蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
こんばんは。イチゴころころです。
ものすごく今更ですが初投稿から1ヶ月以上経ちました。
いつも読んでくださってありがとうございます。
こう考えると1日1話投稿って結構なペースで進みますね。
もうグランバニアか……。
グランバニアは要塞都市だ。
外から見れば巨大な城が建っているだけのように見えるが、城下町はそんな城の『中』にある。堅牢な城の内部に、国民を街ごとすっぽり覆っているのだ。そんな城下町は薄暗く、人でごった返している。まるで地底の街だな、とイーサンは思った。
『失踪した王子の帰還』の噂は既に広まっているらしく、国の要人であるサンチョとその他の兵士たちに囲まれて歩くイーサンは道行く人の注目の的だった。
そして王宮――城の中に城があるのも何とも不思議な感覚だが――まで案内され、現グランバニア王のオジロンと対面した。彼はパパスの弟だという。イーサンはまるで記憶になかったが、幼少期のイーサンを向こうは知っていた。……本当の本当に、イーサンはこの国の王子だということだ。そしてイーサンたちはサンチョ、オジロン王を交えて、物事のいきさつを話すこととなった。
「――以上が、俺の知っていることです。14年前、父さんとラインハットへ向かってから、ここに来るまでの」
イーサンが話し終えると、ふたりは肩を落とし、目を伏せた。
「……そうか。兄上はやはり……。覚悟はしていたが……、ああ。たったひとりの兄弟だったのに……」
「王よ。過ぎたことは変えられません。……今はどうか、パパス王の息子である坊ちゃま、イーサン王子がこうして帰ってきてくれたことだけ、喜ぶべきです……」
「いや、やめてよサンチョ。……俺は王子、なんだろうけど、この国のために働いたことなんてないし……。それに、大切な人を失うことは、その……そうそう受け入れられることじゃない」
そう言うと、オジロン王はかぶりを振ってイーサンを見た。
「……イーサン王子、本当に逞しくなった。私も落ち込んでばかりはいられないな。……今度は私たちが話す番だ。その様子だと君は知らないのだろう? 20年前、君の両親に……当時のグランバニアの王と王妃に何があったのかを」
「はい……。それが知りたくて、ここまで来たのです」
改まるオジロン王に、サンチョが不安の視線を向けた。
「王。その話は彼には酷では……」
「いや。彼の目を見たまえサンチョ。もう、あの頃の幼い子供ではない」
「……坊ちゃま」
「大丈夫だから。……みんなにも聞かせていいですか? こいつらもそのために、ここまでついてきてくれたわけですから」
後ろで控えていた仲間モンスターたちがおずおずと集まってきた。オジロン王は少々面食らったような顔をした後、ゆっくりと頷いた。
「……20年前、ちょうど君がこの王宮でお生まれになられたその日の夜のことだ。……マーサ王妃様が何者かに攫われた」
「……」
「兄上は……パパス王はすぐさま王妃様の行方を求め、国内を捜査したんだ。ここは要塞都市、それも王子が誕生すると大騒ぎしていた時期だ。外部からの侵入者は考えにくい。犯人は国内にいると踏んでいたんだ」
「そして、国内に蔓延るとある宗教に辿り着いたのです」
サンチョの言葉に、イーサンは目を丸くする。
「まさか……『光の教団』?」
「その通りだ。当時は国のひとつの宗派として黙認されていたほど普及率のある宗教だった。だが、調べるとその信者たちに怪しい動きが見られることが判明した」
「それから数年、パパス様は坊ちゃまを育てる一方で徹底した宗教改革を行いました。情報収集も兼ねた『光の教団』の弾圧です」
「邪教の根は数年で潰した。だが王妃様の行方はまったく掴めず、代わりに判明したのはかの教団のおぞましい思惑の数々だった」
イーサンは唾をのんだ。……『光の教団』はこれまで、お世辞にも大々的に流行している印象はなかった。表向きはどこまでも、細々と布教を続ける新興宗教以外の何物でもないと。しかし20年も前、ここグランバニアでは宗派のひとつとして認められるほどの認知度を誇っていたようだ。そしてその結果起こったのが……王妃の誘拐。明らかに何らかの思惑が働き、母マーサを周到な計画の元で攫ったと見て良いだろう。
「……彼らは、魔界の門を開こうとしている」
オジロン王の口から出てきた言葉は、そんなイーサンさえ唖然とさせるようなものであった。
「彼らが魔物と通じているのは存外あっさりと判明した。だが『その先』がわからなかった……。せいぜい魔物をけしかけて世界征服を企んでいるとか、その程度のことだろうと思ったのだ。実際はそんなものじゃあない。彼らは魔界、……魔物の棲む暗黒の世界と“こちら”とを繋げ、その上で世界を支配しようと目論んでいる」
「ま、待ってください! それと、俺の母さんが攫われたのは何の関係が……!」
「王妃様は、そんな魔界に通じる力を持っていたらしい」
「はあ……!?」
「坊ちゃま……実は私どもも、マーサ様のことは詳しく知らないのです。……若き日のパパス様が恋に落ち、辺境の里から半ば強引に連れ出してきた女性。……その里の名は『エルヘブン』、とだけ知らされていました。マーサ様は多くを語る方ではございませんでしたし、私どももその村の名にどれほど重要な意味があるのか、知りもしませんでした……」
「そして王妃様は攫われた。……兄上はもうひとつ情報を掴んだ。魔界に棲む魔物は、『天空の勇者』でしか退けることはできない、とな」
「それで父さんは『天空の勇者』を……」
「ええ。程なくしてパパス様は旅立たれました。幼い坊ちゃまを連れて。……私は当時斥候を務めておりましたので、先行してサンタローズに拠点を築き、パパス様の補佐を任されていたのでございます。……そしておふたりがラインハットへ向かった後サンタローズが襲われ、ああ……おめおめとここに逃げ帰ってきたのです! なんと、情けない……! パパス様に合わせる顔がございません……!」
サンチョが涙を流し、机を殴りつけた。オジロン王が彼の肩に手を置き、話を続ける。
「天空の勇者がどこにいるのかの手掛かりは武具しかない。だが教団も、自分らの思惑の最大の障害になるのはその勇者であることは分かっている。だから奴らも天空の勇者を狙うはずだ。もし教団が勇者を見つけ出し、倒しでもしてしまったら……」
「母さんを救う手立て、いや、世界そのものを救う希望を、俺たち人間は失うというわけですか……」
「そうだ。そして国全体でことを成すには、このグランバニアは少々大きくなり過ぎた。国ぐるみでこの問題を解決するには、様々な法案を通す必要がある。そんなことをしていたら、それだけでさらに数年を費やすことになる。……大国の宿命というやつだ。だから兄上は旅に出た。教団より先に天空の勇者を見つけ、世界と……最愛の人を救うために。私を国王代理にして、政治を任すことによってな」
「……」
話の全容は見えた。膨大な情報を、イーサンは自分の脳がかちかちと整理しているのを感じた。しかし、あまりにも大きく、多すぎる情報は簡単には切り崩せず、いびつな形のままでイーサンの胸にのしかかってくる。
「これが、君のご両親に起こったことの全てだ。そこから先は、君の方が詳しいだろう。……先ほど話してくれた通りだ。兄上は身分を隠して旅をしていたはずだが、教団にも目をつけられていたのだろうな」
「私も戻ってきてから知ったことなのですが、グランバニアはあれから20年弱、魔物の襲撃に苛まれています。……恐らくはラインハットと同じく、『光の教団』の教えを拒んだ罰なのでしょう」
「情けないことに、私は戦が苦手だ。……というよりそもそも、兄上と違って私は王としての器を持っていないのだがね……。だがここは軍国グランバニアだ。指揮は軍師に任せているが、魔物に屈したことは一度もない。代わりに、他国に支援を求めに行く余裕も、失踪した王族を探しに行く余裕もなくなってしまったがね」
「20年も……?」
それほど長い時間、彼らは襲い来る『教団の魔物』と戦い続けてきたのだ。城門前でのあの態度も、納得せざるを得ない。
「約7日おきに奴らは襲ってくる。城門を破られはしないが、日々怪我人の連続だ。数年前に屋上の見張り塔を増設した。奴らは北の川を越えた方角からやってくることも分かっている。まあ、本丸を叩きに行く余裕など、こちらにはないのだが……」
「……なるほど」
「我々から話せることは以上だ。……ともかくだ、イーサン王子。まだ実感がわかないだろうが、君はこの国の宝だ。そうやって、君の誕生は皆に祝福された。……グランバニアは君の故郷なんだ。このように物騒な場所ではあるのだが、どうかゆっくりしていってほしい」
オジロン王の言葉を受け止め、イーサンはゆっくりと深呼吸をする。
「はい、そうします。……ここの王子っていう肩書には、あまり慣れる気がしないけど……。妻の体調もありますし、俺も俺でもっと情報収集がしたい。……それに、ここに来ることは俺たちにとって、ひとつの区切りでもありましたから。長いことご厄介になっても良いでしょうか?」
「何を言う。ここはもう、君の実家だ。これからも旅を続けるとしても、このグランバニアを、君の帰ってくる場所にしてくれればと思う」
「あ……」
イーサンにとって『実家』という概念はなかった。唯一故郷だと思っていたサンタローズは滅び、旅人としてどこにも定住しない人生を送ってきた。近い感覚はサラボナにあるが、あそこはどうしてもフローラの実家だという印象がある。……だが、グランバニアは正真正銘、イーサンの故郷だった。このような、“帰ってくる場所”。それがこの国であるということは、彼にとって新鮮な気持ちを与える。
「(でも……)」
ここの記憶がないイーサンには“初めての場所”でもある。それに、生まれてからずっと旅をしてきた彼は、王族として国に尽くしたことがひとつもない。ラインハットのヘンリーは最終的に国に帰り、故郷の政治の立て直しに貢献していた。でも自分は? 王妃のこととはいえ、自分の母親のためだけにずっと旅をして、20年も魔物に襲われるこの国に尽くすこともせず、今更のこのこ帰ってきた自分が、故郷だと言う資格はあるのだろうか……?
「……トレヴァ」
「キキ?」
「あとで兵舎まで案内してもらって、怪我人の治療を頼めないか?」
「うん お安い ご用だよ」
「坊ちゃま、何を――?」
「それからロラン、君は見張り塔に。君の魔力探知が、索敵に役立つだろうから。……一応、リズも監督役で付いていって」
「任せる ナリ!」
「ま、しょうがにゃいにゃ」
「マービン、シモンズを連れて馬小屋に。さっき見たら人手が足りてなさそうだったから、パトリシアの面倒のついでに他の馬も見てやってほしい」
「ああ、わかった……」
『きゅぴ……』
「い、イーサン王子、これは……?」
「オジロン王。俺は魔物使いですので、これくらいしかできることがありません。……記憶はないけど、幼い俺を育ててくれたこの国。そして今俺たちを受け入れ、……フローラの病気も見てくれているお礼と言うか。……俺にもこの国に、何かできることがないかなって思いまして。こんな形ではありますが」
「……とんでもない。そのお気持ち、ありがたく頂戴する」
「良かった。じゃあサンチョ。彼らをそれぞれ案内してやってほしい。突然魔物が現れたら流石にみんなもびっくりするだろうから」
「お任せを。坊ちゃま」
「みんな、迷わないようにな」
仲間たちがサンチョの周りに集まっていくと、ふいに部屋のドアがノックされる。オジロン王が通すと、妙齢のメイドが入ってきた。
「フローラ様がお目覚めになられました」
「……! 彼女は無事ですか!?」
イーサンがメイドに駆け寄ると、彼女はイーサンの肩を掴んで制した。
「どうか落ち着いてくださいな。なんてことはありませんでした」
なんてことないわけない、とイーサンが困惑していると、メイドが微笑みを称えて続ける。
「……おめでたです」
「…………へ?」
「フローラ様は妊娠していらっしゃいました。……おめでとうございます、イーサン王子」
理解するのに数秒を要した。でも理解した。してしまった。
「ええええええええええ~~~~~~~~~~っっ!?」