蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
こんばんは。イチゴころころです。
ドラクエのカジノってなんであんなに楽しいんでしょうね。
ドラクエ4のエンドール、11のソルティコなどでは何時間も籠もってコイン稼ぎしましたし、同じく11のグロッタでは忘れられない思い出もできました。ちなみにオラクルベリーでは破産しました。
いつかカジノシーン書きたいなあ。
夢を見た。
波の音。泣きじゃくる自分。差し出される手。何度も見てきた夢だ。
――だいじょうぶ?
この声を聞くと勇気が湧いてくる。世界にどんな悪者がいても、どんな恐怖が襲い掛かって来ようとも、その手を握り返すためならなんだってできる。そう思った。
――やだ、ちかよらないで。
しかし、その手は目の前で引っ込んでいった。輪郭のはっきりしないその少女は、冷ややかな目線をこちらに向けていた。
なんで? いつもは手を繋げた。伸ばした手は届いた。なんで届かない?
少女が再び口を開いた、さわさわと、耳障りなくぐもった声が零れ落ちる。
――失せろ。邪悪な魔物使い。
「うわあああ!!?」
目が覚めた。冷え切った汗が体中を伝い、包帯を巻かれた箇所がずきりと悲鳴を上げた。
「ちょっと大丈夫!?」
部屋のドアが開き、薄金色の髪の女性が洗濯籠片手に飛び込んできた。
「ああ、良かった! 目が覚めたのね。えっと、ちょっと待ってね……、はい、これ」
洗濯籠から取り出されたタオルが差し出される。乾きたてのそのタオルは、ほんのりとぶどうの香りがした。
「すぐに動いちゃだめだよ? これ畳んだらご飯用意するから、ゆっくり休んでて。また声かけるから」
しばらくすると再びドア越しに声を掛けられ、イーサンは部屋を出る。
テーブルに、シチューを入れた木皿が差し出された。
「味の保証はしないけど、体はあったまるはずよ」
「……ありがとう。いただきます」
シチューを口に運ぶ。質素だが、おいしい。素直にそう思えた。
「……あのさ」
「なにっ?」
イーサンが口を開くと、食い気味に返事をされる。“聞きたいことは山ほどあるけど相手は病み上がりだし我慢しよう”みたいな気持ちがその顔に出ていた。
「あの、君、ビアンカ、だよね……?」
「……!」
彼女は両目を輝かせる。
「うん、うん! そうよ! 幼馴染のビアンカよ! ああ、やっぱりイーサンじゃない! 良かった生きててくれて~~~~!!」
彼女、ビアンカはテーブルを飛び越えイーサンに抱き着いてきた。ぎゅうぎゅうと全身が圧迫され傷口が軋む。
「痛い、痛い!」
「あ、ご、ごめん! 私、つい、あはは……」
飛び退いた彼女はくしゃりとはにかんで、右肩に垂れる三つ編みの先をくるくるといじった。見覚えのある、彼女の癖だった。
* *
ビアンカは家族ぐるみでアルカパの宿屋を経営していた。サンタローズの隣の街ということもあり、パパスとも交流が深かった。イーサンとビアンカは出会ってすぐ仲良しになり、幼少期は会うたびに遊んでいたらしい。もっとも、イーサンにはお化け退治以外の記憶は朧気だ。
パパスとイーサンがラインハットへ向かった頃、ビアンカの一家もアルカパの街を離れることとなる。彼女の父、ダンカン氏の持病が悪化し、宿屋の経営が難しくなったそうだ。そして土地を売ったゴールドを用いてこの大陸まで渡り、この山奥の閑静な村で療養生活をしているとのことだった。
「だから父さんは向こうの部屋で寝てるの。あとで顔を見せてあげて、父さんもきっと喜ぶから」
「うん……。あの、お母さんは?」
「……死んだよ、3年前。父さんの看病に、よっぽど無理をしてたみたい」
「そう、か……」
「私も子供だったんだよね。母さんに無理させちゃってた。でも、もう私は大人になった。母さんの分まで、しっかり父さんの面倒を見るんだ」
ビアンカは微笑む。見た目こそ幼年期の面影を残しているが、その言葉と眼差しは間違いなく、立派な大人のそれだった。
「ねえ」
彼女の声色が変わり、イーサンの胸がきゅっと締まる。
「今度はキミの話を聞かせてよ、イーサン。引っ越してすぐキミ宛に手紙を書いたのに、サンタローズの村はもうないっていう知らせしか返ってこなかった。……なにがあったの?」
「……長くなるよ?」
「上等よ。今日は村の頼まれごと全部断ったんだから、いくらでも付き合ってあげるわ」
イーサンは幼少期にビアンカと別れてからの経緯を語った。
ラインハットでのヘンリーとの出会い。父の死と、10年にも及ぶ奴隷生活。脱出。魔物使いとしての旅立ち。父の手紙――。
その突拍子もない話の連続に、ビアンカは茶々を入れることもなく相槌を繰り返していた。
「それじゃあイーサン。キミが持っていたそれが、その、天空の剣だっていうの?」
「ああ、ああ、それだよ。それが天空の剣。天空の勇者に繋がる手掛かりのひとつで、母さんを助ける道しるべ、だ……」
壁に立てかけられた剣を一瞥した。骸骨兵に刺された傷口がちくりと痛む。
「なるほど、ね……」
「あれ、あんまり驚いてない? 俺の話ヘンリーたちには好評だったんだけど、つまらなかったかな。それとも、ぶっ飛びすぎてて信じられないとか――」
「そんなことないよ」
ビアンカの声にイーサンの軽口は阻まれた。彼女の声にははっきりとした圧があった。ビアンカはテーブルに肘をついたまま頬に手を当て、じっとイーサンを見つめる。その瞳は涙で潤んでいた。
「私は、アルカパを離れた後もずっとこの村で過ごしてきた。平穏に、平和にね。母さんを亡くしたときも、村のみんなが優しく支えてくれて、前を向くことができたの。だから、だからね。イーサンが体験してきたこと、その苦労とか痛みとか、私は知らないんだ。幼馴染のくせに、キミより年上のくせに、10年以上キミの事ほったらかしにしていた私にはわからないの。すごく、悔しいけどね。イーサンの旅にも人生にも、私は口を出す権利がない」
こぼれかけた涙を彼女は指ですくった。でもね、と彼女は続ける。
「キミの話を聞いて確かにびっくりはしたけど、違和感も覚えたの。
「……?」
「パパスさんの手紙を読んで、キミは旅立った。お母さんを……マーサさんをその手で救うために。そんなキミが、キミがだよ。目の前でずっと、私の知らない目をしてるの。全部を投げ出して諦めちゃったみたいな、そんな目をしているのよ。それがどうしても繋がらない。納得、できない」
ビアンカは先ほどとは一転、力強い視線を向けてきた。
「え、えっと……」
「観念して教えなさい。お姉ちゃんはなんでもお見通しなんだからね?」
観念した。イーサンはこの大陸、というより、サラボナに着いてからのことをかいつまんで説明した。フローラとの結婚のチャンスと、すべてを失った、言うなれば失恋までの経緯だ。
「結局、魔物使いなんて物騒な肩書を背負った旅人なんかが富豪の娘さんと結婚しようと思ったのが間違いだったんだ。いや、たとえ相手がお金持ちじゃなくても、俺は受け入れられなかっただろうね……。アルフレッドは最低のゲス野郎だけど、何も間違ったことは言ってないんだよ」
話しながら、体が重くなっていった。胸の奥が、じわじわと痛みを思い出していく。
「それで自棄になって死にかけたところを、ビアンカに助けられたってこと。終わり。……うん、ほんと、カッコ悪い。みじめだよ、どうしようもなく」
ビアンカはくいくいと首を縦に揺らしながら聴いていた。その表情からは彼女が何を考えているのか、絶妙にわからない。
「………で?」
彼女はそんな言葉と共に再び目線をくれた。
「いや、で? って? 終わりだよ、人々は俺を拒絶し、俺は派手に失恋した。それだけ」
「それだけなワケないじゃない。それは周りの人たちの話でしょ? 私が聞きたいのは、キミの気持ち」
「俺の……?」
「そうよ。それで、
イーサンの胸の奥が静かに跳ねる。
「いや、でも、俺にはどうしようも――」
「ねえ、お化け退治に行ったときのこと覚えてる?」
ビアンカは立ち上がり、イーサンの隣に腰をおろした。お化け退治? いきなりなんで昔のことを?
「良かった。さすがに覚えてるわよね、うん。じゃあさ、
「え? それは確か、街の子たちに子猫がいじめられてて……ええっと」
「そうよ。子猫がいじめられてたの。アルカパでも名の知れたいじめっ子3人に。でね、私の幼馴染はね、その子猫を庇いに行ったのよ」
「……え?」
「私よりも小さなその男の子は、私よりも大きないじめっ子たちに向かって『やめろ』って、そう言ったの」
必死で記憶を検索する。確かに、と、いじめっ子たちのシルエットが頭の中にぼんやりと浮かび上がった。
「いじめっ子たちは子猫をいじめるのをやめる代わりに、レヌール城のお化けを退治して来いって言った。するとその男の子は受けて立ったの。もう、即答よ。いじめっ子たちは指をさして笑ってたけど、彼は至って真剣で。お姉ちゃんは呆れたわ。でも、その子について行こうと思った」
ビアンカはイーサンの肩にそっと手を置いた。手のひらを通じて彼女のぬくもりが伝わってくるようだった。
「私の好きなイーサンは、そういう男の子だったの。ねえ、もう一度聞くわ。
ぱちぱちと、朧気な記憶たちが脳内を交錯した。視線がビアンカの瞳に吸い込まれ、胸の奥がゆっくりと熱を帯びていくのがわかる。
「お、俺は……」
しかしふたりの会話は、窓から飛び込んできた声に阻まれた。
「――魔物だ! 魔物が出たぞ!」
「「……え?」」
ビアンカが驚いて立ち上がる。
「嘘でしょ? この辺りには出たことないのに……、え、ちょ、イーサン!?」
今しがた隣に座っていたイーサンが、ケガをしているのも忘れたのか家の外に飛び出していった。
ビアンカの家は、緩やかな斜面を描く村の一番高いところにあった。イーサンが坂道を見下ろすと、畑の間に人だかりができているのが見えた。そしてその中央には見覚えのある魔物の姿が。
「……みんな」
イーサンが坂を駆け下りていくのと、ビアンカが玄関を開けるのはほぼ同時だった。
「ちょっとイーサン! ……もうっ!」
村人たちは魔物の群れを取り囲んでいた。各々の手には武器代わりの農具が握られている。
「聞いて……くれ。オレたちは、危害を加えるつもりは、ない……。用が済んだら、出ていく。人を、探している、だけだ……」
「パトリシアがおびえてるから、そのブッソウなものをおろしてほしいニャ。あと、どさくさに紛れてトレヴァまでおびえないでほしいニャ……」
『キィ……』
目の前の魔物が喋ったことにより、村人たちは驚きと戸惑いを見せる。
「ま、こうにゃるニャア……。ねえ宝石袋、ほんとにご主人はここにいるのかニャ?」
「…… マスター の 魔力 を 感知! 進行形 で こちらに 向かってる ナリ!」
「――やめろ!」
人だかりの向こうから声が聞こえたかと思うと、体のあちこちに包帯を巻いたイーサンが姿を現した。彼は人ごみをかき分け、魔物たちとの間に割り込む。
「やめてください! こいつらは俺の友達です、人間には危害を加えない!」
村人たちがざわめく。――だれだあいつ、――確か昨日運ばれた、――ビアンカちゃんの、――大丈夫なの?
「……迷惑だったら、すぐ、出ていくので……。でも、だから……」
「――お願いします!!」
再び声が上がる。村人たちが一斉に振り返ると、そこには薄金色の髪の女性。
「彼は私の幼馴染です。信用に値する人物よ」
ビアンカは道を開けた村人たちの間を通り、イーサンの隣にやってくる。
「でも彼はケガをしているの。魔物も彼も私が責任を持って、みんなに迷惑はかけないようにするから。……だからお願いします。信じてください」
そして深々と頭を下げた。――ビアンカちゃんがそう言うなら、――畑さえ荒らされなければ別に、――ていうか誰? 恋人?
村人たちはざわざわと言葉を転がしながら、少しずつ去っていく。そして何事もなかったかのように、もとの生活に戻っていった。
「……良かった。ここの人たち、他の街に比べて寛容というか、のんびりしてるからね」
「「ご主人! / マスター!」」
リズとロランが主に駆け寄る。トレヴァも嬉しそうにぱたぱたと羽ばたいている。マービンはパトリシアを引きつつ、こちらに笑みを向けていた。
「良かった、みんな……」
「ゴメンニャ! あのあと突然馬車が襲われて、みんなで必死に逃げて、でもご主人と離れ離れになっちゃって! ずっと探してたけどたくさん時間が経っちゃったニャ! ご主人、こんなにケガしてるニャ!? すぐに回復を――」
「大丈夫」
珍しく荒ぶるリズの頭をわしゃっと撫でて制す。昔から彼女はこうすると大人しくなる。
「俺は大丈夫。……大丈夫に、なった」
立ち上がり、ビアンカの方を向く。彼女は三つ編みをいじりながらそわそわと立っていた。
「ビアンカ」
「……何?」
イーサンの視線を受け止めて、ビアンカはとても懐かしい気持ちになった。そうよ、この目。私はよく知っている。
「俺は、アルフレッドの悪事を暴く。どんなにみじめでも、無様でも、……誰に嫌われても。それでも俺は、フローラさんに幸せになってほしいから」
「……そう」
この目だった。幼いビアンカを悪名高いレヌール城に立ち向かわせたのは、宿屋の娘の心を震わせたのは。間違いなくこの眼差しだ。
「そうね、それでこそ私の幼馴染よ! ……イーサン!」