その栄光により、日本におけるサッカーの地位は格段に高まっていた。故に、サッカーは学校や人の価値を決める存在となってしまったのだ。サッカー界を管理する組織「フィフスセクター」からの勝敗指示に従わなければならない。もし指示に逆らえばそのサッカー部は廃部にさせられ、サッカーができなくなってしまう。
だから、為す術なくそれに従うしかなかったんだ。自分たちが求めている、熱くて自由なサッカーなんてどこにもない。二度と戻ってきやしないんだ、と。
でも、どこからかそれは突然やってきた。
「革命」という名の、新しい風がーーーーー。
第一話 突然の刺客
入学式。
それは学生にとって人生一大イベントであり、新しい生活の第一歩となる。満開の桜の下で華々しくスタートを切るのがまさに理想。
そして二年生に進級した美空瑠那も、サッカー部員として新入生が集まるのを心待ちにしていた。
しかしながら、そう上手くはいかないのが現実だ。
「雷門サッカー部は指示により一新され、お前らは全員お払い箱だ」
剣城京介と名乗る紫色の学ランを羽織った彼は、「フィフスセクター」から送られてきた"シード"らしい。彼に負けてしまったらしいセカンドチームは、ぼろぼろな姿でベンチの前に座り込み、悔しさを堪えるように唇を噛み締めている。
(ついに来たか・・・)
フィフスセクターは試合における勝敗指示を出すだけでなく、シードをスパイとしてサッカー部に送り込み、チーム内を混乱に落とそうとしたり・・・。強制的に部員を総入れ替えさせたり、勝敗指示に逆らったチームを廃部にされる・・・等と絶えない噂を耳にしてきたが、まさか自分たちがその対象になるとは思わなかった。
彼の背後に続々と並ぶ、見慣れない姿の11人。雷門の象徴ともいえる稲妻マークが描かれた黒に染まったユニフォームを纏っていた。
「これが新たな、雷門イレブンだ」
これまで多くのサッカーチームと試合を重ねてきたが、それでも圧倒的なこの威圧感と迫力はさすがシードといったところだった。
「真の雷門イレブンは俺たちだ!」
瑠那と同じ二年生でありながらキャプテンを務める神童拓人が、眉をひそめて声を大きくする。冷静な態度を装っているが、彼の声ははっきりと怒りを含んでいた。
「ああ、待ってたぜ。さぁ・・・本番を始めようか」
まるで今から自分たちと試合をするかのような口ぶりだ。
「不当に暴れているお前たちと勝負するつもりはない。それとも、正式に試合の手続きを取ったとでも言うのか?」
すると彼は、足元に転がるサッカーボールを操作しながら、神童の言葉に呆れた様子を見せる。
「どうやら、自分たちが置かれた状況を理解していないようだな」
(っ・・・!?)
後に響いた衝撃音が聞こえるより先に、彼を含むシードたち以外のその場にいた一同は息を呑んだ。彼が打ったボールの先にあるのは、雷門中サッカー部の旧部室だったからだ。ボールの衝撃で部室の一部は破損し、地面に落ちた「サッカー部」と書かれた看板は無惨に二つに割れてしまった。あまりの出来事に、皆言葉を失っていた。
そして馴れ馴れしく神童の肩に手を置く彼は、不気味な笑みを浮かばせながら脅迫する。
「よく聞け。これは"提案"じゃない」
"命令"だーーーーー。
愉しそうに笑う彼を神童は睨みつける。
「貴様・・・っ!」
神童が強く握りしめる拳は怒りに震えていた。
「じゃあ始めますか。キャプテン」
彼らは本気で自分たちを潰しにきたことを、全員が悟ったのだった。
その後、試合の話はあっという間に雷門中生徒の間で広がり、コートの客席には多くの生徒が興味津々と言った様子で集まっていた。どうやら生徒の間では、他のチームと"練習試合"ということになっているらしい。サッカー名門と名高い雷門サッカー部の練習試合。入学式早々なわけだから話題になるのも無理ない。
「美空。いつでも出られるよう準備しておけ」
「はい」
監督の久遠道也の指示により、瑠那は控える形となった。
試合開始のホイッスルがなり響くと、始めに神童と南沢篤志が攻撃を仕掛ける。敵をかわしながら順調にパスを繋いでいき、南沢がシュートを放った。ボールのスピードと威力は十分にある。自信満々の表情を浮かべる南沢はもちろん、雷門の皆は決められると確信していた。
それでも彼らには・・・。
ボールはゴールの中に入らず、キーパーの鉄雄田に片手で余裕にキャッチされてしまった。
「なにっ!?」
驚く南沢には目もくれず、ボールは剣城に渡り空中でダイレクトパスを繋いでいく。
「絶対決められると思ったのに・・・」
隣の男子生徒がそう呟くのが聞こえた。
(そういえば、この子・・・)
「君、もしかしてサッカー部の入部希望者?」
雷門サッカー部の顧問である音無春奈の話では、セカンドチームの後に彼ーーーー松風天馬も剣城と勝負していたらしい。突然話しかけられたからか一瞬驚いた顔をされるが、「はい!」とすぐに元気な返事が返ってくる。
「俺、ずっと憧れの雷門でサッカーをするのが夢だったんです」
澄んだ瞳が真っ直ぐに瑠那に向けられ、彼の言葉には一片の迷いがないことなんて嫌でもわかった。その目と合わせることができなくて、瑠那は「そうなんだ」と思わず目を逸らしてしまう。
(きっと彼も、何も知らないんだろうな)
その"憧れの雷門中"が、今じゃどんなプレイをしているかなんて。今のサッカー界のことも当然知らないはずだ。
「・・・なら、さっきはカッコ悪いとこ見せちゃったね」
「えっ?」
「セカンドチームといえど、新入生に負けるなんて傍から見たら情けない話だよ。『あの名門の雷門サッカー部がそんな弱いチームだったなんて・・・』って」
それだけじゃない。
サッカーが人の価値を決めるこの世の中、内申書のためにサッカー部に入部した人は少なからずおり、それは雷門サッカー部も同じだ。その人たちは、本気でサッカーをやろうとか、上手くなりたいなどと思っていないのだ。
まぁ、試合はほとんど勝敗指示が出されているのだから今更それをどうにかしたところで無意味なので、瑠那を含めサッカー部員は特に何もしてないわけなんだが・・・。
もしそれを彼が知ったらどう思うだろうか。せっかく『憧れの雷門』に入学したというのに・・・。
「全然、カッコ悪くなんかありません」
しかし瑠那の耳に届いたのは、慰めとも、お世辞ともとれない、はっきりとした意志を持った言葉だった。
「それに、俺は雷門が名門だからとか、強いから入学したんじゃありません。俺、雷門でサッカーをやるのがずっと憧れだったんです」
真っ直ぐ目を射止めされ、思わず気圧されそうになる。彼は雷門サッカー部を守るために剣城と戦った。あんな強敵を相手に最後まで一生懸命だったと、音無先生から聞いている。
いったい何が、彼をそこまで雷門に固執させているのだろうか。
「・・・そっか。ならこの試合、何としてでも勝たないとね」
しかし、しばらくして私たちの目の前に広がっていたのは、にわかに信じ難い光景だった。凄まじいシュートで先制点を取られ、開始早々雷門イレブンと圧倒的な力の差を見せつけた黒の騎士団。それは、素人の天馬でも見て分かるほどの明らかな実力差だった。神童は焦りから表情を崩していて、その動揺はチーム全体にまで広がっていた。
必死にボールを追いかけるも次々と点を重ねられ、0対10という絶望的な点差がついてしまった。選手たちも傷つけられボロボロな姿になり、神童はその惨状に呆然とする他ない。
「このままじゃ、雷門が・・・!」
すると隣に座っていた天馬が突然立ち上がり、「なんとかしないと!」と久遠の元へ訪れた。
「監督、このままじゃ先輩たちが・・・! なんとかできないんですか!?」
「なんとかするのは監督では無い、選手だ」
必死に訴える天馬に対し久遠は悠然と他人事のように答えるが、何か打開策があるのか立ち上がった。
「松風天馬」
「はい!」
「予備のユニフォームを着ろ」
発言の意図が理解できずに、「え?」と首を傾げる天馬。
(まさか・・・)
選手として約一年間久遠と関わってきた瑠那にとっては、その言葉の意味を察するのは容易なことだった。
「入部希望じゃなかったのか?」
「はい、そうですけど・・・」
「お前を試す」
意味深な言葉を残すと、ちょうどボールがタッチラインを越えて試合が一時中断になったところで大きく手を挙げる。
「選手交代! 南沢篤志に代わって、松風天馬!」
「えっ・・・ええーーっ!!」
天馬はもちろん、黒の騎士団含めその場にいた全員が驚いて目を見開いた。そりゃそうだ。素人同然の天馬が、雷門でさえ敵わない相手に太刀打ちできるわけがない。そもそも雷門の連携に溶け込めるのかすらわからないのに、なぜこの状況で彼を起用するのか理解し難い。
「無茶です! こんな試合で、彼を試すなんて・・・!」
そんな音無の反論を受けても、一切考えを曲げる様子はない。
「なんで、俺が・・・」
「わからないけど、監督には、監督の考えがあるんだと思う」
久遠が考えを変えることはまずない。もちろんそれは、久遠なりの考えがあることはわかっている。なにより彼は、かつてイナズマジャパンを世界一に導いた監督なのだから。でも、今回はそう簡単に納得いかないのは皆同様だった。いったい何を考えているのだろうか。
「はい、これ」
そんな疑問を抱えながらも、瑠那は背番号18を背負ったユニフォームを渡す。
「不安だろうけど、頑張って」
「はい・・・」
さすがに緊張しているのか、その返事には先程のような元気さはなかった。戸惑いながらもピッチの上でユニフォームを纏った天馬に、雷門イレブンは冷たい視線を向ける。当然の反応だが、当の本人はなんとも居た堪れない気持ちになるだろう。瑠那はそう心配したが、天馬の様子を見てみるとどうやら思ったよりかは大丈夫そうだった。大きく息を吸いし、「なんとかなるさ!」と自分に言い聞かせるように己を奮い立たせる彼の目は、自信に満ち溢れていたからだ。
そして黒の騎士団のスローインで試合は開始する。
「俺は、大好きなサッカーを守る!」
ボールを渡された剣城に天馬は猛進と進むが、実力差で軽くかわされてしまう。
「サッカーを守るだと? 笑わせるな」
そして天馬など意に介さないのか、もしくは見せびらかしか、他の雷門イレブンをボールで次々と攻撃し始めた。
「どうした? お前のサッカーへの愛はそんなものか?」
天馬は必死にボールを奪おうとするが、いとも簡単にかわされる。やはり素人をピッチに立たせるなど無理があったのだ。もはや一方的な試合展開のまま、前半終了のホイッスルが鳴り響く。
得点は0対10。前半終了でのこの得点差は、雷門イレブンを絶望させるには十分だった。
ハーフタイムが行われ、皆はベンチに戻るとドリンクを口にする。その空気の重々しさはどうしようもないほどだが、当然といえば当然だ。
「すみません、キャプテン。俺、フィールドにいても何一つ役にも立てませんでした」
責任を感じているだろう天馬は、真っ先に神童の元へ向かい頭を下げた。
「でも、このままサッカー部が取られちゃうなんて嫌です!」
「落ち着け。俺もサッカー部は渡したくない」
毅然とした姿を見せる神童も、内に秘めた想いは天馬と同じ。それはもちろん、神童だけじゃなく雷門イレブン全員だ。
「だがあいつの実力は半端じゃない。悔しいけど、俺たちを凌ぐ力だ」
名門クラスを誇ってきた雷門でさえも太刀打ちできないほどの実力。フィフスセクターに送り込まれた選手がこんなにも強い相手だとは、瑠那も計算外だった。
「これが、フィフスセクターのやり方だ」
「フィフスセクターって・・・」
首を傾げる天馬に、「そうか。お前はまだ知らないんだな」と神童はサッカー界の現状、そしてフィフスセクターの存在意義を説明する。
10年前少年サッカー世界一となった日本は、サッカーの人気が格段に上がった。するとサッカーの強さが学校の社会的地位を決めるようになり、強ければ栄え、弱ければ潰れてしまう。今やサッカーが、学校や人の価値を決めているのだ。
「お前だって、サッカーが強いからこの雷門に来たんだろ?」
「強いから・・・? 違います! 俺、雷門でサッカーやるの、ずっと憧れていたんです!」
先程瑠那に言っていたセリフを繰り返し、真っ向に否定する天馬。
「"憧れ"か・・・」
しかし神童は一瞬陰のある笑みを浮かべ、「そんなことを言っているのはお前だけだ」と一蹴する。
「結果が全てさ。サッカーが弱ければ価値のない者と見なされる。この事態を救済するために作られたのが、サッカー管理組織フィフスセクターだ」
こんな話を急に聞かされても、今まで純粋にサッカーをやってきた者からしたらすぐには受け入れられないだろう。天馬は信じれられない、という顔で唖然するばかりだった。大好きなサッカーがそんなことになっていたなんて、思いも寄らなかったんだから。
「・・・サッカーを愛する気持ちが自分自身を苦しめるなんて、皮肉な話だよ」
「美空・・・」
神童が振り向いた先には、ドリンクを抱えた瑠那が立っていた。落ち込んでいる天馬に、「水分補給」と持っていたドリンクを差し出す。
「あの頃の熱いサッカーはどこにもない。松風くんのように純粋にサッカーをやりたい人はたくさんいても、フィフスセクターには逆らえないから」
チームコース、選手の育成に至るまで、全てを管理するフィフスセクター。試合の勝敗まで意のままにし、逆らえば報復が待っているその実態は、『管理』という言葉では生易しすぎるくらいだ。今回雷門にフィフスセクターの選手が送り込まれたのも、久遠の方針がフィフスセクターの意に添わなかったと考えるのが妥当だろう。
「だけどな、たまにはまともな試合だってあるんだ。そんな時は、思いっきりサッカーができる」
自由にサッカーをやりたくても、逆らえば罰せられる。だからその『たまにあるまともな試合』のために、サッカー少年たちは大人しくフィフスセクターに従うしかないのだ。
主人公のキャラクター設定です。
主人公 美空 瑠那
中2
身長 天馬より少し高いぐらい
マイペースでどこか冷めた一面があり、周りに流されやすい。事なかれ主義で、よく言えば協調性があり、悪くいえば引っ込み思案。口数が少なく笑うのが苦手なため、近寄り難い印象を持たれることが多い。
昔から交流関係が狭いため人付き合いが苦手だが、心から信頼した人には本人曰く、気軽に話しやすいらしい。そんな彼女の人間性を良く理解している雷門イレブンは、彼女と適度な距離感で良好な関係を築いている。
神童や霧野とは小学校が同じで数少ない友人である。
小学生の頃、神童と霧野に誘われてジュニアサッカーチームに所属していた。卒業を機にサッカーを辞めるつもりだったが、瑠那の実力を見込んだ神童と霧野に勧められて雷門サッカー部に入部した。
サッカーを始めた理由はもちろん、今も続けている理由は本人曰く「なんとなく」。
小さい頃からサッカーをしているため、それなり以上の技術を有している。並外れた身体能力を持ち、その才能に慢心することなく部活以外でもトレーニングや自主練を毎日行っている。
父親は幼い頃に事故で他界。母親は教育熱心で、幼い頃は瑠那の身の回りのことはほとんど母親がやっていた。瑠那の交流関係すらも決めるほどだが、瑠那はそれを素直に受け入れていたため母親が瑠那を形成するようになる。最初は瑠那がサッカーをすることをあまりよく思っていなかったが、内申点に影響するようになってからは応援している。
夜空のような紺色の瞳に水色の髪色をした癖毛のセミロング。普段は下ろしているが、運動する時はポニーテールにしている。幼い容貌と細身の体型から、見た目は繊細で華奢な印象が強い。
ポジションはMF。
シュート技 クレッセントムーン
ドリブル技 ムーンライトレイン