深災対の説明が1時間ほどで終えたので少し休憩をとり、今度は海上自衛隊へとバトンタッチした。
三面海将は神妙な顔つきで話しかける。
「最初に断っておきますが今からお話しすることは、我々の歴史であり、あなた方と違う歴史を辿ってきたわけです。それを踏まえた上で聞いてください」
いったいどんなことが語られるのかと杉山中将たちはごくりと唾を飲み込む。
そう言って三面海将は、ノートパソコンの映像を再生しながら自分たちが歩んできた世界の歴史を語り始める。
その内容だけでもとても衝撃的であった。
特に広島・長崎の原爆による被害が生々しく流れている映像に杉山中将たちは言葉を失い、胃から込み上げてくるものを抑えることに必死だったが、それ以上に驚いたのは日本がポツダム宣言を受け入れたことだった。
映像を見た限り天皇は終戦したいと願っていたが、陸軍を中心に最後まで徹底抗戦すべきと言う声も大きく溝は日々深まっていく。
それが原爆投下とソ連軍参戦によって終戦に向けて一気に進み、妨害もあったものの8月15日に降伏した。
そして1950年に朝鮮戦争が勃発すると警察予備隊が設置され、これが自衛隊の元祖となり1954年に3つの組織になる。
そのうちの1つ海上自衛隊の広告映像が数十分ほど流れ、自衛隊側の説明は終わった。
帝国海軍側はあまりにも怒涛の展開に呆然とするばかりであり、本日何度目か分からない宇宙猫状態となっている。
ようやく我に返ったところで、杉山中将からなぜ本土決戦に至ったのか話を切り出す。
政府側はすでもサイパンや硫黄島、沖縄も取られソ連参入も近づいているし、資源も食料もない。ならば降伏し再建すべきという意見。これは天皇もその意見に強く賛同していた。
ここまでは同じ歴史を歩んでいたが、運命の歯車が狂ったのはここからだった。
陸軍省は降伏なんぞもってのほかであり、新型爆弾なぞこけおどしだ!と言い放ったのだ。
実際米国は開発が遅れているし、兵力はまだ本土にたくさんおりこちらに引きずり込めば勝てるという徹底抗戦派が占めていた。
陸軍が得た情報によればアメリカは新型爆弾を完成するまではよかったが、いざ実験すると思った通りの成果は得られなかったらしい。
元々アメリカを中心とする連合国はドイツの原爆開発疑惑があり先駆けるために開発したが、1944年5月にドイツが無条件降伏し色々と調査していくと、そもそも原爆を開発していないことが判明。
核の脅威は去ったしもういらなくね?と一部の科学者は開発中止を提言したが、今更多くの企業や大学を巻き込み数十億ドルの巨額の金をつぎ込んだものに中止はできないと突っぱねる。
不満の声が出るがしぶしぶと開発を続けるも、こんなのどこに落とすんだと話題になり始めた頃、とある噂が出るようになる。
未だに降伏しない日本に対して原爆を使用するのではないか……そんな噂が研究者の間でまことしやかに囁かれていた。
特に7人の科学者は原爆推進派と対立が根深くなり、委員会を説立し原爆使用反対等のレポートを提出するも門前払いされる。
そもそもそのレポートが作成される以前に米政府などは原爆を日本に対して無警告及び無制限使用することを決定していたのだ。
これをきっかけに根回しを済ませていた反対派は後日、マンハッタン計画から自ら脱退。
あと一息で原爆完成という目前にして優秀な科学者やスポンサーを大量に失い、開発が滞り窮地に陥る。
残った人員と金でなんとか完成にこぎつけるが、結果は成功とも失敗ともいえない微妙な空気が実験場の間で流れたらしい。
これでは対日戦に使えない、せめて使えるレベルになるまで開発を続けよとトルーマン大統領から叱責され、やむなく続行するも予算不足に陥り開発は遅々として進んでいないのが真相である。
「原爆はまだできておらずどこにも投下すらされていないが、いつか2発以上持つ可能性があるということか……」
裏を返せば改良する余地があるということだ。
つまり史実よりも出力の高い原子爆弾が出来上がる可能性もありえることに三面海将はため息をつく。
「そうです。それに今どこまで原爆の開発が進んでいるのか情報が入ってこなくなりました。噂では見つかってしまい強制収容所に収容されたかすでに殺されてしまったか……」とつぶやきながら杉山中将は顔をしかめる。
さらに話を続ける。
ドイツの脅威がなくなったソ連軍は占守島へ侵攻しようと戦力を集めていたが、その矢先にカムチャッカ半島南部の太平洋側にあるペトロパブロフスク海軍基地付近で大地震が発生し津波も来襲した。
幸い港湾内に基地はあったので津波による被害は限定的だったが、それでも住宅の倒壊や道路の地割れが相次いだため兵士たちは復興作業に追われた。
さらに運の悪いことに後日、コリャークスカヤ山が数千年ぶりに大噴火し大量の火山灰が基地を覆った。
これによりソ連海軍太平洋艦隊はこれらの基地を放棄することを決定した。
近くにあったソ連空軍のエリゾウォ基地も地震と火山灰が滑走路に降り積もったり、その重みで格納庫がいくつか潰れたことが重なり航空機の離発着ができなくなったので同じく放棄。
対日参戦において重要な基地がまさか災害によって失われるとは思ってなかったソ連軍は、作戦を中止し北樺太へ撤退することにしたが追いかけるように不運が続き、サハリン北部を震源とする地震に襲われた。
泣きっ面に蜂となったソ連軍は這う這うの体でソ連本土まで退避し、北海道上陸は思いもよらない形で一旦阻止されることになる。
しかしその代償として占守島や幌筵島でも津波による被害が出てしまったが、軍部は情報統制し徹底的に隠蔽したため、国民はまったくそのことを知らされていない。
当然継続派はここぞとばかりに、ソ連はしばらく参戦しないだろう、むしろ好機と伝える。
憎き米国を今ここで倒そうでないか。中には神風が吹きソ連に天罰を与えたとまで言う始末だった。
本当にソ連軍は参戦しないのか、むしろ力を蓄えるのではないかと天皇らは不安になり、その日の会議は終了した。
次の日もまた次の日もなかなか進展しない。
撤退したとはいえソ連の力は侮れないという空気が日本政府内に蔓延しているのを危惧した陸軍省はクーデター計画を画策する。
8月上旬、ポツダム宣言をどうするのかという御前会議が開かれようとした矢先、クーデターを発動した。
勿論終戦派は裏で阻止しようとしたが想定よりも数が多く失敗してしまい、内閣になだれ込んだ陸軍省の将校と陸軍近衛師団を中心としたクーデタ一派に乗っ取られ鈴木内閣は倒れ、終戦派の多くは投獄されてしまう。
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そして中華民国軍とソ連軍の南下を防ぐために満州国国境から満州国の山岳地帯及び朝鮮半島北部の山岳地帯へ移して要塞化し、持久戦に持ち込み時間稼ぎすること。
特に中国戦線では本土決戦のため経験豊富な支那派遣軍の主力部隊を引き抜き、残った各部隊は満州国と朝鮮半島を守る部隊へ吸収することを決定した。
当然現地部隊は不満の声が続出するも、反対する兵士たちが上官たちによって次々と粛清されていく光景をみて震えあがってしまい最終的には黙って受け入れるしかなかった。
アメリカを中心とする連合国は鮮やかなクーデターと戦争継続の表明、早すぎる中国戦線の放棄に驚きを隠せなかった。
特に日本軍が占領した土地や基地がもぬけの殻になった連合国軍と中華民国軍たちは罠かと疑い、慎重に進軍し日本軍が待ち伏せしていないかを入念に調べあげた。
日本軍がゲリラ戦を仕掛けてきたら厄介だからだ。
そして本当に放棄したことが分かると彼らは呆れ果てた。
″奴らは一体何を考えているんだ?″と誰もがそう思ったのと同時に、得体の知れない恐怖感が兵士たちの心に植え付けられていく。
各国政府は誤報ではないかと疑う者も当然いたため、念のためもう一度調査と降伏勧告を行う。
連合国としてはこのまま交戦を続ければいずれ日本は負けるのは目に見えており、せめての情けをかけたつもりだった。
しかし勧告は無視され、あろうことか挑発ともとれる行動をしたため日本侵攻に懐疑的な立場を示していた指導者や軍上層部ですら態度を改めざるを得なくなった。
日本が8月中旬に決号作戦を全国民に対して発動したことに対し連合国はダウンフォール作戦を行うことを決定した。
一通り終えると、海自と深災対は浮かない顔をしていた。
歴史がここまで異なるとは流石に想定外であり、相当まずい事態になっている。
そもそも玉音放送を阻止しようとした宮城事件というものがあり自分たちの史実でこれは失敗したが、まさかここでは成功しておりしかも新内閣まで樹立し決号作戦を発動したことに頭を抱えたくなった。
サイパンの戦いやノルマンディー上陸作戦、硫黄島、沖縄戦以上の地獄で血みどろの戦いが南九州と関東で繰り広げられることは想像に難くない。
「まぁこういったわけで連合国軍の侵攻があと2日で始まるため、君たちのことは海軍総隊司令部に報告する。それまでは待機してもらい改めて命令を言い渡す」
杉山中将は当然というように言い放す。
あと2日……ということは今日は10月30日!?
その言葉を聞いたとき雷に打たれたような衝撃が三面海将と鵠大将らに走った。
「あの映像を見た限り連合国軍なぞ鎧袖一触であろう」
「未来から強力な援軍が来たのはありがたいですな」
参謀長たちはもう勝ったも同然といった雰囲気を浮かべている。
「ちょ、ちょっと待ってください。我々は敵でもないですが、かといってあなた方と協力するとはまだ一言も言っていません。これからどうするべきか陸自、空自とも相談しなければいけません」
三面海将の反論に帝国海軍側はぽかんとした表情を浮かべる。君はいったいなにを言っているんだと言いたげな顔だ。
「海上自衛隊と名乗っているがどうみても軍隊ではないか? 日本の軍隊なら祖国の未曾有の危機に立ち向かうのが当たり前ではなかろう」と杉山中将の至極まっとうな意見に海自側は言葉に詰まってしまう。
「しかし自衛隊はすぐ動けるわけではありません。こんな前例がありませんし、最高指揮官である内閣総理大臣とはまだ連絡取れていない状況なので……」
「おかしなやつだな。なら同胞が戦って散っていくのを黙って見ておるのか」
「そうとは言っていません。それに、どれくらいの部隊がこちらに来てしまっているのかまだ把握できていないのでそれを確認しつつそれぞれの意見も聞かなければ……」
「そう言いつつ時間稼ぎして血を流さず傍観をする気か? まったく未来の日本軍というから期待したがこうも軟弱者の集まりだとはな」
「軍なら上からの命令を黙って素直に聞き従えばよろしいものだ」
海軍将校たちは呆れたように次々と批判を口にする。
その発言にはさすがの三面海将たちもカチンと来た。
いくらなんでもこの扱いはないのではないか。自分たちだって好きでタイムスリップしたわけではない。
日本を救うため、国民を守るため命をかけて戦う覚悟はある。
ただ、法律とあまりにも想定外のことが多すぎて動こうにも動けないのだ。
しかしここで事を荒げてはダメだ。
なんとか穏便に収めようと三面海将は言葉を選んで反論する。
「我々とて混乱しているのです。いきなりこのような世界に来てしまったのですから確認する時間を頂ければ……」
「そんなものはただの言い訳にしか聞こえん。貴様らはそれを利用し逃げようとしているだけだ!」
「そうだ。我ら大日本帝国海軍は貴様らのような弱腰の臆病者とは違う!」
そんなこと知るかよ、お前らの都合なんて知ったこっちゃないとヒートアップしてくる
どうしようもない怒りがこみ上げてくるがぐっと堪え、なんとか冷静さを保つ。
「はぁ……さて、深災対はどうだ? まさか君たちも拒否するわけはあるまいな?」
海自では話にならないと思った杉山中将は深災対にターゲットを変えてくる。
「なにせ艦娘は見た限り帝国海軍の生まれ変わりではないか。お国のために戦うのは至極当然であろう」
向こうの期待と圧力に鵠大将は思わず息を飲むもしっかりと反論していく。
「……そもそも私たちの日本では艦娘は自身及び提督に生命を脅かす危機がない限り人間に手を出すことは法律で禁じられているのです。藤家中佐、特型Ⅰ型の出力はわかりますか?」
話を振られると思ってなかったので間抜けな返事をしてしまうがすぐ気を取り直し答える。
「えぇと、確か5万馬力だったような」
「それが艦娘にそのまま反映されたら? 勿論装甲や速度、武装も艦だった頃と同じです」
「そういうことか……」
藤家中佐は納得した表情を見せる。
あの大和に至っては15万馬力以上に加え世界最大最強の46cm主砲を持ち、噂では主砲の斉射試験で檻に入った実験用の動物が見るも無残な姿になったと聞く。
生身でフルパワーの艦娘と戦えばどうなるかは火を見るよりも明らかになると気づいたからだ。
「そうなら陸では無敵ではないか! 戦車なんぞ木っ端微塵にできる!」
「最前線で出せば鬼畜米英なぞ敵にすらなりませんな」
有頂天になっている杉山中将たちに鵠大将は軽い溜息をつく。
「お分かりになっていないようですね。もし艦娘が人類に対して反乱を起こしたら、とは考えつかないのですか?」
それを聞いて海軍将校たちはあっ、となる。
「それがあり得るから、私たちの日本では艦娘に対しての法律があるんです」
「しかしだな。ここは君がいた日本ではないからそんな法律は関係ない」
「そもそも艦というのは兵器だぞ。兵器ならこき使われるのが当たり前だ」
「いえ、彼女は兵器ではなく人間であり、人の心を持ち人権も保障されています。それを兵器だの道具だのとぞんざいに扱うのは許されません」
毅然とした態度の鵠大将に海軍将校たちはイライラしてくる。若造のくせに生意気だと言わんばかりだ。
そもそも大将という位が与えられているのも気に食わない。
「人権? 兵器に人権なんぞあるわけなかろう。そちらの日本も随分とおかしい国だな」
「ああ言えばこう言って反論ばかりしおって、貴様らは日本を守る気がないのか!?」
石井参謀長がバン、と机を叩き杉山中将は顔を真っ赤にして恫喝し、空気が一気に険悪になっていく。
「全くだ。一緒に戦う気がないなら協力するまでここから出さん! おい、うちのとこの海兵団を至急こちらに呼べ」
工藤少将が藤家中佐に命じ、稲垣式自動拳銃をホルダーから出し威嚇しようとしたところ風を切る音が聞こえたかと思うと自動拳銃があっという間にバラバラになってしまう。
いったい何が起こったのか分からずあっけにとられているとチン、と鍔鳴りが聞こえた。
「やれやれ、提督殿が言った約束をお忘れになったわけではあるまい?」
あきつ丸がどこに隠していたのか日本刀を手にしており、おそらく居合術で自動拳銃だけをバラバラにしたのだろう。
抜刀したはずの刃の色はまったく見えず、気づいたら自動拳銃が使い物にならなくなったことに工藤少将は震えあがった。
「あきつ丸さんの言う通りです。いいんですか? ここが悲惨なことになっても?」
雪のような冷たい言葉で部屋の温度が急に冷え込んだように感じる。
恐る恐る吹雪に目を向けると、青筋を立てて殺気こもった表情をしていた。
心なしか彼女の後ろには真っ白な容姿にドレスを着た深紅の目を持つ鬼のようなオーラが見えた瞬間、この部屋にいる全員が死の危険を感じ走馬灯を思い浮かべた。
あきつ丸ですらとっさに臨戦態勢になろうとしたところで鵠大将が吹雪をそっと落ちつかせると、鬼みたいな奴は消え彼女から放たれた殺気は随分と和らぐ。
が、鵠大将を除く全員が汗びっしょりになり大きく息を吐きながらソファーに大きくもたれかかる。
誰もが安堵のため息をつき、今生きていることに感謝していた。
均衡を破ったのは意外にも藤家少将のほうだった。
「と、とりあえず佐鎮の隷下に入ってもらうのは保留にしたほうがよろしいかと……」
「あ、あぁ、私も彼の提案に賛成である……」
藤家中佐と工藤少将はろれつが回らない様子だ。
目の前で手にしていた自動拳銃が一瞬でバラバラになったのもあり、こんなとこに長くいては命がいくつあっても足りないと一刻も早くここから抜け出したかった。
「お二人は正気か!? もうすぐ連合国軍が上陸してくるんだぞ!」
「軍隊なら侵略者を迎え撃つのが責務であろう!」
参謀長たちは声を荒げ反対する。せっかくの強力な軍隊なのにここで逃がしたくはなかったからだ。
「あの、再度言いますが自衛隊の他部隊がどこにいってしまったのか分からないのは流石にまずいのではないでしょうか。もし連合国軍の爆撃が明日もありそれで失ってしまっては帰りを待っている家族にも示しがつきません」
三面海将は冷静な口調で反論する。
吹雪の言動で頭を冷やされた杉山中将は何かを考えこむように腕を組む。
確かにこのままでは貴重な戦力を失う可能性もある。
それは避けたいところだが……。
杉山中将はしばらく考え込むと、結論を出したのか口を開く。
「なら時間を決めようではないか。今は21時か……石井参謀長、連合国軍の爆撃は7時からだったよな?」
「えぇ、従来なら7時からですね」
「では8時間後の5時までに他部隊の現在地や人数を探し出し、偽りなくこちらに報告するように」
杉山中将は壁に掛けられている時計を見ながらそれで手を打とうとする。
「分かりました。なるべく早めにご報告できるよう努力します」
三面海将も承諾し、ひとまずこの会議は終わり一同は解散となる。
アルゼンチンがフランスを下し優勝しましたね。メッシおめでとう!
そして先週の大雪はやばかった……車は雪で埋まり物量は止まり、国道8号線とその周辺は渋滞でカオスでしたわ。
雪に慣れているのは山側でそんなに積もらない海側にドカ雪が来たからてんやわんやでしたよ。
第7話は来年以降になります。皆様よいお年を。
※ドイツの降伏を45年7月から44年5月に変更いたしました。