蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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 3章突入! 読んでいただける皆様のお陰でここまでモチベが保てました。
 いつもありがとうございます。
 イチゴころころです。こんばんは。

 ようやくフローラとの冒険が幕を開けますぞ~。
 
 口から砂糖出そうになりながら書きました。
 たぶん3章全般で、いちゃいちゃ注意!




第3章 箱入り娘の冒険
3-1. 箱入り娘の決意


 

 

 窓から差し込む日差しが瞼をくすぐった。

 目を開けると豪奢なシャンデリアが静かにたたずんでいるのが目に入る。夢うつつの状態から、ゆっくりと意識が覚醒していった。

 

 イーサンはサラボナの南街区、川辺にあるルドマン家の別荘にいた。寝室にある巨大なベッド、優しい手触りの布団と毛布に囲まれて目が覚めた。……どうやってここに来たのか、心当たりはまるでなかったが。

 

 ふと、右腕が柔らかいぬくもりに縛られて動かないことに気付く。そちらに頭を傾けると、綺麗な蒼い髪が目と鼻の先にあった。フローラだ。彼女は両腕でイーサンの右腕をがっちりとホールドし、彼の肩に顔をうずめる形ですやすやと眠っていた。思った以上に近い距離にいたので、イーサンは思わずどきりとする。彼女の呼吸に合わせて二の腕が圧迫され、微かに心音も感じられた。一束の髪が顔の前に垂れ下がり、彼女の鼻から下を隠していた。

 

「……」

 

 イーサンは動かせる左手で、フローラの顔を隠している髪をそっとどけた。

 

「ん……?」

 

 ふわり、と彼女の目が開く。眠そうに半分だけ開かれた両目は虚空を見つめ、しばらくしてイーサンの視線を捉えた。

 

「ごめん。起こしちゃったね」

「いえ……、だいじょうぶです……。おはようございます……」

 

 意識の大部分はまだ夢の中にいるのか、フローラは頭をゆらゆらと揺らしながら両腕を組みなおした。

 

「えっと……」

「ごめんなさい……。わたくし、もうすこしだけ、ねさせていただきた、い……あら?」

 

 さらに両足までイーサンの腕に絡ませたところで、ようやく違和感に気付いたらしい。フローラは頭をもたげ、たった今自分が抱きしめているものを数秒間、確認した。

 

 

 

――きゃああぁあぁあぁ~~~~~~~~っっ!!

 

 

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! わたくしったら何てはしたないことを!! あ、あの! 昔からの癖で、寝相、あまりよろしくなくて、えっと、えっと! え、あ、あぁ!?」

 

 フローラはぱたぱたと手を動かしながらベッドの隅まで後退し、そのままベッドから落下していった。

 

「フローラ!? フローラ落ち着いて!!」

 

 急いで彼女を救出する。再びベッドに上がる頃には、フローラもいくらか落ち着きを取り戻したみたいだ。

 

「は、恥ずかしいです……。もうお嫁に行けませんわ……」

「いやいや、行かなくていいよ」

「……?」

「だってもう嫁でしょ?」

「あ……」

 

 彼女の頬がほのかに色づいた。それを見て、イーサンも少しだけ恥ずかしさを感じる。

 

「おはよう。……フローラ」

 

 

  *  *

 

 

 昨日、『カジノ船』での結婚式を華々しく終えたイーサンは、参列者をそれぞれ街に送り届けるためにその日2回目のルーラピストン運動をし、魔力も枯れてへとへとになりながらもサラボナに帰還した。そしたらルドマン邸では宴という名の二次会が待っていたのだ。興奮も冷めやらぬまま酒を入れ、妻となったフローラと杯を交わしながらひたすらに語り合い……。

 そこから先の記憶はない。記憶はないが、なんとなく推測できる。

 

「もう太陽もあんなに高い……お昼くらいか、結構寝ちゃったなあ」

「昨日あんなに飲むからです。たくさん動いてお疲れだったでしょうに。お若いのに無理は禁物ですよ?」

 

「そうそう、フローラって年上だったんだよね。昨日知って本当にびっくりした」

「うふふ、そうですわよ?実はわたくし、イーサンさんよりふたつもお姉さんなのです。でもこの際関係ありませんわ。だってわたくしたち……ふ、夫婦っ、なのですから」

 

 自分で言って恥ずかしくなったのか、フローラは毛布の束を抱えながら顔をそむけた。ふたりとも意識は完全に覚醒していたが、久しぶりのゆったりとした時間に異様なほど心地が良くなり、ベッドから起き上がれずにいる。

 

「俺、ここに来た記憶がないんだけど、宴の後どうなったか覚えてる?」

「えっと、わたくしもくたくたでしたからそこまで覚えてはいないのですが……。この別荘に来るときはもう、東の空が白くなっていましたわ」

「とんでもないこと聞いちまった。お酒の力ってすごいな」

「お父様がおっしゃるには、今日1日はゆっくり休んでいて良いそうですわ。式の後始末や片付け、イーサンさんのお仲間さんのお世話などはお父様たちが済ませてくれるそうです」

「すっごく申し訳ないけど、ありがたい。俺もうこのベッドから出られないもん」

「うふふ、そうですわね。せっかく頂いた機会ですし。ふたりでゆっくり過ごしましょう?」

 

 それからふたりはとりとめもない話をしながらゆらゆらとベッドの上を転がった。なにぶんイーサンのサラボナ侵入からプロポーズ、結婚式まで本当に休みなしで駆け抜けてきたのだ。フローラにも恋の病に苛まれていた時期があり、ふたりしてかなりの長期間、張り詰めた日々を送ったことになる。この1日だけ糸の切れた人形のような時間を過ごしてもバチは当たるまい。

 

「フロー……ラっ!? ちょっ、フローラ服! 服!」

 

 ふと、彼女の肌着がはだけているのに気づいてイーサンは焦る。……ごろごろと転がっていたら当然といえば当然だ。彼女もあわてて乱れを直す。

 

「ていうか冷静に考えておかしくない? お互いなんでこんなにぺらっぺらなの!?」

 

 今まで毛布を被っていたせいもあり気付かなかったが、フローラは薄手のネグリジェ1枚、イーサンもふわふわしたガウン1枚という情熱的な格好をしていた。これでは『ゆうべはお楽しみでしたね』とか言われても文句言えない。

 

「え、い、い、良いのではないでしょうか。ふ、夫婦、ですし?」

「夫婦って言えばなんでも良いとか思ってるよね?」

「そ、そんなことないです。確かにこの格好は恥ずかしい、ですけど。でも、その、イーサンさんだったら……」

「え!? ちょ、だ、大胆だな。意外と……」

「嫌、ですか……?」

「嫌じゃないよむしろ好きだ! でも目のやり場に困るからこれ羽織ってこれ!」

 

 傍から見たら爆発呪文でもぶつけられそうなほどのイチャイチャっぷりだが、当の本人たちが無限に幸せそうな上にここには誰もいない。結局彼らは日没までこんな調子で、たった1日の束の間の休息を最後まで満喫した。

 

 

 

「……ねえ、イーサンさん。わたくしやっぱり、貴方の旅のお手伝いがしたいです」

 

 備え付けの食料で夕食を取り、いよいよ明日に備えて寝ようとしたところで、フローラがそんなことを言ってきた。

 

「昨日聞いて、初めて知りました。貴方が旅をする理由……。お母さまを、探し出すためなのですよね。きっとあの日、船の上で初めて会ったときから、ずっと……」

「うん。そのときの記憶はほとんどないけど、俺は小さいころから父さんに連れられて旅をしていた。それは全部、母さんを見つけて邪悪な手から救い出すためだ」

 

 昨日、宴の席でイーサンは全てを打ち明けた。幼少期の冒険、奴隷としての生活。誰かにこういった身の上話をするのは慣れているので、酔いながらもまとまった話ができたと思う。騒がしい宴会のなかでも、フローラは真摯に耳を傾けてくれていた。

 

「貴方は明日にでも旅に出るのですよね。……貴方が命を懸けて旅を続けるというのに、わたくしだけ家で待っているなんて、嫌なのです」

 

 フローラは体を起こし、真っ直ぐにイーサンを見つめてきた。

 

「足手まといなのは重々承知ですわ。でもわたくし、頑張ります。旅の仕方、身の守り方、戦い方……全部覚えます。わがままも言いません。どんなに過酷な道でも、我慢します。いえ、我慢できます、貴方となら……!」

 

 イーサンも無意識に体を起こしていた。フローラが手を取り、きゅっと握りしめてくる。

 

「どうかわたくしも、貴方の旅に連れていってください……!」

 

 目を瞑る彼女の顔をしばらく見つめ、短い溜息をつきながらその手を優しく握り返した。……お願いされるまでもないことだ。

 

「言っただろ、『ずっと一緒にいたい』って。君とは会ったばかりで、ろくに話したこともなかった。でもだからこそ夫婦として、残りの旅路、人生を共に立って歩きたいって思ったんだ。――ありがとう、是非、付いてきてほしい」

 

 フローラの顔がぱあっと明るくなる。

 

「ほんとうに!? わあ、ありがとうイーサンさん! わたくし、きっと良い妻になりますわ!」

「でも、あれだね。真に説得するべき相手ってきっと……」

 

 イーサンが目を逸らすと、彼女も困ったように肩をすくめた。

 

「ええ。お父様、ですね……」

 

 

  *  *

 

 

 翌日。ルドマン邸を訪れたふたりの提案に、彼女の父親は案の定難色を示していた。

 

「フローラ。旅というものはそう気軽に付いて行けるものではない。私も若いころは……」

「承知しております、お父様。幼いころ、お父様は旅のお話を何度も語って聞かせてくれたではありませんか」

「だがそれで分かった気になってもらっては困るのだ」

「そのようなつもりはございません。自分が若輩者であることは理解しております。だからこそ、夫である彼に支えていただき、わたくしなりに成長していけたらと思っているのですわ」

「イーサン君の旅は彼のものだ。生半可な覚悟で足を引っ張ってしまうのは……」

「ですから、足を引っ張ってしまわないようわたくしも研鑽を……」

「だが――」

「でも――」

 

 その親子喧嘩二歩手前くらいの迫力のある言い合いに、イーサンは口をはさむこともできずに部屋の隅で震えていた。

 

「そこまで言うのなら覚悟を示してもらおう!」

「望むところですわ!」

 

 そして知らない間に話がすごい方向に向かっていた。

 

「え、ちょっと待ってください。どういうことですか?」

 

 ルドマン氏は咳ばらいをし、イーサンに向き直る。

 

「実は、イーサン君に少し頼まれてほしいことがあってね。北の湖のほとりに我がルドマン家の私有地があるのだが、そこの様子を見てきてほしいのだ」

「見てくる……といいますと?」

「私有地と言っても小さな祠だ。その奥にとあるツボが祀られているのだが、それが割れていたり、盗まれていたり……要は異常がないかを確認してほしい」

「ああ、なるほど……?」

「なに、歴戦の旅人である君にとっては何てことない依頼だろうて。だが、それに娘も同行させてやってほしい」

 

 彼の背後で、フローラが大きく目を見開く。

 

「そうだな……うむ。そのツボには魔力が込められていて、淡く光を帯びている。それが何色だったかを報告するのだ。それを課題とする。旅のあれこれを学ぶにはおあつらえ向きな行程だろう。イーサン君、彼女に手取り足取り教えてやってくれ。……もちろん、彼女がこの先の旅に『ついて行けないだろう』と判断した場合は正直に教えること。これはフローラの力と覚悟を示す試練でもあるのだ。いいね?」

「……わかりました」

「や、やった! 良いのですね! ありがとう、お父様!」

「喜ぶのは早いぞフローラ。まだ旅立ちを許したわけではないのだからな」

「もちろんです! きっと成し遂げてみせますわ! ではイーサンさん、早速身支度をしてまいりますね!」

 

 フローラは弾む足取りで廊下に飛び出していった。まだ一緒に旅に出れると決まったわけではないが、よほど嬉しかったのだろう。

 

「……こうやって子は成長していくのだな。君と出会ってからフローラは、よくこの父に反抗するようになった」

「あ、あはは……。でも意外です。条件付きとはいえ、存外あっさり許してくれましたね?」

「子は親元を離れていくものだ。かつての私もそうだった」

「……彼女は俺が必ず守ります。どんなに危険なことがあっても」

「うむ、夫として当然だ。だが守るだけではいけない。真にフローラのことを想うのなら、一方通行の夫婦になってはいけないよ?」

「……?」

 

 その言葉にイーサンは首を傾げた。夫としてももちろんだが、そもそも旅人としての経験値もある。フローラを守ることはいけないことではないはずだが?

 

「それに、今回の試練は是非厳しくお願いしたい。先ほども言ったが、彼女がこの先同行するのは無理があると思ったのなら、潔く諦めなさい。君たちふたりのためだ」

「……はい。わかっています」

「お待たせしましたわ! 行きましょう、イーサンさん!」

 

 イーサンが固く約束したのと同時に、フローラが戻ってきた。

 

「……え?」

「……む?」

 

 彼女は冬場の病人だったとしてもでもやりすぎな程に重ね着をし、雪男ばりのシルエットでよちよちと歩いてきた。右手にはモップ。左手には紅茶などを置くトレイが握られている。

 

「準備は万全です。魔物の大群もどーんと来いですわ!」

「うん、すごいね。置いてこようか」

「えぇっ!? でも、これなら非力なわたくしでも戦闘が――」

「置いてこようか」

「これだけ着込めば身の守りも安心ですのよ……?」

「旅装は街で見繕うよ。置いてこようか」

 

 フローラは肩を落とし、よちよちと自室に戻っていった。

 

「……ルドマンさん」

「なんだね」

「あなたの娘さん、めちゃくちゃ可愛いです」

「知ってる」

 

 

 

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