蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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どうもこんばんは。イチゴころころです。

グランバニア山の洞窟はあのはぐれメタルが出没するダンジョンですね。クリア後までお世話になった記憶があります。山ごもりです。

あとやたらと落下ポイント多いですよね。
チゾットの村で倒れた花嫁を連れて何度も『ぴゅーーん』するのはとても心苦しい……。体調不良の原因知っていると尚更ね……。




6-4. グランバニア開城

 

 

 チゾットの村のつり橋、隣のグランバニア山へ向かう橋を渡ると、またも洞窟の入口が現れた。一行は慎重に馬車を渡らせ、村長やお世話になった村人に各々別れを告げて、グランバニア山の洞窟に足を踏み入れた。

 

 不調のフローラを慮り、イーサンや仲間たちはいつも以上に懸命に戦闘をこなした。戦闘だけではない。彼女の待機する馬車がなるべく揺れない道はないかリズが先行して確認し、ロランも魔力探知をフル稼働して余計なエンカウントを避けようとしている。彼女の隣にはトレヴァが常に寄り添い、水分の差し入れなどの面倒を見た。マービンの駆るパトリシアも、いつも以上に慎重に歩みを進めている。

 

「すごいな。別に指示を出したわけじゃないのに。……みんなにとっても、もう君は大切な存在になったってことだね、フローラ」

「嬉しいわ……。本当にわたくしは、素敵な出会いに、恵まれています……」

 

 フローラはやはり本調子ではないようだ。洞窟に入って最初の何回かの戦闘に後方支援で参加したが、そこで限界を迎えたと判断した。魔力を練るのも体力がいる。命中率が著しく落ちているのを見て、彼女は泣く泣く馬車に引っ込むことを決めた。

 

「でも申し訳ないわ……。こうして座っている分には平気なのに……」

「ふらふらしながら言うものじゃないよ」

「体調が戻ったら、みなさんにお礼をして差し上げなきゃですね。もちろん、貴方にもですわ……」

「うん、楽しみにしておくね」

「旦那、ロランが敵影を……見つけたようだ。準備を、頼む」

「よし、行こうかトレヴァ」

「了解!」

「シモンズ、彼女を頼んだ」

『……きゅぴ!』

 

 そうしてイーサンとトレヴァが、フローラとシモンズを残して馬車から出ていく。フローラはこの現状に納得はしていたが、やはりやりきれない部分もあるのだろう。うつむきながら、シモンズの頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫ですからね、シモンズくん。……何も、怖くないわ」

『きゅぴ……』

 

 その言葉がどこか、彼女自身に言い聞かせているように聞こえ、シモンズはちくりと胸が痛むのを感じる。

 

「(いや、なにナイーブになってんだよ俺様は! 貧弱なニンゲンがこんな山なんざ登ろうとするから体を壊して当然だ、自業自得だろう!)」

 

 わしゃわしゃと頭を撫でられながら、シモンズはふと考えた。

 数日前、自分の本性、イーサンたちについていくフリをして実は利用しているだけという思惑がリズにバレた。そのときの彼女の態度は未だに腑に落ちないが、やはりイーサンにばらされると思っていた。しかし、自分は今まで通りの立ち位置で彼らについていけている。……リズは何も喋っていない。今はチョコをくすねる程度だが、将来的にどんな不利益を与えるかわからない自分を野放しにしている。それがどんな意図によるものか、シモンズにはわからなかった。

 

「(それに……)」

 

 グランバニア山の洞窟に入ってから、シモンズはどうも落ち着かない。衰弱したフローラと、それをフォローするイーサンと仲間たち。彼らの前で、『何もできないか弱いシモンズ』を演じる度、先ほどのように胸がざわついた。その正体は、恐らく情だ。シモンズは頭が良い。少し考えたら理解できた、自分が彼女らに少しずつ、情を抱いていることに。

 

「(……ムカつく。要は餌付けされてたってことか俺様は? クソが。チョコを食べ過ぎるのも考え物だぜ……)」

 

 きりきりと、怒りがわいてくる。しかし彼の頭を撫でる手を、振り払うことはしなかった。

 

 

  *  *

 

 

 そして彼らは山を抜け、平原を越え、グランバニア城に辿り着く。巨大な城門の前で待ち受けていたのは、もはや慣れっこになっている仕打ちだった。

 

「……お前が引き連れているのは魔物だな? ここを通すわけにはいかん」

 

 イーサン率いる馬車の前に、十数人の兵士が立ちふさがっていた。彼らは武器を構え、目の前の不審者に向けている。イーサンは手を上げ敵意がないことを示しながらも、声色を強めた。

 

「中に病人がいる。一刻も早く医者に見せたいんだ。どうか中に入れてほしい。……どうか、彼女だけでも」

「黙れ。その病人とやらが人間に化けた魔物であったらたまらないからな。こちらとしても無用な争いは本意ではない。早急に立ち去ってもらおうか」

 

 イーサンは顔をしかめる。取り付く島もないとはこのことだ。よく見ると城門は傷だらけで、視界に映っている兵士たちにはケガをしている者もいた。直近で魔物の襲撃にあったことは容易に想像ができる。……ラインハットのように教団の洗礼を受けたのかもしれない。彼らが教団のことをどこまで知っていて、また警戒しているかはわからないが、少なくとも魔物の存在に敏感になっていることは確かだろう。

 

「――どうかお話を聞いてくださるかしら?」

 

 悶々と悩むイーサンの背後で声がしたと思ったら、フローラが馬車から出てきたところだった。髪は下ろしてあって、足取りもふらついている。

 

「フローラ……安静にしてなきゃだめだろう」

「もう。わたくしのことばかり気にするのはイーサンさんの悪い癖ですわ。……ここに来た本当の理由を話さないと」

「……でも」

「突然現れて“病人を匿ってほしい”とだけ言うなんて、怪しまれても仕方ないですわよ?」

「う、た、確かに……」

 

 ふらふらと前に出るフローラ。イーサンは見かねて彼女の背中を支える。

 

「兵士の皆さん、ごきげんよう。お勤めご苦労様ですわ」

 

 彼女がぺこりとお辞儀をする。グランバニアの兵士たちは目を見開いて硬直していた。

 

「単刀直入に申し上げますね。今こちらでわたくしの肩を支えてくれている逞しいお方……まあわたくしの夫なのですが、彼はパパス王のご子息かもしれないのです」

 

 フローラはたまに脈絡というものを忘れる。

 

「は、はあ?」

 

 一番前にいた兵士が目を丸くした。当然と言えば当然だが。

 

「じょ、冗談も休み休みに言いたまえ! 突然現れた旅人、しかも魔物を従えているようなヤツが、パパス王のご子息なはずがないだろう!」

「あら、ではやはり王子様も行方知れずなんですね」

「え……」

「だってそうじゃありませんか。パパス王が失踪した際、王子様がいらっしゃったなら王位を継いでいますもの。ここで貴方が取り乱すことなんてなかったはずですわ?」

 

 フローラの声色から圧を感じる。恐る恐る彼女の横顔を見たら、血の気はないもののとても可愛らしくにこにこしていた。ああ……怒ってらっしゃる。

 

「そ、そんな世迷言に騙されるか! いかなる理由があれども、不審な輩を国内に入れるわけにはいかない! さあ早く立ち去れ! 命が惜しければな!」

「~~~~っ!!」

 

 フローラはイーサンの手を振り払い、槍を構える兵士に歩み寄っていった。

 

「ちょ……!」

「ええ、ええ! わたくしを斬りたければそうしなさい。でも、よく考えてください、本当に槍を向けるべき相手は誰か!」

 

 面食らう兵士をよそに、フローラは槍の切っ先の一歩手前まで近づいた。鋭い先端に怯える素振りも見せない。

 

「本当に斬り捨てるべきは弱い心です、可能性から目を背ける臆病な心です! 違いますか!!」

 

 彼女の怒声がその場に響き渡った。足取りもおぼつかない小柄な女性。鎧を着こんだ何人もの兵士たちよりも、彼女の方が大きく見えた。

 目の前の兵士がゆっくり槍を下ろす。戸惑ったように目を泳がせた。

 

「自分は……どうしたらいい」

 

 そしてフローラも力尽きたのか、大きくよろめく。イーサンは彼女に駆け寄り抱きとめた。呼吸は荒く、焦点も虚ろだ。

 

「……妻にここまで言ってもらった俺も大概ダサいけど、君たちはどう思う? うん? これでも彼女が、人間に化けた魔物だと思う?」

「う……」

「そして件の、行方知れずの王子様だけど……ひょっとして名前は『イーサン』だったりするのかな?」

「……!!」

 

 兵士が口を大きく開けた。驚きと戸惑いの混じるかすれ声が聞こえてくる。……いよいよ、大当たりかもしれない。

 

 

 

「――坊ちゃま!!」

 

 

 

 ふと城門の方から、どこか間の抜けたような声が聞こえてきた。緑色の服に身を包んだ、ふくよかな男がこちらに向かって走ってきている。

 

「坊ちゃま……! ああ、本当に坊ちゃまだ! みなさん、武器を下ろしなさい! ああもう、早く、道も開けて! ……まさか本当に生きておられるとは! また、お会いできるとは!!」

 

 イーサンは彼の姿、声に覚えがあった。記憶が掘り起こされる。サンタローズの村の、イーサンの知り合いのひとり。いや、知り合いどころではない。父パパスと共に幼少期の面倒を見てくれた人。料理が絶妙においしくなくて、いつも父の顔を引きつらせていた人。

 

「……サンチョ!?」

「ああ、覚えてくださったのですね! イーサン坊ちゃま!」

 

 駆け寄ってきたサンチョはそのままイーサンの手を握った。彼は記憶よりも小さく見えた。だがそれ以外は、思い出の中の彼に相違ない。

 

「サンチョ、まさか君に会えるなんて……。でも、サンチョがここにいるってことは、やっぱり俺の父さんは……!」

「ええ、そうです。グランバニアの偉大な賢王、()()()()()()()()()()()()!」

「……!」

「ずっと探しておりました……。おふたりがラインハットへ向かって、程なくして消息を絶って……。もう亡くなられたかと諦めかけたこともあって……。申し訳ありません、坊ちゃまをずっと、ひとりにしてしまって!」

「サンチョ……」

「でも、それよりも、こうしてまたお会いすることができて……これほど嬉しいことはございません! ……ほら」

 

 サンチョの背後では、先ほどまで武器を構えていた兵士たちが、戸惑いつつも跪いていくのが見えた。

 

「……」

 

 それは圧巻だった。様々な情報の結びつきから本当に自分がグランバニアの王子かもしれないと薄々感じていたイーサンであったが、目の前の屈強な男たちが自分に平伏していく様を見て、ようやく実感が持てた。

 

「……お帰りなさい、イーサン王子。いえ、坊ちゃまと呼ばせてください」

 

 それにサンチョも続き、頭を下げた。そしてすぐに改まり、兵士たちに声をかける。

 

「さあ、何をしているのです! 王子様がお帰りになった、お迎えの準備をいたしましょう! ……坊ちゃま、こちらへ。お仲間さんも、奥様も。歓迎いたしますぞ」

 

 兵士たちがそそくさと城の中へ戻っていく。

 

「あ、待って、フローラを医者に――」

「いいんです、イーサンさん……」

 

 抱えられたままのフローラが、イーサンの袖をきゅっと掴む。

 

「ようやく、ここまで来れたのです……。わたくしたちふたりの、目的の地に……。せめて一緒に、門をくぐらせてください……。わたくしの、最後のわがままです、から……」

 

 彼女はもう息も絶え絶えだ。胸に込み上げてくるものをぐっと抑え、イーサンは彼女に応える。そしてフローラの膝元を抱え上げ、ゆっくり歩きだした。

 

「あ……。ふふ、なんだか、照れちゃいますね……」

「君のお陰で、ここに入れるようなものだからね。さっきの迫力、本当にかっこよかった。見違えたよ」

「だって……ここまで頑張ってきて門前払いなんて……悔しいじゃないですか……。怒りたくもなりますわ……。出過ぎた真似をして、ごめんなさい……」

「とんでもない。君のような芯のある女性に出会えて俺は本当に……幸せだと思う」

「……いま褒めるなんてずるいですわ」

「照れちゃう?」

「はい……かなり。でも……悪い気は……しませんわ……。もっと、褒めてくれても……いいんですよ……?」

「うん、うん……! いくらでも褒める、ふたりきりになれる場所で。もっと君と話したいから。これまでのこともこれからのことも。だからフローラ……頑張って……!」

「わたくしはどこにも行きませんわ……。だから、ね? どうか泣かないで……」

 

 ふたりはそのまま城門をくぐった。その直後、フローラは意識を失うこととなる。

 長い長い、数十歩だった。

 

 

 

 

 

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