれていた。
青羽記者は懐から手帳を取り出していま目撃していることをありのままに鉛筆を走らせていると、戦闘機の後ろから炎が突然吹き出したかと思うと轟音が響き渡り、あっという間に滑走路の向こうに行きそのまま周防灘方面へと飛び立っていくと急激に炎が上に上がる。
なんという上昇力か。
そして残りも同じように離陸し散開した。
時間にしてわずか10分も経っていないだろうか。
一連の出来事に記者たちは鳩が豆鉄砲を食ったようになり、お互い顔を見合わせていた。
(いったい何だったんだあれは……)
見たことのない戦闘機に対する驚愕、興奮もあったがそれよりも得体の知れない恐怖という感情がこの場にいた記者たちの心に深く植え付けられることになった。
そのジェット機の飛行音が辺りをこだましていくのがより一層の恐怖心を駆り立てている。
時は少し遡りF-35Aが築城基地を離陸する前、南九州の各駐屯地司令はたまたま隣になってしまったところは徒歩で、離れたところは高機動車でそれぞれの師団へ出向いていた。
出向く理由は戦略的に撤退することを伝えるためである。
各師団長及び幹部達と面談していくも軟弱な軍隊だと怒るもの、転進を拒むもの、たとえ本部や中央が降伏しても独立して最後の一人になるまで戦い抜くものと彼らの反応は様々であった。
ならせめて民間人だけでも転進を、と説得しても耳を貸さずそれどころか貴重な戦力を下げるとはどういう了見なんだと一蹴されてしまい追い出される。
どこも説得は失敗に終わり、ならばと近くの町や村の長と話し合ってみるもここでも同じようなもので徒労に終わってしまった。
当初は誠心誠意に話せば理解してくれると期待していた。
だが予想とは反して中には連合国軍のスパイじゃないかと敵意を向けるものや、撤退するなら武器や食料等を置いていけと理不尽なことを言いだすのもいた。
戦闘食糧や部隊食糧を含めれば自衛隊側は一応、周辺住民たちに炊出し支援できるほどの食糧を備蓄している。
しかしタイムスリップに伴いそれを生産できる工場がなくなった可能性が高く、補給ができない以上おいそれと渡すわけにもいかない。
心苦しいがそういった理由があり部隊の存続が第一なので申し訳ないが難しい、とやんわり伝える。
そもそも食堂を開放したり食料品を渡したとしても今度はそれをめぐる争いが住民同士で起きるのは目に見えているがそれは心の中で留めておいた。
すると囲んで睨みつけてきてこれでもかと言わんばかりの罵声を浴びせてきたり、中には竹槍などの武器で脅したりと胸糞悪い結果となってしまいさらに気を落とすこととなった。
どの村や町でも同じ反応ばかりで途方に暮れて駐屯地や基地に戻り西部方面総監部と佐世保地方総監部、深災対に報告すると、それを聞いた自衛隊幹部と提督はがっくりと肩を落とす。
「くそっ、なにが一億玉砕だ! 命をなんだと思っている!!」と、ある幹部が怒り任せに机を拳で叩く。
まさかここまで一億玉砕の考え方が浸透しているとは思ってもおらず、あの頑なさは異常であり最早洗脳レベルである。
こうまで折れないとなると、たとえ強制的に撤退させようとしても住民総出してまで抵抗してくる可能性は高い。
「とりあえずできる範囲で対話は継続しよう。君らもご苦労だった」
どうにか冷静さを保つように努めるも、関川陸将の心の内では無力感に支配されていた。
実はさすがに民間人までも巻き込むのはどうなのかと抗議をする兵士も全国各地にいたが、非国民だと上官から叱責され飯抜きや暴力は日常茶飯事、果てには再教育と言う名の拷問で物言わぬモノとして扱わたりとそれを見た仲間たちは震えあがり抗議の声すら途切れていった。
こんなところにはいられないと脱柵した兵士に関しては、捜索隊や手配書を周辺に出しておき見つけた場合は住民の前に差し出し木にしばりつけて旧式の銃で撃ったり、竹槍で突いたり農具で撲殺する訓練等といった残酷な私刑を行った部隊もある。
ナチス党を参考に恐怖で支配し洗脳することを命令した新政府は、本土決戦に向けて一本化し組織的な抵抗をさせないようにすることで思想の統制を成功させていた。
国民でも例外はなく中には一族が全滅したり、酷いところは集落すら消滅してしまうところもあった。
あまりにも理不尽な弾圧に嫌気したり命からがら逃げた住民や兵士は当てもなくさまよい、いつの日か山奥や廃村などに集いひっそりとレジスタンスを結成しているところもあるが、そこまでの背景があるとは自衛隊や深災対たちはまだ知る由もない。
2023年もお疲れ様でした。
皆様よいお年を。
※第302飛行隊のパイロット達が逃げる方向を高鍋町から西都市方面に変更しました。
参考資料
ニコニコ大百科 正当防衛ケース3
自衛隊法 e-Gov法令検索
F-35情報館