革命の風に想いを込めて   作:菜花なのは

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第二話 目醒める化身

後半戦、雷門は選手交代で小坂と入れ替わりで瑠那が加わった。黒の騎士団からのキックオフで試合が再開する。

開始早々、ボールを持った剣城に神童はスライディングを仕掛けるが、軽やかな身のこなしでかわされてしまう。

 

「どうした? 早くも降参か?」

 

それでも諦めずにチャージをするが、あっさりと避けられる。

 

「諦めたらどうだ? お前たちはお祓い箱だ」

 

地面にひれ伏す神童にそう吐き捨ててロングシュートを仕掛ける。が・・・。

 

「させない・・・っ!」

 

瑠那はボールを奪おうと剣城の目の前に現れる。これ以上、仲間が痛めつけられるのを黙って見ていられなかった。だが、案の定巧みなプレーでかわされる始末。

 

(そう簡単には、ボールを取らせては貰えないか・・・)

 

攻撃を続けて、ようやく足先がボールに触れられるくらいだ。

 

(もう少し・・・っ)

 

「へぇ。女のくせに、ちょっとはマシな奴もいたもんだ」

 

しかし瞬時に避けられてしまう。懸命にボールを奪いにいく瑠那に反し、剣城は余裕の笑みを浮かべていた。突然間合いを取られたかと思うと、強烈なボールが瑠那に襲いかかった。

 

「くっ・・・!」

 

急いで態勢をとったが、想像以上の威力で瑠那の身体が吹き飛ばされる。ボールと地面に打ち付けられた衝撃で全身に痛みが行き渡った。

 

(次元が違いすぎる・・・っ)

 

「お前も、所詮そいつらと同じだ」

 

剣城はロングシュートで三国ごとゴールポストに叩き込む。その後も選手を巻き込んだシュートを放ち続け、早くも皆ボロボロの状態になった。

 

「俺たちに勝つことなどありえない。お前達のサッカー部は終わりなんだよ」

 

誰もが諦めかけていた。剣城の言う通り、自分たちの実力では彼らには敵わないと。

 

「終わり・・・?」

 

そう、身体が限界を迎えていた神童の瞳に影が差していた時、背後から「サッカー部は終わらない!」という"彼"の声が聞こえた。

 

「雷門サッカー部は誰にも渡さない。絶対に!」

 

何度転んでも立ち上がり、決して諦めない天馬の姿に目を見開く神童。同時に、それまで抑えられていた剣城の憤りが一気に膨れ上がっていた

「じゃあ奪ってやるよ!!」

 

逆鱗に触れてしまったのか、剣城は突然声を荒らげて他の雷門選手をドリブルで次々と吹き飛ばしていった。選手たちの悲鳴が響き渡るフィールド上は、やがてセカンドチームが打ちのめされた時のように死屍累々となる。

 

「理解したか? お前が憧れている雷門は所詮この程度だ」

 

傷ついて立ち上がることすらできない選手と、その恐怖心から足が竦んで思うように動けない天馬。その姿を滑稽だというように剣城は嘲笑った。彼らは、端から正々堂々と試合に勝利してサッカー部を奪う気なんてなかったんだ。選手たちを怪我させてでも、無理やりサッカー部を奪うつもりだ。それを悟った雷門選手の一人、水森は「もうダメだ」と弱音を吐き捨てながら傷だらけの身体を起こした。

 

「待てよ水森! どこ行くんだよ!?」

「俺やめるよ・・・」

 

足を引きずりながらフィールドを出ていこうとする水森。

 

「戻れ水森! 水森!!」

 

すかさず神童が止めに入るが、水森はその言葉に耳を貸さなかった。まともに動ける選手はほとんどいないにも関わらず、仲間が一人離脱。この絶望的な状況で彼らとどう戦えばいいのだろうか。

剣城のサッカー部を潰すという言葉が、現実になろうとしている。

 

「このままじゃ、皆潰される・・・っ!」

 

神童の顔に焦りが滲みでていた時、不意に天馬の足元にボールが渡った。

 

「やれよ」

 

不敵な笑みを浮かべ、天馬に勝負を持ちかける剣城。

 

「さぁ、来な」

 

無理だ。こんな奴に敵うわけない。瑠那も、その場にいた誰もがそう思った。まさか、この後に意外な展開が招くとは思いも寄らず。

天馬は自分を奮い立たせるように「いくぞぉぉー!」と声を張り上げると、ドリブルで一気に上がっていく。そして、迫り来る黒の騎士団をごぼう抜きするという快挙を成し遂げたのだ。

 

(速い・・・!)

 

スピードもドリブルの精密さも瑠那たちに引けを取らないレベルで、今までのプレーから考えられないくらいだ。さすがの剣城も予想外だったようで、瑠那も自身の目を疑った。あっという間にゴール前まで来た・・・かと思いきや、天馬はすぐに引き返して自陣へと向かった。

浜野海士が「おい、こっちにパスだ!」とパスを要求するが、それを無視して通り過ぎる。その後の霧野蘭丸のパス要請にも応じず、天馬は一人ドリブルをすることをやめなかった。

 

「なぜパスをしない・・・?」

「でも、凄いド!」

 

天馬の不可思議な行動を怪しむ一方で、一部の選手はそのプレーに魅せられていた。

 

(いったい、何を考えているんだろう・・・)

 

そう考えを巡らせていると、ある一つの答えが導き出された。

 

「・・・もしかして、試合が終わるまでボールをキープし続けるつもり?」

 

瑠那の呟きに、神童が「どういうことだ?」と問いただす。

 

「誰にもボールを渡さず、敵からの攻撃をいかせない・・・。私たちを守ろうとしているのかも」

 

これまでの彼の言動からそう考えるのが妥当だ。

 

「・・・・・・っ! バカな。そんなことをして何になる」

 

神童の言う通り、その策略で何かが変わるわけでもない。彼がそこまで雷門に固執する理由が、瑠那には理解し難い。敵陣をドリブルで順調に交わしていく天馬。

しかし、剣城はそれを良しとしなかった。

 

「そう上手くいくかよ」

 

策を見破った剣城が合図すると、天馬は一瞬でも敵に取り囲まれてしまう。突破は難しく、動けずにいる天馬の元へ剣城が歩み寄った。

 

「松風天馬。その顔、気に食わねぇ。・・・くだらねぇんだよ、サッカーなんて!」

 

すると突然、「はあぁぁ!!」という雄叫びを上げると同時に、剣城の背中から青黒いオーラが現れた。次第に大きく、濃くはっきりとした形に帯びていき、瑠那たちはそれを唖然として見つめていた。

 

「まさかあれは・・・!」

「化身!?」

 

人の作る気の力が極まり、形として現れる『化身』。その存在の希少価値は高く、人の目に晒されることは滅多にないためサッカー選手の間で都市伝説的として噂されており、瑠那も化身を見るのはこの時が初めてだった。

 

「これが俺の化身。『剣聖ランスロット』だ!」

 

甲冑を身に纏う剣士のような姿からは、恐ろしいほどの気迫を感じる。

 

「ありゃなんだ!?」

「本当にいたんだ、化身使い・・・」

「都市伝説じゃなかったのか!」

 

皆動揺を隠せずにいたが、剣城はそれを胃に介さず「驚くのはまだ早いぜ!」と猛攻を開始する。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

ランスロットの剣で痛めつけられ、天馬は身体を吹き飛ばされた。これでは再起不能にさせられるのも時間の問題だ。

 

「こんなのサッカーじゃありません! すぐに止めさせてください!」

 

堪らず音無が試合の中断を久遠に要請するが、黒の騎士団の監督を務める黒木はそれを拒否する。

 

「ダメです。まだ試合は終わっていません」

 

とことん天馬を痛めつけ、最終的に潰すのが目的なのだろう。その会話をしている間にも、天馬は剣城の攻撃を受け続けていた。ついにグラウンドの上に倒れてしまい、久遠はそれを見兼ねてベンチから立ち上がる。

 

「監督、俺は大丈夫です」

 

ボロボロな身体から絞り出されたその声は酷く掠れているというのに、天馬の瞳には未だ強い意志が残っていた。

 

「最後までやらせてください」

 

あんな攻撃を受けてまともに戦える力なんてもうないはずなのに、いくらなんでも無茶だ。

 

「そんな状態で敵うはずがない。このまま続けたら、松風くんの身体は壊れてしまう」

「最後まで・・・戦いたいんです!」

 

瑠那の忠告を聞かずしてフラフラと立ち上がる天馬。

 

「最後まで・・・最後までやり抜けば、きっと道は見えてくる!」

「・・・・・・っ!」

 

立ちはだかる強大な化身を前にそう強く叫ぶ天馬が、瑠那の目に眩しく映った。しかし、それでも化身を発動させた剣城と太刀打ちできるわけがなかった。

 

「くらえ!!」

「うわあぁ・・・っ!!」

 

剣城の容赦ない強烈なシュートが天馬の鳩尾を直撃する。

 

「松風!」

 

倒れ込んだ天馬の元へすぐさま駆け寄り、肩を抱き寄せる神童。

 

「無茶なことを・・・」

「俺、やりたいんです・・・。皆と一緒に、サッカーを・・・!」

 

神童たちでさえ、もう立ち向かう気力を失っているというのに。不屈の精神を見せる姿に、神童の諦めかけていた心が揺さぶられる。

 

「お願いです、キャプテン。サッカーを・・・諦めないでください」

 

天馬の手が伸ばされた先にあるのは、ユニフォームの胸元に施された雷門のエンブレムである稲妻だった。

 

「松風・・・」

「キャプテン、お願いします・・・!」

 

力なく掴むその手を離し、立ち上がった神童の目には大粒の涙が溢れていた。

 

「俺だって・・・!」

 

頬を伝い落ちる涙がフィールドにその跡を残していく。それはまるで、神童の自責の念を表しているようだった。

 

「なんで・・・なんでだよ!! 俺はチームメイトさえ守れない! 何がキャプテンだ! こんなもの・・・っ!」

 

不甲斐ない自分を悔やむように、腕に巻かれたキャプテンマークを掴む神童。

 

「キャプテン・・・」

 

そして、身体中を縛る冷たい鎖がばらばらに弾け飛ぶように、腹に収めていた気持ちを一気に吐き出した。

 

「ちくしょおおぉぉぉ!!」

 

(・・・・・・っ!?)

 

すると神童の背中から青黒いオーラが現れる。神童にも化身の力が芽生え始めたのだ。

 

「なにっ!?」

「これは・・・!」

 

予想外の展開に剣城も驚愕する。

 

「おおぉ! 化身の共鳴現象・・・! ランスロットが神童くんの心に眠る資質を呼び覚ましたのです!!」

 

二つの化身が対峙する光景に誰もが唖然とする中、黒木は神童の覚醒に魅力されていた。

 

(共鳴現象・・・化身にそんな可能性が・・・)

 

「・・・おもしれぇ」

 

一方で、サッカーの技術において人並み以上だと自負する剣城は、萎縮することなどなかった。

 

「雷門を守るのは・・・俺だーーーっ!!」

 

高ぶった感情のままに張り上げた神童の咆哮が、スタジアムに響く。そのまま剣城に衝突しようとする神童を天馬が止めに入った。

 

「キャプテン!」

「退け」

「でも・・・」

「退け!!」

 

尋常ではないその様子から、らしくなく我を失っているのは一目瞭然だ。そんな神童を、黒木に目配せを送り許可を得た剣城は迎え撃つ。

 

「俺はキャプテンなんだ! サッカーを守らなくちゃならないんだ!!」

 

涙ながらに訴える神童。それまで押さえ込んでいた分、感情が暴走してしまっているのだ。それを見た剣城は「できるかな?」と愉しそうに笑みを浮かべる。

 

「潰してやる。・・・この俺がな!」

 

凄まじい威力を持ったボールが神童に向かう。そのボールに誰もが撃ち破られたというのに、神童は化身の力でボールを蹴り返した。上空へ上がり、両者が高く飛んでボールを追いかける。目の前で繰り広げられる激闘を瑠那たちが目が離せずにいたその時、

 

「そこまでです!」

 

黒木は突然その闘争を制止した。剣城は仕方なく着地するも、納得いかないのか化身を仕舞いながら「なぜです?」と眉根を寄せる。

 

「試合はここまで」

「どういうこと?」

 

瑠那は聞き捨てならないと問いかけるが、黒木は耳を貸す様子はなく「撤収します」と続けた。

 

「逃げるのか!?」

 

肩を押さえながら噛み付く神童の言葉に「逃げる? 見逃すと言ってもらいたいですね」と心外だというように足を止める。

 

「しかし結果としては、あなたの存在が雷門を守ったということになりますから・・・神童くん」

 

意味深な言葉を残し、黒の騎士団と共にこの場を立ち去る黒木。瑠那たちは呆然とその背中を見つめていたが、ドサッと鈍い音がした方へ目を向けるとそこには倒れる神童の姿があった。

 

「神童!?」

 

数人が慌てて駆け寄り彼の名を呼ぶが、目を覚ます気配はない。慣れない力を使ったせいで体力を消耗してしまったのだろう。

 

「神童は私が保健室に運ぶ。お前たちは部室の片付けをしておけ」

 

そう告げた久遠は、神童を抱き抱えて保健室へ連れて行った。

 

「神童・・・」

「心配なら、一緒に行ったらどう?」

 

不安げに呟く霧野に、瑠那はそう声をかける。神童と霧野はよく二人で一緒にいる、所謂親友だ。元々友達思いな霧野だが、神童においては他の人たちも特別であることを瑠那はよく知っていた。本音は付き添いたくても、監督の指示に従うべきだと考えているのだろう。

 

「こんなことが起こって、起きた時誰もいなかったら神童も心細いだろうし」

 

まぁ彼の性格からしてそんなことはあっても口にはしないだろうが。親友の霧野がついていてあげた方がいいだろう。霧野は顔を綻ばせると「ありがとう、美空」と返して久遠を追いかけた。

 

(それにしても・・・)

 

輪の外で一人、ぽつんと暗い表情で黄昏れる天馬に目を向ける。入学式早々、こんな騒動に巻き込まれた彼の方こそ大丈夫なのだろうか。しかし、友達らしき女子生徒に話しかけられて彼の暗い影は消えていったように見えた。心配ご無用だったか、と瑠那は他の部員と共にサッカー棟を後にする。

ようやく嵐が去ったと思いたいが、これはまだ予兆に過ぎない。なぜ今回見逃されたのかはわからないが、雷門サッカー部がフィフスセクターに目をつけられていることは変わらない。それに、あの剣城という少年はどうやら天馬と同じ新入生のようだ。明日にでもまた、サッカー部を潰しにかかってくるだろう。いくら神童が化身を身につけたといえど、それだけで彼らに通用するとは思えない。

 

(この先どうなるんだろ・・・)

 

憎らしいほどの爽やかなそよ風を肌に感じながら、瑠那は小さくため息をこぼした。

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