蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
こんばんは。イチゴころころです。
先日ドラクエ11S攻略に際し、人食い火竜に串刺しにされました。
今更ですが3章の密林のヌシに続いて、大海のヌシもオリジナルモンスターでしたね。
本編で紹介する余裕がなかったのですが、前者は『デッドプラント』、後者は『クイーンアーノン』といった具合で名前をつけていました。いわゆる”だいおうイカ系”の襲撃はお約束ですよね。
そんなクイーンアーノンちゃんですが、当初は『だいおうイカの死骸を操る寄生虫タイプの海洋生物』という設定があったのですが、「いやそれはきっとロケットランチャーとかで倒すやつ」「出てくるゲームを間違えてる」と思い直しあんな感じになりました。危うくタグにクロスオーバーとバイオハザードが追加されるところだったぜ……。
と言うわけで本編です。
クイーンアーノン撃滅後。イーサンたちの船旅はどうなるのか。
汗が頬を伝うのを感じながら、彼女は目の前を凝視する。
運命とか宿命とか、そう言った言葉は常々耳にするけれど、そんなものは結局気持ちの問題で、自分の道は自分で掴み取るものだと思う。そうでなければ今の自分の人生はない、彼女はそう思っていた。そんな曖昧な運命、もしくは宿命が今、目の前で決まろうとしている。
回り続けるリールが徐々に速度を落とし、止まる。――『7』が、5つ揃った。
「きゃあ~~~~~!!! やりましたわイーサンさん!!! ああっ、コインが!コインが溢れてしまいます!! イーサンさん、新しいトレイを!!!」
「なんで!? なんでなの!? 俺がタコ負けして失ったコインが桁ふたつ飛び越えて返ってきたよ!! どうなってるのフローラの右手!! レバーをひねるその右手!! 何か宿ってるよね! 絶対そうだよね!!」
イーサンがトレイを差し出すと、トレイは一瞬で満杯になった。
「きっと才能の差ですわ!!!」
「あっはっはっはっはっはっは!! 大好きだフローラ!!!」
「うふふふふふ!!!!」
夫婦は狂喜乱舞し、山積みのトレイに囲まれながら飛び跳ねて抱き合った。
「支配人! もうこんな10コインスロットなどに用はございませんわ!! ご自慢の100コインスロットとやらに、早く案内してくださいまし!!」
「は、はい……。あちらでございます、フローラ様……」
夫婦が腕を組みながら100コインスロットへ向かい、バニーガールたちが山積みのトレイをカートで運んでいった。去り際に『この調子でここ破産させちゃおうか!!』『やってやりますわ!!』と聞こえ、支配人は震えが止まらなくなる。
* *
大海のヌシの襲撃を受けた海域から少し東に、『カジノ船』がある。満身創痍のクイーン・ゼノビアは何とか航路を取り、本来寄る予定のなかったかつてのふたりの結婚式場に辿り着いたのである。
『カジノ船』はその名の通り船が本体ではあるのだが、その船は小さな島に停泊する形になっている。船内は娯楽一色で、コインの購入、交換はこちらの島で行うらしい。
「はあ~~~、なんだか揺れない足元が逆に違和感ニャ……」
嵐と魔物の襲撃を受け人生最大の揺れを味わったリズは、砂浜にたてられたパラソルの影に寝そべり、現在進行形で修理されている青い塗装の船をマービンと共にぼんやりと眺めている。
「もしかして先輩、揺れに慣れてきてたんじゃ、ないか……?」
「まさか。イッショウ慣れる気がしないニャ。てかそのサングラスどこで手に入れたニャ……?」
「ザックに、もらったんだ……。先輩のも、もらってこようか?」
「いらにゃい」
「というか……せっかくの機会だ。先輩も、遊んでいけば……良いと思うぞ」
リズはくるりと寝返りを打つ。
「にゃ~ん。リズはここで次の船出に備えるニャ。ゆっくりするニャ。ご主人たちは元気で良いニャァ……あんな目にあったのに」
「ああ……。ザックたちも、今度は自分らが働いて……船に貢献したいと言っていた。俺たちはあの夜、旦那たちの命がけの戦いに救われたんだからな……」
クイーン・ゼノビアの甲板ではザックをはじめとする船乗りたちがせっせと動き回り、船の修理に勤めている。彼らをまとめる赤い羽根帽子の姿は、そこにはなかった。
* *
――アイナの幸運が、1下がった!!
「……は?」
人を馬鹿にしたような(少なくともそう聞こえた)声が響き渡り、アイナは眉間にしわを寄せた。足元の『!』マークがてらてらと光っている。
「……基準が不明瞭ですね。何をもって幸運とするのか、説明を求めます。十分な論理も説明も無しに、人の不幸を笑うのは横暴が過ぎると思いますが?」
『アイナ 誰と 喋ってるの……?』
観客席のキメラが引きつった笑みと共に喋りかけてきた。
『気にしない で。 サイコロ 振ろう?』
「……トレヴァ。これは私が引き受けた挑戦です。どう攻略するかは私に委ねられている。余計な口出しは控えていただきたいで……ひゃあっ!?」
アイナは首筋に這わされた冷たい感触に驚き、そして自分の出した情けない声に赤面した。振り返ると、一匹のしびれクラゲと目が合う。触られた首筋が若干ピリピリした。
「な、何をするのですか!!」
『るるんっ!』
小さな魔物は声をかけられたのが嬉しいのか、笑顔で触手を振るう。
『こら アイナ。 レックラは アイナの 恩人。 邪険に しちゃ だめだよ?』
「くぅ……!」
大海のヌシを倒した後、波に呑まれたアイナを助けたのは幽霊騒動の犯人、あのしびれクラゲだった。嵐が晴れた後、漂流物に寝かせられていたアイナをイーサンが発見。功労者であるしびれクラゲはレックラと名付けられ、イーサンたちの仲間として迎え入れられた。
『るん……♪』
トレヴァによると、レックラは船上で戦うアイナの姿に心を打たれ、なんとびっくり”恋”に落ちたそうだ。仲間になった後も、彼(たぶん彼でいい)はずっとアイナに付いている。今も、片手をギプスで吊っているアイナの補佐として彼女と一緒にすごろくを攻略中だ。
『すごろく 本当は ひとりだけ。 でも アイナ ケガしてるから 特別に レックラも ついて行けるように なった』
「……不要だと言ったはずです」
『戦闘の マスに 止まったら どうするつもり?』
「う……」
顔を伏せると、レックラが心配そうにのぞき込んできた。無垢な瞳が、真っ直ぐにアイナを捉える。
「わかりました! やればいいのでしょう、やれば!」
自棄になってサイコロを振った。出目は『4』。その通りに進むと、何もないマスに到達する。
「ん? なんですかここ。何もありませんが……」
『るん?』
『あ。 ふたりとも そこは……』
――なんと、落とし穴が現れた!
陽気なアナウンスと共に、足元のパネルが左右に開く。
「はあぁ~~~~~!!?」
アイナの怒りの叫びが、床下に吸い込まれていった。
トレヴァが下の階に駆け付けると、クッション材に埋もれたアイナがもがいていた。
「そもそも! なぜ私がこんな!! お遊びに付き合わなければならないのです!! 修理の手伝いくらい私にも!! ……うぅ、立てない! 誰か手を貸してぇ!!」
『るんっ!!』
「ひゃぁうぅっ!? ちょっと、その体質どうにかならないの!!」
何とか立ち上がったアイナは、ふくれっ面で俯いた。
「……帰る」
『えぇ……』
「というかフローラ様も病み上がりのはず。彼女はまだお休みになっているべきです。……イーサン様が息抜きをさせたいとおっしゃるのもわかりますが、フローラ様を無理やりこんな騒がしいところに連れ出すなど、いちメイドとして見過ごすわけには――」
――きゃあっ、きゃあ~~~~~っ! 見てイーサンさん!! レバーをひねればひねるほどコインが湧いてきますわ!! まるで魔法ね!! あははははははは!!
「……」
階段の向こうから狂気的な叫び声。その声は、アイナもよく知る人物のものである。
「……レックラ」
『るん?』
「……行きましょう。すごろく券はまだありますね? しっかり準備を整えてください。一片のミスも許しません。必ず、このすごろく場を踏破します!!」
『るんっ! るるんっ!!』
怪我人がクラゲを引き連れ、階段を駆け上がっていく。その様子を見たトレヴァは小さくため息をついた。
* *
数日後。
修理の完了したクイーン・ゼノビアの甲板から、イーサンは沈みゆく夕日を眺めていた。船の青い塗装も、真っ赤な夕焼けに塗りつぶされている。
「イーサン様」
振り返ると、赤い羽根帽子の女性。彼女は片腕をギプスで吊られたまま、設備の最終チェックを終わらせたところである。
「明日、出航します。今日はもうお休みになられますよう」
「うん。俺の荷物、もうあそこに運んである?」
「……いえ、客室1階は全て倉庫に致しました。カジノ船のスタッフの皆様から大量の物資を分けていただいたので」
「え。俺の部屋、なくなってるの……?」
「ですので、イーサン様の荷物は客室最上階に運ばせてあります」
相変わらず無表情なアイナを見て、イーサンは首を傾げた。
「うん? そこはフローラの部屋なんじゃなかったっけ?」
「はあ……」
アイナは目を逸らした。無表情が、少しだけ崩れる。
「みなまで言わせないでください。……おふたりは、夫婦でしょう?」
「あっ……」
彼女の真意に気付く。イーサンの胸が、とくんと脈打った。
「ほ、ほんと!? やった! ありがとうアイナ!!」
「私は貴方を認めたわけではありませんのでゆめゆめ――」
「フローラ今行くよーーっ!!」
アイナの声を無視してイーサンが駆け出す。彼女はその首根っこを掴み、咄嗟に動きを制した。
「あぁもう話を聞きなさい! あっ、痛……」
「アイナ!? ごめん、腕……」
彼女は顔をしかめたが、イーサンが立ち止まったのを見てすぐに姿勢を改めた。
「構いません。ですが話だけ聞いていただけますか。……私の、父のことです」
「……」
嵐の夜、断片的に聞いた彼女の過去。イーサンの肩が、ほんの少し強張った。
「昨日、貴方の過去の話をお聞きして思い出したことがあります。……貴方の旅には何の足掛かりにもならない話でしょうが、どうか、耳を傾けてくれると幸いです」
「……うん」
ルドマン氏やフローラも知り得なかった彼女の過去の真実。アイナは静かに、語り出した。
「父は、口は悪くも心優しい船乗りでした。しかしいわゆる“はぐれ”というものです。もともと収入は細く、母が亡くなってからは海にも出なくなりました。当時の私は知る由もなかったのですが、それは幼い私の面倒を母に代わって見るためでしょう」
船乗りの仕事は常に危険が伴う。アイナの幼少期には既に魔物が増え始めていたそうなのでなおさらだ。娘一人残して出ることなどできはしないだろう。
「そんな父が突然家を去り、私はひとり残された。でも、突然ではなかったのです。予兆はあった。私には……いえ、きっと誰が見ても何でもなく見えたでしょう。今の今まで忘れてしまっていたほど、それは何でもないことでした」
彼女の瞳が、悔しげに震えた。
「家を去る少し前。父は街角である男と話していました。普段見かけない姿だったので恐らく旅の者なのでしょう。どんな話をしていたのか、全部聞いたわけではありません。そもそも当時の私は父の会話よりも、その日のお使いをこなすことに興味がありましたからね。……でも一言だけ、その男の言葉を聞きました。『
「……!」
全身から血の気が引いていくのを感じる。そうだ。きっと幼い少女には、何でもないただの……宗教勧誘に見えただろう。
「その後、父は姿を消しました。残された私はフローラ様に出会うまで、ひとりで生きていくことになったのです……」
そう言って、アイナは言葉を締める。
「アイナ……」
「イーサン様。奴らは、何者なのですか……?」
「わからない。ただ奴らは、確実に世界を蝕んでいる。新興宗教の皮を被り、世界中に邪悪な種を撒いているんだ……。いや、アイナや俺が幼いころから奴らは動いていた。その種はもしかしたら、十分に根を張り巡らせているのかもしれない」
ルドマン氏と話した『魔王』のことが頭をよぎる。まさかな、と思いつつも手のひらは汗で滲んでいく。
「話は以上です。……まあ、何はともあれ」
アイナはそう言うと、イーサンの前に跪いた。帽子の羽根が、海風を受けて揺れる。
「私はフローラ様と、……貴方に仕える航海士。邪悪の手を振り払い、天空の勇者と母上殿の行方を追う旅路、水平線の果てまでこのアイナがお導きしましょう。この命、魂。おふたりに捧げると誓います」
彼女の言葉を聞き届け、イーサンは微笑んだ。ポートセルミから始まった船旅は行程の半分も進んでいない。この先何度、あの嵐のような危険に見舞われるかはわからない。だが目の前の小さな航海士の姿は、きっとどんな荒波も乗り越え、嵐をも跳ね飛ばして目的地まで連れていってくれる。そう確信させるに十分だった。
「うん、よろしく。頼れる一等航海士どの」
* *
時を同じくして、サラボナの街はラインハットとの交易が本格的に復活し、いつも以上の活気に満ち溢れていた。
「ふう……しかし交易っていうのも大変だなあ……」
打撲から快復したアンディは『死の火山』に挑んだ勇敢さをルドマン氏に買われ、若くして交易の責任者に任命された。今も街に到着した馬車の一団を、検閲し終えたところだ。
「ラインハットから遠路はるばる来たみたいですね。貴方もお勤めご苦労様です」
市民の言葉が疲れた体に沁みる。
「ははは……正直この任はボクには荷が重いような気もしますけど……。ルドマンさんに信頼していただいているので、精一杯やるだけです」
「しかし最近は、なにやら魔物が活発になっているみたいじゃないですか。交易も危険ではないのですか?」
アンディは今日渡された書類に目を落とし、ため息をついた。
「そうなんです……さっきの商人たちも道中で激しい襲撃にあったみたいで。荷台がひとつ、荷物ごと失われてしまったんです。賠償手続きと、業者への連絡と……やることは増える一方ですね」
「それは……本当にお疲れ様です」
「あっ、すみません! なんか愚痴を言ってしまって……。おや?」
アンディは振り返ると、少し首を傾げた。木陰のベンチに座っていたのはサラボナ市民ではなく、見知らぬ男だった。
「もしかして旅の方ですか!? な、なおさらすみません! お客人に聞かせるべきではないようなことをべらべらと喋ってしまって……。えっと、まあ少しゴタゴタしていますけど、ここは良い街ですよ! あはは……」
「お気になさらず。魔物に苦しめられているのは、どこも同じですからね」
「ああ、やっぱりどこもこんな感じなんですね……。貴方も、ここまで来るのに苦労したでしょうに」
「ええ。ルラフェンも、ポートセルミも、かのラインハットでさえ。日に日に凶暴さを増す魔物たちに頭を悩ませています。……ですが、私は大丈夫です。魔物を退ける方法を知っていますからね」
アンディは目を見開いた。そんな方法があるのなら、すぐにでも実践したいものだ。
「……魔物を退ける方法ですか?貴方は、一体……?」
「失礼。名乗るほどのものではございません。しがない旅の……宣教師でございます」
そう言うと彼は立ち上がる。アンディが見上げるほど、彼は背が高かった。
「……いかがでしょう。我らが神のご加護を信じてみませんか?」
第4章 大海原へ ~fin.~