蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
どうもイチゴころころです。
はやいものでもう6章ですね。
例によって今回はさくっとしたイントロにまとまったので、このあと19時に続きを投稿します。お楽しみに!
別ゲーですが『ザナルカンドにて』って本当に名曲ですよね。
6-1. 静観する邪悪
「……ふむ」
薄暗い広間。隅に置いてある燭台の炎が淡く照らすだけの空間。『光の教団』の宣教師であるジャミは中央の椅子に腰かけ、顎に手を添える。
「そいつらが新たな収穫ってわけか」
「……ああ」
目の前には紫の法衣を纏った男が立っていた。彼はジャミの呼びかけにぶっきらぼうに答える。その男の背後には、質素な服装に身を包んだ少年少女たち10人ほどが身を震わせていた。
「まさかレヌール領の端にまだ村があったなんてなァ……。世界は広いということか」
「……大人たちは『神殿』の方に連れて行った。このガキどもはここで好きにしていいそうだ」
「教えを拒んだクチか……。ははっ、よく殺さずに連れてこられたな? 単細胞なりに頭が回るようになったじゃないか」
「……」
「クヒヒ……、そう怖い顔をするなゴンズ。褒めてやってるんだぜ? 忘れるなよ、今や俺の立場の方が上だ。俺はこうして、『デモンズタワー』を任されるようになった。布教も満足にできない下っ端が、歯向かっていい相手じゃない」
紫の法衣の男、ゴンズは怒りに顔を歪ませた。
「貴様……!!」
「――おやめなさい、ふたりとも」
一触即発のふたりを、突如響いてきた声が制す。連れてこられた子供たちが驚いて振り返ると、先ほどまで暗闇しかなかった背後の空間に深紅の法衣の男が立っていた。
「……ゲマ卿」
「ジャミ卿、ゴンズ卿。あなた方は我らが神に仕える身として、多くの信者の模範でなくてはなりません。子供たちもいる前で、はしたない姿を見せるべきではない。それに、我々は同志です。同じ志を持つ者には敬意を払いなさい。間違っても、我々が傷つけあうようなことがあってはなりません。……良いですね、ゴンズ卿?」
「……仰せのままに」
今にもジャミに飛び掛かろうとしていたゴンズだが、ゲマの言葉を聞いて素直に引き下がった。
「それからジャミ卿。経過はどうなっていますか?」
「……グランバニアの守りは固い。魔物どもを何度かけしかけたが、城門を突破することもできねぇ」
「さすがは世界一の軍事国家。……あのパパスの率いた国というわけですねぇ」
「どうする? ”あっち”から何匹か呼び寄せるか?」
「それには及びません。以前にも言った通り貴方の役目は牽制と監視ですジャミ卿。いえむしろ……城門は突破してはいけない。突破されないギリギリのところで守らせ続けるのです。彼らは他国に救援を求めることもできず、孤独に消耗し、絶望し、やがて自ら魂を差し出すようになるでしょう。……愚かなラインハットの国民のようにね」
不敵に笑うゲマに、ゴンズが声をかける。
「だがゲマ卿、グランバニア王家の血筋は途絶えたはずだ。賢王は死に、そのガキも“ハズレ”だった。もう用はない。叩き潰しても構わねぇんじゃないか?」
「ああゴンズ卿、滅多なことを言うものではありませんよ? 信者になり得る人間は貴重な労働力にして、大切なリソースです。貴方のその短絡的で、下品で、無粋な思考が、レヌール王国を無意味に滅ぼしてしまったことをお忘れですか?」
「……」
ゲマの言葉にゴンズは奥歯を噛み締め、その様子を見ていたジャミはにやりと口の端を吊り上げた。
「それに、件のパパスの息子ですが……どうやら神殿を抜け出していたみたいです。少し前にジャミ卿がラインハットで出会ったと」
「ああ、間違いない。どこぞの単細胞と違って、俺は物覚えが良いからな」
「サラボナ市民の情報によると、彼はグランバニアに向かったと聞いています。まあ道理でしょう。そしてもうひとつ……彼は伴侶を得ています。サラボナの令嬢と契りを交わしたとか。この意味がわかりますね……?」
「「……!」」
「そうです。かの国の血筋は途絶えてはいない。我らが神のお通りになる道を築き、世界を創り直すことが我々の悲願。そのためには、“脅威”となるものはあらかじめ排除しなくてはなりません。……ジャミ卿?」
「ああ、引き続き監視と牽制だな。あの男の動向を探りつつ、グランバニアの国力をチーズを削るみてえに削ぎ落してやるよ」
「それからゴンズ卿。貴方も引き続き”布教”をお願いします。……数年前に見つけたレヌール王家の遠縁の彼もハズレでした。やはり正統でなくてはならないようです。そうなると残るはグランバニアと、未だに尻尾も掴ませてくれないテルパドールの方々だけですからね」
「……はっ」
3人の宣教師が不敵に微笑む。その様子を見ていた子供たちのうち、ひとりの少女が震える足で立ち上がった。
「あ、あの……!」
「おや……?」
ゲマが振り返る。その柔和な表情を見て、少女はほんの少しだけ緊張を緩めた。どうやら彼女は、この中で最年長のようだ。
「あの……みんなをおうちに返してくれませんか? わたしが! みんなの代わりに働きますから……!」
震える声で叫ぶ少女を、周りの子供たちが不安げに見上げた。ゲマは穏やかに微笑み、滑るような挙動で少女の傍へやってくる。
「おやおや……なんと健気な。幼い子供たちのために、犠牲になろうとするなんて……」
「お、お願いです……! なんでも言うことを聞きますから……」
少女の頬に、ゲマが手を添えた。驚いて目を見開くも、懸命に目の前の男を睨み付ける。
「ですが、貴女を犠牲にして助かったところで、子供たちは喜ぶでしょうか?」
「……! そ、それは……、そう、ですよ! みんな、生きていた方が良いに決まってます! だったら、わたしが犠牲になれれば……」
「では、聞いてみましょうか」
背後の子供たちは今のやり取りを聞いて、顔を真っ青にしていた。幼いなりに、目の前の彼女が自分たちのことを身を挺して助けようとしてくれることに気付いているのだろう。
「どうでしょうかみなさん? 君たちは、彼女のことを犠牲にしてでも助かりたいですか? 彼女を見捨てて、おうちに帰りたいですか?」
子供たちは涙を浮かべながら……首を横に振った。誰一人として、彼女の犠牲を望む者はいなかった。
「みんな……」
「なるほど……素晴らしい。私は感動しましたよ。人の絆が……これほどのものとはねぇ。お嬢さん、名前は?」
「あ……アニー」
「アニー……貴女は、みんなに愛されているのですね。そんな彼らの前で自分だけが犠牲になるなどと言うことがどれだけ悲しいことか、わかりましたか……?」
ゲマは優しく、彼女の頭を撫でた。押さえ込んでいた恐怖が一気に緩み、アニーの両目から涙があふれだす。
「う、うぅ……!」
その姿につられ、後ろの子供たちも声を上げて泣き出す。
「でも……わたしはおねえちゃんだから! みんなを、守らなきゃ……って……」
「ああ、素敵です。素敵ですよアニー。では……」
ゲマは手を離し、彼女から離れていった。ふわりと解ける緊張に、子供たちの視線が上がる。
次の瞬間、アニーの両腕が音もなく、肩口から切り落とされた。
「――え、あ?」
広間に大絶叫が響き渡る。アニーが泡を吹いて倒れ、子供たちも各々悲鳴を上げる。
「さあ、子供たち。大変ですよ。君たちの大切なお姉ちゃんが、もう働けない体になってしまいました。どうしましょう。このままでは彼女は用済みとなって殺されてしまうでしょう。……さあ、大切な大切なお姉ちゃんの代わりに、身を粉にして働いてくれる子はいませんかねぇ……?」
子供たちが一斉に泣き止んだ。一瞬前までの叫び声が広間に反響し、不快な耳触りを残す。今彼らの幼い思考の中にはふたつの感情があった。彼女を助けなくては、と、自分はこうなりたくない。というふたつの感情が。
そのことを察したゲマは薄く微笑み、踵を返す。
「ようこそ小さな信者たちよ。――全ては、我らが神の世界のために」
紅い法衣の宣教師は部下ひとりを引き連れ、その場を去っていく。
もう子供たちの方など見てもいなかった。