偽典・魔装機神   作:DOH

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第二十三話 剣皇

 

「『サイバスター』の勝利! 魔装機最強の名を制したのは、魔装機神『サイバスター』と、操者マサキ・アンドー!!」

 

 司会者ブランソンが、高らかに勝利者の名を宣した瞬間。

 

「やったぁ! お兄ちゃんが勝ったよ!」

 

 プレシア・ゼノサキスが、感極まって飛び跳ねるその隣で。

 

 《剣皇》として名を知られるゼオルート・ザン・ゼノサキスは、その視線を空へと差し向けていた。

 

「お父さ……?」

 

 娘をして、声をかけることを躊躇わせるほどの、濃厚な険気。伊達眼鏡の上を通り過ぎて舞い上がる視線は、何もないはずの中空を睨み付け、動かない。

 

 ――視線を追いかけてみる。

 

 そこには、何もない。何もあるはずがない。雲ひとつ無い空には天球が輝き、それ以外は何もない。何もあるはずがない。

 

 ――だから、見る必要はない。父の顔へと視線を戻す。

 

「……お父さん? 」

 

 不思議と震える声を無理矢理しゃんと整え、隣の父親に投げかける。普段なら優しい笑顔、そうでなくても困ったような笑顔が向くはずの言葉。家族だけが許される、魔法の言葉。

 

 だというのに。

 

 今放った家族の言葉は、ゼオルートの凍り付いた横顔に、弾かれ霧散する。

 

 プレシアの言葉など届かぬように、父はすっくと立ち上がる。総立ちの観衆の中では目立つものではないが、ただ一人上空を見上げる父の姿に、娘は戦慄を禁じ得ない。

 

「どうしたの、お父さん?」

 

 今一度、父に呼びかける。応えて欲しい。自分の存在を忘れないで。そんな願いを込めた声音に、ゼオルートの目が一瞬だけ、こちらに向けられる。

 

 そこに、いつもの暖かさはない。刃の煌めきを宿した視線。

 

 ――かつて、バナン会戦において、人質に取られた自分を助け出すために、父が抜きはなった、刃の双眸。

 

「プレシア」

 

 声に乗せて、刃を喉元に突きつけられたような、そんな錯覚。知らぬうちに、ひっと息を飲み込んでいた。

 

 そんな娘の姿に、ゼオルートの表情が僅かな悔恨を滲ませる。しかし、それで彼の意志が切り替わる訳ではなく、瞬きひとつで悔恨を振り払った。

 

「ちょっと出てきます。あなたは早く帰りなさい」

 

 冷たく、反駁を許さない声音。

 

 言うなり、ゼオルートはきびすを返す。プレシアが声を返す間もなく、つかつかと人波をすり抜けてゆく。

 

 背中が、声をかけられることを拒否している。引き留められることを拒絶している。一秒を惜しむ不退転の意志が、プレシアに声を出すことを躊躇わせる。

 

 しかし、言わなくてはならなかった。ここで見送ってしまっては、何かが失われてしまう。そんな気がした。

 

 だから、プレシアは、声を振り絞って父を呼んだ。

 

「ちょっと待って、お父さん!?」

 

 何事かと、観衆の視線が突き刺さる。しかし、肝心の父の背中は、ただ遠ざかるばかり。人波に紛れ、消えてゆく。

 

 しかし、プレシアの耳は、小さく呟く、父の声を捉えていた。

 

「……どうか無事で」

 

 いつものように、優しく、暖かい父の声。

 

 その裏に、何があるのか。プレシアが思考するのを妨げるように。

 

 耳朶を、拍手の音が震わせた。

 

 あまりに大きな、軽快な音。

 

 人々の声が、ゆっくりと静まってゆく。

 

 視線が、上を向いてゆく。

 

 プレシアも、視線を上向ける。

 

 先程まで、何も無かったはずのその場所。

 

 何もないはずだと思いこんでいたその場所。

 

 考えれば良かったのだ。影が落ちていたはずなのだ。

 

 なのに、”それ”を見ることができなかった。見ることを、意識が拒否していた。

 

 しかし、今は”それ”が見える。

 

「なに……あれ」

 

 知らぬ間に、声が震える。

 

 放射される殺気。狂気。障気。疫気。おおよそこの世に満ちる全ての負のエネルギーを宿すような、肌にまとわりつく闇の気配。

 

 天球を背にして、悠然と眼下を見下ろす、闇色の巨人。

 

 何故か、わかる。拍手の音は、あの巨人から聞こえているのだと。

 

 戦慄が時間感覚を麻痺させているのか。拍手の音に永劫の時の回廊に閉じこめられたような。そんな錯覚を覚える時間は、実際には拍手にしてきっかり二十回。

 

 ふっつりと拍手の音が途絶え、闇色の機神が舞い降りる。

 

 逆光の衣を脱ぎ捨て、露わになるその姿。城塞を思わせる、平面を基調とした外形。ところどころにあしらわれた魔導石。異質でありながら、しかし魔装機でしかあり得ない法則に則った姿。

 

 闇色の機神は、競技場にいる全ての人間に、その威容をはっきりと見せつける位置まで降下し、そこで静止する。

 

 そこまで舞い降りたところで、人々は知る。その掌の上に、一人の男の姿があることを。

 

 色素の薄い黒髪の――光の加減で紫にも見える髪の、痩身の男。

 

 距離がある上に、逆光で顔は定かではない。シルエットのままで、初めて声を紡ぎ出す。

 

「失礼いたします。神聖ラングラン王国の皆様」

 

 響き渡るは、優雅にして蠱惑。しかし背筋を凍らせずにいられないテノールの音。

 

 頭上からの闖入という不作法極まる登場でありながら、それを取り繕うように……否、だからこそ挑発的である慇懃さで。

 

 無骨な体躯の掌で。対比するように細身の体躯が、優雅な礼を貴賓席に差し向ける。

 

「そして、敬愛するアルザール陛下と、王族のお歴々。頭上からなどというご無礼、どうぞご容赦下さい」

「ふざけるな!」

 

 明らかに『敬愛する』に皮肉を塗した声音に声を張り上げたのは、防衛局長官であるフェイルロードだった。貴賓席から身を乗り出して檄を飛ばせば、呆然と成りゆきを眺めるプレシアの頭上を、さっと影が駆け抜ける。

 

 次々と競技場構内に舞い降りる、巨大な影。それはカスタマイズされた魔装機『ブローウェル』であり、神聖ラングラン王国騎士団の紋章を刻む肩は、近衛騎士団所属魔装騎士『五人の誉れ』隊に相違ない。

 

 粒子砲、速射砲、飛苦無など、各々の飛び道具を番え、闇色の巨人を狙う五機。この距離で集中攻撃を浴びれば、たとえ魔装機神でも無事ではいられない。まして、無防備な生身を晒していては。

 

「こちらは防衛局長官フェイルロード・グラン=ビルセイアだ! 無礼を云々言う暇があったら今すぐに武装を解除しろ!」

 

 フェイルロードの口調が強気なのも、この五機の戦闘力を信頼しての事だろう。増して、その背後にはいまだ目覚めていない様子ではあるが、魔装機神が二機も控えている。通常であれば、この状況で彼に刃向かうのは、自殺行為に等しい。

 

 だが、相手は通常ではなかった。

 

 闇色の巨人が、震える。

 

 掌の男が、小さく、しかし明らかな不愉快さを漂わせ、呟く。

 

「……私に命令するのですか、フェイルロード?」

 

 そして。

 

 その直後。

 

 男の指が、ぱちんと乾いた音を響かせて。

 

「えっ!?」

 

 戸惑いの声を漏らすプレシアの目の前で。

 

 一斉に、五機の『ブローウェル』の頭部が消し飛んだ。

 

「なっ……!!」

 

 フェイルロードの驚愕の呟きが、人々の戦慄の息に飲み込まれる。

 

 それまで、戸惑い交じりに傍観していた人々を、恐怖が蹂躙する。

 

「う、わぁーーー!?」

 

 誰かが悲鳴を上げた。

 

 それが先触れとなり、人々が浮足立つ。

 

 今更のように、我先にと出口に殺到する人々を尻目に、制御を失った『ブローウェル・カスタム』らが膝を折った。地響きが足元を揺るがし、土煙がもうもうと巻き上がる。

 

「う……そ、今の何?」

 

 戦慄しているのは、プレシアも例外ではない。戦士の誇りを支えに逃げ出さずにいられているものの、理解できない恐怖に身が凍えている。

 

 正樹が目覚めていれば、それが空間ごと標的を破砕したのだと看過できたのだろうが――それがそういうものであると知らない人々は、ただ戦慄に身を委ねるしかない。地響きの震えが、いつまでも身体の中で反響しているような錯覚。

 

「それ以上私に命令するなら、今度は貴方を殺します。貴方の力では何もできはしない。お黙りなさい、フェイルロード」

「な……くっ、馬鹿なッ!」

 

 周囲に満ちる恐怖を他所に、闇色の巨人の双眸が冷たく睥睨する。フェイルロードは相手の馴れ馴れしさを訝しみつつも、嘲弄を言い返すこともできず、歯噛みする他は無い。

 

 そして、そこが観衆の理性の限界だった。

 

「あ、ああ……!!」

 

 圧倒的な力、そして理不尽。更に背筋を這い上がる得体の知れない悪寒。

 

 如何に比較的精神的に成熟しているというラ・ギアス人であっても、その恐怖は、統制されない集団にヒステリーを引き起こすに十分過ぎたのだ。

 

「うあぁあああああっ!?」

 

 誰かが声を上げたのを皮切りに。異口同意の絶叫が飛び交った。

 

 雑多な悲鳴を上げ、我先にと出口に殺到して行く観衆。いつの間にか各所に配備されていた警備兵が誘導するが、混乱した民衆を先導するには、十分ではない。

 

「警備兵、誘導が陽炎門に集中している、分散させろ! ブランソン、魔装機神を叩き起こせ!」

「は、はっ! 魔装機神、起きてください、『ザムジード』、『サイバスター』、起きろ!!」

 

 ブランソンが握るマイクから漏れ聞こえる声は、カークス・ザン・ヴァルハレビア大将のものだ。彼の叱咤を受け、ブランソンが声を張り上げる。

 

 決勝戦を戦い抜いた魔装機神は、両機共に操者の意識が失われているようだった。決勝戦による大きなプラーナの消耗が原因なのか、それともそれ以外が原因なのかは定かではないが、重要なのは両機共に、身動ぎひとつしようとしないということだ。

 

「『サイバスター』! 『ザムジード』!」

 

 逃げまどう人々の怒号に負けまいと、声を張り上げるブランソン。そんな様子を闇色の巨人は、何か手を打つ訳でもなく、何かを待つように悠然と見下ろしている。

 

 ――そんな中で、『サイバスター』の手が、ぴくりと動いた。

 

「……? 『サイバスター』!!」

 

 ブランソンが更に呼びかけると、『サイバスター』の両目に光が宿る。

 

 ぶるっとひとつ震えて、頭を周囲に巡らせる。意識が朦朧としているためだろう、本来は魔装機の首を動かす必要などないのだが、無意識に体に合わせて運動している。

 ――一方で、未だに『ザムジード』が目覚める気配はない。

 

「『サイバスター』、上を!」

 

 ブランソンの叫びに、億劫そうに顔を上げて――

 

 そして、驚愕に動きが凍り付く。

 

 そこまで待って、闇色の機神から、男が揶揄するように声を投げ下ろした。

 

「遅いお目覚めですね、正樹」

「てめぇ……っ!! 白河愁か!?」

 

 

 

 

 騒乱の国立競技場をいかほど離れたのか。

 

 そこは、暗闇を幾重にも幾重にもくぐり抜けた先。限られた人間以外、誰ひとりとしてその存在を知らない、小さな部屋。

 

 窓はある。しかし外には出られない。

 

 外は見える。しかし触れることはできない。

 

 窓の外に広がるのは、平和な町並み。家屋がぎっしりと立ち並び、隘路をすいすいと、燃料電池車がすり抜ける。朝日が昇り、天を駆け、地平の彼方に消えて行く世界。

 

 太陽が昇り、沈みゆく、ここにあるはずの無い町の姿。

 

 地上から召喚された人間――特に日本州出身の正樹が見れば、この部屋の特異性に唖然とするほかはあるまい。

 

 ――余りにも、自らの知る世界に酷似した、その部屋の姿に。

 

 

 その部屋にあるのは、ベッドがひとつ。そして今となっては古典の部類の音楽ディスクと再生機。少女向けの書籍が詰まった本棚。

 

 嵌め殺しの窓際に据えられたベッドに、半身を起こして身を横たえる女性。

 

 窓の外の世界――地上世界の光景に見せかけ、実際には精緻なEVで描かれた世界を、穏やかに見つめる、女性がひとり。

 

 手の中で、小さな少年の人形を弄ぶ、少女のような笑顔を浮かべた、妙齢の女性がひとり。

 

 

 その部屋と、廊下を挟んで反対側。

 

 こちらは、一転して殺風景な部屋。窓は無く、穏やかな光を放つ天井灯だけが、牢獄のような部屋に灯火を投げかけている。

 

 部屋にあるのは、細々とした雑貨と、編み物の道具。壁に架けられた、少女向けの衣服、そして写真。

 

 背の高い、伊達眼鏡の男性。優しげな女性。そして、蜂蜜色の髪の少女の写真。

 

 そんな部屋の片隅で。

 

 この狭い空間で、たった二人の人間のうちの、いまひとり。

 

 長く伸ばしたふわふわの蜂蜜色。涙の通り道に小さく黒子のある、やはり妙齢の婦人。

 

 芯の強そうな目許には、しかし歳月と共に積み重ねられた疲労の色を滲ませる。

 

 そんな女性が、やりかけの編み物をほうり出し、ペンケースや針小箱をぶちまけても気にする余裕など無いように、壁に埋め込まれたEVモニターに齧り付いている。

 

 音声ボリュームは、既に最小限度まで絞り込んだ。知られてはならない。気づかれてはならない。このようなものがあることを。このような世界があることを。

 

 何より、今この画面に映し出される光景を。

 

 そこに映し出される、闇色の大甲冑を。

 

 その掌の上に立つ、一人の青年の姿を。

 

 壁一枚を隔てて、穏やかな笑みを浮かべる女性に、間違っても知られる訳にはいかない。

 

「久しぶりですね、正樹。しかし、ここでは私はそうは名乗っていないのです。――忌まわしい名ですが」

 

 EVが画面一杯に映し出す、その顔。

 

 幾年の月日が流れようと、見間違えるはずも無い、その顔。

 

「――しかし、故にこそ、私は敢えて名乗りましょう。この忌まわしき名を。しかし今となっては祝福すべき名を、偉大なる聖戦の先触れに名乗りましょう」

 

 囁くように聞こえる声。優しく甘い、しかし背筋を凍らせるテノール。

 

 闇色の巨人の掌の上で、右腕を真っ直ぐ真横に伸ばし、全世界に、自らの姿と、その名を知らしめるべく。

 

「……クリストフ様」

 

 女性が唖然と呟く目の前で。EVのカメラをまっすぐに見据えて。

 

 彼は、名乗った。

 

「私の名は、クリストフ・ゼオ=ヴォルクルス!!」

 

 

 

 

 その声が響いた瞬間。

 

 世界が、静寂に支配された。

 

 神聖ラングラン王国において、名はその人間が司る役割を示す。称号はもちろん、名字そのものにも意味がある。正樹が背負った『ランドール・ザン=ゼノサキス』などは、その名全てが聖号として賛されるものの好例と言えるだろう。

 

 そして、クリストフ。ラングラン国民において、その名を知らぬものは居ないと言い切って良い。

 

 ただし――その名は本来、別の称号を冠するものなのだが。

 

 そして、人々は、その本来の名を知るが故に、心を凍らせざるを得ない。

 

 それが意味することを――そしてそれが示す、恐るべき、そして忌まわしき事態を解するが故に。

 

「てめぇ……『ヴォルクルス信徒』だったのか!」

 

 しかし、それを毛程も察しない男が、怒りの声音と共に立ち上がった。

 

 ばがんばがんと、機体を拘束する装置を引きはがし、ぼすん、ぼすんという音と共に体躯を巨大化させてゆく機神。

 

 すっくと立ち上がり、グラウンドに影を落とす闇色の機神をまっすぐ指さす。

 

 白銀の機神、『サイバスター』。

 

「信徒と言われると少々抵抗はありますが……概ね、そうだと応えておきましょう」

 

 その返答で、懐疑が絶望に変わった者がいたのだろう。思わず足を止めていた観衆がさざめく。

 

 しかし、それでも正樹は気付かない。気付けるはずもない。一瞬不審の目を周囲に巡らせるが、肺腑の奥に燃え上がる怒りを、罵声に変えて迸らせる。

 

「それで、何しに来やがった。またいつぞやのルオゾールみてぇな冷やかしか? てめぇらヴォルクルス信徒は揃いも揃ってワンパターンか?」

「それについては自分でも少々反省しているところですよ。全く、我ながらルオゾールと同じ事をしていると思うと、運命の采配を疎ましく思いますね」

 

 言葉の割に、むしろ楽しそうに含み笑いを漏らす愁――いや、クリストフというべきか?

 

「私が用があるのは――この御前試合の勝者、つまり貴方です、正樹」

「俺に、だと?」

 

 予想外の指名に戸惑う正樹を余所に、愁は含み笑い混じりに言葉を続ける。

 

「そう。貴方と『サイバスター』はこの試合の結果、最強の魔装機として認められた。その事をまず、祝福させていただきましょう」

「てめぇに褒められても嬉しくもねぇ。だいたいてめぇ、まさかわざわざそんな事を言いに――」

「せっかちですね、貴方は。

 最強である貴方を、私がこの『グランゾン』で倒せば、当然の帰結として、最強の称号は私の『グランゾン』に与えられる事になります。それを以て聖戦の先触れとし、全界に私への――そして『ヴォルクルス』様への反抗が無意味であることを知らしめる」

 

 正樹の言葉を遮り、愁が一気に言葉を紡ぐ。そしてひとつ、発言が人々に浸透するのを待つように言葉を句切り、

 

「それが私の目的です。ご理解戴けましたか? 正樹」

 

 そう言って、また含み笑いを漏らした。

 

「……巫山戯たこと抜かしやがって。馬鹿じゃねえのかてめぇ!

 あん時もいきなり襲いかかって来やがって! あん時には恩もあったが、やっぱてめぇは俺の敵だ! ここで叩き潰す!」

 

 憤激の声を吹き上げながら、正樹は手を打ち鳴らす。ばしゅ、という黄金の輝きを割って、左の掌の中から抜き放たれるのは、愛用の直刀『ディスカッター』。時空転移の残滓に青い光を散らしながら、真直ぐに『グランゾン』に差し向けられる。

 

 それを見下ろし、愁の顔に浮かび上がるのは、この場に不釣り合いに満足げな――しかしこのような事態だからこそ、酷く挑発的な笑み。

 

「まさしく、望むところです。貴方と『サイバスター』の首級、貰い受けましょう」

 

 悠然と指し伸ばした腕。虚空を引き裂き、青い光を纏って、『グランゾン』の大剣、『グランワームソード』が現出する。

 

 ゆらりと突き付けられる、大剣。対するは清廉なる銀の直刀。

 

 プレシアやブランソンなどの戦士はもちろんのこと、逃げ出そうとした人々ですら、思わず足を止め、固唾を飲んで見守る前で。

 

「おいおい、勝手な事抜かすなよ。主賓抜きで最強談義か?」

 

 言葉と同時に、轟音が轟いた。

 

 ばりばりと空を引き裂く弾丸が、『グランゾン』の背中に吸い込まれる。

 

 ぎぃっ!! 一瞬空が悲鳴を上げ、『グランゾン』の姿がかき消え。

 

 リニアレール・ガンの弾丸が、空を割き、城壁を越えて消えて行く。

 

 弾丸と、『グランゾン』と、それぞれが消えた空に視線を配り、しかし油断なく剣を掲げたまま、正樹が野次の声を飛ばした。

 

「相変わらず不意打ち上等かよ。ヒーローが聞いて呆れるぜ」

「はっはっは、所詮この世は勝ったもんが正義ってな」

 

 軽口で応えたのは、もうもうと巻き上がる砂塵の中心。

 

 超音速の弾丸が、引き裂き蹂躙した砂塵の帳。断ち割って出現するのは、黄土色の巨神。

 

 ばきばきと拘束具を砕きながら立ち上がる、大地の魔装機神。

 

 ふっと、消える寸前と寸分違わぬ場所に、青い光の粉雪散らし、『グランゾン』が再臨した。

 

 冷たい青を割り裂いて、見下ろす不吉な闇の色。無粋な闖入者を、しかし特に不快げでもなく見下ろし、眺める。

 

「『ザムジード』ですか。随分と寝坊したものですね。体の調子は如何ですか?」

「ご心配感謝感激。だが寝坊はしても愚痴は言わない、そいつがいい男のやせがまんってもんさね」

 

 含み笑い混じりに投げ下ろされる声を、軽口であしらう『ザムジード』のリカルド。挑発的に掌を閃かせ、腰を落として臨戦態勢を整える。

 

「おい猿回し。眠いなら寝てていいんだぜ」

「へっ、てめえこそ、剣先が震えてるぜ。ガタついてるのかガクブルってんのかはっきりしな」

 

 軽口を叩き合う二体の魔装機神。その言葉を聞くに至り、プレシアは二人の様子が普段と違う事に気が付いた。

 

 確かに、リカルドの声が示すとおり、『サイバスター』の剣先が震えている。それは恐怖や高揚から来るものではない。見れば、『ザムジード』の方も、いつもに比べ構えが甘い。重心がかすかに揺らいでいる。

 

 しかも、『サイバスター』も、『ザムジード』も、普段に比べ輪郭がぼやけている。それは《魔装》の収束が甘い事を示しており、彼らの集中力が著しく低下している事を知らしめている。

 

 そうだ、考えてみれば当然なのだ。仮想空間上とは言え、魔装機を用いたシミュレーションはプラーナを消耗する。彼らはそこで、今し方幾度もの死闘を繰り広げたばかりではないか!

 

「宜しい。二人纏めてお相手差し上げましょう」

 

 頭上の『グランゾン』も、その事実に気づいているのだろう。二対一の不利を厭うこともなく、悠然と挑戦を受け入れた。

 

「そう……それくらいでなければ意味がない!」

 

 

 

 

 競技場大会議室。それは、この競技場で開催される催しのミーティング、あるいは進行を管理するための司令室として運用される部屋だ。

 

 城壁部分に埋め込まれるように設置されており、窓はないものの、外部の情報は中央コンピュータと連携したEVによって収集が可能。収容人数も多く、一般の会議目的に貸し出されることも多い。

 

 更に先日の魔装機神操者選定の儀における『ヴォルクルス信徒』の襲撃の経験から、非常事態における司令部として運用されるべく改装されたものなのだが。

 

「各地の正魔装機と連絡は!?」

「無理です、各地に新種の『デモン・ゴーレム』と思われる適性存在が出現し、その対応に追われています!」

 

 現在、それは当初の予想通り――望まれるべきではないことに――防衛局に占拠され、ラングラン国内で生じた数々の脅威に対する中央司令部として運用されていた。

 

「ソラティス神殿にて『グランヴェール』が新型ゴーレムの殲滅を確認……ああ! 何者かに奇襲を受けた模様! 『紅蓮のサフィーネ』と思われます!」

「シオナイト神殿より報告、機装兵部隊壊滅! 修理費の請求が――」

「後にしろ後に! ええい、機装兵では対処できんのか!? 州軍はどうなっている!」

「駄目です、新型の戦闘力が思いの外高く、正魔装機と連携が取れていません!」

「第三監視塔大破!」

「ええぃ、だらしのない事だ!!」

 

 どん、と苛立たしげに机に拳を打ち付けるのは、防衛局長官のフェイルロードである。今回の御前試合の目的の半分ばかりが不穏分子の激発にあったため、あらかじめ全国に指示を飛ばせるように、競技場にそれ向きの機材を運び込んでおいたのだが――指示は出せても、末端の対応がついていっていないことに、苛立ちを隠しきれていない。

 

「フェイル、あまり焦るものではないよ。少し休みなさい」

 

 そう責任者を窘めるのは、国王アルザール・グラン・ビルセイアである。

 

「しかし、国王陛下!」

「パパと呼んではくれないかね?」

「そんな事を言っている場合ではないのです!!」

 

 再び、拳が机に叩きつけられる。募る苛立ちが、フェイルロードの挙動に乱暴さを付加している。

 

 よもや、これほどの戦力を動員してくるとは。よもや、競技場にまで攻撃を仕掛けてくるとは。よもや、『五人の誉れ』隊すら一瞬で屠られるとは。よもや、クリストフが帰還し、あまつさえ『ヴォルクルス信徒』に成り果てていようとは!

 

「だが、責任者がその様子では、従う者が不安になる。わかっているだろう?」

 

 アルザールの窘める言葉も理解はできる。だが、悠長に構えるには、余りにも状況が切迫し過ぎているのだ。

 

 フェイルロードは、憂さをたっぷり混ぜ込んで、深呼吸を吐き出した。そして、目下最大の脅威事象に意識を差し向ける。

 

「例の『グランゾン』についてはどうなっている?」

「先程の時空転移の後、衛星が転移先を捕捉しました。偵察プローブが現在現場に移動中です」

「そうか……」

 

 思わず溜息を吐き出しかけて、飲み下す。これで何度目だろうか。アルザールが言うように、指揮官が憂鬱さを吐き散らしていては、周囲の部下の士気に関わる。それは更にその下の部下へ、更にその下へと、徐々に抽象化されたネガティブな感情へと純化されながら伝播していく。そうなってしまえば、指揮官がどういう憂鬱さ――例えばそれが午後の歯医者の予定だったとしても、蔓延するネガティブな感情は、全体の士気低下として発現してしまう。

 

 舞い降りる『グランゾン』に対し、『サイバスター』と『ザムジード』が交戦を開始したのは、つい五分ほど前だ。

 

 二機は、まず最初に戦場の移動を試みた。競技場の狭い敷地内で魔装機神が暴れれば、構造物やそこにいる人間も無事では済まない。

 

 『グランゾン』の方も目的は施設の破壊ではなく魔装機神の破壊のようで、空中に舞い上がった『サイバスター』からの『アートカノン』の砲撃に、特に躊躇もなく高度を上げた。上昇してゆく『グランゾン』の背中に、『ザムジード』が追い打ちのようにレールガンを撃ち込むが、例によってと言うべきか、『グランゾン』は明滅するように姿を消しては現れを繰り返し、弾丸は闇色の《魔装》をかすりもしなかった。

 

 そして、『グランゾン』が一定の高度に達したところで、『サイバスター』が空間を切り裂いた。同時に、『ザムジード』が砂礫を打ち上げ、銀色の膜へと変換する。

 

 『ザムジード』が、先程決勝試合で使って見せた『グランド・フォール』を真横に行使し、銀膜毎『グランゾン』を圧迫する。そして、その圧力が押しやる先は、『サイバスター』が切り裂いた空間の虫食い穴。『グランゾン』も二機の意図を察しているようで、特に抵抗もなく虫食い穴へと飛び込んでゆく。

 

 『グランゾン』が虫食い穴の中に消えた所で、『ザムジード』が高く跳躍し、『グランゾン』の後を追った。そしてそれを待って『サイバスター』が虫食い穴に飛び込み、その直後に穴は維持する力を失って、閉鎖された。

 

 そして、三機がその場から姿を消してから数分。ひとまずの脅威が立ち去った国立競技場会議室では、フェイルロード他軍上層部及び王室関係者等が詰め合わせ、口忙しく各地と連絡を取り合っていたのである。 

 

「『サイバスター』、『ザムジード』、人工精霊からのデータリンクに依れば、共に被害は軽微。しかし敵対機『グランゾン』も特に損耗を受けた様子はありません。また、間もなく『ザムジード』操者のプラーナ消耗が危険域に到達します」

 

 戦況は、必ずしも芳しくない。正魔装機数機と州軍の魔装機が協調できれば、現在想定し得る敵対者ならば、確実に迎撃できる自信はあったというのに。

 

 実際は、敵の他面作戦によって戦力を分断され、あまつさえ各地における州軍と魔装機神隊の不協和音が、ここに至って耳障りなノイズをがなり立てている。元より、誰かに従うという事を苦手とする魔装機神隊の面々である。州軍の歩調に合わせる事を期待するだけ無駄であるし、逆もまた然り。見通しが甘かったとしか言いようがない。

 

 一部、ヤンロンやテュッティ、ファングのように、本人のカリスマによって両軍をまとめ上げ、有効に敵対者を迎撃できている場所もあるようだが、そこには例えば『紅蓮のサフィーネ』などの名のあるヴォルクルス信徒が出現し、戦場を攪乱している。

 

 既に、戦場は各個撃破の乱戦状態に突入している。こうなってしまうと、司令所から動けないフェイルロードに、できることは限られてくる。

 

(――例え動けたとしても、私にできることは)

 

 口の中に、苦々しさが広がる。

 

(あなたには、何もできはしない。下がっていなさい、フェイルロード)

 

 クリストフの嘲笑が、耳の中で反響する。そうだ、自分には、目の前の脅威に対抗する力が何もない。一度声が届かなくなれば、もうそこで自分の意志を示す手段は途切れて無くなる。

 

 元々、為政者の力というものは、長期戦略に基づいたものだ。即時対応が可能なのは、為政者があらかじめ配置しておいた戦力だけであり、それは為政者の声などなくても自動的に脅威を排除する。そうでなくてはならない。

 

 自分は、その為に力を尽くしたつもりだった。だが、それを軽々と凌駕する敵がそこに存在する。あまつさえ、自分の声は争乱の中で容易にかき消え、それ以上の力の行使を許さない。所詮、為政者の力など、言葉途切れれば失われる、かりそめのものに過ぎないのだ。

 

(私に――もっと力があれば!)

 

 歯噛みする。クリストフ、彼の嘲笑が耳にこびり付いて離れない。そうだ、自分は昔から、彼に劣等感を抱いていた。異邦の血を受け継ぎながら、誰よりもラングラン王家の人間として相応しい能力を発揮する男。魔力、知力、体力、全てにおいて彼はスペシャルだった。

 

 一方で、自分はどうだ。知力はともかくとしても、体力は十人並か、それ以下に過ぎない。増して魔力に至っては――。

 

 クリストフが失踪して(公式には各国を遊行しているという事になっていたが)以来、自分は彼の影を払拭すべく力を尽くしていた、と言っても過言ではない。ラングラン王家の第一王位継承者として、彼に対する劣等感を払拭し、正しく王として務めを果たす為の布石。魔装機計画も、その一環には違いない。

 

 しかし、再び現れた彼が携えるあれは何だ。一瞬で魔装機五機を破壊したあの力。正しく、予言の『魔神』そのもののようなそれは――口にしてはならない事ではあるが、フェイルロードの理想そのものと言っても過言ではない。

 

 それが、ヴォルクルス信徒の手にあり、神聖ラングラン王国に宣戦を布告した。何の冗談なのか。いくら異邦の血脈を受け継ぐと言おうとも、彼はラングラン王国の王族なのだ。それが、ヴォルクルス信徒――背教者の先鋒に立ち、自分に向けて剣を振るう。否、そうではない。そうではないのだ。彼は、自分など見ていない。彼が見ているのは、恐らくは、王城グランパレス奥底の――!!

 

 フェイルロードの思考を、情報士官の悲鳴が寸断した。

 

「間もなくプローブが戦闘領域に到達――ああっ!」

「どうした、エリオット!」

「『ザムジード』大破! ――映像来ます!」

 

 エリオットと呼ばれた情報士官の言葉に、司令所に緊張が広がる。そして各地の戦況を表示していた中央の水晶モニターに、大きく新しい窓が開かれる。

 

 そして、その場に居合わせた全員が、言葉を失った。

 

「――馬鹿な」

 

 フェイルロードが、呪詛めいた呻きを漏らす。

 

 彼の視線。否、その場の全員の視線の先。

 

 王都エル・ラングから、80キルゴーツ(約140km)離れたフェイドラ平原の一画。

 

 闇色の機神『グランゾン』と、白銀の『サイバスター』が対峙する、その場所で。

 

 彼らの、視線が集中するその先で。

 

 『サイバスター』の右肩が、爆ぜ割れた。

 

 白銀の右腕が、くるくると宙を舞い。

 

 手からこぼれ落ちた『ディスカッター』が、ざっくりと大地に突き刺さる。

 

「魔装機神が――」

 

 誰かが、小さく呟く。

 

 やめろ。フェイルロードは思う。口にしてはいけない。それは致命傷になる。絶対に、その続きを口にしてはならないのだ。

 

 口にしては、ならないのに。

 

「負けた?」

 

 致命的な一言を、紡いだその口は――フェイルロードその人のものだった。

 

 

 

 

 右肩から、文字通り引き千切られるような激痛。

 

「ぐぁああっ!?」

 

 魔装機神の《精霊殻》ですらフィルタリングしきれない同調制御故の痛みに、正樹は苦悶の声を漏らした。

 

 特にそこを押さえねばならない理由もないし、そこからしたたり落ちる血液があるという訳でもないのだが、本能的に左手を患部に押し当てる。

 

 そこには、あるべきものが存在しなかった。

 

 一瞬で、右の肩もろともに、腕を奪われたのだ。

 

「正樹! ゴメンニャ! 痛覚カットが間に合わニャかった!」

「右腕脱落を確認、バランサー調整完了ニャ! でも、このままじゃ手も足もでニャい!」

 

 使い魔達が、コンソールの中で騒ぎ立てる。だが、そのような事、手も足も出ないことも含めて承知の上だ。

 

「あっの野郎……!」

 

 憤激を罵声に混ぜて吐き出す。起伏の少ない平原を、小さな目盛りの刻まれたゲージで区切った視界。その中心には、ターゲットコンテナがひとつ。コンテナの中には、闇色の機神『グランゾン』の姿がある。

 

 視界の端。赤いボックスで示されているのは、大破した『ザムジード』だ。左腕と右大腿部を粉砕され、立ち上がることもできず擱座している。

 

 この場に移動して数分。『サイバスター』と『ザムジード』は、『グランゾン』に対して総攻撃を仕掛けた。

 

 あらゆる火器を投入した。剣と拳も叩きつけた。だが、通常の魔装機であれば容易に粉砕できるはずのその威力は、しかし『グランゾン』には掠り傷ひとつ付けることが敵わなかったのだ。

 

 原因は、打撃の瞬間の『グランゾン』の消滅である。精霊力を感知するEレーダーにおいては、そこに間違いなく『グランゾン』の存在を検出できるというのに。弾丸であれ、剣であれ、命中するかという瞬間に、『グランゾン』が消える。斬撃も、打撃も、弾丸も全てがその場をすり抜け、その後に『グランゾン』が姿を見せるのだ。

 

 試しに、攻撃のタイミングをずらして見た。しかし、やはり『グランゾン』は消える。消えている時間は不定で、出現した後再度消えるまでのタイムラグも殆ど無い。再出現した瞬間を狙っても、打撃が命中する瞬間にはまた消えている。

 

 そして、一撃たりとも命中打を与えられないまま、交戦を開始して五分が経過した瞬間。

 

「魔装機神と言えど、所詮その程度ですか。残念ですね」

 

 その言葉を皮切りに、『グランゾン』が攻勢に出た。

 

 瞬間、『グランゾン』に振りかざされていた『ザムジード』の左腕が吹き飛んだのだ。

 

 そして、数秒後。すっと機体を横滑りさせて、『ザムジード』の拳をやり過ごした『グランゾン』は、胸の魔導石を、血の色に輝かせる。

 

 ただそれだけで、『ザムジード』の右大腿部が弾け飛び、勢い余った『ザムジード』はそのまま独楽のように回転して、地にめり込むように倒れ込んだ。

 

 そして、続いて斬りかかろうとして、『ザムジード』の惨状に思わず足を止めてしまった『サイバスター』にも、『グランゾン』の破壊が襲いかかった。

 

 《魔装》で防ぐのは不可能。目で回避するのは論外。攻性の『気』を感じ取った瞬間、機体を真横に投げ出した。

 

 一瞬遅れて、空間が捩れる音が耳朶を打つ。かわした――という思惟が脳髄にフラッシュした瞬間、次の破壊が躍りかかる。

 

 攻性の『気』。しかしその焦点は自分ではない。若干ずれた場所。それがどこだかわからない。右か、左か、それとも上か。左は『ザムジード』が倒れている――そんな漠然とした思考と、あとは本能だけを頼りに、右を選択した。

 

 見えない顎が、肩を掠める。翼の先端が、噛み砕かれた。バランスが崩れ、爪先がつんのめる。機体を転がして受け身を取り、天地を取り戻したところで大地を蹴りつけ、反撃に転じた。

 

 攻撃の直後であれば、思うように反応はできまい。そんな希望的観測に乗って、『グランゾン』に躍りかかり、『ディスカッター』を振り上げ、袈裟懸けに斬りかかる。

 

 そして、その瞬間。

 

 『グランゾン』がこちらを向いて。

 

 『サイバスター』の右肩が吹き飛んだ。

 

 思考が寸断されながらも、反射的に機体を後ろに跳躍させていた。痛みを知覚できたのはその後の事だ。自分の腕が失われた――否、『サイバスター』の腕で、自分のものはここにちゃんと存在する――そんな事実を認識できたのも、たった今。

 

「少し予想がずれましたか。思うようにはいかないものですね」

 

 含み笑い交じりの愁の声が、耳に突き刺さる。奴は回避する方向、タイミング、そしてその後反撃に転じる事まで全てを読み通し、先手を打っていたという事なのか。

 

「畜生が……!」

 

 肩を押さえながら吐き捨てる。肩の疼きが囁く。「痛い」「手も足も出ない」「勝てる訳がない」。肩を殴りつけるように叩き、痛みで疼きを振り払う。

 

「『サイバスター』! 無事か、マサキ!?」

 

 フェイルロードの声が聞こえる。偵察プローブが映像を捕捉したのか。随分とみっともないタイミングで見られたものだ。

 

「こっちは無事だ。まだやれる。リカルドの方を心配してやってくれ」

 

 通信窓に向けて声を返し、意識を再び『グランゾン』に集中する。ぼんやりしていた『サイバスター』に、『グランゾン』は追撃をするでもなく、悠然と様子を眺めている。

 

(嘗めやがって……そうは言っても、本当にやれるのか。武器は何が残っている?)

 

 脳裏に、現在使用可能な武器がリストアップされる。

 

 『ハイ・ファミリア』。当てることができたとしても、決定打に欠ける。

 

 『アートカノン』。『ハイ・ファミリア』同様、威力に乏しい。

 

 『サイ・ブレード』。片手で、しかも逆腕で振るうには無理がある。

 

 『サイ・フラッシュ』。膨大なプラーナを消費する。今の状況で使用するには、プラーナの消耗が激しいだろう。御前試合での消耗は、かなり深刻なレベルに達している。

 

 『アカシック・バスター』……。

 

 この武器は、まだ未完成だ。だが、未完成であるが故に、機体のエネルギーに依存し、プラーナの消耗は比較的少ない。今の状況でも、数発ならば使用できる――はずだ。

 

 問題は、チャージに時間がかかることだ。最低でも3秒。その間、敵を真正面に釘付けにする必要がある。――果たして、可能だろうか。

 

 そして、それ以前に――。

 

(奴に、どうやって当てる?)

 

 何度試しても、『グランゾン』に触れることができない。触れようとする度に、奴の姿が消える。攻撃が通過してしまうところから光学迷彩ではなさそうだし、消滅時と出現時で座標が変わらないところを見ると空間転移ではないようだが、攻撃が一切通用しないという事には変わりがない。

 

 消滅と出現の度に、青い光が飛び散るのが見えた。あれは空間湾曲や空間切断の際に生じる青方偏移現象だ。前の状況と照らし合わせて考えると、奴の隠れ身の術は、空間湾曲によるものであろうと推測できる。

 

 だとすれば、どうすればその防御を破ることができるか。空間制御には空間制御。『ディスカッター』を空間制御モードに切り替え、湾曲した空間を部分的にでも修復し、そこから攻撃を仕掛ける。それしかあるまい。

 

「……やってやる!」

 

 独り呟き、額に浮かぶ汗を拭う。腹は据わった。地面に突き刺さった『ディスカッター』を左手に握り、引き抜く。

 

 プログラムを呼び出す。空間湾曲と、『アカシック・バスター』。湾曲のパターンは不定。だが、一瞬でも穴が開けば、そこから一気にこじ開ける。

 

 エネルギー、チャージ。全身から血の気が引いていく。緊張からか、それとも消耗がいよいよ限界に近づいているのか。

 

 時間を稼ぐためか、それとも意識を保つためか。自分でも曖昧なままに、目の前の敵に語りかける。

 

「……よう、愁さんよ。そういやぁ、いつぞやはつまんねぇ割り込みで勝負がついてなかったな」

「そうですね。今頃彼らは無粋さを反省していることでしょうが」

「いきなり襲いかかる自分の無粋さは反省しねぇのか?」

「無駄口を叩いている間に、悪あがきの準備をする程ではありませんよ」

 

 ――瞬間、スロットルレバーを踏みしめた。

 

 コンソールを叩く指が、魔術式を呼び出す。

 

 『グランゾン』と『サイバスター』の間の世界が、圧縮される。

 

 剣に、銀の輝きが宿る。

 

 空間を軋ませる、『サイバスター』の覇空の煌。

 

 真っ直ぐに突き出された剣が、『グランゾン』に吸い込まれる。

 

 『グランゾン』が、消える。

 

 青い光の残滓を、『ディスカッター』が刺し貫く。 

 

 銀色の輝きが、空間の理をねじ曲げてゆく。

 

 銀の光が虚空を焦がし、青い雪花が舞い散り踊る。

 

「うぉら、あぁああああ!!」

 

 残り少ないプラーナを燃焼させ、『ディスカッター』に力を注ぎ込む。

 

 ミリ秒単位で湾曲パターンを変更し。霧の中で手を伸ばすように。鍵穴に針金を差し込むように。見えない答えに手を伸ばす。

 

 そして――わずか一瞬、銀の輝きの向こうに、闇色のかけらを見通した瞬間。

 

「掴んだぜ――!!」

 

 鬨の声を上げる正樹の目の前で。紙片を焼き切る炎のように、銀の光が穴を穿つ。

 

 炎は瞬く間に燃え広がり、闇色の帳を焼き尽くす。

 

 そして、姿を現した闇色の機神に、渾身の念を込めて、正樹が叫ぶ。

 

「喰らえ、アカシック……!!」

 

 呪言を唱える、その瞬間。

 

 正樹の視界が、消えた。

 

(――!!)

 

 絶句の呻きすらも、音にならない。

 

 左手に籠もった破壊力が、霧散していくのがわかる。

 

 取り戻さなければ。取り戻して、倒さなければ、ならないのに。

 

 しかし意志だけが一人歩きして、肉体が追随しない。

 

(あと一歩、だってのに――!!)

 

 絶叫する意志を嘲笑うように。

 

 ぐらり、と肉体が傾いだ。

 

「ここまでですか……残念ですね」

 

 愁の、落胆したような声が耳朶を叩いて。

 

 そのまま、正樹の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 白河愁の目の前で、『サイバスター』の目から光が失われた。

 

 黄金の輝きを放ち、《魔装》が解き放たれる。二回りばかりも矮小化した白銀の体躯が、ぐらりと傾ぎ、膝を折る。

 

「ここまでですか……残念ですね」

 

 誰に言うと言うこともなく小さく呟き、愁は力を失い骸めいた『サイバスター』の頭を掴んだ。

 

 片手でぶら下げる形に持ち上げ、つまらなさげに眺める。《魔装》を失った魔装機の素体は、決して頑健とは言い難い。『グランゾン』の握力を以てすれば、握り潰すことすら造作もないだろう。実際、掴み上げる為に握った素体は、既にして指が装甲を突き破り、めり込んでいる。

 

 ――このまま握り潰しても良い。だが、首級を上げる事が目的でもある。やはり剣で首を落とすべきだろう。

 

 右腕を宙に泳がせ、空間ポケットから『グランワームソード』を引き抜く。この大振りな剣は、このような用途には甚だ不向きだ。左腕の先で骸をぶら下げ、半身になって右腕を伸ばす。右手の先でくるりと回転させ、切先を『サイバスター』の首へと突き付ける。

 

 あとは、僅かに剣を差し込み、少し捻る。それだけで、この戦いに決着が付く。

 

 ――否、捻るだけでは事足りない。このまま縦に切り裂き、《精霊殻》を操者毎破壊するべきだ。魔装機神を放置すれば、今後どのような障害に成長するかも知れない。

 

 いや、今はその時ではない。そもそも、魔装機神の力など、真に完成した『グランゾン』の前には児戯に等しい。これからの幾つかの計画に、この男と魔装機神は、必要なファクターなのだ。

 

 ――それは、愁の内的宇宙の葛藤。外的宇宙では、ほんの一秒足らずの時間。

 

 しかし、確かにその間、愁の感覚は内面で閉じていた。それは油断に他ならない。

 

 たった一秒。戦いにも決着がつき、ただ首級を刈り取るか、それとも全てを滅ぼすか。それに迷った僅かな一瞬。

 

 だが、その一瞬は、ある者にとって、全てを覆すに十分な長さを持っていたのだ。

 

「……そう上手くはいかないようですね」

 

 愁は、音に出ないよう、小さく息を吐き出した。

 

 首筋に、冷たい感触。

 

 首筋に、『グランゾン』の《魔装》を介してすら感じられる、冷たくて、かつ鋭い、縒り束ねられた殺気。

 

 いつの間に突き付けられたのか。正樹の相手に夢中になっていたのも確かだが、それでもこのような殺意を気取れないようでは、不覚としか言いようがない。

 

 もう一度、自らの迂闊さを嘲笑う吐息。その嘲意のみを塗し、愁は言葉を紡ぐ。

 

「――その剣ごときで、『グランゾン』の護りを破れるとでも?」

 

 自らの――『グランゾン』の素首に、片刃刀を押し付ける、橙色の魔装機へと。

 

 愁はそれを知っている。それは、竜巻の魔装機『ギオラスト』。手にするのは、純神鉱石(オリハルコニウム)製の『ディスカッター』。

 

 そして操者も知っている。自分と格別の因縁のある相手。かつて薫陶を受けたこともある、偉大なる剣の皇。

 

 操者は――《剣皇》こと、ゼオルート・ザン・ゼノサキス。

 

「――試しますか? 私に失うものは何もない」

 

 返る声に宿る、静かな怒り。穏やかでありながら、灼熱の闘気。刃に満ちる、斬鉄の殺意。

 

 刹那、両機が動いた。

 

 『グランゾン』の機体をスライドさせる。得意の無加速機動だ。ゼロ速度から、トップスピードへ。距離を開き、直後に歪曲フィールドを展開する。

 

 残像を残して消える『グランゾン』を、橙色の魔装機が一振りで薙ぐ。青い光に閉ざされる時空の扉から、黄金の飛沫が漏れて飛び散る。

 

 黄金の飛沫。それは、『グランゾン』が纏う《魔装》の残滓に他ならない。

 

(斬られた――!!)

 

 視界が闇に閉ざされる。光波、電磁波、他重力以外の全ての力を歪める歪曲フィールドに閉ざされた空間の中で、愁は機体のコンディションを確認する。先程胸元に感じた灼熱感の正体を。

 

 そこには刃の擦過傷が穿たれていた。《魔装》の防壁を突破する程ではなかったものの、鉄壁であったはずの『グランゾン』の護りを突破した、初めての斬撃。

 

 馬鹿な。慣性抑制機を搭載した『グランゾン』は、速度ゼロから瞬時に最高速度に加速できる。一方、剣の重量、自らの腕の重量、そしてそれぞれの剛性と、《魔装》シリンダーの反応速度。それらの条件が足かせとなっていながら、どうして刃が『グランゾン』を捉えられるのか。

 

(流石は――師範)

 

 口元が喜悦に歪む。そうだ、自分はこのような敵を求めていた。

 

 歪曲フィールド上に観測ポケットを展開し、外部の状況をモニタリングする。歪曲フィールドは外部からの観測を阻害すると同時に、内部からの観測も妨げる。これを透過するため、『グランゾン』はランダムに移動する観測ポケットを歪曲フィールド上に展開し、その穴を通じて外部情報を取得するのだ。

 

 外部の『ギオラスト』の状態を確認する。歪曲フィールドによって『グランゾン』の姿を見失ったゼオルートは、微動だにせず周囲に視線を――否、恐らくは『気』の糸を張り巡らせている。

 

 歪曲フィールドを展開したままでは、思うように移動できない。一度フィールドを解除し、距離を開く必要がある。

 

 だが、この位置は『ギオラスト』の剣の間合い。今フィールドを解除すれば、間違いなく瞬時にゼオルートの太刀が襲いかかる。『グランゾン』にとって有利な位置を確保するには、最低一度、『ギオラスト』の剣を凌ぐ必要がある。

 

(――フ)

 

 口元に小さく笑みを浮かべ、愁はフィールドを解除した。

 

 直後、まるでその瞬間を察知していたかのように、『ギオラスト』の剣が振り抜かれる。真っ直ぐに、『グランゾン』の首を狙う位置だ。速度も、角度も、申し分のない一閃。

 

 それを、『グランゾン』は『グランワームソード』で迎え撃つ。

 

 青の燐光を放つ『グランゾン』の太刀。まっすぐに翳せば、『ギオラスト』の剣の軌跡と衝突する。

 

 くすんだグリーンの《魔装》と、青の燐光が激突し、黄金の火花を散らす。

 

「――――むっ!」

 

 衝撃が、《精霊殻》越しに愁の両腕を震わせる。フィルターも追いつかないほどの衝撃。びりびりと剣が震え、『ディスカッター』と『グランワームソード』の《魔装》が弾け、拮抗する。

 

 輝きが平野を黄金に染め上げたのも一瞬。黄金が霧散した時には、『ギオラスト』は既に『グランゾン』から二十歩ばかりも距離を開けていた。

 

 愁とゼオルートでは、プラーナ量に絶対的な差がある。力比べでは、ゼオルートには到底勝ち目がない。それを見越してのヒット・アンド・アウェイであろうが。

 

 ――『グランワームソード』の、『ディスカッター』と拮抗した部分。わずかではあるが、刃がこぼれ落ちている。

 

(面白い)

 

 圧倒的な《魔装》の物量差をものともせず。『ディスカッター』に乗せた僅かな《魔装》を研ぎ澄まし、一瞬の交錯の間に『グランワームソード』の《魔装》を斬り裂いたのだ。誰にでもできることではない。

 

「……死に急ぐ事もないでしょうに」

 

 口元が僅かに笑みを描き、挑発的な言葉を告げる。

 

「弟子達の不始末を拭うのも師の勤めですよ」

 

 そう言うゼオルートの剣は、愁の挑発にもまるで揺るがない。静かに、しかし斬鉄の意志を漲らせて、真っ直ぐ水平に番えられている。

 

「余りに邪悪すぎる、その『気』……ここで断たせて貰います!」

 

 その言葉を地上に残して。

 

 『ギオラスト』が天に舞う。

 

 飛来する、緑の《魔装》塊。それを無造作に局所歪曲フィールドで弾きつつ、愁の意識に、ひとつの思惟が浮かび上がった。

 

(弟子――達)

 

 彼は、確かに弟子『達』と言った。

 

 

 

 

 ゼオルート・ザン=ゼノサキスは、不易久遠流剣術の目下唯一の皆伝者である。

 

 隣国バゴニア共和国の誇る《剣聖》シュメル・ヒュールと並び、剣術においてはラ・ギアス最強の一人に数えられる。かつての聖戦の英雄《天騎士(ハイランダー)》ランドール・ザン=ゼノサキスの血を受け継ぎ、彼の携えた聖剣『ガルナシア』を継承していると言われる。

 

 ――全界一の英傑。最強の剣士。即ち、《剣皇》。

 

 過ぎた名だ、と思う。主を護れず、妻を奪われ、軍からも逃げ出したこの身には。

 

 かつては、自分もランドールの名を欲した時期があった。ゼノサキスの一族を背負う身として、相応の名声を手にしなくては。そう、気負っていたのだ。

 

 だが、実際には自分にそのような名声が与えられることはなかった。もちろん、英雄を欲しない時代だった事もある。だがそれ以前に、自分はランドールを背負うには、余りにも矮小だったのだ。

 

 それでも自分は、良い娘に恵まれた。良い弟子にも恵まれた。自分のような不甲斐ない人間に、過ぎる程の幸福だった。

 

 だが、だからこそ、娘から母親を奪うことを許してしまった自分が、許せない。

 

 子から母親を奪うことを、見過ごしてしまった自分が、許せない。

 

 故に。

 

 この右手には、過ちを正す覇空の剣を。

 

 この身体には、愛しを護る不動の盾を。

 

 この歩みには、真実貫く光の矢を。

 

 この闘気には、罪を飲み込む波濤の轟きを。

 

「指南差し上げましょう。不易久遠流四神剣の奥義がひとつ」

 

 空中を舞いながら、『ギガソート・カノン』の魔力弾を牽制に投げ落としつつ。

 

 ゼオルートの剣が、白の輝きを纏う。

 

 大上段に構え、ありったけの闘気を注ぎ込む。白き《魔装》が燃え上がり、さながら白炎の瀑布の如く降り下る。

 

 推進器はとうに全開。《精霊殻》を通しても耳朶を引き千切るような轟音の最中、ゼオルートは小さく呟いた。

 

「波濤剣・瀑」

 

 正しく、《魔装》の瀑布が『グランゾン』を呑み尽くした。

 

 

 

 

 彼女は、その剣を知っていた。

 

 少女の頃から、その太刀筋に憧れていた。

 

 あれは、四神剣の奥義がひとつ。刻の秘技『波濤剣』。あらゆるものを叩き伏せ、砕き、押し流す魔術剣。

 

 初めて見た時の、その鮮烈さと、それを披露した直後の彼の恥ずかしげな顔。

 

 忘れようはずがない。見間違えようはずがない。あれは。あの橙色の魔装機を操るのは。

 

「どうしたの、ピア?」

 

 扉の向こうから、名を呼ぶ声が聞こえてくる。僅かな深みを帯びながら、しかし少女のように無垢な声音。

 

 いつもなら、すぐにでも飛んで行く。そうでなければならない。『彼女』が自分の名を呼ぶことなど、滅多に無いことなのだ。

 

 だが、今は。今だけは。

 

 EVの前から、離れる訳にはいかなかった。

 

 渦巻く波濤が、闇色の鬼神を押し流す。否、その前に闇色は姿を消している。しかし、その程度の事で、彼の剣は揺るがない。揺るぐはずがない。着地した瞬間には、次なる秘剣の構えに入っている。

 

 そう、彼が膝を折るはずがない。何故ならば、あの人は。

 

 あの人は――!

 

 

 

 

 波濤剣。それは四神剣の奥義のひとつ。基本的には大上段からの真っ向縦一文字斬りである。

 

 もちろん、それ自体も鍛え抜かれた筋力と、幾千、幾万回繰り返して研ぎ澄ました軌道による一閃。破壊力は相当なものだ。しかし、それがわざわざ『波濤剣』と名付けられるのは、《魔装》デバイスを用いる事による、疑似魔術現象を引き起こす事に起因する。

 

 神鉱石(オリハルコニウム)による魔術デバイスを用い、発生する《魔装》に鮮明なイメージによる方向付けを与える。これにより、発生する《魔装》は術者のイメージを具現化し、様々な超現象を引き起こす。

 

 『波濤剣』は、《魔装》に『水』の要素を付加し、純化させる。これによって剣の《魔装》はまさしく波濤の如き質量の波となって、犠牲者を打ち据えるのだ。

 

 ――しかし、目の前の闇色の機神に、そのような技は通用しない。『サイバスター』が、『ザムジード』が、何度も繰り返した試行錯誤。そのデータはこちらにも届いている。

 

 『波濤剣』の濁流を前に、『グランゾン』が姿を消した。しかし、そこからいなくなった訳ではない。言うなれば、塹壕に身を隠しているようなものだ。攻撃を行う時に限り、塹壕から身を乗り出し、銃を撃つ。今は、相手の攻撃をやり過ごすために、穴の中に身を隠している。理屈はどうあれ、現象はそれだけの事に過ぎない。

 

 ならば、塹壕の位置を特定すればいい。全てを押し流す濁流を以て、空間を一掃する。塹壕に隠れていたとしても、塹壕の上を過ぎる時、波濤は必ず不自然な乱流となる。そこを狙えば良い。

 

 もちろん、言葉にするは容易いが、流れの乱れを見極めるのは、簡単なことではない。人の眼では不可能だ。それを実現するには、妖精の類いの目が必要だろう。

 

 しかし、我は《剣皇》。剣の皇。剣の道を歩むに於いて、既に人の限りを踏み越えた者。

 

 まして、《魔装》とは心のカケラ。この濁流も、己が心象を引きずり出したもの。ならば、見極められぬ道理はない――!

 

 『グランゾン』が消える。濁流が駆け抜ける。常人に見えるのは、ただそれだけ。

 

 しかし、我は《剣皇》。見える見えないではない。我が《剣皇》である限り、”それ”は見えねばならぬ。それは義務ではない、必然である。

 

 故に、ゼオルートは見極める。一筋の歪曲。”その一点"から引き伸ばされる、歪みの残滓を、見極める。

 

(捉えた――!)

 

 『ギオラスト』の両足が大地を掴む。

 

 身を、引き絞る。全身の発条を、真一文字の剣跡を描くために。

 

 それは、それ自体はただの真一文字。しかし、剣は神鉱鋼。放つは魔装機。操るは《剣皇》。これで、ただの剣のはずがない。

 

 その形、その色、その気迫。それは、紛うことなき四神剣の奥義がいまひとつ!

 

「虚空斬!」

 

 そして、虚ろなる空を斬る太刀は、その名の示す通りに。

 

 空に散る言葉を切り裂き、吹き散らし、そして。

 

 波濤の渦が洗い出した、歪曲の一点に、吸い込まれるように。

 

 ――打ちすえる!

 

 ぎぃん、と世界が軋みを上げる。狙い過たず、虚空の一点を引き裂く。

 

 『波濤剣』が『水』の秘剣ならば、『虚空斬』は『風』の秘剣。風そのものを断ち切る空烈の太刀。

 

 人の身に依る太刀であれば、それはせいぜい空を裂き、真空を纏うのが限界だっただろう。

 

 しかし、この身は『竜巻』の魔装機。そしてこの魂は《剣皇》ゼオルート。

 

 故に、この剣は風を越える。純化した《魔装》が《昇位》を起こし、一瞬だけその相を、『風』さえも凌駕する風の最高相『空』へと昇華させる。

 

 真空さえも切り裂き、引き裂く断空の剣。それは、闇色の歪曲と相似の、しかし逆位置の力である。

 

 それが、僅か一点。『グランゾン』を守護する球状の歪曲フィールドの、その一点だけは逸らすことのできない、真心へと、叩きつけられる。

 

 故に、力は相殺される。

 

 力が食らい合う。お互いを殺し合う。摂理の断末魔が、青い雪のように輝き舞い散る。

 

 引き裂く。折り曲げる。断ち切る。歪め捩る。

 

 そして、力と力が拮抗した、ほんの僅かな一瞬。

 

 世界が、断ち割られ。

 

 剣を引き絞り。最後の秘剣を繰り出すべく。

 

 その向こうに、闇色と、血塗られて輝く紅玉が、見えて。

 

 紅玉の中心に、不吉に光を飲み込む、深遠の闇が、見えて。

 

 

 

 そして、その瞬間が。

 

 

 

 

 白河愁は、不快げに舌を打つ。

 

 摂理すら歪める、《剣皇》の秘剣に。

 

 アヴァターならぬ人の身でありながら、意志力のみで空間を歪める、その闘気に。

 

 いや、それはもはや、怨念と言っても良いだろう。

 

 そうだ、彼には、自分を恨む理由がある。故の怨念か。故に、彼は世界を軋ませるというのか。

 

 『虚空斬』の破壊力が、歪曲空間の綻びを切り開く。歪曲フィールドは、所詮は流れを歪曲させるもの。球面の頂点に垂直に力を加えられれば、力を逸らすことはできない。そうなってしまえば、歪曲フィールドそのものの構成力を以て、『虚空斬』の破壊力を圧し殺す必要がある。

 

 しかし、戦いはいつも、攻める側が有利だ。このままでは、遠からず防護膜が破られる。

 

 無論、『グランゾン』にはそこらの魔装機では及びもつかない強度の《魔装》が張り巡らされている。しかし、魔装機神ですら凌ぎきれない『虚空斬』の破壊力を、自分が正面から凌げるのか。

 

 闇色の帳に、一条の光で亀裂が走る。時間がない。背筋に、ひやりとした感触。

 

 光が広がる。どうする。瞬間的にフィールドを解除し、同時に『グランワームソード』で『虚空斬』を迎え撃つか? 否。今の状況で正面から受け止めては、空間破砕を仕掛ける前に剣が粉砕される。それは、先程刀身に刻まれた亀裂からも明らかだ。

 

 ――歪曲フィールドをこちらから解除し、『グランワームソード』を盾としている間に、歪曲フィールドを局所展開して『ギオラスト』を弾く、か。

 

 その結論に至るまで、要した時間は零コンマ数秒。

 

 しかし、愁の頭脳が結論を下すのと、《剣皇》の刃が結界を引き裂いたのは、ほぼ同時。

 

 闇が、砕けた。

 

 闇の帳を引き裂き、銀の炎が燃え上がり、青の燐光が舞い散る。

 

 そして、その向こうに見える、『竜巻』の魔装機『ギオラスト』。

 

 殺意を漲らせた紅蓮の眼が、『グランゾン』を射竦める。

 

 構わず、愁が『グランワームソード』を翳す。

 

 しかし、『虚空斬』の破壊は訪れない。

 

(――?)

 

 訝しむ愁の視線の先にあるのは、剣を引いた『ギオラスト』の姿。

 

 逆腕を弓のように。剣を矢のように、腕を引き絞るその構え。

 

 それは――四神剣の奥義がひとつ。

 

(――『光破閃』!? 馬鹿な、ゼノサキス家には!)

 

(伝わっていないからといって、使えない訳ではありませんよ!)

 

 《魔装》を通じて、意志が交錯し。

 

 『ギオラスト』の剣が、まばゆい光を纏う。

 

 それは――愁の看過した通りの。天騎士が編み出した四神剣の奥義。炎の秘剣『光破閃』。

 

 かつて、謎の魔装機が放った『光破閃・暁』のような紛い物ではない。圧縮され、研ぎ澄まされた《魔装》が引き起こす、アート・オブ・ソード。

 

 光の如き、否、空間圧縮現象による、光速すらも凌駕する速度の鏃!!

 

(いけない――!?)

 

 どっと汗が噴き出すのが感じられる。防げない。回避できない。原理的に、物理宇宙の存在は、光よりも速くは動けない。

 

 そして、防ぐこともできない。あれは《魔装》の槍だ。ありったけの破壊力を一点に集中した、原理的には四神剣でも最強の貫通力を誇る秘技。まともに浴びれば、『グランゾン』とても無事では済まない。万一《精霊殻》を貫通されれば、そこで終わりだ。そして、《剣皇》がそれを狙っていないはずがない――!

 

 時間が、ゆっくりと進んでいく。零コンマ一秒が一秒に。一秒が一分に。焦燥と戦慄によって、時間が拡充されてゆく。

 

 そして、引き延ばされた時間の中で、愁の意識の一部が、ある事実に警鐘を鳴らした。

 

 それは、背筋を凍らせるもの。皮膚を泡立たせるもの。全身を震わせるもの。手に冷たい湿りをもたらすもの。

 

 

 それは、『恐怖』。

 

 それは、自分が感じるものであってはならない。それは――自分が与えるものでなくてはならない。

 

(私が――この私が、恐怖を感じている?)

 

 ずきり。胸が痛む。心臓が暴れ出す。――不遜。不遜。人の身がなんたる不遜!!

 

 ひやりとした感覚が消えていく。胸の傷跡がずきずきと痛む。心臓が一拍する毎に、深紅の衝動が全身を満たしてゆく。

 

 否、心臓は脈打ってなどいない。それは錯覚に過ぎない。しかし、愁の肉体から、恐怖を払拭するにはそれで十分。

 

 口元が、笑みの形に歪む。凄絶な笑みを描く。

 

 不遜なるものに、死を。

 

 恐怖に恐怖を与えるものに、賛美と栄光を。

 

 故に。

 

 愁の手が、半ば彼の意志を無視してコンソールを踊り。

 

 『グランゾン』が、その忌まわしき破壊力を呼び起こす。

 

 

 

 

「ち――く――しょう!」

 

 罵倒の言葉と共に、正樹の意識が覚醒した。

 

 プラーナ不足とか、そういう問題は二の次だ。今は意識を呼び起こさねばならない。意志力を振り絞り、意識を活性状態に持ち上げる。

 

 何が起こっているのか。それは全てわかっていた。認識する必要もない。既に魂がそれを察知している。

 

 しかし、間に合わない。間に合わないのがわかっている。わかっているが、それでも立ち上がらなければならない。そうでなければならない!

 

 故に、正樹は立ち上がる。『サイバスター』が身を起こす。両目を見開き、前を見据える。

 

 しかし、どんなに目覚めが早くとも。

 

 正樹にできることは――その瞬間を見届けることだけだ。

 

 

 

 競技場のEVモニターの前で。

 

 《剣皇》の娘、プレシア・ゼノサキスは。

 

 父が『グランゾン』の防護結界を破ったことに、快哉の声を上げたそのままの喉で。

 

 絶望の悲鳴を上げることになる。

 

 

 

 七大神殿のひとつ、シオナイト神殿前広場。無人魔装機である機装兵の残骸積み上がるその場所で。

 

 《剣皇》の一番弟子、ファング・ザン=ビシアスは。

 

 真っ向からの一文字斬りにて、最後の新型『デモン・ゴーレム』……彼らは未だ知る由もないが、『死霊装兵』と呼ばれる、特殊な自律型戦闘ゴーレムを破壊した瞬間。

 

 ちらりと向けた通信窓の奥で、繰り広げられる絶望の宴に。

 

 ただ、絶叫を上げることしかできない。

 

 

 

 『ギオラスト』の剣が、燃え上がるような黄金の輝きに包まれて。

 

 解き放たれるは、光速の剣、『光破閃』。

 

 そして、光の鏃は『グランゾン』の中枢――ではなく、頭部を狙い、迸る。

 

 しかし、それが突き刺さるよりも速く。

 

 闇の帳から露出した、『グランゾン』の胸の紅玉から、ぬらりと闇色の塊がまろび出て。

 

 音もなく、解き放たれる。

 

 闇の残像を目に残して。

 

 闇色の塊は、剣を突き出す『ギオラスト』の胸に吸い込まれ。

 

 《魔装》に触れた瞬間、僅かな、黄金の飛沫を散らして。

 

 

 ――貫通した。

 

 

 『光破閃』の剣気が、ばばばっと収束を失い、飛び散って行く。

 

 無数の光の矢となり、『グランゾン』の《魔装》表層を叩いて、砕けゆく。

 

 しかし、『グランゾン』は動かない。動く必要がない。

 

 『ギオラスト』も、動かない。動く道理がない。

 

 しばしの沈黙。『グランゾン』も、『サイバスター』も、呆然と立ちつくす。

 

 そして、呆然とではなく、横たわったまま怒気を迸らせる男がひとり。

 

 最初に倒れたが故に、最初に自我を取り戻した、怒れる男がひとり。

 

「てぇめぇぇえ!!」

 

 吼え猛る声と共に、レールガンの砲門を絶叫させるのは、片手片足を喪失した『ザムジード』。横たわったままレールガンの加速魔術陣を展開し、トリガーを引き続ける。

 

 弾丸が、立ち尽くしたままの『グランゾン』の装甲に当たり、黄金の輝きを放って弾かれる。

 

 そこで初めて、『グランゾン』が動いた。

 

 無造作に、左手を振る。それだけで、『ザムジード』の頭が吹き飛んだ。

 

「リカルド!」

「この、程度でなぁーーー!!」

 

 それでもなお、リカルドはトリガーを引き続けた。戦場をよく知る彼だけは、たった今何が起きたのか、何が失われてしまったのか、正確に理解していたのだ。

 

 故に、彼は怒り狂っていた。

 

 この瞬間、彼だけが。彼だけが理解していたのだ。

 

 《剣皇》――ゼオルート・ザン=ゼノサキスが、永遠に失われた事を。

 

 

 

 

 今日は、妙に心がざわついた。

 

 いつものように青い空。行き交う人、車。よく見知った窓の外の光景。

 

 しかし、『今』はそれが、偽りのものだと理解できる。

 

 心がざわついたから、だからこそ、今そこにあるものの真贋が理解できた。

 

 ここは、牢獄だ。華やかに見てくれは取り繕ってあるが、実際には自由はなく、真実もない。

 

 自分が何故ここにいるのかはわからない。随分長い間ここにいるような気がするし、もしかすると数日なのかも知れない。

 

 付き人のピアは、今日は隣の部屋から出てこない。呼びかけても返事がない。囁くような音が聞こえるから、多分テレビ……いや、『こちら側』ではEV……に見入っているのだろうが。彼女にしては、随分と珍しいことだ。

 

 仕方がないので、編み物を再開する。『今』のように、意識がはっきりしているときの日課だ。

 

 編み上げるのは、子供用の衣服。靴下。マフラー。いくつ編み上げたかも定かではないが、それでも作り続ける。それが自分が積み重ねた月日の証であり、今生きている証でもある。

 

 ――あの子に、私が元気でいることを、伝えるために。

 

 だから、今日も編み続ける。『あの子』が使ってくれているだろうか。いやそれ以前に、本当に『あの子』の手に届いているのか。それすら定かではないが、それでも編み続ける。

 

 ――突然、部屋に悲鳴が響き渡った。

 

「……ピア?」

 

 安楽椅子から立ち上がり、ドアに手をかける。この声はお付きの侍女、ピアの声に相違ない。

 

 初めて聞く、彼女の悲痛な声。いや、一度聞いたことがあるような気がする。それはいつだったか。自分の記憶にあるのか。

 

 ――思い出せない。いや、思い出したくない。頭痛がする。フラッシュバック。森の中。祭壇。血染めのナイフ。悲鳴。それは誰の、いや、そんな記憶は存在しない。してはいけない。

 

 ――思い出せない。記憶違いだろう。気にせず、ドアを押し開ける。ピアに割り当てられた部屋は、廊下の向こうだ。

 

 扉の向こうから、嗚咽の声が聞こえてくる。しゃくりあげる声が聞こえる。何があったのだろう。不安になる。こんな事は初めてだ。彼女が、こんなに取り乱すなんて。

 

「どうしたの、ピア――?」

 

 普段は開けない、彼女の部屋の扉。呼びかけながら引き開けると、一層大きな嗚咽の声、音量を相当絞っているようでありながら、それでも何やら騒々しいEVの怒鳴り声が耳を叩いた。

 

 侍女のピアは、床にへたり込んで鳴いていた。両手で顔を押さえ、指の間から涙が途切れることなく滴り落ちる。

 

「ピア……?」

 

 小さく呼びかける。しかし、どうしたら良いのかわからない。こんな事は初めてだ。ピアが。いつも優しい、そして靱いピアが、こんなことに。どうして。

 

 原因を求めて――いや、むしろ助けを求めるように、EVへと視線を向ける。

 

 そこには、大きな橙色の甲冑が映し出されていた。

 

 多分、あれはロボットだ。昔、あんな風なものをアニメで見たことがある。

 

 画面に映っているロボットは、胸に小さな穴が空いていた。ぽっかりと、小さく。どのくらいの大きさなのか、EVからではよくわからない。

 

 ただ、酷く胸騒ぎのする穴。虚ろで、不吉で、死のにおいのする穴。

 

 自分の不安を拭うように――もちろん錯覚でしかないのだが――EVのカメラが移動する。画面に映し出されるのは、いまひとつのロボット。今度は濃い紫色で、城塞のような堅牢さを漂わせている。

 

 堅牢さを、漂わせているのに。

 

 何故、あんなに弱々しいのだろう? まるで、取り返しのつかないことをしてしまった子供のような――子供の――ような?

 

 頭が痛い。フラッシュバック。泣いている子供。小鳥の死骸を前に。子供が、不注意で殺してしまった、小さな鳥の骸を前に。

 

「あ、ああ……」

 

 前を向いていられない。今、自分は何を考えた? 思い出せない。頭が痛い。

 

 カメラが、紫のロボットの顔を映し出す。その人を模した目が見える。

 

 ――その目を見た瞬間。

 

 思考が焼き切れた。

 

 何も考えられず、呆然と、EVを見据えるしかない。他のことをしようとも考えられない。

 

 その目。無機質なはずのその目を見た瞬間、頭の中に焼き付いた、その顔。その名前。

 

 そんなはずはないのに。そんなところにいるはずがないのに。

 

「愁――?」

 

 口は――白河美咲の口は、自らも知らぬ間に、その名を紡いでいた。

 




 第二十三話です。愁VSゼオルートです。

 この流れは、愁がゼオルートを「倒しはしたものの、勝負には負けた」という筋にしたかった結果です。そのためにシュウがゼオルートからの指導を受けたことがあり、ゼオルートが愁に挑んだ理由に「弟子の惑いを祓う」という意味合いを追加しました。

 また、愁は本エピソードでゼオルートを倒したとき、自らの意思をコントロールするヴォルクスルの干渉を察知しました。これは愁にとっては許さざる行いであり、ここからヴォルクルスの支配から逃れるための模索を始めることになります。(なおそれが自らを滅ぼしてでも暴かねばならないほどの決定的な動機となるには、執筆に至らなかった第一部最終幕のイベントが関わります)

 愁の母親の美咲については、当時出回っていた同人誌の設定を受けて描写していますが、実のところこの時点でもオリジナルは読めておらず、友人達の協力によって孫引きで演出していた記憶があります。実は、今でもオリジナルを読んだことがあるかどうかいまいち自信がありません…… (笑)

 さて、次は正樹の克己と憑神バトルです。赤いボタンを知っているか。赤いボタンに猫を近づけてはいけない。決して。


 余談ながら、この原稿を投稿した頃、どうやらオメガウェポンをハードモードで倒したらしいのですが、何のオメガウェポンだったのだろう……? 時期的にダージュオブケルベロスでしょうか?
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