偽典・魔装機神   作:DOH

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第四話 魔装機神

 

(こいつは……化け物か!?)

 

 『陽炎』の魔装機『ジャオーム』の操縦席……《精霊殻》の中。目の前に仁王立ちする巨体を見上げながら、安藤正樹は内心呟いた。

 

「どうした? 前のリセットからまだ四合。機体はまだまだいけるはずだぞ」

 

 片膝を突いた姿勢の『ジャオーム』の前に仁王立ちする黒い巨体から、やや嘲弄を感じさせる声が聞こえる。哲学者のような、知性をふんだんに纏った……悪く言うなら神経質そうな声。

 

「く……、おうよ! まだ、まだいけるぜ!」

 

 疲労と痛みに、骨のかわりに鉛の棒を仕込んだような身体を奮い立たせようと、正樹は精一杯の声を張り上げて答えた。全身に力を込めて自らの《プラーナ》を活性化させ、『ジャオーム』の機体を立ち上がらせる。先程吹き飛ばされたときに取り落とした剣を拾い上げ、改めて正樹は目の前の巨体……『電光』の魔装機『ディンフォース』を睨み付けた。

 

「たかだか七戦訓練しただけでその体たらくか。もっと力をセーブすることを覚えろ」

 

 腕を組み、やや顔を上向きにして見下すように言う『ディンフォース』。いや、無論『ディンフォース』自らが喋っている訳ではない。正確には、その《精霊殻》の中の操者ホワン=ヤンロンが、である。普段ならこのような通信はモニター端に通信窓が開かれるのだが、今の正樹は戦闘の邪魔になるため、画面を消去していた。

 

 正樹は『ディンフォース』に打ちかかるために、拾い上げた『ディスカッター』を青眼に構えた。意識を集中し、刀身に一種の精神バリアである《魔装》を張り巡らせる。すると剣の刃が淡く黄金色の光を帯び始めた。しかし、その輝きは普段の彼のそれの半分もない。

 

 剣だけではない。もし今両者の機体を見比べる者があったなら、明らかに二つの機体の大きさが異なることに気づくことだろう。魔装機はその纏う《魔装》の強さによって、その機体サイズをある程度まで肥大化させる。そして、明らかに『ジャオーム』は『ディンフォース』に比べて小さく見えた。それは、正樹の《魔装》が酷く消耗していることを示していた。

 

(畜生、思うように身体が動かねぇ)

 

 言葉には出さずに、正樹は毒づいた。彼の消耗は、受けたダメージもさることながら、長時間の連続戦闘が原因だった。

 

 魔装機はその制御に、人の《プラーナ》と呼ばれる感情のうねりを源とした精神エネルギーを必要とする。それはただ起動しているだけでも消耗するが、ことに戦闘ともなるとその消耗は飛躍的に増大する。

 

 既に今日の戦闘は、『ジャオーム』が破壊されるまでを一回として計七戦。時間にするとせいぜいが一時間弱だが、既に正樹の疲労は限界の一歩手前に達していた。

 

(こいつも俺と同じ条件の筈なのに……なんで平気なんだ?)

 

 《プラーナ》の絶対量が違うのか、それとも使い方に違いがあるのか。全く疲労した様子も見せず、悠然と構える『ディンフォース』に、正樹は薄ら寒い物を感じた。

 

「いつまで休んでいるつもりだ? さっさとかかってこい」

 

 言いながら、挑発するように手招きをする『ディンフォース』。それに答えるように雄叫びをあげ、正樹は剣を振り上げ打ちかかった。

 

「うおおぉぉっ!」

 

 ブースターを最大に噴かして加速し、最上段に構えた剣を振り下ろす正樹。黄金色の尾を引いて打ち下ろされる刃を、しかし『ディンフォース』は全く避けようともしない。

 

(何のつもりだ……?)

 

 疑問が脳裏を走るが、構わず正樹は一気に剣を振り下ろした。ばあん、と《魔装》のぶつかり合い、弾ける音がこだまする。

 

 しかし、それだけだった。

 

「何だと!」

 

 眼前の光景に、正樹は我が目を疑った。彼の剣は確かに『ディンフォース』の肩口を捉えていたが、その刃は装甲を全く損なっていなかった。見ると、『ディスカッター』の刃筋に合わせて、黄金色の光が凝集されているのがわかる。

 

「《魔装》は制御すれば、多少の攻撃もはじき返す盾となり得る」

 

 困惑して二・三歩後ずさる『ジャオーム』に、ヤンロンは教え諭すような口調で解説した。

 

「無論、攻撃者がそれを上回るほどの《魔装》を乗せていれば、《魔装》による防御は簡単に貫通できる。しかし、それでは只の《魔装》量の物量戦になり、効率が悪い。

 そのため熟練の魔装機操者同士の戦いは、如何に相手の不意を付いて防御させないか……これが重要になる。機体の《プラーナ》変換特性にもよるが、大概の場合真っ向から《魔装》をぶつけるよりは、多少の小細工をした方が効率がいいからな。

 ……例えばこの様に」

 

 瞬間、腕組みをして説明していた『ディンフォース』が、まばゆい光芒を放った。一瞬の電撃のスパーク。それが収まったとき、正樹の視界から『ディンフォース』の機影は消えていた。

 

「なっ……どこ行った!」

 

 慌てて周囲を見回す正樹。と、彼の背後から、どこかつまらなさそうな声音のヤンロンの声が、激しい衝撃と共に届けられた。

 

「がっ……!」

「後ろだ。《迅雷(インパルス)》を使った」

 

 《迅雷(インパルス)》とは、『ディンフォース』の守護精霊である『電光のディンハイム』の力を借りた特殊機能である。瞬時に機体を加速し、文字通り『電光の如く』移動するのである。

 

 このような機能は、ある程度以上の精霊と契約した魔装機全てが装備しており、例えば『陽炎のジャノク』と契約する『ジャオーム』には、機体に《虚像(イフェメラ)》と呼ばれる幻影投射能力がある。

 

 もっとも今の正樹には、《虚像》を発動させることはできなかった。この類の特殊機能を発動させるには、一定水準以上まで《プラーナ》を励起させる必要がある。しかし今の正樹は疲労とダメージで、《虚像》に必要なレベルまで《プラーナ》を高めることができなかったのである。

 

「く……そ」

 

 全くの無防備状態の背中に一撃を受け、正樹は呻きと共に前によろけた。神経接続の逆流によって詰まった呼吸を整え、再び剣を構え直す。

 

 『ディンフォース』は、まるで今教えたことを試して見ろと言わんばかりに、腕組みのままこちらを眺めている。正樹は数秒思案して、再び相手に突進した。

 

「たありゃぁ!」

 

 左に深く引いた剣を、大きく横薙ぎに振り抜く。無論このような大振りが、『ディンフォース』に通じるはずがない。ほんの僅かに身を引き、切っ先をやり過ごす。

 

 だが、その剣はフェイントだった。ありったけの《魔装》を集めた左の拳……ボクシングで得意としていた左のストレートパンチ。これが、正樹の本命だった。黄金色のオーラに包まれた拳は、彼の操る剣などよりも数段速く、身を引く姿勢のままの『ディンフォース』の胸部装甲に突き刺さる。ばんっという《魔装》の弾ける音。『ディンフォース』の纏う《魔装》の表面に、波紋のように光が走る。

 

「どうだ!」

 

 打ち込みの姿勢のまま、正樹が快哉混じりの声をあげる。だが、ほとんどダメージを受けた様子の見えない『ディンフォース』の姿と、一撃受けてもなお冷静なヤンロンの声に、その感動は雲散霧消してしまった。

 

「アイデアとしては悪くない。だが、手ぬるいな」

「やべ……!」

 

 ヤンロンの言葉の裏に潜む攻撃的な意志を感じ取り、正樹は『ジャオーム』の機体を退かせる。しかし、それよりも一瞬早く、『ディンフォース』は攻勢に転じた。

 

「ハァッ!!」

 

 鋭く放たれる呼気。その気力をそのまま纏って、『ディンフォース』の鎚のような肘打ちが、身を引いて一歩退く『ジャオーム』の腹に突き刺さる。辛うじて強めた《魔装》で打撃を食い止める『ジャオーム』だったが、殺し損ねた衝撃にその全身を『く』の字に折り曲げる。しかも、黒い魔装機の猛攻はこれで終わりではなかった。

 

 肘打ちの形に折り曲げられていた右腕が跳ね上がり、そのまま裏拳となって『ジャオーム』の胸を捉えた。腹に集中していた《魔装》の防御が間に合わず、がいん、と音を立てて胸部装甲板が拳の形に陥没する。

 

 大きくのけぞる『ジャオーム』の腹に、『ディンフォース』は止めとばかりに左腕による正拳突きを叩き込んだ。先程の肘打ちと胸への一撃で、《魔装》が拡散していた『ジャオーム』は、今度こそ、その一撃を防ぎ止めることができない。腹の装甲が破られ、食い込んだ拳が内部機構を破壊する。そこに、ヤンロンは『グランドナパーム』を点火した。

 

「うおあわあぁぁぁぁっ!」

 

「戦闘中、攻撃の機会は限られている。その攻撃の一回一回に充分な威力を与えなくては、敵に思わぬ反撃を受ける事も少なくない。攻撃の機会を見つけたら、一撃で満足せずにできる限りの攻撃を集中することだ」

 

 『ジャオーム』の機体を容赦なく焼き尽くしながら、それでもヤンロンは諭すような口調を崩さない。腹を腕で貫かれ、全身を火炎放射器の業火に包まれて、苦悶の悲鳴を響かせる『ジャオーム』の前で、その姿はいっそ不気味でさえある。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁ……」

「もっとも、状況によっては一撃離脱戦法を繰り返す必要もあるだろう。その場その場で最適な戦術を選択できるよう、普段からイメージトレーニングを……おや、もう終わりか」

 

 尻つぼみに途切れる正樹の悲鳴に、ヤンロンはナパームの炎を止め、腕を引き抜いた。融解した『ジャオーム』の内部機構が、どろり、と腕から流れ落ちる。支えを失った『ジャオーム』は、そのまま倒れて足下に両膝を突いた。その衝撃で、熱で脆くなっていた左腕が、ぼとりと落ちた。

 

 『ジャオーム』は、擱座してもはや微動だにしない。ヤンロンはそれから数歩離れて腕を組むと、例によって面白くもなさそうな声音で、

 

「システム、『ジャオーム』機体コンディション、リセット」

 

 ヤンロンがそう呟いた瞬間、彼の目の前の『ジャオーム』……の残骸と言うべきか……の機体が細かい微粒子となって消えた。そして一瞬光が煌めくと、そこには傷一つない、完全な状態の『ジャオーム』が立っていた。

 

「さて、次は連続攻撃の防御だ。休む暇はないぞ」

「もう……勘弁してくれ」

 

 機体の状態は完全だったが、その操者の正樹は弱々しく呻くことしかできなかった。

 

 

 

 正樹が『ラ・ギアス』に召喚されてから、早くも一ヶ月が過ぎた。

 

 《魔装機隊》に参加することを選んだ正樹は、《正魔装機》『ジャオーム』の専属操者として、ラングラン軍に編入されることとなった。

 

 《魔装機隊》の任務は、新型魔装機の性能試験、重要施設の警護巡回、そして反政府テロ組織『ジラドス』の鎮圧などである。しかし、潜在能力は高いものの、未成年である上に正式な訓練を全く受けていない正樹を、いきなり実戦に投入することは周辺世論が許さなかった。(現在の所、正規の《魔装機操者》で未成年なのは正樹一人だった)

 

 その為、現在の正樹は王都の『魔装機隊統合基地』において、『ジャオーム』を用いた機体の制御訓練を日々繰り返していた。

 

 訓練には《プラーナ》の流れを制御する訓練である『瞑想』や、射撃訓練や格闘訓練、そして実戦形式の戦闘訓練などがある。

 

 この実戦訓練は《魔装機隊基地》の戦術シミュレーター『パラキス』による仮想空間を用いて行われるのだが、現在の『パラキス』の魔装機戦闘ルーチンは未だ稚拙であり、自動制御の機体相手の訓練では、有効な実戦訓練にならない。

 

 その為、実戦訓練は正樹同様王都に駐屯している、別の魔装機操者を相手として行われていた。

 

 そして、ここで災厄が正樹の身を襲った。

 

 災厄の名は、ホワン=ヤンロン。現在の《魔装機隊》の魔装機操者の中で随一とも言える実力の持ち主であり、正魔装機『ディンフォース』の専属操者でもある彼は、正樹と時を合わせたように、王都での駐屯と訓練を希望した。そして慣れない環境に戸惑う正樹の傍らで、いっそ苛烈と言ってもいい程に激しい訓練を始めたのである。

 

 先も述べたように、《魔装機隊》基地の戦術シミュレーター『パラキス』での実戦訓練は、相手となるいま一人の魔装機操者を必要とする。そして彼と同様に王都駐屯で訓練を行う正樹は、その実戦訓練に毎日のようにつきあわされていたのだった。

 

 

 

 

 ラングラン王都は、メリク住宅区。そこに、正樹の居候するゼノサキス家はあった。

 

 本来ラングラン王国軍の一部隊に属している(今のところ)《魔装機隊》の人員は、王都の外れにある『魔装機隊統合基地』の合同宿舎に住まうのが普通である。しかし、ラングランには『未成年は何らかの保護者の監督下に保護されねばならない』という法律があるために、正樹はいずこかの施設或いは家庭において保護を受ける必要があった。

 

 そこで彼の受け入れに名乗り出たのが、一人娘を正樹に救われた、《剣皇》の誉れ高きゼオルート=ザン=ゼノサキスだったのである。

 

 ゼノサキス家は、家主のゼオルートと、その娘のプレシアの二人暮らしであった。幾ら相手側からの引き取り要望があったからとはいえ、そんな家庭に居候することは正樹にとっても少々気の退けることではあった。だが一ヶ月が経過しようとする現在、ゼノサキス家の親娘が気さくで明るい事も手伝って、正樹はこの家庭にとけ込むことができていた。

 

 例えばこのように。

 

「ちっくしょ……あのサディスト野郎……好き放題やりやがって」

 

 全身を苛む鈍痛と疲労感……ついでに倦怠感。訓練を終えて帰宅した正樹は、居間の長椅子に飛び込み、そのまま寝転がって呻いた。

 

 戦術シミュレーター『パラキス』を用いた戦闘訓練では、機体こそ何をやっても破損しないが、操者の《プラーナ》は通常戦闘したのと同様に消耗する。《精霊殻》を共用しているためと、より現実に近い訓練のためだ。

 

「もう、ヤンロンさんは、お兄ちゃんに強くなってもらいたくて厳しくしてるんだからね……? はい、ジュース」

 

 長椅子を寝椅子にしてぶつぶつと愚痴を垂れる正樹に、手にした盆の上に透明な飲み物を入れたコップを二つ乗せて、蜂蜜色の髪の少女が困ったような笑いを浮かべる。少女は宥めるように言いながら、コップの一つを正樹に差し出した。

 

「お、サンキュ、プレシア。……そうは言うけどな、ありゃちょっと異常だぜ。あの野郎、俺との訓練が終わった後も、延々とテスト戦闘してやがった。あの体力と執念と《プラーナ》、どっから出て来るんだ?」

 

 蜂蜜色の髪の少女……プレシア=ゼノサキスからコップを受け取り、一口すすりながら正樹はぼやく。スカッシュの類のさわやかな甘みが、疲弊した味覚に心地よい。

 

 そんな正樹の傍ら、正樹のそれとは机を挟んで反対側の長椅子に座る男が、手元の詩集に落としていた視線を上げた。

 

「彼は努力家の代名詞のような人ですからねぇ」

 

 柔和な笑みを浮かべつつ、男……この家の主であるゼオルート=ザン=ゼノサキスが言う。

 

「彼はいつでも、自分を高めるための努力を怠りません。あなたも、彼と一緒の訓練は色々と得る物が多いでしょう?」

「何か掴む前に、叩き潰されることの方が多いような気がするんだがな……」

 

 愚痴りつつも、正樹自身、ゼオルートの言葉を否定しきれない。確かに、魔装機操者としては新参で、素人同然の自分に対し、自ら研鑽を積み上げたヤンロンの技術や助言は見習うべき事も多い。

 

「彼の教え方は不器用ですが、決して間違ったことは言いませんよ? ちょっと厳しすぎるきらいはありますけどね……自他共に」

「そんなもんかねぇ。でも、俺やっぱあいつ苦手……」

 

 たとえ正しいことを言っていたとしても、いつもいつもあのように頭を押さえつけられていては、素直に助言を助言として受け入れられなくなる。正樹はヤンロンの先達としての実力を認めつつも、拭いきれない苦手意識を植え付けられようとしていた。

 

「それよりも! 腹減ったなぁ俺。飯まだかい?」

 

 そこで話題を切り上げて、身を翻して起こしながら正樹。その表情は「おなかすいたー」と茶碗を打ち慣らす子供と大差ない。

 

「はいはい、今作ってるからもうちょっと待っててね」

 

 苦笑を閃かせて、プレシアがキッチンの奥に消える。「早くしてくれよなー」とそのどこか楽しげな背中に声をかけ、正樹は再びその手のカップに口をつける。と、視線を手元に落としたままで、ゼオルートがぼそりと呟いた。

 

「どっちが年上かわかりませんねぇ……」

「ぶっ……」

 

 丁度スカッシュを飲みこまんとした矢先であり、正樹は思わずむせ返った。慌ててハンカチで口元を拭い、さりげなく小さく肩を震わせているゼオルートを睨み付ける。「あんたな……」と反駁の声をあげるが、言葉が続かずそのまま黙り込んだ。

 

 ややふて腐れたように天井を見上げる。カップを小さく振って、浮かぶ氷の音を楽しむ。からからという音が次第に小さくなり、やがて消えた頃になって、正樹は誰へともなしに呟いた。

 

「……はしゃぎ過ぎかな?」

「いいんじゃないですか? プレシアも喜んでいるみたいですし」

 

 独り言の様な呟きだったが、正確にその本意を酌み取るゼオルートに、正樹は僅かに苦笑した。どうやら彼の挙動の意図は見え見えだったらしい。キッチンに届かないよう心持ち声を落として、尋ねた。

 

「やっぱりわかるか、演技だって」

「家に来てからしばらくして、急に態度が子供っぽくなりましたからねぇ」

 

 こちらも声を落として、ゼオルートが視線をちらりとこちらに向ける。正樹はやや大袈裟に肩を落として溜息をつき、天を仰いだ。

 

「……何というか、ちょっとやりづらかったんだよな。無理に背伸びしてるみたいに見えて、さ。だからなるべく負担にならないよう、

最初は『立派な兄貴』で居ようと思ったんだが……」

「あの子は、私たちと対等になろうと努力していますからね。世話しないで良いように振る舞うよりも、その努力をかなえる方がいい……そう考えたのでしょう?」

「……あたり」

 

 やや芝居がかった仕草で人差し指を立て、肯定する。

 

「でも、やっぱ慣れない演技なんてするもんじゃねぇよな……今更元に戻すってのも変だし、だからといってこのままでも、ばれたときの言い訳が面倒だし……」

「まあ、無理をしないように……人は、自然でいられるのが一番いいんですから」

 

 視線を再び詩集に落とし、ゼオルート。興味のないような態度でありながら、この声音には落ち着いた労りが込められている。それが、正樹には心地よかった。

 

「いや……大丈夫さ。俺が好きでやってることだ」

 

 一瞬キッチンに立つプレシアの方に視線を巡らせながら呟き……そして、にやりと笑みを浮かべて正樹は言った。

 

「それに、多分、こっちのが楽しいしな」

 

 そのとき、玄関の呼び鈴が来客を告げた。

 

 

 ゼノサキス家にやってきて、まず正樹が驚いたのは、その食事風景である。

 

 ゼノサキス家は、父親ゼオルートと、その娘プレシアの二人暮らし。母親はおらず、立ち入ったことを聞くのも何なので、正樹は未だにそのことについては触れていない。

 

 母親がいないのだから、当然炊事、掃除、洗濯などの家事は、親子二人で分担することになる。しかし、娘プレシアは未だ11歳。家事の殆どは、ゼオルートがやっている。最初、正樹はそう思っていたのだが……。

 

「はい、マサキお兄ちゃん。今日はクィルトのトマトソース煮だよ」

 

 目の前に広がる、獣肉の煮物、ポテトサラダにラングラン独特の調味料を使ったスープ、そしてその下の敷かれる刺繍の施されたテーブルクロス。全てが、この幼い……と本人の前で言うと甚だ気分を害してしまうだろうが……とにかくこの少女の手によるものであるという事実は、居候から一月が経過しようという今でも、正樹にとって驚くべき事だった。

 

(あいつは、家事なんて全然やろうともしなかったな……)

 

 何かある度に、今は亡き家族と比べてしまう自分に軽い自己嫌悪を覚えながらも、正樹はプレシアの差し出す米飯の椀を受け取った。ちなみに、ラングランでも稲は栽培されているらしい。

 

「ふふ、今日はちょっと自信あるんだよ。たくさんあるから、遠慮なく食べてね」

「おー、嬉しいねぇ。そいじゃ遠慮なく……」

 

 ゼオルートは騎士団の剣術指南役を務めている上、個人としても人望のある人物である。それ故にか、ゼノサキス家には様々な客が訪れる。騎士団の面々や王宮でゼオルートが懇意にする人物はもちろん、《魔装機隊》のホワン=ヤンロンやテュッティ=ノールバックなども、まれにではあるが姿を見せる。

 

 プレシアは料理の腕はなかなかのものだが、少々多く作りすぎる癖がある。それはこの来客の多さ故になのか、或いは逆に作りすぎる癖があるが故に食事時の来客が多いのか……それは定かではなかったが、

 

(少なくとも、こいつは飯目当てで来てるよな)

 

 彼の正面に陣取り、遠慮なく飯椀を掻き込む南米系の男を半眼で睨み付けながら、正樹は内心そう呟いた。

 

 男は年齢おおよそ二十代後半。長身で筋肉質の体の上に、どこか確信犯めいた無邪気さを帯びる頭を乗せている。擦り切れて退色の始まっているフライトジャケットをラフに着込んだその男の名は、リカルド=シルベイラ。正樹よりも二足ほど早く召喚された、現在の所自他共に認められる、ラ・ギアス最強の《魔装機操者》である。

 

「ん? どうしたんだよ、マサキ。食わねえんだったら俺がもらっちまうぞ?」

「あ、誰が要らないなんて言ったよ!」

 

 言いながら箸を正樹の皿に伸ばしてくるリカルド。慌てて自分の取り分を防衛するように抱え込みながら、正樹は反論した。どうでもいいが、リカルドは妙に箸の扱いが巧い。

 

「さすが二人とも、よく食べますねぇ。若いというのはいいことです。その若さに敬意を表して、私のアスパラを差し上げましょう」

 

 正樹の皿に手を伸ばすリカルド。それを迎撃する正樹。そして、その二人の皿に横から、ちょいちょいと自分の苦手な食べ物を移すゼオルート。三者三様無作法この上ない食卓に、一家の守護神の雷が落ちた。

 

「もう、みんな行儀の悪いことしないの! もう、みんな大人なのに子供みたいなんだから……」

 

 若干十一歳の少女に子供扱いされ、大人三人はそろって肩をすくめて苦笑いを閃かせた。

 

「……でもリカルドさん、今日はどうしたんですか?」

「そうだ。まさか、飯をたかりに来ただけなんて言うんじゃねぇだろうな?」

 

 自らも食卓に着き、一口スープを飲み込んでから尋ねるプレシア。普段なら、この家に彼が姿を見せることは少ない。それに便乗して問う正樹に、澄ました顔でリカルドは答えた。

 

「そうだって言ったらどうする?」

「てめぇ……」

「おいおい、本気にするなよ。冗談だって。ちゃーんと、後で話す。だからプレシア、あとこれもう一杯頼むぜ」

 

 半眼になる正樹の前で、わざとらしく肩をすくめて頭を振るリカルド。その一方で、ちゃんと自分の食器をプレシアに差し出しているのが図々しい。まるでコントの様な二人のやりとりに笑いを噛み殺しながら、プレシアはその食器を受け取った。

 

 

 

 

「……で、今日は何の用なんだ? 結局」

 

 腹も程々にくち、居間で過ごす食後のひととき。長椅子にもたれ、静かに忍び寄る睡魔を弄びながら正樹が言った。

 

「あー? 飯をたかりに来た」

「冗談は程々にな、リカルドさんよ」

 

 正樹の半眼が睡魔によるものから冷え冷えとしたものに交代する。同じく長椅子を制圧するリカルドは喉の奥で笑いを堪えると、ひょいと姿勢を正して真剣な表情をまとった。

 

「……実はな、ちょいと頼みがあるんだ」

「どうしたよ? 金なら貸せねえぞ」

「そりゃ困った……じゃねぇって」

 

 普段から浪費家の傾向のあるリカルドは、ツケの踏み倒しの常習犯である。《魔装機操者》である彼にはラングラン政府から相当な額の俸給が出ているはずなのだが……どのような使い方をしているのか、彼はしょっちゅう周囲の人間の所に、金策に現れる。

 

 ちなみに正樹にも、つい数日前に政府からの俸給が入った。新人とはいえ仮にも《魔装機操者》たる正樹の俸給は、決して安いものではない。だが、彼はその殆どを、一家の家計を一手に握るプレシアに預けていた。改めて考えてみると、とんでもない話である。

 

「じゃ何だよ?」

「真面目な話だよ。実は、ちょいと手を貸して欲しいことがあるんだ。同じ《魔装機操者》であるマサキ=アンドーにな」

「へ? 《魔装機隊》最強の男が、か?」

 

 自分も居住まいを正しながら、正樹は尋ね返した。その言葉に、僅かに皮肉が混じる。

 

 実の所、魔装機操者としてのリカルド=シルベイラに対し、正樹の心情は必ずしもあまりよろしくない。

 

 以前テュッティとリカルド、そして正樹が一緒に王都駐屯番だった時、テュッティに訓練に誘われた彼の拒否の言葉……「俺は手加減できねぇからなぁ」。これが、魔装機操者としてのリカルド=シルベイラに対する正樹の心情を決定付けた。

 

 もっとも、それはあくまで魔装機操者としてのリカルドに対してであって、リカルド個人に対しては、むしろ馬があう方と言ってもいい。少なくとも、現在のラ・ギアスにおける知人の中では、最も親しい部類の人間であるのだが。

 

「それがなぁ。今日東の辺境で、野良『デモン・ゴーレム』の一団が発見されてな。俺に退治しろって命令が来たんだ。それで、ちょいと手を貸して欲しくてな」

「あんた一人で十分だと思ったから、あんたに命令が行ったんじゃないのか?」

「俺は、自分で言うのも何だがやることがいちいち大雑把なんでな。ついつい取りこぼす事が多い。おまえさんが起きたときの一件も、元はと言えば俺の取りこぼしが原因だ」

 

 一月前の、『ジラドス』の襲撃。あのとき基地を襲撃した『グラフドローン』は、リカルドが遭遇して迎撃した分隊の取りこぼしだった。しかし、彼を責めるべきではない。あの時、彼が相手にしたのは総計十五機の魔装機だったのだ。それを単機で、しかも機体を乗り換えた直後の試運転で十三機も撃破したのだから、むしろ賞賛に値する。

 

 正樹としても、目の前で死んでいった人々の事を考えると複雑ではあったが、彼を糾弾するつもりはなかった。

 

「ことに今度は山岳地帯だ。一度逃がしたら、一匹のゴーレムを見つけだすのは至難の業だし、周囲に小さな村も点在してる。ここは、完全を期したい」

「他の奴は駄目なのか? ヤンロンとか、レベッカとか。確かマドック爺さんも戻って来てたろ?」

 

 他の魔装機操者の名前を挙げる正樹。しかし、リカルドはかぶりを振った。

 

「ヤンロンは修行にどっかに出張しちまったし、レベッカとマドックはつかまらねぇ。それに、相手が『デモン・ゴーレム』だからな。機動性で押せる風の魔装機が一番都合がいいんだよ」

 

 確かに先日の『デモン・ゴーレム』の王都襲撃事件において、正樹の駆る『陽炎』の魔装機『ジャオーム』は、圧倒的と言ってもいいほどの戦闘能力を発揮した。機体そのものの機動性や反応速度、そして貫通力を重視して装備された武器の数々と、機体そのものの特性が、『デモン・ゴーレム』という存在に対して急所を突く存在であったためである。

 

「でもなぁ……王都駐屯任務の俺が、そうほいほい外に出てってもいいのか?」

「そこら辺はどうにでもなるって。それに、そろそろヤンロンのサンドバッグ役も飽きてきた頃だろ?」

 

 長椅子から立ち上がり、踏ん切りの着かない正樹の肩に手を置きながら、リカルドが言う。

 

「でもなぁ……」

「しょうがねぇなぁ。これは秘蔵の一品なんだが……これでどうだ?」

 

 急に声を落とし、耳元で囁くリカルド。ジャケットの懐から人目を憚るように取り出したのは、一冊の本。その表紙に描かれているのは……。

 

 肉感的な女性が扇情的なポーズをとった写真。正樹は大きく椅子からずり落ちた。

 

「……あのなぁ! 何で俺がそんなもんで釣られなきゃならねぇんだ!」

「そうは言うけどな。ラングランはこの辺の規制が厳しいから、こういうのはそう簡単には手に入らねぇんだぞ? しかもこいつは地上産の無修正モノ……」

 

 ジャケットの本の入った辺りをぱんぱんと叩く。

 

「…………いらねーって」

「……妙に沈黙が長かったな。さては心が動いたろ? そーだろ、男として生まれたからにはここで退いたら恥だぜ!」

「いらねぇっての! 俺はそういうのには興味はない!」

「何? もしかしててめえ……『そっちの趣味』か! それとも『あっちの趣味』なのか!?」

「誰がだ!!」

「……何々? 何の話?」

 

 青ざめた風を装いながら一歩退くリカルドに、正樹が食ってかかろうと腰を上げた。と、『あっち』とリカルドが指さす方向から、洗い物を終えたらしいプレシアが、手を拭いながら歩み寄る。男二人は弾かれた様に飛び離れ、再び長椅子に収まった。

 

「ねぇ、お父さん。『あっち』って、何のこと?」

「……マサキが食べることが趣味だという話ですよ」

 

 娘の無邪気な問いに、黙って安楽椅子で詩集を呼んでいたゼオルートは答えた。さりげなく、小さくその肩が震えている。

 

「そうなの?」

 

 疑問符を顔に浮かべて小首を傾げながら、プレシアは正樹の座る長椅子の端に座る。正樹はゼオルートのフォローに感謝しつつ、じとりとした視線でリカルドを見やった。当のリカルドは、明後日を向いて知らぬ顔である。

 

「しかしマサキ、その仕事、手伝ってきてはどうですか? そろそろあなたも外に出てみるべきと思いますし、リカルドの戦い方を見るのも参考になると思いますよ?」

「そんなもんかねぇ……?」

 

 気乗りしないと言外に含ませながら相槌を打つ。

 

「それに、明日は私とプレシアは、ラーダット王国の親善大会に行くことになってますからね。夜中まで帰りませんから、家にいても食事はありませんよ」

「へ? ちょっと待て、その話聞いてねぇぞ!?」

「あれ、話しませんでしたか?」

「え? お兄ちゃん知らなかったの?」

 

 晴天の霹靂とでも言おうか。驚愕する正樹に、プレシアが説明した。

 

 ラーダット王国とは、神聖ラングラン王国やバゴニア共和国の存在するエオルド大陸の外、西方の群島に位置する小さな海洋国家である。数ヶ月前からその国の士官学校と、ラングランの士官学校との間で親善大会が企画されており、士官学校幼年課に属するプレシアはその儀式に参加し、ラングランの誇る『剣皇』ゼオルートは、その大会の賓客として招かれているのである。

 

「あ……そう言や何かそう言う話あったな。確か、軍所属の人間は入国手続きが面倒だからって、残るって決めたような……」

「やっぱり忘れてたんだ……」

 

 自分の関われない話であるが故に、すっかり忘れていたらしい。ばつが悪そうに頭を掻く正樹の横で、プレシアが溜息をついた。

 

「で、どうするよ? マサキ」

 

 それまで話の推移を見守っていたリカルドが尋ねた。正樹は腕を組み、うーんと唸りをあげる。しばし思案するように指先を宙に泳がせていたが、やがて腕を解いた。

 

「明日の飯代一日分ってのはどうだ?」

「よっしゃ、交渉成立だな!」

 

 リカルドはぱちんと指を鳴らし、にかっと笑顔を閃かせた。その後ろでゼオルートが、そっぽを向いて感想を漏らす。

 

「お安い仕事ですねぇ……」

 

 プレシアが小さく吹き出した。

 

 

 

「よーし、見つけた。あれが今日のターゲットだ」

「やっと見つけたか」

 

 神聖ラングラン王国東部辺境、とある山間の森林地帯。

 

 眼下を一望できる高台の上からリカルドが指さす横で、その指先の、木々の間に見え隠れする土塊が蠢くのを見て、正樹は独白した。

 

 リカルドに頼まれて参加した野良『デモン・ゴーレム』の退治。朝方に『転送ハイウェイ』によって最寄りの《神殿》に転移してから、およそ三時間を経て、ようやく二人はそれらの影を見つけだした。

 

 眼下に見えるのは、一面の広葉樹林。その合間に、黄土色、暗灰色の色彩をもつ巨大な影が見え隠れしている。

 

「あれが、野良『デモン・ゴーレム』か。何であんなのが自然発生するのかね、この国は」

「自然発生してる訳じゃねぇさ。多分、どこぞの公共性の欠ける魔導師が、研究過程でできた廃物を投棄したもんなんじゃねぇか? 普通、自然に生まれる『デモン・ゴーレム』は、もう少し小さいし、数も少ない」

「にしたって、生存時間が長すぎねぇか? 確かこのクラスのサイズのゴーレムは、寿命がせいぜい2~3時間って聞いてるぜ?」

神鉱石(オリハルコニウム)結晶を核にしたタイプは別なのさ。このタイプはレイライン……地脈のエネルギーを神鉱石から吸収して自分を維持できる。それにしたって、寿命は長くても三日だが」

「放置できりゃぁ楽なんだがなぁ……」

 

 愚痴をこぼしながら正樹はその眼下の情景を『ジャオーム』に加工させ、『デモン・ゴーレム』の影を強調して表示させた。同時に、その全体数も表示させる。推定目標数、十二。

「しかしこいつは……思ったよりも数が多いな」

「なあに、相手が『デモン・ゴーレム』程度なら、この程度の数どうってことねえさ」

 

 呟きが届いてしまったのだろう、リカルドが自信に満ちた声を送ってきた。見ると、自らの機体にも、ガッツポーズをとるように腕を上げさせている。

 

 一見無骨で力強い、しかしその実全体にはしなやかさを感じさせる、黄褐色の魔装機。リカルドの駆るこの機体の名は、『ザムジード』という。『大地の精霊王ザムージュ』と契約した、現在のところ世界唯一の《魔装機神》。

 

(《魔装機神》か)

 

 《魔装機神》とは、通常の魔装機よりもより高位の《精霊》と契約し、爆発的に強力な力を得た機体である。

 

 魔装機の性能は、その基本骨格である《魔装素体》の機能にもよるが、その素体と憑依契約した精霊の格によって大きく左右される。その精霊の格は、その象徴する現象がより純粋であるほど高位であり、『火』『大地』『水』『風』のいわゆる錬金術的四大元素を象徴する精霊は、特に《精霊王》と呼称される。

 

 この《精霊王》と憑依契約する事ができた機体が、《魔装機神》である。その力は理論上無限大とも言われ(どのように無限大なのかは説明されていないが)、他の魔装機の追随を許さないほどの戦闘能力を有すると言われている。

 

 そして、今正樹の目の前に立つ機体こそ、その《魔装機神》の一つ、『大地』の《魔装機神》『ザムジード』であった。

 

(そう言や、《魔装機神》をじっくり見るのは初めてだったな)

 

 内心で独白しながらも、正樹は意識を《魔装機神》から目の前の『デモン・ゴーレム』群へと切り替えた。今は、あれらの殲滅が優先だ。

 

「それじゃ、作戦会議と行こうか……こんなの考えたんだが、どうだ?」

 

 声と共に、『ザムジード』から幾つかの、戦場の俯瞰図に幾つかの点と矢印を書き足した図が転送された。『ジャオーム』と『ザムジード』の行動計画図だ。緑の矢印が『ジャオーム』、黄色の矢印が『ザムジード』らしい。赤い光点が、『デモン・ゴーレム』の様だ。

 

「見ればわかると思うが……まず、お前さんが連中の東側からちょっかい出して、連中を二キロくらい引きつけて欲しい」

 

 緑の矢印が、赤い光点群の東側に接触し、ずっと東に向けて伸びている。その矢印の伸びる先の地図を見て、正樹は眉を寄せた。

 

「……おあつらえ向きに広場があるな。ここに誘導して一気に殲滅か?」

「そういうことだ。今のまま飛び込んでも、すぐに森の中に消えてわからなくなっちまうだろうからな」

 

 全高が十五メートル程もある『デモン・ゴーレム』であるが、森林の中に潜り込まれると捕捉は困難になる。

 

「連中頭悪いからな。ちょっとちょっかい出したらすぐに総出で追っかけて来るはずだ。お前さんがこのポイントに誘導を完了したら、俺が背後から突入する」

「おいおい、その間の連中の攻撃は俺の担当か?」

 

「『ジャオーム』のリニアレール・ガンなら、向こうさんの投石より射程が長いだろ? それに、その背中の大砲もテストしなきゃなんねぇからな。でないとセニアがうるさい」

 

 『ザムジード』の指で『ジャオーム』の背中を指さしながら、リカルドが苦笑する。そこには、配線や構造材が雑多に組み合わされた、奇妙な長い棒がくくりつけられていた。棒の端にはグリップがあり、もう一端は筒状になっている。全体の長さは『ジャオーム』の全長の六割程か。

 

「ああ、このでかぶつか……役に立つのかね?」

「魔装機用ガンポッドの試作型だろ? 見たところリニアレール・ガンの親玉みたいだが」

「らしーな。新型のレールガンの強化型を、携帯火器に改造したって話だが……全くセニアの奴、こんなもん人に押しつけやがって」

 

 悪態を吐き出しながら、鉄の棒……魔装機用ガンポッドを腕に構える正樹。今朝方基地を出発しようとしたところ、『デモン・ゴーレム』退治に正樹が参加するという話を聞きつけた、魔装機開発担当のセニア=グラニア=ビルセイアから、『これテストしてきて』と押しつけられたのである。

 

「テストったってな、照準連動もされてない銃器が俺に使える訳ないだろうが……」

 

 未だ開発途上の機器であるガンポッドは、照準機構が手動操作であった。つまり、人間用の銃器同様に、操者自身の手で照準しなくてはならないのである。(魔装機の内蔵火器は全て、モーターと思考制御による半自動照準である)

 

「ぼやくなぼやくな。どうせ相手は鈍重も良いところだ。ちゃんと狙えば外しっこねぇ」

 

(そのちゃんと狙うってのが厄介なんだよ……)

 

 正樹がぼやくのをよそに、リカルドが親指を立てて笑った。

 

「まあ、『案ずるより産むが易し』ってな。さっさとカタつけようや!」

 

 言って、『ザムジード』が前進する。正樹は『ジャオーム』の肩を一瞬すくめさせると、不満や迷いを振り払うように頭を軽く振り、

 

「さて、それじゃ始めるか!」

 

 『ジャオーム』の翼を広げ、黄金色の輝きを残して飛び立った。

 

 

 

 

 『ジャオーム』は当初の予定通り、『デモン・ゴーレム』の集団を東側から眺める位置に到達した。

 

 おあつらえ向きと言うべきか、その地点より更に東側は緩やかな丘陵地帯となっており、まして今の正樹の『ジャオーム』の全高が三十メートル超にまで巨大化していることも手伝って、西側からの眺めは明瞭である。ここから挑発すれば、容易に『デモン・ゴーレム』は『ジャオーム』の姿を捉えることができるだろう。

 

「さて、まずは挨拶……っと。グレネードランチャー、閃光弾準備」

 

 コクピットの側から、がこん、とランチャーの弾頭が入れ替えられた振動が伝わってくる。考えてみると、この魔装機の操縦席は、すぐ側に炸薬弾頭庫が配置されているのだ。言うなれば、爆弾を抱えて火事場を駆け抜けているようなものか。信管や火薬の構造上熱による引火が発生しないとはいえ、心臓に悪いことには違いない。

 

「ターゲット、目標群中心部。5秒毎に一発、3発打ち込んでくれ」

 

 正樹の命令に、『ジャオーム』が了解のサインを示す。発射準備完了。

 

 正樹がトリガーを引くと、鈍い衝撃と共に一発の弾頭が『ジャオーム』の胸から、火の尾を引きながら飛び出した。その軌跡はまっすぐに迸り、三百メートルばかり先の『デモン・ゴーレム』の群に突き刺さる。そして、閃光。

 

 突然の閃光に、『デモン・ゴーレム』の群が混乱しているのがわかる。そこに、閃光の第二波。数体が、『ジャオーム』の姿を捉えたようだ。そして、そこにだめ押しの一撃。

 

「よーし、単純で結構」

 

 三度の閃光で、土塊の群は完全に『ジャオーム』を敵と見なしたようだった。気のせいか肩を怒らせ、ゆっくりと向かってくる。しかし、まだその歩みは遅い。もう少し、挑発の必要があるかも知れない。

 

「このでかぶつのテストでも、してやるか!」

 

 言いながら正樹は、手元の長銃をまっすぐに構えた。視界の端に、メッセージが駆け抜ける。『ハイパーレール・ガンポッド、起動』。

 

「起動状況、良好……っと。でも、本当に当たるのか?」

 

 銃口を『デモン・ゴーレム』の適当な一体に合わせながら、正樹が疑問を吐き出す。このガンポッドは、銃身が長すぎる為に腰溜めに構えるしかないのだが、未完成の武器故に、照準器の機体との同調が行われていないため、まともな照準ができないのである。まったくもって、ラングランの通常兵器に対するノウハウのなさが伺える。

 

 射撃中に連続的に射線を確認できる、機関砲等ならまだ使いようもあるのだが、この銃は単発型。適当に撃つしか使いようがない。

 

「ったく、しょうがねぇな!」

 

 視界の端に見える銃口の先を、適当に照準した。銃の基幹部で超伝導コイルが激しくスパークし、専用の撤甲弾が帯磁する。発射準備、完了。

 

 正樹がトリガーを引くと、爆音と眩いほどの閃光と共に、青白く放電する弾頭が迸る。軌跡の空気をばりばりと引き裂きながら、荒れ狂う弾頭が……目標の側を通り過ぎた。

 

「あ、やっぱり」

 

 予想通り、と言った風で呟く正樹。あらぬ方に飛び去った弾頭は、そのまま森の地肌に突き刺さり……その帯びた膨大なエネルギーを解き放つ。一瞬の爆裂の後、そこには草木を吹き飛ばして、直径十数メートルにも及ぶすり鉢が残された。

 

「……自然は、大切にしよう。以上、テスト終わり!」

 

 皮肉を吐き出し、正樹は役に立たないガンポッドを投げ捨てた。かわりに右肩アーマから、本来『ジャオーム』に内蔵されている『リニアレール・ガン』を引っぱり出し、再び照準する。

 

「うおわっ!」

 

 だが、正樹は先程までと一転して、猛烈な勢いで走ってくる『デモン・ゴーレム』の姿に気づき、慌てて銃座を格納した。どうやら当たらない銃も、挑発の役には立ったようだった。怒り狂って自らの身体を分離し、投げつけてくるのを辛くも回避し、大地を蹴って後退する。

 

「お、とと、うわ、危ねぇ!」

 

 飛来する岩石、殺到する不可視の衝撃波。それらが彼を損なうことがなかったのは、ひとえに彼の生来の反射神経と、『ジャオーム』の運動性の高さの賜物であろう。胸部のグレネードランチャーと中口径荷電粒子砲でちまちまと応戦しつつ、正樹は『ジャオーム』を徐々に後退させていった。

 

(あと三百メートル程か……)

 

 唸りをあげる岩石を、《魔装》を込めた腕で払いのけながら、目的の広場までの距離を測る。視界の端に数値を表示させ、改めて正面に視線を戻したとき、そこには突出してきた一体の『デモン・ゴーレム』の腕があった。

 

「クァァッ!」

 

 怪鳥の如き奇声を上げ、懸命に身体を捩らせる正樹。それに反応し、『ジャオーム』の機体も大きくその身を反らせる。それをかすめるように、巨大な質量を宿した鉄拳が疾る。《魔装》の層が接触し、黄金色の飛沫をまき散らした。

 

 反射的に、熱素反応弾のトリガーを引いていた。胸部のグレネードランチャーハッチが弾け、三発の弾頭が放たれる。至近距離の一撃は綺麗に石巨人の横腹に吸い込まれ、紅蓮の花を咲かせた。

 

 そこに、粒子砲が火を吹き出す。熱素反応弾に抉られた部位への追い打ちは、『デモン・ゴーレム』の内部を荒れ狂い、焼き尽くし、弾けさせた。飛び散る岩塊。その奥にどす赤い光を認めたとき、それに正樹は腕を突き出していた。

 

「とどめっ!」

 

 《魔装》が熱であぶられて黄金色に輝く手のひらが、『デモン・ゴーレム』の核である《魔石》を捉えた。その刹那、正樹は容赦なく《魔石》を握りしめる。一瞬の妖気の迸りの後、あっけないほど容易に、《魔石》は砕け散った。と、同時に『デモン・ゴーレム』を形作っていた岩塊も、刹那に数千年の時が過ぎたかの如く風化し、崩れ落ちる。

 

「くそ、やっと一匹かよ!」

 

 身体にまとわりつく砂塵と悪態を残し、正樹は更に後方へと跳躍する。今の一体を相手にしている間に、後続の石巨人が数体追いついてしまったようだ。跳躍した『ジャオーム』の影を、無数の荒れ狂う岩塊が、無惨に押し潰した。

 

 目標地点まで、あと百メートル前後。あと一歩と言ってもいい。レーダーを見ると、狙い通りと言うべきか、残り十一体の石巨人全てが、『ジャオーム』を追撃しているのがわかった。その内、彼を攻撃圏に納めているのが4体。『ジャオーム』の機動性を以てすれば振り切るのは簡単だが、そうすると後続の何体かが誘導から外れる可能性がある。もう少し、この場を維持する必要がある。

 

「飯代一日分じゃ足りねぇぞ! くそったれ!」

 

 最初からわかりきっていたことを今更吐き捨て、左肩から『ディスカッター』を抜き放つ。至近の四体の攻撃を、切り払い、身をかわし、受け止め、《魔装》で弾く。機体を揺さぶる衝撃に舌を噛みそうになりつつ、正樹は反撃に転じた。全身のばねを総動員しての、『ディスカッター』の突き。

 

 刃は狙い過たず、至近の『デモン・ゴーレム』の額を貫いた。ぱしゅ、と気の抜けたような音と共に、石巨人は崩れ去る。

 

「これで二匹……どわぁ!」

 

 身体にまとわりつく石巨人のなれの果てを振り払う正樹だが、土煙の向こうに群れる土塊を認め、思わず悲鳴をあげた。その声に応じたかの様に、総勢七体の『デモン・ゴーレム』が咆哮を合唱する。『ジャオーム』の細身の機体を打ち砕かんと、襲いかかる衝撃波。

 

「い、《虚像(イフェメラ)》!」

 

 正樹が叫んだ瞬間、『ジャオーム』の機影が揺らいだ。正しく陽炎の中にあるかのように。しかし、ろくな知性も持たない土塊は、その異変を全く意に介さず衝撃波を放つ。揺らめきながら立ちつくす『ジャオーム』を、衝撃波が千々に引き裂いた。

 

 『デモン・ゴーレム』に人間並みの知性があったなら、あまりの呆気なさに不審を抱いたことだろう。そして、《虚像》の能力によって作り出された幻影を囮にして上空に退避した『ジャオーム』が、攻撃後の隙を『リニアレール・ガン』で狙っていることにも気づいたかも知れない。しかし、石巨人の知性は彼ら自身を救うほどの物ではなかった。

 

「へっ、単純馬鹿が! くたばれっ!」

 

 ガンポッドのそれと違い、『ジャオーム』内蔵の『リニアレール・ガン』は照準機構が操者と完全に同調している。一発、二発、三発……放たれた撤甲弾は正確に『デモン・ゴーレム』の一体の額を貫き、瞬時に元の土塊に還元した。弱点が分かっていて、相手が動かなければこんな物である。

 

 『ジャオーム』は空中で加熱した銃身を格納し、少し距離を置いて着地した。そこは丁度木々が途切れ、ちょっとした広さの広場になっている。こここそは、『デモン・ゴーレム』を誘導する目標地点に他ならなかった。

 

 ちょこちょこと出力を落とした粒子砲で挑発し、石巨人の群が全て森から姿を現したのを確認して、正樹は通信マイクに向けて怒鳴った。

 

「おい、リカルドさんよ! 誘導終わったぞ! いい加減あんたも仕事しろ!」

「はいはい、それじゃ一気に片づけるかね」

 

 ほぼ簡抜入れずに、『ザムジード』からの返信が届く。しかし、レーダーの有効範囲内には、彼の機体の機影は見あたらない。

 

「おい、あんたどこにいるんだよ!?」

「気にすんな。すぐに出てくからよ。とりあえず、今のポイントからちょいとばかり離脱しろ。まとめて叩く」

「……わかったよ!」

 

 姿の見えぬリカルドの指示に従い、東に向けて跳躍する『ジャオーム』。追いすがる岩塊の群を振り切り、上空へと離脱する。

 

「さて、それじゃ一丁おっぱじめるか!」

 

 通信窓から響くリカルドの声に、正樹は眼下に視線を落とした。

 そして、虹色の光芒を纏い、地表面に波紋を放ちながら浮上する《大地の魔装機神》の姿を目撃したのである。

 

 

 

 

「……いい加減あんたも仕事しろ!」

「はいはい、それじゃ一気に片づけるかね」

 

 虹色の淡い光の中に浮かぶ、やや広めの戦闘機の操縦席を模した《精霊殻》。その中枢に位置するシートの上で、リカルドは頭上で繰り広げられている乱戦を眺めつつ、気楽な口調で答えた。

 

 そこは、地上のどこでもなかった。『ザムジード』はその能力の一つ、『土』の属性を帯びた存在と三次元的に重なることのできる《地潜結界》の力によって、地中を潜行していたのである。わかりやすくいえば、『ザムジード』は地面に自由に潜ることができるのである。

 

(手助けの必要もなかったな。まだまだ素人臭いが、結構やるじゃねぇか……)

 

 内心正樹を賞賛しつつ、『ザムジード』のシステムをチェックする。彼が『ジャオーム』に敵の誘導を任せたのは、正樹に話した理由もさることながら、実戦での正樹の技量がいかほどのものかを見物するためであった。彼は、正樹が地上を移動する度にそれに合わせて移動し、戦闘力の観測と万が一の場合に備えて待機していたのである。

 

(状況把握能力にむらがあるのが難点だが、確かに素質のきらめきはある。テュッティの目もまんざら曇ってねぇってことか)

 

「メジャー、全機能チェック完了。いつでもいけますよ」

 

 思索に没しかけていた意識を、やや甲高い声が現実に引き戻した。彼が『ザムジード』を運用するにあたってのサポートメンバーと言うべき、《使い魔(ファミリア)》の『ブルーフェイス』である。

 

「おい、あんたどこにいるんだよ!?」

 

 『ザムジード』の姿を捉えられず、正樹が困惑したような声を発する。リカルドはその姿を想像して少々意地の悪い笑みを浮かべると、

 

「気にすんな。すぐに出てくからよ。とりあえず、今のポイントからちょいとばかり離脱しろ。まとめて叩く」

「……わかったよ!」

 

 いかにも不承不承といった感の返答と共に、地上の『ジャオーム』が大きく跳躍した。そのあまりの瞬発力に、『デモン・ゴーレム』は付いていけない。一瞬困惑したように動きを止めるが、すぐに追跡するように動き始める。

 

「よし、地上に出るぞ。《地潜結界》解除と同時に、『レゾナンスクエイク』を仕掛ける!」

「アイアイ、サー!」

 

 リカルドが指示すると、コクピット回りを囲っていた虹色の光がきらめきを増す。そして一瞬の浮遊感の後、《精霊殻》の外殻に映っていたのは、青く広がる空、森林と草原、そして彼を取り囲むように蠢く無数の『デモン・ゴーレム』の姿だった。

 

「さて、それじゃ一丁おっぱじめるか! 『レゾナンスクエイク』、《詠唱(キャスト)》!」

 

 リカルドの声と共に、『ザムジード』の左腕に設えられた盾に内蔵の《詠唱器(キャスター)》が、無気味な駆動音を轟かせ……そして、虹色に輝く光芒を放った。

 

 

 

 

「『レゾナンスクエイク』、《詠唱(キャスト)》!」

「な、何だぁ!?」

 

 眼下の『ザムジード』の腕の盾が虹色の光芒を放ったとき、正樹と『ジャオーム』は、『ザムジード』からおよそ二百メートルばかり離れた上空を飛行していた。一部の魔装機に装備されている『真空渦動システム』による浮遊機構である。

 

 『ザムジード』から放たれた光芒は、天と地の両向きに迸り、片方は地表、今一方は高度百メートルに達すると同時に、それぞれ水平に弾けた。円盤状に広がる虹色の光芒は、半径三百メートル程まで広がると、一瞬拍動する程の沈黙の後に……無数の波紋と共に鳴動した。

 

「《共振(レゾナンス)》!!」

 

 瞬間、空間が軋みを上げた! 二つの虹色の円盤が激しく震え、帯びた波紋が目まぐるしくその色を変貌させる。そして、天と地の円盤の波紋が相互干渉した瞬間、その狭間に凄まじいまでの振動が発生した!

 

 円盤に天と地を抑えられた者達は、向きと振動数の目まぐるしく変化する振動に翻弄される。それは、さながらシェイカーの中で混合されるカクテルの如くであった。だが、それでいて、円盤の狭間の外にいる者には何の振動も感じられない。虹色の檻の中だけが、天地創造もかくやという程の地異に襲われているのだ。

 

 その振動の嵐の中で、虹色の円盤に天地を抑えられた石巨人達は滑稽な舞踏を舞う。全身を不規則に振り回され、圧縮され、弾かれる。見る見るうちに、それを構成する岩塊が、微細な砂塵へと粉砕されてゆく。

 

 そして、永遠の如き――しかし実際には数秒の時の後、振動は徐々に沈静化する。そして、虹色の円盤も虚空に消滅した時、そこには既に、吹き散らされた砂の山が散乱するだけだった。

 

 がこん。沈黙の下りた戦場の中心で、『ザムジード』が展開されていた《詠唱器(キャスター)》を収納する音が、妙に空々しく響きわたる。

 

 その音で、半ば自失していた正樹の意識は復帰した。

 

「な、何て威力だ……しかも、全然周囲の地形に被害がねぇ……」

「ま、それが《魔装機神》の《魔装機神》たる所以さね」

 

 正樹の独白に通信回線から、リカルドの声が返答する。どうやら通信回線を開きっぱなしにしていたらしい。舌打ちする正樹をよそに、リカルドは言葉を続けた。

 

「……それより、まだ三匹、効果範囲外にいた奴が残ってる。西に二匹、北東に一匹だ。北東の奴は任せた!」

 

 言って、リカルドは機体を翻した。正樹は慌ててレーダーを確認し、リカルドに倣って機体を奔らせる。

 

(あれが、《魔装機神》の力なのか……)

 

 内心独白する正樹は、自分の腕が興奮で小刻みに震えているのに気が付いた。

 

 こんな感覚は久しぶりだった。そうだ、例えば地上で、プロボクサーのエキシビジョンマッチを間近で見たときの様な感覚。自分とは次元の違う強さへの、畏怖、嫉妬、そして……渇望。

 

「……くそ、おさまれよ」

 

 忌々しげな言葉を吐き出しながら、操縦桿に力を込める正樹。モニターの中で徐々に大きくなる、生き残りの『デモン・ゴーレム』へと『ディスカッター』を振り上げる。

 

 『ジャオーム』と『ザムジード』が、それぞれの目標を殲滅したのは、ほとんど同時の事だった。

 




第四話。記録によれば、このエピソードから一話あたり二万文字くらいのペースで公開するようになってます。いくらなんでも時間がかかりすぎたと思ったのでしょうかね。

まあ、結局一年周期とかそのあたりまで遅くなっていくんですが、まあそこはそれ、才能の限界とか色々ということで。

偽典での正樹は死と無力への憎悪、反発をテーマにキャラクター性を構築しています。これは彼が喪失したものへのコンプレックスもありますが、後にシュウが死と暴力の化身によって行動を誘導されていることを察知、反発するための動機として設定したのだと思います。確か。

加えて彼はラーマーヤナのラーマ王子に相当する存在で、ヴィシュヌ≒ルザムノ・ラスフィトートの化身が混じり合っているという背景もあります。偽典世界でのラスフィトートは、創造神ブラフマー≒ギゾース・グラギオス、および破壊神シヴァ≒サーヴァ・ヴォルクルスが作っている破壊と再生のループを断ち切ることを目的としています。そのため、ヴォルクルスおよびグラギオスの気配がするものには本能的に反発、警戒するという設定がありました。

まさか、原典のグラギオスとラスフィトートが、ただの怪獣だったとはね…… (笑)


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