アクアヤンデレの作品って少なくね?
そんな世の不満から生まれた特級呪物
それと当然ですがアクア様の素の性格が違います。
最初にそれを見たのはいつだろうか。
仕事も、つきあいも、全部私には空虚に見えて、何でも無い事で笑っていられる天使達が理解不能の生き物に見えた。当然欲望に生きる悪魔なんて埒外の異物だ。
私は普通じゃなかった。いわゆる感情と呼べるものが希薄だったのか、それとも私が他人に興味が無さすぎたのか。とにかく、楽しいことや嬉しいことなんて分からなかった。
だから、いろんな行動をして注目を集めた。同僚の中でも堅物と言われる後輩が絶対にしないであろう行動を繰り返し、不真面目な態度やいいかげんな仕事をしてみたけど、それが何かにつながったようには思えなかった。
役を演じるだけじゃだめなのかと思った私は信者達には正反対に好きなことに生きるように道を示した。感情や好きに生きるということが信者の祈りを通して理解できるかもしれないと思ったからだ。
結局、それも失敗した。そんな、他人のそれを上辺だけ受け取ったところで理解できる筈も無かった。
そんなある時、暫くの付き合いとなりすっかりキャラとして定着した、『わがままでサボり癖のあってトラブルメイカーな女神アクア』を演じるために、本来の仕事を事務机に放って地球を眺めていると、ある人間が目に入る。
なんてことない平凡な人間だった。何処にでもいるような少年で、突出した能力なんてない。すばらしい善行を積んでいる訳でもない。でも、どことなく気になって。それからは休むことなくその人間の一日を観察し続けていた。
当然ながら何か特別なイベントが起こるわけでもないし、出不精な彼は家でひたすらごろごろしているときもあった。けど、暇ではなかった。
時間を忘れる勢いでずっと見ていられた。今までにない感情のゆらぎがはっきりと分かった。
故に、こう解釈した。私はこの人間のことが好きなのだと。このどうしようもない感情は、時折天使達が愚痴りながら話していたドキドキなんかと一致する。今では、四六時中頭の中の大きな場所に居座っている。
彼の、佐藤和真のお陰で女神アクアの世界に色がついた。
「会いたい」
ふと、言葉が漏れていた。ならばそうすればいいではないか。だって、他のみんなからの私は、わがままでサボり癖のあってトラブルメイカーな女神なんだから。
――――…
「……あの女の子は。……俺が突き飛ばした女の子は無事ですか?」
ああ、そんな凛々しい目つきでこっちを見ないでほしい。堪えきれなくなっちゃいそうでしょ?
いざという時、人を助けるためにがむしゃらに駆ける心意気はいいものだ。こういうところで、何故かやたらと心が強い。そこもいい。普段はグータラだからかギャップがある。
「あのトラクターは本来ならあの女の子の手前で止まったんです―――」
言葉の終わりに嗤ってみせる。こうすれば、彼の変に遠慮のある態度でなく本意を見せてくれる。
ずっと見ていたから知ってる。丁寧に対応する人以外には、素の口調になるのだと。
「え、じゃあ何? 俺はトラクターに耕されて死んだってこと?」
「いいえ、ショック死ですけど。トラックに轢かれたと勘違いしたあなたはショックで死んじゃったんですよ―――」
私の言葉に耳を塞いでイヤイヤと子供のように悶える。
可愛い。―――――まさかそんなこと本気で信じちゃうなんて。
いくら彼が引き篭もっているとはいえ、今日みたいにたまには外に出ているのだ。
まさか速度も大きさも音も違うトラクターを、トラックと間違えるなんてはずがないでしょう。ましてや、視力も悪くない、寝起きでもない人間が。
私がちょっとだけ大気の水分量に干渉して全体像を見にくくして、そして彼の通う学校の制服に袖を通してから目の前を歩けばいい。
ショックだって、私が与えた。でもそんな事だけで変に図太い彼が死ぬわけもない。
だから、本来なら目覚めるはずの彼を、バレない程度にじっくりと、心臓を麻痺させてあげた。
だって、彼がもっと成長してしまったら私の管轄からは外れてしまうんだもの。
そんな、素直な彼の怒りも、呆れも、私に向けられていると思うと心地良い。私があなたを殺してあげたとも知らないで、ただの死後の案内人だと思っている彼が愛おしい。何よりどんなことであれ彼のハジメテになれたのが堪らなく嬉しい。ここでばらしてその憎しみを向けられてもみたくあるけど、計画が台無しになる。…ああ、でもいつか教えてあげないと。
思わず笑ってしまう。ズキズキと鈍痛を訴える足。その痛みが彼に与えられたものだと思うと消したくはない。それにしても、ここまでは予想してなかった。人間ってこんなに脆かったのね。
いつものわざとらしい挑発の笑みではないけど、先にそれらを見せていたからか特に違和感をもたれはしなかったみたい。
からかうのが楽しい。私の言葉で新たな一面や情けない表情を見せてくれることなんかが特にいい。
「―――さて、しょうもない理由で死んだ面白いあなたには、二つの選択肢があります」
生まれ変わりと天国。どっちにもいかせるつもりはない。どうせ和真も異世界に送るという第三の選択肢を選ぶに決まってる。
万が一天国なんて言ったらその魂を私の聖域でずっと『保護』してあげようと思ってたけど、その心配はいらなかった。
「運が悪いと頭がパーになるって言ったか?」
「言ってない」
「言ったろ」
嬉しい。もうため口を使ってくれている。
それに万が一パーになったら、彼のおはようからおやすみ。食事から排泄まで一生お世話が出来るから悪いことじゃない。まあ、和真は運がよくて、反面私は運が悪いから多分実現しないでしょうけど。
カタログを真剣な顔で読んでいる彼に、私は腹が立つであろう態度で急かす。興味ないふりをするのにこんなに苦労した日はない。
「この後、他の死者の案内がまだたくさん残ってるんだからね?」
何処が美味しいかも分からないスナック菓子をぽりぽりと消費する。これも効果的だ。明らかに苛立ってる。ここで、一押し。
「もうなんでもいいわよ? そんなに変わらないし…。あ、そうそう天使なんか連れてってみたら? 異世界に持っていける“もの”だし向こうの世界じゃ結構強いのよ?」
和真なら一人で気づくかもだけど、あえてこちらから助け舟を出す。彼なら天使ではなく、目の前のムカつく女神を選ぶだろうことは確実なんだから。
天使を選ばれたら、姿を変えるというのもやぶさかではないけど、どうせなら本当のわたしを見ていてほしい。
「…………じゃあ、あんた」
「あは」
指を指される。
私を選んでくれた! 天使を紹介したのにこの私を選んでくれた!
それに気づかないフリをして、わざとらしく聞き返す。するともう手続きは終わっていた。部下の天使が既に魔法陣を起動させていた。
ここで喜びに身を噛みしめるのは、普段のわたしとは違う。だから彼に縋り付いて、その匂いを鼻腔に堪能しながら嫌がるフリをする。
私がいつも投げかけている言葉を、天使が告げるけどそんなことはどうでもいい。
私は、彼と
●●●
あれから、冒険者ギルドにいって、冒険者登録を済ませた俺達。
能力の低さから最弱職の冒険者になるしかなかった俺と、女神なだけあってそもそものステータスが高いアークプリーストのアクア。
思い描いていた異世界生活とはいかなかったが、まあ、アクアは俺の特典ですし? それ含めて俺の実力っていうか? く、悔しくなんかねーし!
……そして、土木工事のバイトをして、酒場で一緒に騒いで、一日の終わりは馬小屋。
そんな生活をしていたけど、最近…まあこの世界に来たのが二週間前だからそんなに気にすることではないかもしれないが、どうにもおかしいことが起こってる気がする。
例えば、ふと尿意がして夜中に起きたときなんかの話だ。
―――…
(ん…やべ、トイレトイレ…)
夕方にシュワシュワをいつもより飲んだせいか、こんな中途半端な時間に催してきた。ここは馬小屋ということあり壁も薄いし寒さもダイレクトにくる。
すぐ近くで寝ているアクアや他の住民を起こさないように慎重に起きようとして…。
「ひぇっ」
そこに影があることに気がついた。見れば、それは確かにアクアなのだが、寝床に寝転ぶ訳でもなく、俺から少しばかり離れた位置でじっと座ってこっちを見ている。
その表情はいつもの騒ぎ用は一体何だったのかと思わせるほどの無表情で、こいつの顔の良さも相まってそれこそ彫刻かなにかのように見える。でも、じっとひたすらにこっちだけを見ているのは素直に怖いというか不気味だ。
それなりに知ってるやつが、能面のような無表情で何をするでもなく俺を見ている。
「な、なんだよアクア。お前も起きてたのかよ」
「どうしたの? こんな時間に起きて。もしかしてトイレ行きたいの? 暗いし付いて行ってあげようか?」
声をかけると、いつものような顔に戻るが、何で起きてたのかは言わない。
「い、いや。大丈夫だって、俺も子供じゃないんだし」
それは本心だが、こう、今のアクアについてきて貰うほうが怖かった。
そして無事用を足して帰ると、アクアは今度こそ藁を体にかけて横たわっていた。
(なんだ、俺の考えすぎか…)
「おかえりなさいカズマ。ちょっと遅かったけど、おしっこ以外にもナニカしていたのかしら?」
再び抑揚のない声で告げる。ちょうど入り口から反対に顔を向けているせいでその表情は伺えないが、さっきの能面の様な顔を思い浮かべる。
「う、うっせーやい! お前も早く寝ろよ! 明日早いんだからな!」
そう言って逃げるように自分の寝床に帰る。終ぞ、その顔を見ることは出来なかった。
―――…
思い返せば他にもある。俺がなんとなく視線のようなものを感じて目を開けると、曲がりなりにも男女だからと離れていたアクアが、俺の真横で俺に顔の位置を合わせてじっとこちらを眺めていた。
少し前のあの顔を思い出させるような無表情で、かなり近い距離でこっちの顔を眺めていた。俺の目が開いてるのが分かっているだろうに、アクアは目を逸らさない。
なまじ顔が良いだけにドキッともさせられるが、ここまでくるとゾクッと来てしまうのは仕方ないだろう。
「あのー、アクアさん。何でこっちにいるんですかね…?」
「………」
「アクアー、アクアさーん。聞こえてますー?」
「あ、そうね。寝惚けてたみたい。じゃあ、おやすみカズマ」
「お、おう…。おやすみ」
後は、夜中にごそごそ音がしたと思ったら何かがすぐ近くに来ていて俺の周りをゆっくりと動き回りながら吐息がかかるくらいの距離でしばらく上から覗き込まれていた。しかもすんすんと匂いを嗅ぐような音を立てて、それがそのままの態勢で何十分かしたかと思うと、それは立ち上がって馬小屋を出ていった。
正直怖くて目が開けられなかったが、翌日アクアに聞いてみてもそんな音は知らないと言う。
幽霊なんかもいるらしいしその類かと思いもしたけど、それならアクアが気づかないはずがないという。アクアの予想ではどっかの酔っ払った冒険者が夜這いでもしようとして、ふとして俺だと気がついたとか言ってきやがる。そっちのほうが怖えよ。
アクアの可能性も考えなかったわけではないが、どうにも今笑顔でお酒を楽しんでいる存在とは同じだとは思えなかった。
「カズマしゃ〜ん、一口しかのんでないじゃにゃい。飲まないならわたひが飲んであげるわぁ〜」
「げ、すっかり出来上がってるなこの駄女神。おい、ジョッキから手を離せ。これは俺のだ。あっ、クソ! 力に訴えてくるのはズルいぞ! 待て待て待て、やめろ馬鹿! あっ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺のシュワシュワがあぁぁぁぁーっ!?」
俺から勝ち取ったシュワシュワだからか、ジョッキに唇をつけたアクアが勝ち誇った様な顔のまま嗤ったような気がした。
続く?
まあ、息抜き作品ですのであまり期待はせず…。