蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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こんばんは。イチゴころころです。

ドラクエの海の曲ってどれも素敵ですよね。
特に好きなのは『エーゲ海に船出して(6)』と、
4章タイトルでもある『大海原へ(5)』です。




4-3. アイナの思惑

 

 

 出港から2日。イーサンは甲板の縁から海を眺めていた。

 

「はぁー、やりづれぇ……」

 

 アイナはとても優秀な女性だ。それはメイドとしてルドマン邸で働く姿を見たときから薄々わかっていた。合理的で、仕事をそつなくこなす。それは航海士として働く今でも健在で、よく気が回り、部下のミスをも華麗にフォローする彼女は船乗りたちにも尊敬されていた。

 だが、イーサンへの当たりは明らかにキツイ。目の敵にしている、と言うのが正しいか。

 

 理屈はわかる。一度はお尋ね者として街を追放されたイーサンの誤解が解けたのは、暴虐の貴公子アルフレッドの化けの皮を暴くことができたからだ。それを目の前で見ていたルドマン氏やフローラは、彼と彼の仲間の魔物が悪者ではないことをわかっている。だがアイナはそのとき、ロランの呪文で眠らされていたのだ。彼女からしたら、突然屋敷を襲撃された挙句眠らされて、目が覚めたときには件の魔物使いが家族として迎えられようとしていた。と、見えてしまう。そう考えると仕方ないのかもしれない。かもしれないが、船の上という狭い世界で、イーサンは否応なしに居心地の悪さを感じていた。

 

「魔物使いってどこへ行ってもこうなんだよなぁ。なあトレヴァ」

『キッキ! マスター 悪くない マスター とても 良い人』

 

 傍らのトレヴァがパタパタと励ましてくる。密林の祠を出るあたりから、彼女は少しずつ喋れるようになっていった。さすがは賢さに定評のあるキメラ、仲間たちの中でも言語の習得が一番早い(もちろん最初から何故か喋れたロランは例外だ)。

 

「はあ、めっちゃ良い子だなトレヴァ……もっと早く喋れるようになってくれればよかったのに……」

『ごめんね。 喋る 難しい。 でも マスターの 言葉 ずっと わかってた よ』

「ああ、君は仲間になった時から利口だったもんな。どこぞの英雄様とは違って」

『ロラン 悪気 ない。 今では すごく 頼れる 仲間』

「その通りだ……」

 

 こうして言葉を交わす前から分かっていたことだが、このキメラは聖人のような心を持っている。臆病で気弱なところもあるが、『死の火山』、『滝の洞窟』などのいくつもの死線を真面目に健気に支えてくれた。……魔物とはいえ、彼女が人を襲う姿なんて想像できない。

 

「リズの調子は?」

『リズ お船 苦手……。 マービン 付き添う リズ』

 

 前回の船旅で判明したのだが、リズは船の揺れが苦手だ。前回はずっと船酔いに苦しんでいた。だから魔物に襲われたときは基本的にマービンとふたりで戦っていたのだ。マービンの左腕が喪われたのは、そのとき無理をさせちゃったせいだとイーサンもリズも少し反省していた。しかし当の本人は『海の湿気で腐敗が進んだだけだから気にするな』と笑っている。

 

「その様子だと、海上の戦いは今回も待機かな。まあ仕方ない。リズは普段頑張ってくれているし、今回はロランも、トレヴァもいるしな」

『キキ! 頼りにされて 嬉しい。 ワタシ 頑張るね』

「あとフローラも……」

 

 密林での戦いのときに、フローラは勝利に貢献してくれた。まだまだ攻撃呪文は不安定だが、イーサンは十分背中を預けるに値すると思っている。彼女も立派な戦力なのだ。

 ……なのだが。

 

『フローラ いない? マスター 一緒じゃない?』

「驚くなかれトレヴァ。この狭い船上で、俺は妻に3回くらいしか会えていない」

 

 何回かフローラの部屋を訪ねたのだが、いずれもアイナに阻まれている。『お休み中ですのでお引き取り下さい』『留守です』『航路のことでご相談が』などなど、のらりくらりと躱されている印象だ。イーサンに出港初日に言い放ったことを、彼女は持ち前の勤勉さで実行に移している。食事は夫婦一緒に摂れるのだが、そのときもアイナが見張りとばかりに同席しているので、イーサンはどうにも落ち着けない。

 

『アイナ。 マスター 嫌い。 フローラ 好き。 ワタシ 悲しい』

「よくわかってるじゃんトレヴァ、さすがだよ。はあ……フローラに会いたいなぁ……」

 

 イーサンが手すりに項垂れたとき、船乗りの声が甲板にこだました。

 

 

 

「魔物だ!魔物が襲ってきたぞおお!!」

 

 

 

 船乗りたちがざわめく。声は船首の方から聞こえた。

 

『マスター!』

「うん、行こう」

 

 悲鳴や叫び声が飛び交う甲板で、イーサンは冷静に剣を引き抜く。

 

「船旅知識ゼロの無能船長、満を持しての出番ってわけだな!」

 

 

  *  *

 

 

「ひいいっ、そんな、魔物の出る海域はもう少し先のはずなのに……! き、聞いてないっスよぉ~~!」

「ザック、大丈夫か!?」

「船長!!」

 

 へっぴり腰で斧を構えていたザックの元に、イーサンが駆け寄る。

 

「魔物は?」

「あ、あれっス!」

 

 見ると、人間より一回り大きい半魚人の魔物が4体、甲板に上がってくるところだった。

 

「“マーマン”か……!」

 

 前回の船旅やサラボナ北の湖で既に遭遇したことがあったのですぐに分かった。数もそれほど多くはない。だが……。

 

「何してる! みんな、はやく逃げろ!」

 

 魔物の周囲には数名、逃げ遅れた船乗りたちがいた。“マーマン”の群れは、今にも彼らを襲おうとしている。

 

「トレヴァ、少し引き付けろ! 俺は船乗りたちの避難を誘導する!」

『キキー!』

 

 イーサンはトレヴァが飛び出すのを確認し、腰を抜かした船乗りに駆け寄った。

 

「おい、大丈夫か?」

「す、すんません船長! なにぶん突然のことで……」

 

 肩を貸し、船首から離れる。すると、2階のテラスに出てきたフローラと目が合った。

 

「イーサンさん!」

「あ、フローラ!」

 

 彼女はワンピース姿ではあったが、手にはモンスター図鑑を持ち髪はリボンで束ねてある。戦う準備はばっちりだ。イーサンはそんな彼女の意欲、そして何より彼女の姿を見られたことが嬉しかった。

 

「図鑑はひとまず大丈夫! そこから“バイキルト”で援護を頼む!」

「わかりましたわ!」

 

 船乗りを船内に放り込み、イーサンは再び船首へ向き直る。思わず口角が上がった。後ろには愛する妻が付いている。それだけで、無限に勇気が湧いてくるようだった。再び、頭上のフローラに声をかけた。

 

「秒で終わらせる! 合図したら詠唱を!」

「ええ!」

 

 そしてイーサンは剣を構え――。

 

「――いえ。その必要はございません」

「……え?」

 

 背後から声がしたと思ったら、イーサンの脇を猛スピードで通り抜ける赤い影が。

 

「あ、アイナさん!?」

 

 彼女は銀色に輝く槍を握りしめ、船主の魔物の群れに突撃していった。

 

「――ふっ」

 

 そしてその勢いのまま、群れを成す“マーマン”のうち1体をくし刺しにした。

 

『キッ!?』

 

 トレヴァも、彼女に翻弄されていた魔物の群れも乱入者に驚き戸惑う。その隙を逃すまいと、アイナは目にも止まらぬ槍さばきでもう2体、息の根を止める。

 最後に残ったマーマンは怒り狂いながら彼女に襲い掛かったが、アイナは華麗なステップでそのツメの一撃を躱す。そして態勢を崩した魔物の胸を、一突きで貫いた。

 

「……」

 

 イーサンも、甲板に残っていた船乗りたちも、その凄まじい戦いぶりに目を奪われていた。頭上を飛ぶトレヴァも、その目を丸くして茫然としていた。

 

「……航海士のみなさん、聞こえますか!」

 

 アイナは槍に付いた血を振り払い、圧のある声色で叫んだ。

 

「帆を張りなさい! 1時間以内にこの海域を抜けます! 再度の襲撃には十分警戒を! 敵影を見つけたらすぐに報告ください! 伝達の遅れは許しません!」

 

 そう言うと、彼女は何事もなかったかのようにこちらへ引き返してきた。船乗りたちも、そそくさと持ち場へ戻っていく。

 

「……お嬢様、どうかお部屋へお戻りください。しばらくは警戒態勢が続きます」

「え、ええ。ありがとう、アイナ」

 

 そのままアイナはイーサンの隣に来ると、小声でささやいてきた。

 

「質問があります、若旦那様」

「な、なんでしょう」

「……まさかとは思いますが、今の魔物、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「それ……本気で言ってる?」

「……」

 

 ふたりの視線がぶつかった。アイナは目を細め、しばらくして前を向き直る。

 

「……もしまた魔物が現れても、余計な手出しはしないでいただけますか。船を壊されでもしたら、旦那様が悲しみますので」

 

 そう冷たく言い放ち、アイナは船内へ戻っていった。

 

 

  *  *

 

 

 その夜。結局あの後魔物の襲撃はなかったが、念のためと見張りが増員され、明日の朝まで警戒態勢が続くこととなった。

 

「――“フローミ”」

 

 自室で紅茶を淹れ終えたアイナは海図に手をかざし、現在地検索の呪文を唱えた。

 

「やはりここも安全海域……魔物の出る海域はもう少し先のはずなのに。最近魔物の勢力範囲が広がっているという噂はよく聞くけど。……それともやはり」

 

 アイナが顔をしかめるのと同時に、自室の扉がノックされる。扉越しに名を呼ばれた。声の主はイーサンである。

 

「……」

 

 アイナは海図を畳み、扉を少しだけ開けた。

 

「……いかがいたしましたか?」

「ザックからおすすめの酒をもらったんだ。良かったら一杯――」

「要件はなんですか?」

 

 イーサンは差し出しかけたボトルを下ろし、ため息とともに肩をすくめた。

 

「……誤解を解きに来た」

「でしたらお引き取りください。徒労になるかと」

「待って、待ってくれアイナさん。話を聞いてくれ……」

「……聞くだけでしたら」

 

 アイナはしぶしぶ扉を開き、イーサンを自室に迎え入れた。

 

「ありがとう。えっと、せっかくだし酒も――」

「手短にお願いします」

「……じゃあ、ざっくばらんに行こうか。アイナさん、俺のことを目の敵にしているよね?」

「はい」

「はは、即答ね。……どうして?」

「どうして? 貴方のことを信用していないからですが?」

「それは……俺が魔物使いだから?」

「……」

 

 アイナは顔を背け、窓の外の夜闇に目をやった。

 

「気持ちはわかる。俺が人々をおびやかす魔物を従えてるのは、事実だ。それにあの日、アルフレッドの正体を暴くためとはいえ君たちを襲ったのも事実。君は他の使用人と一緒に眠らされてたから……諸々のいきさつを話でしか聞いていない。納得がいかないのもわかるよ」

「……ご理解がおありのようで」

「でも、そんな君がなんでここにいるのかがわからないんだ」

「と、言いますと?」

「君は俺のことを嫌いながらも、俺の旅の手助けをしてくれている。航海士として、俺を導いてくれている。……どうして? フローラのため? きっとルドマン家には一等航海士の資格を持つ人は他にもいた。わざわざここに来て、嫌いなヤツの旅の手伝いをするのはなぜだ? ……君の本音が見えない。君は一体、何を考えている?」

「何を考えているか、ですか……?」

 

 アイナは再びイーサンを見やる。その拳は握られ、微かに震えていた。

 

「それはこちらのセリフです……!」

「え……」

「旦那様も、お嬢様も。貴方を信用しきっている。ルドマン家に取り入り、あまつさえお嬢様を連れ去ろうとしている輩を! おふたりに何を吹き込んだのです……? どんなことを嘯き、お嬢様を洗脳したのです? 私たち家族を引き裂いて、貴方こそ何を企んでいるというのですか!!」

「違う! それは誤解だ!」

「誤解なものか!」

 

 逆上したアイナはイーサンの胸ぐらを掴み上げ、怒りを露わにする。

 

「みんな既に貴方を信用している。私も表立って動けない。だから、これはチャンスなのです。船の上という狭い世界で、お嬢様をお守りしながら貴方がボロを出すのを待てる絶好のチャンス。私は、私は必ず、貴方の化けの皮をはがす!」

「アイナさん……」

 

 イーサンは彼女の目を見る。そして複雑な感情を抱いた。彼女の言っていることは完全なる誤解で、フローラからしても見当違いの大きなお世話というやつだ。しかし、かつて悪逆の貴族に自分が抱いた想いと同じものを、彼女の瞳に感じた。

 

「じゃあ、俺がボロを出さなかったら?」

「……は?」

「船旅を通して俺のことを監視するんだよね? もし俺がなにも起こさず、健全な若旦那のままで船旅を終えたらどうするつもり?」

「……そのあとも付いて行くだけです。貴方が本性をあらわすまで、私がお嬢様をお守りし続ける……!」

「君の仕事は一等航海士だ。船を離れるわけにはいかないんじゃないかな?」

「……何が言いたいのですか」

「俺と勝負してほしい」

 

 アイナが目を見開く。

 

「君は俺がその本性とやらを出すのを監視する。そして俺は、何としてでも君の誤解を解き納得させる。期限はこの船旅が終わるまで、勝敗は君の判断だ。シロだと君が納得したら、その時点で俺の勝ち」

「そんな口車に乗るとでも……」

「逆に乗らないの? 目の前にいる悪党が、正体を暴く機会をあげるって言ってるのに」

「……貴方がクロだと確信したら?」

「刺し殺すなり、海に沈めるなり好きにすればいい」

「……!」

 

 アイナはイーサンの胸から手を離した。解放された彼は呼吸を整える。

 

「……お嬢様は私が守る。貴方は私が……倒す」

「うん。……時間を取らせてしまってすまなかった。酒は置いてくよ。実はそんなに得意じゃなくてね。じゃあ、おやすみ」

 

 イーサンは静かに部屋を出ていった。残されたアイナは机に置かれたボトルをしばし見つめる。

 ある記憶がフラッシュバックした。全身から冷や汗が噴き出し、アイナはそのボトルを窓から投げ捨てた。

 

「……お嬢様は、私が守って差し上げなくては……。必ず……必ず……」

 

 

  *  *

 

 

 夜風を浴びながら甲板を歩くイーサンに、心配性なキメラが声をかけた。

 

『マスター 大丈夫? 勝負 勝てる?』

「聞いてたのか……。うーんまあ、負けることはないだろうな。実際俺はシロなんだし、ボロの出しようがないんだって」

 

 アイナの決意、覚悟は本物だった。これは言葉ではなく行動で示した方が良いと、イーサンは思ったのだ。

 

『アルフレッド 卑怯だった。 また 嘘 でっちあげられたら……』

 

 確かに相手がアルフレッドのような奴ならこんな勝負、逆効果だったろう。実際に彼は話術と謀略で、シロのイーサンをクロにしてしまったのだから。

 

「彼女はすごく真面目だから、そんなことはしない。そういう人なら最初から、俺を陥れにきてるよ」

『心配。 マスター 負けず嫌い。 さっきのマスター 喧嘩腰。 危ない……』

「あ、あはは……確かに色々言われてちょっとムカッと来たのは認めるよ……。挑発、しすぎたかもな……」

 

 苦笑いを浮かべながら頭をかいていると、視界の端に白いものが映り込んだ気がした。

 

「ん?」

 

 そちらを向いても、特に何もない。たぶん帆の端か何かが目に入っただけだろう。

 

『頑張って マスター』

「うん。まあ何とかなるさ」

 

 イーサンは伸びをして、短く笑った

 そんな彼らを物陰から見つめる視線に、本人たちは最後まで気付けなかった。

 

 

_______________________

 

 ◎アイナ  23歳 女

 ・肩書き   不愛想な一等航海士

 ・ステータス(A~E五段階)

  HP:C    MP:D すばやさ:B

 ちから:B みのまもり:C かしこさ:C

 ・武器 銀の槍

 ・特技 フローミ、インパス

_______________________

 

 

 

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