異聞!決号作戦   作:シン・アルビレオ

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15話 電子戦の鍔迫り合い

 鴻野3等空佐と上道3等空佐が操縦するF-35Aが深災対のサラトガから発艦された米戦闘機と合流した。

「あれが深災対のF6Nか。空を飛んでるところを生で見るのは初めてだ」

「鵠提督さんの言う通り、パイロットが見えませんね。まるで無人戦闘機ですよ」

合流する前に鵠提督から無線で説明があり、妖精とよばれるパイロットが存在しておりこれを視認できるのは提督と艦娘だけらしく、一般人は見えないそうだ。

オカルト話の類いかと真に受けていなかったが、実際に目をすると本当にパイロットは見えないので不気味に感じる。

だが無線機は現代仕様に改修しており通信によるやり取りは問題なくできそうなのは朗報だった。

『こちらサラトガ航空隊第6戦闘飛行隊の妖精パイロットよ。以後よろしく頼むわ』

聞こえてきた無線が滑らかな日本語、しかも女性の声だったので彼らは少し驚いてしまう。

「えっ……女性パイロットなのか?」

『そうよ。私たちだけでなく全ての妖精さんは女性ね』

自衛隊内の女性割合は10%を切るので、ほぼ100%というのは世界各国を見回してもないだろう。

『で、私たちは国籍不明機、まぁおおかたB-29でしょう。無線で呼びかけてほしいのね』

「あぁ、すでに国籍不明機はB-29とP-51と判明している。敵空母から飛来した12機(3個小隊)の航空機はF6N-5F。奇しくも同じ機体だからあまり怪しまれないだろう」

無線諜報(シギント)で敵機の周波数も判明しました。またF6N-5Fの指揮機はオルセン中佐、マーテル中佐、ザーン中佐などです」

『了解、さっそくやってみるわ。皆、準備はいい?』

『Wilco』

妖精さん達は抜かりなく周波数を1945年仕様に変換しただけでなく声も変えて英語で呼びかける。

『こちら第38任務部隊のオルセン中佐だ。ハルゼー大将より伝言がある。すべての艦隊が無線及びレーダーが使えなくなっている。しばらくの間各部隊は原因探求のため行動ができない。そのため直ちに作戦を中止し基地へ引き返せ』

『こちらはマーテル中佐である……』

 

 

 無線手のポールター2等軍曹は無線が入ったのを確認すると、聞き洩らしが一切ないよう集中しメモを書き上げ報告する。

「ウェスト大尉、第37任務部隊から無線が入りました」

「読み上げてくれ」

「はっ」

一言一句間違いないよう読み上げると、ウェスト大尉は艦隊と通信が取れないのか確かめるために他の機体も呼びかけろと命じるが、結果は全機とも同じ結果であった。

無線が使えなくなった場合モールス符号の出番なのだが、米軍は恐るべし更新速度でモールス符号から無線へと合理化を進めておりもはや倉庫の奥の置物と化している。

無線のおかげで憎きゼロファイターを連携と戦術で蹂躙したケースが増えたため、そう流れるのも無理はない。

ウェスト大尉たちはどうするべきか部下に問う。

 

 まず副操縦士のトム・シェイ中尉は「味方との連携ができない以上、命令通り中止して引き返すべき」と理由を述べる。

「私は続行したほうがいいかと。ですが連合国軍が上陸する鹿児島、宮崎のみ爆撃を中止するのは?」

航測兼爆撃士の一人であるコルカー少尉が提案するもトム・シェイ中尉はすぐ反論する。

「しかし、ハルゼー大将は作戦を中止しろと言っている。命令違反になるぞ」

「一度沖縄の司令部にもかけあおう」

ウェスト大尉から司令部と連絡をとると、そこも艦隊と通信がとれなくなり急遽対応に追われているそうだ。

「うーむ……一体何が起こっているんだ。おい、一番近い鹿児島まであと何分だ?」

もう一人の航測兼爆撃士のバーンズ少尉は現在地から即座に計算するとおよそ1時間後と返答する。

「司令部へ。あと30分で結論がでるか?」

返ってきた返答は善処します、とか弱い声が返ってくる。

「よし、一先ず整理しよう。南九州と高知沖にいるすべての艦隊が通信不能とかなりの広範囲で影響が出ているんだな」

「そのため福岡方面および長崎方面から侵入するのはどうでしょう?」

「いや、あそこは三〇二航と大村飛行場があったはずだ。ジャップがそれを読み上空で戦闘機が待機していれば厄介であるし、高射部隊も連動していれば撃ち落とされる数は大きくなる」と大尉はコルカー少尉の案を却下する。

「とりあえず周辺にジャップの戦闘機がいるか索敵をしますか?」

レーダー係のヴァン2等軍曹の申し出に大尉はこくりと頷く。

このB-29は対レーダー測定用で逆探知用受信機を搭載しているため、ジャップが使用しているレーダー機種を特定したり音声通信を探知もできる機体だ。

索敵を開始すると、ヴァン2等軍曹はF6Nが飛んでいるのを波形によって確認できた。

ただ、彼たちは気づけなかった。

なぜなら反射波が返ってこないためレーダー上にはF-35は映らなかったのだから。

 

 

 鴻野3等空佐はF-35に搭載されているASQ-239 バラクーダによってB-29から逆探知されていることがすぐに分かった。

まさかそのようなシステムをB-29がすでに開発している事実に驚く。

さすがだなと感心していたがその感情をすぐに頭の隅に置き、逆探知されているのと電子攻撃の許可を司令部へ乞う。

今敵に共有されるとまずいと上も判断したため許可が下るとすぐに電子攻撃を仕掛ける。

これで逆探知だけでなく無線でのやり取りもできなくなるだろう。

(さて、向こうはどうでる?)

2機のF-35Aは動向を静かに見守りながら監視を続けていく。

「レ……レーダー画面が真っ白です! 故障……いやこれは妨害?!」

レーダ係のヴァン2等軍曹が叫ぶと同時に無線手のポールター2等軍曹も喚く。

「同じく無線も使えなくなりました!!」

機内は阿鼻叫喚と化していた。

チャフは撒くのかどうかという問いにウェスト大尉は首を横に振る。

ここで撒いたら後続の機体のエンジンに吸い込んでしまう恐れがあるためだ。

ならばと妨害電波を放射したが、すぐに効かなくなる。

実はF-35Aの電子防護(EP)によりB-29の妨害電波は解析され瞬く間に無力化されたのだが、レーダー員は原因が分からず困惑するばかりであった。

ウェスト大尉は冷静を装っていたが、ジャップはどんな兵器を開発したのかと想像しただけで戦慄してくる。

少なくとも極めて短時間で妨害電波を無力化できるのは我が国だけでなくレーダーの研究と開発が進んでいた2国、イギリス帝国やジャップの同盟国であったドイツ国でも無理なのではと思っている。

「復旧はできるか?」

「ダメです。うんともすんとも言いません。完全にイカれてしまいました。夜間なのでハンドサインによるやり取りは難しいですよね……あ、フラッシュライトでモールス信号を使うのは?」

ポールター2等軍曹の提案は素晴らしかったが機内にはペンライトしかないため、次からフラッシュライトとモールス通信機を全機に装備するよう上に提言することにした。

「大尉、命令通り撤退しましょう。レーダーを失っているだけでなく無線まで使えなくなったのはまずいです」

ヴァン2等軍曹の意見はもっともだが、撤退するにしても重大な懸念事項があることをトム・シェイ中尉が指摘する。

戻って着陸するにしてもフル装備では重量の関係でオーバーランしてしまう可能性がある。

滑走路が使用不可になるだけでなく周辺にも重大な被害が出てしまう。

つまり爆弾を海に捨てるか、命令違反し爆撃してから戻るかの二択しかない。

「いや、わざわざ日本本土に落とさなくてもいい。それなら命令違反じゃない」

乗組員たちは疑問に思うが、ウェスト大尉はニヤリとしている。

「余裕のあるやつは大陸と半島に寄り道しろとな。その前に現在地を確認せねば。どこかにA8-A航空用六分儀があるはずだ」

 

 F-35Aからの報告によりB-29が電波類を逆探知できるなんて現代人でもよほどのマニアしか知らず、自衛隊内でも知っていたのはごくわずかであった。

しかし旧日本軍の幹部たちは知っている様子だった。

聞けば1944年11月22日に長崎県大村地区をB-29が空爆したが、1機が戦闘機によって撃墜し有明海へ堕ちたため引き上げて調べた。

レーダー類は多摩にある研究所に運ばれ陸海軍合同で調査にあたった。

その結果B-29の警戒レーダーとして広く使われていた超短波警戒機乙だけでなく様々な警戒機を更新しなければならない事態に陥る。

だがシーレーンの封鎖と空爆によって生産ラインが滅茶苦茶になってしまい、だましだましで使い続けるしかなかった。

「なるほど、我々が使用するレーダーや無線の周波数が解析されるのも時間の問題だな」

「脅威度は敵空母に続いて最高レベルになるか。早急に対策を練らないと」

西部方面システム通信群長の袋津1等陸佐と第8情報隊の石山1等陸尉は意見を交わしあう。

「ところでB-29の進路はどうか?」

古間空将は西部航空警戒管制団に問い合わせると第43警戒隊のJ/FPS-3改と早期警戒管制機、F-35Aによってすぐにはじき出された。

若干速度を落として旋回を始めていると。

やっと退いてくれるのかの安堵したのもつかの間、西部航空警戒管制団は朝鮮半島と中国大陸の二手に分かれる可能性が高いと判断しAIも用いて再度計算すると台風の進路予測と同じ映像がディスプレイに浮かび上がる。

円内には桂林基地と柳州基地、そして南京がぽっかりと入りその確率は70%以上だ。

作戦指揮所の空気が引き締まり誰もが動向を注視していた。

(まさかな……)

誰もがいやな予感がしてきたので、古間空将はF-35Aに対して一旦電子攻撃を止めて無線諜報するよう命令する。

数十分後、予報円通り大陸にある日本軍の基地を爆撃することが判明し旧日本軍の幹部たちは蜂の巣をつついた騒ぎになる。

「くそっ、漢口大空襲の再来か……!」

横山中将がうなり声をあげる。

1944年12月から今月まで空襲が何十回かあり戦闘機やパイロットもだいぶ失ってしまった。

だがなにもしないわけにはいかない。

稲田参謀長はなんとかかき集めて再編した第5航空群と上空待機していた第6航空群の振武隊に、そして自衛隊と深災対に撃墜命令を出すべきと横山中将に提案する。

 

 それを聞いていた古間空将と三面海将はここで武力介入するか迷った。

迷っている理由は中華民国(国府)の領空で戦闘になれば法律の観点からみると縛りが多いのだ。

ここで空爆を許してしまえば大陸からB-29がやってくるだろう。

そうなれば“日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険”があるので排除はできそうだがこの日本と中華民国とは密接な関係のある同盟国ではないし、そもそも政府と同盟どころか話し合いすらまだできていない。

転移してからまだ数時間しか経っていないのだ

では領空外から空対空・艦対空ミサイルで撃ち落とすのはどうだろうか。

自衛隊法や正当防衛の観点からみても難しいと言わざるを得ない。

防衛出動待機命令が出ているとはいえ“第95条 自衛隊の武器等の防護のための武器の使用”は使えないからだ。

もし佐世保市等にB-29が襲来するなら第95条は適用できるが、大陸には旧日本軍の基地しかなく自衛隊の武器等は存在していない。

 

 では“重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律”で後方支援するのはどうかという意見も出る。

第1条には“合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより、日米安保の効果的な運用~”と書いてある。

ここで合衆国軍隊等とは第3条1の定義にあるとおり“日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行うアメリカ合衆国の軍隊及びその他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織”となっている。

この時代のアメリカとは敵国なので“日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行うアメリカ合衆国の軍隊”には該当しない。

旧日本軍を“その他これに類する組織”と無理やり解釈するとしても、“その他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動"を行ってはいないといえるので重要影響事態は適用できない。

 

 それにF-35Aや早期警戒管制機は旧空軍と直接無線のやり取りをするのは難しい。

そもそも出力が異なるので下手すれば旧日本空軍機に搭載されている無線機が壊れるかもしれないのだ。

これを防ぐにはいったん司令部へ無線を送り、出力を弱めて変換してから針尾送信所で送るしかないのでリアルタイムではないし手間がかかる。

深災対はどうかだろうか。

強力な基地航空隊の戦闘機を数多く揃えており、B-29のベースとされてる深海空超要塞と戦った経験があるので妖精さんたちの士気は高かった。

鵠提督は法律の鎖に縛れて動けない自衛隊の代わりに向かわせる案を出すと、古間空将は申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を下げながらお願いします、と返答した。

「では基地航空隊、一航戦と二航戦と合流せよ」

提督の命令によって局地戦闘機部隊が一斉に進路を変えていく。

 

 そして各部隊の避難状況が入ってくる。

まず空自の新田原は航空機の退避がほぼ完了し、あとは人員や補給品だけとなる。

高畑山分屯基地へはオスプレイとCH-47が急行で向かっているが到着予定時刻が最速でも5時半頃の見込みのため、万が一の空爆に備えて防衛陣地を構築している。

海自の鹿屋もP-1の退避完了し残すのは人員と補給品となる。

川内駐屯地、国分駐屯地、都城駐屯地は退避のため周辺道路に渋滞が発生したことは想定内だが、やはり様々なトラブルが襲い掛かる。

「223号線ルートに分かれた国分駐屯地の部隊で、霧島山地辺りで土砂崩れの前兆を見つけた為引き返しました」

「都城駐屯地の部隊は高崎町前田付近にてスタックしてしまった車両があり遅れています」

川内駐屯地はさつま町求名付近の山間部道路にて小規模な土砂崩れを発見。すでに近隣住民が復旧作業中のため、協力を申し出て合同作業を行っています。なお一部の住民が川内駐屯地の物品を盗難しようとした疑いが」

やはり出たかという空気になる。

様々な物質が不足しているとはいえ盗難行為を許せば住民の間で噂が広がり自衛隊を襲えばいいとなってしまう。

それを避けるために配っても今度は住民の間で醜い奪い合いが起こるだろう。

盗難の件は隊員がすぐ捕まえたので現地の憲兵に引き渡さなければならない。

町長によればこの地域の憲兵は西部憲兵司令部の区域となるそうだ。

西部憲兵司令部の司令官は石田中将、鹿児島地区憲兵隊長の谷中佐に連絡が入り出水分隊が対応するらしい。

とりあえず土砂崩れの復旧はあらかた終えたので部隊は先へ向かい、町長が事情を説明することになり45分後、現場へ駆けつけた出水分隊の谷川少尉らは事情聴取を行い、暴れている犯人を数人の憲兵で車に押し込んでいく。

土砂崩れをあっという間に復旧して風のように去っていった自衛隊を追いかけたかったがそうもいかない。

憲兵も本土決戦に駆り出されているのでそこまで割く余裕はないし、なにより先ほどから空襲警報がずっと鳴り響いているので諦めて防空壕へと戻り取り調べを進めていった。

 

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