蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
こんばんは。イチゴころころです。
ドラクエ11初出の『メイデンドール』というモンスターがめちゃくちゃ好きということで私の中で話題になっています。
結構ホラーな見た目なので苦手な人は本当に苦手かも。私にはめっちゃ刺さりましたが。
しかも11Sなら乗れる。さらに色違いボスのメルトアには声もついてる。最高ですね。
翌朝。
アイナの献身的な妨害、もとい護衛によってなかなか妻に会えないイーサンにとって、唯一合法的に(?)フローラに会える食事の時間は何よりの楽しみであった。
「フローラ、体調はどう?」
「まずまず、ですわ。でもやっぱり慣れていなくて……」
彼女に会えない理由がもうひとつ、それはフローラの体調不良である。慣れない船旅で船酔いが発症し、彼女もあまり自由に動けないのだ。本音を言うとアイナなんて張り倒して付きっきりで看病したいのだが、フローラの体調を鑑みると揉め事を起こすわけにもいかない。
「若旦那様にはもう少し自重していただきたく存じます。お嬢様の体調は万全ではない故、本来ならお食事もお部屋で取っていただくべきです(はやくボロを出してほしい。そうすれば心置きなく海に落とせるのに……)」
「ああ、申し訳ないねアイナさん(フローラの前だから何も言い返さないけど今に見てろよこんにゃろう)」
「いいのよアイナ。わたくしだってできるだけイーサンさんと顔を合わせていたいし(なんだか最近あまりお話ができていない気がするわ……はやく体を治さなきゃ)」
「ありがとうフローラ(可愛いなフローラ。ああ可愛い)」
と、フローラの知らないところで静かなる攻防を繰り広げるふたり。その様子を遠目に見ていたトレヴァは、深くため息をついた。
「トレヴァ? マスター 何事 ナリ?」
『マスター アイナ に 喧嘩 売った。 アイナ 買った。 ふたり ばちばち』
「ケンカ! 楽しそう ナリ!」
『ロラン 邪魔 しないで ね? マスター 正々堂々 真剣 勝負』
「じゃあ トレヴァ! 英雄 ロランと 勝負 ナリ!」
『それは 遠慮 する……』
* *
昼。いつものように甲板から海を眺めるイーサンに、休憩中のザックが話しかけた。
「船長。昨日はどうも、助かったっス」
「あ、うん。みんな無事で良かったよ」
「いやぁしかし、姐御の戦いっぷり、すごかったっスね!」
「姐御?」
「アイナさんの事っス。あんなにちっちゃくて可愛らしいのにてきぱき仕事ができて、さすがは一等航海士っス! しかもあんなにお強いなんて! もう船乗りみんなの憧れっスよ」
「あー、うん。まあ優秀な人ではあるよね」
「それと比べちゃうとちょっと……。船長って、前評判に反して存外普通っスね」
「ふっ……!?」
突然鋭い言葉が飛んできたものだからイーサンは面食らってしまう。危うく縁から落ちようになった。
「あ、すんません! でもやっぱ『歴戦にして最強の魔物使い』みたいな触れ込みだったんで、もっととんでもないお方なのかと思ってました。マーマンごとき眼力で追い払うのかなとか思ってたんス……」
「そうなったら俺もう人間じゃないよ。そもそも、魔物使いから魔物取ったらただの人だからね? 昨日はトレヴァがいてくれたけど、俺ひとりの戦闘力なんてたかが知れてる」
イーサン自身にも人並み以上に鍛えられた身体や技能はあるのだが、彼の本領は仲間たちとのコンビネーションだ。それは自分でも十分理解していた。
「言われてみればそうっスけど……ま、なんであれ船長にも助けられたことは事実っスからね! それに、ジブン的には良かったと思ってるっス! 船長が気さくな方で!」
ザックは口を大きく開けて笑った。
「俺は魔物使いだけど……。君は嫌ったりしないでくれて助かるよ」
「魔物は怖いっスよ。船乗りしてるともう、何度も襲われますからね。でも、逆に慣れてるっていうか……。とにかく、船長は悪い人じゃねえって直感でわかるんス! ジブンの同僚たちだってきっとそうっス。船乗りなんてみんな、そんな大雑把な直感で生きてるんスから!」
「はは、胸に沁みるなぁその言葉……アイナさんもそうだったらいいんだけど……」
「そういえば船長と姐御、なんか仲悪いっスよね。何かあったんで? ひょっとして、色恋沙汰っスか?」
「じょーだん」
「まあ、あんま姐御を怒らせない方が良いっスよ? 昨日のマーマンみたく、串刺しにされちまいますからね」
イーサンが乾いた笑いを返すも、ザックは気にせず話を続けた。
「そういや知ってます? パーシーが見たっていう幽霊の話」
思わず首を傾げる。パーシーって誰だ。
「なんか、甲板に現れたらしいっすよ。幽霊」
「なんじゃそりゃ。現れたって……この船に?」
「ええ、なんでも船尾を白い影が横切ったって! パーシーのやつビビっちまって、船室で血相変えて喚き散らして! もうケッサクでしたよ」
ザックが面白そうに笑う。そもそもパーシーがどんなやつなのか知らないんだけどなあ……。
「もしかして、この船呪われてたりしてな」
「ははは! 船長、ご自分の船に言うもんじゃありませんて! ま、悪い幽霊なんていたとして、姐御がさくっと串刺しにしてくれますよきっと!」
「好きだなそのフレーズ……ぅんっ!?」
ザックの肩越しにその視線と目が合う。タルの陰に潜む……アイナの視線だ。
「どうしました船長?」
「いや、……なんでも?」
しばらくして、休憩時間を終えたザックは持ち場に帰っていった。タルの陰からアイナが姿を見せる。
「……彼らの間で君、串刺しの姐御として通っちゃってるみたいだけど大丈夫?」
「汚らわしい男の言うことなど気にしません」
「ひでぇ言われようだ……。もしかしてだけどさ、俺のことこんな感じでずっと見張ってるつもり?」
「その許可をくれたのは貴方のはずですが?」
「まあそうなんだけど……一等航海士って、実は暇?」
「この場で刺されたいのですか」
* *
それからというもの、アイナは徹底的にイーサンを監視してきた。甲板の散歩も、リズのお見舞いも、あわやお手洗いにまでついてこようとするものだから、正直イーサンは辟易している(お手洗いについてはさすがに引いてもらった。『そう言って、お手洗いで怪しい動きをされたら見落とすわけにはいきません』と言われたが『そんなに見たければ見るか? ああ?』と開き直ったら顔を赤らめて引き下がった。彼女にも恥じらいがあって良かったと思っている)。
よほどイーサンがクロ、つまり悪者であるという証拠を見つけたいのだろう。しかし当然ながらイーサンはシロであり、すなわち無実というか全部アイナの勘違いである。昨日もトレヴァに言ったが、ボロなんて出しようがない。
「これで諦めてくれればいいんだけどなあ……」
昨日は『何としてでも誤解を解く』と豪語したのだが、ここまできたらもう勝手に諦めてくれることを願うしかない。自分で自分を納得させない限り、アイナは折れないだろう。
『マスター 喧嘩腰 良くない。 愛妻家 アピール 大事』
見かねたトレヴァが声をかけてくれた。最近彼女はよくイーサンに構ってくれている。リズがダウン、マービンが看病。ロランは奔放に遊びまわり、妻のフローラともあまり会えない。そんな主が寂しい思いをしないようにという、彼女なりの気づかいである。それに、喋れるようになって嬉しい気持ちもあるようだ。
「うー……ごもっともだよなぁ。ここまで徹底的に見られると、心象が大事なのはわかるけど」
『じゃあ そうするべき。 仲良く 仲良く』
「でも向こうだって敵意丸出しなんだ。俺だけが歩み寄るのも癪じゃないか」
『それは マスターの わがまま』
「はい……果てしなく正論です」
* *
それからさらに4日後の夜。ストーカー一歩手前なアイナの監視にさらされ続けたイーサンは、今日も疲れ果てて自室のベッドに倒れ込んだ。
「だぁーーーーーしぶとい」
何日も視線を浴び続けるのはさすがにストレスだ。あの女本当に航海士の仕事してるんだろうな? と思ったが要領の良い彼女のことだからきっと支障を出してはいまい。
「気が狂いそうだ……まさかそれが狙いか?」
もはや一周回って根比べな気がしてきた。アイナは果たしていつまで、この出てこないボロを探し続けるのか。気が遠くなりそうな考えを辞め、イーサンは布団に潜り込む。
「……うん?」
ふと、廊下の方から足音が聞こえた。その足音はイーサンの部屋の前まで来て、止まる。ノックの音はない。
「(まさかアイナさん、俺が寝てるとこまで監視するつもりじゃないだろうな……)」
イーサンは頭を抱えた。眠りまで妨げられるとなったら、数日中にでも発狂してしまうだろう。……お帰りいただこう、最低限の安寧のためだ。とイーサンは身を起こす。彼女はすぐには納得しないだろうが、なんとか説得しなくては。肩を落とし、扉を開けた。
「アイナさ――」
しかし、扉の前には誰もいなかった。
「……え?」
左右を見る。それなりに長い廊下だ。一瞬で走り去るなんて不可能だし、そもそもそうしたら足音がするはずだ。廊下にはほかにもいくつか部屋があるのだが、いずれも今は使用していない部屋で、鍵がかかっている。扉の開閉音もしなかった。廊下には気味が悪いほどの静寂が広がっている。
「……」
気のせい? いや、足音は確かに聞いた。本当に足音だった? いや、先ほども述べたようにこのフロアはイーサンの自室以外に使われてる部屋はない。だから基本的に物音はせず、何か別の音を聞き間違えることもないはずだ。先ほど聞いたぺたぺたという規則的な音は、誰かが歩く音以外の何物でもない。
……ぺたぺた?
違和感を覚える。あの音は、擬音で表すなら間違いなく“ぺたぺた”である。しかしおかしい。それではまるで、裸足で歩いているみたいじゃないか。
ぞくり。寒気がした。
「……はは。まさか、俺もう発狂してたりしないよな? ちがうよな……?」
イーサンはランタンに明かりをつけ、廊下を歩きだす。
この船は客室3階、船倉2階の構造になっている。イーサンの部屋は客室1階。廊下の突き当りを右に曲がれば甲板に、逆方向の突き当りを左に曲がることで上階への階段に差し掛かる。上階はアイナの自室と船長室。その上はフローラの部屋である。甲板から別の階段を下れば船倉へ降りることができ、そこは食堂などの公共空間。最下層は船乗りたちの居住フロアである。
少し考え、甲板に向かう。アイナやフローラの方も気になったが、甲板には見張りの船乗りがいる。何か怪しい者がいたとしたら、彼らが見ているかもしれない。
甲板に出る。夜風が頬を叩く。防寒具を持ってくれば良かったと、少し後悔した。
「せんちょー?」
上から声がした。マストの中ほどに見張り台が設置されていて、そこに今日の見張りがいるはずだ。
「どうしましたぁ? 奥さんのお部屋なら廊下の反対側ですよ?」
「いや。……なあ、さっき誰か客室の方に行かなかったか?」
「えぇ? 何も見てませんけど。ザックがトイレに行ったくらいで。……そういや遅ぇなアイツ。一杯ひっかけてんじゃねえよなぁ……」
今日の見張り担当は、彼とザックのようだ。
「……ザックはどこに行ったって?」
「『下』っすよ。たぶんみんなもう寝てるから、誰かの懐から酒でもパクってるんじゃないですかねえ? もし見かけたら、俺にも半分くれって言っといてくれません?」
「ああ、言っとくよ。ありがとう。……本当に何も見てないんだな? 怪しい影とか見つけたら、すぐ報告してくれ」
「りょーかいでっす。へへ、船長も信じてるんですかい? パーシーの言う幽霊ってやつ」
そう言えば、数日前にそんな噂を聞いた。船上に浮かぶ白い影。眉唾物だと思っていたが、先ほどの不気味な物音を思い出した。イーサンはごくりと喉を鳴らす。
「そのパーシーに言っといてくれないか。今度幽霊に会ったら目的と思惑と、好きな異性のタイプを聞き取るようにって」
「へっへっへ! りょーかいっす!」
けらけら笑う見張りを尻目に、イーサンは船倉へ向かう階段を降りていく。彼は明らかに飲酒していたが、今は不問とした。
食堂に降りると、大きな木製の長机と、その間に同じく木製の丸イスが所狭しと並んでいる。基本的にイーサンは客室2階の空き部屋でフローラ・アイナと食事をとるので、ここにはあまり来たことがない。今でこそ静まり返っているが、就寝直前まで船乗りたちが宴会をしていたのだろう。食べ物と酒の匂いが微かに残っている。
奥の方にお手洗いがあるのだが、人の気配はしない。見張りになると宴会には参加できなくなるので、ザックは本当に寝込みの酒をパクりに行ったのかもしれない。
……本当に気のせいなのかも。寒さに震え、イーサンは思った。足音を聞いたのも一瞬のことだし、それ以降特に変なことは起きていない。今日はせいぜい、ザックともうひとりの彼にちゃんと仕事をするように言い聞かせ、自分も寝た方が良いかもしれない。……アイナの視線にさらされ続け、いよいよ疲れが出ているだけだ。ならばなおさら、今日もしっかり休んで明日以降のストーキングに備えよう。そう思った。
そう思った直後、イーサンの耳にまたもや音が届く。
――、――!
それは悲鳴だ。階段の奥、下の階から聞こえた。
「この声、ザックか……!」
乱雑に置かれてる丸イスをかき分け、階段を降りる。
居住フロアの廊下には人だかりができていた。先ほどの悲鳴で目を覚ました船乗りたちが集まってきたのだろう。
「おい、どうした! 何があった!?」
「せ、船長……ザックが……!」
「ザック!?」
人ごみの先に、ザックが倒れていた。不自然に体を痙攣させて、苦しそうに悶えている。
「大丈夫か、ザック? ザック!」
声をかけると彼と目が合った。パクパクと口を動かしているが、小さなうめき声が聞こえてくるだけだ。汗が彼の頬を伝う。
「意識はある……けど尋常じゃない。ザック! いい、落ち着け! おい、医務室に運んでやれ!」
「へ、へい!」
ザックは震えとも見えるほど体を痙攣させながら、他の船乗りたちに運ばれていった。
「……きっと呪いだ」
集まった船乗りたちの中で、誰かがそう言った。
「おいパーシー、やめろ」
「だってそうだろ! ザックのやつ……怯えてるみたいだった。きっと幽霊にやられたんだ! 呪われて、体の自由と声を奪われたんだよ……」
そう叫ぶと、のっぽの船乗りが頭を抱えてうずくまる。きっと彼がパーシーなのだろう。数日前に、白い影を見たという。
「ったく。船長、こいつの言うことは気にしないでやって下せえ。ザックはきっと、酒の飲み過ぎでぶっ倒れただけですって」
船乗りたちの間に、嘲笑と安堵の声が湧く。しかし――、
――、――!!
「なっ!?」
また悲鳴。今度は上からだ。
戸惑う船乗りたちを尻目に走り出す。階段を越え、食堂を駆け抜けて甲板へ出た。
先ほどの見張りが、マストの上から落ちてくるところだった。
「おいっ――!?」
咄嗟に駆け寄るが、間に合わない。彼は積み上げられたタルの上に落下し、派手な音と共に破壊された木片が飛び散る。
「大丈夫か!?」
「あ……う…ぁ、……」
タルが上手いことクッションになったようで、ほとんど外傷はなかった。しかし先ほどのザックと同じく、体をがたがたと痙攣させて、声も出ないようだった。
「何事です!?」
客室1階の扉が開かれ、ケープ姿のアイナが飛び出してきた。彼女は倒れている見張り、次に彼を抱きかかえるイーサンを見た。その表情が、困惑から怒りへ変わっていく。
「何を、しているのです……。なぜ貴方がここにいるのです……!!」
彼女は立てかけられたモリを手にし、イーサンに突き付けてきた。
「違うアイナさん! 彼は――」
「黙れ下郎! ようやく動いたかこの――」
「船長!!」
船倉からぞろぞろと船乗りたちが出てきた。アイナが再び、困惑を露わにする。
「リッキー!? 大丈夫か! せ、船長……それに姐御も!? い、一体何が!?」
「わからない。彼も医務室に連れて行ってやってくれ。……ザックと症状が同じだ」
大柄な船乗りがふたり前に出て、見張りのリッキーを下へ運んでいった。
「い、一体、どういうことです……」
「アイナさん。君の望む展開でなくて申し訳ないけど、彼らを襲ったのは俺じゃない」
イーサンはそう言うと、階段の横で震えているパーシーを見やる。
「……ゆ、幽霊の仕業だ。この船は、呪われてるんだ……」
それから再び、アイナと目を合わせた。
「と、言うことらしい」
「ふざけるな……そんな世迷言に騙されるか。彼が襲われた場所に貴方もいた、それが動かぬ証拠だ!」
改めてモリを構えるアイナを、船乗りのひとりが呼び止める。
「せ、船長はオレらと一緒に居ました! リッキーの悲鳴が聞こえた時、です!」
「なんだと……」
「アイナさん。この短時間でふたり、船員がやられた。それだけが事実だ。ここで俺を刺し殺してもいいが、その後船員たちが襲われない保証はどこにもないよ」
「じゃあ誰がやったというのです! ここにはポートセルミで乗船した乗組員しかいない!」
「わからない、けど。パーシーの言うことが本当なら……幽霊、だろうね」
あたりが静まり返る。散々パーシーを馬鹿にしていた船乗りたちも、この状況を目の当たりにして軽口など叩けるはずがなかった。
「……しばらく、見張りの人数を増やそう。ザックもリッキーも、ひとりになったところを襲われた。今夜はとりあえず……えっと、そこの4人で。突然のことで申し訳はないけど、よろしく頼むよ?」
「り、りょうかいです、船長」
「今後、夜はなるべく部屋を出ないように。お手洗いとか、やむなく外出する場合もふたり以上で行動しよう。……アイナさん」
「えっ」
「恥ずかしながら俺は船乗りたちの業務を把握しきれていない。彼らの仕事に支障が出ない程度に、4人ひと組としての見張りのスケジュールを組み直してもらえるかい?」
「え、ええ。承知しました……」
「でも船長、どうすんですかい! この、幽霊を野放しにしたら……」
「わかってる。……
「ええっ!?」
「これでも幽霊退治経験者なんだ。まあ、まだ本当に犯人が幽霊って決まったわけじゃないけどね。そろそろ無能船長を脱却して、船旅に貢献しないと」
船乗りたちが顔を見合わせる。
「だから君たちは船のこと、それから君たち自身の安全を守ってくれ。犯人は俺が何とかする。なにか手伝ってほしいことがあったら声をかけさせてもらうから、随時協力をよろしくね。……よし、今日は解散」
船乗りたちは小気味よく返事をし、各々船倉へ帰っていった。
彼らを見届けたのち、アイナが口を開く。
「どういうおつもりですか……。一体何を企んで――」
「やめろよ。もうわかってるんだろ?」
「……」
「もし俺が本当に君の言うような悪党なら、初手で一般船員なんか狙わない。しかも特に慕ってくれてるザックなんてなおさらだ。……最初に襲うなら君のはずだ。違うかい?」
ぎり、とアイナは奥歯を噛み締める。
「このまま船員たちが襲われ続けると船旅の続行すら危うくなる。無知な俺でもそれくらいは分かるさ。だから……退治する。俺とフローラの旅は『クイーン・ゼノビア』とそのクルーなしでは成り立たないんだ。俺は俺のやり方で、船を守る」
飛び散ったタルのカケラをくず物入れに放り込み、イーサンは踵を返した。
「……お待ちください」
アイナが呼び止めてきた。手に持ったモリを、ぐっと握りしめているように見える。
「貴方の好きにはさせない……。私は、貴方の正体を見極める義務がある。お嬢様に仕える者として、一等航海士として、貴方を野放しにするわけにはいかない、だから――」
「……」
「だから、
彼女の言葉に、イーサンは目を丸くした。
「船員を襲ったのが貴方でないと、私はまだ信用できません。だから貴方と一緒に、この事件を捜査します。その顛末を以って……貴方がシロかクロか判断いたしましょう」
この数日、一向にボロを出さないイーサンに対しアイナ自身も辟易していたのだ。そしてこの事件は、平行線を辿っていたふたりの勝負を動かすチャンス。
「……これで俺への誤解が解けることを祈ろうか。じゃあ今一度……よろしく、アイナさん」
イーサンが手を差し出す。アイナはその手を、たっぷりの懐疑と敵意をもって握り返した。