異聞!決号作戦   作:シン・アルビレオ

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ほぼ三か月振りの更新やん……


14話 超空の要塞襲来す

 高畑山分屯基地の隊員たちがせわしなく撤退作業を進めている中、四国から奄美大島まで探知できるJ/FPS-7のレーダーは九州を飛び回っている数々の自衛隊機と旧日本軍の機体をはっきりと捉えていた。

空中衝突しないよう管制塔とかは大忙しだろうなと浜谷2等空曹はレーダースクリーンをジッと見つめていた。

すでに私物類はまとめてあるし、撤退できる準備は整えてある。

固定されているレーダーサイトやレーダースクリーン等は小銃で破壊したあと、施設内にガソリンを撒いて火をつけ燃やす手も考えられたが、周囲が山火事になりかねないので却下された。

採用されたのは回転翼機が来る時に第5施設団も一緒に乗せているそうで、プラスチック爆弾を設置し爆破処分する。

とても高価なものであり替えの利かないレーダーサイトなので死守したいが、この後来るであろう連合国軍が無傷で手を入れて解析されるよりはマシである。

ここを見るのも今日で最後かもな、と頭の中で耽っていると耳障りな警告音と共にレーダースクリーンには今まで見たこともない数が浮かび上がりオペレーションルームが一気にざわめきだす。

浜谷2等空尉は意識をすぐに切り替え操作していくと、識別信号(IFF)の色は赤で三角マークを示していた。

防空識別圏(ADIZ)国籍不明機(アンノウン)が侵入! 方位170度から190度、速度330kn、高度30,000ft、距離640㎞」

「大東諸島の領空侵犯まであと5㎞」

「数は……大小も含め100機は……いやっ、どんどん増えていきます! 該当するフライトプランはありません」

レーダースクリーンの担当員達から膨れ上がる数に周りがどよめいていく。

「機体の種類は分かるか?」

オペレーションルームを取りまとめる松浜2等空尉は次から次へと入ってくる情報を整理していた。

「RCSが旅客機並みにでかいことは分かります。このサイズに加えて時代背景を考えると、B-29の可能性は高いかと。それに小さい機影も見えますからおそらく護衛しているP-51でしょう」

歴史に詳しい下山1等空曹がレーダースクリーンから目を離さず答えるが、B-29という単語が出るとオペレーションルームがシン、と静まる。

「B-29は524機、P-51は192機の合計716機と判明しました」

3/10の東京大空襲ですら300機以上なのにその2倍以上が九州に向けて飛んでいる事態に背筋が凍りそうになる。

「……ここまでの到達予想時刻は?」

松浜が恐る恐る問うと浜谷2等空曹がすぐ計算する。

「このまま速度が変化しない場合およそ65分後、つまり5時45分にはここに到達するかと」

(まずいな……)

MV-22(オスプレイ)より遅い回転翼機は5時半頃にこちらに到着する。

荷物を詰め込んでいる最中か、終えて基地へ向かう道中に喰われる可能性大でありなんとも嫌なタイミングだと松浜2等空尉は腕時計とにらめっこしていた。

 

 

 西部航空警戒管制団第13警戒隊長兼 高畑山分屯基地司令の苗場2等空佐は時間の隙間に自室で私物の最終整理をしていた時、警告音が部屋に鳴り響くのと同時に部屋から駆け出し防空司令部へ一直線に向かう。

まるで陸上選手の如しのスピードで司令部に入室すると騒然とした空気に包まれていた。

隊員からレーダーサイトによってもたらされた情報を聞くと思わず耳を疑うも、すぐ命令を矢継ぎ早に出していく。

「西部航空方面隊司令部にスクランブル命令! あと佐世保の深災対にも協力を要請」

部下に素早く的確に指示を出す苗場2等空佐の額には汗が浮いていた。

迫りくる敵機をなんとかしなければと考えていると、廊下を走っていた時たまたま彼とすれ違ったことを思い出し、司令部のドアを開け顔をのぞかせると20m先に居た。

「松園2等空佐! スティンガー(91式携帯地対空誘導弾)ブローニング(12.7mm重機関銃)は?」

「もう梱包を終えて空輸用の荷物としてまとめてしまっています」

整備補給群司令の松園1等空佐の報告に、なんというタイミングの悪さだと顔をしかめる。

ここには航空機及びドローン対策として91式携帯地対空誘導と12.7mm重機関銃を置いてあるが、射程はどれも数㎞前後しかなく低空飛行するB-29でも届くかというレベルだがあくまでカタログスペックなのでもう少し飛翔できるかもしれないし使わないよりはマシだ。

それに今から山を降りようが穴を掘って隠れようが、焼夷弾によって焼死するか窒息死するか、機銃掃射で穴だらけになるのがオチだろう。

ならせめて1機でも多く堕としてあがいてやろうと腹を括った。

「蟷螂の斧になるかもしれんが、梱包を解いて全隊員が撤退するまでの間対空任務に就けるか?」

「……敵の数は?」

言ったより見たほうが早いだろうと松園1等空佐を司令部に招いてスクリーンを見てもらうと、途方もない敵の数に彼は絶句し、恐る恐る問う。

「防衛出動と武力行使命令は出るんですか……?」

「政治家の生死が確認されていない以上独断で出すだろうな。当然、法律違反だが我が何もしなければこの日本の戦力では耐えきれまい。上は無事に現代日本も戻れたら全ての責任を被り辞表を出すそうだ。勿論俺も辞表と遺書は懐にある」

彼の決意に松園1等空佐も覚悟を決めたようで一つ頷く。

 

 

 時間を少し戻して、日向灘空域のX-22-1へ向かっているF35-Aは豊予海峡でいくつかの艦船がゆっくりと南下してるのを道中で見つけた。

「あれはなんですかね?」

「帝国海軍の駆逐艦みたいだが詳しい名前は分からんな。しかしなんでこんなところにいるんだ?」

「一応共有しておきますか?」

「……そうだな」

まさかと思うが……いやそんなはずはないと大迫2等空佐は頭を軽く振る。

第一、あの戦力だけではあっという間に蹂躙されるだろう。

特攻が来ても焼け石に水であろうし、そんな無謀すぎる戦いを仕掛けるなんて狂っている。

電子攻撃をする前にX-18空域を担当しているパイロットから無線が来た。

その内容は甑島列島にレーダーサイトと緊急用の泊地らしきものを発見したということだった。

つまり、甑島列島はすでに連合国軍の手に落ちていることを意味している。

甑島列島のレーダーサイトにも電子妨害を仕掛けても良いのか司令部に許可をとると、許可がおりた。

そして作戦開始時刻に電子攻撃を行い、敵艦隊とレーダーサイトをあっという間に無力化していく。

 

 

 電子攻撃を仕掛けてから数十分後、敵空母に動きが見られ甲板上に人がせわしなく動いてきたのを備え付けられた数々の電子光学システムが探知していた。

「爆撃でもする気か……?」と真賀3等空佐が不安げに言う。

飛行隊長の大伯2等空佐は作業員たちの動きを注視しようとズームしたところ、どうやら戦闘機の発艦作業を進めているようだ。

「いや、爆弾を運んでいない。戦闘機を発艦させ偵察する可能性があり得るが機銃掃射するかもしれんな……」

一先ず大迫2等空佐は空母に怪しい動きが見られると西部航空方面隊司令部へ警告した矢先、E-2Dのオペレーターから無線が来た。

『方位170度から190度、速度330kn、高度30,000ft、距離890㎞に国籍不明機の反応有り。国際不明機はB-29とP-51の可能性が高いが確証を得るため偵察してほしい』

同時に戦術状況表示にはとんでもない数の黄色の四角、つまり不審物を表すマークが表示された。

AN/APG-81はRCSが10㎡くらいならおよそ400kmほどまで探知できる。

B-29はこの時代の爆撃機としては大型の部類に入るものの、現代のジャンボジェット機と比べれば小さいため、RCSは20~40㎡程であり700㎞先にいるB-29をギリギリ捉えることができた。

EO-DASとAN/APG-81を空対空モードにし最大出力にすると、大量のB-29とP-51の機影が浮かび上がった。

真賀3等空佐は驚愕の声を漏らし、大伯2等空佐も信じられないものを見たかのようにHMDを凝視する。

『了解。ベイスターとアクィラを向かわせるから抜けた穴を埋めるために予備機のF-35AをX-18へ向かわせてほしい』

『了解、すぐ手配する』

E-2Dのオペレーターが西部航空方面隊司令部へ要請するのと同時に、大迫2等空佐もX-18空域を担当している鴻野3等空佐と上道3等空佐に命令を出す。

『ベイスター、アクィラ。予備機のF35-Aが来たら交代し、EO-TSが探知できるまで距離まで近づいて該当機かどうか確かめ西部航空方面隊司令部へ情報を共有せよ。国際不明機の座標は既にアップロードしてある』

従来の戦闘機なら目視できる距離まで近づいてどういう機体か確認しなければならないが、F-35Aは90㎞まで探知できるEO-TSを使うことで接近する必要はなくなり、得た情報を即座に地上部隊等に共有できる優れた眼である。

 

 鴻野3等空佐は野球見好きということもあって元ベイスターズに所属していた同じ苗字の選手がいたことからTACネームが″ベイスター″に決められた。

さらに彼は高校まで地元石川県にある野球強豪校の球児でレギュラーを張っていたことから動体視力や空間把握能力に優れており、第303飛行隊からF35のパイロットに抜擢された。

 

そして上道3等空佐は最初苗字からTACネームをカミにしようと上司は思ってたそうだが、流石に畏れ多いので第306飛行隊に所属していたという理由で″アクィラ″なったそうだ。

彼の操縦能力は隊の中でもピカイチでまるで自分の手足のように機体を操ることから、TACネームとは別に付いた異名は『鷲王 アクィラ』と某グルメ漫画の八王みたいに呼ばれているらしい。

次期飛行隊長にと推薦する声も多いが、彼の欠点としては天才肌で感覚で教えたりするためかそういうのはあまり上手くない。

そのため飛行教導隊(アグレッサー)には惜しくも落選したが技量は申し分ないことからF35のパイロットに抜擢された経緯がある。

二人が『了解』、と短く返答し電子攻撃のため空域を8の字で飛行していたのを止めB-29がいた座標へ機首を向けていく。

 

 

 西部航空警戒管制団第13警戒隊とE-2D、F-35から得られた情報はすぐに西部航空方面隊司令部から各総監部に送られ、甑島列島の件を後回しにし緊急度が高い国際不明機の件ですぐにリモート会議が始められた。

「国籍不明機がB-29と仮定して、爆撃予想コースは?」

関川陸将も表面上は落ち着いた様子で問うも、内心は穏やかではない。

「九州の主要都市や重要施設と予想されます」

モニターに映し出されたカラー地図には台風が襲来するような予報円があり、九州がまるまる円の中に入っている。

また下関や四国の一部も入っており広範囲に及んでいることは見て取れた。

更に速度と距離から一番近い川内駐屯地や鹿屋基地、高畑山分屯基地は空爆予想時刻がおよそ1時間後と分かり、西部方面総監部では蜂の巣をつついたような騒ぎとなっている。

その様子を見た稲田参謀長は横山中将に耳打ちをする。

(横山中将、第2総軍の司令部に行くのは一旦止めましょう。それとすぐ空襲警報を発令しなくては)

「そうだな。関川陸将、一旦広島に行くのは中止にするのと、空襲警報発令をするためここの無線を借りてもよろしいか?」

関川陸将が頷くと、横山中将は無線を借り16方面軍司令部に向けて通信を始める。

通信を終えた直後、空襲警報のサイレンがあちこち聞こえてきた。

動画サイトや平和記念館とかで聞いたことがある隊員が多かったが、生で聞くとより一層の恐怖感が湧いてくる。

 

 

 古間空将は腕時計に目をやると現時刻は4時45分を指していた。

「古間空将、まずスクランブルを上げ対領空侵犯措置に基づいて対応しつつ防衛出動命令を発令します。残っている機体に空対空誘導弾(AAM)を装着し、新田原基地から撤退中のF-15Jと深災対の航空機も向かわせ上空にて待機させましょう。築城のある機体は全て上げるとなるとどれくらいの時間がかかりますか?」

西部航空方面隊の幕僚長である赤原1等空佐の問いに、築城基地の司令官である貝津空将補は力強く答える。

「1時間以内には全て上げれます」

日ごろから某国相手に年間700回以上もスクランブル発進しており、更に緊急武力対処の訓練も抜き打ちで行われているため練度は高く保たれている。

「しかし従来通りに対領空侵犯措置に基づいて対応した場合、目視できる距離まで近づくのは流石に危なくないか?」

その理由は2022年なら侵犯してくる敵機は警告に従ってくれるのも多いが、ここは1945年である。

つまりジェット戦闘機だろうが旧日本軍の新型機と見なされ問答無用で射撃してくる可能性は十二分に考えられるからだ。

古間空将の心配事は最もであるが、赤原1等空佐は問題ないだろうと自信を持っていた。

「国籍不明機がスクランブル機に向けて射撃した時点で正当防衛として機銃で撃ち落しても大丈夫でしょう」

「ですが数が多すぎるので弾切れになります。空対空誘導弾を使わなければ厳しいので武力行使命令は発令したほうがいいかと思われますが……」

西部航空方面隊副司令官の尾長空将補が問うと、赤原1等空佐は首を横に振る。

「我々の警告を継続して無視し大隅諸島の領空に接近した時点で武力行使命令を発令し、空対空誘導弾の使用を許可したいところですが、古間空将それでよろしいでしょうか」

「うむ、そうしてくれ。できれば今は空対空誘導弾は使用したくないが……向こうが警告に従ってくれることを祈ろう」

ミサイルの使用は77年という技術差がありすぎるため、向こうは何をされたのか分からないまま撃墜されるだろう。

もはやそれはワンサイドゲームになると古間空将は危惧していた。

 

 「第305飛行隊の1個飛行隊20機、第8航空団の2個飛行隊42機、第302飛行隊の12機をすべて上げるとなると計74機か……どこに振り分けます?」

尾長空将補の問いに防衛部長の別山1等空佐が脳内フル回転して提案する。

防衛課の役割は防衛の実施計画や部隊の編制及び配置、航空機の運用などを司っている。

「陸自の03式中距離地対空誘導弾(中SAM)が、佐世保には護衛艦が配置することを踏まえるとまず甑島列島上空がベストですが、吹上浜に居座っている敵艦隊がサーチライトを使っている情報がありましたので甑島列島上空と宇治群島の中間地点、男女群島、それと大分・宮崎方面に穴が空くので延岡市上空辺りにも」

それを基にデジタル地図にそれぞれのミサイルの射程が円で表される。

すると出来上がったのは九州をすっぽりと覆う鉄壁の盾であった。

隙のない防空網に横山中将らは鳥1羽も入る隙がないなと驚愕し部下たちとざわめきだす。

「都城市はわずかに届かないですね。そこにも戦闘機を配備するのはどうでしょう」

赤原幕僚長は彼の案を修正し、第305飛行隊と第302飛行隊のF-35Aの2機を新田原に近い延岡市と都城を警戒。

第8航空団と2機のF-35Aを甑島列島上空と宇治群島の中間地点、男女群島に配備することにした。

「更に警戒機と空中給油機及びそれらの護衛機は九州から一時的に撤退したほうがよろしいかと」

「では山口県にある見島はどうでしょうか」と赤原幕僚長のアイデアに尾長空将補が提案すると横山中将が待ったをかけた。

「失礼、見島には第35航空情報隊の基地で電波警戒機甲がある。もしかしたらそなたの機体が探知されるかもしれん」

「そうでしたか……そもそもそれはどういった電探なのですか」

古間空将の質問に横山中将は幹部達を見渡すが流石に電波警戒機の仕組みやスペックを知るものはその場にいる者はいなく、第16方面軍に待機している人に問い合わせると最大で350kmくらいなら探知できると分かった。

そして電波警戒機甲というのは適切な距離に送信所と受信所を配置し警戒線を築き、飛行機が両方の場所を通過もしくは接近する際に生じる音を感知する線警戒方式のレーダー、ということが分かった。

その警戒線は和久、沖ノ島、対馬の比田勝の受信所と線を繋いでおり、近くにある高山岬は防府の受信所と警戒線を繋いでいた。

また電波警戒機乙というものもあり、対馬では比田勝と豆酘に設置しており主に韓国方面を警戒していた。

その範囲外を飛行したいが計算すると、どこを通っても防空網に引っかかることが判明する。

「うーむ、なら自衛隊の防空網の範囲ギリギリを飛ばしたいな」

古間空将が愚痴をこぼすと、すぐに部下が計算し提案する。

「となると周防灘や宗像市大島の上空がベストかと。築城と芦屋に配備してあるPAC-3パトリオットの守備範囲です」

「ふむ、ならこうしましょう。大村湾を飛行中のタンカー(空中給油機)と護衛機を大島上空へ。飯塚駐屯地上空を飛行しているE-2Dと護衛機を周防灘へ分散し向かわせるのはいかがでしょうか」

古間空将は赤原幕僚長のアイデアを採用し、タンカーとAEW(早期警戒機)へ命令を下達すると、佐世保鎮守府にいる鵠提督は地図を見ながら悩んでいた。

『深災対はどこに行けばいいかな……』

「そちらに敵味方識別装置(IFF)は……?」

古間空将が尋ねるが鵠提督は首を横に振って否定する。

「となると同士討ちしてしまうリスクが高いため、後方待機が妥当かと思われます。津多羅島と下須島辺りならちょうどいいかと」

『なるほど。杉山中将、帝国陸海軍の航空機もそこに待機するのはどうですか?』

「それはありがたい。しかし甑島列島は5日前に連合国軍の手に落ちてしまったのだ。そこに向かうのは危ないと思うのだが大丈夫なのか」

「杉山中将殿、ご心配なく。F-35なら電子妨害だけでなくそもそも機体が電探に映らないので大丈夫ですよ」と古間空将は自信たっぷりと言うのだからもう今日だけで何度驚いたのか分からず、杉山中将達は数えるのを止める。

議事録をとっている部下もどこまで信用して書けばいいのか迷ったが、とりあえず全部書き留めておいた。

 

 すると偵察しているF-35Aから新たな情報が入ってきた。

その内容とは空母ヨークタウンとイントレピッド、エセックスから離陸した航空機があり、数は3個フライト(小隊)ということだった。

「ふむ、目的は不明だが国籍不明機に向かうとすれば作戦中止を伝えるのか、九州まで誘導するのかどっちかだな……」

古間空将が連合国軍の意図を考えると赤原幕僚長が名案を思いついたようで声を上げる。

「ならこうするのはどうですか? F-35Aがその航空機に成り済まして通信に割って入って国籍不明機へ作戦中止を伝えるのはどうでしょうか」

「えふさんじゅうご、とやらはそんなこともできるのですか!?」

石井参謀が驚きの声を上げる。

電探に映らないどころかスパイみたいなことをできるなんて常識からかけ離れており、冗談もいいところであった。

「確か無線を分析できるシステムが組み込まれていますので、使われている周波数が分かればできますよ」

古間空将はさらっと言うのだから杉山中将達は顔を見合わせて絶句した。

F-35にはASQ-239バラクーダシステムと呼ばれているのが機体に10個埋め込まれており、全周囲の電波を監視できるだけでなく無線諜報(SIGINT)も出来るのだ。

「なるほど良い案だな。しかしどこの基地に引き返してもらおうか?」

「やはり沖縄諸島か硫黄島……ですかねぇ」

するとここぞとばかりに稲田参謀長が口を出す。難しい話ばかりしていて出る幕がなかったものだから生き生きと教える。

「沖縄本島は占領される前なら陸軍の飛行場は5つ、海軍は1つあった。そして百式司偵による偵察と残存兵力の勇敢な偵察の結果、少なく見積もっても大小を含め20~30前後はあると分かった。また宮古島や石垣島にも各3つほどの飛行場があったがどこも米軍が使っておる」

「なるほど。仮に各基地に20〜30機が着陸しても大丈夫そうですね。しかし敵艦隊と通信ができない以上、国籍不明機は現場判断になるでしょう。敵艦隊と通信させるためほんの少し妨害の出力を弱めますか?」

副司令官の尾長空将補は袋津1等陸佐の案を採用することで国籍不明機を思い留まらせようと提案する。

それに対し赤原幕僚長は何かを思案している様子だった。

「いや、それだと脅威を早めに潰しておこうとなり今は逆効果になると思う。部隊はまだ撤退中であり危険を晒すわけにはいかない」と賛意を示さなかったが、撤退がすべて完了し体制を整えてから連合国軍と交渉する余地はあるだろう、と付け加えた。

「よって妨害の出力はそのまま。そして敵空母から発艦した航空機の後を追い周波数などの情報を集め、国籍不明機に向けて″艦隊が原因不明の電子妨害に陥っているためしばらくの間行動不能である。直ちに作戦を中止し基地へ引き返せ″等と伝えるのは……いやまて、そもそもF-35の通信能力で向こうに届くのか? 無線の出力が異なるはずだ」

「そうだ、そのことうっかり忘れていた。だれかB-29の通信機類のスペックが分かるものはいるか?」

古間空将が辺りをぐるりと見まわすがさすがにそこまで知っているのは皆無だった。

すると横山中将が何か思い出したように語る。

「そういや1年前の11月にB-29の編隊60機前後が長崎県の大村地区を空襲した。このとき撃墜されたとある1機は火を吹かずに有明海に墜ちた。ばらばらになった機体は我々が回収し海軍の大村航空廠に運びこまれたあと、陸軍多摩研究所霞分室で調査していたな」

初めて聞く名だったのでどういうものなのか尋ねると、多摩研究所とは1943年6月に各陸軍研究所と電波兵器研究部門を統合し新設されたばかりの研究所であり主に電波兵器の調査研究などを行う機関、ということが分かった。

「ではそこに問い合わせれば……」

「だが多摩といっても小金井町と小平町にまたがっていたため、集めたデータや通信機類、B-29の機体は東京を襲った大空襲とクーデターによる混乱で殆ど失ってしまったそうだ……」

横山中将は肩をがくりと落とし首を横に振る。

結局深災対の米戦闘機を向かわせ呼びかけることになった。

 

 

 佐世保地方総監部では懸念事項で上がった佐世保港が空爆される可能性が高まったことでどう対処するか話し合う。

護衛艦は佐世保港にメザシ係留しているし、機雷のせいで湾外まで行けない。

砲弾や艦対空ミサイルはたっぷりあるが、メザシ係留となると誤射の危険性もあるので撃てない。

せめて外側艦だけでも係留を解いて動かしたかった。

「外側艦の艦長は誰か?」

三面海将が艦長たちに尋ねるとーこんごう、ちょうかい、はるさめ、さわぎりーが手を挙げた。

イージスシステムを搭載しSM-2(RIM-66M-5)を装備している護衛艦が外側にいたのは不幸中の幸いだった。

欲を言えば、SM-6を搭載している“はぐろ”も居たら良かったが彼女は弾道ミサイル防衛機能確認試験のためハワイ沖から帰ってきたばかりであり、第2ドックで羽を休めている。

ちなみに“あしがら”は両側が護衛艦で挟まれていたので移動できなかった。

SM-2が尽きたら主砲でやるしかないが、それも尽きたら最悪SM-3を撃つ予定だ。

運動エネルギーによって弾道ミサイルを迎撃するので航空機相手にはコスパが悪いがやむを得ない。

「へローキャスティングによる掃海は国籍不明機が襲来しているのと護衛艦の艦対空ミサイルによる誤爆を防ぐため、一旦中止します」

第111航空隊司令の白瀬1等海佐は残念そうに言うが、他の艦長達もそればかりは仕方ないと頷く。

味方への誤射なんて絶対にあってはならないからだ。

「仕方あるまい。今はできることをやろう」

三面海将は佐世保港に敷かれた機雷の地図を見ると、港から一番近いのは佐世保港エイノ鼻灯浮標から佐世保港本船沖灯浮標付近の″は海域″であった。

防空任務に就く護衛艦に反応して触雷してしまうことは避けたいため、まずはここだけやっておきたいのは理由がある

なぜなら護衛艦は掃海艇より大きく木材や繊維強化プラスチック(FRP)でできていないので、磁気がかなりある。

そのため感応式の機雷が護衛艦にふらふらと接近して触雷し大破、掃海員たちも巻き込まれるという最悪の事態もあり得る。

「そのためこんごうとちょうかいは機雷源から0.5海里(926m)離れたところで、はるさめとさわぎりはその後方に配置するのはどうでしょうか?」

参謀長の南魚海将補のアイデアに鵠提督は複縦陣にするのかと問う。

「はい。湾内はあまり広くないですし、縦や横に広がるよりもいいかと」

「よし、ならそうしよう。掃海の許可は佐世保警と市役所からはすぐ許可が取れたのですか?」

三面海将が杉山中将に問うと彼は頷く。

そこからは二つ返事で許可が出たが県庁と警察からは出ていないと分かり、杉山中将のこめかみに血管が浮かび上がる。

「立山防空壕からはまだ報告は上がっていないのか……おい、進展はどうなっておるのだ?」と杉山中将はやや怒気を含めた声で参謀達に問い詰める。

「立山防空壕……移転したのですか?」

「うむ。度重なる空襲で建物が焼けたから機能を防空壕に移転したのだ。まぁ、空襲警報も発令され市民も避難するだろうから許可がでなくても大丈夫ではないか? この時間に及んで防空壕に避難せず掃海を見学する輩はいないだろうし、居たらよっぽどの命知らずか自殺願望者だと思うがね」

杉山中将の過激な発言に耳を疑うが、確かに市民が避難するこのチャンスを逃したくはない。

すると参謀たちが杉山中将に耳打ちした内容を三面海将に伝える。

今しがた許可が下りたそうでこれでやっと動けることになった。

「さて、″は海域″には10個ほどの機雷があるそうですが掃海するのにどれくらいの時間がかかりますか?」

三面海将の問いに水中処分隊隊長の稲鯨3等海佐がはっきりと答えていく。

「まず我々(水中処分員)と潜水艦娘と共に超音波を使って機雷を映像化できるゴーグルとハンドソーナーを使ってより詳細に機雷を確認いたします。事前に場所は分かっているので1時間もあれば″は海域″の機雷をより詳細に確認できるでしょう。問題は感応方式がどれかで掃海の仕方が異なります。″は海域″でも数日はかかることは覚悟していただきたい。なので意見具申として、今後ある程度人里から離れた機雷源では時間短縮のために対潜爆弾を用いた掃討を行いたい」

(ほぅ、対潜爆弾を用いた掃討とは面白いな)

(うむ。東海と大洋、南海の哨戒機で機雷源に向け爆弾を投下するくらいなら練度の低い新兵でも出来るだろう)と杉山中将と石井参謀長はひそひそと話す。

 

 実は海自は67式150㎏対潜爆弾を持っており、潜水艦への攻撃・威嚇だけでなく不審船への警告としてP-3Cを用いて投下した事例もある。

航空爆雷は故障しにくく安いが欠点があり、爆発の衝撃で魚が気絶してしまい漁場が荒れてしまうことだ。

実際に深災対では秋ごろに秋刀魚を集める任務をするが、初期の頃誤って爆雷を使ってしまいその海域の秋刀魚が暫くドロップしないどころか他の魚も獲れず漁業協同組合からお叱りを受けたことがあったので、鵠提督はそのことを指摘する。

「確かにその通りです。佐世保に漁業の組合はありますか?」

「それなら佐世保漁業会と長崎県水産業会ですかな。で、また許可とりですか? そんなことをしなくても漁業会と水産業会は国家統制下に置かれているので、我々や上が命令すればお国のためだと喜んで協力してくれますよ」

いちいち許可とりせずにすぐやれば掃討のスピードは上がり帝国海軍と海自と艦娘の活動は容易になるのに、と三面海将の許可取りに杉山中将は呆れて多少イラっとした態度を示す。

しかし海自側はちゃんと出向いてしっかりと説明しないと後々わだかまりが生まれることは過去の経験則から分かっていた。

後から魚が獲れなくなったのはお前たちのせいだとやいのやいのと抗議され補償を求められたら難しいからだ。

また通貨の価値や様式が現代とは異なるので、自衛隊側が補償しても偽札だと騒がれもっと面倒なことになるのは明白である。

それを防ぐためにも事前にしっかりと交渉しあらかじめ了解を取らねばならない、と三面海将が反論すると杉山中将達は理論的な意見にいけ好かない表情を見せる。

しかしそれを論破できるだけの案がなく、しぶしぶであるが海自の意見を認めざるを得なかった。

 

 

 癪に障った杉山中将はここに数名の部下を残し、自分たちでも情報を集めようと防空指揮所へ一旦戻る道中、参謀長達と愚痴を言い合っていた。

「ちっ、自衛隊とやらはどうもやりにくい相手だ」

「全くです。一丁前に反論しおって……あれでも軍人なのか疑わしい」

杉山中将の不満に石井参謀長も同意する。

二人ともイライラしているので軍用タバコを吸いたかったがあれは貴重品だ。

最後の一服は突撃攻撃する前と決めていたので懐から取り出そうとするのを止めた。

「未来から来たからという理由で我々を牛耳ろうと思い上がっているのではないか? もし奴らが暴走したらいかがいたしましょうか?」

大江参謀副長も海自の言動が気に食わなかったようで他の参謀達に意見を伺う。

「そうだな……海自の司令部を乗っ取るのもいいかもしれん。そして二度とあんな舐めた真似はしないように徹底的に再教育して駒として扱おう。あの兵器を我が物にできれば心強いだろう」と石井参謀長は不敵な笑みを浮かべるが、杉山中将には1つ懸念点があったようだ。

「問題は艦娘達だ。数刻前に提督と共に直接会ったがあれと正面から戦うのはごめん葬りたい」

「確かにあの殺気といい佇まいといい歴戦を潜り抜けた強者でしたな……」

石井参謀長も防空指揮所のラウンジで拳銃が抜刀でバラバラになったり悪魔のような幻覚を見せられたのを思い出したようでブルッと震える。

「彼女らも海自の考えに近いようですしどうやってこちらに取り込むか、ですね」

大江参謀副長も難しい顔を浮かべ考え込むと、石井参謀長が何かを思い出したように口を開く。

「提督を人質に取る手もありますし、陸軍には中央が降伏しても独立して戦う派閥があったはずだ。筆頭者は確か町田敬二大佐といったかな。あそこと協力するのもいいかもしれんぞ」

「確か彼は報道部長であったな。やや消極的な言動が見られる横山中将よりはよっぽど愛国心があるから近いうちに彼とそれに賛同する者と接触するのも悪くないだろう」と杉山中将がそんなことを話している内に防空指揮所の扉にたどり着く。

守衛はビシッと敬礼し厳重そうな扉を開けていくと、特に身体検査もなく顔パスで入っていく。

階段を下っていくと突然空襲警報が発令されたからか喧喧囂囂とした雰囲気であり、部下の1人が気づいて報告する。

「杉山中将殿、大瀬崎と野母崎の電探探信所もまだなにも探知しておりません」

確かに地図盤を見ても埋め込まれた電灯は点灯していない。

最南端にある女島や釣掛崎はすでに米軍に占領されてしまったので、電探探信所は最西端の大瀬崎と野母崎に頼っているのが現状である。

「九州の各基地等から電話で問い合わせが殺到しています。向こうの誤報ではないのですか?」

「いや、私はこの目でしっかりと見た。諸君、間違いなくB-29が1時間後に九州に来るぞ! 直ちに各師団の高射部隊を動かし、基地の特攻機は隠しておけ。なお、海軍の航空機は津多羅島と下須島辺りまで飛ばし上空警戒をせよ」

杉山中将は自信たっぷりと断言すると、部下たちもただ事ではないと感じ各師団に向けて指示を出していく。

「しかし電探探信所にある電探有効距離は確か100〜300㎞でしたな。80年近い技術の進歩とは凄まじい」

「うむ。悔しいがあいつらはとんでもない電探と探知能力を持っていることになる。防空指揮所をあそこに移転、いや分捕ってしまえばB-29の動向は丸裸で向かう敵なしだ」

いつか奴らを手中に収めアジアに居座っている鬼畜米英共を蹴散らし大東亜共栄圏を復活しようと杉山中将達は目論んでいた。

 

 空襲警報が発令される少し前、川内市に配備されている沿岸配備師団第303師団長の石田栄熊(いしだ えいぐま)中将と参謀長の野副昌徳(のぞえ まさより)少将と副参謀長の石松中佐は地下に掘られた司令部で作戦を練っていた時に、扉がノックされた。

入れ、と石田中将が促すと部下がなぜか困惑した表情を浮かべながら報告する。

「失礼いたします。沖合に留まっている米艦隊に奇妙なことが起こっています」

「奇妙なことだと?」

「はい、どういうわけか何かを探しているかのように探照灯を使っています」

考えられるのは1つ、どこかの部隊が特攻を仕掛けたのか。

しかしそんな命令は上から来ていない。

見てもらったほうが早いかと言われ地下を出ると部下たちが沖合を見て何やら騒いでいたが、彼らに気づくと一斉に敬礼をする。

部下たちが沖合を指さすと、確かに探照灯の光柱が幾つもあるのが確認できた。

「一体いつからこうなっている?」

「ほんの数分前からです」

首にかけられた双眼鏡を覗くと、海上も空もそれらしき特攻隊は見えない。

となると海中だろうか。

回天か海龍で特攻しているのだろうかと思ったが、吹上浜周辺には回天と海龍の基地はなく、あるのは震洋の基地だ。

あれは鹿児島湾を中心に隠されているが、それだけでは撃破される確率は高い。

連合国軍の艦艇に包囲されているこの海域で特殊潜航艇がもし海中に潜んでいるのなら、よっぽど対潜哨戒がザルだったか、あるいはとんでもない強運の持ち主かだろう。

「海坊主でも出たんじゃないですかね」と誰かが冗談で言う。

「案外″ガラッパ″かもしれんぞ」

鹿児島生まれの石田中将が真面目な顔でいうので佐賀県出身の野副少将は思わず聞き返した。

先ほどの海坊主とかならまだ知っているが、ガラッパは初めて聞くしどんな妖怪なのか想像がつかない。

「古くから伝わる妖怪で河童みたいな妖怪で川内川に住んでいると昔から言い伝えられている。実際に子供のころみたことあるぞ」と嘘か本当か分からないことを言う。

それは動物と見間違えたんじゃないかとか、そもそも川にいるのに海に出て大丈夫なのかなと心の中で思ったが、上官なので口に出すのは止めておいた。

妖怪という類は信じていない野副少将であるが、本当に妖怪が出たのならあの鬼畜米英共を屠ってほしいと思った矢先、石田中将のもとにとある伝言が届けられるのと同時に何度も鳴り響いた不協和音のサイレンが辺りを包み込む。

彼らはすぐ悟った。

東京だけでなく各都市を爆撃で焼き尽くした忌々しい悪魔が来ると。

「よく聞け! 自衛隊と名乗る例の奴らがB-29を探知したらしい。しかもかなりの数で九州の各都市に向かってきているそうだ! 高射砲と対空機銃をすぐ撃てるようにし、それ以外の部隊は地下壕に退避し来たるべき地上決戦に備えよ! なお対空用の照空灯を点灯するのは厳禁とする!」

石田中将は空襲警報のサイレンに負けないよう怒鳴り声で部隊に命令を出すと、訓練された動きで配置についていく。

照空灯をつけない理由は、沖合にいる艦艇から位置がバレるのを防ぐためであった。

付けたらここにいますよと自ら教えるようなものであり、戦艦の砲撃が間違いなくすっ飛んでくるだろう。

八幡や佐世保などの重要な場所は十四式十糎高角砲や比較的最新鋭の高射砲である三式十二糎高射砲等が配備されているが、こういったところの最前線はとりあえず数を揃えたかったのか八八式七糎半高射砲と九九式八糎高射砲を主力として配備している。

塹壕に隠してあったり植栽で覆っていたもののいくつかは度重なる空爆で破壊されたが、それでも運よく生き残った数少ない高射砲と対空機銃を動かしていく。

今度こそ絶対に撃ち落してやると鼻息を荒くする者、緊張で顔が真っ青な者、家族の写真をもう一度眺める者等と三者三様の反応を見せていた。

 

 




もう少しで夏イベはじまりますね。突破できるよう頑張るのだ

※25年8/6改訂
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