蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

33 / 58

こんばんは。イチゴころころです。

実際のプレイ時にもテルパドールへ向かう途中でカジノ船に寄り、狂ったようにカジノに嵌まってグリンガムのムチを交換してから先に進みました。

そしたらフローラが壊れちゃった。




5-3. 天空の勇者の伝説

 

 

 地下への階段を降りるとそこはまるでオアシス。泉の周りに美しい木が立ち並び、大理石でできた遊歩道を色とりどりの花壇が囲んでいる。ツボを持った美女の彫刻のそのツボから澄んだ水が流れ落ち、ちろちろと耳触りの良い音を奏でている。おしゃれな天蓋の中にこれまたおしゃれなベンチがあり、そこに座って手招きするは王国一の美女、アイシス女王である。

 テルパドール王宮の地下には楽園があった。

 

「いや、意味わかんないね」

「わたくしは……天国にでも来てしまったのでしょうか……」

「驚きましたか? 王宮外での職務も多い故、このような憩いの場を設けようと何代も前の王が造らせたそうです。玉座の間よりかは、幾分か腰を据えてお話ができるかと思いまして」

 

 女王の向かいのベンチに、イーサンとフローラは腰掛けた。仲間モンスターたちは各々、この地下の楽園を堪能している。

 

「さて、本題に入りましょうか。イーサン殿、改めてお伺いします。貴方が『天空の武具』を追う理由、このアイシスにお聞かせ願えますか?」

「えっと、まずは俺の生い立ちから……というか、女王様はどこまで知っているんですか?」

「王家の眼は万能ではありません。私が『視た』のは、砂漠の大地に降り立つつがいの旅人。その手に運ばれる天空の力。その目に宿る気高き心。以上でございますので」

「そ、そんな。照れちゃいますわ……(ぽっ)」

 

 フローラがどこに照れたのかはさておき、これはやはり、自分の旅の始まりから話す必要があるそうだ。

 

「では、長くなりますが聞いてください」

「わたくしの夫は語り部としての才能にも満ちておりますの。どうか楽しみにしていてくださいね」

「ちょ……っと静かにしてようか」

 

 

  *  *

 

 

「――と、いうわけです」

 

 イーサンが話し終えるのを、アイシス女王は最後まで静かに聞いていた。

 

「なるほど。事情は理解いたしました」

「女王様、単刀直入に聞きます。俺の母さんに繋がる手掛かり……、『天空の武具』の在りかを、知っていますか?」

 

 女王は少し間を開けて、口を開く。

 

「ええ。我々テルパドール王家は代々、伝説の武具のひとつ『天空の兜』を保有し、管理しています」

「「……!!」」

「もともとこの国の建国者は、古の世界で天空の勇者のお供をしていたという言い伝えがあります。故にテルパドールは言うなれば勇者ゆかりの地。天空の勇者が現れ、武具の力を必要とするその時まで、我々王家は兜をお守りする義務があるのです」

 

 ルドマン氏の言っていたように、この国が伝承を重んじる国だというのがようやく腑に落ちた。

 

「すみませんアイシス様。勇者様が『現れる』というのは、一体どういうことですの……?」

「うん。俺もずっと気になっていたところです。がむしゃらに旅を続けてきたけど、伝説の勇者がその辺を歩いているはずはない。一体勇者とは何者なんです? それによく聞く伝説に登場する『天空人(てんくうびと)』や『魔王』のことも……。どうか教えてください。俺は、母さんが何で攫われたのかさえ知らないんです」

 イーサンが頭を下げると、フローラも彼に倣った。アイシス女王は薄く微笑むと、ゆっくりと頷く。

 

「いいでしょう。今度は私がお話しする番ですね。しかし天空の勇者の伝説は太古から口伝えでのみ続く伝承。我々テルパドール王家でさえもその全貌は知り得ません。貴方たちの満足のいく話になるかはわかりませんが、どうかお聞きになってください」

 

 

 

 清流の音を背後に、砂漠の女王がゆっくりと語り出す。

 

「天空の勇者とは、文字通り天空人の血を引く勇者の事です。これは現代の言い伝えにもありますね。では天空人とは何者か。その答えは世界の中心、ここから遥か北東の海に浮かぶ5つ目の大陸にあります。……おふたりも、内海を渡ってきたのなら見たことがあるのではないですか? セントベレス大陸にそびえ立つ巨大な塔を」

 

 ふたりは顔を見合わせた。その大陸の近くを確かに通った。例の博物館廃墟のあった小島のすぐ近くだ。『セントベレス大陸』、内海のちょうど中心に浮かぶ未開の地である。雲をつく巨大な山と、同じくらい高くそびえる謎の塔が船の上からでも見えた。海路での侵入が不可能なほどの絶壁に囲まれているのに加え、その神々しい外観に人々は畏怖し、誰も寄り付かない神聖な大陸なのだとアイナが教えてくれた。

 ……もっとも、イーサンにとってはその巨大な山に強烈な既視感と嫌悪感を抱いたので塔の方については今の今まで忘れていた。

 

「あの塔は通称『天空への塔』。今は中ほどで崩落しているのが確認できますが、かつては天空人たちの居城にして地上を監視する神の座である『天空城』が塔の先にあったそうです」

 

 ぱっと思い出しただけでもあの塔は雲の上まで伸びていたように思えるが、あれで折れているというのはなかなか想像しがたい。というか確認できるって……? いや、女王には千里眼があったのだ、それくらいは何気なく確認できるのかもしれない。

 

「すなわち天空人とは神の使い。天空城から人々を見守り、世界を統べる高貴なる種族の事です。そして彼らの血を引き地上を脅かす邪悪を滅するのが『天空の勇者』というわけです」

「……でもその塔は、今は壊れているのですよね? 天空城と、天空人の方々はいったいどこへ……?」

「それはわかりません。私の持つ『王家の眼』の力は、過去を覗くことができないのです」

 

 アイシス女王は息をつき、しばらくして再び話し始めた。

 

「人々に知られる伝説では、古の世界で人間を滅ぼそうとした魔王を、天空の勇者が討伐したとありますが、魔王の正体はどこにも伝わっていません。しかし、我々の知る伝承にはこうあります。『再び世界が闇に脅かされしとき、天空の力を継ぐ者、高潔な血の元に誕生せり』」

「“誕生”、ですの……?」

「現れるって、そういう意味ですか」

 

 目を見開くふたりに、アイシス女王が頷く。

 

「その通りです。高潔な血、が何を指すのかは不明ですが、勇者も人の子。何かしらの条件で生まれてくるのだと我々は考えています。……世界の危機を察し、神が遣わせてくれるのです。我々の知る伝承は、ここまでになります。――ですので、ここからは『今』の話をいたしましょうか」

 

 改まる女王に、イーサンは思わず身構える。彼女の視線がまるで、“本題はここから”とでも言わんばかりに強張ったからだ。

 

「……今、我々の生きる今こそがまさに天空の勇者が誕生せし時、すなわち『世界の危機』であると私は考えています」

「「……!!」」

「私の『王家の眼』は歴代の王に比べて力が弱く、過去や未来を見ることができません。ですのでせめて『今』だけは、この眼で見続けようと若き日の私は決心しました。それでも遠く離れた大陸のことを視るのは相当な集中を要するのですが……。私はずっと、他の大陸のこと、世界のことを視てきたのです。来るべき危機に備えて」

 

 要は、彼女はその千里眼を以ってずっと世界中を視てきたのだ。どこまで詳細に視えるのかはわからないが、国家間の交流が途絶えた後もずっと、それらの動向に目を光らせてきた。クルスムが他国のことに詳しいのも、主である彼女のその能力と行動力のお陰というわけだ。……そしてその結果導き出された答えが、『今こそが世界の危機』ということだろう。

 嫌な予感がした。そしてその予感は、一瞬にして的中する。

 

「おふたりは旅を続けてきたのならご存じでしょうね。今、世界中でゆっくりと、確実に浸透しつつある邪悪な教えを」

「……『光の教団』、ですね」

 

 ぎりぎりと、奥歯を噛み締めつつ声を絞り出した。奴隷を脱した後もしつこく付きまとい、イーサンの旅路にうっすらと存在感を刻み続ける忌まわしい名。

 

「各地で信仰の根を広げる様子が確認されています。そして……約10年前から、各国の国力は衰退しているのです」

「それは……」

「……はい。()()()()()()()()。それも若者を中心に、幅広い世代で。意図が今まで掴めなかったのですが、イーサン殿の話を聞いてようやくわかりました。『光の教団』は信者を中心に人々を攫い、奴隷として何かしらの労働に用いている。恐らくは――」

「――セントベレス大陸の、山」

 

 女王の推測を、イーサンが締める。

 

「はい。……教団の売り文句によると、彼らの信仰する神の加護は、近年勢力を広げつつある魔物を退けるそうですね。ですが冷静に考えればおかしいのです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……なるほど」

 

 それは暗に、教団と魔物が繋がっているから。ということだろう。

 

「以上が、私の推測です。人間の世界に巧みに溶け込む魔の手……これを世界の危機といわずして何でしょうか」

 

 するとアイシス女王は、申し訳なさそうに肩を落とした。

 

「しかしながら、我々は国家としては弱小。国力が低く砂漠に適合した文明しか発展していないテルパドールでは、世界の危機を文字通り見守る事しかできないのです。国家間の交流が途絶えた今、船を造る技術もない私たちでは、世界の危機を退けることも、それを他国に知らせることもできないのです。……本当に、私は無力です」

「アイシス様……」

 

 フローラは肩を落とすアイシス女王になんて声をかけたらいいのかわからなかった。そして隣で俯くイーサンもまた、拳を握りしめ項垂れていた。

 

「本当に……どこまでも続くんだなあいつらとの因果は……」

「……」

 

 フローラはそんな夫の肩に、そっと手を置いた。ちくりと、胸の奥が痛む。

 彼女は教団の話をするときのイーサンが苦手だった。その時の彼はフローラが知らない……怖い顔をするのだ。奴隷としての壮絶な過去を持つイーサンの境遇からしたら当然だろうが、どうにもその表情を見ていると胸騒ぎがする。だから、肩に手を置かずにはいられなかったのだ。手を離したら、糸の切れた風船のようにどこかへ消えていってしまいそうだと思った。

 

 やがてイーサンは再び顔を上げた。そのときにはもう、フローラの良く知る優しくて勇ましい夫の顔に戻っていた。

 

「女王様。貴重なお話、ありがとうございます。……きっと俺が母さんの元に辿り着くためには、その『世界の危機』に対して俺なりに向き合う必要があるみたいです。女王様が感じ取った脅威、俺がみんなに伝えます」

「イーサン殿……」

「俺だって無力です。邪悪の手を振り払うのはあくまで勇者の役目。でも俺には“ルーラ”が使えます。西のサラボナと北のラインハット。そこの領主ともつながりがありますし……というかルドマンさんは俺の義父だし。とにかく、女王様の言葉を、明日にでもみんなに伝えてこようと思います」

「ありがとう、イーサン殿。しかし気を付けていただきたいのは……」

「それに、ラインハットは既に宗教改革を進めているんです。ヘンリーがもう、3年も前から始めています。あそこに関しては、教団の根はもう潰れていると――」

 

 

 

「なんですって!?」

 

 

 

 女王が声を荒げる。イーサンとフローラはその剣幕に目を丸くした。

 

「……私が覗き見た彼らの勧誘の手口は、一種の脅迫のような印象を受けました。『魔物に襲われたくなかったら、教団に入信しなさい』という、悪辣な手口です。もし、もし本当に彼らが魔物と繋がっていて、彼らの教えを表立って弾圧するような動きがあったら……」

 

 女王の言わんとしていることが、ようやくイーサンに伝わる。血の気が恐ろしい勢いで引いていくのを感じた。

 

「――っ」

 

 女王が立ち上がり、少し離れた泉に向かうとそこに手をかざす。泉の水がさわさわと波紋を浮かべると、鏡のような水面に映像が映し出される。テルパドールの王族に伝わる力『王家の眼』が発動した。

 

「これは……」

 

 そこはイーサンもよく知るラインハットの大きな門。塀の向こうにそびえるのは、彼の親友が住まう豪奢な城。そして……。

 

 

 

 大地を埋め尽くすほどの、大量の魔物の姿がそこにはあった。

 

 

 

「――か、ふっ」

 

 アイシス女王が膝をつき、ばしゃりという音と共にその映像が消える。女王にフローラが駆け寄るも、イーサンはふたりをそっちのけで階段に向かって走り出した。

 

「あ、え、イーサンさん!?」

「私のことは、構いません……。フローラ殿、どうかイーサン殿についてあげてください。……今の彼は、少々危うい」

「……!」

 

 尋常でない事態を察して集まってきた仲間たちと共に、イーサンは階段を駆け上がる。その横顔は、フローラの苦手な表情を宿していた。

 

「イーサン、さん……」

「行きなさい! はやく!!」

 

 不安に脈打つ胸の奥を抑え込み、フローラは走り出した。

 

 階段を上り外への扉を出ると、イーサンが北の空を見上げて立っていた。

 

「イーサンさん!!」

「フローラ、君はここで待っていてくれ。さっき見た映像の通りなら、魔物の数が尋常じゃない。さすがに危険すぎる」

「じょ、冗談でしょう!? わたくしも行きますわ、貴方と一緒に……」

「マービン、フローラを頼む」

「……了解だ、だが――」

「リズ、トレヴァ、ロラン! 準備は良いな! 気を引き締めろよ……!」

 

 制止も聞かず、イーサンは懐から取り出した宝玉を握りしめ走り出した。

 

「あ、だめっ! 待って、イーサンさ――!!」

 

 咄嗟に手を伸ばすも、彼らの体はまばゆい光に包まれ、激しい衝撃と共に舞い上がる砂埃に思わず目を瞑ってしまう。

 

 目を開けるころには、夫の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。