異聞!決号作戦   作:シン・アルビレオ

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明けましておめでとうございます。
2023年もどうぞ宜しくお願い致します。


7話 前門の虎後門の狼 

 会議が終わり雨は幾分落ち着き、深災対と海自は重い足取りで地上に出る。

「とりあえず私は艦娘に説明しますが……三面さんはどうします?」

「そうですね……まずは得た情報を共有しつつどれくらいの規模の部隊がここにきてしまったのか確認しないと」

「そういえば海自の基地って佐世保だけじゃないんですか?」と吹雪は首をかしげる。

「うん。ここだけじゃなく鹿屋にも基地があるんだ。そこに配備されているのは対潜哨戒機やヘリコプターがほとんどなんだ」と三面海将は優しく教える。

「なるほど。鹿屋基地がそのまま移転されていたらまずいですよね……」

吹雪の指摘に三面海将たちは頷くしかなかった。

鹿屋は戦前から使われていた航空基地であり、特攻の出撃基地でもあったことから連合軍はその被害を少なくするために重点的に攻撃をしている可能性がある。

明日も予定通り連合軍による爆撃があるならば機体や人員を逃がさなければならない。

「もしできることがあれば私も協力は惜しみませんから何なりとご連絡ください」

鵠提督は名刺を三人分取り出すと、それに続くように海自側も名刺を出し交換し合う。

数時間前までは慌ただしく物事が動いていたので余裕はなかった。今は少し落ち着いてきたので三人は名刺を交換しあうことができた。

「あ、最初に断っておきますが固定電話は吹雪ちゃ……じゃない吹雪さんが代行としてやります。また、私が何かしらの事情で執務できない場合は彼女が提督代行として艦隊を指揮します」

鵠提督はポケットから青い手帳を取り出し海自の方々に見せると、なるほどそういうことか、と三人は納得する

鵠提督は生まれつき難聴のため普段は補聴器を使用して日常を送っている。

裸耳(らじ)になるとほとんどの音は聞こえなくなるらしいので、それなら秘書艦である吹雪の方が対応しやすいだろう。

「では私はこれで失礼します。この困難を共に乗り越えましょう」と鵠提督は右手を差し出すと、三面海将はがっちりと握手を交わし関屋一等海佐と前川副隊長とも握手する。

平瀬交差点で別れるとお互いの鎮守府へ歩を進める。

「鹿屋って確か後輩の提督がいたな……それだけじゃない岩川基地もあったな。もし別の提督と艦娘がこちらに来てしまった可能性もあり得るならば早急に確認しないと」

「ですな。大淀さんに頼みましょう。それと資源の確認も」

あきつ丸の提言のおかげでやるべきことが頭の中で整理されていく

ニミッツパークがあった場所には今や深災対の佐世保鎮守府があり、到着するとすぐに大淀と明石に指示を出すと、吹雪とあきつ丸を連れひとまず執務室へと戻ることにした

「さてと……まずどうすればいいんだろうね……」

鵠提督は帽子とコートを脱ぎながら溜息をつく。

 

 懸念はもちろん、海外艦娘のことだった。

ここで第二次世界大戦の対立を見てみよう。

まず枢軸国は日独伊三国同盟(日本・ドイツ・イタリア)を中心としハンガリーやフィンランド、タイ等が含まれる。

連合国はアメリカ、イギリス、フランス、オーストラリア、ソ連等およそ26ヵ国にもなる。

ちなみにスウェーデンやアイルランド、スイス等は中立な立場であった。

オランダも当初は同じ立場であったがドイツの侵攻により王族が亡命し、その後中立を破棄し連合国側となる。

 

 艦娘の立場に置き換えるとこのようになる。

日本艦娘・ドイツ艦娘・イタリア艦娘VSアメリカ艦娘・イギリス艦娘・フランス艦娘・オーストラリア艦娘・ソ連艦娘・オランダ艦娘。

そしてスウェーデン艦娘(ゴトランド)はどっちつかずとなる。

この鎮守府には海外艦及びサブ艦も含めるとおよそ320名の艦娘がおり、大部分は日本艦娘によって占められている。

量なら圧倒しているものの、兵器の質に関しては海外艦娘に分がある。例えば電探や対潜兵器の性能に関しては海外製のほうが強い。

 

今まで深海棲艦という敵がいたからこそ垣根を越えて協力できていたが第二次世界大戦時の世界に飛ばされたとなると、深海棲艦なんているわけなく各国がそれぞれの正義を挙げて戦争している。

 

もし連合国側の艦娘が連合国軍に寝返るとなると、それを阻止したい枢軸国側の艦娘との衝突は間違いなく避けられないだろう。

 

かといって連合国側の艦娘を本土決戦のために戦わせるのも、それは自国の兵士を殺めることになり精神的に病むだろう。

 

とはいえ本土決戦に協力せず傍観すれば反感を買うことになり、結果としてどれを選んでも修羅の道になる。

まさに前門の虎後門の狼だ。

 

 

 

「とりあえず集めて会議だな。まず終戦まで生き残った艦娘を中心にしたほうがいいかな?」

「そうなると……戦艦組は長門さん、空母組は鳳翔さん、重巡組は青葉さん、軽巡組は北上さん、駆逐艦組は雪風、潜水艦組は伊58さんですかね。あ、海防艦組はどうします?」

吹雪は本棚からリストを手に取って確認していく。

「どうしようか……言い方悪いが海防艦の見た目は低学年児だぞ。この事実を伝えるにはショック過ぎる。かといって伝えないわけにもいかないし……仕方ない、戦後組である占守にしよう」

「わかりました。海外艦はどなたを?」

「そうだな……米艦はサラトガ、独艦はビスマルク、伊艦はリットリオ、仏艦はコマンダ・テスト、英艦はウォースパイト、ソ連艦はガングード。豪艦はパース、典艦はゴトランド、蘭艦はデ・ロイテルを呼ぼう。それから明石と大淀と間宮も頼む」

「場所と時間はどうしましょう?」

「今から15分後の2130に第1会議室にしよう」

「承りました司令官」と吹雪は館内放送のスイッチを入れメモを見ながら呼び出していく。

提督は責任の重さに胃がキリキリと痛み出していくも、資料を抱えて会議室へ向かった。

 

 15分後、提督と吹雪、あきつ丸が第1会議室で待っていると扉がノックされた。

すでに重々しい空気が会議室に蔓延し入室した艦娘たちは緊張でこわばっている。

呼ばれた艦娘たちが全員揃い着席したのを確認すると、提督はカラカラに乾いたのどをお茶で潤してから話を切り出す。

「いきなり呼び出して申し訳ない。時間が惜しいので単刀直入に言おう。ここは1945年10月30日の日本ということが判明した」

ざわっと場の空気が変わる。

それも当然、いきなり1945年と言われても何が何だか分からないだろう。

「提督よ、ここまで呼んでおいて冗談なら笑えんぞ? と言いたいとこだが納得できるのが恐ろしいな」

長門が溜息をつくようにいった。

「えぇ、昨日は真夏日で大変暑かったのにいきなり肌寒くなりましたからね」と間宮は思い返す。

タイムスリップ前の佐世保鎮守府付近では33℃を観測し、アイスやかき氷などがバカ売れしていた。

「でもさぁ、記録的な冷夏になったと説明ができるんじゃない?」と発言したのは北上だった。

普通ならば異常気象かもしれないと思うが、間宮は更なる証拠を出した。

「いえ、それだけではありません。聞いたことのないような様々な無線が飛びあっていました。旧日本軍だけでなく自衛隊と名乗る組織、そして微弱ですが米軍の無線も確認できました」

間宮は強力な無線通信設備を搭載しておりこういったのはお手の物だ。

ゆえに一番驚いたのはサラトガだった。

「待って、なぜUSAが……それに1945年10月30日……っ、まさか」

サラトガは勢いよく立ち上がり、嘘であってほしいとすがるような顔で提督を見つめた。

「そのまさかだ。ここの日本は終戦どころか戦争を継続することを決め、連合国は対抗するようにダウンフォール作戦を11/1に決行していることが先ほど判明した」

一瞬の沈黙の後、会議室は騒乱の渦に巻き込まれた。

サラトガは力なく椅子に崩れ落ち、ウォースパイトは王冠がずれ落ちたのに気づかず呆然とし、ガングードは咥えたパイプがポロッと机の上に落とし、ゴトランドは青ざめながら連れてきた(ゴトシープ)ぎゅっと抱きしめ、青葉はメモ帳を床に落とし、占守は処理能力がオーバーヒートしたのか気絶してしまった。

他の艦娘達も信じられない、なぜなんだと動揺を隠せない。

「気持ちは分かるがまずは落ち着け。まずどうしてこうなっているのかここの日本の歴史から話そう」

鵠提督は全員が落ち着くのを待ち、深呼吸してから再度口を開く。

その内容はあまりにも信じ難いものだった。

歴史が明らかになるにつれ艦娘たちの顔はどんどん青ざめていく。

一通り話し終えると皆言葉を失い、ズッシリと重い空気が蔓延していた。

無理もない、史実では行われなかったダウンフォール作戦がここでは明後日に始まろうとしている。

それは受け入れがたい現実であり、特に連合国軍に属していた艦娘にとっては岐路に立たされていた。

 

日本につくか、連合国につくか。それとも中立か。

そして他の海外艦娘にこの事実をどう伝えればいいのか。

 

長門はちらりと連合国軍側の海外艦娘を見るが、とても話しかけるような雰囲気ではなかった。

「私たちはどうなるのでしょうか?」

鳳翔はそんな重々しい空気を変えようとおしとやかに発言する。

「うむ、元の世界に戻ることが第一だけど連合国軍の侵攻が間近なのがな……それに帝国海軍側はすぐにでも参戦してほしいと要望していた」

「それってつまり……」

雪風が恐る恐ると聞くと鵠提督はゆっくりと頷く。

「あぁ、向こうの佐鎮の傘下に入り連合国軍と戦うことになる」

「ダメよっ、それだけは……!」

サラトガは今にも提督につかみかかりそうな勢いで立ち上がるが、隣に座っていたウォースパイトに制止される。

「複雑な状況なのは分かっている。だからどうするべきか会議を設けたんだ。……君たちはどうしたい?」

長い沈黙が流れ、暫くたったのちサラトガが発言する。

 

「私は連合国軍に対して戦争を止めるべきと説得したいです」

それに賛同したのは連合国軍に属していた艦娘達。

「説得か……」

「えぇ、そうすれば戦闘は避けられるしお互い無駄な血を流すこともないわ」

確かに理屈としては正しいだろうが……日本の艦娘達は複雑な心境だった。

自分達の祖国が滅亡に向かっているのを黙って見過ごすことはどうしてもできない。

かと言って連合国軍艦娘の前で戦います、とは口が裂けても言えないのが辛いところだ。

それに待ったをかけたのがビスマルクだ。

「確かに一番の理想だけど、私たちのことをどうやって連合国軍に説明するの? 下手すれば貴方たちは裏切り者となってしまうかもしれないわ」

「そ、それは……」

サラトガは言葉を詰まらせる。

通信でいきなり私たちは連合国軍の艦娘ですからこんな戦争を止めて講和しましょう、平和が一番です、なんてきたら日本軍によって洗脳されたのかと思われても仕方ない。

そもそも艦娘という存在自体がイレギュラーであり、一から説明しても理解してもらえるのか不安だった。

 

「……降伏するのはどうなの?」とゴトランドは発言する。

それは皆の頭に過ったことではあったが、否定的な意見が提督から出る。

「連合国軍に保護されたとしても日本の艦娘は実験体にされるだろう。そんなことをするのは私が許さないし、連合国が手に入ることを阻止したい帝国海軍が奪え返そうとするだろうから更に混沌としそうだ」

実験体、それを聞いて長門とサラトガは苦い思い出がよみがえった。

 

クロスロード作戦。

 

艦船に核兵器を使ったらどれくらいの被害になるかをビキニ環礁で実験された。

その他にも酒匂やプリンツ・オイゲン、アメリカの老朽艦が使われ今でも海の底に眠っている。

この実験の成果は沈没したのもあれば最後まで生き残った艦船も多々あり、米国は艦船に核攻撃はあまり意味がないと判断し海の古強者はなんたるものかを見せつけた。

 

「待って、捕虜を実験体にするってジュネーヴ条約に反しているのでは?」

リットリオが指摘すると提督は脳内にある記憶を引っ張り出す。

「いや、捕虜に関する条約は第二次世界大戦後の1949年に改正されるんだっけ…史実通りならあと3年待たないといけない」

「ならハーグ陸戦条約はどうでしょうか?」

ハーグ陸戦条約はオランダで作られたということもあり、デ・ロイテルはそのことを少し知っていた。

ただ詳細は流石に覚えていないので提督がしばらく席を外し、図書室から分厚い本を持ってきたので確認していく。

「えぇと、あったあった。交戦者の資格によれば、法規、権利、義務は正規軍だけでなく条件を満たす義勇兵とかでも交戦者となるのか。もし独立して動いてもこれならちゃんと適用されるみたいだ」

「なるほど……あ、でもこの世界って私たちがいたとこじゃないからそういった条約がない可能性ってあるんじゃない?」

デ・ロイテルが恐ろしいことを口に出し全員が息をのむ。

「下手すれば原爆や毒ガスを躊躇なく使用するんじゃないか?」

ガングードがタバコのパイプを咥えながらサラトガを鋭い目つきでけん制する。

日本に無差別な空襲と2発の原爆を投下した史実があるだけに、サラトガは反論できなかった。

それにダウンフォール作戦の計画案にはまさにその兵器を使用することが書かれていたが、あくまでも計画だと自分に言い聞かせる。

しかしその願望は叶えられないだろう。

今現在フィリピンや沖縄には生物化学兵器を大量に貯蔵しているが、この世界に来たばかりの自衛隊、彼女たちが知るはずもない。

「もし連合国軍がそのような兵器を使用したら、君たちはどうするんだ…?」

長門はサラトガやウォースパイト等の連合国軍艦娘を見渡す。

「貴方たちだって本音は祖国のために戦いたいんでしょう」

「っっ……」

日本艦娘たちは図星なのか強く否定できず口を紡ぐ。

バチバチと火花が散るような空気感の中、鵠提督は腕を組み目を閉じて思考する。

(戦争というのはお互いの正義をかけたぶつかり合い。これは長引くよな)

結局この場では結論が出ず艦娘へアンケをとることになり、次回へ持ち越しとなったので別の話題に移る。

「さて大淀、鹿屋と岩川はどうだった?」

「はい、提督及び艦娘の存在はいまのところ確認できていません。また、前所属の幌筵や呉、舞鶴、横須賀その他泊地にも電話を掛けましたが使われていない番号になっていました」

「なるほど……現時点でここに来てしまった艦娘は我々の佐世保鎮守府だけか。明石、資源備蓄はどうなっている?」

「はい、燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトは全て35万、高速修復剤等も3千とMaxまでありました。しかしながら遠征による資源獲得は今のところ期待できないとみていいでしょう」

「失った資源は回復はできない可能性が高いか……無くなるまでどれくらいかかる?」

「大和改二重の燃料・弾薬の消費資源は最大で700。連合艦隊12隻が仮に大和型戦艦で運用したと仮定した場合、消費資源は700×12隻で8,400。35万で割るとおよそ40日分。もちろん無傷で帰還した場合ですから中破や大破をすれば消費資源は跳ね上がります」

「さらに基地航空隊や陸戦の出番があると仮定すると、30日で済むかどうか……」

「節約例として天龍型1隻で50、特型Ⅰ型1隻で35の水雷戦隊で計算すると50+(35×5)で225。輸送護衛なら450。35万を450で割ると777日、えぇと2年近くはもちますね。海防艦主体ならもっと伸びますがどちらも無傷で帰還した場合ですから」

「ということは資源が尽きるまで1年前後は見積もったほうがいいか。間宮、食料品の備蓄量は?」

「えっと、歓迎会で使った分を差し引いても十分にあります。けど新たに補充することは難しいと思います」と頭の中で計算していく。

「人道支援として兵士や周辺住民に炊き出しするとなると、その分はあるか?」

「全員を賄うとなると、とても足りないかと」

「そうか……節約のためしばらくは戦闘糧食に切り替えるしかないか」

秋月型が聞いたら喜びそうだが一航戦ならがっくりと肩を落としているだろう

幸い任務で得た秋刀魚の缶詰等が沢山あるのは救いだが、置かれている状況は最悪といっていい。

資源や食料の殆どは遠征、輸入に頼っている。

回復しないとなれば備蓄を切り崩して生活しなければならず、それがスッカラカンになったら死を意味することになる。

 

 

 懸念事項はまだある。

仮に連合軍の戦艦アイオワが攻撃によって轟沈してしまったら、それによって艦娘のアイオワがいなくなる可能性もあり得る。

最悪連合国側の艦娘が旧日本軍・自衛隊の攻撃によって鎮守府から消滅する……それだけは避けなければならない。

どうするべきか鵠提督は意見を求めることにした。

「その予想に関しては私は大丈夫かと思います。なぜなら本来の駆逐艦吹雪は1942年10月11日にサボ島沖海戦で沈没しているからです。この第二次世界大戦の世界についた途端私は艦船としてはいない存在ですから消滅しているはずです」

「なるほど一理あるな。吹雪の言う通りならほとんどの日本艦娘は消滅しているはずだ。しかし、そのルールがどうなっているかすら分からん。仮にすでに沈んでしまった艦艇は艦娘に影響でないけどこの時点現存している艦艇が沈んだ場合それと同じ艦娘も消滅します、というルールがこの瞬間に適用されていたら……?」

「そうなると現存している連合軍の艦艇が中破や大破したら艦娘も同じように服が破ける、もあり得るのでは?」

あきつ丸はちらっと自分の胸を見つめる。

もし今ここで突然パーン、と服が目の前で弾け下着や装甲胸部が露わになったらと思うと、自分から言っておいて顔から火が出そうだった。

「連合国側の艦娘と同じ艦艇はなるべく無傷で手にいれて佐世保とかに曳航し実験する手もあるがリスクが高い。どうやってここまで曳航するのか、その護衛は誰がやるのかといった問題がある」

どうすればいいかと提督が悩んでいると、鳳翔が手を挙げて発言する。

「提督、それなら私が引き受けましょうか? 呉空襲で軍艦としての鳳翔は呉にあるはずです。損傷も少ないですしうってつけかと」

「ならサンプルは多くあったほうがいいかと。私も立候補しましょう」と青葉も手を挙げる。

「私も。といっても呉か鹿児島のどっちかにいると思うけど」と北上も立候補していく。

「私も協力を申し出たいが、おそらく横須賀でコロネット作戦のため固定砲台として運用される可能性があるな……」と長門は悔しそうな表情を浮かべる

「うーん、軍部がそれを許すかどうかは非常に難しいと思うんだが」

艦娘のためにおたくの生き残っている軍艦を実験に使いたいです、なんて言ったら門前払いとなるのは間違いない。

またもや暗礁に乗り上げていると、静観していたサラトガが恐る恐る口を開く。

「提督、私たちの艦載機を使ってみるのはどうでしょうか? 深夜に連合国軍が空襲でやってきたなら誰もお咎めないでしょう」

その発言に皆驚き、目を丸くする。

夜間空襲なら昼間よりも難易度は上がるが、どこから来た部隊なのかはよっぽど近づかない限り判別するのは難しい。

低空で呉まで飛べばレーダーに探知しにくくなり、仮に攻撃がバレたとしても適当な部隊名を挙げ威力偵察とほら吹けばいい。

しかし提督は難色を示し首を横に振る。

「いいのか? いや……乗組員に被害がでてしまうし、戦闘機で撃ち落されるかもしれん。それに艦娘がそんなことをしたのがバレたら色入りとまずい」

「なら大破着底している私とかを狙えば大丈夫かと。もうほとんど転覆してましたし、乗組員もいないはずです」と大淀もフォローする。

「君たちの熱意は分かった。ただこれも待機している艦娘たちに聞かなければならない。1時間後まで意見をまとめてくれ」

1回目の会議は解散し、代表者たちは牛歩のようにとぼとぼとそれぞれの部屋へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 同じ頃三面海将たちも佐世保地方総監部へと戻ると、次々と情報が舞い込んできた。

現時点分かっていることは、鹿屋基地は全員無事で、九州に存在する全基地も無事に連絡取れたとのこと。

警護出動は発動されなかったこと。

鎮西演習に参加している人員や兵器も無事にあること。

燃料や弾薬、食料、医療品等も同じく在庫はすべてあった。

やはりそうか、と三面海将はテキパキと指示を出す。

三面海将の気迫にただ事ではないと誰もが直感し、迅速に行動を開始した。

佐世保地方総監部が天と地をひっくり返したように騒がしくなり、慌ただしく人員が動き回り電話をかけたり会議室をセッティングしたりとてんてこ舞いとなっている。

しかし東日本大震災や熊本地震を経験したこともあってかスムーズに物事が進められ、15分後には対策本部が立ち上がる。

対策本部が設立された大会議室には佐世保地方総監部の主要幹部や佐世保港に泊まっていた護衛艦の艦長が勢ぞろいしていた。

テレビ会議で健軍駐屯地対策本部と繋がっており、陸と空の主要幹部全員が集まったことを確認すると、自衛隊の運命が決まる会議が始まった。

『ではこれより会議を始める。音頭は私がとらせてもらう』と関川陸将がマイクを手に取ると会議室の空気がピン、と張りつめた。

『まず状況確認だ。先ほど帝国陸軍と接触し話し合いした結果、1945年10月30日の日本にタイムスリップしてしまい、あろうことか本土決戦前ということが分かった。三面海将、そちらも帝国海軍と接触したと思われるが裏はとれているか?』

「はい、佐世保鎮守府の杉山中将らと話し合いしましたが、11月1日に連合国軍による侵攻があると明言しておられました」

三面海将のはっきりとした発言にこの会議室だけでなく向こうも動揺したのか、ざわめきが広がる。

『そうか……分かったありがとう。本土決戦に至った経緯についてこちらが聞いたのと同じかどうか確認したい』

『では杉山中将から得た情報をお話します』

アメリカの原爆開発失敗、災害によるソ連の北海道上陸中止、皇国血盟維新団によるクーデターの成功、ポツダム宣言の破棄を三面海将は包み隠さず説明する。

動揺が大きかったのは初めて経緯を聞いた護衛艦の艦長たちだった。

多くの艦長は頭を抱え始め、ある者は分かりやすく青ざめ、またある者は怒りを抑えきれないのか震えている

当然の反応だろう。

なぜポツダム宣言を破棄し、あまつさえ本土決戦に引きずり込んだのか理解できなかった。

「ふざけるな! クーデターで鈴木内閣を倒し本土決戦内閣を樹立し、あまつさえには挑発行為だと!?」

1人の艦長が思わず声を荒げると、周りの艦長たちも怒りや呆れの声が上がる。

今現在、日本の勝敗はもはや決していると言っていい。

日本が勝てる確率は限りなくゼロに等しいからだ。

このままでは収拾がつかなくなるので三面海将が場を収める。

「落ち着け。我々が今すべきことはもう過ぎてしまったことに憤ることではなく、これからどうするか話し合うことです。それに時間が惜しい。なぜなら明日の7時には連合国軍の爆撃が予想されるからです。南九州の自衛隊基地をどうするべきか早急に結論出さなければ多大な被害がでます」

『三面海将の言う通りだ。まずはこれをみてほしい』

関川陸将が第8情報隊隊長を務める藤山 優介(ふじやま ゆうすけ)2等陸佐に指示を出すと、スクリーンの映像が切り替えられる。

映し出されたリアルタイムの赤外線映像を見て、全員が息を飲む。

それは無人偵察機から撮影された吹上浜の様子を捉えた画像で、海を埋めつくすように軍艦が悠々と構えていた。

 

『偵察の結果、吹上浜海岸には第5艦隊で護衛空母36隻・戦艦11・巡洋艦26・駆逐艦387の計460隻を確認しました』

460隻、その数にどよめきが広がる。

『宮崎海岸と志布志湾海岸は無人偵察機による偵察はまだ確認出来ませんがおそらく数百隻は確実に超えるかと』

「ということは最低でも500隻以上の軍艦が南九州を取り囲んでるのか……!?」

環太平洋合同演習(リムパック)ですら多くても50隻くらいは集まるがその10倍となる。

聞いたこともない数字に艦長たちはめまいがしそうだった

『川内駐屯地は連合軍の軍艦がいるところから20㎞も離れていないため戦艦の射程内であり、また上陸予想地点からそれほど離れていないため我の戦力だけでは守り切るのは到底不可能と判断。よって川内を放棄しえびの駐屯地へ撤退し体制を整えたいものだが……』

川内駐屯地の第8施設大隊長の高柳 哲樹(たかやなぎ てつき)2等陸佐は言葉に詰まりながらも提言する。

この施設大隊は多くの建設機械等を持っている貴重な部隊だ。

その特性から対戦車は110mm個人携帯対戦車弾(LAM)で対人においては12.7mm重機関銃が自衛火器の最大火力であり、大量に迫りくる連合国軍を迎え撃つには蟷螂の斧である。

 

『それを言うなら新田原基地と高畑山(たかはたやま)分屯基地が危ない。とくに後者は貴重なレーダーサイトがあるため連合国軍は狙う可能性が高いから我としても絶対に死守したいが……』

西部航空方面隊司令官の古間 貴之空将は春日基地の司令部で難しい顔を浮かべつつ、地図を指し示しながら説明する。

高畑山分屯基地には、弾道ミサイル探知にも対応している最新のJ/FPS-7に更新されている。

これを失っては防衛に穴が開いてしまうが、山頂500m以上の所にあるため防衛するのは難しく、無数に降りそそぐ軍艦の砲撃にはたとえ地対空ミサイルを配備しても厳しいだろう。

 

「鹿屋基地も同じ状況です。志布志(しぶし)湾から17㎞ほどですが連合国軍の艦艇が多数確認されています。しかし……」

三面海将も口ごもる。皆その理由は分かっていた。

新田原陸軍飛行場と鹿屋海軍基地の存在、そして防衛している各師団や国民義勇戦闘隊のことだった。

飛行場には特攻用の航空機が多数待機しているのが確認でき、11月1日にそこから飛び立ち連合国軍に特攻することを意味する。

また、ほとんどの国民を総動員してまで防衛に当たっている。

それを横目に自分たちだけがこそこそと安全圏まで逃げることは果たして許されることなのか?

下手すれば恨みを買う行為であり、今後とも友好な協力は得られなくなるだろう。

 

 誰もが答えを出しあぐねている中、第43普通科連隊長兼都城駐屯地司令の田上 正夫(たがみ まさお)1等陸佐が挙手し提案する。

『仮に旧日本軍と基地防衛するとなっても、戦術や兵器の運用が全く異なります。混乱を招くだけですので我々は独立部隊として運用するのはどうでしょうか?』

独立部隊、その言葉に感心したような声がちらほらと上がった。

一部の陸軍方面軍では持久戦を用いるように指導していたものの、多くは水際作戦や浸透戦術を採用していた。

自衛隊の戦術は専守防衛とはいえど、遠距離からミサイルによって洋上で敵を撃破する戦法をとっている。

似て非なる戦法の故、混合部隊として運用すればゴタゴタになるのは目に見えている。

それに弾薬類の規格は旧日本軍とは全く異なる。

弾薬切らしたからそっちの使っている弾薬貸して、ができないのは痛い。

なら最初から独立部隊として動き得た情報を提供し連携して撃破していけばいいと考えを述べ、南九州に所属している各幹部達は納得したような表情を見せる

 

そこに待ったをかけるようにDDG-176ちょうかいの艦長である姫野 由香里(ひめの ゆかり)1等海佐が立ち上がって反論を述べた。

イージス艦の女性艦長としては2人目の事例であり、DD-153ゆうぎりの艦長に就任していたこともある。

『待ってください。それは自衛隊が戦争をすることになります! 内閣総理大臣ともまだ連絡が取れていないのに戦争をすればこれは重大な憲法違反です! 私は断固反対し降伏も視野に入れるべきかと』

降伏という言葉にやはりその意見が出るよなと周りの幹部たちは心の中で溜息をつく。

降伏すれば連合国軍も殺さないし戦闘による犠牲者は出ないことになる。

まさに誰も傷つかないめでたしめでたしなハッピーエンドだ。

姫野の発言に苦々しい顔をしたのは独立部隊に賛同していた幹部たちだ。

彼らだってできることならば戦わずに済ませたい。

が、憲法9条・平和主義を高らかに掲げても向こうからしてみれば「知らんがな」状態だ。

降伏した瞬間に処刑される可能性もゼロではない。

『確かに戦闘すれば憲法違反及び自衛隊員の多くが死傷するのは明らかだ。だがそれ以上に日本国民の多くが目の前で死んでいくことになる。この戦争で連合国軍が南九州を占領すれば今度は関東へ向かう前線基地となり、関東を獲れば中央政府や天皇、皇族たちがいる長野県松代へ向かうだろう。それを黙って見過ごすことはできない』

田上1等陸佐は冷静に反論するが、空自幹部や護衛艦の艦長、戦車大隊幹部を中心に降伏に賛同していた。

『しかし! ここは私たちが生まれ育った日本ではありません! 別世界の日本ですし暴論になりますが、知ったことか私たちを勝手に巻き込むな、と思っています』

流石にそれは言い過ぎだと周りから声が上がるも、降伏派はヒートアップしていく。

「それに自衛隊は人殺し集団ではありません! この70年間で1度も銃で人を殺していません。その誇りを失ってもいいんですか!?』

『そうだ! それに将来の同盟国と争って何になる!』

『機甲戦は技術差がありすぎてワンサイドゲームになるだろう。ゲーム感覚で人を殺めてしまうのはいかがなものか』

降伏派の主張が大きくなり田上1等陸佐は危機感を募らせる。

彼らは言うことはもっともだが、憲法やプライドを死守してまで滅びゆく運命であろう別世界の日本を傍観するのはいくらなんでも馬鹿げていると思った。

 

 するとさらに別の意見が出る。

『私としては中立な立場をとり、戦争を終わらせるよう交渉すべきだと思う』

『未来の情報を出して誠心誠意に説得すれば分かってくれるはずだ』

西部方面システム通信群長の袋津 1等陸佐や第8情報隊隊長の藤山2等陸佐が中立という意見も出して、派閥は3つに分かれ喧々諤々とした雰囲気となる。

このままでは平行線をたどるだけになると思い、関川陸将は軽く咳払いすると話を切り出す。

『君たちの言うことも分かる。だからこそ慎重に動かなければならない。ひとまず民主主義らしく出た意見を元に全部隊にアンケートをとるのはどうだ?』

そう言った後、各部隊の幹部たちを見渡すとまぁそれなら……という空気が流れ騒がしかった会議室の雰囲気は落ち着くが、また一つ懸念事項が第1航空群司令の青海 一馬(おうみ かずま)海将補から上がる。

 

 『もし前線に近い基地を放棄するとなったらどこまで逃げ、武器や機密書類やらはどうするのか?』

『それだけじゃありません。燃料や弾薬、食料等も一緒に持っていかなければ連合国軍の手に渡ってしまう。優先順位をつけてほしい』

西部方面後方支援隊長の豊栄 昇平(とよさか しょうへい)1等陸佐も同調して付け加える。

その問題も頭が痛くなる。

特に燃料や食料が連合国軍に懐に入ったら、ただでさえ物量不足している旧日本軍が圧倒的に不利になる。

弾薬も規格が違うから今すぐ使うことはできないが、いずれ解析されるだろうからそうなるのは避けたい。

『ちょっと待ってくれ。連合国軍の手に入らないように基地を爆破したり機密書類を破棄するのは理解できる。しかしその直後、私たちがいた現代に戻ってしまったらどうするんだ?』

高畑山分屯基地司令の苗場 三史郎(なえば さんしろう)2等空佐が待ったをかける。

他の者たちも最悪の状況を考えてしまったのか、暗い顔になった。

そうなったら自分たちは本土決戦最中の日本から命からがら戻り連合国軍の手に入らぬよう色々としちゃいました、などと妄言を吐く怪しい集団になってしまう。

下手したら懲戒免職で精神病院行きかもしれない。

地震と火災で壊滅してしまった案も出たが、地震による崩れ方と爆発による建物の崩れ方は異なる。

よほど上手くやらない限り見破られるだろう。

どうするべきか……と皆が悩んでいると、高柳2等陸佐が妙案を思いついたようだ。

いったいどんな案がでてくるのかと全員の視線が集中する中、彼は自信満々な様子でこう述べた。

『連合軍のせいにすればいい』

どういうことだ、と誰もが頭の上にはてなマークを浮かべている。

『確か明日7時に最後の爆撃があるんですよね? それまでに基地に爆薬を仕掛け遠隔操作できるようにする。そして偽情報を連合国軍に流す。例えば援軍が基地に合流するとかね。爆撃機やら艦砲射撃がうまい具合に来たら爆破スイッチを押す。勿論証拠としてビデオも回せば現代に帰ってしまった場合でも上に説明できるかと』

施設科の仕事は構築だけではない。地雷原の処理や道路、橋の破壊をするために爆弾を仕掛けることもあるのだ。

『わかった。その作業は早めに越したことはないから早速作業に取り掛かってくれ』

関川陸将が命令すると高柳2等陸佐が指示を出す。

指示が出された川内駐屯地では第8施設大隊がシャベルを中心とした建設機械を動かし始め、他の駐屯地でも小型シャベルやスコップを持ち突貫作業で進めていく。

 

 




また大雪となりましたね。
先月のと比べればそれほど積もらず、公共機関も事前に通行止めし集中除雪するなど大規模な渋滞はなかったかな。

そしてこの日は誕生日を迎えました。よい一年になりますように
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