異聞!決号作戦   作:シン・アルビレオ

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今更ですがWBC盛り上がりましたね! 日本代表優勝おめでとうございます


8話 紆余曲折

 時刻は22時を回り雨が降ったり止んだりする中、少しでもバレないように暗視装置を用いて近くの林でざくざくと小型スコップで塹壕を掘り進めている第8施設大隊の第2施設中隊。

グラウンドではシャベルを中心とした建設機械で機密書類等を隠す穴を恐るべし速度で進めている重機の音が聞こえてくる。

「なぁ、どうするよ?」

喜多2曹は隣にいる同僚の小金3曹に声をかける。

「どうするもなにも実感が湧かないですよ。タイムスリップしたかと思えば太平洋戦争終盤で、しかも史実ではなかったダウンフォール作戦があるなんて」と困惑しつつも塹壕を掘る作業は止めなかった。

「でも見ただろ? やってきた帝国陸軍の兵士に武装した市民。おそらく国民義勇隊だ」

最初に川内駐屯地が発見されたのは、たまたま散歩していた住民だった。

いつのまにか見たこともない建物があったのでこっそりと忍び込むと、びっくり仰天し大きな音を立ててしまいつつもその場を脱兎のごとく後にした。

それに気づいた見張りの自衛隊員は追いかけようとしたがすでに見当たらず、上官に怪しい人物が侵入していたらしいと伝えていると帝国陸軍を乗せた小型車両が何台かやってきて今に至る。

「旧式の銃だけでなく竹槍、農具まで持っていたのはびっくりしましたね」

藤見士長の言葉に周りの隊員も同意する。

あの光景は衝撃的だった。自分たちと同じ年代どころか老若男女問わず、果ては少年までが偵察にきたのだから。

交渉及び確認したのは陸軍が中心となり国民義勇隊はその後ろで見守っていたが、あまりにも非現実的な光景に自衛隊員たちは理解が追いつかなかった。

それにかなりやせ細っており栄養失調になっていることは一目瞭然だった。

「満足に食料や装備が与えられてないはずだ。それでも玉砕覚悟で殺るんだろう……」

喜多2曹が呟くとそれを聞いた周りの隊員の士気が下がり、掘るスピードが若干遅くなる。

「できることなら彼らを救ってやりたいが中隊長が言うには別世界の日本らしい。俺たちが関わったことで歴史が大幅に変わっていくのはいいことなのか?」

小金3曹は普段からタイムスリップ系の小説を愛読しており、介入することがバタフライ効果になってしまうことを危惧している。

「でも……彼らを見捨て逃げるのも嫌ですよ」

藤見士長の声色から複雑な心境が生じていることに誰もが気づいていた。

おそらくどの部隊でもこのような議論が交わされていることだろう。

「まぁアンケは出したし決めるのは上だ。ほれ、少し遅れてるぞ」

喜多2曹が皆を促すと止まりかけた手を動かしていく。

 

 一方、川内駐屯地の会議室では中隊長や幹部同士で話し合いが続いていた。

「まず周辺の陣地にいる陸軍や住民達はどうします? 撤退するまで炊き出しで支援するのはどうでしょうか」

第1中隊長の内野1等陸尉も栄養失調になっているであろう国民義勇隊を見て居ても立っても居られなくなったのか提案する。

「しかし後方支援隊は健軍駐屯地にある。要請しても連合国軍の侵攻までわずかしかないし明日にも空爆があるそうだ。食堂を開放してもその中で炊き出しするのはあまりにも危険すぎる」と礼拝陸曹長は首を横に振る。

「撤退する前にせめて戦闘食糧Ⅱを配りますか?」

第2中隊長の1等陸尉が対案を出すも礼拝陸曹長はうーん、と考え込む。

「いい案だが全員を賄えるほどの戦闘食糧はあるのか? 部隊の分も残しておかないとすっからかんになるぞ」

「南海トラフ地震を想定して戦闘食糧や非常食は多めに備蓄していましたので大丈夫かと」

「配ること自体は賛成なんだが、″私たちは逃げますが代わりにそれを配るので頑張ってくださいね″、となるなら向こうの心情は悪くなると思う。それにゴミも出ますし見たこともない先進的なレーションを見たら連合国軍は回収して分析されてしまうかもしれません」

第3中隊長の羽生田1等陸尉の指摘に内野1等陸尉は呆れたような大きなため息をつく。

「じゃあどうしろっていうんですか! このままじゃ彼らはお腹をすかせたまま戦って死んでいってしまうんですよ! せめて飯はたらふくと喰わせたい!」

「落ち着け! まず我々が生き残ることが最優先事項だ」

礼拝陸曹長は激高する彼にペットボトルに入った水を渡し宥めるように言い聞かせると、水を飲んで落ち着いたのか深呼吸をして冷静さを取り戻す。

「すみません。つい感情的になってしまいました」

「気持ちは分かるが戦闘食料を作る工場もどうなっているのか確認できていない。補給が見込めない以上戦闘食糧をおいそれと配布するのは難しい。部隊の存続が第一だ」

それに、と一呼吸置く。

「医療に詳しいわけじゃないが、長い間栄養失調状態の人間が急激な栄養補給をすると死んでしまうことがあるらしい」

これはリフィーディング症候群と呼ばれ古くから記録はあるが、近代医学として詳細な記録として残されたのは実は太平洋戦争の末期であった。

そこまで言うと彼は納得したのか、これ以上反論することはなかった。

 

 そして重機はどうするかという話になるとまた議論が活発化していく。

連合国軍が手に入らないように爆破処分する案、セミトレーラーで安全な地まで持っていく案が出るがどうもパッとしない。

「セミトレーラーがあるとはいえ、えびの駐屯地までは90km以上離れてます。道中には山道もありますし途中で連合国の空軍に見つかったら全滅しますよ」と本部管理中隊長の保内1等陸尉が懸念点を上げると行き詰ってしまう。

すると地図を見ていた彼がなにかを思いついたようだ。

「えびの駐屯地まで行かなくてもいいんじゃないか?」

中隊長たちはどういうことか、と互いに顔を見合わせる。

「北に行けば出水市や水俣市がある。事前に海自に協力を要して港まで行き、建設機械を輸送艦で安全圏まで運べばいい。距離も40km程度で済むがどうか?」

なるほどそれがあったか、と皆納得しかけたが礼拝陸曹長が待ったをかける。

「しかしおおすみ型の最高速度は40km/hだったはず。佐世保からだと全速力でも5〜6時間近くかかり、今から向かわせても0300くらいになる。それに吹上海岸付近には102隻の軍艦がおり空爆まで数時間しかない。探知され海自と我が部隊が攻撃に晒される危険性があるぞ」

「長島が目隠しになるとはいえ空からの脅威は消えないか……」と保内1等陸尉は残念がるが羽生田1等陸尉がならばと提案する。

「戦闘機やイージス艦を護衛につけたり、探知されないよう電子妨害を仕掛けるのはどうでしょうか?」

その提案に対し礼拝陸曹長は半分却下、半分賛成した。

というもの空自と海自が戦闘を始めることになり、おそらく渋るだろうと。

しかし電子妨害ならばどちらも死傷者は出ないので、了承する可能性はあるというのだ。

更に西部方面システム通信群の第319基地通信中隊が川内駐屯地にいたことも思い出し、彼らにも頼んでみることにした。

ここだけでなく宮崎海岸と志布志湾に我が物顔で居座る連合国軍に電子妨害を仕掛ければ、向こうは混乱の極みになりその間に撤退すれば被害が出る可能性がグッと下がる。

もし海自が何らかの障害で来れなくなる可能性も考え、第二のプランとして陸路で撤退することにした。

「さて、上に伝える前にあれの結果はどうなっているか現時点で教えてもらえるか?」

第8施設大隊にはおよそ550人ほどの自衛隊員がいる。その他の部隊も合わせると700人ほどが川内駐屯地にいる。

礼拝陸曹長にメモが渡され確認すると撤退が260、中立し説得するのが200人くらいで90人がここで抗戦、回答を決めかねている隊員が150人ほどとなっていた。

割合でいうと20%の隊員が決断できていないことになる。

仮にこの20%全てが離脱する考えを持っていればどうするのかと礼拝陸曹長に問いかけると、暫くの間思案した後重々しく口に出す。

「勿論その意思は尊重するが、部隊の運用に支障をきたすほどの人員が大量に離脱したら引き留めるかもしれん……」

 

 

 打って変わって新田原基地や鹿屋基地では放棄し春日基地及び築城基地まで撤退する意見がほとんど占めていた。

近年、人民解放軍の著しい増強を受けて防衛省等はやっと重い腰を挙げ新田原基地等に航空機掩体(シェルター)を設置している。

対爆用だが流石に戦艦の艦砲射撃は想定していない。

そもそもミサイル戦が占めている現代戦において戦艦は無用の長物となったのだから。

例としてヘンダーソン基地艦砲射撃がある。飛行場の破壊には成功したが、もう一つの新しい飛行場は事前偵察ですらかすりもせず無事だった。

旧日本軍は戦術的に失敗したものの、米軍を中心とした連合国軍は抜かりなく徹底的に基地を破壊するだろう。

そうなればいくら地対空ミサイルを基地に揃えようが優秀な航空施設科が何度滑走路を直そうが、苛烈な対地攻撃の前では焼け石に水なのは間違いなかった。

 

 

 えびの駐屯地ではどうかというと、ここに留まって態勢を整えようとする声が多かった。

というのも南九州の中では戦線から一番離れており、市の中心にはカルデラ性の盆地、南部には霧島山とえびの高原、北部には矢岳高原で囲まれておりまさに天然の要塞ともいえる。

旧日本軍だけでは連合国軍を抑えきれず、いずれ戦線は大崩壊するだろう。

そうなったとき軍司令部や残存してる部隊は霧島山地に転進し、最後の決戦をすると読んでいた。

旧式だが北海道から第2師団第2戦車連隊の74式戦車がおそらく最後の演習に参加しており、今は湯布院駐屯地で待機しているが山地が多いこの地形ではハルダウンを用いた待ち伏せ戦法はうってつけだろう。

宮崎平野や志布志で戦う案も出たが、南九州の各駐屯地にバラバラと防衛部隊を置いても量で圧倒する連合国軍相手には厳しいし、対艦ミサイルがいくら優秀でも数に限りがある。

戦艦の装甲は被弾前提で作られており、多少の被弾でも撃ち返してくる恐竜みたいなものだ。

陸の王者である戦車ですら戦艦の射程内にいれば、まるで赤子の手をひねるかのように戦闘不能に陥るだろう。

なら最初から戦艦の射程外であるえびの駐屯地で戦力を集め空自や特科による攻撃で数をなるべく減らし、橋頭保や伸びきった補給線を遮断、引くに引けなくなった連合国軍を霧島山地まで引きずり込んで質で圧倒するプランをえびの駐屯地だけでなく偶然にも都城駐屯地の幹部たちも描いていた。

 

 

 高畑山分屯基地の第13警戒隊では南九州唯一無二のレーダーサイトをどうするか意見が割れていた。

山頂にレーダーサイトがあり航空機から見れば一発でバレる。

隠そうにもデカすぎて無理、移動も当然無理と固定レーダーの弱点が浮き彫りとなっている。

一番近い都城駐屯地でも70km程離れており、志布志湾を通るか国道220号線で日南市を経由するルートしかなくどちらもリスクのある道だ。

03式中距離地対空誘導弾や短距離地対空誘導弾を急いで配備しても、ウンカのように押し寄せる連合国空軍と戦艦の艦砲射撃相手には分が悪い。

なら海自が所持しているイージス艦なら対処できるのではないかと意見が出た。

しかしながら佐世保からここまで来るにはいくつかの障害を乗り越えなければならず、処理能力が高いイージス艦でも流石に限界がある。

空自のジェット戦闘機は速くてミサイルという利点があるが、その場に留まれない欠点がある。

空の脅威が少なくなったとしても、今度は歩兵がグンタイアリのように押し寄せてくるだろう。

志布志湾と日南市から押し寄せてきたら守り切れる自信がない隊員が多く占めていた。

結局泣く泣くレーダーサイト等を爆破し都城駐屯地を経由しえびの駐屯地まで撤退することにしたが、ただでは帰さないことにする。

道中や建物の至る所にブービートラップをできるだけ仕掛け、連合国軍の戦意を削ごうと考えていた。

幸い周りは山間部で竹や木材が沢山あるため加工するには困らなかった。

 

 

 一方で健軍駐屯地やその他駐屯地では交戦するよりも中立の立場で説得し戦争を止めるべき、という声が半分近くを占めていた。

まず南九州にいる隊員や兵器を避難させるのは勿論、自分たちの未来の歴史を話してソ連の脅威等を説いたり、自衛隊の映像を見せたりする。

仮にこの交渉が受け入れられず敵意を向けられたら、威力偵察として様々な兵器を一発も撃つことなく見せつける。

いわば砲艦外交によってこれは本物だ、勝てないと戦意を挫き停戦にへと持ち込むのが最終目的である。

更に新政権や軍部にも同じように話し合いをする。

自衛隊を手にいれようとあれこれ画策したりすれば痛い目にあうぞ、と希望的観測を込めて訴える。

 

しかし、それはグラブジャムンのように甘すぎる見通しだと反論の声が当然上がってくる。

連合国軍がその話を信じる保証はない。

プロパガンダだと一蹴されたり、受け入れた振りをして罠に嵌めたり、そもそも交渉に応じずいきなり撃ってくる可能性だってある。

更に停戦しようが、新政権側や軍部が認めなければ意味がない。

彼らが怒り狂ってこちらにに宣戦布告したら本州の旧日本軍と国民義勇隊が押し寄せてきて日本人と日本人が血で争う最悪の未来もあり得るだろうという反論に誰もがゾッとする。

そいつらが中枢に巣くう限り日本という国は永劫に平和が訪れないだろう。

 

それを防ぐには秘密裏に鈴木内閣の関係者や終戦派を救出し、新政権にカウンター・クーデターを仕掛けなければならない。

レンジャー資格者や対馬警備隊、第1空挺団、特殊作戦群がちらほらと鎮西演習に参加しておりこういった救出作戦にはうってつけの人材がいるも、実行すれば歴史がどう転ぶのか分からない。

いや、自衛隊らがこの時代にタイムスリップした時点で歴史は変わり始めている。

どちらの言い分も分かるだけにはっきりとした答えが出ず、ただ時間だけが過ぎていっていく。

 

 

 

 

 

 深災対佐世保鎮守府でも艦娘たちが各部屋で甲論乙駁(こうろんおつばく)と議論が交わされていた。

日本艦娘は相手は深海棲艦ではなく生身の人間ということもあって意見が割れていたが、祖国を守護りたいという声が圧倒的に占めていた。

パイロットたちを特攻に向かわせることを阻止したいのは空母艦娘の間で一致し、様々なレシプロ戦闘機を基地に配備し特攻員は後方配備に追いやる案が出ると周りは次々と賛同していった。

さらに自衛隊基地にもレシプロ戦闘機を配備し、替えが効かないものを一旦後方に避難させる時間を稼ぐ案が吹雪、あきつ丸、青葉の妖精さんから出される。

佐世保基地に潜り込んで諜報していた妖精さん曰く、自衛隊には戦局をガラリと変えるほどの兵器があるらしい。

実は別れる際に吹雪とあきつ丸は妖精さんに海自のお偉いさんにくっついていくよう指示を出していた。まぁ、青葉は独自に動いたようだが気にしないでおこう。

ご存じ上げる通り自衛隊には様々な節約があり、最悪の場合何もできずに人員も装備も失われてしまう。そうなれば敗北を意味する。

よって日本艦娘側の方針は大まかに決まったかと思われた。

が、義勇戦闘隊による老若男女問わない特攻はどうするのか、パイロットだけを助け国民を助けないのは不公平なのではとあきつ丸から質問が出ると誰もが返答に詰まる。

それらも防ぐためには艦娘が前線に立たなければならない。

前線に立つことに反対していた艦娘は一定数いたが、特攻で死んでしまう方々を少しでも減らし日本を守護れるならば本望だと考えを改めていく。

問題としては彼らたちの説得やどこに配備するのか等があるものの、後ほど提督と突き詰めていけばいいので日本艦娘たちは一旦解散する。

 

 

 さて、海外艦娘側はやはりというべきかは意見がまとまらず、音頭を取っているサラトガの顔には疲労感が漂っていた。

一旦皆で休憩を取りサラトガが部屋を出ると、様子を見に来たであろう吹雪と遭遇した。

「かなりお疲れのようですね……」

「いやもう……こうなることは分かっていましたが。そっちはどうですか?」

「大まかですがこのようになりました」

A4用紙でまとめられたのを目で追うと、気になる項目を見つけた。

(特攻……あぁ、カミカゼか)

サラトガ自身は硫黄島攻略戦でカミカゼアタックによる大被害を受けたことがあり、その恐ろしさは身に染みている。

あんなクレイジーな戦法は二度と経験したくないし、そちら側も特攻を阻止したい。

ならば最善案は枢軸国の艦娘や戦闘機を配備することになるだろう。

代わりに米空母艦娘の艦載機や基地航空隊が来ようと言うなれば、あっという間に袋叩きになることは目に見えている。

実際にB-29が撃墜されたり不時着してしまい生き残った搭乗員が、一般市民や軍人による集団暴行で亡くなってしまう事例もあったからだ。

(本当に難しい立場ね……)

サラトガは心の中で軽い溜息をつく。それに前線に立つということは連合国軍兵士と戦うことになるので複雑な心境だ。

かといって日本艦娘を阻止するとなると、もはや内ゲバであり敵からしてみれば願ってもない状況だ。

とりあえず吹雪を海外艦娘がいる大部屋へ招きその紙を皆に見せることにする。

一旦提督に長引くかもしれない、とスマホのチャットで断りを入れるのも忘れない。

 

 吹雪がサラトガのあとについて部屋に入ると、まるでディベートのように枢軸国と連合国の艦娘で別れていてピリピリとした空気が流れている。

中立国であったスウェーデン艦娘のゴトランドは顔をゴトシープに埋めながら休んでいたほどだから、激論が交わされたのだろうと想像ができる。

「すごい現場ですね……」

「放っておくだったり降伏する案も出たけど、あの会議で提督が発言したようにゴトが実験体にされるかもしれないと言ったらまぁ荒れちゃってね」

先ほどの会議に参加していた海外艦娘で恐れていたのはこちらが何もせずに日本が負けてしまい、日本艦娘が賠償艦として実験体になってしまうことだった。

同じ釜の飯を食った仲間が実験体になるのはいくら何でも耐えられない。

そして連合国軍の艦娘もそうなってしまう可能性も否定できなかった。

拒否しようが″君たちの艦娘を自国の発展のために役立て″と強制的に連れていかれ新たな戦争の道具になり軍事バランスが崩れるのは容易に想像できる。

そうなると残るのは提督ただ一人となり彼の処遇はどうなってしまうのか。

捕虜として捕まり戦犯者として処刑されてしまうかもしれない。あるいは生体解剖実験に回されるかもしれない。

海外艦娘達は考えたくない未来に寒気が走る。

 

勝てば官軍負ければ賊軍

 

勝者だけが正義

 

そんな理不尽極まりない話であるが、過去の歴史から見ても証明されている事実である。

疲れ切ったゴトランドから吹雪に代わり、コピーされた日本艦娘側の案を皆に配っていく。

じっくりと読んだ彼女たちの反応はそれぞれで違い、ある者は渋い顔を、またある者は納得したような顔で読み終えていた。

この反応は想定内だ。

「長引くほど不利なので手っ取り早く終わらせるには、アメリカに潜り込んで民衆の世論を煽るのもどうでしょうか?」

(フム……ベトナム戦争か)

アイオワの姉妹艦であるニュージャージーはまだ確認されていないが、ベトナム戦争で対地砲撃をした例があったことを思い出した。

圧倒的な戦力を投入したにも関わらず北ベトナムの強固な抵抗によりズルズルと泥沼化したことで財政が圧迫され、更には機密文書の漏れや民衆の反戦運動がアメリカ各地、いや全世界で高まったことで米軍は撤退しベトナム戦争は終結した。

「いい案だけど真珠湾みたいな事例がベトナム戦争ではなかった。それについてはどうするの?」

アイオワが危惧していたのは真珠湾とベトナムではアメリカ民衆の意識が違うことだった。

 

真珠湾に卑怯な手を使った日本には徹底的な報復を。

ベトナムが共産化するのは許されない。

世論誘導があったとはいえ怒りの根源とエネルギー量が段違いなことを説明する。

 

「それにこの時代はテレビ放送も中断していてラジオや新聞が主流なはずだから、ベトナム戦争のように大衆が戦争を気軽に知るのはちょっと難しいカモ。それに10年も続いた。資源の輸入が見込めない今の日本に耐えきれる?」

「じゅ、10年も!? いや私たちもそれくらい深海棲艦と戦ってるけどそんなに……」

吹雪が驚くとガンビア・ベイがおずおずと手を上げる。

「あの、私はジープ空母と呼ばれていた護衛空母の一隻ですから、いくら質が良くても戦いが長引いたらアイオワさんの言う通りベリーハードだと思いマス……」

彼女が言う通りカサブランカ級護衛空母は週刊護衛空母なんていう言葉があり、戦時中は建造ドッグをフル稼働するほどの物量と人員があったからこそできた芸当である。

それに戦争が長引くということは、新たな兵器を研究する時間ができることも意味する。

だから余裕を与えない為にも初手から全力で殺るしかないが、連合国軍の上層部が大本営発表したり新聞などを検閲する可能性もあるし、そもそもどうやって包囲網を突破してアメリカに行けばいいのか。

 

艦娘の利点を生かせばなんとか潜り込めそうだが船の速度なので時間がかかる。

レシプロ機は速いがアメリカまでの距離が足りなく、そもそも防空網を突破できるのか。

 

皆が頭を悩ませていると吹雪がなにか思いついたようにパン、と手を鳴らす。

「もし潜入するとしてもわざわざシアトルやロサンゼルスまで行かなくてもいい。私たちの前所属は幌筵、そこに一番近いアメリカといえばお判りでしょう」

アメリカ艦娘達がハッとした表情を浮かべる。

「アラスカ州……!」

「えぇ、まず日本海から大湊へ行きそこから宗谷海峡を通り単冠湾、幌筵を中継しアラスカ州に極秘潜入するのもありですが問題は天候ですね」

アリューシャン列島があるベーリング海では深海棲艦が出る前まで屈指のカニ漁場として一攫千金を狙う漁師が真冬に集まっていた。

しかしその環境は台風並みの暴風に荒れ狂う大波、氷点下を下回る気温で死傷者が出るほど過酷を極める。

鍛え上げられた艦娘でも冬期間は出撃制限どころか禁止がかかることもあるくらいだ。

 

「ちょっと待って。たしか飢餓作戦によって佐世保港や日本周辺には機雷がたくさんばらまかれているはずよ。それにアッツ島には陸軍飛行場があるわ」

サラトガが待ったをかける。

吹雪という艦はサボ沖海戦で轟沈しているので、それ以降の歴史は全く知らない。

艦娘になってから歴史の本や教科書で昔に学んだ程度なのですっかり忘れていた。

話し合った結果スパイ作戦については一旦保留しこういった案もあったよ、と提督に持ち込むことにする。

連合国艦娘たちはあくまで停戦を呼びかけつつも後方支援に回ることにした。

そして粘り強く交渉したにも関わらず非人道兵器(原爆や生物化学兵器)の使用が確認されたら反旗を翻して日本艦娘側につくことにする。

これはクロスロード作戦における実験艦として沈められたサラトガの強い要望だった。

海外艦娘の方針がおおまかに決まったので吹雪がちらりと時計を見ると、時刻は1時近くを回っていた。

「これから司令官と会議してきますね。皆さんお疲れ様でした」

彼女が退出すると海外艦娘は眠気を抑えながらぞろぞろと自室へ戻っていく。

これからどうなっていくのか誰にも分からない不安が立ち込めていた。

 

 




艦これは10周年が経ち4/1には色々な情報出ましたね。
一言言わせてもらうと吹雪ちゃんマジ天使すぎて昇天しかけた……あれは反則よ!
無事にクリアファイルも手に入れました。あとはグッズや!

艦これ運営、しばふ先生ありがとう

2023/5/9 機雷について編集
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