転生したらウイポ馬主だった件   作:佐月檀

61 / 61
 ネイティヴダンサーしゅき。


グレイゴースト

「すみません、伊坂先生。少しお尋ねしたいのですが」

 

「なんでしょう?」

 

「我々、日本とアメリカを行ったり来たりしているじゃないですか」

 

「そうですね、反復しています」

 

「これでよく体調を崩さないなと」

 

 茶化すように談笑して、目先のことに視線を移す。

 

「まあ、彼らが体調を崩さない限り、我々も大丈夫だと思います」

 

 言われて、灰色の馬体を揺らすスペちゃんを、関係者専用スペースから眺める。

 馬体はがっしりと引き締まっていて、まさに万全といえる状態だろう。

 それに、鞍上もこの日を覚悟していたような面持ちで、手綱をしっかりと握っている。

 

「スペちゃんも、日原さんも気合十分のようですね。まるで最終決戦に臨むようですよ」

 

「まあ今日のレースはまさにそうでしょう。なにせ――」

 

 

 

 ――スペちゃんの相手となり得る馬も三冠馬なんですよ。

 

 

 

 

 ああ、と内心で空を仰ぐ。

 雲ひとつない晴天、燦々と照る陽光、そしてそれらをスポットライトにし、この魔境に降り立つ強豪たち。

 強豪たちと一口にいえど、このレースは僅か6頭立て。

 せっかくのBCクラシックだというのに、回避が続出してしまったことには、やや寂しさを覚える。

 もちろんそれほどに出走馬のメンバーレベルが高すぎるのもあるが、それでも肩を竦めたくなる。

 

「フルゲートで戦えれば、なおさら燃えるんだけどなぁ」

 

 誰にも聞き取れないよう小声でぼそっと。

 まあ、結果的にはこうなってしまったのだから、仕方ないものは仕方ないのだが。

 

 誘導馬についていって、一頭、また一頭とゲートに吸い込まれていく。

 スペちゃん、いや、スペクタキュラービッドは6頭中の5番。係員に引かれて、オレたちもゲートに収まる。

 

 と、すでに収まっている4番の栗毛馬を一瞥する。

 あれが、今日オレたちが負かさねばならない絶対王者たる名馬。

 確かに、日本馬ならシアトルスルーがあれを負かした。だが、その影響もあって、なおさらこちらを厳しく猛追してくるはず。

 

「アファームド……」

 

 この大舞台で1番人気と支持を集めた、絶対的王者。

 今年もドバイワールドカップを楽勝するなど、その実力を示している。

 

 だが、オレは信じる。

 オレが信じ、愛し、共に想いを背負う、絶対的愛馬を。

 

 手綱を握りしめる。

 鞭を持つ手に力が入る。

 耳に入ってくる、風の音。

 

 ――一瞬だった。

 

 

 

『スタートしましたッ!』

 

 

 ゲートが開く。手綱を押す。

 押して、押して、押しまくる。

 しかし先手は1番の鹿毛に取られた。ならばと、その馬体に外から並びかけていく。

 だが。

 

「――ッ!?」

 

 ほんの一瞬だった。1番とスペクタキュラービッドの間に割り込んできたのが、栗毛だとわかるのは。

 唇を噛みしめる。相手に悟られないよう内心で。

 マークされるのは確信していたが、これでなおさら悪い方向に理解してしまう。

 

 ――あんの野郎ッ、こっちの動きを完全に読んでやがったッ!

 

 だが今思えば無理もない。

 アファームドが米三冠馬ならば、スペクタキュラービッドは米四冠馬といえるのだから。

 

馬群は団子状態、本命馬は前目に固まっている。

 800m、1000mと通過していくが、先頭にはまだ1番。それに内からはアファームドの徹底的マーク。

 しゃーねぇ、と内心で毒づき、手綱の抑えを少しづつ緩める。

 

 こんな展開になると、先頭が垂れるまで待つのは却って悪手。

 こうなりゃ無茶だが、

 

 ――灰の怪物に鞭を、合図を入れる。

 

 残り800m、最終コーナーから仕掛けてやる――!

 

 

『おーっと先頭は、最終コーナー付近、残り700mほどで、先頭は日本! スペクタキュラービッド! 鞭が入ってスペクタキュラービッド! 日原の鞭が! 躍動している! これは早いが、早すぎるが、どうなんだどうなんだ!? あっという間に先頭を躱してスペクタキュラービッド! 連れてアメリカ総大将アファームド! この気をつけなければならない馬もやってきました!

 果たしてどうだ!? スペクタキュラービッド、保ってくれるか!』

 

 

 オレとスペクタキュラービッドは全戦で共に勝ち抜いている。

 初めて乗ったあの日から、今に至るまで、まさしく人馬一体。まさにパーフェクト。

 

 そんなパーフェクトなオレたちを、負かせるものなら、

 

 

 

「――負かしてみやがれぇッ!」

 

 

 

 喉は今にも張り裂けそうだった。だが自然と、気にもならない。

 意識するのは、後ろから迫ってくる相手だけ。

 鞭を入れ、手綱を押し、ひたすらがむしゃらに。

 

 

『先頭は、先頭はやや外を通りまして、スペクタキュラービッド! 残り200mを切って、スペクタキュラービッドが僅かに先頭! 半馬身ほど後ろにアファームド! じりじりと差を詰めに来ている!

 しかしまだ先頭スペクタキュラービッド! まだスペクタキュラービッド! 日本馬がまだ先頭! 凌げるか!? 凌げるか!?

 スペクタキュラービッドか!? アファームドか!? スペクタキュラービッドか!? アファームドか!?

 

 

 

 二頭叩き合いになりながらゴールインッ! 勝ったのは、勝ったのは……!

 

 

 スペクタキュラービッド! スペクタキュラービッドが半馬身ほど猛追を凌ぎました! 今年のBCクラシック、栄誉を手にしたのは日本馬! スペクタキュラービッドだ! まさに怪物! 鮮やかに! 鮮やかに勝ち切りました! 場内から『グレイゴースト』とコールが響き渡っております!』

 

 

 

 

 

 この日――芦毛の怪物(スペクタキュラービッド)に、ひとつの異名が送られた。

 

 ――『二代目グレイゴースト』、だと。




【1979年BCクラシック 着順


 1着 スペクタキュラービッド 1:59:2
 2着 アファームド 半馬身
 3着 アリダー 1馬身】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

覇王伝説第二章(作者:ノワールキャット)(オリジナル現代/スポーツ)

20世紀末。▼8戦8勝の年間無敗、史上最多の年間GI5勝。▼2000年に降臨した絶対王者、世紀末覇王と称されたとある馬の後継者。▼これは、かつての相棒と駆ける覇王伝説の第2章である。▼─────▼ある騎手が引退することなので、書いてみました。▼執筆者はにわかな部分が多いです。かなり優遇していますので、史実改変が嫌という方はここでブラウザバックしよう。▼初めて…


総合評価:3627/評価:8.97/連載:43話/更新日時:2026年09月10日(木) 13:00 小説情報

暴君忠長に転生したので、兄上のために日本列島をメンテします 〜SFチートのはずが、田んぼと水路と寺社ノードの保守係なんですが〜(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル歴史/戦記)

現代日本で死んだ主人公が転生した先は、江戸幕府を開いた徳川家。▼身分ガチャは大当たり――かと思いきや、幼名は国松。▼のちに兄・徳川家光と対立し、「暴君」と呼ばれて破滅するはずの徳川忠長だった。▼将軍の座など絶対にいらない。▼生き残るためには、兄・竹千代を全力で支え、「敵」ではなく「便利で忠実な弟」になるしかない。▼そう決意した国松が最初に始めたのは、天下の根…


総合評価:2142/評価:7.26/連載:142話/更新日時:2026年09月03日(木) 17:34 小説情報

着替えろヴィラン!!魔法少女なんてどうだ?(作者:運命決定)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ヒーローになるための学校らしいが▼気付いたら着せ替えばかりしている気もする▼まあいい▼服は楽しいからな▼今日も誰かが着替える▼多分爆豪だと思う▼AIに描いてもらった主人公ビジュ▼【挿絵表示】▼


総合評価:1412/評価:7.97/連載:37話/更新日時:2026年08月16日(日) 13:53 小説情報

存在しないはずのライスシャワーの娘に転生しました(作者:雅媛)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

転生した。▼ウマ娘になった。▼そして母親はライスシャワーだった。▼前世でライスシャワーを応援していたTS転生ウマ娘ピュアホワイトにとって、それだけで今世は大当たりである。▼しかも両親は優しい。▼生活にも困らない。▼身体は健康。▼走れば速い。▼やはり自分は幸運だ。▼多少大外枠ばかり引こうが、妙な事件に巻き込まれようが、そんなものは誤差である。▼不幸だと思う母か…


総合評価:1730/評価:7.96/連載:28話/更新日時:2026年09月13日(日) 06:00 小説情報

親愛なるシャーロックへ(作者:カニ漁船)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

決まっている運命を覆すために。メジロ復活のために奮闘する。▼※8/10追記 Simca V様からAI作成イラストでメジロシャーロック(ウマ娘の姿)のファンアートを頂きました!ふつくしい……。▼【挿絵表示】▼


総合評価:6400/評価:8.6/連載:97話/更新日時:2026年09月12日(土) 23:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>