蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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 こんばんは。初の1日2話投稿、イチゴころころです。
 4-1.はほぼイントロでしたのでね。

 改めて、新章開幕です。原作ゲームでは船で数分でたどり着くテルパドールへの船旅ですが、なんか色々とやりたいことが浮かんだので章単位で引き延ばしてやりたい放題します。気分はアニオリです。いや普段からアニオリみたいなモンか……。
 と言うことでいつも以上にやりたい放題しますが、楽しんでいただけたら幸いです。




4-2. イーサンの生い立ち

 

 

 酒場の2階テラスからステージを見下ろすと、踊り子のおっぱいが覗けるらしい。

 

 1年前、初めて訪れたポートセルミでその噂を聞きつけ、すぐさま酒場に向かったのを覚えている。確かその時は、テラスの中央に長蛇の列ができていた。どきどきしながら並ぶも、半分も進まないうちにショーが終わってしまい非常に悔しい思いをした。

 

 それからしばらく港町を拠点に聞き込みなどをしていたのだが、ある日酒場でごろつきに絡まれ返り討ちにし、その様子を見てた男に用心棒として雇われ、カボチ村へ向かうことになったのだ。そしてその道中で奇妙な英雄に出会う。……あれから1年も経っているなんて、正直信じられなかった。

 

「……なるほどね、こういうのをむっつりスケベって言うのか」

 

 そして今、1年ぶりに港町を訪れたイーサンは、かつて立つことのできなかった高みからステージを見下ろしている。どうやら最近モーニングショーというのを始めたらしく、朝っぱらからお色気たっぷりのダンスショーを拝めるという世紀末のような状態になっている。街の子供たちの未来が心配である。

 

 ステージ上を華麗に舞う踊り子さんたちを眺めつつ、イーサンは昨日のルドマン邸での会話を思い出した。

 

 

  *  *

 

 

「イーサン君、我が家宝『天空の盾』だ。持って行きなさい」

「え、いいのですか……俺が持って行ってしまって」

「うむ。フローラから聞いた。君は母上を救うために、天空の勇者を探しているのだね」

「あ……ごめんなさい。隠しているつもりはなかったのですが……」

「良いのだ。だが、そういうことならこれは君が持っていた方が良い。それに君はもう私の家族なのだよ? 遠慮はいらん。その『天空の剣』と共に、旅の標となるだろう」

「……ありがとうございます」

「だが気をつけなさい。それは常人には装備することができない」

 

 イーサンは盾の裏側を見た。基本的に、盾の裏側には腕にはめ込むためのバンドが付いている。そのバンドを緩めたり締めたりと調節しながら装備するのが普通だ。そしてこの『天空の盾』にも、立派なバンドが付いているのだが……。

 

「なるほど。腕を通すことができないですね」

 

 それは隙間なくぴっちりと締まっていて、さらにどうやっても緩めることができない。無理やり使おうとしたら普通に手で持つしかなさそうだが、そもそもこの大盾は両手で持つので精一杯になる上にそんなんじゃ戦えたものじゃない。『天空の剣』と同じく、扱えるのは天空の勇者だけということだ。

 

「伝承では、天空の武具はあとふたつ。『兜』と『鎧』があるはずだ。だがいずれも、天空人の血を引く伝説の勇者しか使いこなすことができないそうだ」

「天空の勇者の伝説……。その昔、世界を滅ぼそうとした魔王を、天空人の血を引く勇者が倒したっていう話ですよね?そして、自らの力を4つの武具に宿したとか」

 

 この世界で知らない人はいない有名な伝説だが、意外にも今言ったこと以上のことは知られていない。この1年半ほどの旅で色々な人に聞き込みをしたが、これ以上の情報は得られなかった。

 

「うむ、だが魔王とは何者なのか、そもそも天空人とは何なのか。私にもわからん。なにぶん遥か太古の説話だ。語り継がれるうちに薄れてしまったのだろうな」

「ええ、でも……」

 

 イーサンにはひとつ気になることがあった。父の残した手紙に従い、がむしゃらに天空の勇者を探して旅をしてきたが、そのことにうっすらと違和感を覚えていたのだ。恐らく、サンタローズの洞窟で初めて手紙を読んだときからずっと。

 

「……ルドマンさん。邪悪な手のものってなんなのでしょうか?」

「ふむ?」

「父の手紙に書いてあったのです。俺の母さんは邪悪な手のものに攫われた。それを助けられるのは天空の勇者だけだって。……なんで天空の勇者”だけ”なんでしょうか?それってつまり母さんを攫ったのは、……魔王、ってことになってしまいませんか?」

「……!」

 

 ルドマン氏の顔が強張る。これこそがイーサンの抱いていた疑問。違和感の正体だ。

 

「……伝承では、魔王を倒せるのは天空の勇者だけ。……手紙の内容と一致するな」

 

 魔王。その単語だけは昔から知っていた。それは勇者と同じく架空の存在で、小説に出てくる悪者の親玉くらいの印象しかなかった。だが天空の勇者、それに通じる伝説の武具が実在すると言うことは、魔王の存在も肯定できてしまう。それは世界を滅ぼす邪悪なる王。母マーサは、そんなとんでもないものに攫われていることになる。

 

「そして……そう考えるうちにもうひとつ、疑問が生まれました。……『俺の両親は一体何者なんだろうか』って」

「ふむ。なるほどな……」

「はい。片や伝説の魔王に攫われた母。片や妻を攫った者の正体を知る父。なんで母さんは攫われたのか、父さんは何を知っていたのか。俺には、なにひとつわかっていないんです……」

 

 声が震えていた。自分はもしかしたら、想像もつかないような事件に手を出そうとしているのではないか。

 

「……イーサン君。確か君の父上は、パパスという名だったね」

「ええ。そうですが……?」

 

 そしてルドマン氏の口からは、さらに信じられない言葉が飛び出してきた。

 

 

 

「それはグランバニアの賢王、『パパス王』のことではないのかね?」

 

 

 

「………え?」

「……東の大陸の軍事国家、グランバニアの先代の王の名だ。噂では20年ほど前、謎の失踪を遂げている。イーサン君、話では君は物心ついた時から親子で旅をしていたそうだが……、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 喉の奥が急速に乾いていくのを感じた。必死で記憶を検索する。ビアンカとのお化け退治。その前はサンタローズにいた。洞窟探検をして遊んだ記憶があり、その村に自宅もあった。だから……生まれた場所はサンタローズだ。そう信じて疑ってこなかった。だが、違う。船上の夢は、幼いフローラと初めて出会ったのは、()()()()()()()()()。イーサンは船に乗って、ビスタの港に降り立ったのだ。じゃあ、その船は一体どこから来たのだ?

 

「イーサン君っ!」

 

 めまいで倒れそうになり、ルドマン氏に支えられた。額を押さえると、びっくりするくらい冷たかった。

 

「すまない。混乱させるようなことを言ってしまった……。これはもしもの話だ。たまたま同じ名前だった可能性もある……というか、その可能性の方が高い。だが、君が目的を達成するためには、君の生い立ちも探る必要が出てきてしまったな」

 

 ルドマン氏に肩を支えてもらい、差し出された水を飲む。かなり衝撃的な情報を得たが、お陰でだいぶ落ち着いた。

 

「ええ。でも、気になりますね……そのグランバニアという国。現在はどんな様子なんですか?」

「それがわからんのだ」

 

 彼は困ったように顔をしかめた。

 

「もう何十年も前からのことだ。4大国、いや今は3大国か。国家間の交流は衰退する一方で、私が当主になったころにはもう、ほとんど交流が途絶えていたのだ。交易が盛んな経済国家であるラインハットも、10年ほど前に音沙汰がなくなってしまった。最近は交易が復活しつつあるがね。王族の人たちも君たちの結婚式に快く招待されてくれた」

 

 ヘンリーが政治に復帰してから、ラインハットはじわじわと交流の手を伸ばしつつある。それはイーサンも知っていた。

 

「そもそもなぜ、交流が途絶えてしまったのでしょうか」

「交流の必要がなくなったからだ。それぞれ独自の文化が発展し、経済も成長し、国家間でわざわざ手を取り合わなくても不自由なく暮らせるようになった。平和と言えば聞こえはいいが、そうやって誰もが、自分の殻に閉じこもっていったのだ。サラボナと、この私を含めてな」

 

 街を追い出されるときに感じた排他的な雰囲気。それはここに限ったものではないのかもしれないと、イーサンは思った。

 

「だから東の大陸の現状も、グランバニア王国の現在も、私にはわからない。すまないね、肝心なことに答えられなくて」

「いえいえ、十分です。何はともあれ、今後はそのグランバニアを目指して見ようと思います。……俺の両親のことはともかく、なにか、わかるかもしれないので」

「うむ。だが東の大陸は果てしなく遠い。手始めに南の大陸のテルパドールという王国を目指すがよい。そことも交流がない故、なにも情報はあげられないが……。神話や伝承を重んじる国だと聞いている。天空の勇者の伝説について有益な情報が得られるかもしれん」

「テルパドール、ですね。わかりました。じゃあさっそく船乗りを雇わないとだな……。それから船も、なんとかして手配しないと……」

 

 そう零すと、ルドマン氏は目を丸くした。

 

「何を言っているのだね?」

 

 そして口角を上げ、にやりと微笑む。

 

「私を誰だと思っておる」

 

 

  *  *

 

 

 世界一の大富豪は、娘夫婦に船を一隻渡すことなど造作もないらしい。お駄賃感覚で船の所有権をもらったイーサンは、今朝がたこの港町に飛んできた。今ごろドックでは、イーサンの船の出港準備が進められているはずだ。

 

「難しいなぁ……」

 

 ここ最近は結婚のこと云々で忙しかったが、昨日話した内容は想像以上に重たい。旅の目的は母マーサを救うこと。そのためには天空の勇者を見つけ出すことが必要で、その足掛かりになるのが天空の武具。そして天空の勇者の伝説を紐解き、両親にまつわる謎も解明しなければならない。やることは山積みで、しかもひとつひとつが途方もない話だ。……頼りになる仲間たちや素敵なお嫁さんがいなかったら、イーサンはこの旅を投げ出していたかもしれない。改めて、良い縁に恵まれたなとしみじみ思った。

 

「ああ、難しいな。だがコツがあるんだ」

「……へ?」

 

 ふと横を見ると、見知らぬ男が立っていた。少し酒臭い。

 

「おめぇもクラリスのムネを見に来たクチだろ? でも前評判に比べて覗くのって意外と難しいんだよな」

「え、あ、え?」

 

 そう言えば、たった今自分が立っているのは知る人ぞ知るミラクルスポットであった。男が身を乗り出す。

 

「タイミングがあるんだ、見てろ、そろそろだ。曲が転調したら、踊り子たちが中央に集まって身を屈めるんだ。そこで見える」

「本当か」

「本当だ。ほら、来るぞ、よく見てろ、瞬き禁止だぜ」

 

 イーサンは手すりから身を乗り出し、ステージを注視した。そして――、

 

「ほらっ、今だ!」

「ほ、ほんとだ、見えた!! うっはぁ、すごい! 見えちゃった!」

「――何がですの?」

 

 鋭い言葉に全身が強張り、ゆっくりと振り返る。

 ドックの様子を見に行っていたはずのフローラが、満面の笑みで後ろに立っていた。

 

「ふ――」

「うふふふふ! イーサンさん、一体何が“見えちゃった”のか、このフローラにイチから説明してくださいます?」

 

 

  *  *

 

 

 イーサンとフローラはポートセルミの活気のある屋台通りを歩いていた。つかつかと、顔を真っ赤にしたフローラが先行して歩いている。

 

「出航の準備ができたそうですわ。すぐにでも海に出られるそうです」

「あの~、なんか距離を感じるんですが……」

「ふん」

 

 彼女はぷいとそっぽを向く。彼女は笑顔で怒るタイプらしい。先ほどの圧は、密林のヌシなんかよりもよっぽど怖かった。……迂闊だったなぁ、とイーサンは反省した。

 

「この前わたくしのを見たくせに、物足りないということですの……? ぶつぶつ……」

「うん? 今なんて?」

「な、なんでもありませんっ」

 

 フローラはさらに歩を速め、ふいに立ち止まった。とある屋台の方をじっと見ている。

 

「……?」

 

 彼女の視線を辿ると、店先に飾られているビンの置物が目に入った。寝かされたビンの中に、精巧な船の模型が入れられている。ポートセルミの名産品、ボトルシップである。1年前に初めて見たときは高くて買えたものじゃなかったが。……フローラはそれを、瞳をきらきらさせながら見つめていた。

 

「……」

 

 イーサンは何気なく店の主人に声をかけ、そのボトルシップを購入した。数多の死線を潜り抜け、資金も潤沢になった今のイーサンには、このくらいの出費は気にするほどでもない。

 

「はい、どうぞ」

「え、ええっ!? いいんですの! もらってしまって!!」

「もちろん。割れ物だから気を付けてね」

「ええ、そうするわ! ありがとうイーサンさん! わあ……」

 

 なんだか物で釣ってしまったみたいで申し訳なかったが、ここまで喜んでくれるなら買った甲斐があったというものだ。

 

「機嫌損ねちゃったお詫びも兼ねてだけど、気に入ってくれて良かったよ」

「え? あ、う……」

 

 そして当のフローラも忘れていたみたいなので関係なかったようだ。

 

「こ、今回だけですからね……」

「うん。可愛いね」

 

 声に出てた。突然の告白を受けたフローラは顔を伏せ、てくてくと歩いていった。『最近ウチのご主人が嫁にゾッコンすぎて困る』とは、とある従者(ネコ)の談である。

 

 しばらくしてドックに辿り着く。綺麗な青色で塗装された帆船が、新しい主の乗船を待っていた。

 

「『クイーン・ゼノビア号』か。すごい……これが俺の船……!」

 

 カジノ船ほどではないが、この船もかなり大きい。

 

「そうですわよ。所有権譲渡の契約書にはわたくしが署名したので書類上はわたくしのものということになっていますが……夫婦なので」

 

 ぽっ。フローラが肩をすくめる。こういった手続き関連はイーサンにはチンプンカンプンだったので、彼女が色々と済ませてくれていた。彼女が同行できるようになって良かったと、心の底から思える。

 スロープを登り甲板に立つと、小太りの船乗りが声をかけてきた。

 

「はじめまして船長! 航海士のザックっス! 先ほど、食料、物資、あと船長の馬車の搬入を完了しました! もちろん、船長のお仲間さんたちも既に乗船済みっス!」

「お、俺が船長か……なんか、感慨深いな。ちょっと前まで奴隷だったのに」

「会えて嬉しいっス! 次の船長は『底辺の身分から這い上がり、死の火山に巣食う悪霊を撃滅した勇姿を以ってあのフローラ嬢のハートを射止めた、奴隷出身の魔物使い』って聞いてたんで、どんなやべー奴の下で働けるのか、ジブンわくわくしてたんスよ!」

「フローラ、これ俺褒められてる? それとも馬鹿にされてる?」

「そうですわ」

「え、どっち……?」

 

 そんなことを話していると、イーサンは重要なことに気がついた。

 

「ん? 俺、船長なんだよね? 船の操縦なんてしたことないよ? それどころか、船旅の経験も一回だけだし、そのときもラインハットの人たちに乗せてもらっただけだから船旅の事とかほとんど知らないよ? 大丈夫なの?」

「ああ、それなら心配いらないっス。ルドマンさんのとこから、一等航海士が派遣されているので」

「一等航海士?」

「――おはようございます。お嬢様、若旦那様」

 

 船内へ続く階段から姿を見せたのは、ひとりの小柄な女性。豪奢な赤い服に頭には羽根つきの帽子と、いかにも貴族の船乗りという出で立ちだが、その黒髪と鉄仮面のような無表情に、ふたりは見覚えがあった。

 

「「アイナ!?/アイナさん!?」」

「船長としての知識・技術をお持ちでない若旦那様に代わり、『クイーン・ゼノビア』の指揮を執ることになりました。メイド改め一等航海士のアイナです。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 アイナは羽根帽子を外し、深々と礼をした。

 

「ああ、そう言えばアイナは一等航海士の資格を持っていましたね。すっかり忘れていましたわ……」

「ええ。ジブンらはぐれと違って、その土地の領主から正式に認められた船乗り、それが一等航海士っス!」

「な、なるほど……それは頼りになるな。よろしく、アイ――」

「お嬢様、どうぞこちらへ。手荷物をお預かりいたします。お部屋へご案内いたしましょう」

 

 アイナは差し出されたイーサンの手を華麗に無視し、フローラの手を引いて船内へ入っていった。

 

「……あれ?」

 

 

  *  *

 

 

 それから30分もしないうちに、『クイーン・ゼノビア』は出港した。目的地は遥か南、テルパドール王国だ。こうして海に出るのは実に1年半ぶりである。ビスタの港からポートセルミに着くまでも半年を要した。国家間交流が不要とされてから久しい現代において、大陸間を結ぶ航路は歴史の闇に埋もれたらしい。今回の船旅はそんな航路を改めて開拓しながら行うもので、到着までに少なく見積もっても1年はかかるだろうとのことだ。

 イーサンは潮の香りをゆっくりと吸い込み、まだ見ぬ大陸に想いを馳せた。

 

「お待たせいたしました。若旦那様」

 

 声の主はアイナである。彼女は肩口に切りそろえた黒髪を潮風になびかせ、相変わらずの無表情でイーサンを見ていた。彼女がフローラを部屋に案内した後すぐに出航の時間が来てしまい、イーサンは甲板に置き去りにされていたところである。

 

 出航時も彼女は通りの良い大きな声で指示を出し、ザックら船乗りたちを的確に動かしつつスマートに段取りを完遂した。さすがは公式の一等航海士。その手腕は本物らしい。

 

「若旦那様のお部屋にご案内いたします」

「うん。……改めてよろしく」

 

 再び差し出された手を一瞥だけし、アイナは歩き出す。イーサンは短くため息をつき、彼女の後を追った。

 

 大きな船だけあって、船内もかなり広かった。船乗りもそれなりの数乗っているので当然と言えば当然か。なるべく早く構造を覚えて迷わないようにしないとな、とイーサンは思う。

 

「こちらでございます。船長室は上階にありますが、こちらは若旦那様の私室になります」

 

 小綺麗な机にベッド、テーブルというシンプルな部屋だった。馬車の荷台が主な寝床だったイーサンにとっては十分すぎる待遇である。

 

「……あれ、フローラは?」

 

 しかしその部屋はどう見てもひとり用だった。

 

「お嬢様のお部屋は最上階になります」

 

 別室か……と、イーサンは少し残念に思った。結婚後の寝泊まりはずっと南街区の別荘だったので、フローラと過ごすのが当たり前になっていた。

 

「そ、そっか。別に同じ部屋でも良いんじゃないかな……? 一応、俺たち夫婦――」

「お嬢様にもプライベート、お嬢様の時間というものがあります。夫といえど、それを侵害する権利などないと思いますが?」

 

 彼女の声色がイヤに強い。そう言えば、イーサンの手荷物はイーサンが持ったままである。

 

「は、はあ……」

「では失礼。夕食時には炊事係がお呼びに上がりますので、それまでおくつろぎくださいませ」

 

 アイナは短く礼をし、廊下を戻っていく。

 

「――それから」

 

 そしてふと立ち止まり、肩ごしにイーサンを振り返った。

 

「私は貴方を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え……」

「旦那様の意思には反しますが、私は今でも、魔物使いである貴方を信用するつもりはございません。便宜上は貴方が船長ですが、『クイーン・ゼノビア』の総合指揮権は私にあります。お嬢様に手を出そうなどとは、ゆめゆめ思いませぬよう」

 

 そう言い残し、アイナは今度こそ去っていった。

 

「……」

 

 イーサンは小窓から外を眺めた。ポートセルミの港が遠くに見える。確かこの船旅の期間は少なく見積もっても1年という話だったと、改めて思い返す。

 

「……大丈夫かなぁ、この船旅」

 

 

 

 

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