同時刻、海自のほうではもっと大混乱となっていた。
佐世保鎮守府内に大日本帝国海軍、海上自衛隊、そして艦娘たちが鉢合わせしたのだから。
ここで各鎮守府はどのようになっていたのだろうか。
上空から見下ろすと、ニミッツパークと呼ばれていたところに艦娘の佐世保鎮守府が、米海軍佐世保基地の学校があった所は海自の佐世保地方総監部、そして帝国海軍の佐世保鎮守府はいつも通りの場所となっているが空襲で焼け落ちており無残な姿になっていた。
物々しい雰囲気となったのも当然で佐世保鎮守府防衛隊や佐世保陸警隊がそれぞれの装備を持ってにらみ合っていたが、帝国海軍も海自も共通の疑問を持っていた。
(女性ばかりのあれは一体何だ?)
刀を持って片目に眼帯をしている紫髪と薙刀を持った同じ髪の色の女性。
同じく片目に眼帯でマントを被りサーベルのような武器を持っているイケメンな緑髪の女性。
巫女のような服を着ているのに日本刀を持ってる女性が二人。
闇に溶け込むような学ランスカートと軍帽で同じく日本刀を帯同している女性。
ニンジャとサムライのような雰囲気をまとっている女性が二人。
なぜかカメラを構えてパシャパシャと撮っている女性が一人……と見たことのない女性たちが集っていた光景に釘付けになっていた。
すると奥から第1種軍服を着ている男性とセーラー服を着ている女の子がやってきた。
あまりにもミスマッチな光景にお互いが困惑していると、拡声器で男性が呼びかける。
最初はハウリングが酷く聞き取れなかったが、音量調節をしていくにつれ聞き取れるようになった。
「私は敵ではなく佐世保鎮守府の責任者だ。事態が飲み込めなく困惑しているが、まず君たちの責任者と話し合いたい」
まさかの日本語で呼びかけられたことに一同は驚きと安堵をもたらした。
言葉が通じなかったらどうしようと皆不安になっていたからだ。
それでも警戒心は緩まず防衛隊は銃口を向けながら、陸警隊は催涙弾投擲銃を持つも銃口は向けずに警備犬や特別警備隊もいつでも行けるよう後方で待機。
女性たちの集団は指示が出たのか武装解除しているようで成り行きを見守っていた。
「ねぇ、あの銃って……」
「あぁ、懐かしいな。それにどちらも私たちの名前を持っている船がある組織だろう」
巫女のような服と日本刀を組み合わせている彼女の名は伊勢と日向。
日本刀はすでに鞘にしまい敵意がないことを示していた。
(一体どうなるやら)と日向はそんなことを考えていると、向こうから知っている顔が見え驚愕した。
「なっ、あのお方はまさかっ……」
そして隣にいた青葉もカメラ越しにあんぐりとした表情を浮かべた。
「なんで艦長がここに……!?」
各々の責任者を呼び出そうとそれぞれが動いていると、数分もしないうちに責任者が走って出向いてきた。
広場で責任者同士出会うとが敬礼し、まずは互いに自己紹介をする。
「帝国海軍佐世保鎮守府司令長官の
「海上自衛隊佐世保地方幕僚長
普通に佐世保鎮守府と言おうとした鵠大将はまずいと悟った。
これでは所属名を名乗るとき三つとも佐世保鎮守府では混乱するだろうと、とっさに思いついた言葉を脳内に並べる。
「
即席とはいえよく噛まずにすらすらと言えたと鵠大将は心の中でどや顔した。
しかし、この場にいるお偉い方たちは深海棲艦という言葉の意味が分からず困惑していた。
「えっとすみません、その……深海棲艦とは?」と南魚海将補は恐る恐る質問する。
「えっ、そちらには深海棲艦がいないんですか?」
「いないもなにもそのようなのは聞いたことも見たこともないですが……」
なんということだと鵠大将は衝撃に包まれた。
「杉山六蔵中将、深海棲艦というのは聞いたことは……?」と祈るように尋ねるが
「ない」と首を横に振りきっぱりと断言する杉山中将の言葉を聞き、がっくりと肩を落とす。
まさか深海棲艦、いや艦娘すら存在しない世界があるとは思いもしなかった。
一から説明しなければならないがどうやって説明しようかと悩む。
まさか海の底から正体不明のがいきなり湧いたかと思うと、第二次世界大戦で活躍した艦が女の子になって戦っているとは信じられないだろうなと思った。
「まぁ深海棲艦や海上自衛隊とはなにか……追々詳しく聞くとして、君たちはそもそもどうやってここに現れたんだね?敵か味方か?返答次第では」と杉山中将は二人をジロっと見つめ右手を挙げる。
すると杉山中将の後ろで警戒していた防衛隊のボトルハンドルが一斉に音を立てた。
その動きを見た佐世保陸警隊司令の
『南魚海将補、どうします?』
「そのまま待機。決して銃口は向けるな」
平常心を心がけ小声で応答するが、内心はいつ撃たれるか気が気でなかった。
それに喉も砂漠のようにカラカラになり、背中や脇は汗でびっしょりとなる。
ちらりと目線と隣に移すと、鵠大将はさほど気にしておらずそれどころか余裕の表情を浮かべている。
それもそのはず、鵠大将の後ろには向こうで静観していた女性たちがいつのまにかいた。
(なっ、いつのまに……音も気配もしなかったぞ!? まるでS部隊のようだな)
S部隊とは特殊作戦群と呼ばれる謎の多い特殊部隊だ。
一度基地の警護訓練で仮想敵をしてもらったが、ものの数分であっという間に制圧され、終いには抹殺された苦い思い出がある。空挺団もすごかったが彼らはもっとすごかった。
彼女は長手袋の下に着けている網手袋や赤い腰帯等を身に着けているので、かなり目立つくノ一だなと南魚海将補は思った。
あとは中学生にしか見えないセーラー服の子と日本刀を腰に帯同している黒い学ランスカートの子、合わせて3名が
よくよく見るとどちらもかなりの美人で見惚れそうになるが、気を取り直して目の前のことに集中することにした。
「ほぅ、そちらのお嬢さん達なかなかやりますな」
杉山中将は感心していたが内心は冷や汗をかいていた。
(この雰囲気と佇まい、幾つもの戦場をくぐり抜けてきた強者か。ただの奇抜な女性ではないということだな)
「だがこちらでは見たことも聞いたことのない名前なのだ。調べさせてもらいたいのだがよろしいか? ちゃんと協力してくれれば手荒なマネはしない」
「ほぅ、手荒なマネとは……どこかにぶちこんで情報を吐くまで拷問でもする気かい?」
ゆらぁ、と殺気が発せられ鵠大将の周辺の空気がぐにゃぁ、と歪んでいるような気がした。
その殺気に南魚海将補は思わず距離を取り、杉山中将は息を吞んだ。
後ろにいる彼女たちもただならぬ殺気を出している。
その光景に距離があるはずの防衛隊も陸警隊も後退りした。
屈強な彼らが口をそろえて言うには、銃があるのになぜか勝てる気がしないと後に語っていた。
「ッッ……す、すまなかった。丁寧に対応するのでそちらの持っている情報も教えてほしい」
「拷問や自白剤などの非人道的行為はしないと約束できるか?」
「は、はい! 誓って約束します!」
ふっ、と四人の殺気が収まると杉山中将と南魚海将補は汗がどっと吹き出て、呼吸するのを忘れたかのように荒い息を繰り返していた。
まるで日本刀が四方八方から突きつけられているかのような錯覚だった。
「少しいいですか?三面 光輝海将は……あ、海将とはこちらでは大将に当たる地位ですね。今は熊本市にいるのですが、会談するなら呼び戻したほうがいいでしょうか?」
「熊本市におるのか……呼び戻してほしいが佐世保航空基地は少し離れているしここまで来るには車で20分ほどかかる。それでもいいなら着陸許可を出すが」
杉山中将は脳内で地図を思い浮かべていた。
佐世保航空基地は佐世保市崎辺町にあり水陸両用の航空基地であるもの、本格的には使われていない。
少し時間は喰うが使うならそこがいいだろうと判断したが、南魚海将補は心配いらないと笑みをこぼす。
「それについては及びません。ヘリコプターを使います」
ヘリコプター、と聞いて二人の頭にはてなマークが浮かんでいたが、鵠大将が思い出したように口に出した。
「もしかしてオートジャイロですか?」
「はい、それをさらに発展させたのがヘリコプターです。杉山中将殿、お願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだね?」
「我々は本来ここには存在しない組織です。すなわち所属不明の航空機となってしまいます。同じ日本とは言え撃墜される可能性もありますのでそれを避けるために飛行許可をお願いしたいのです。許可が出れば40分前後でこちらに到着します」
「分かった許可をする。陸と空にも私のほうから話をつけておこう。海軍の偉い方が緊急の用事で佐世保に向かっている、と言えば大丈夫でしょう」
「それに夜ですし着陸しやすいよう探照灯を照らしておきますね」
鵠大将も協力を申し出る。
「ありがとうございます」と南魚海将補はピシっとしたお辞儀でお礼した。
ひとまず一旦その場は解散し、飛行許可を得るため各々が行動を開始した。
幸いなことに健軍駐屯地でも同じような話が出たためかとんとん拍子で事が進んでいった。
きっかり40分後、遠くからローター音がパタパタと聞こえてきた。
対空レーダーをみると佐世保湾のほうからやってきているようだ。
「よし、探照灯のシャッター開けろ」
鵠大将が艦娘たちに無線で指示を出すと、佐世保鎮守府の上空に一斉に光の道が出来上がった。
それはまるで滑走路灯のようにヘリを導き、あっという間に広場の上空へと到達した。
ローターから吹き下ろされたダウンウォッシュが周囲の草木を波紋上になびかせながら、スムーズに広場へと着陸していく。
着陸したのを確認した艦娘たちは探照灯のシャッターを閉じ撤退する
その様子を遠くから見ていた杉山中将らは驚き、鵠大将は感動し、青葉は興奮しシャッターを連発して撮っていく。
実は鵠大将はS-51Jという回転機翼を資料上で見たことがあるのだ。
ゆえに驚きはしなかったが幌筵には持っていない装備なので今だにお目にかかることはなかった。
「すごいでありますな。カ号より使いかってがよさそうであります」
提督の隣にいたあきつ丸も感心していた。
彼女は改に改装するとカ号を持ってきてくれるが、カ号はオートジャイロのためあのような動きはできない。
「それに迷彩はおそらく陸さんのですかな? 山林に溶け込みやすそうであります」
ヘリコプターをよく見ると確かに緑や茶色などの色で構成されている。
山林を低空で飛んだら見つけにくそうだし合理的だなと鵠大将は思った。
一方で杉山中将らは不思議な動きをする機体に宇宙猫状態となっていた。
「なんじゃありゃ……」
「すごいのぅ……」
広場上空でピタッと止まったかと思うと徐々に高度を下げて難なく着陸する様子をただただ口を開けてぽかんと眺めるしかない。
あっけにとられていると、機体から黒色を基調とした制服の人が正帽が風で飛ばされないよう手で押さえながら降りてきた。
先ほど会話した南魚海将補も彼の近くに行きなにやら話し合いしながら小走りでこちらに向かってくる。
おそらく彼が三面光輝海将なのだろう。
年齢はパッと見て50代後半だろうか?顔立ちは優しそうで軍人というよりどこにでもいるようなおじさんという感じだった。
しかし見た目だけで判断するのは危険だ。先ほどの鵠大将の件を思い出したからだ。
165cmほどの20代の彼があれだけの殺気を放せるのは相当の修羅場をくぐってきたに違いない。
故に杉山中将は警戒し少しだけ身構えた。
三面海将は杉山中将らに気づくと帽子を外し軽く会釈をして近づいてきた。
「遅くなり大変申し訳ありませんでした! 三面光輝海将です。以後よろしくお願いします!」
ヘリの騒音に負けぬよう大声で自己紹介してきた彼にこちらも負けじと挨拶する。
「熊本からご苦労様だった! 私が杉山 六蔵 中将である!」
「僕が鵠 清五郎 大将です! 遠い所からわざわざありがとうございます!」
お互い大声で挨拶するも帽子を外し右手で握手を交わす。
丁寧かつ柔和な物腰に好印象を持った杉山中将はホッとした。
「早速ですが会談場所は地下防空壕で?」
「うむ、到着したばかりですまないがついてきてくれ」
杉山中将を先頭に二人が跡を追うと、UH-2はふわりと上昇し先ほど来た空路へ戻り夜空へ消えた。
あれほど騒がしかったのが何もなかったように静まり返った佐世保鎮守府はそよ風がひんやりと吹いていた。
「なんだったんだろ……夢でも見てたのかな」
「まるで狐に化かされたかのようだ」
近くで見ていた帝国海軍佐世保鎮守府防衛隊は皆同じことを思い、この日の出来事を一生忘れることはなかった。
今日はJ2最終節であり新潟県中越地震から18年。
あの日は浦和レッズの試合をテレビで見てるときにグラッときたのを今でも覚えています。
確かビッグスワンも自衛隊の前線基地となって使えなかったかな