I
■第二回戦 第一試合■
■大地の『ザムジード』 対 水の『ガッデス』■
「お待たせ致しました! 只今より、第二回戦を開始いたします!」
例によってブランソンの、しかし今回は妙に意気揚々とした声が轟き渡る。
「第二回戦の第一試合は、早くも魔装機神同士の対決! 大地の魔装機神『ザムジード』対、麗しき水の妖精、水の魔装機神『ガッデス』!」
ブランソンの声を合図に、中央モニターに『ザムジード』と『ガッデス』の全身像が表示される。
「粗暴にして暴虐なる闘神と、それに相対する流麗なる妖精騎士! ここは、猛牛を翻弄し、華麗な一刺しで葬る闘牛士のように、美しき水撃で打ち倒して貰いたいものです!」
「おいおい、覚えてろよ、あの野郎」
思わず苦笑が漏れる。確かブランソンは熱心なテュッティの信奉者だったはずだが、それにしても司会者があからさまに片方に肩入れするとは、職務に対するモラルを問いたい所だ。
突然、秘匿回線で通信が飛び込んだ。発信者を確認するまでもない。『使い魔』に命じて回線を開く。
「ごめんなさい、リカルド。ブランソンは悪い人ではないのだけど……」
モニター端の通信窓に、困り顔の金髪女性が映し出された。リカルドの予想どおり、『ガッデス』操者テュッティ・ノールバックからのものである。
「後でクギ刺しとけよ。この先毎回イヤミったらしく解説されちゃたまらん」
「あら、もう勝ったつもり?」
ニヤリと程々に下品な顔をして見せれば、向こうも申しわけなさげな顔をかなぐり捨てて破顔する。
「当然だろ。俺が負けるわけがない。何なら賭けるか? 俺が勝ったら膝枕権だ」
「あら、強く出たわね。私が勝ったら何が貰えるのかしら?」
「そうだな……俺の一日独占マッサージ利用権ってのはどうだ? 魔法はシンデレラが家に帰るまでだ。ちなみに拒否権は無しでな」
「あら、それじゃどっちに転んでもあなたに損のない賭けじゃない。ずるいわよ!」
「本当の賭けってのは、勝っても負けても得するように仕掛けるもんさ。勉強しな!」
言い捨てて、通信を叩き切った。着信コールサインが激しく明滅するが、黙殺する。悪辣と言われようと何と言われようと、一度決めた条件を引っ繰り返さない、或いは苦情に耳も貸さない事も、上手な賭けの定石である。
「…………! …………ら! リカルド! 話を聞きなさぃ……!!」
「それでは、試合開始!」
ようやく強制介入に成功したテュッティの声を、ブランソンの宣言が覆い掻き消す。
どうやら、前哨戦は勝利に終わったようだった。
Ⅱ
『ガッデス』の反応が一瞬遅れた。
アラームが鳴り響くと同時に、こちらは機体を疾駆させる。砲戦能力では全魔装機中最強クラスの『ガッデス』相手に、距離を置くのは得策ではない。
別に、助平心だけで、あのような賭けを持ち出したわけではない。操者テュッティの混乱を誘い、距離を詰めるチャンスを作るための小細工である――もちろん、勝利した暁には、しっかり賭けの商品を相伴に与かるつもりではあるが。
瞬く間に『リニアレール・ガン』の射程を割り込んだ。しかし『ガッデス』の砲は恐ろしく有効射程が広い。近距離でも有効な砲を幾つか備えている。
しかも、魔装機の中では飛び抜けて、二次元機動速度が早い。牽制に放った『アートカノン』を、小刻みな左右移動で軽々と擦り抜けてゆく。
理由は、『ガッデス』の足先に発生している水球である。水流を自在に操る『ガッデス』は、その足元に水球を発生させ、それをタイヤのように回転させて駆動しているのだ。普通のタイヤと異なるのは、その回転方向、回転速度に制限がないことだ。爪先が触れている限り、水は『ガッデス』の剣であり、鎧であり、翼でもある。
猛烈に接近する『ザムジード』に、『ガッデス』が距離を開きながら三又槍を振る。穂先から飛び散る水の飛沫。空中でそれは球を形作り、弾けたかと思うと水の槍と化して飛来する。
「おわっとぉ!?」
とっさに腕をかざし、盾で水槍を受け止める。『ガッデス』は『アートカノン』の射撃速度、威力、同時発射数全てにおいて魔装機中最大を誇る。『ザムジード』の他機の追随を許さない圧倒的な堅牢さの盾、そして『水』属性《魔装》に対する『大地』属性の優越性を差し引いてもなお、『ガッデス』の水撃は決して軽視できるものではない。
そして、一瞬足の止まった『ザムジード』を、『ガッデス』が逃すはずもなかった。
『ガッデス』が三又槍を回転させると、穂先から発する水が渦を巻く。渦は重力を無視して拡充し、盾のように『ガッデス』の全身を覆い隠す。
そして、渦の盾が、瞬時に収縮する。
超高圧で圧縮された水球。爆発寸前の反発力を宿した球の殻を、僅か一点だけ解放すればどうなるか。
《魔装》を帯びて、通常考えられない圧力と質量を帯びた奔流が、『ザムジード』へと迸る。『ガッデス』の最大火力の一つ、『ハイドロ・プレッシャー』である。
しかし、『ザムジード』も黙って破滅に甘んじるわけではない。
「嘗めるな、『
右腕に念を込め、大地に打ち付ける。込められた《魔装》が地肌と感応し、爆発的に隆起、岩壁を形成する。
直後、『ハイドロ・プレッシャー』の水撃が、岩の盾を打ち据えた。
岩壁がびりびりと震える。ばりばりと亀裂が走る。水波砕けるもろともに、岩壁もまた砂礫に還る。
そして、『ガッデス』が止めとばかりにトライデントを投げ付けるが、砕け散った岩壁の向こうに、『ザムジード』の姿はなかった。
とっさに、『ガッデス』は正面に跳躍する。その真後ろ、背中を僅かに掠めて、地下から飛び出した『ザムジード』の裏拳が通って過ぎた。
「ち、さすがに潜り技は見抜かれてるか」
舌打ちするリカルド。さすがに『ザイン』戦で見せたばかりの奇襲が通用する程は、冷静さを奪えなかったと見える。もう少しからかっておくべきだっただろうか。
姿勢を正し、拳を構え、正面を見据える。
視線の先の『ガッデス』は、投擲したトライデントを引き戻し(柄からそれ用の
『ガッデス』は確かに射撃タイプの魔装機だ。だが、『ディアブロ』や『ラ・ウェンター』が接近されると攻撃力を大幅に喪失するのに比べ、『ガッデス』の火器は非常に有効範囲が広い。至近距離まで接近すれば別だが、そうでなければ――例えば槍の刺突範囲より外であれば、容赦なく高速展開した『アートカノン』が飛んでくる。そして、刺突範囲内であれば、今度は貫通力比類なきトライデントが突き出されるのだ。
「さすがに嘗めてはかかれんか。さて、どうする?」
面倒臭げにぼやくリカルドの口元が、本人も知らぬ間に笑みを描く。
Ⅲ
後手に回るのは趣味ではない。また先手を打つ。
『リニアレール・ガン』を連射する。狙いは定めない。
《魔装》をたっぷりと乗せた弾丸が、紫の陰火を纏って放たれる。照準は、『ガッデス』の手前辺り。『ガッデス』そのものは、敢えて狙わない。
もうもうと、土煙が舞い上がる。とっさに『ガッデス』が一歩を退く姿が、土煙の中に覆い隠される。
その土煙に、《魔装》を介して干渉をかける。
反撃に、『ガッデス』から放たれた『アートカノン』が、土煙を引き裂いて迸る。土煙の中でも、魔装機はさほど視界を妨げられることはない。『アートカノン』は真っすぐに、『ザムジード』の体躯を捉えている。
しかし、リカルドは動かない。《魔装》を介して土煙に干渉をかける。『アートカノン』の水撃を包み込み、不定形の盾と変える。
『アートカノン』は止まらない。たとえ幾重にも盾を巡らされようと、撃ち出された激流を、留めることなどできはしない。
しかし、止まらずとも、無数の壁を貫いて、水撃は確かに弱っていた。
『ザムジード』の装甲に触れる寸前。瞬間的に凝集された《魔装》の壁に、水撃は弾け、砕かれ、そして散った。
『ザムジード』の素体を、僅か程も損なうこともなく。
土煙の中に浮かび上がる、黄土色の巨神。不落の城塞のごとき威容に、『ガッデス』の足が、怯んだように半歩退いた。
そして、城塞が動き出した。
「トーキー、ヒア、シンク、出番だぞ、全員出撃!」
「「「アイアイ・サー!」」」
脳天に響く声を唱和させて、三匹がコンソールに飛び込んだ。
瞬時に、『ザムジード』の背後に、ゲイラカイトを思わせる、菱形の物体が三機、沸き出るように現れた。
『ハイ・ファミリア』。『ザムジード』が搭載しているものは、自律制御型高機動切断刃。即ち、自律制御される手裏剣のようなものだ。
通常は、撹乱や偵察を主とする『ファミリア』だが、『ハイ・ファミリア』は少々異なる。『使い魔』と操者の精神的リンクを利用し、《魔装》を遠隔制御することができる。
だから、予め《魔装》と感応させた土煙があれば、それを『ハイ・ファミリア』は支配する。
飛び出した三機の『ハイ・ファミリア』は、それぞれが弧を描いて『ガッデス』へと飛翔した。
『ハイ・ファミリア』に埋め込まれた魔法石が輝き、宙を踊る土煙を引き寄せる。土煙の尾を引いて、『ハイ・ファミリア』は舞う。その様は、さながら地上に降りた彗星のごとく。
「くっ、フレキ、ゲリ! 出なさい!」
迫る『ザムジード・ハイ・ファミリア』に、『ガッデス』もまた自らの『ハイ・ファミリア』を発動させた。
『ガッデス』が司る水の精霊が象徴する現象とは、溶解、冷却、浸透、そして変化。『ガッデス』に搭載された『ハイ・ファミリア』は、それを体現するかのような、高密度の水で構成された球である。
『ガッデス』の亜空間ポケットから飛び出した『ガッデス・ハイ・ファミリア』は、数を二つ。それぞれが、飛来する『ザムジード・ハイ・ファミリア』の彗星を迎撃する。
風に舞い上げられた土埃は、雨によって大地に還る。超高圧の水である水属性の『アートカノン』を放ち、砂塵の彗星に立ち向かう『ガッデス・ハイ・ファミリア』だったが。
『ガッデス・ハイ・ファミリア』は二機。
『ザムジード・ハイ・ファミリア』は三機。
たとえ『ガッデス・ハイ・ファミリア』がそれぞれ一機の足を止めたとしても、最後の一機が本体に迫る。
蝿を追い散らすように、『ガッデス』はトライデントを振り回す。しかし、『ハイ・ファミリア』は優雅にひらりと身を翻し、三又槍の穂先をくぐり抜け、『ガッデス』の懐に潜り込む。
「くっ!」
テュッティの呻きが、回線から漏れ聞こえた。
『ガッデス』の腹部の《魔装》がぎらりと輝く。反射的に、『ハイ・ファミリア』の衝突点であろう地点の守りを固めたのだろうが。
「守りに入ったのが命取りだぜ!」
それこそは、リカルドの思う壷だった。
『ガッデス』の腹部を引き裂くかに見えた『ザムジード・ハイ・ファミリア』は、ほんの僅かだけ軌道を逸らし、『ガッデス』の周囲を掠めて過ぎた。
「え?」
戸惑いの声を上げるテュッティの周囲を、円を描いて『ザムジード・ハイ・ファミリア』が飛び去る――彗星の尾を、リングの形に残して。
主の戸惑いは、『ファミリア』にもそのまま伝達される。動きが鈍った『ガッデス・ハイ・ファミリア』に、『ザムジード』のゲイラカイトは素早く身を翻し、先の一機の軌道をなぞるように、『ガッデス』の周囲に円環を描く。
そして、その時には、既に『ザムジード』は動いていた。
右の拳に《魔装》が宿る。ぎらりと輝く黄金の粒子。
腰を落とし、推進器を最大に吹き上げる。足元の摩擦を《魔装》によって最小限に抑え込み、大地を滑って加速する。
しかし、それでも『ザムジード』の機動力は、魔装機として決して高い部類ではない。単純な突撃ならば、『ガッデス』の機動性で簡単に振り払える。
テュッティは当然のように、そう判断したのだが。
身を退かせ、『ザムジード』の突進から距離を開こうとする『ガッデス』だったが。
その時、ようやくテュッティは異変に気づいた。
「うっ!? 何、重いっ!?」
後退しようと《魔装》に力を加えた瞬間、『ガッデス』の胴回りに発生した違和感。それは『ガッデス』の胴に纏わりつき、それこそ水中のごとき抵抗感を醸し出している。
そこに至って、ようやくテュッティは、先程の『ザムジード』の行為の意図を理解した。
意図的に土煙を上げ、そこに『ファミリア』を介して《魔装》を反応させる。土煙に対して土属性の《魔装》は極めて感応し易い。それを利用して、土煙と《魔装》をブレンドした魔装雲を『ガッデス』周囲に展開し、『アートカノン』を減衰させた。また『ファミリア』によって誘導した魔装雲によって『ガッデス』の四肢を捕え、動きを封じ込めたのだ。
恐らく、最初から動きを封じにかからなかったのは、この空間で果たして同属性の遠隔支配が可能かどうかを確かめる必要があったためだろう――テュッティがそこまで思考した時、視界いっぱいを、『ザムジード』の黄土色の威容が埋め尽くした。
「くぅううううっ!」
迫る『ザムジード』の鉄拳。改良された『ザムジード』の『ブースト・ナックル』は、打撃力では全魔装機中最強を誇る。直撃を受ければ、いっかな魔装機神『ガッデス』といえど破壊は免れまい。
《魔装》をどれほど厚く固めたとしても、無駄だ。回避するしかない。
しかし、体が動かない。『ガッデス』が動くことが適うのは、《魔装》のリングの径内の、ほんの僅かな空間だけ。
そして、『ザムジード』の拳が、『ガッデス』の《魔装》に触れる。
「フレキ、ゲリッ!」
『ガッデス・ハイ・ファミリア』に檄が飛ぶ。ほとんど同時に、『ザムジード』の拳が『ガッデス』の《魔装》に触れて黄金の粒子を散らし、『ガッデス・ハイ・ファミリア』が『ザムジード』の右腕へと迸り、衝突して浸透し、衝撃波を放つ。
黄金の輝きの中で『ザムジード』の右腕が砕ける。しかし、既に『ブースト・ナックル』のトリガーは引かれている。『ガッデス』の中枢を抉るかと見えた拳は、『ガッデス・ハイ・ファミリア』の一撃によって軌道を歪められ、『ガッデス』の胸部装甲から右肩にかけてを粉砕する。
「まだ、まだぁ!」
「まだ終わらないッ!!」
リカルドとテュッティ、それぞれの口が、異句同意の闘志を迸らせる。
『ガッデス』の左手が、脱落する右腕から三又槍を拾い上げ、そのまま『ザムジード』の喉元へと刺突する。しかし、『ザムジード』は半壊した右腕で、『ガッデス』のトライデントを受け止める――まっすぐに、腕を槍の鞘に代えるように。
トライデントが『ザムジード』の右腕の骨格をめちゃめちゃに破砕し、半ばまでを貫通する。
「くぅっ!」
聞こえた声は、リカルドの苦悶か、テュッティの歯噛みの呻きだったのか。
『ガッデス』は三又槍を引き抜こうと力を込めるが、元より突き刺し離さない事を目して作られたのが三又槍である。増して『ザムジード』は《魔装》によって槍を包み込み、槍の引き抜きを許さない。
『ザムジード』の左腕が引き絞られる。《魔装》が炎のごとく燃え上がり、鉄拳の先端に凝集する。魔装雲に動きを、そして槍をも封じられた『ガッデス』に、今度こそそれを避ける術はない。
「悪いが終わりだ!」
「この、ぉおおおおおお!!」
チャージ不十分は承知で、槍から『ハイドロ・プレッシャー』を放つ『ガッデス』。槍が水撃に変じ、超高圧の水による破壊力が、『ザムジード』の右腕を完膚無きまでに爆砕する。
しかし、それでも、『ザムジード』の拳は止まらなかった。
『ガッデス』の『ファミリア』が、最後の足掻きとばかりに体当たりするのもものともせず、左の拳が『ガッデス』の胸元を捉え、そして。
「
圧倒的な破壊力が、『ガッデス』の上半身を粉々に砕き散らした。
■第二回戦 第一試合■
■勝者 リカルド・シルベイラと大地の『ザムジード』■
Ⅳ
ブランソンが(口惜しげな色を隠そうともせずに)勝利者の名を告げる下で。
「あーあ、テュッティさん負けちゃったか……」
ため息交じりに吐き出すアーネ。その隣で、長衣の青年――白河愁が、苦笑交じりに相槌を返す。
「彼女の戦術では、こんなところでしょう。相性も悪いですしね」
『ガッデス』の性能の要は、縦横無尽の二次元機動と、突出した砲戦能力にある。中~遠距離を維持し続ける事が必須なのだが、それを封じられては性能を発揮することはできない。
テュッティ・ノールバックとは、何度か顔を合わせたことがある。包容力があるように見せて、その実相手の顔色を伺う臆病な女。
――もっとも、召喚直後のことであったから、格別彼女のネガティブな部分が表出していただけだったのかも知れないが。基本的に、召喚術は地上との『縁』が薄い人間を選出するように設定されているから、召喚された直後の人間は、なんらかの形で地上での居場所を失ったばかりの可能性が高い。
自分とは正しく正逆だ。自嘲気味に口元を歪めると、不思議そうにこちらを見るアーネの視線が面を撫でた。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもありません」
微笑みを作って閃かせれば、少女は頬にピンク色を差し込ませる。別に珍しい反応ではない。年頃の娘が相手ならば、大概はこの手であしらえる。
「それでは、只今より第二回戦第二試合――氷の『ファルク』対『ブローウェル・ドラグーン』の対戦を開始致します!」
司会者の声が頭上を駆け抜けると、それが呼び水だったかのように、観衆がさざめいた。固唾を飲んで、モニターの奥に現れる、二体の魔装機……殊に、長槍を構えた小柄な機体へと、煮え滾るような視線を注いでいる。
当然だろう、あの『ブローウェル・ドラグーン』こそは、今大会最大のダークホース。誰もが予想だにしなかった、驚くべき強者である。
「オールト将軍かぁ……」
「今でこそ文官の振りをしてはいますが、彼はかつては凄腕の騎士として名を知られていたようです――私も、当時の事は伝聞でしか知りませんがね」
確かに当時の事は知らないが、かつて彼に剣術の指南を受けた時の事を思い起こす。
剣術は本分ではないものの、少なくとも当時でさえそこそこの技量を備えていた自負はある。しかし、オールトの剣はそんな自分の剣を易々とあしらった。
一度目はあっさりと喉元を抑えられ、二度目は剣を弾かれた。まともに剣を合わせられたのは三度目からだ――その三度目も、驚くべき威力の一撃で、瞬く間に剣を奪われる結果となったが。
だが、その三度の敗北から、オールトの技の基本は理解できた。そして、自分には彼の技を部分的に模倣することはできても、完全に自分のものにすることはできない事も。
――いや、より厳密に言えば、模倣する必要がなかった、模倣する意味がなかったと言うべきだろう。
「では、試合開始!」
ブランソンの宣言が響き渡っても、二機は微動だにしなかった。
一分の揺らぎもなく、槍を構える『ブローウェル・ドラグーン』。そして、悠然と腕を差し上げる『ファルク』。双方ともに、自ら動くことを良しとせず、ただひたすらに相手の出方を窺っている。
「……両者、どうぞ!」
困惑を滲ませたブランソンの催促が響く。しかしそれでもなお、竜騎兵と氷の魔装機は動かない。
「どうしたんだろう、二人とも……?」
「動けないのですよ。二人ともね。『ファルク』は相手の出方が読めず、手が出せない。そして、『ドラグーン』は、その特性上自分からは攻められない」
アーネの呟きに、解説の言葉を返したのはシュウだった。
「特性上?」
「ええ。オールト将軍の戦法上、絶対に先手を打つことはできないのです」
「どうし……」
アーネが問いを続ける前に、『ファルク』が動いた。
ラッチが開き、『カロリック・ミサイル』が三発射出される。相互に交錯する複雑な軌道を描いて熱素反応弾が『ドラグーン』に迫るが、『ドラグーン』は無造作に、自らの体躯の半分を覆い隠すほどの大きさを誇る大盾を翳し、真っ向から受け止める。
そこに、『ファルク』が今度は超音波砲『ソニックブラスト』を放つ。水の《魔装》の特性とは、波動。『ファルク』の《魔装》がエネルギーへと転化され、不可視の衝撃波となって迸る。しかしそれもまた、『ドラグーン』の翳した大盾の前に砕けて消え失せた。
「……あれ?」
きらきらと散る黄金の飛沫を見つめるアーネが、不可解の声を漏らした。
「今、何だか《魔装》が盾に吸い込まれたような……」
「ええ、それがあの盾の機能です。厳密には、あの盾が纏っている《魔装》の特性なのですがね」
手の甲に顎を乗せ、微笑を浮かべつつ。シュウが眺める先で、遠隔攻撃では埒があかないと見た『ファルク』が『プラズマソード』を抜き放つ。一つ、二つと斬りつけるが、僅かに傾けられた槍が、盾が、それを難なく受け流す。追い打ちにと繰り出された真空の渦も、盾の前に虚しく弾かれ、その飛沫が盾に吸い込まれて消える。
そして、『ドラグーン』の槍が、淡い碧の《魔装》で輝く。それは、ファルクが纏う水の《魔装》を映したように同じ色。
「槍に『ファルク』の《魔装》が!?」
「オールト将軍の技能は、相手の《魔装》を吸収し、それを自らの力に取り込んで跳ね返すものなのです。盾で受けた《魔装》を、槍に取り込んで攻撃に転化する。槍というのはよい選択ですね。当てることさえできれば、槍はエネルギーをもっとも効率的に破壊力に変換する武器ですから」
『ファルク』が高々と跳躍し、まっすぐに『ドラグーン』へと雪崩落ちる。いつの間に握られていたのか、その手には鋭利な氷の刃。碧の飛沫を散らして、振り下ろす刃が盾を断ち割り、『ドラグーン』の腕まで食い込んで、止まる。
槍が、碧の《魔装》を更に強め、表面に厚い霜を帯びる。『ファルク』が《魔装》を奪われたのだ――その事実を認識して、アーネが不満げな声を漏らした。
「ずるい、あんなことができたら無敵じゃないですか」
「そうでもありませんよ。例えば、どんなに《魔装》を蓄えたとしても、オールト将軍にはあの槍一本しか武器がありません。正魔装機相手では、『ブローウェル』の標準装備では話にならない。あの槍を、どんな相手に対してでも命中させる技量。それに、常時相手の《魔装》を支配し続ける精密な《魔装》のコントロール。これが両立して初めて扱える技なのですから」
それだけの犠牲を支払って、できることはどこまでもカウンター。確かにそれも武術の極みではあるが、自分に必要な技能ではない。
『ドラグーン』の槍がゆっくりと切っ先を揺らす。『ファルク』は刃を引き抜いて逃れようとするが、腕ごとがっちりと盾に挟まれている――丁度、先の対戦で『ディンフォース』がそうであったように。シュウの講釈を受けたアーネには、その盾の《魔装》と、『ファルク』の《魔装》が融合し、『ファルク』の動きを封じ込めているのが見てとれた。
「これが『無明剄』――不易久遠流四神剣の、今や本家には失われた闇の業です」
どこか厳かにシュウが告げる前で、『ドラグーン』の槍が、身動き適わぬ『ファルク』を串刺しに貫いた。
Ⅴ
ブランソンが、第二回戦、第三試合の勝利者の名を告げた。
「かなわねえな、番狂わせの連発じゃねえか」
魔装機操者控え室。EVモニターに投影された、今し方終了したばかりの試合の結果を睨みつつ。
ばりばりと苛立たしげに頭を引っ掻き、リカルドは手元の帳面に描かれたトーナメント表の、第三試合の敗者の名前に×を刻んだ。
第三試合のカードは、ホワン・ヤンロンの炎の魔装機神『グランヴェール』と、ファング・ザン=ビシアスの霧の『ラストール』。
「グランヴェール」は四大魔装機神の一体で、防御力がやや低いものの、火力は絶大の一言。日々研鑽に余念のない操者ヤンロンの性行もあり、リカルドと並んで全魔装機中最強の呼び声も高い。
一方、『ラストール』は魔装機計画の第四フェイズの成果で、量産を考えず、プラーナの低い『ラ・ギアス』人でも、比較的高い性能を発揮できるように設計された機体である。
操者ファングの剣は、名声轟く逸品ではあり、『ディンキス』上の訓練では幾度となく風の魔装機神『サイバスター』を下している。しかし、操者のプラーナ量の絶対的不足により、魔装機神相手では不利は否めない。
故に、二機の対戦は、大方の予想が『グランヴェール』の勝利に傾いていた。
試合は、序盤から『グランヴェール』が圧倒する展開となった。
見る者の目に残像を残すほどの超高速の踏み込みが二つ。『ラストール』の剣と、『グランヴェール』の拳が交錯する。まっすぐにぶつかり合った剣と拳は、純粋なお互いのパワーを比較する戦いとなり、当然のように『グランヴェール』が『ラストール』を圧倒した。
弾かれ、よろめく『ラストール』に、『グランヴェール』は目にも止まらぬ連打を繰り出した。
いかに《剣皇》の薫陶を受けていたとしても、磨き抜かれ、速く重い『グランヴェール』の打撃に、『ラストール』はそれを必死に受け流し耐えるばかり。反撃する余力などあろうはずもない。瞬く間に、そこここの素体を砕かれ、ついに頭と左腕を打ち貫かれる。
動きが鈍った『ラストール』に、『グランヴェール』は止めを、両肩の龍飾りから吐き出す最大火力『カロリック・スマッシュ』によって下すべく、僅かに距離を開いた。拳を納め、両肩の龍が顎を開く。ちらちらと燃える熱素の輝きが、爆発するように膨れあがり、『ラストール』目掛けて迸る。
誰もが、『グランヴェール』の勝利を確信した瞬間。
『ラストール』が、右手一本で構えた剣。独特の構えに据えられた剣先が、青い《魔装》に覆われる。両足と、腰と、剣先。渾身に込められた《魔装》が、黄金色のスパークを散らして、剣を横凪ぎに一閃させる。
蒼い《魔装》に包まれた剣圧。それはまっすぐに、『カロリック・スマッシュ』の炎、そしてその先にある『グランヴェール』へと疾走する。
衝突する赤と青。輝きは赤が上。しかし、赤は面。青は線。赤と青が衝突した一線においてのみ、青は赤を凌駕した。
切り裂かれる、『カロリック・スマッシュ』。天と地の二面に分割され、『ラストール』には届かない。
そして、剣圧――不易久遠流四神剣の奥義がひとつ『虚空斬』の刃は、まっすぐに、全力の攻撃であるが故に無防備な『グランヴェール』の胴を捉えた。
飛び散る黄金。全身の《魔装》を凝集し、刃を受ける『グランヴェール』。しかし、僅かに遅かった。
《魔装》の層が食い破られ、素体を抉る。脆弱なミスリルの表皮が引き裂かれ、骨格を断ち切り……寸断する寸前で、止まった。
しかし、そこに、『ラストール』が投じた剣の切っ先が迫る。
上半身と下半身を半ば以上寸断された『グランヴェール』に、それをかわす余力は残されていなかった。
そして、ブランソンが『ラストール』の勝利を宣言し、現在に至る。
「それにしても、最近ヤンロンの奴、一つも良いところがないな。スランプか?」
「別にスランプと言うわけではないのだがな」
ぼやくリカルドの背後から、気配一つ感じさせず忍び寄る声。しかしリカルドは僅かにも動じず、帳面を懐に収めつつひらひらと手を振って見せる。
「よう、敗北者。案外だったな?」
からかいの多分に混じったリカルドの声に、やや憮然とした表情を浮かべつつ、リカルドの左に腰を下ろすヤンロン。腕を組み、モニターに映る自分の試合のリピート映像を眺め、唸る。
「ああ、最後の一撃で油断があったのも確かだが、まさかあの距離で『虚空斬』が届くとは思わなかった。随分と腕を上げたようだな」
「前にマサキ相手に使ってたぜ。ゼオルートの旦那は『虚空斬・
ちなみに、その時のマサキもまた、上半身と下半身が泣き別れの有様だったのだが。
「油断だったな――ところでリカルド」
憮然とした顔に不審の色を宿して、リカルドの顔を――彼の側からは見えない、右の頬を伺う。
「その頬はどうした?」
「――軍事機密だ」
と、リカルドは誤魔化すが、右の頬にくっきりと赤く手形が刻まれていれば、何が起こったかは容易に推察できる。
「テュッティを怒らせたか。姑息だな」
「はっはっは、勝てばこっちのもんってな」
かんらかんらと笑う。ヤンロンもそれ以上の追求はせず、やや不機嫌げな顔をがやがやと騒ぐEVへと向けた。
画面を縦横に飛び回るのは、砂嵐の『ソルガディ』。それをまっすぐに追尾するのは白銀の魔装機神、風の『サイバスター』である。
共に空中戦に長じる風系魔装機。『サイバスター』が剣を振り下ろせば、『ソルガディ』は身を翻して距離をとり、『ソルガディ』が反撃の砲火を閃かせれば、『サイバスター』は翳した剣で吹き散らす。
「一進一退というところか。さて、どちらに分があると見る?」
「マサキの勝ちだな」
交錯する火線と剣撃。それを腕を組み思案げに眺めるヤンロンに、リカルドの返答は退屈の色を滲ませる。欠伸交じりに首を巡らせれば、ごきり、ごきりと鈍い音。ヤンロンはふん、と鼻を鳴らす。
「だが、アハマドは強いぞ?」
「格が違わぁな」
言葉と共に、リカルドは自らの予想に微塵の疑念もなさげな笑みを返した。
結果は、リカルドの予想の通りとなった。
Ⅵ
「……なんだかなあ」
騒然とするスタジアムの一画。観客席の最前列に二人分の場所を占拠しつつ、アーネ・ラスム・ゼフィックは不満げな息を漏らした。
憂鬱気味な気分の原因は、先の試合……第二回戦第四試合、魔装機神『サイバスター』と砂嵐の『ソルガディ』の対戦である。
試合結果は当然のように魔装機神の勝利に終わった。それは、大方の予想通りでもあり、アーネ自身も恐らくそうなるだろうと考えていた結果ではあるのだが。
アーネの不満は、個人的感情に起因する。
魔装機神『サイバスター』は、かつての魔装機神操者選定の儀において、魔装機神中ただ一機、自らの操者を選ばなかった機体だ。魔神官ルオゾールの襲撃において、無理矢理に契約を果たそうとしたマサキ・アンドーを拒絶し、沈黙を守った機体。
アーネが慕うラングラン魔装騎士フェリオス・ザン=クラックは、無謀にも戦闘の渦中に飛び込んだマサキ・アンドーを庇い、負傷した。あの時の恐怖は、今でも忘れ難い。忘れるつもりもない。
マサキ・アンドーはバナン会戦において『サイバスター』と見事契約を果たし、現在では魔装機神操者として恥じることない力を発揮している。それ自体はアーネも認める所だ。
だが、やはり究極的には、アーネにとってあの男は、「己が愚かさ故に、フェリオスを傷つけた男」という一点に集約されるのである。
「……今更別にどうだっていいんだけど」
口ではそう呟いても、腹の底にわだかまる重たいものは、なかなか消え去るものではない。その重さが、彼女に勝利者を素直に賞賛する事を拒ませている。
「やだやだ、次いこ次」
ふるふると頭を振って、思考を切り替える。
周囲を見回してみる。御前試合は休憩時間に入っており、先ほどまで熱狂していた人々は、したり顔で試合の品評を交わしたり、軽食や土産を担いだ物売りを呼び止めたりしている。
先ほどまで隣にいたクリストフ……いや、シュウは、「少々所用を済ませてきます」と言い残して席を外し、未だ戻ってこない。そう時間が経っているわけではないが、さすがに最前列の席を一人で二つ占有しているのは、周囲の視線が気にかかる。早く戻ってきてくれれば良いのだが。
「……………………退屈」
第三回戦が始まるまでは、まだ暫く時間がある。シュウはまだ戻ってくる気配がない。もっとも、有耶無耶の内に同席することになったわけで、実際の所シュウにここに戻ってくる義理はないのだが。
「……ちょっと、飲み物買ってこよう」
微妙な寂寥感を弄んでいると、些細な喉の渇きや居心地の悪さ……その場を逃れるための方便が増幅される。自分に言いわけをするように呟き、アーネは席を立ち上がった。
ちらりと視界に飛び込む売り子を、しかし目的が違うと無視して、回廊へと足を進める。
小柄な体を活かして往来する人々の合間をすり抜けるが……数十ゴーツも進まないうちに、アーネは辟易した吐息を漏らした。人が多すぎる。
(スタッフ通路なら人がいないかな)
競技場の地理は完全に把握している――本来は民間人が知り得ないスタッフ用通路に至るまで。伊達に、いつも騎士団の側について歩いているわけではない。
早速、手近な『スタッフ専用』と刻まれた扉に手をかける。側にあるキーパネルに、本日の警備用パスコードを入力すれば、簡単に扉はアーネを迎え入れた。
早速、開いた隙間に身を滑り込ませる。一瞬、全身を悪寒じみた感覚が駆け抜けたが、どうせ「悪いことをしている」という罪悪感によるものだろう、と気にしない事にする。
スタッフ通路には、一般用通路とは対照的に、一つの人影もなかった。
「みんなミーティングとかなのかな?」
いくら何でも、警備員の姿すらないのは不自然なのだが。取りあえず手近な理由で自らを納得させつつ、アーネは通路の奥に足を進めた。
確か、二つ先の出口が、ちょうど売店の前に繋がっていたはずだ――そう思って視線を奥に向けたとき、アーネはこの通路で初めての人影を見つけた。
(あ、人いたんだ――あれ?)
足が止まる。通路の途上で対話するように向かい合うあの人影――二つあるようだが、遠目にもその姿には見覚えがある。
一つは長身のコートの男。先程まで見ていた姿格好と一致する。恐らくクリストフだろう。
そしてもう一つ。ややウェーブのかかった長髪。小柄な体躯。あれは――もしや。
「姉様?」
思わず呟きが漏れる。あの姿は、敬愛する従姉妹のウェンディ・ラスム=イクナートのものではないか?
アーネの呟きを聞き咎めたのか、ウェンディ(らしき人影)が、面をこちらに向けた。
「誰だ……アーネか?」
「は、はい……姉様?」
「結界を破ったのか……全く、魔力が強すぎるのも考えものだな」
彼女の知る従姉妹とは、明らかに異なる口調と気配。しかし、姿は従姉妹そのもの。そもそもアーネの名を知る以上、間違いはないはずなのだが……この喉の奥にわだかまる違和感は何だろうか。
「無理もありません。私の術も破られましたからね。――一体どうしたのです、こんな所へ?」
そう問いかけてくるのは、やはりクリストフ……いや、シュウだった。
「え、ええと……売店に行こうと思って、近道を」
「なるほど、しかしここはスタッフ通路ですよ。幾らパスコードを知っているからと言って、私用で使うのはあまり感心しませんね」
「はい――でも」
しゅんと項垂れるアーネだが、内心ではそもそもこんな所で密談する二人はどうなのか、という疑問を弄んでいる。それを問い返そうとする口先を制するように、ウェンディが口を開いた。
「まあいい。シュウ、先程の手はず通りに」
「ええ、そちらこそ自己管理に注意を――ウェンディ?」
「ふん」
疑問の出し所を捉えきれないアーネの目の前で会話が進められる。どこか皮肉めいて『ウェンディ』と呼ばれた従姉妹は、妙に不機嫌そうに鼻を鳴らし、アーネを一瞥しただけで背を向け、通路の奥に消えてゆく。
まったくもって、従姉妹らしくない。その背中があらゆる問いかけを拒絶しているように見えて、アーネは背中が見えなくなったところでようやく、数分前から飲み込んでいた言葉を吐き出せた。
「え、ええと……姉様?」
「さて、次の試合が始まってしまいますね。参りましょうか」
戸惑うアーネの背中に、いつの間にかウェンディとは逆方向に足を進めていたシュウの声。シュウの背中と、ウェンディの消えた通路を交互に見やり、数秒逡巡したアーネだったが、結局シュウの背中を選び、駆けだした。
(姉様については、また問いただせばいいか)
そう考えて目先の憧憬に飛びついた事を。
後にその瞬間の意味に気づき、アーネはその選択を生涯を通じて後悔する事になる。
Ⅶ
■第三回戦 第一試合■
■大地の『ザムジード』 対 『ブローウェル・ドラグーン』■
右手に、疼くような痛み。使い魔に命じて、痛覚をカットさせる。
「さーて、どう手を出したものかな」
乾いた唇が鬱陶しい。ぺろりと舌で湿らせて、眼前の敵を睨みつける。
一瞬だった。小手調べの拳を打ち込んだ瞬間。『ドラグーン』の盾がぬらりと輝き、同時に迸った槍の一撃が、『ザムジード』の右腕を掠めた。
掠めただけで、右腕の《魔装》が引き千切られ、シールドが砕かれた。一瞬でも手を引くのが遅れたならば、腕一本丸ごとを貫かれていたことだろう。
「なるほどな、ティアンが負けるわけだ。せめて手の内が分かってりゃ……」
一撃を受けた瞬間に理解していた。あれは、いわゆる柔術の一種だ。合気道などと呼ばれているものと同じで、相手の力を利用して、跳ね返す。
ただ通常の柔術との大きな違いとして、オールトの技能は『蓄積し、解き放つ』ことができるという事がある。その蓄積対象は、今まで見た限りでは、《魔装》が関わるあらゆるものに及ぶと思われる。たとえそうでなくとも、腕の良い戦闘者ならば、自らの手の及ばない『何か』を相手に悟らせるはずもない。
蓄積可能な時間は不明だが、下手な小手調べは相手に力を蓄えさせるだけだ。
「多分、ヤンロンと当たってたらそこで終わりだったな」
ヤンロンは、《魔装》の微細なコントロールにかけては魔装機操者中に並ぶ者がない。彼ならば、オールトが支配できない程の連撃を加えて圧倒するなり、或いは手も足も出ないほど強固に収束させた《魔装》の一撃で粉砕するなり、幾らでも手はあったはずだ。
ティアンが『ドラグーン』に敗北したのは、相手の手口を見誤ったことと、彼が《魔装》の制御よりも格闘技としての身体制御に重きを置いていたからに他ならない。
「だが、俺だとちっとやりにくい。どうしたもんかね……」
リカルドは、ヤンロンはおろか正魔装機操者の平均から見ても《魔装》のコントロール精度は高くない。リカルドの本分は、本能レベルでの《魔装》制御だ。ヤンロンは力の流れをコントロールして威力を高めるのに対して、リカルドは力そのものを増大させて威力を高める。
絶対量は多いが、流れが単純。故に、オールトにとってはもっとも制御を奪いやすい相手であろうと考えられる。迂闊に手を出せば、今度落とされるのは盾だけには止まるまい。
「だが……」
不敵に口元を歪め、悠然と立つ『ドラグーン』を見据える。拳を固め、腰を落として見せても、その構えに一分の揺らぎもない鉄壁のごとき『ドラグーン』。
しかし、地上で反政府ゲリラのPTと出くわした時も、敵戦闘機中隊に包囲されたときも、自分は必ず相手を下してきた。魔装機に乗ってからもそれに変わりはない。
ブースターに点火。拳を握り込み、シリンダーに爆発寸前の《魔装》を注ぎ込む。
「伊達に、メビウス勲章内定してたわけじゃねえんだよ!」
打ち砕く。例えそれが無敵の盾であろうとも。
Ⅶ
『ザムジード』の拳が迫る。濁流のごとき黄土色の《魔装》の塊。しかし、その流れは単純。盾を翳し、自分の《魔装》と共振させる。瞬く間に拳から《魔装》が剥ぎ取られ、力ない拳が盾を叩く。
すかさず、共振したままの黄土色の《魔装》を、槍に注ぎ込む。そして、一閃。
瞬間的に大地を蹴りつけ、『ザムジード』は飛び退く。しかし、自分の槍の方が早い。逃れ遅れた右の盾を槍が掠め、『ザムジード』の《魔装》そのものの破壊力を撒き散らす。
距離を開く。腕に刻まれた傷を確かめる『ザムジード』。その姿を油断無く睨み付けつつ――内心ケビン・ザン・オールトは戸惑っていた。
元々、動機の半分はお遊びだった。フェイルロード王子の誘いで出場してはみたが、機体性能が機体性能である。幾ら手塩にかけて自分向けに調整した機体とは言え、勝ち進めるのは良くてせいぜい第二回戦までだろうと考えていたのだが。
(この程度で、世界の盾だというのか)
不甲斐ない。相性の良い相手が続いたこともあるが、たかが量産機の『ブローウェル』に、正魔装機が二体も下されるとは。それが、神聖ラングラン王国の国家予算を大幅に食い潰し、あまつさえ国際的な立場を悪化させる魔装機計画の中核だとは。
反政府テロの増加……その戦力の拡大……国際的な敵対工作の活発化。それだけの犠牲を払った成果が、この程度だとは!
そんな憤怒から、ついつい手加減を忘れて第二回戦までもを突破し、今や第三回戦の舞台上に立っている。
沸き立つ自分を否定できない。数十年ぶりに立つ檜舞台に、そして、目の前に立つ『最強の魔装機神』に。
(今更若気の至りでもあるまいに……)
不易久遠流四神剣『闇』流派は、基本的に表舞台には上がらない。使い手であることが知られれば当然対策を立てられる。ある一つの型に特化しているが故に、他の型には十分に対応できない。それが不易久遠流四神剣『闇』流が、文字通り闇に隠れていた理由である。
まったく、因果な家に生まれたものだ。そして、馬鹿正直に家の業を受け継ぎ、それに振り回されていれば世話はない。
(勝てるか? いや、勝っても良いものだろうか?)
勝てるかと言われれば、恐らくは無理だろう。力の差は歴然。子供が大人に立ち向かうようなものだ。
だが、今までの正魔装機との戦いから鑑みるに、彼らと自分の戦力差は実際の所子供と大人『程度』のものだ。子供でも、然るべき武器を手に、鍛え上げた技能を駆使すれば、大人を打ち負かすことは不可能ではない。
そして、自分は『然るべき武器』を手に、『鍛え上げられた技能』を操るものだ。
少なくとも、勝負をする価値はある。その証拠に、自分の槍は正しく『ザムジード』の盾を一枚貫いている。
勝ち目は――ある。
しかし、勝ってしまえばどうなるのか。
自分が万一勝利すれば、魔装機神は機能限定版の量産型魔装機にも劣る事になる。少なくとも、そのようなレッテルを貼り付けられては、魔装機計画そのものに対する疑念が生まれるだろう。少なくとも、疑念を抱き、それを流布して利を得る者達に、格好の標的を与えることになる。
魔装機神は、最強の戦闘力を宿すと同時に、最強の幻想を背負うものでなくてはならない。
実態においては、強力な魔装機――例えばカークスが提唱する超魔装機計画の産物――がそれを凌駕する事に問題はない。(実のところその方が望ましい)
しかし、人々の幻想の上では、魔装機神は最強でなくてはならない。兵器として運用できない最強。兵器を凌駕する枷。その存在こそが、ラングラン魔装機計画を辛うじて正当化させる方便なのだから。
ラングラン王国が擁する量産型魔装機。それが魔装機神を下してしまえば、それは枷の崩壊を意味する。あやふやな幻想の上で踊る道化師。それが今の神聖ラングラン王国なのだ。
だから、万が一にも自分は勝利してはいけない。正魔装機を駆り『グランヴェール』を下した近衛騎士団副団長ファング・ザン・ビシアスとは事情が異なる。
オールトの思考を遮るように、再び『ザムジード』の巨体が迫る。
先程と同じ、真っ向からの鉄拳突撃。拳先に《魔装》が凝集し、薬莢が弾け飛ぶ。圧倒的な破壊力を宿した、必殺の『ブースト・ナックル』。
「懲りん男だ!」
盾を翳し、真正面から拳を受け止める。意識を集中させ、盾に触れた《魔装》を支配する。容易く『ザムジード』の《魔装》は主を見放し、『ドラグーン』の盾に吸い込まれる。
《魔装》を失い丸裸となった『ザムジード』の拳。その衝突を防ぐための僅かな《魔装》を盾に残し、残りを全て槍へと流し込む。強大な『大地』属性の《魔装》は、槍先にダイヤモンドの輝きを生む。
拳が盾に触れると同時に、渾身の力でダイヤモンドの穂先を得た槍を突き出す――それが、先程と同じ、『無明剄』の黄金律。今度は盾だけではない。腕を丸ごと貫き徹す。
しかし、黄金律に異物が割り込んだ。
至近距離に迫った『ザムジード』の肩。《魔装》によって弾丸の質量を増大させる『ハイパー・レール・ガン』を宿すそこから、二つの弾丸が迸る。
何のことはない。弾丸に宿った《魔装》を奪えば、容易に無力化できる――《魔装》の輝きがあれば。
しかし、《魔装》を奪おうと気配を巡らせてみても、何の手応えもない。《魔装》特有の黄金の飛沫もない……それは、単純な、質量の弾丸!
「むっ……!?」
盾は既に拳を受けている。弾丸が目指すのは、自分の――『ドラグーン』の頭。反射的に槍から《魔装》を引きはがし、頭の装甲に転移させる。
弾丸を、《魔装》が弾く。《魔装》を乗せない磁気加速砲の弾丸は、速度こそあれ威力はたかが知れている。ごと何に至近弾であったとしても、『ブローウェル』の脆弱な《魔装》でも、威力を殺すには十分だ。
しかし、防御に転化された分だけ、槍の《魔装》は失われている。輝きを奪われつつも突き出した槍。渾身の力を込められたにもかかわらず、『ザムジード』の装甲の表面を削り――線状痕を刻むのみに止まった。
地を蹴り、大きく距離を開ける『ザムジード』。自分の腕に刻まれた傷をちらりと眺め、再び腰を落として構えを取る。
「気付かれたな……」
眉を顰め、舌打ちする。距離を開くべく跳躍した瞬間、『ザムジード』の両眼に宿った《魔装》の輝き。『無明剄』を極めたが故に手に取るように判る。そこに宿っていた感情は、快哉。
わざわざ《魔装》を込めない弾丸を放った理由は明快だ。『ザムジード』の弾丸は、こちらの『無明剄』が《魔装》のみを支配するものであることを知らしめた。更に、《魔装》を乗せない弾丸一つも無視できない程に、槍と盾以外に巡らせた《魔装》が希薄である事にも感づいたことだろう。
それを証明するように、目前の『ザムジード』が爆発した。
否、それは爆発ではない。飛び散る黄金の飛沫。輝きの中に現れる、先程より一回り小さな体躯。
それは、《魔装》を解き放った素体状態の『ザムジード』。機体を稼働させ得る最小限の《魔装》のみを纏った、『
観衆がざわめく中、オールトは知らぬうちに口元が歪むのを感じた。
(――面白い。《魔装》をぎりぎりまで削り落とすことで『無明剄』を無効化するつもりか)
奪うものが無ければ奪えない。ネイキッドな相手には、こちらもネイキッドな状態で立ち向かうしかない。《魔装》に頼る戦いではなく、純粋な己の技量のみを競う戦い。
「だが、だからこそ面白い!」
血が沸騰する。己の中の武人の残り火が、アドレナリンを焚き付けに燃え上がる。
全く、全くもって口惜しい。
これほどまでに心躍る戦に、勝利してはならぬとは!
Ⅸ
槍と、拳が交錯する。
純粋な格闘戦において、槍と拳のリーチの差は致命的だ。距離を開けば拳士は近寄れず、懐に飛び込まれれば槍士は為す術もない。
だから、『ザムジード』は地を蹴り、『ドラグーン』の懐を目ざす。『ドラグーン』はそれを槍の穂先で迎え撃つ。
電光のごとき騎士槍のスラスト。『ザムジード』は左に小さくステップする。しかし穂先は蛇頭さながらに魔装機神を追う。貫く槍が、自らの領域に踏み込む愚者に鋼の洗礼を降らせる。
どちらからともなく、通信を開く。槍と拳が交差しながら、悪態もまた交錯する。
「チ、さすがに近寄らせちゃくれねえか」
「年期が違うのでな」
「歳が気になるならさっさと負けて、ついでに引退したらどうだい」
「ふん、その類の台詞は聞き飽きたわ」
『ザムジード』の腕が槍の柄を抱え込む。ぐいと身を捩り、槍を引き込むと同時に逆拳を繰り出す。しかし、『ドラグーン』の肘が『ザムジード』の鳩尾を打つ方が早い。
「そう邪険にすんなよ、言う方は快絶なんでね」
言葉と共に、『ザムジード』が臑を狙う回し蹴りを繰り出せば、『ドラグーン』は小さく跳躍しつつ、無防備な軸を狙って槍を振るう。とっさに翳した腕で受け止める『ザムジード』だが、刃こそないものの重量は絶大な騎士槍の衝撃に、腕がぐにゃりと陥没する。
「ならば言ってやる、この若造が」
「嬉しいね」
悠然と槍先を下ろして嘲る『ドラグーン』。ひしゃげた腕に《魔装》を通しで修復しつつ、『ザムジード』のリカルドはにやりと嘯いてみせる。
そして、再び激突する。
渾身の拳と穂先が、交差して火花を散らす。穂先が砕け、拳が裂ける。破損箇所を《魔装》で塞ぎ、癒えきらぬうちに再び繰り出す。そして傷は広がり、徐々に《魔装》の光が素体の色を凌駕してゆく。
(そろそろ頃合いか)
半ばからへし折れかけた槍を修復しつつ、オールトは呟く。
魔装機神『ザムジード』を相手にして、十分対等、むしろ優勢に試合を進めることができた。これ以上は、魔装機神の権威を汚すことになる。
十分に楽しめた。これほど血が騒いだのも久々だ。このような機会を与えてくれた主君フェイルロード王子には感謝の限りがない。
そして同時に、勝利することが許されない自分の定めを呪う。だが、それがただの武人ではない、文人でもある自分が選んだ道だ。自ら選び取った定めであれば、それは甘んじて受け入れる他はない。
ほんの僅かに、ほんの少しだけ、身体の動きを鈍らせて見せる。
「おっらぁぁああ!!」
ほんの僅かな隙を逃さず、動きが鈍った『ドラグーン』に、『ザムジード』の拳が打ち込まれる。十分に速度の載った、必殺の一撃。しかし、今までそうだったように、身を翻せばやり過ごせない一撃ではない。
だが、オールトはそれを、真前から見据えた。
迫る拳に、自らの昂ぶりを吹き散らす役目を任せて。
(愉しかったぞ、魔装機神!)
静かに、両目を閉じる。
目を閉じていても、《精霊殻》によって迫る脅威は逐一情報を送られる。
接触するまで、あと3,2,1……
「くっ!?」
『ザムジード』の拳の衝撃 瞬間流れ込んだ情報は、戸惑うようなリカルドの呻きと、
半身を引き裂くような痛みと衝撃。
瞬時に痛覚が遮断されるが、一瞬でも身体に痛みは残る。
「くぬぅっ……っ!」
苦悶の声を抑えられない。思わず左手を、疼く右手の『あった場所』に押し当てる。
――身体が、まだ動く?
(まだ、終わっていないのか?)
目を見開き、モニターで現状をチェック。右肩より右腕全喪失。胴中央中破。愛槍は足下に転がっている。片腕を失ったことで、安定が取れない。片膝をつく。
「チ、やられてくれるなら先にそう言えっての。加減しちまったじゃねえか」
『ザムジード』の拳が逸れたのか――そこまで思い至った所で、当の『ザムジード』から不満を滲ませた声が飛び込んだ。
なるほど、こちらが拳に対して動きを取らなかった事で、思わず打点を逸らしてしまったのか。
しかし、それでも『ドラグーン』は利き腕を失い、攻撃力の大半を失っている。さすがは『ザムジード』の破壊力と言う他はない。
「将軍さん、まだ戦えるか?」
「ふん……利き腕を丸ごと潰しておいて何を言う」
加減などせずそのまま叩き潰してくれれば、降参の恥を晒すことも無かっただろうに。問いかけるリカルドに不満を吐露しつつ、降参を宣言しようとするオールトだったが。
「そいつは困る。手抜きで負けて、イカサマ呼ばわりされちゃ困るんだよ」
言って、『プラズマソード』を抜き放つ『ザムジード』に、オールトの手が止まった。
通常魔装機が装備する粒子剣を、出力で大きく凌駕する『ハイパー・プラズマ・ソード』。その刃は無造作に『ザムジード』の右肩に押し当てられ――。
「うぉおおおらぁっ!」
咆哮と共に、一気に切り下ろされた。
ずるり、と脱落する『ザムジード』の右腕。《魔装》を帯びない素体は、鋼の鎧と大差ない。
落着してもうもうと立ち上る土煙の中、飛び散る火花と吹き出る循環液だけがオールトの目に浮かび上がる。
一陣の風が土煙を洗い流し、露わになるのは今や隻腕となった『ザムジード』が屹立する姿。
「どうだ、こいつでフェアだろ?」
疼きを堪えた震えを宿すリカルドの声。
腹の底が、震えた。
喉の奥から、何かが沸き上がってくる。
「く……は、ふははははははっ!」
沸き上がる衝動をそのまま吐き出す。
その形は、哄笑。
馬鹿馬鹿しい。わざわざ自分の腕を切り落とすなど。
そうまでして、戦いたいのか。正々堂々とした戦を望むのか。
そうまでして、政治の枷に囚われた自分を嘲弄するのか、魔装機神!
「ははは……っ、リカルド・シルベイラ、貴殿は余程の阿呆だな!」
「まあな。よく言われるぜ」
「よかろう、阿呆相手ならば、儂も悩むまい!」
盾を投げ捨て、槍を拾い上げる。利き腕でこそないが、自分の腕前ならば、逆腕でも十分に扱える。
立場も体面も知ったことか。阿呆が相手ならば、こちらも阿呆に徹するのが武人の雅というものだろう!
渾身のプラーナを絞り出し、槍に収束させる。蓄えていた《魔装》は、先程の衝撃で失われた。頼れるのは、自分から絞り出す、ほんの僅かな《魔装》だけ。
だが、それだけあれば十分。どのみち勝負は一撃、二撃目はない!
「征くぞ、魔装機神! 戦を決めるは場数と気迫と知れ!」
二度三度槍を振り回し、バランスを調整。人工精霊が導き出した解に沿って、バランサーが安定を取り戻す。
そして、雄叫びを上げる。闘気の塊が迸る。駆け抜ける闘気の先端には、愛用の『ショットランス・ガン』の凶暴に輝く穂先。
そして、『ザムジード』はそれを正面から迎え撃つ。
「当然だ! 場数はどうだか知らねえが」
感情を映し、『ザムジード』の目が不敵に輝く。爆発的に沸き上がる、黄土色の《魔装》。
「気迫は――」
高く差し上げた拳に、ありったけの《魔装》が凝集される。
「俺の方が――」
拳が黄金の輝きを宿して、腰だめに構えられ、ブースターに炎が宿り――
「――強い!」
そして、両者が、激突する。
闘気の切っ先は、真っ直ぐに『ザムジード』の中枢を目指し、
『ザムジード』の拳は、こちらもまたその穂先を真っ直ぐに迎え撃つ。
槍の穂先と、黄金の拳がぶつかり合う。黄金の火花が飛び散り、お互いの《魔装》を食い破らんと渾身の力を注ぎ込む。
力は、『ザムジード』が圧倒的に上回る。しかし、『ドラグーン』の槍が点に力が集約されるのに対し、『ザムジード』のそれは面。徐々に、徐々に。抉るように、『ザムジード』の《魔装》が食い破られていく。
そして遂に、『ドラグーン』の槍が、『ザムジード』の装甲を貫いた。
「取ったぞ、魔装機神!」
「どうかなッ!」
快哉を上げるオールトに、しかしリカルドは不敵な叫びを返す。
「言っただろうが、気迫は俺の方が強いんだよ!」
瞬間、オールトの視界を、黄金の爆発が埋め尽くした。
『ザムジード』の拳の《魔装》が、更に増大したのだ――そうオールトの脳が認識するのと、爆発する《魔装》の奔流に、『ショットランス・ガン』が不吉に振動するのはほぼ同時。
(リカルド・シルベイラのプラーナは底なしかッ!?)
吐き捨てるオールトの目の前で、『ショットランス・ガン』に無数の亀裂が迸り――
「こいつで終わりだ、
リカルドの咆哮と共に、『ザムジード』の腕中に仕込まれたチェンバーが爆発して。
『ブースト・ナックル』の凶暴極まる衝撃波が、一瞬のうちに槍を、腕を、全てを千々に引き裂いて。
オールトの記憶に残ったのは、そこまでだった。
■第三回戦 第一試合■
■勝者 リカルド・シルベイラと大地の『ザムジード』■
第二十一話です。リカルド編、ガッデス戦とブローウェル(オールト)戦です。あとグランヴェールvsラストール。
既に著名な作品であるため大方の読者には想像がつくと思うので隠しませんが、テューディ登場です。偽典世界では、そもそもサイバスターそのものも半分くらいはテューディによって開発されており、ちょくちょくウェンディの意識を乗っ取って活動していたと想定しています。
T=W多重意識感応素子の開発によって励起されたテューディの意識がヴォルクルスと繋がり、顕在化したという感じですかね。
余談ですが、リカルドがBreakOutというフレーズをよく使っていますが、これは執筆時点で日本ブレイク工業のテーマが流行していたのの影響が大きいです。ブーストナックルDADADA!!
さて、次はいよいよザムジードvsサイバスターです。