蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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 イチゴころころです。
 2話目で言うことではないかもしれませんが、ここまで読んでくださってありがとうございます。

 所謂「少年時代」を省略してスタートしたこの物語ですが、私も少年時代はめちゃくちゃ好きなのでいずれ回想という形でちゃんと書きたいなと思っています。

 幼ビアンカもベラもかぁいいんだ……。



 それでは本編どうぞ。いざ旅立たん。


1-1. 新たな旅立ち

 

 潮の匂いがした。

 心地よい風を感じられた。

 波の音はあまり好きではなかった。

 

 父を探して彷徨っていたら客室への戻り方がわからなくなってしまった。半べそをかきながらタルの間にうずくまる。(へり)まで歩けば海が見られるらしいが、幼心は海というものをひたすらに恐怖していたので、手すりに近づく気も起こらない。

 

――だいじょうぶ?

 

 顔を上げると綺麗な顔があった。微笑ましいほど率直だが、本当にそう思ったのだ、幼いなりの語彙力で、綺麗だな、と。

 

――うん、だいじょうぶ

 

 不思議なもので、綺麗なものを目の当たりにすると人の気持ちは明るくなるのだ。風になびく髪。よかったです、と緩む口元――。立ち上がって一緒に歩いた。どんな話をしたんだっけ? ただひとつだけ確かなのは、一緒に船内を歩いた時間は、苦手な波の音も忘れてしまうくらい、きらきらと心の奥を刺激するものだったということ。

 

 あのときの感覚は、そうだ――。

 

 

  *  *

 

 

 目が覚めた。記憶がぐしゃぐしゃと音を立てて整理されていく。暗闇の中でヘンリーとマリアと手を繋いだのが最後の記憶だ。

 どうやら夢を見ていたらしい。

 

「よかった、目が覚めましたね!」

 

 隣にはシスター姿の女性。一瞬夢の中の女の子と重なるが、気のせいだった。知らない女性だ。

 よく見ると状況がおかしい。ここは綺麗に整頓された部屋だし、知らないシスターさんが枕元にいるし、枕といえば今横になっているのはベッドの上だ。

 

「3日も目を覚まさないので心配しました」

 

「ここは……」

 

「名もなき海辺の修道院でございます。さあ、おなかが空いているでしょう? 温かいスープを用意しております」

 

 すうぷ? と首をかしげる。イーサンはまた記憶を失くしてしまったかと思ったが、そうではない。

 

「さあ、こちらをどうぞ。質素ではございますが……」

 

「わあ、わあああああああっ!」

 

 洞穴での食事には、温かいスープなどという素敵なメニューは無かったのだ。

 

 

  *  *

 

 

 地図でいうと、ここはラインハット王国の遥か南に位置するらしい。イーサンたち3人はこの修道院の近くの浜辺に運よく打ち上げられ、保護されたみたいだ。

 

「あなた様の服はボロボロでしたので、その、わたしが着替えさせていただきました」

 

 ぽっ、と顔を赤らめるシスターさんを見て急激に恥ずかしくなり、イーサンはリハビリも兼ねて部屋を出させてもらった。

 

「よう相棒」

 

「ヘンリー、無事だったのか……」

 

「それはこっちのセリフだ。全然起きないから、死んだかと思ったぞ」

 

 そう言うヘンリーもつい昨日、目が覚めたばかりのようだった。

 

「マリアは?」

 

「俺たちの誰よりもはやく目覚めたみたいだぜ」

 

 イーサンは安堵する。

 

「ふう……無事みたいで良かったよ」

 

「いや、まあ無事っちゃあ無事だけどなぁ……」

 

 言葉を濁すヘンリーに訝しんでいると、廊下の先からマリアが姿を見せた。

 車いすに乗って、シスターさんに押されている姿を。

 

「マリア……!?」

 

「イーサンさん! 良かった、目が覚めたんですね……!」

 

「ああ、ああ。でもマリア、それ……!」

 

「あ、大丈夫です!海に落ちた時、足を痛めてしまったみたいで……。でも大丈夫。この通り、生きているんですもの」

 

 よかった。と、イーサンは胸を撫で下ろす。またこの3人で会えたことが、何よりも嬉しかった。

 

「まあ」

 

とヘンリーが切り出した。

 

「色々と考えなきゃならないことはあるけど、せっかく全員で生き延びられたんだ。とりあえず、今日ばかりはゆっくりしようぜ?」

 

 

  *  *

 

 

 その日は、3人で夜まで語り明かした。奴隷時代はその日その日を生き延びるのに精いっぱいだったし、各々の抱えているものの重さ、極めつけにイーサンの記憶喪失もあったので、奴隷になる以前の話題が出る機会がなかったのだ。そして当然、物心ついた時から父と冒険しているイーサンの話が、最も盛り上がる話題となった。

 

「だからか! 俺覚えてるもん、確かにあの時期は冬がえらく長く感じた!じゃああれか、春がばっちり訪れたのはイーサンがそのフルートを取り返したからだってのかよ!」

 

「まあ、そうなるかな」

 

「とんでもない話だな! 軽く世界を救ったようなものじゃないか!」

 

「素敵です。私も一度、妖精の世界へ行ってみたいわ」

 

「まだ終わりじゃないよマリア。そのあと俺は父さんに連れられてラインハット王国に行くんだけど、そこで出会ったのがこの」

 

 肘でヘンリーをどつく。

 

「クソ生意気な王子様ってわけ」

 

「お前こそクソ不敬な庶民だったろうが。俺の対応次第じゃ1分と持たず極刑だったぜ」

 

「ちょ、ちょっと待って。ヘンリーさんって本当の……王子様、なのですか」

 

 マリアの問いに、少しの間が空く。

 

「こういう身の上話今までしてこなかったけど、そうだよ。ヘンリーは誇り高きラインハット王国の第……四、くらい?」

 

「わざと間違えたろ。第一王子だ阿呆」

 

「えええええええええええ!?」

 

 マリアは危うく車いすから落ちそうになり、何とか態勢を整えたと思ったら今度は深々と頭を下げた。

 

「そんな大層なご身分とは露知らず、今までとんだご無礼をば……」

 

「待って待って待ってくれマリア! どうせお互い奴隷だったんだ、今更身分とかそういうの? 言いっこなしにしようぜ?」

 

「良いのですか……?」

 

「今まで通り接してくれ。こっちで馬鹿笑いしてるこの野郎の方が何倍も無礼なんだしな」

 

「んー……なら、そうさせていただきます……。ありがとう、ヘンリーさん」

 

「お、おうよ」

 

「それで、イーサンさん、ふたりが出会って、その後は?」

 

 イーサンは言葉に詰まってしまった。口の中が、少し乾いている。

 

「ヘンリーが……連れ去られて、その、父さんが……」

 

「あ、ごめんなさい。私、余計なことを……」

 

「いいんだ、マリア。話させてくれ。ヘンリーも、いいよな」

 

 ヘンリーの顔からも血の気が引いていた。だが、彼は黙って促した。

 

 

  *  *

 

 

「……そうして、俺たちは奴隷になったってわけだ」

 

 イーサンが話を締めると、その場は案の定重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

「イーサン、その、お前の父上のことは」

 

「いいんだよ、ヘンリー」

 

「良くない。俺があの日、ふざけて城を抜け出したりしなければお前の父上も、お前も……」

 

「悪いのは、人さらいの連中と、あの男……」

 

 忘れもしない、イーサンたちを人質にとり父を嬲り殺しにした……、

 

「ゲマ、なんだ」

 

「……」

 

「ゲマ……。私、たぶん一度だけ、会ったことがあります」

 

 そう切り出したのはマリアだ。

 

「今度は、私がお話しする番ですね。おふたりも気になっているかと思います。私たち兄妹と、あの教団の関係を」

 

 マリアは辺境の名もなき村の出身で、親のいない孤児だったらしい。人口の少ないその村には子供がおらず、兄のヨシュアが唯一の遊び相手だったそうだ。

 

「10年ほど前、村が魔物に襲われて……。大人たちは皆魔物の餌食になったんです……」

 

「生き残れたんだね。マリアと、ヨシュアさんは……」

 

「ええ。兄さんが必死に私の手を引いてくれて」

 

「奇跡、だな……」

 

 すべてを失った兄妹の前に現れたのが、ゴンズと名乗る宣教師。教団の教えを受け入れ信者になれば、組織の保護のもと安定した暮らしを提供すると提案してくれたそうだ。当然、行く当てのないふたりは受け入れるしかなかった。

 

「実際、その後はとても豊かな毎日を送りました。とても大きな山……おそらくは私たちが働かされていたあの山だと思いますが、その麓に小さな施設があって、そこで教団の教えに従いながら他の信者たちと平穏に暮らしていました」

 

 ここまで聞いた限りでは、この教団が奴隷を無理やり働かせるような連中には思えない。

 

「些細なことでした。施設で一緒に暮らしていたとある子供が、その時視察に来ていた教団の幹部に粗相をしてしまったんです。直接現場を見てはいませんが、たぶん食器を割ってしまったとかその程度の事だったと思います。その時の幹部の名前が確か――」

 

「「ゲマ……」」

 

 マリアはゆっくり頷く。

 

「ゲマは特に怒る様子はありませんでした。ただ、その子供をどこかへ連れて行こうとしたのです。嫌な予感がして、とっさにその子を庇いました。教団は幼い私たちに優しく施しを与えてくれた。だからその子に対しても、良からぬことをするなんて思いたくなかったんです。でも、次の瞬間私の意識は途切れて……」

 

 彼女は小さな口をきつく結んで、目を伏せた。そこから先は知っての通り、ということか。

 

「その子供は……?」

 

「わかりません。奴隷たちの中をずっと探しましたが、ついに見つけられず……」

 

「そっか……」

 

「だから私、ふたりに会うまでは本当に辛かったんです。私は何をしているんだろう、私のしたことは兄さんにも迷惑をかけているのだろうか、だとしたら私の人生はなんだったんだろう、って」

 

 聞きながら、イーサンの胸にも刺すような痛みが広がる。自分の人生はなんなのだろうと、自棄になりかけたことは少なくない。いやきっと、あの場にいた奴隷たち、今もあそこで働いている誰もが、思うことなのかもしれない。

 

「何というか」

 

 ヘンリーが口を開く。

 

「俺なんて王族出身で、それまで不自由のない暮らしをしてたから、世間知らずって言うの? 慣れるまではふたりに迷惑かけまくりで。そのことが……ちょっと嫌だなとかしょっちゅう思ってたんだよな。でも俺たちって実は、何気なく過ごしてたつもりでも、お互いの事、支えられてたんだなって」

 

「「……」」

 

「い、言いたかっただけだ。この3人で、良かったって」

 

「……私も、女だからって下に見られたり、その、体を、狙われたりすることも少なくありませんでした……。けど、いつもふたりが守ってくれて」

 

「俺も、記憶を失っていた時期はもちろん、こんなに長い年月、心が折れずにいられたのは間違いなくふたりのお陰だよ。だから、その……」

 

 言葉を探しながら視線を上げると、ふたりと目が合った。ヘンリーもマリアも、ひどく紅潮している。そして自分も、首のあたりが熱くなっていることに気付いた。

 

「あーっと、だからありがとう、とか? 今更すぎるか。あはは……」

 

「……そ、そうだぞイーサン! 照れくさくてやってらんねえだろ!」

 

「ヘンリーが言い出したんじゃないか!」

 

「知らないな!」

 

「ふふっ」

 

 なんであれ、胸にたまっていた重いものを吐き出し合えた。いつだったか奴隷の老人に聞いたことがあるが、解決するしないは別として、悩みは誰かに打ち明けることが大切なのだそうだ。確かにその通りだと、イーサンは思った。

 

 

 就寝前、再び3人はマリアの客室に集合した。

 

「で、これからどうするよ」

 

 晩御飯の時間からずっと、イーサンもそのことを考えていた。

 

「俺は……父さんの最後の言葉が気になる」

 

「お前の母上が、まだ生きているって話か」

 

「うん。もともと俺たちはそのことを目標に親子で旅をしてたんだ。それに母さんを見つけることは父さんとの、約束でもある」

 

「ええ、大事なことだと思います」

 

「教団のことも気にはなるけど、まずはそこからかなって。ふたりは、何か考えてることとかある?」

 

 イーサンが促すと、少しの間の後、ヘンリーが口を開いた。

 

「俺も連れてってくれないか、イーサン」

 

「え、いいのか?」

 

 てっきり彼は故郷に帰るのだと思っていた。ラインハット王国へは、時間はかかるだろうがここからでも陸路で目指せる。

 

「ちょっと今は、ラインハットに戻りたいとは思えなくてな……。それに、俺はお前の父上に、パパスどのに命を救われたんだ。だから息子のお前に少しでも、力を貸したい……!」

 

 その眼差しは力強く、イーサンを納得させるのに十分だった。

 

「正直、すごく心強いよ。よろしく頼む」

 

「おう」

 

「それじゃあ、マリアは?」

 

「わ、私は……」

 

 マリアは車いすの手すりをきゅっと握りしめた。それから、意を決して言葉を絞り出す。

 

「私も、旅のお供を、したい……。その気持ちはあります。で、でも――」

 

「まあ、そうだよね」

 

「えっ」

 

「なあヘンリー。もう数日ここに厄介になっても大丈夫そうかな」

 

「ああ大丈夫だろう。明日俺から頼んどく」

 

 マリアにとっては意外な返答だった。

 

「ま、待って! いけないわ! だって私、足が……」

 

「うん。だから、ケガが治ってから出発する」

 

「さすがに車いすに乗ったままなんてコクだもんなあ」

 

「でも、イーサンさんは一刻も早く……」

 

「マリア」

 

 ヘンリーは彼女の手を握りしめた。

 

「俺たちは、託されたんだ。妹を頼むと。……お前の兄上で、俺たちの恩人でもある人に。ここでお前を置いていくなんてウソだろ。なあ、イーサン」

 

「うん、もちろんだ。マリアが快復するまで俺たちもゆっくりさせてもらおう。ふかふかのベッドと温かいスープも、もうちょっと堪能しておきたいしね」

 

 でも……、とマリアは口ごもる。

 

「とにかく、今日はみんなと話せて良かった。そろそろ寝よう。シスターさんたちに怒られちゃうからな」

 

 そこで解散となり。イーサンとヘンリーは男性用の客室に戻っていった。

 

「……」

 

 ひとり残されたマリアは毛布の上から自分の足をさする。それからあることを思いつき、静かに決意した。

 

 

  *  *

 

 

「おはようございます。イーサンさま、ヘンリーさま」

 

「「……えっ?」」

 

 翌朝、車いすに座るマリアはシスター姿でふたりを出迎えた。

 

「ここのシスター様にお願いして、修道女として修業をさせてもらうことになりました」

 

「「えええええええええ!!」」

 

 マリアがにこりと笑うと、被り物から覗く金髪がいたずらっぽく揺れた。

 

 

 

 老シスターが言うには、旅人を何泊もさせられるほどの余裕がここにはないのだという。

 

「そういうわけで、私がここのシスターになることで手を打ってくださったんです」

 

「申し訳ございませぬ旅の方。わたくしどもの力が及ばないばかりに……」

 

「い、いやいやとんでもない! 色々とお世話していただきましたし……」

 

「てか、マリアはそれで大丈夫なのかよ」

 

「私のためにふたりが足止めされるのもどうかと思っていましたし。それに、旅に出たところで魔物との戦いは私には務まらないでしょう……。だから私は、この場所からみなさんを支えようって思ったのです」

 

「この場所から、って?」

 

「旅の方はあまり存じ上げぬと思いますが、我々は日々、神に祈りを捧げております。それはこの世の生きとし生けるものすべての旅の安全を祈るものなのです。神は人生を永い旅のようなものと考え、すべての旅人に加護を与えてくださるのでございます」

 

 老シスターの話は難しい言葉がやや多かったが、言いたいことはなんとなくわかった。

 

「私、ふたりの無事を毎日ここから祈るわ。ヘタに旅のお供をするより、こちらの方が役に立てると思って。施設にいた頃もお祈りの時間はあったし、多少は慣れているから上手くやっていけると思います。このお洋服も、結構似合うでしょう?」

 

「なるほど、なあ」

 

 イーサンはヨシュアとの約束を気にしていた。だがマリアが幸せに生きることを望んでいたヨシュアに対し、彼女を旅に連れ出すのも違うと思った。旅は決して楽なものではないとイーサンは知っている。マリアに居場所が見つかったのは、喜ぶべきことなのではないか。

 

「うん。わかった。マリアの気持ちに甘えさせてもらおうかな」

 

「イーサンさま……」

 

「その呼び方は勘弁だけどね……」

 

「ふふっ。ごめんなさい、イーサンさんっ」

 

「じゃあヘンリー」

 

「おう」

 

「早速、出発の準備だ」

 

 

  *  *

 

 

 旅の準備は、思った以上にあっさりと済ませられた。なにぶん数日前まで奴隷だったイーサンたちには持ち物などひとつもなかったからだ。

 

 最低限の旅装、資金に加え、簡単な武器まで修道院が用意してくれた。至れり尽くせりだ。もうこの修道院に足を向けて寝れないと、イーサンは苦笑しながら荷造りを進めた。

 太陽が最も高い位置まで昇り、いよいよ出発の時間となる。

 

「なんつうか」

 

「うん?」

 

「緊張、するな」

 

「……そう? 俺はまあ旅慣れてるし緊張なんてぜーんぜん」

 

「嘘つけ」

 

「イーサンさーん、ヘンリーさーん!」

 

 車いすに座ったマリアが入口から声をかけてくれた。シスターさんたちも総出でお見送りをしてくれるようだ。

 

「マリア……。どうか、元気で」

 

「ふふっ。ここまできて湿っぽいのはやめてくださいな。……魔物にボコられて野垂れ死にそうになったらいつでも戻ってきていいんですからね?」

 

「はっ! おい聞いたかよイーサン! どうやら俺たちの汚い言葉遣いがうつっちまったみたいだぜ!」

 

「こりゃあ大変だ。是非ここで更生してもらわないと」

 

 3人は声を上げて笑った。思えば、俺たちはいつもこんな感じで、洞窟の中でも腐らずに生きていたんだと、イーサンはそのことをとても誇らしく思った。

 

「じゃあ」

 

「………ええ!」

 

 ふたりはマリアの笑顔を受け止め、修道院を背に歩き出した。

 

 

 

 入口の扉を閉め、老シスターは車いすの少女に話しかけた。

 

「本当に良かったのかい」

 

 いいのです、と少女は答えた。私が歩けるようになるまであの人たちは絶対に待っていてくれます、と。

 

「でも、そんなのを待っていたら、ふたりともおじいさんになってしまうもの」

 

 そう言うと彼女は()()()()()()()()片足をさする。視界が揺らめき、その手の甲に雫が落ちた。

 

「ほんとは、わた、も、ずっ、いっしょ、に……」

 

 少女の金髪が震え、雫が毛布を濡らしていく。

 

「……つくづく男ってのは勝手な生き物だねえ。女の気持ちを知りもしないで。でも――」

 

 小窓からは、振り向かずに歩く青年たちの後ろ姿が見えた。

 

「良い出会いに恵まれたね、シスター・マリア」

 

「はい…、はいっ……!」

 

 

  *  *

 

 

「なあイーサン」

「なに?」

「マリアのシスター姿さ、その、良くなかったか」

「……急に、何を言い出すかと思ったら――」

「正直に言え正直に」

「良かった。見惚れた」

「だよな」

「うん」

「……」

「………」

「…………あっ」

「……早速だね。俺たちが駆け出しの旅人だと思って寄ってきたのかな」

「まあ間違っちゃいないな」

「一旦ボコられて戻る?」

「うわ、ちょっとアリかなって思っちゃったじゃねえかよ」

「やめよう。さすがに呆れられる」

「……おいイーサン、前見えてるか?」

「かなり危うい。もう、ぐっちゃぐちゃだよ」

「戦えんのかよ」

「ヘンリーこそ、鼻すすりすぎて息切れるとか無しだからな」

「努力はするが、保証はできねえな」

 

 ふたりは上着の袖で目を拭い、武器を構える。

 送り出してくれた親友の想いも、大切に大切に握りしめた。

 

 

 

 

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