蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
爆発しろ(今回予告)。
こんばんは。イチゴころころです。
ようがんげんじん、って、”溶岩原人”ですよね? 改めて思うとどの辺りが原人なのか考察しがいがありますよね。だって見た目ドロヌーバじゃん……。
実際のプレイ時には、ロランは火山で仲間になりました。アホみたいな耐久力に惹かれて即スタメン入り。そのままメタルハンターハンターとして小一時間活動を行い、かしこさのたねをしこたま食べさせました。懐かしいです。
「おやおやイーサン君じゃないか。まだこのサラボナにいたとはね。てっきり、次の街へ向かって旅に出たものとばかり思っていたよ」
噴水広場へと向かう通りで、長身の青年が緑色の髪をかき上げながら話しかけてきた。
「アルフレッド……。あなたこそいつも街中にいますけど、リングを探しに行かなくて大丈夫なんですか?」
「ん? なんでそんなもののために僕が出張らなくちゃならないんだい?」
「……はあ」
「僕はね、これから西街区のアドラー家を訪問しに行くところだよ。ほら、僕はもうすぐフローラ嬢と結婚するだろ? 各方面への挨拶回りが大変で大変で……。ああ、旅人の君にはイマイチ伝わらない悩みだったかな」
「さすが、勝ちを確信しておられますね。リングを探してもいないのが不思議ですけど」
「わかってないなあ。ありもしないものを探すのに命を張るなんて馬鹿げているだろう?そんなもの、ちょっと知り合いに頼んで
「へえ……偽物ですか」
「無知というヴェールを以って、贋作も真作になるものさ」
「他の候補者が本物を見つけちゃったらどうするつもりですか」
「そんなことは絶対にありえない。持ち寄られるのは僕の用意したリングだけ。つまり、その唯一のリングこそが本物だと、誰もが信じ疑わない」
「……へえ、すごいなあ」
「ああ、ああ! 僕としたことがまた喋りすぎてしまったよ! 余所者の君になら何を喋ってもいいような気がしてしまってね。ふふ、ふふふ。なんだか君とは良き友人になれると思うんだ。どうだい? 君さえ良ければ、僕の結婚式に招待してあげても構わないよ?」
「結構です」
「連れないなあ。腹を割って語り合った仲じゃないか。なあ、なあ、そんなに急いでどこへ行くって言うんだい? このアルフレッド・サラザールとの語らいを無下にして、一体何の用事があると言うのさ?」
「はあ……。えっと、これです。これ」
イーサンは懐から赤く輝く指輪を取り出した。
「『炎のリング』。なんとか見つけられたので、これからルドマンさんに報告しに行くんです」
「……………は?」
「もしかしたら『水のリング』の方もなにか情報が得られるかもしれませんし。それに、あれから数日経ってるし向こうも経過が気になるのかなって。まあ、挨拶で忙しいあなたにはイマイチ伝わらない悩みかもしれませんけど」
「あ………なん――」
「贋作、でしたっけ。持ち寄るのもいいですけどもう本物持っていくので。あなたの身のためにも、それはおすすめしないですよ」
* *
『死の火山』脱出後、サラボナの馬車小屋まで(ルーラで)戻ってきたイーサン一行はそのまま泥のように眠り、目が覚めたときにはもうお昼時になっていた。食料と追加の薬草などを買いそろえるために馬車と道具屋を往復し、なおも疲労を見せる仲間たちを荷台で休ませておきつつイーサンはルドマン邸に向かっていた。
先ほど遭遇したアルフレッドはイーサンの言葉に愕然とし、それ以上はついて来なかった。ざまあみろ、と心の中で叫ぶ。
「申し訳ございません。旦那様は先ほど急用でお出かけになられました。お帰りは深夜を予定しておりますので、お手数ですがまた明日、いらしてください」
玄関で出迎えてくれたメイドはびっくりするほどの無表情でそう教えてくれた。“溶岩原人”の先っちょについてた顔の方がまだ表情豊かだった気がする。
「そうでしたか……じゃあまた明日、これくらいの時間に来ますね」
死の火山攻略からイーサンも、仲間たちもまだ回復しきっていない(もちろんロランは例外)。せっかくなのでもう少しゆっくりしよう。そう思った。
「恐れ入ります。……あ、失礼」
メイドはイーサンの横を通り抜け、屋敷の門の方へ足早に向かっていった。何事かと目で追うと、買い物袋を抱える少女が門の前で立ち往生していた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。荷物はお預かりいたします」
「ありがとう、アイナ。ふう……買いすぎちゃったかしら」
「滅相もありません。買い出しも率先してお手伝いしていただき、大変恐縮でございます。正直、我々使用人一同立つ瀬がございません……」
「良いのです。わたくしも、商店街まででしたら迷わずに行って来られますし……あら?」
少女と目が合った。
その大きなリボンを、蒼い髪を、蒼い瞳を、イーサンは知っていた。
「もしかして貴方が……」
「もしかして君が……」
「「イーサンさん!!? / フローラさん!!?」」
* *
木陰のベンチは涼しく、街の喧騒もここまで離れれば心地よい。
「旅人の候補者がいると父が話すのを聞いて、もしやとは思っていましたが……」
「俺もまさか、あのとき一緒に噴水広場を探した子が領主の娘さんだとは思わなかったよ」
「うう……あのときは本当に助かりました」
蒼い髪の少女、フローラはワンピースの裾をきゅっと掴む。
「……父には、反対したのです。見ず知らずの方をも危険にさらすような試練だなんて、その、良くないと思ったのですわ。しかも、わたくしのために」
「ああ、そうなんだ……」
「今朝もアンディさんがお医者様のもとへ運ばれたと聞いて、わたくし、生きた心地がしませんでした……」
「え、アンディさんが?」
昨日火山の麓で出会った候補者のひとり。確か応援を呼ぶと言っていたが……。
「ええ、全身をひどく打ったそうで……、打撲だという話でしたが、今も意識は戻らないみたいです……」
彼女がうつむくと、頭のリボンも悲しげに揺れた。
「打撲……か。俺も南の火山には行ったけど、あの中を行って打撲で済んだのならそれはすごく幸運なことだと思うよ」
「え……?」
「なんていうか、その、命に別状がないのなら大丈夫ってこと。人間の体って結構丈夫なんだ。旅人の俺がそう言うんだから、まあ間違いない。確かに心配だけど、必要以上に気に病むことはないんじゃないかな?」
フローラは少し考え、優しく微笑む。大きな瞳が、ころりと煌いた。
「そうですね……。ここで落ち込むよりも、今度お見舞いに行こうかしら。あ、そう言えば貴方も火山には行ったのですよね? あ、あの、お怪我は、あの、大丈夫、でしたか!?」
「うん、うん。まあ、なんとか、ね……。目当てのリングも手に入ったし」
「ああ、良かったです! わたくしのためにイーサンさんの身にまで何かあったらと思うと……」
フローラは言葉を切った。思うと……何だ? イーサンはその続きが気になった。
「あら……? え……? って、言うことは、イーサンさん……」
「ん?」
「イーサン、さん、も……、その、わたくしと、その、け、……結婚、を?」
「あっ」
フローラが跳ねるように立ち上がった。
「ち、違うんだフローラさん!」
「え、ええ!?」
「いや、違うっていうのは、あれだ。その、君との結婚が嫌ってワケじゃなくて」
「ええっ、そうなんですか!!?」
「――そうだよっ!!!」
言ってから、首を傾げた。いや、そうじゃないはずだ。待て、『そう』って何がだ?
「そうだよってのは……そう、だよ。いや、でも君だって、会ったばかりの、よくも知らない旅人となんて……嫌、だろう?」
「えっ?」
「……え?」
「あ、いえ! そうではなく! いえいえ、そうでないというわけでもないのですが!!」
フローラは目をぐるぐる回しながら、必死に言葉を探す。が、空っぽになった頭の中からは何も拾い出せない。そもそも自分が何を言いたいのかも見失っていた。一体『そう』って何なのかしら?
「あ、ああ、あの! わ、わたくし、失礼しますっ!」
「お、落ち着こうフローラさん。俺も落ち着くから……あっ」
立ち上がろうとしたイーサンの懐から、ころんと何かが地面に落ちる。それは赤色に輝く綺麗な指輪だった。
「ゆ、ゆ、指輪ああぁぁあ~~~~!?」
「フローラさん!? これは―――」
「い、いけませんわ! わ、わ、わたくしまだ、心の準備があぁぁぁ~~~~!!」
彼女は耳まで真っ赤になった顔を隠し、先日愛犬を追いかけていたときの倍くらいの速さで屋敷の中に走り去っていった。
残されたイーサンは、指輪を拾い上げ、じっとそれを見つめた。
「……結局、何がどうなったんだろ」
陽が傾き、眼下に広がるレンガの街並みは優しい赤色に染められていく。
「結局……。フローラさんは、あの子だった……?」
胸の鼓動が高鳴る。いや違う、さっきからとっくに高鳴っていたのに、たった今気付いたのだ。
「うん、うん。フローラさんは、あの子だったんだ!」
* *
「――はっ!?」
自室の布団に顔をうずめていた当のフローラさんは、驚くべき速度で冷静になっていった。
「お父様がおっしゃっていましたわ……、花婿候補の試練とは指輪を集めることだって」
そう、先ほどのあれは決してダイナミック求婚などではない。遅まきながら彼女はそれを理解した。
「ああもうっ! わたくしったら……!」
急いで窓に駆け寄り、玄関先を見下ろす。しかし、そこにもう彼の姿はなかった。
「やってしまいましたわ……。ほんと、ばか……」
フローラは窓辺にうなだれた。人見知りが激しく、すぐアタフタしてしまう自分の性格を、今日ほど悔やんだことはない。せっかく、せっかく楽しくおしゃべりができていたのに……。
フローラは再びベッドに倒れ込み、大きな枕を抱きしめる。
「でもやはり、イーサンさんは……」
父のめちゃくちゃな花婿探しの方法に乗り、課題である指輪をも実際に集めてきた彼は……やはり望んでいるのだろう。自分と、結ばれることを。
「~~~~~~~っ!!」
思わず枕に顔を押し付け、それでもなお収まらない謎の感情に押し流されるように布団の上をごろごろと転がった。
その後、お茶を淹れに来たメイドはベッドの上で唸り声を上げながら蠢くお嬢様を見て、初めて食器を割ったという。
* *
夜。街が寝静まるころ、イーサンは馬車の扉を開け放った。
「聞いてくれみんなっ!!」
「びっっっっっっくりしたニャ!?」
「旦那……、今日は随分、遅かったな……」
「もう、何ニャンニャ!? また変なヤツにでも絡まれたニャン!?」
「フローラさんは、あの子、だったんだよ!」
「はあ~!?」
イーサンは荷台に飛び乗り腰をおろす。
「よしわかったニャ。いやわかんないけど、とりあえず何があったか教えてニャ」
「うん。だから俺考えたんだ。ずっと。噴水の周りを何周したんだっけ。もう数えるのも途中で辞めてね、考えたんだ。そしたら街の人に変な目で見られるだろ? 当たり前だよな。だから今度は街のあちこちを回りながら考えた。これなら通行人からも不審がられずに済むってね。もうぐるぐるだよ、ぐるぐる。頭の中も足取りも――」
「短めに教えてニャ」
「あ、うん、ごめん。色々考えて、決めた。はっきりとね。ちょうど、当初の目的とも、相違ないし――」
「俺、俺……。フローラさんと、け…………、………。……結婚、したい」
最後の方は恐ろしく小声だったが、仲間たちの耳にはしっかり届いた。
「――んンぅっ!」
そして彼は顔を真っ赤にしながら荷台を転がり、開いたドアの向こうに落ちていった。
「……こいつメダパニでも食らってるんじゃないのかニャ?」
「魔力 反応 ナシ! マスター は 正気 ナリ!」
「まあ、なんにせよ……だ」
マービンが腰を上げ、右手をドアの外に差し出した。
「旦那が決めたって言うんなら、オレたちは応援するだけだぜ……」
「マービン……」
イーサンは彼の手を掴み、再び荷台に上がる。
「ありがとう。正直、不安しかないけどね……。今日だって話してる途中で……なんか逃げられちゃったし」
「そんなことで何を後ろ向きになってるニャ。カボチ村の洞窟で一晩中メタルスライムを追い回した男のセリフとは思えないニャ」
「う……」
「それに旦那は……『炎のリング』も手に入れてる……。資格も、半分示せている……。自信を、持て……」
「まあ、それは、確かに」
「マスター は 無敵 ナリ!」
『キキッ!』
仲間たちの言葉を受け、改めて覚悟した。うん、一度心が『そう』だと決めてしまったからには、理性や理屈ではどうしようもないのだ。
「そうだな……そうだよなあ!!」
* *
翌日。改めて経過報告に訪れたイーサンに対し、ルドマン氏は冷たく言い放った。
「――帰れ。二度とこの屋敷に近付くんじゃない」
差し出した『炎のリング』は叩き落とされ、石畳を転がるか細い金属音が耳に不快な余韻を残す。
「……え?」