10月31日午前5時10分
ここ数か月はP-51による護衛のせいでB-29へ対空特攻するのは難しくなったため出撃が下火になっていたし、本土決戦にむけ戦力を温存していたので鬱憤が部隊の間にたまっていた。
空襲警報のサイレンが鳴り響いている中、出撃命令が下ったときはついにお国のために華々しく散れるのかとパイロット達は震えた。
帽振れで見送られる中、1機、また1機と夜明け前の空へと飛び立つ。
上空待機していた第6航空群では第12飛行師団飛行第4戦隊から屠龍の16機、第47戦隊から三式戦闘機飛燕16機、第71戦隊の
そして振武隊から九七式戦闘機と九八式直協が32機で編隊を組んでいた。
第5航空群からは第1飛行師団飛行第25戦隊から
同じく吹上浜を警戒していた一航戦の赤城改二(21,21,32,12,4)、加賀改二(20,20,44,12,3)は烈風一一型、烈風改二戊型と試製艦載型、烈風後期型を第一から第三スロットに搭載し158機。
大鳳(30,24,24,8)、雲龍改(18,21,27,3)・天城改(18,21,27,3)・葛城改(18,21,27,3)は紫電改二と零戦53型(岩本隊)を第一と第二スロットに搭載し合計で171機。
二航戦の飛龍改二(18,36,25,4)、蒼龍改二(18,35,23,7)、隼鷹改二(24,18,20,4)・飛鷹改(18,18,18,12)・龍鳳改二(21,21,14,6)の烈風(六〇一)と後期型は第一から第二スロットに搭載し合計で227機。
そして対B-29として三号爆弾を搭載した彗星一二型(六三四空)を各最小スロットに配備し合計で57機、戦力は613機となる。
残りは万が一のため吹上浜上空で待機し防空任務にあたる。
局地戦闘機部隊は第一航空隊“ファルコン”の一式戦隼Ⅲ型甲36機とⅡ型の36機。
第二航空隊は菅野デストロイヤーが率いる“新撰組”紫電改(三四三空)が72機。
第三航空隊は“風雷”の烈風改18機と雷電の18機、屠龍丙型36機は吹上浜上空で待機。
深災対の妖精さん達は黒島と薩摩硫黄島の海峡上空を飛行しており、硫黄山の山頂からは赤く照らされている溶岩が噴出しており幻想的な灯台となっていた。
ちなみに台風は本州の南にあるジェット気流も合わさって上陸することなく速度を上げ、時速80㎞/hで高知県室戸岬から200㎞先の太平洋上を駆け抜け、早朝には青ヶ島付近で温帯低気圧に変わっていた。
そのため南九州周辺の天候は曇りのち晴れ、平均風速10m/sと台風一過のような天気であった。
空自のF-35Aによれば爆撃集団の現在地は悪石島上空を南京へ向け速度450㎞/h、高度5,000mで飛行していることも判明している。
30分もしないうちに接敵することが予想され、連携のため自衛隊とも無線の周波数もすでに合わせてある。
しかしながら旧日本軍のパイロットとの無線はできない。
おそらく無線機を外しているのだろうと妖精さんたちは推測する。
「……隊長、意見具申してもいいですか?」
二航戦の烈風妖精が一航戦の烈風妖精隊長に無線をかける。
「いいぞ。どうした?」
「出撃時は高揚していましたが今冷静になって考えたんですけど、俺たちは今まで深海棲艦を相手に戦ってきたわけです。命の殺りあいを何度もやってきたけど、今度の相手は人……敵さんも待っている家族とかいますよね。そう簡単に命を奪うのは気が引けます」
「つまり“やぁやぁ我こそは~”と名乗ってから?」
基地航空隊の隼Ⅲ型甲妖精隊長が無線に割って入ってくる。
「いや、F-35からの電子妨害を止めてもらい向こうさんのレーダーを復活させる。で、囲まれていて不利だと理解するだろう。これだけの戦力がいるんだぞ、と誇示してお帰りいただくのはどうかなと」
「数でいえばこちらがやや有利であるし、不意打ちは成功するだろうが弾やボーキサイトを少しでも節約できれば越したことはないな」
二航戦の彗星一二型(六三四空)妖精隊長も同意する。
「確かに遠征による資源回復が期待できない以上、戦局を見極めて戦うしかない状況だ。よし、赤城さんたちに伝えておこう」
各妖精隊長のモールス信号による電信で一・二航戦の旗艦である赤城と飛龍に伝えられるとすぐに執務室へ入室し提督と話し合う。
「確かにパイロット妖精さんの言う通りだが、敵さんはそう簡単に撤退するかね……」
鵠提督の懸念に赤城と飛龍はそれぞれの意見を述べる。
「でも試してみる価値はあるのではないでしょうか」
「そうそう、交渉が決裂したらどのみちやるしかないでしょ」
2人に後押しされ鵠提督は腹を据える。
「分かった、やってみよう。それと航空日誌や無線記録などの証拠は残したほうがいいだろう。終戦工作に向けて大事になってくるかもしれない。確か自衛隊側も中立派とかいたはずだな……相談してみるか」
佐世保鎮守府と佐世保地方総監部はほぼ隣とはいえ、執務室からだと徒歩数分かかり営門の警備もいるため手続きに時間がかかってしまう。
そのため野外通信システムのおかげでテレビ会議システムや携帯電話でもやりとりができるようにシステムを共同で構築した。
そもそも佐世保鎮守府では深海棲艦討伐や災害派遣のため各行政機関とのやり取りをオンライン上で緊密に行っていたこともあり、別の世界から来てしまった自衛隊とのシステム構築にはさほど苦労しなかった。
ただ、今は合同テレビ会議中で個別に呼び出せなかったので鵠提督は三面海将に電話をかける。
もちろん傍受されぬよう暗号化されている。
携帯電話のバイブレーションがポケットから響き、発信者を確認した三面海将は席を外してから鵠提督と話し合う。
「なるほど……電子妨害を一旦止めて交渉ですか。確かに我々も一枚岩ではない。今後ばらばらになって動いたり対立するよりはここで彼らの主張を吐き出させるのもいいと思うが、持ち帰って幹部と検討したい」
「構いませんが、もし離反する隊員が出てしまったらどうするのですか?」
鵠提督の質問に三面海将は間を置いて答える。
「……自衛隊法には第57条、上官の命令に服従する義務があります。抗命権は自衛隊法には規定されていませんが、国会議員による質問主意書の答弁書では過去に明白かつ重大な違法があると認められる場合は当該命令は無効で、服従する義務はないとされています」
昨日とったアンケートの中では良心的兵役拒否を行使しようとする隊員も少なからずはいた。
「そもそも超法規的措置とはいえこの世界にいない防衛大臣の命令無しで独断による防衛出動待機命令を発令しましたから、明白かつ重大な違法があると突っ込まれても文句は言えません」
力なく苦笑いしつつ三面海将は話し続ける。
「彼らの意見は尊重するべきですし良心的兵役拒否するだけならまだいいのですが、対話の後に離反者が白旗をあげて連合国軍の捕虜になってしまい、拷問によって自衛隊の機密情報を渡してしまうのが最悪のパターンです。ですが我々が参戦しても捕虜や鹵獲兵器が出てしまう可能性もありますし、どっちをとるかで歴史がどのように枝分かれしてしまうのか……難しいです」
離反者が出た時のため艦娘を佐世保地方総監部の門前に置いておく提案を鵠提督から出されたが、三面海将はお気持ちだけを頂いてやんわりと断る。
陸空海の幹部たちと協議した結果、午前6時に自衛隊の降伏派と中立派が中心となって話し合うことになった。
ただメリットとデメリットをしっかりと説明する。
白旗をあげて捕虜になってしまった場合でもなるべく助けるが、特戦群や第一空てい団、水陸機動団でも犠牲者無しで救出はとても厳しいこと。
後方に配置転換しても団体などを結成したら自衛隊法第64条の違反であること。
この世界で暮らすのも構わないが生活水準は当然現代と異なり、そもそもこの日本の住民たちに怪しまれる可能性は高いこと。
それでもいいのなら好きにしろ、と伝える。
午前5時45分
本来なら連合国軍は10/31の早朝に奇襲をかけるつもりだった。
潮汐が上げ潮になっていく時間帯なので揚陸艇による輸送が海岸近くまで行けるので楽になるが、特攻を警戒しなければならない。
まぁ、上陸前の準備砲撃で機雷や伏龍部隊の大半はいなくなる試算だったのでそれほど問題視しなかった。
5艦隊総司令官スプルーアンス大将と第3艦隊総司令官のハルゼー大将のもとに、イギリス海軍太平洋艦隊総司令官のブルース・フレーザー大将からの信書が英駆逐艦によって届けられた。
その内容はレーダー類が使えなくなったのは1859年と同じような太陽嵐による影響ではないかと書かれていおり、ヨーロッパだけでなく北アメリカでも様々な障害が出たらしい。
また、モールス信号に使われる短波も使えなくなったのは太陽黒点活動の影響も十分に考えられるらしい。
そのため比較的妨害に強い古いラジオテレタイプ端末でやり取りを試みてはどうか、と書かれていた。
まさか骨董品の出番が来るとは思わず、取扱に詳しい古参兵を呼び出し軍用タイプのモデル15を操作していく。
くしくも沖縄の司令部でも、ベテラン兵のアイデアでモデル15を倉庫の奥から引っ張り出して修理している最中だ。
あの時カミカゼアタックするかと思ったがそれすらなかったことは、向こうも太陽嵐のせいで混乱していたのではないかと誰もが悔やんだ。
やはり原因は太陽嵐だったのだろうか、とハルゼー大将はため息をついた。
今後の対応をどうするか幹部たちと話し合っていると、通信参謀が困惑の顔を浮かべながら話に割り込む。
一体何があったのか、とハルゼー大将が尋ねるとレーダと無線が突如復旧し、ジャップから通信が入り指揮官と話し合いをしたいという内容だった。
突拍子もない内容に誰もが顔を見合わせる。
いや、それよりもどうやってこちらの無線周波数を知っているのか疑心暗鬼に駆られるが、大の日本嫌いであるハルゼー大将は申し出を突っぱねた。
スプルーアンス大将は日本の意図が分からず脳をフル回転して考え、一方でブルース・フレーザー大将は日本の提案を受け入れることにした。
スプルーアンス大将が理由を問うと、彼は復旧した無線で答える。
『先ほどは太陽嵐が原因だと信書で伝えたが、今向こうから無線を発信しているということは太陽嵐のせいではない。これはバトル・オブ・ブリテンでも見られた電子戦を我々が食らったのではないかと思う。ただ、ここまで複雑で大規模なのはわが国でさえまだ研究中のためあの時は候補から外した』
『なるほど、ということは強力な電子戦ができる機器を開発したのか……しかしなぜ今頃使ったんだ? それに遣独潜水艦作戦は1944年6月下旬を最後にやっていないはずだ。どこかで乗り換えたり陸路を使って資料を持ち帰ったとしても度重なる空爆で工場もなく、資源不足で出来るわけがないと思う』
スプルーアンス大将の発言はもっともだった。
すでにマラッカ海峡やバシー海峡、大西洋は連合国の支配下になっているので、静穏性の低いジャップの潜水艦を見逃すのはあり得ないのだ。
『だがなぁ、低知能のイエローモンキー共と交渉なんぞ時間の無駄だ』
『それはそうだが、少しでも情報を引き出すため話し合うべきではないかと、そう判断したまでだ。カマをかけたり逆探知に時間をかければ正体が分かるだろう』
ブルース・フレーザー大将の説得にハルゼーはしぶしぶといった感じで認め、ブルース・フレーザー大将はすぐ向かうからしばし待て、と伝えるよう通信参謀に指示した。
15分後の午前6時、ついに話し合いの場が設けられた。
烈風隊と局地戦闘機は月明かりの少ない夜明け前の闇にまぎれ有利なポジションにつくと、烈風隊の妖精隊長が英語で呼びかける。
『こちら日本軍の空軍である。貴方方は日本領空に接近しつつある。速やかに進路を変更せよ』
あまりの流ちょうな英語にウェスト大尉たちは驚く。
『おい、なんでジャップが無線周波数を知っているんだ?』
『貴方方の問いには答えない。なおすでに包囲されている。大人しくしたほうが身のためだ』
慌てて窓の外を見ると、雲が多いせいで見えないがよく目を凝らすと翼端灯と尾部灯がおぼろげに見える。
しかもかなりの数だ。
「ジャップの言う通りかなりの数の戦闘機で囲まれています……」
レーダー係のヴァン2等軍曹声が震えている。
「くそっ、ブラフじゃなかったのか……」
ウェスト大尉は状況を打破するために頭をフル回転する。
「戦闘機部隊、やれるか?」
「……やれと言われればやりますがこの数は想定外です」
P-51Hのパイロット達もどうすればいいか戸惑っている様子だ。
「他のところから戦闘機の援軍は寄こせるか?」
「ここから近い部隊は第5艦隊の護衛空母36隻です。しかし、SOSを発信すればジャップはすぐさま突撃してくるでしょうね……あんなの正気じゃない」
ウェスト大尉の問いに副操縦士のトム・シェイ中尉は少し震えていた。
P-51が護衛する前は戦闘機の体当たりで墜落してしまったB-29もおり、初めて見たときはあんなの人間がやる行為ではない。
「ジャップは弾が切れても体当たりするようなイカれた特攻をするからな……1個、思いついた策がある。沖縄方面へ撤退すれば異常に気付いた部隊がスクランブルしてくれるだろう。幸い空母と沖縄には最新鋭のジェット戦闘機が配備されたばかりだ」
「FH-1ファントムとP-80シューティングスター、イギリス軍のミーティアとDH100バンパイアですか……それならレシプロ機を揃えようが速度では勝ちますがどうやって味方に伝えますか? ジャップは電子妨害だけでなくこちらの無線周波数を知っているんですよ」
トム・シェイ中尉の訴えにウェスト大尉は無選手に命令する。
「この隙を逃さずナバホ族の言語をもとにした暗号、コードトーカーを使うしかあるまい。どうせ解読はできないだろうしな。ポールター2等軍曹、ジャップに向けては平文で伝えろ」
「イエッサー」
撤退することを伝えると妖精さんたちは拍子抜けしたが、気を引き締める。
『……分かった。沖縄の近くまでは監視する。変な行動を起こしたら即刻撃ち落とすからな』
(ふん、やれるもんならやってみろイエローモンキー共が。お前らはこれからなすすべもなくジェット戦闘機に撃ち落とされるんだ)
ウェスト大尉は心の中で毒づいた。
一方で自衛隊の中立派・降伏派と連合国軍指揮官との交渉は難航を極めていた。
『ですから我々は貴方方と戦争は望んでいないのです』
『それはお前らの勝手な都合がだろう。そんなの許されるとでも思っているのか?』
『しかし、このまま戦争を続けても無益です。どうか考え直してください』
『黙れイエローモンキー共が。お前らは地球から絶滅すればいいんだよ』
「なぜ……なぜそこまでして日本を憎むのですか? 人類みな兄弟ではないのか?」
『温い、温いねぇ。これは真珠湾を奇襲した悪の帝国であるイエローモンキー共を根絶やしにする戦争なんだ。リーメンバーパールハーバー、これを忘れた日はなかった……この戦争に勝てば我々は正義となり世界に平和をもたらしたピースメーカーと後世に渡り語り継がれるであろう』
ハルゼー大将の狂気的な発言に降伏派の隊員たちは言葉を失いかける。
『日本は偉大なるアメリカを怒らせた……この罪はとても重い。その身をもって償ってもらおうじゃないか』
「しかし……」
『これは大統領の決定事項だ。反論は一切認めん。とっとと戻って、上に伝えてこい』
『待ってください! もう少し話し合いを……』
ハルゼー大将は降伏派の隊員に怒鳴りつけると通信を切り、そのまま椅子にドカッと座り込む。
「では、継続派の政治家をこの手で捕らえ引き渡し国際裁判にかける、これならどうか?」
中立派の隊員が新たに提案する。
『なるほど……確かに魅力的な案であるし犠牲者はうんと少なくなるだろう』
スプルーアンス大将は顎に手を当てて考える素振りをする。
『だが、それを決めるのは我が大統領であるし、米国を取り巻く世論もそれを許さないだろう。一応、総司令官のマッカーサー元帥にも伝えておくが残念ながらすでに匙は投げられたのだ。恨むならクーデターを起こしてまで戦争を決めたあなたの国の上層部や継続派を恨むことだな』
希望が一瞬で打ち砕かれ、力が抜けたようにへたり込んでしまう。
『話はそれだけか? では切るぞ』
スプルーアンス大将ははきっぱりと伝えると無線を切った。
沖縄の司令部に話したところでも激しい人種差別の嵐だった。
『ファッキンジャップ野郎を地球上から1人残らず消し去ってやるための戦争だ』
『降伏するなら今のうちだぜイエローモンキー』
『ニップの■■■の×××でも吸っておねんねしてな』
筆舌に尽くしがたい人種差別用語のオンパレードに打ちひしがれてしまい、魂が抜けたかのように意気消沈していた。
陸自と空自の降伏派・中立派はこれ以上行動することなく留まった。
その訳は自衛隊内でも精強とされる特戦群と第一空挺団、水陸機動団はそれぞれ1個中隊が鎮西演習に参加しており、その貴重な戦力を敵地に突っ込んで白旗をあげ捕虜にされた自衛隊員の救出のために使わせるのはどうなのかという意見が占めたためである。
一方で海自では通信能力が高いひゅうが型護衛艦いせに集まって連合国軍と対話をしていた降伏派・中立派たちはとぼとぼと護衛艦いせから下船し恨みつらみをぶちまける。
自分たちの乗用車で営門を無理やり突破し、佐世保市から一番近い上陸地点であるいちき串木野市へ猛スピードで走らせようと算段するが、車のカギは厳重に保管されおり許可証もいる。
自転車の管理も厳しくなっている。
なぜなら自転車を盗み飲酒運転などで処分を喰らった隊員が各地で相次いだためだ。
陸路で行軍するにしても、いちき串木野市まで徒歩では2日以上かかる。
陸路がだめなら海しかないが、護衛艦を奪うのは当然無理であるしそもそも湾内はまだ掃海中なので詰みだった。
良心的兵役拒否でせめてもの抗議するしかないのか、とうなだれそれぞれの持ち場へ戻っていく様子を様子を遠くから見ていたとある艦娘は、誰にも気づかれることなく去っていく。
佐世保鎮守府の執務室の点検口から音もなく開けられするりと侵入し提督に報告する。
「立ち直れないくらいかなり意気消沈していたよ。あれなら暫くは大丈夫かな」
「そうか。ありがとう川内」
「お安い御用よ。そろそろ夜が明けるから寝るけど、緊急の場合は起こしてね」
執務室から立ち去った川内は自室に戻りあっという間に眠りにつく。
『これではっきりした。レーダ類の不調は太陽嵐ではなくジャップの新しい部隊による電子妨害の仕業だ』
ブルース・フレーザー大将が無線で各艦隊に伝えられるとざわめきがCICに伝搬する。
『信じられませんな……だが脅威は早めに潰しておくに限る』
「スプルーアンスの言う通りだ。諸君、オペレーション・ダウンフォールを発動せよ」
ハルゼー大将が吹っ掛けるとCICのボルテージが上がる。
「暗号が届きました。爆撃集団がジャップの戦闘機に囲まれている模様。なおエスコートするかのように沖縄方面へ向かっています」
通信参謀がハルゼー大将と幹部に伝える。
「舐めたマネをしやがって……第3艦隊、20ノットまで増速。輪形陣から戦闘陣形に移行しジェット機を発艦させた後は最新鋭のレシプロ戦闘機も飛ばせ!」
(パールハーバーのお返しだ……!)
ハルゼー大将は心の中で呟き軍帽をかぶり直す。
二次世界大戦史上最大の激戦となるだろうダウンフォール作戦がいよいよ幕を開けようとした。
ここで各艦隊の配置情報を見てみよう。
スプルーアンス大将が率いる第5艦隊はいちき串木野市から30㎞先、ハルゼー大将が率いる第3艦隊も同じく宮崎市から30㎞先。
イギリス海軍太平洋艦隊は種子島喜志鹿﨑灯台から北東へ45km先に展開し志布志市まではおよそ40kmもある。
それらの艦隊が一斉に動き出し、上陸用舟艇には兵士や戦車が次々と乗り込んでいく。
「勇敢なるアメリカ海兵隊の諸君! 君たちは名誉のある第一陣だ。女子供老人だろうが海兵隊の力を存分に見せつけろ。ジャップどもを一匹残らず地球上から、いや歴史上から抹殺するのだ! 退却は……」
「クソくらえ!!」
第5海兵上陸軍団のハリー・シュミット中将が過激な檄を飛ばすと、空気が震えるほどの海兵隊隊員の歓声が上がり士気が高まっていく。
第43警戒隊のJ/FPS-3改と
各上陸地点へ20ノットに増速し向かっており、上陸予想時刻は0700とされた。
「敵戦艦の射程内に自衛隊員は?」
「幸い敵戦艦の射程内からすべて避難を終えていますが、渋滞はいまだ未解消です。空襲が来たら一網打尽です」
殆どの隊員や武器、弾薬などはV-22、CH-47J、UH-60JAだけでなく空自の第1輸送航空隊の第401飛行隊からC-130Hが8機、空中給油仕様のKC-130Hが2機、第404飛行隊からKC-767が2機、第402飛行隊からはC-1が3機、第403飛行隊からC-2の2機をフル回転し日の出まで退避を終えることができた。
だが大型の重機はトラックに載せられず自走していたり、燃料給油車は危険物を搭載しているのでできるだけ山道を避け慎重に運転しなければならない。
先日の台風の影響で道路事情が悪いことも渋滞に拍手をかけていた。
川内駐屯地と高畑山分屯基地では設置されたプラスチック爆弾が5時35分に第5施設団が爆破ボタンを押す。
最小限の火薬で効率的に破壊できるよう計算されたプラスチック爆弾はトラブルなく爆破し、駐屯地とレーダサイトは崩れ連合国軍の手にできるだけ渡らぬよう役目を終えた。
殿を務めた第13警戒隊長が爆破の瞬間を敬礼で見守ると、第5施設団1個分隊とともに
さらに自衛隊と陸軍特殊情報部分遣隊、海軍大和田通信隊分遣隊はシギントによって独特の訛りがある英語を探知し、すぐさま解読を試みるがちんぷんかんぷんだったため各本部へ助けを求める。
すると健軍駐屯地のグラウンドで展開していた西部方面システム通信群本部通信科の暗号マニアである隊員が、ナバホ語を使った暗号ではないかと気づく。
西部方面システム通信群長の袋津1等陸佐にもこの情報が伝えられすぐ各部隊へ共有される。
どちらも威信をかけて解読するが、暗号が複雑すぎて知恵熱が出そうになった。
1968年に機密が解除されたとはいえ陸上自衛隊通信学校の授業で学んだことがある程度で、現にアメリカ軍と暗号のやりとりではナバホ語なんて使用していない。
すると鵠提督は表の顔は給糧艦として、裏の顔は無線傍受のエキスパートとして艦隊を支えている彼女の存在を思い出す。
提督の思惑通り佐世保鎮守府では間宮がシギントを行っており、当然コードトーカーや呉市上空における
まさか本当にB-29が来るとは思わず噓から出た実となったが、このどさくさに紛れて発案者となったサラトガを中心とするSBDとF4U-1による爆撃機が最低限の数で発艦し、呉に鎮座している軍艦へ100ポンド爆弾(45㎏程度)による至近弾を投下した。
だが戦艦榛名・軽空母鳳翔及び龍鳳を中心にまだ生き残っていた軍艦から対空砲火を浴びたものの、撃墜された機体はおらずなんとか無事にミッションを完了した。
後は無事に帰投するだけだったが道中に通報を受けた旧日本軍戦闘機が飛来し泡を喰ったが、搭載しているレーダーのおかげで戦闘せずにやり過ごし誰一人も欠けることなく帰投することができた。
実験の結果、艦娘の損傷は見られなかったことから影響は無いと判断し艦娘たちはホッと胸をなで下ろした。
空母寮の自室に戻ったサラトガは私服のまま仮眠をとっていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
すぐに意識を覚醒させ扉を開けるといつもの割烹着スタイルである間宮の姿が見えた。
「こんな時間にどうしたの?」
「朝早くに申し訳ありません。少しお尋ねしたいことがありまして」
「何かしら?」
「シギントしたところ、訛りが強い英語を聞き取れたのです。恐らくナバホ語の暗号かと思われますが解析できますか?」
「ナバホ語……コードトーカーね」
間宮に連れて行かれたサラトガは間宮の秘密の部屋、無線諜報室に入るとヘッドホンをして再生する。
「Oh、これは訛りがだいぶ強いわね。妖精さんの力も借りていい?」
「助かります」
妖精さんのおかげもありものの数分で解読できたようだか、サラトガの顔色が優れない。
「間宮、日本の
「一体何が……?」
「ジェットファイターが襲来してくるわ!」
「なんですって……秋水と橘花みたいなジェット戦闘機が?」
「いえ、それよりも洗練された戦闘機よ。まさかすでに実戦配備されていたとは……」
聞いたことのない機体だがただ事ではないと感じた間宮は部屋を飛び出し、サラトガも後に続く。
間宮とサラトガは息を切らして執務室に入室するとメモを渡す。
鵠提督は内容を目に通すと顔色がサッと変わり、確かな情報かと彼女たちとアイコンタクトをとる。
彼女たちが無言でうなずくとすぐさまリモートで共有する。
「艦娘の暗号解読により連合国軍のジェット戦闘機の名前が分かりました。FH-1ファントムとP-80シューティングスター、イギリス軍のミーティアとDH100シーバンパイアとのことです!」
『第1世代ジェット戦闘機か……!』
古間空将が驚きの声をあげる。
F-35Aが敵艦隊に再度偵察を試みるとアメリカ空母にFH-1、イギリス空母にはDH100シーバンパイアが確認された。
P-80シューティングスターとミーティアは確認されなかったことから、沖縄に配備されていると予想された。
「空母から発艦した場合、第1世代ジェット戦闘機は10分程度で襲いかかるでしょうね」
サラトガが鵠提督へ警告する。
「まずいな……レシプロ戦闘機では不利だ」
運動性能の低い第1世代ジェット戦闘機は格闘戦はせず一撃離脱を繰り返すだろう。
「しかし踵を返せばP-51に喰われるかもしれません。最悪ジェット戦闘機と挟み撃ちになりえます」
赤城が懸念点を挙げる。
深災対が所持している秋水やMe163コメートは行動半径が狭いため飛行場付近でしか使えないのが欠点だ。
30㎜機銃を搭載している橘花改は航続距離は長いも、改装された一部の空母艦娘しか搭載できず配備数も少ない。
橘花改を出しても数の暴力でやられるのは目に見えていた。
その様子も見ていた古間空将が西部航空方面隊の幕僚長である赤原1等空佐に提案する。
「空自の戦闘機で敵の戦闘機を妨害できるか?」
「このまま見過ごすわけにはいかないが、有視界でのドッグファイトになります。第1世代ジェット戦闘機に
アビオニクスや速度、運動性能では圧倒しているが現代戦闘機の機銃は数十秒ほどで撃ち尽くしてしまう。
そのため装弾数に余裕のある第5航空団のF-15Jに白羽の矢が立ち、付近を警戒飛行している飛行隊へ指示が飛ぶ。
「ありがとうございます。警告したのち従わなければ各機射撃を開始せよ。ただし、一撃を入れたら離脱だ」
鵠提督がお礼を言い妖精さんに指示を出すと赤城と飛龍は妖精パイロットに向けて無線を飛ばす。
その無線を受信した妖精パイロットたちは英語で爆撃集団に話しかける。
『こちら
ウェスト大尉は心臓が跳ね上がったが、なんとか冷静さを装い返答する。
『いや、違う。我々が求めたのは沖縄の滑走路の情報や気象情報だ。もう少ししたら海へ爆弾を捨てて帰投する』
『しらばくれるな。すでにコードトーカーは解読した。なるほど……ジェットファイターを召喚するとはな』
『なっ……!?』
誰もが息をのんだ。まさか解読されるとは夢にも思わなかった。
(たった数分でコードトーカーが解読されただと!? 知能が低い猿どもではないのか?)
『こちらは変な行動をしなければ手を出さない約束だったんだがな。ジェットファイターの支援を要請したならばこちらにも考えがある』
爆撃集団を囲んでいた戦闘機隊がゆっくりと離れていく。
「いったい何をする気だ……?」
『最終警告だ。このまま沖縄へ向かってくれれば我々は爆撃集団へ危害を与えない。だが、いますぐ支援を中止しなければ貴殿の上を飛んでいる彗星が爆弾を投下し、容赦なく撃墜する』
(彗星……Judyか! そして爆弾……思い出した。たしかB-24が三式弾のような航空爆弾でやられた記録があったはず)
ウェスト大尉は操縦席の窓から目を凝らす。
いったいいくつのJudyがいるのだろうかとゾッとする。
だがブラフの可能性もありえる。
第一、連日の空襲で工業力は確実にやせ細っているはずだ。
『ちなみに、爆弾はブラフではないということをお前たちに教える。これより海へ爆弾を投下するデモンストレーションを行う』
『デモンストレーションだと?』
『あぁ、それをみて判断しろ。彗星隊、1機だけやれ』
はるか上空から1機の彗星が
爆撃集団に影響が出ないよう彗星一二型は高度5,000mまで降下し爆弾を投下した数十秒後、花火のように空中がパッと明るくなる。
タイムラグで爆風が襲いかかりビリビリと機体を揺らす。
『あんな爆弾一体どれほどあるんだ……』
『まぁ、大量にあるとしか答えられんがな。さぁ、どうする? 待っている家族がいるんだろう? あと1分で答えを出せ』
『1分は短すぎる。せめて司令部との相談は……』
『ジェット戦闘機が来るまで時間稼ぎをする落胆か? だめにきまっているだろう。生殺与奪の権利はこちらが握っていることをお忘れなく』
「……レーダ員、ジェットファイターはまだか? それとジャップのファイターとの距離はどれほど離れている?」
「空母から発艦したばかりで最速でも8分はかかります。また最後尾からSamは1,500m、Judyはほぼ真上に1,000mほど離れています」
ウェスト大尉は横目で操縦席に貼られた家族の写真を見る。
まるで首元に死神の鎌が突きつけられているくそったれな気分だ。
脅しに屈するか、抵抗するか。
名誉を失うか、命を護るかでどの乗組員も揺れ動いていた。
このままずこずことエスコートされれば軍法会議送りで不名誉除隊され名誉は失われるが、命は助かる。
機体はお得意の工業力でいくらでも作れるが、パイロット達はお金と時間をかけて一人前に育て上げられる。
今ここで刺し違えることは果たしてコストに割に合うのだろうか。
ウェスト大尉の脳内で情報処理が高速で行われていると、ふと思い出し副隊長に声をかける。
「なぁ、トカラ列島と奄美大島にたしかアレがあったよな?」
「えぇ、なんでも新兵器があるとかないとか……あぁっ! そういうことですか!」
「そういうことだ。夜が明けるから使えるだろうし、散らばればこちらも勝機はある」
光明が差してきたような気がしてきて二人とも顔が明るくなり、
『ジェットファイターの支援を中止。全機、進路を変更だ。奄美大島方面へ機首を向け沖縄まで退避せよ』