蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
こんばんは。怒濤の予約投稿が上手くいってよかった……。イチゴころころです。
ビアンカを喋らせるのが楽しすぎて結婚したい。
「えーい!!」
ビアンカの指先から大量の炎が射出され、徒党を組んで意気揚々とボートを襲ってきた“マーマン”の群れは焼き魚の盛り合わせへと変貌した。えーいなんていう可愛らしい声とは裏腹に広がった残虐な光景を見て、イーサンは引きつった笑みを浮かべた。
「す、すごいじゃんビアンカ……」
「ふっふーん♪ だから言ったでしょ?」
彼女はボートの先端部分をくるくると回り、こちらにピースサインを向ける。
「お化け退治のときの私の活躍、忘れたの?」
「あー、うん思い出した。ゴーストに連れ去られて墓石の下で半べそかいてた君の大活躍――」
「なーっ! なんでそんなこと覚えてるの!? て、てか泣いてない! 捏造だわ!!」
「いったぁ! 暴れるなって、転覆する転覆!!」
イーサンたちを乗せたボートは山奥の村の北、名もなき大きな湖を突っ切り、とある滝つぼを目指していた。通称『滝の洞窟』。村人たちのみぞ知る水に囲まれた聖域、そこに『水のリング』があると言う。
* *
1日前。仲間たちと再会を果たしたイーサンは、再びビアンカの家に厄介になっていた。
「いいかお前ら、向こうの部屋でビアンカの父さんが寝込んでるんだ。くれぐれも騒がないように。特にロラン。間違っても変な呪文は唱えるなよ」
「じゅもん つかうな! 承知 ナリ!」
「あれ、マービンはどこに行った?」
「彼なら農家のカイルさんの手伝いに行ったわよ。さっき薪を持って下ってったわ。あ、はい、これ」
「あいつの社交性どうなってんだ……。って、これは?」
「キミの服。今日は朝から晴れてたからね。すぐ乾いて良かったわ」
渡されたのは綺麗に畳まれたイーサンの一張羅だった。そう言えば、今着ているのは薄手の部屋着である。
「洗ってくれたのか……。ありがとう、ビアンカ」
ビアンカはウインクで返答し、他の洗濯物を抱えて奥の部屋へ戻っていった。
……妙な既視感を覚えて記憶を辿ると、海辺の修道院で目覚めた日のことを思い出した。あのときもシスターさんに服を、着替えさせられて……?
――わたしが、着替えさせていただきました。……ぽっ。
「うっそだろう……。俺これ生涯で何回経験するのかな……」
恥ずかしさを通り越して情けなく思えてくる。確かにビアンカは年上でお姉ちゃんだが、幼馴染の女の子に着替えさせられる光景はとてもじゃないが想像したくない。
「なんか言ったー?」
「いや、なんというか……。その、着替えまでやってくれてありがとう、ごめん」
「え……あ、はぁっ!?」
ビアンカが廊下から顔を出した。鼻の先が微かに赤い。
「急に何言ってんの! わ、私は何も見てないわよばか! ばーか!」
「え、えぇ……?」
イーサンとしては素直な感謝のつもりだったのだが、これに関してはタイミングと言葉選びが良くなかったと言える。
「イチャイチャしてるとこ失礼するニャ。ご主人、体の具合は大丈夫ニャ?」
「イチャイチャしてない。ケガは……ほら」
肩の包帯を外す。傷口はなく、ほんのりと赤い跡が残っているだけだった。
「トレヴァがずっと回復かけてくれたからね」
『キキッキキッ』
以前ルラフェンでベネットじいさんに教えてもらった話では、イーサンの使う“ホイミ”などの呪文には自然治癒力を促す効果があって、それこそが回復の仕組みだそうだ。上級呪文になるほど回復速度が高く、トレヴァの使う“ベホイミ”であれば全身を槍で刺された大けがも数十分で治すことができる。
「応急手当がしっかりしてたお陰、ってトレヴァは言ってるニャ」
しかしあくまで自然治癒力を促進するだけの呪文で、しかも治すケガを目視で認識する必要がある。そもそも治らないくらいの酷いケガ、または損傷個所を目視できないもの、例えばマリアの足の症状や諸々の病気には効果がない。回復呪文は万能ではなく、故に今でも研究が進められているのだとベネットじいさんは語っていた。
「うん、じゃあこれもビアンカのお陰ってわけだ……。ほんと頭が上がらないよ……」
「そうでしょそうでしょ? もっと言ってくれて良いのよ?」
ビアンカが大きな鍋を持って歩いてきた。香ばしい香りが食欲を刺激する。
「昼間のシチュー、味付け変えてみたの。モンスターさんたちの口に合うかな?」
ふたりと3匹で食卓を囲みながら、これからのことを話すことにした。ちなみにマービンはカイル氏に大変気に入られたらしく、向こうの食卓にお世話になるらしい。
「それでどうするニャ? あのクソイカレボンボンヤロウをどうやってシッキャクさせるか、何か考えはあるニャン?」
「イーサン、その言葉遣いキミが教えたの?」
「違う。勝手に覚えたんだ」
「アルフレッド 狡猾 ナリ! 英雄 の 風上 にも 置けん ナリ!」
『キキーッ!』
みんなも相当彼がお気に召さないみたいだ。シチューを器用に食べながら好戦的な表情を向けてくる。
「俺が考えてるのは……、とりあえず、あいつの用意してる偽物のリングのことをバラすのが一番確実だと思う」
「私も思った。その人、イーサンにひどい仕打ちはしているけど街の人たちにはなにも迷惑かけてないのよね。腹立たしいことに」
リズが首を傾げた。
「ご主人の話だとソイツはやたらお喋りみたいだし、そのうち勝手に自滅しそうニャン?」
「いや、そんな馬鹿な真似をするやつならサラボナでそれなりに慕われるような立場にいないだろうよ。あいつがベラベラ喋ったのは、俺が地位もなにもない旅人で、誰かに告げ口しても信用されないのをわかってのことだ。きっと切り替えの激しい人間なんだよな。調子に乗せればなんでも喋ってくれそうだけど」
「どこまでいってもコズルイ人間ニャ……」」
「ああ。確かにあいつの性格はゴミだけど、ルドマンさんやサラボナの人たちは少なくともそんなことは知らない。あいつが起こした明確な悪事はリングを偽装したことだけなんだよな」
「十分すぎるわよ。嘘ついて結婚を迫るなんて……最低」
「あとご主人にヌレギヌを着せたニャ! 許せないニャ!」
イーサンはシチューを平らげ、木製のコップに注がれた水も飲み干す。
「……だからそのことを何とかルドマンさんに伝え、信じてもらう必要がある」
「口で言うのは簡単ニャア……特に後半部分」
「本物 の 『リング』 が 必須 ナリ!」
「そうだ。幸い『炎のリング』の方はある。これらは世界にひとつしかない品だ。魔法に詳しい人にちょっと見てもらえば作り物との違いはすぐわかるはず。そうしたら――」
「御曹司クンの野望は破れ、晴れてキミがフローラさんと結ばれる。ってことね」
大雑把に切られたジャガイモをほおばりながらビアンカが口をはさんできた。
「……いや、それはどうだろう」
「え、違うの?」
「敵意の有無はどうあれ、俺が魔物使いであることは変わらない。そして俺はそのことを隠して彼女と接していたんだ。そういう点では、俺もアルフレッドも大差ない……」
「……もう、大事なのはキミの気持ちだって言ったでしょ? 御曹司クンの魔の手から彼女を救ったってなったら、イーサンの信用だってきっと回復するわ。だから……。イーサンはさ、フローラさんが好き?」
ビアンカの鋭い視線が刺さる。
「……うん。好き……だよ。結婚したいって思ったのは、本当のことだし」
「そう」
彼女は手に持ったコップを口に運ぶ。
「じゃあなおさら! いい、御曹司クンをぶっ倒したら、誤解を解いて改めてプロポーズ! ゴール地点はフローラさんと結婚! 目標は高く明確に、よ! いいね? 異論はないわね!?」
「わかった、わかったって」
ビアンカは満足したように笑うと、座りなおして三つ編みを撫でた。
「で、肝心の『水のリング』ニャ。なにか手掛かりはあるニャン?」
「いやぁ……」
イーサンはうなだれた。一番の問題はそこである。偽装を暴き真実を白日の下にさらすためには、正真正銘本物の『水のリング』が必要なのだ。それは『炎のリング』と対になる幻のアクセサリ。闇雲に探して手に入るような代物ではない。
「そこだよそこ。本物がないと話にならない。『炎のリング』だけ見せに行ったとして、どうしても説得力に欠けてしまう。奴は『偽物の水のリング』ももうすぐ完成させるんだ。てか、そうだよ、そっちが完成したらフローラさんとの結婚が成立してしまう。だから情報収集するにも時間がなさすぎる。そしてお尋ね者の俺は、なんとサラボナの街を歩けない」
確かに口で言うだけは簡単だった。考えれば考えるほど詰んでいるのがわかる。
「……ねえイーサン」
「なに……」
「確か『炎のリング』は、火山の洞窟の神殿みたいなところに祀られてたのよね?」
「そうだよ。そう考えるなら『水のリング』の方も、たぶん水に囲まれるような場所にできた神殿、の跡地みたいなところにあるとは思うんだけど、そんな場所がそう簡単に――」
「知ってるんだけど、そこ」
空気が止まった。ビアンカはまるで“名産品売ってるお店、うちの近くにあるんだけど”みたいな表情でイーサンを見ていた。
「……ほんと?」
「……ほんと」
* *
そして現在、イーサンはトレヴァ、ロラン、そしてビアンカを連れてボートを駆っている。目的地は湖の北岸、秘境『滝の洞窟』である。
「もう一度聞くよビアンカ。そこには『水流原人』とか、『湖で溺れ死んだ人たちの怨念』とか、そういう言い伝えはないんだね?」
「しつこいわねぇ何回聞くのよ」
「大事なこと、文字通り死活問題なんだよ。どうせ凍える吹雪のブレスとか吐いてくるんだ。どうせ3体くらい出てくるんだ。ボートの定員的に今回はフルメンバーじゃないし……」
「大丈夫だって。年に一度村のみんなでピクニックに行くような場所よ? そんな物騒なところなワケないじゃない」
「ピクニックぅ!?」
「ちゃんと神殿っぽい瓦礫も見覚えあるわよ。その先は神聖な場所だから入るなって言われたけどね」
「うわぁ微妙だ。微妙な言い方だ……本当にいないよな『水流原人』……」
「心配しすぎ。もしそんなのがいたらその時はちゃんと私のこと守ってね。おっと!」
そんなことを言いつつも、進行方向から飛び出してきた貝の魔物に火の玉を投げつけるビアンカ。この人ならどんな原人が出てきても大丈夫なんじゃないかな、と少し思う。
「てかそんなピクニック感覚で行けるような場所に『水のリング』があるとして、よく他の人に見つからなかったね」
ルドマン氏は私設の調査隊を派遣して、『炎のリング』のありそうな場所として死の火山を割り出したというが。
「サラボナの人たちって潔癖なところがあるみたいなのよ。自然に囲まれて~とかいう場所が嫌いみたいで、うちの村とは仲良くないの。交流もはるか昔に途絶えちゃってて」
「うわ、人間社会って怖いな」
サラボナ民たちに破壊されたであろう自分の馬車のことを思い出した。あそこは実際ラインハットの城下町よりも美しく整えられた街だ。なまじ街の中で十分不自由なく、それどころか優雅に暮らせるだけあって、外のものに対しては無関心、もしくは排他的なのかもしれない。
大滝の脇にボートを停め、ピクニックにもってこいな岩場を通り抜けると、特徴的な瓦礫が転がる洞窟の入口に辿り着いた。ビアンカの予想通り、死の火山内部で見た神殿の雰囲気に酷似していた。
「すごい、すごいよビアンカ……! これはありそうな予感がする」
「いいねぇもっと褒めて。でもここからは私も知らない領域よ。なんちゃら原人が出てきても文句は言わないでよね」
「まあ……今回はロランが最初からフルパワーで戦えるし、なんとかなるとは思うけどね……。頼むよ、本当。トレヴァもね」
『キィ……!』
「英雄 ロラン は 無敵 ナリ!!」
しかし洞窟の中は思った以上にのどかで、死の火山と対をなすダンジョンなのが嘘みたいだった。そこは流れる水が長い年月をかけて削り出した巨大な洞窟。ところどころ開いた穴から陽の光が差し込み、ちろちろと流れる水に反射して神秘的な光景を生み出していた。遭遇する魔物も大人しいものが多く、本当にピクニックの延長のような気分になった。
「んんーベギラマ!」
「だから雑なんだって! そんなに気安く唱えるものじゃないでしょ!?」
「えへへ、ごめんごめん。最近覚えたばっかりだからさ」
「魔力持つの?」
「あ、帰りの分はないかも……」
ビアンカは人差し指の先に小さく灯していた炎を慌てて消す。
「ごめんイーサン……。魔法の聖水、くれる? ちゃんとあとで返すから」
「いや、大丈夫だよ。ここの敵なら打撃で十分事足りるから、たぶんアイテムを使うまでもないと思う。たくさん出てきたら頼らせてもらうから、それまでは温存しておいて」
「……へえ」
彼女は見開いた目をすうっと細めて笑いかけてきた。
「な、なに」
「いや、ほんと、随分たくましくなったなーって。レヌール城の時はブルッブルのガッタガタだったもんね。ただでさえ少ない魔力が早々に枯れて、お化けの宿屋にまんまと騙されて」
「懐かしいな。でも俺だって伊達に2年弱も旅をしてないんだ。効率の良い戦闘のこなし方とか、これでも色々学んだんだぜ?」
「……そうよね。もう、私に守られるキミじゃないもんね」
「ん? なに?」
「なんでもないっ! うーんベギラマ!!」
「話聞いてた!? ねえ!?」
実際、群れを成して出てくる敵もロランが半数眠らせ、トレヴァがブレスで吹き飛ばすだけで事足りてしまう。火山で剣を失ったイーサンは今トレヴァからブーメランを借りているが、使うこともなさそうだ。後方から指示を出すだけで戦闘が終わってしまう。
幾何学的な模様を描く岩壁を通り過ぎ、円柱状に切り出した岩を飛びわたり、水に浅く沈んだ道を裸足で進みながら、一行は奥を目指す。
「ん~~気持ちいい!! こんないい場所だって知ってたら絶対水着とかサンダルとか持ってきてたのに! 今度のピクニックは水浴びで決まりね!」
「大丈夫なの? 一応、神聖な場所なんだよねここ」
「今思いっきり侵入してるキミが心配すること? あーでも、村の人たち大人ばっかりだからなぁ……。こういうのあんまりかもなあ……」
「あの村には若い人そんなにいなかったよね」
「村自体が秘境とも言える僻地だからね。若者はみーんな大きな街に行っちゃうんだって。私はあの雰囲気好きなんだけどなぁ」
確かあの村ではビアンカが最年少で、その次に若いのは妻子持ちのカイル氏らしい。彼の息子がビアンカより年下だったらしいのだが、数年前にサラボナへ就職したのだとか。
「そう言えばビアンカはどうなの? ……恋人とか、いるの?」
「あら、心配してくれるなんて偉くなったじゃない?」
「そんなんじゃないよ。気になっただけ。その、幼馴染として、というか」
「プロポーズもためらっちゃうようなヘタレ君に心配されるようじゃ私もオシマイよ」
「言ってくれるね……。てか、その言い方だと……?」
「ふふん、どうかしらね。イーサンの想像にお任せする――うひゃあぁ!?」
下目使いでどや顔をするビアンカの姿が突如、視界から消えた。
「ビアンカ!?」
足元を見ると斜め下に伸びる横穴を見つけた。ここに落ちていったらしい。
「大丈夫か、ビアンカ!」
少しして、水しぶきの音と彼女の悲鳴が聞こえてきた。
――いったぁ~! もう最悪!
「今行く! そこを動かないで!」
イーサンは手荷物をトレヴァに持たせ、意を決して穴に飛び込んだ。するすると滑りゆく体はどんどん加速していき、広い空間に投げ出されたかと思うとお腹から水に叩き付けられた。
「!!?!?」
衝撃で意識が持ってかれそうになるのを必死で耐え、手足を全力で動かしながら水面を探した。
なんとか水から顔を出すと、ビアンカが水面を叩きながら笑っていた。
「受け身ヘタ過ぎでしょ!! っく、あははははははは!!」
「……人の気も知らないで。心配したんだからな」
「わかってるって。ありがとねっ」
見渡すと陸地、もとい足場があった。この半球状の空間はちょうど半分が水没し、もう半分は足場でできているようだった。そして、
「ねえ、見て。イーサン」
「……うん」
水から上がるのも忘れて見惚れてしまった。
壁面には大きな穴が開いていて、そこから見えるのは大量の落ち行く水。恐らくは外から見えた巨大な滝だ。その裏側に隠し部屋のように開いたこの場所にたまたま落ちてきたのだ。太陽の光が水のカーテンに散らされて、いくつかの光の筋となってこの空間を照らしていた。ふたりは今、降るような光と透き通る水に囲まれている。
「……綺麗」
ぽつり。ビアンカがつぶやいた。その声が何だか泣き出しそうなものだったから、イーサンは少し不思議に思う。
「……ビアンカ?」
「あっ! ねえ、ちょっと、あれじゃない?」
言及する暇もないまま、彼女は何かを見つけ水から上がっていった。イーサンもそれを追う。
「あっ、えっ、おおおおおおお!?」
そして声を上げて驚く。景色に見惚れて気付かなかったが、足場の中央には小さな祭壇状の台座があり、きらきらと輝く碧い指輪がはめ込まれていた。
「え、ホントに! これってアタリ!?」
「アタリもアタリ、大アタリだよビアンカ!!」
「「やったあああああああ!!」」
ふたりは大きく振りかぶって互いの両手を合わせた。ぱちーんという景気の良い音と共に水しぶきが跳ねる。
「ほんとに見つけちゃった! ねえ、ねえ! これって私のお陰よね!」
「お見それしたよ! 今回ばかりはビアンカのズッコケのお陰だ!」
「ズッコケじゃありませーんピピっと感じたからわざと落ちたんですー!」
ふたりは祭壇の周りを飛び跳ねながら喜び合った。イーサンはなんとなく、こうして誰かと笑うのがとても久しぶりのように思えた。
『キキー!!』
見上げると、荷物袋を首から下げたトレヴァが天井の穴から飛んできたところだった。背中にはロランもちょこんと乗っている。イーサンは祭壇からリングを外し、彼らに向かって掲げた。
「祝福 ナリ! 目的 を 達成 ナリ! 邪悪な 気配 も 感知 できず! 周囲 は 至って 安全 ナリ!!」
ロランが自分の宝石たちを嬉しそうに振り回し、トレヴァも歓声を上げながら旋回した。
「荷物を彼女に預けたのは正解だった。なんとなく下は水場なんだなって予想してたんだ」
「その割には受け身取れてなかったけどね。うっ、くく、ふふっふ……」
「もういいだろそれ!」
そのとき外に繋がる穴から風が吹き込み、ふたりは同時に身を震わせた。
「……着替え、持ってきてないわよね」
「……生憎と」
「うぅ~、やっぱり水着持ってくるべきだったなぁ……」
「目的は達成できた。風邪ひかないうちにとっとと帰ろう」
イーサンがトレヴァに合図を出すと、忠実なキメラはゆっくりと降下してきた。その様子を、ビアンカはじっと見つめる。
「ねえ、イーサン」
「どうした?」
目が合うと彼女はついっと目を伏せた。右手の指は三つ編みの先に絡ませてあった。
「……悔いのない選択をするのよ?」
「え、なにが?」
彼女はゆっくり目を閉じ、開いた。
「……好きなことして生きろってこと! これたぶん、偉い人の言葉! だから私も”そう”する! 悔いのないように、今から好きなことするけど許してね!」
そう言うと彼女は水辺まで駆けていき、脱いだフードで水をすくうとイーサンに投げつけてきた。
「ぶわぁ!?」
「あっはっはっはっは!!」
「風邪ひかないようにって言ったそばからこれかよ!!」
「油断してるからよっ!」
笑い声が滝の裏側に反響する。
彼女にかけられた言葉の意味。それをイーサンが理解するのはもう少し先のことだ。