蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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 こんばんは。イチゴころころです。

 最近ドラクエ11Sを始めました。無印は数年前にクリア済みでしたが、やっぱCVつくのって良いな……と思いました。
 ドラクエ5にもCVついてくれないかな……。


2-11. 花嫁への道③ リベレーション

 

 

――あいつに全部喋ってもらえばいいんじゃない?

 

 洞窟から帰った後、ビアンカの何気ない一言からこの作戦は始まった。

 

「イーサンの話だと、御曹司クンって市民の前でネコ被ってるだけなのよね?」

 

 びしょ濡れになった髪をタオルで拭きつつ彼女は続ける。呼ばれたと勘違いして寄ってきたリズの頭を撫で、イーサンは首を横に振った。

 

「確かにルドマンさんの前とかで本性を表してくれればそれだけで全部解決するけど、あいつの性格的にそんなこと絶対しないよ」

「でも旅人の前だと本性丸出しなのよね。適当に挑発して喋らせて、その様子をルドマンさんに見せれば可能じゃないかしら」

「いやいや、そんな。言うのは簡単だけどね? ショーか何かじゃあるまいし」

「……」

「……ビアンカ?」

 

 彼女は少し考え込んだ後、口の端をきゅっとつり上げた。

 

「案外いけるかもしれないわよ?」

 

 

  *  *

 

 

 近付いてくるルドマン氏の眉間にははっきりと皺が寄っていた。少なくとも、娘の婚約者に向ける表情ではない。それはアルフレッドにも理解できた。

 

「ほんっと、イーサンの言う通り、ね……。面白いくらい、喋ってくれちゃって……。レディに対する暴力も、破られた服も……、今のアンタの、無様な顔で、帳消しだわ……」

 

 弱々しいビアンカの声が頭の中をこれでもかと反響する。アルフレッドは自分が嵌められたことをじわじわと実感していた。

 

「この、おま……、ふざけ――」

「アルフレッド君だね?」

 

 ルドマン氏のどすの効いた声が投げかけられる。彼の一歩後ろから、フローラの鋭い視線が刺さる。

 

「先ほどのセリフに、そちらの女性。……どういうことだか教えていただこうか?」

 

 思わず後ずさる。どう言い逃れるべきかと脳がひたすら回転するも、答えは何も出てこない。アルフレッドが距離を取ったのを見て、傷だらけで倒れているビアンカにフローラが駆け寄った。

 

「……アルフレッドさん。これは貴方が、やったのですか?」

「……ち、が――」

「貴方の持っているそれは、“偽物の”リング、なのですよね?」

 

 彼女の声は小さく、しかし確かな圧を感じられた。

 アルフレッドは自分の両手を見た。左手には件のリング、右手には頭蓋骨の杖。先ほどまで目の前の女性をいたぶるのに使っていたその杖の先には、少しだけ血の跡も付いている。

 

「ぁ、う……これ、は」

 

 動揺のあまり自分が物的証拠をふたつも持っていたことを忘れていた。咄嗟に背中に手を回し隠したが、もう遅い。それどころかその挙動さえ裏目であることに遅れて気付く。

 

「……アルフレッド君。君の今の姿、そしてこの状況から察するに、我々は騙されていたと見て良いだろうね? うん? 君とも古い付き合いだ。一体どこから、いつから嘘をついていたのか、じっくり話を聞かせてもらいたいものだが?」

「ひどいです……貴方は、そんなことを思って……それをひた隠しにして……お父様や、サラボナのみんなと何食わぬ顔で接していたというのですか……?」

 

 ふたりの視線がアルフレッドの精神をえぐる。それはもう、彼の求める自由が、優雅な暮らしが彼の信用と共に、この先永遠に失われたことを意味していた。

 

「――まれ、だぁまれぇ!!」

 

 アルフレッドは手に持っていたリングを叩きつけた。作り物の指輪は粉々に砕け石畳の上を舞う。そして、驚いた隙を逃さずフローラに掴みかかった!

 

「あうっ」

「フローラ!?」

 

 彼女の手首を締め上げ、首筋に杖の先をあてがった。ルドマン氏、それと立ち上がろうとしたビアンカもその動きに制される。

 

「動くな、動くなよ……。この娘の首が切られるのを見たくなかったら、お前ら、ぼ、僕に従うんだ……。いいか、僕には資格があるんだ……。彼女に相応しい結婚相手は、僕なんだ……! 僕だけなんだあぁぁ!!」

 

 錯乱したアルフレッドは杖を振り上げる。ふたりの見開かれた目が視界に焼き付いた。

 

『キッキー!!』

 

 しかし、突如魔物が飛来したかと思うと振り上げた杖が取り上げられる。さらにバランスを崩したアルフレッドに、民家の影から現れた黒衣の男が体当たりをしてきた。

 

「うおおおおぉぉぉ!!」

 

 弾き飛ばされたアルフレッドはフローラを手放し、彼女は黒衣の男に抱きとめられる。衝撃で仮面が外れ、見覚えのある旅人の顔が夜闇に浮かび上がった。

 

「お前、イーサン……!」

 

 黒衣の男は無表情のままゆっくりと近づいてくる。その姿を見て、アルフレッドは感情を爆発させた。

 

「よくも、僕を嵌めたな! 報復のつもりか。そんなにフローラと結ばれたいか!? 汚らわしい魔物使いの分際で! 僕は、お前を……僕は! この街のためになることをしただけだ! 何が悪い!! こんなのお前のエゴで――」

 

 イーサンの渾身の拳がアルフレッドの顔面にめり込み、彼の言葉、そして意識は遮られる。

 

「そんなことはどうでもいい」

 

 コミカルさすら感じる軌道で宙を舞ったアルフレッドは石畳に叩き付けられ、痙攣をしつつも動かなくなった。

 

「これはお前がビアンカを殴った分だ」

 

 

 

 悪逆の男が痛快な一撃に沈むさまを、父娘はあっけにとられ眺めていた。

 イーサンが振り返る。その顔を見たフローラは一気に緊張が解け、胸に込み上げる気持ちを抑えてその場にへたり込んだ。

 

「やっぱり……貴方だったんですね、イーサンさん」

「うん……。怖がらせてごめん」

 

 彼は片膝をつくビアンカに駆け寄り、肩を支えた。

 

「無茶しやがってこの馬鹿。だから俺は反対したんだ」

「えへへ……でも面白いくらい思い通りに誘導できたわ。名女優ビアンカって呼んでくれてもいいのよ?」

「……本当、君には敵わないな」

 

 イーサンが口笛を吹くと、物陰からぞろぞろと魔物が集まってきた。この作戦を影でサポートした、彼の仲間たちである。

 

「……ルドマンさん」

「な、なんだね」

 

 戸惑いを隠しきれないルドマン氏に、イーサンは手を上げて敵意がないことを示す。

 

「この騒動は、すべて俺が起こしたことです。ただ俺は真実を知ってほしかった。あなたと、フローラさんに」

「……」

「お父様……」

 

 フローラが不安そうに父の顔を見上げる。

 

「……わかった。だがここではなんだ。屋敷で話を聞かせてもらおう。ひとまずけが人をふたり、運ぶのを手伝ってくれるかね?」

 

 イーサンはビアンカと顔を見合わせる。そして、静かに頷いた。

 

 

  *  *

 

 

 日付はとっくに変わっていた。イーサンたちは馬車番をしていたマービンとも合流し、ルドマン邸の広間に集まっていた。テーブルの向こうにルドマン氏とフローラが座り、少し離れた別の机では眠りから覚めたメイドが椅子に座るビアンカの手当をしている。アルフレッドはとりあえず厳重な個室に運び込まれたようだ。

 

「アルフレッド君の父上殿は私の古い友人だ。だが、少し前から体を壊していてな、今回の件には関わっていないと踏んでいる。いや、私がそうだと信じたいだけだな……。まったく、歳を取ると先入観に逆らえなくなってしまう。いかんな、これでは君を追い出した時と何も変わらぬ。……すまなかった」

 

 ルドマン氏は立ち上がり、深々と頭を下げた。

 

「いえ、顔を上げてください。俺だって、魔物使いであることを隠していたわけですし」

「君の後ろで心配そうに待っている彼らを見れば、邪悪な魔物などとはとても思えぬよ。それも私の偏見と先入観だ。どうか許してくれ。そして……。娘を、このルドマン家を守ってくれて感謝する」

 

 フローラも追って頭を下げた。

 

「……俺から話せるのは以上です。というより、先ほどアルフレッドが喋ったことが全てです。それ以上はありません。何度も言うように俺はただ……あいつの手からフローラさんを守りたかっただけなんです」

 

 蒼い髪の娘はほんのりと顔を赤らめた。

 

 消毒の痛みを我慢しながらその様子を眺めていたビアンカは、なんだ、脈アリなんじゃない? と思った。これで晴れて、イーサンが彼女と結ばれる。めでたいことだ。そう思った。右手で三つ編みをくるくるしながらぼんやりと考える。――いいの、私も“悔いのないように生きる”って言ったわけだし。これが私の選択なのよ。

 

 イーサンが懐から何かを取り出す。それは一対の指輪だ。正真正銘本物の、花婿候補としての試練の証が彼の手に握られていた。ビアンカの見立て通りイーサンの信用は回復しきったと見ていいだろう。彼が改めてプロポーズをし、作戦は真の意味で完遂するのだ。

 

()()()()()()()()

 

 しかし彼の口から出てきた意外すぎる一言に、ビアンカの思考は真っ白になった。

 

「南の火山と北の湖で手に入れた、本物のリングです。魔法に詳しい人に見てもらえればわかると思いますが、それぞれ対応する属性の効果を打ち消す加護が付いています。決して、作り物ではありません」

 

 驚愕の表情を浮かべるルドマン氏の手のひらに、幻のリングが握らされる。

 

「割ってしまった窓。あとサラザール邸の窓も弁償できるゴールドは、俺は持っていませんので……。数々の無礼も含めて、これでお詫びとさせていただきます。それから……」

 

 フローラを一瞥すると、ぱちぱちと目を瞬かせる彼女と目が合う。

 

「フローラさんには、是非自由な恋をさせてあげてください。今回の件があったからというわけではなく……。領主の娘さんとなれば世間の目もあるでしょうが、それでも、フローラさん自身が、良いと思った方と結婚するのが一番だと思います」

 

 そう言うと、それが別れのあいさつの代わりとでも言うようにイーサンは踵を返す。その姿を見て、ビアンカの心は大きく跳ねた。

 

「――待ちなさいよ!!」

 

 思わず立ち上がる。体のあちこちが痛むのもお構いなしに、目の前の男へ掴みかかった。

 

「何考えてるのばか!! ここまで来てのこのこ帰るつもり!?」

「いいんだビアンカ。俺は――」

「よくないっ!!」

 

 イーサンを突き飛ばし、ルドマン氏とフローラの方を向き直る。

 

「もういい、私が全部言うわ」

「ビアンカ――!」

「ルドマンさん!!」

「は、はい!?」

 

 あまりの剣幕に、父娘は姿勢を正した。イーサンの手を振り払い、彼女はずかずかと歩み寄る。

 

「いいですか。こいつは能天気でばかでヘタレだけど、本気で、もう本っ気でフローラさんを想っています! そのために、フローラさんと結ばれるために! ひどい仕打ちにも耐えてばか正直にリングを集めて、無茶な方法でアナタたちを守ったんです!!」

 

 イーサンが頭を抱え、フローラの目は見開かれた。

 

「でもこいつはばかだから! どうせ自分が旅人で魔物使いだからってカッコつけて、告白する勇気も放り投げて帰ろうとしただけなんです! だからさっきのは聞かなかったことにしてください! こいつは筋金入りのばかで、でも……すごく、いい奴なんです……!」

 

 ビアンカが頭を下げた。

 広間がしんと静まり返る。イーサンはバツが悪そうに視線を落とし、フローラは首のあたりが熱くなっているのを感じていた。他の者はあっけにとられ、口をぽかんと開けていた。

 静寂を破り、優しく語り出したのはルドマンだった。

 

「お嬢さん、顔を上げなさい。貴女のおかげで、私もやるべきことがようやく見えた。……イーサン君」

「は、はい」

「身を引こうとする君の気持ち、葛藤。責任の一端はやはり私にあるのだろう。改めて謝罪させてくれ。そして……私の方からお願いさせてほしい。娘に、フローラに自由な恋をしてほしいというのが君の想いであるならば――」

 

 ルドマンは娘を見やる。彼女の想いは、つい数時間前に目の当たりにしたばかりだ。

 

「どうか、フローラと結婚してほしい」

「え、ええっ!」

「お父様!?」

 

 悲鳴に近い声を上げるふたり。ビアンカも思わず顔を上げる。

 

「フローラはずっと、私が君を追い出したことに心を痛めていた。この子が私にあそこまで反抗したのは初めてだ。私の勘違いでなければ彼女の想いは……本物なのだ。そうだろう、フローラ?」

「あ、う……」

 

 フローラは視線を泳がせていたが、ぴたり、イーサンと目が合ったところでその視線を停める。

 

「……はい。イーサンさんを、お、お……お慕い、申し上げております……」

「……!?」

 

 硬直するイーサン。こちらにはビアンカが言葉を促す。

 

「ほらっ」

「う、うん。……どうか、どうかこんな俺で良ければ、ですけど……」

「うむ……! 大歓迎である、イーサン君!!」

「……!!」

 

 イーサンの表情が歓喜に緩んでいく。魔物使いとしてずっと日陰を歩いてきた彼が、多くの支えを得ながらも、父娘の心を動かした瞬間である。

 感極まり言葉を失うイーサンの肩に、ビアンカはそっと手を置いた。

 

「……いい? 『こんな俺』なんてどこにもいないのよ。今私の目の前にいるのは、逆境も乗り越えて愛する人を救った勇敢な旅人。キミはね、もっと自信を持っていいの」

 

 

 

 満足げに笑みを浮かべる父の横で、フローラは彼女のその表情を見た。

 たった今想いが通じ合った男性。彼の横にいる、恐らく彼の協力者であろう女性。フローラは彼女にも感謝していた。イーサンがここに辿り着くために、体を張ってその道を支えた彼女に敬意さえ表していた。

 

 彼女がイーサンを励まし、焚きつける。その表情を見てフローラは悟ってしまった。自分たちのキューピッドとも言える彼女の、胸に秘めた想い。

 

 フローラは、想い人と理不尽に引き裂かれる苦しみを知っていた。それはついさっきまで自分を苛んでいたものだ。きっと“彼女”も、もうすぐその苦しみを知るだろう。

 

 

 

「――待ってください!」

 

 

 

 そう思ったら、口が勝手に動いてしまった。

 

 

 

 

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