蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
どうもどうも、イチゴころころです。
ドラクエ10オフライン版がそろそろ発売されますね。
オンライン版もプレイしたことがある身として結構楽しみです。
9月はほしいゲームが多いよ……。
シモンズは困惑していた。
自分の役目はマービンの補佐だ。彼と共に馬小屋の馬たちのお世話をする。正直面倒極まりないのだが、従わない方が後々面倒になるだろうとしぶしぶ仕事をこなしていた。グランバニアはニンゲンがたくさんいて居心地の悪い場所だったが、夜は別に静かだし、シモンズは彼なりにグランバニアでの生活を堪能していたのだ。王宮で出される食事は馬車で摂るそれより当然豪華だったし、妊娠中とかでなかなか会えないけどフローラの部屋に顔を出せばチョコをもらうことだってできた。……ここで過ごすのも悪くない。そう思っていたのだが……。
「この平原もそれなりに高地にあるみたいだ。風が涼しくて気持ちいいな、シモンズ」
そんなシモンズは今、主であるイーサンと共にグランバニア城の東へ向かっている。何でもそこには『試練の洞窟』なる遺跡があって、イーサンはそこから『王家の証』を持って帰ってくるというクエストを受けていて、本来ならひとりで挑むというしきたりがあるものの『魔物使い』という特殊な職業柄『魔物を一匹だけ』連れて行っていいという特別な措置が取られ、そんなイーサンのバディという大役を任されたのが『シモンズ』だったというわけだ。
「(いやいやいやワケわかんねえだろうが!!!! なんで俺様なんだよ!! 非戦闘員ぞ!! もっと他にいただろ!!)」
シモンズも本当は戦えるが、そんなことはおくびにも出さずに彼らと接してきた。だからイーサンにとってのシモンズは『か弱いミニデーモンのシモンズくん』以外の何者でもないはずだ。
「(馬車番のマービンはないにしても……。イーサンと息ぴったりのリズネコ、オールラウンダーのトレヴァ、それに無敵のロランだっていただろうに! そんな連中放っておいて俺様を選ぶか普通!? てかその遺跡ヤバイんだろ!? 尚更おかしいだろうが!!)」
「どうしたシモンズ?」
「ぇあ!? あ、……『きゅぴ』」
「……ふふ。ま、気楽についてきてくれ」
「(ふふって言ったぞこいつ今!! ばれてる!? 俺様の本性がばれてるのか!? まさかあのネコ公、チクりやがったか!?)」
「遺跡までは半日もかからない。もう少ししたら食事にしよう。……ああ、安心してくれ、フローラからチョコの差し入れももらってる」
『きゅっぴぃ!』
シモンズは必死につぶらな瞳を創り上げ、つかみどころのない笑顔を浮かべるイーサンに向けた。
「(や、やりづらい! やりづらいよぉ!! 助けて、誰か助けて!!)」
* *
2日前の夜。イーサンから王位継承と王家の試練について話されたフローラは目を輝かせた。
「まあ……、じゃあもしかしてわたくし、王妃様になっちゃうのかしら」
「あれ、意外とまんざらでもない?」
「だってだって、お姫様になるのなんて世界中の女の子の憧れですのよ?」
「すっ飛ばして王妃様だけどね。それにもう女の子とかお姫様とかいう年齢じゃあ……」
「
「すみませんでした」
フローラは大きなベッドに横たわり、薄手のネグリジェの上から毛布を被っていた。お腹の辺りが膨らんできているのが伺える。
「うふふ。わたくしもまだまだぴちぴちですわ。……まあ、もうすぐお母さんになるのですが」
「フローラ……」
彼女はお腹をさすり、部屋の隅にかけられた旅装を見やった。3年前、サラボナでイーサンが見繕ってくれた服。彼からの初めてのプレゼントだ。
「ごめんなさいイーサンさん。せっかく選んでくれたお洋服なのに、当分着られそうにありません……」
「ああ……いいんだよフローラ。君の体調も良くなって、こうしてまたお喋りができるだけで十分嬉しい。だから君は、俺たちの子供のために頑張ってくれ」
「ええ、もちろんです。……あ、じゃあこの子は王子様になるのかしら。いや王女様の可能性もありますわね。うーん、女の子だったらお姫様ですか……羨ましいわ」
フローラはうきうきした視線を自分のお腹に向ける。イーサンは肩を落とした。
「いや……まだ俺が王様になるって決まったわけじゃないから」
王家の試練のことを聞いた後、イーサンはこうしてフローラに会いに来たのだ。どうしようもなく考えが散らかったので、彼女に会いたくなったというのが本音だが。
「ですよね。なんだかここ数日、悩んでいらっしゃるようでしたから。きっと悩みに耐えられなくなって、わたくしの声が聞きたくなったのではなくて?」
「……図星でございます」
「やっぱり。ふふ、うふふふ……」
フローラは自分の頬に手を置き、溶けたチーズのような顔をしている。
「……なんか嬉しそうだね」
「もちろんです。こうしてイーサンさんの方から相談しに来ることなんて滅多にありませんでしたから」
「そうだっけ……?」
「そうです。だから嬉しくて。なんだか、夫婦って感じがしますし」
「いや夫婦なんだけどね」
「そうですね。うふふふ……」
溶けたチーズを表情から滴らせるフローラはそのまま、イーサンの手を握りしめた。ほんのりと温かい。イーサンは少しだけ、気分が落ち着くのを感じた。
「うーん、でも笑い事じゃないよフローラ……。俺本当に、どうしたらいいかわからなくて……」
「……ですわよね。グランバニアの王子様であったことは何となく覚悟ができていましたけど、間髪入れずに今度は王様ですものね」
「ああ、そうなんだよ。俺を認めてくれる人は多いし、認められない人も、その試練を俺が乗り越えられたら認めざるを得ない。それは理屈では分かっている。……でもどうしても自信がないんだ。一介の旅人で、魔物使いである俺が、国を引っ張っていく自信がさ……」
「うーん……」
フローラはしばし考えた後、わざとらしく咳払いをした。
「……つまり、一番納得していないのは君自身なんじゃないかな?」
「え……フローラ?」
聞いたこともないような低い声で喋りかけてくるものだから、イーサンは言葉を失ってしまう。構わずフローラは続けた。
「みんなに認められ、そうでない人も納得させる手段を知って尚踏み出す勇気が出ないのなら、残りは君自身の問題だと思うな。……何度も言うように『大事なのは気持ち』だ。でもその気持ちさえ迷子になっているようなら、とりあえずその試練とやらに挑戦してみてはどうだろう?」
するりと、フローラの奇妙な口調から放たれる言葉が胸に染みわたっていく。
「いいかい、逆に考えてみよう。それが本当に王家の資格を示す試練であるなら、もし、もしそれを達成出来たら君は『真の王』なんだ。その結果に、君自身すら納得せざるを得ないだろうね。これは他人に示す試練じゃない。君自身の心に、君自身の資格を示す試練なんだと」
「……!」
イーサンは目を見開いた。フローラは短く息をつき、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「似てました?」
「……まさかとは思うけどそれ、俺の真似?」
「きっとわたくしが同じことで悩んでいたら、貴方はそう言ってくれるかなって思いまして」
「……」
ぎくりと胸が鳴る。……妙に納得できたのはそのせいだ。彼女は客観的に見た、イーサンの状況を教えてくれたのだ。
「それに貴方が王子様だろうと王様だろうと……神様であったとしても、それ以前に貴方はわたくしの夫です。以前申した通り、わたくしにとってはひとりの夫に違いありませんから」
「そう、だよな……」
イーサンは顔を上げ、ゆっくりと立ち上がった。
「何よりも俺自身を納得させるための試練か。うん、うん。腑に落ちた。……ありがとうフローラ」
「ふふ、モノマネ作戦大成功ですわね。貴方の喋り方には不思議な説得力がありますから、試してみて正解でした」
「いやいや、言っとくけど全然似てなかったと思うよ? 俺、あんなに偉そうには喋らないから」
イーサンが鼻を鳴らすと、フローラは悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「あらあら、昨日リズちゃんに披露したときは大絶賛でしたのよ?」
「……え、そんなことしてたの」
「お腹を抱えて笑ってましたのに、わたくしもまだまだですわね……。今度はトレヴァちゃんに見てもらおうかしら。わたくしの隠し芸、イーサンさんのモノマネシリーズ」
「勘弁してください……」
* *
かくして、イーサンは『王家の試練』に挑戦することを決意した。他でもない、迷う自分の心に資格を示すために。
……というのはなんとなく分かっていたのだが、どうしてもシモンズは自分がここにいることが理解できない。
「(ばれてるのか……。リズネコのやつ、チクる気はないみたいなこと言ってたのは嘘っぱちだったのか? どうなるんだ俺様は……)」
「なあシモンズ」
昼。木陰で食事をとるイーサンはシモンズに『メダル型チョコ』を差し出しながら声をかけた。シモンズは戸惑いつつも、そのチョコを受け取る。
「……俺はグランバニア王になれるのかな」
『きゅぴ……?』
何を言っているのか良く分からない、という表情を作りながら、シモンズは心の中で憤慨する。
「(知るかーーーー!!! ニンゲンの社会のことを俺様に聞くな!! 大体、資格があるかどうかの判断をするための試練なんだろうが!! こんなとこで弱音を吐くな!! そして俺にそんな反応に困るセリフを吐くなぁーーー!!)」
そして、次にイーサンの口から出てきた言葉にシモンズの心臓は凍り付く。
「いや、良いからそう言うの。こっちは真剣に相談してるんだからさ。……
『ぇきゅっ……!?』
恐る恐る彼の顔を覗き上げると、イーサンはにこにこと笑いながらもうひとつのチョコを差し出している。どことなく、怒った時のフローラに似ている気がした。
「…………」
「取って食ったりはしない。安心しなよシモンズ。ほら」
シモンズは差し出されたチョコを手に取り、遂に観念した。
「……リズのやつにチクられたのかよ」
「へえ、リズも気付いていたのか。流石だな、彼女も賢くなった」
「ちっ、どいつもこいつも抜け目なさすぎるだろう……」
チョコを口に放り、シモンズは槍を取り出した。
「で、なんだ? 俺様を同行者に選んだのはヒトケのない場所で始末するためだったってか?」
「まさか。言っただろう、別に取って食ったりなんかしないよ。……人気のない場所の方が、君の本音を聞けると思ってさ」
「……」
両手を上げるイーサンに対し、シモンズは敵意の目線を送り続ける。
「俺様の本音はたったひとつ。お前らと行動した方が楽に生きられそうだったから、それだけだ。これじゃお気に召さねえかよ?」
「いや、むしろそういう雑な発想は嫌いじゃないよ。でも演技まで雑なのは反省点じゃないかな? 君のそのドライな視線、気付かないとでも思った?」
「……ご忠告どうも」
言葉を交わしながら、サンドイッチを頬張るイーサン。シモンズは槍を構えたまま静かに動揺していた。彼の思惑が見えない。
「うん、おいしい。流石は王宮付きのメイドさんお手製と言ったところだな。味付けがしっかりしている。……でも俺はフローラのサンドイッチの方が好きだな。素材の味が活きているというか、何か癖になるんだよね、彼女の料理。……あ、こういうところが嫁バカなのかね」
シモンズは槍を握る手に汗が浮かぶのを感じた。本当に彼には敵意がないのだ。不気味なほどに。
「……てめえ、何考えてやがる」
「半分くらいは『フローラ可愛い』ってこと。あ、でも今は王位継承の悩みの方が大きいかも」
そんな馬鹿らしいことを淡々と喋るイーサン。
「他人事みたいに言ってる場合かよ。俺様は言わば裏切り者だぜ?」
「仲間に手を出すほど、俺は落ちぶれちゃいない。うん、うん。やっぱり君を同行者にして正解だったみたいだなぁ」
イーサンは嬉しそうに笑いながら弁当箱を片付けた。立ち上がり、出発の支度を始める。
「本音を聞けて嬉しかったよシモンズ。じゃあ、行くか」
「なっ、てめえ! 本当にどういうつもりだ! さっきから言ってる意味が何もわかんねえぞ!」
「聡明な君なら分かってると思うけど、俺は今悩んでる。その答えを見つけることがこのクエストの主な目的だ。そのためにはシモンズ、君の力が必要かもしれなかったってこと。……まあさっき確信したけどね。君の力は必要不可欠だ」
「……言っとくが俺様は戦わないからな。危険が過ぎると判断したらお前なんか見捨ててひとりでも遺跡から逃げてやる。今は利用価値があるからついて行ってるだけでお前との関係性に義理も責任もねえからな」
「それでいい」
「……!」
イーサンは『奇跡の剣』を背負い、東に向かって歩き出した。
「それと、君戦えたんだな。てっきり戦えないのは本当かと思っていたけど、是非今度暇なときにでも君の実力を見せてもらいたいね」
「てめえ……」
カマをかけられていたことに気付くシモンズ。奥歯を噛みしめながら槍を仕舞い、歩き去るイーサンの後を追った。
* *
『試練の洞窟』は、名前に洞窟とはあるが何度も出てきているように『遺跡』の方が印象としては相応しい。試練に挑むに当たりいくつか文献を調べたイーサンだったが、その起源はグランバニア建国まで遡るらしい。
古の時代、ある高名な戦士が建国したグランバニア王国は、力で正義を示す戦士の国だった。歴史書の中には『剣闘士の国』と記述されていたものもあり、当初の王は決闘と言う名の殺し合いで決められていたそうだ。グランバニア人はそんな戦士たちの血を引いているということになる。世襲制が定められ時代に合わせた成長を遂げた今でさえ、世界一の軍事国家として名を馳せるのも納得と言える。
数多の剣闘士たちが血を流した初代グランバニア城はあるとき、災害に見舞われて壊滅した。それは魔物の襲撃とも言われているし、豪雨と土砂崩れで城下町もろとも飲み込まれたとも言われている。諸説はあるが、それを機会に今のグランバニア城、平原の真ん中の要塞都市が築き上げられそちらに遷都したのだという。そして廃墟となった初代グランバニア城跡こそが現在の『試練の洞窟』であり、近代までの何人もの王を決めてきた由緒ある遺跡となったようだ。
「……確かに城跡に見えなくもないけど、門構えが禍々しすぎるな。サンチョの話だと遷都した後も何回か改築が行われて、『試練』専用にチューンナップされてるんだとか」
「ハン。物好きだねぇ昔のニンゲンも」
イーサンとシモンズは今、そんな遺跡の入口に立っている。長い年月を経て遺跡は半分ほど山に埋もれていて、そこが『洞窟』と名付けられたのも『土砂崩れ』説が浮かんでいるのも納得できる。ツタが無造作に伸びる入口の奥には、不気味な暗闇が広がっていた。
「それからこれもサンチョの話なんだけど、不自然な死亡事故が改築以前から頻発してたんだって。遷都直後に『七王期』っていう、王を名乗るものが乱立して国が七つに分かれた時期があったみたい。それで、グランバニア統一をかけてこの遺跡で大規模な決闘をしたんだとか。それが『王家の試練』の起源。……でも一説によると、生き残った一人を除いて他の六王は戦闘以外の要因による不審死。その後の試練でも挑戦した王族が謎の死を遂げることが多かったらしい。国の伝統だったんだけど、廃止になったときは王族の皆様は安堵したらしいよ」
「……随分勉強熱心じゃねえか」
「サンチョにめちゃくちゃ釘を刺されたからね。それに下手な死に方したらフローラに殺される」
「文章壊れてるぞ。頭良いんだか悪いんだかわかんねえなお前」
「頭は良いんじゃない? 学がないだけで」
「自分で言うかよ……。で? その不審死の原因は?」
「不明らしい。共通する手掛かりは『精神を蝕まれた』っていう歴代王様の証言のみ」
「……対策はあんのか?」
「ない」
「はあ!?」
自分がここに連れてこられた理由、もしかしたらその不審死に対する勝算に関係しているのではないかと少し考えていたシモンズだったが、どうやら見当違いだったようだ。
「お互い気を付けようぜシモンズ。じゃあ、入るか」
「俺様は確信したぞ。お前は馬鹿だ」
* *
松明片手に洞窟を進む。『試練』専用に改築された遺跡は入り組んだ構造をしていて、行く手を阻む仕掛けも多い。鍵のかかった扉、首を回してスイッチ代わりになる石像、突如吹き出す炎など、その形態も様々だ。しかし幼少期からダンジョン探索の経験を積んできたイーサンには何てことないものがほとんどだった。その都度機転を利かし、トラップを乗り越えていく。
「ほらほら、頭良いだろ俺」
「だから自分で言うな。それは馬鹿のすることだ」
当然、魔物も闊歩していた。シモンズは宣言通り一切戦闘には参加しなかったが、ひとりでも十分すぎるほど、イーサンの実力は本物だった。狭くて得意のブーメランは使えないイーサンであったが、松明で視界を得ながら器用に戦い、決してテンポが良いとは言えないまでも確実に、危なげなく魔物を退けている。
「……ふう、こうしてひとりで戦ってみると仲間の偉大さに気付かされるな。みんながいたらこんなダンジョン一瞬だよ一瞬」
「思わせぶりにこっち見んなよ。そんな目をされたところで宣言通り俺様は戦わねえからな」
「ばれたかー」
「厚かましいんだよ。演技が雑なのはどっちだっつの。……よっと」
イーサンの前方をぱたぱたと飛んでいたシモンズだったが、段差に腰を下ろして息をついた。ミニデーモンの背中には可愛らしい翼があって浮遊もできるのだが、小さな翼では長くは飛んでいられない。
「なあ、イーサン。前々から思ってたんだけどよ」
「うん?」
「お前は魔物を従える魔物使いだが、こうして襲ってくる魔物は容赦なく斬り殺すだろ?」
「……」
「イーサン、
松明に照らされるイーサンの横顔が、微かに引きつったように見えた。
「俺様も、リズネコやトレヴァも魔物だ。魔物同士で仲間割れも共食いもある。ニンゲンなんかと同じ死生観はもともと持ち合わせちゃいねえから、野生の魔物を殺すことに疑問は感じねえだろうけど。……お前はニンゲンだろ? しかも魔物に肩入れしている物好きなヤツだ。……お前は、何を考えて旅をしてきたんだ?」
「……」
イーサンは静かに『奇跡の剣』を鞘に仕舞った。かたかたと金属のぶつかる音が聞こえたことから、彼の手が震えていたことがわかる。それからイーサンはゆっくりと口を開いた。
「……長年、リズを仲間にした時から気にしないようにしてきたことを、ずばり言い当てられるとはね。やっぱり君を連れてきたのは正解だった」
「ハン。またワケの分からんことを……。どーでもいいけどよぉ、お前これ、王になれるかどうかの試練なんだろ? てめえのことも満足に紐解けないようなヤツが、何かを統べることなんてできねえと思うぜ」
「……うん、分かっている」
声の圧が目に見えて弱まった。ざまあみろとシモンズは心の中で舌を出す。しかし不思議に思っていたのも事実だ。イーサンは仲間と、そうでない魔物を不自然に線引きしている。襲い来る魔物は全力で迎撃し、“はぐれメタル”に至っては積極的に狩りに行った。かと言って仲間の魔物を、例えばグランバニア城門でのやり取りの時みたいに蔑ろにされたら怒りを露わにする。……それは言わば『矛盾』だ。自分の仲間になる魔物は良し、そうでないものは悪し、なのだから。そして魔物の端くれであるシモンズからは……『魔物的』とも言えると思った。だがこうして、王位継承のことや自身の矛盾に悩む姿は逆に『人間的』と言える。――どちら側の存在か。シモンズのその問いはイーサンの根本を問うものだったのだろう。そしてそれが自分自身で落とし込めない限り、イーサンは悩みを抜けることはできない。王位を継ぐことも、納得に至らないのだろう。
ふと、前を歩くイーサンが剣を抜いた。何事かとシモンズが身構えると、道の後方、今まで歩いてきた方角から微かに物音が聞こえてくるのがわかる。
「……おいイーサン。これ」
「うん。追手だね。……シモンズ、何者かわかる?」
「ロランの魔物レーダーと同じに扱うんじゃねえ。……でもこれだけは言えるな、この遺跡の魔物とは匂いが違う」
「なるほど……」
「なんだよ。グランバニアの連中が心配で見に来たとかじゃないだろうな」
「多分逆だろ。……俺を殺しに来た」
「誰がそんなこと……」
「ひとつしかない」
イーサンは剣を構えたまま振り返る。背後の暗闇からは、確かな複数の足音が聞こえてくる。
「――教団、だろうね」
シモンズは全身から血の気が引くのを感じた。翼を動かし浮遊して、イーサンの後ろに回り込む。
「お、おい。俺様は戦わないからな! 宣言通りだからな!」
「大丈夫。君はそれでいい」
「スカシてんじゃねえぞ馬鹿野郎! 相手は複数だ、お前も逃げた方が良い!」
くいくいと、シモンズはイーサンの襟を引っ張った、彼の首元が汗ばんでいるのがわかる。
「ここまで来て逃げられないよ。ここで迎え撃つ」
「なん――!?」
松明の明かりの向こうに、ぼんやりと一対の影が現れた。追手の姿ははっきりとは見えないが、その歪なシルエットがニンゲンでないことだけは明らかだ。
「お、俺様は……俺様は知らないからな!!」
シモンズはそう吐き捨て、近場の物陰に引っ込んでいった。残されたイーサンはじっと、目の前のぼんやりとした敵影を見る。
「……まったくさあ。こんなときくらい静かに悩ませてほしいんだけど」
腰を落とし、剣の切っ先で床をちりりとひっかく。
追手とイーサン。両者が飛び出すのは同時だった。