蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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こんばんは。イチゴころころです。

ドラクエ11S、ついにニズゼルファ討伐しました。やったー。
これまでのラスボスとはあらゆる面で一風変わったニズゼルファが結構好きです。

そしてやっぱ11のストーリー全部見ると今度は3やりたくなるんですよねぇ……。




6-8. 王家の試練③ イーサンの狂気

 

 

 敵の数は2体。両手に盾を持った獣人と、これまた両手に斧を持った怪人だ。どちらも見覚えのある魔物ではないが、イーサンはそれらが教団の差し金であると確信していた。

 

「(王という精神的支柱を得てグランバニアの人々が活気付くと、城を攻めに来る教団側からして不都合極まりないってわけね……。動機としては分かりやすい。じゃあ問題は……)」

 

 斧怪人が両手の斧を床に叩き付けた。派手な音と共に石畳が砕け散り、飛来する破片がイーサンの二の腕と脇腹をえぐった。

 

「――っ」

 

 イーサンは痛みに顔を歪ませつつも、隙を晒した斧怪人に剣技を浴びせる。

 

「(問題は俺が王家の試練を受けに来ることをどこで知ったかだ。やはりシモンズ? いや、彼の助言がなければこいつらの奇襲は成功していた。彼が教団と繋がっているとは考えにくい。俺が今ここにいることを、こいつらがどうやって掴んだか――)」

 

 鈍い金属音と共に、イーサンの振るう剣戟が弾かれる。割り込んできた盾獣人が、二枚の強固な盾で渾身の剣技を受け止めたのだ。イーサンの持つ『奇跡の剣』には、与えたダメージに応じて装備者の傷を癒す効果があるが、それは攻撃が通らないと意味をなさない。

 

「(もうひとつの問題は、こいつらが強すぎるということ……!! 連携が完璧すぎる! ここまでの打ち合いでわかった……俺は“勝てない”!!)」

 

 斧怪人がその得物を振り上げた。背筋が凍る。石造りの床を粉砕する一撃だ。そんなものをまともに食らったら、イーサンの体はバラバラになってしまう。

 

「くそっ!!」

 

 咄嗟に床を蹴って距離を取るイーサン。斧の一撃は躱したものの、その敵はもう一本の斧を既に振り上げていた。

 

「まず――!?」

 

 もう一本の斧がイーサンの斜め前、ひび割れた石柱を殴りつけた。怪力をふんだんに乗せた一撃はその石柱を破壊。破片が飛び散り、イーサンの全身を叩く。

 

「うぐっ――!!」

 

 彼の体は軽々と吹き飛ばされ、床の上を転がった。するとすぐそばのツボの裏から顔面蒼白のシモンズが飛び出してきた。

 

「だから言ったろ馬鹿野郎! 分が悪すぎる! 逃げるぞイーサン、はやく!!」

「……ちょっとだけ賛成。仕切り直しか」

 

 よろめくイーサンの肩をシモンズが支え、敵と反対方向の通路に逃げ込んでいった。それを眺めていた追手もまた、ゆっくりと彼らを追っていく。

 

 

  *  *

 

 

 通路を全力で走り、突き当りに辿り着いた。左右に通路が伸びている。

 

「ここは……さっきも通ったところかな。ってことは……」

「ああ、俺様も覚えてるぜ。こっちに行けば出口だ。ふう、助かったぜ……」

 

 翼が千切れ飛ぶほどの勢いで浮遊してきたシモンズは床に降り、大きくため息をついた。長く飛べないシモンズは逃げ切れるかどうかも不確定だったが、意外と近くに出口があったので安堵する。

 しかし傍らのイーサン、既に手負いとなった主は信じられないことを口走る。

 

「いや、出口には行かない。俺はこっちに進むよ」

「……は?」

「言っただろう。ここまで来て引き返すことなんてできない。あいつらを撒きながら……王家の証を探す」

 

 シモンズは肩を落とした。

 

「……馬鹿もここまでくると呆れるな。お前、本当に死ぬぞ?」

「……」

「もう意地なんだろ、それ。そんなつまらんことで命をドブに捨てるなんざ――」

「……!? シモンズ!!」

 

 イーサンがシモンズを突き飛ばす。直後、さっきまでシモンズが立っていた床に投げられた斧が突き刺さった。

 

「追い付かれたか……!」

 

 通路の向こうに、一対の影が見える。それらは静かに、しかし確実にこちらへ近づいてきている。

 

「……もう、お前との関係もここまでだ! 死にたいならひとりで死ね!!」

 

 シモンズが出口に向かって走り出そうとしたその時だった。

 床が傾き、下の空間に向かって崩れ始める。

 

「あ……」

 

 斧が突き刺さった影響か、老朽化した遺跡の床が限界を迎えたのだろう。斧を中心にぽっかりと、……ちょうどシモンズの立っている場所が崩れ落ちていく。

 

「(やっちまった……。もう、翼は動かねえか)」

 

 ついさっきまで全力で飛行していたせいで、背中の翼はしばらく動かない。自分でも驚くほど冷静になっているシモンズの視界には、目を見開くイーサンと、再び斧を投擲しようとする斧怪人の姿がスローで映し出される。

 

「(ああ、これじゃ飛べたとしても意味ねぇか……。はは、魔界の悪魔が高いところから落ちて死ぬとか、とんだ笑いものだぜ……)」

 

 一瞬の浮遊感の後、シモンズの体は眼下の闇に吸い込まれていく。

 

「(まったく……こうなるって知ってたら付いてこなきゃよかった……。ていうか、さっきの段階でさっさと逃げてればよかったのに……何やってんだか。やっぱり、チョコの食べ過ぎかなぁ……)」

 

 目を閉じようとしたシモンズの視界が、影に覆われた。それは手だ。差し伸べられた、イーサンの手。

 その手はシモンズの首を掴み、直後にシモンズは一瞬前とは逆の方向に引っ張られるのを感じた。

 

 

 

「――逃げろ、シモンズ!!」

 

 

 

 視界が1回転し、小さな体は床にたたきつけられた。

 

「なん――」

 

 すぐに頭を上げると、床に空いた穴が見て取れる。……咄嗟にイーサンが自分を引っ張り上げてくれたのだと、直感で理解した。だが……どこを見渡しても、イーサンの姿は見えない。

 

「え、え……?」

 

 シモンズは思わず穴の中を覗き込む。しかしそこには、沈黙する暗闇しか広がっていない。

 

「はは……なんだあの野郎。間抜けにも程があるだろ……。俺様なんかほっといてよ……目的のために動けばいいのによ……」

 

 背後からは追手の足音が聞こえる。気配もすぐそこまで迫っていることがわかる。

 

「行動に一貫性がねえんだよお前は……。ほんっと、気に食わねぇな……」

 

 そう呟きながら、シモンズは槍を握りしめた。

 

 

  *  *

 

 

「はあ……っはあ……!」

 

 穴に落ちたイーサンは瓦礫に身をもたげ、打撲箇所を“ホイミ”で治療していた。

 体感ではあるが落下距離はそれほどなく、瓦礫の斜面を転がり落ちてきた印象だ。幸いにも骨折や致命傷はない。打ち付けた痛みを回復呪文で和らげ、イーサンは頭上の暗闇を見上げた。

 

「とりあえず、追手は無し、か……。危なかった。シモンズが心配だけど……、上手いこと逃げてるって、祈るしかないか……」

 

 辺りを見渡す。既にかなりの広範囲を探索していたと思ってはいたのだが、まだ地下にこのような空間があることに驚きを感じた。しかもこの場所は少し、雰囲気が違う。

 

「……」

 

 肩を押さえながら立ち上がり、歩き出す。

 今まで探索してきた遺跡は、ツタの生い茂る石造りの施設だった。本当に『廃墟』という感じだ。だがここは違う。大理石の床、同じく大理石の壁、不規則に並び立つ石柱群も大理石でできている。そしてその大理石だが、奇妙なことに淡く発光しているのだ。松明はどこかに落としてきてしまったようだが、それでも辺りの様子を伺うことができるのはこのためだ。

 

 かつかつと、足音を反響させながらイーサンは歩いた。しばらく歩くと物々しい巨大な通路が姿を見せる。発光する大理石の壁はそこで途切れ、むき出しの岩壁が奥の暗闇に続いていた。そして通路の入口にはボロボロの紋章が刻まれている。イーサンには見覚えがあった。グランバニア王家の家紋である。

 

「……『アタリ』か。思わぬ近道になったってワケね」

 

 イーサンが通路に足を踏み入れようとしたとき、彼の耳が不審な物音を拾う。

 

「……誰だ?」

 

 振り返り、剣を引き抜く。たぶん教団の追手ではないだろうが、確かに気配を感じた。背後の石柱の裏だ。……そう簡単にゴールに向かわせてくれはしないだろうと思っていた。

 

「いるのは、わかっている……。もし俺の言葉がわかるなら、出てきてもらえると嬉しいんだけど?」

 

 反応はない。

 

「……」

 

 しびれを切らしてこちらから覗きに行こうとした瞬間、石柱の裏に隠れていた『それ』が姿を見せてきた。

 

 

 

 『それ』は、イーサンだった。

 

 

 

「え……」

 

 間違いない、自分だ。くすんだ白の旅装。青いマント。同じく青のターバン。黒い髪。背負っている『奇跡の剣』まで、全く同じだ。

 

「お前は……」

 

 あまりにも自分と瓜二つだったので、鏡に映っただけかと一瞬本気で思ったほどだ。しかしそれは間違いだとすぐに気付く。目の前の『自分』が、口の端を歪に吊り上げ話しかけてきたからだ。

 

『――オマエは、王になりたいのか?』

 

 少し低いように思えたが、間違いなく自分の声だった。全身に鳥肌が立つのを感じる。言葉を失うイーサンに、『彼』は再び声をかけてきた。

 

『王になりたくて、ここまで来たんだろう? ……なぜ王になろうとする?』

 

 イーサンは困惑しながらも、その問いには答えなければいけない気がした。その予覚のまま、静かに口を開く。

 

「……必要と、されたからだ」

『じゃあオマエ自身は、別に王になりたいワケじゃないと?』

「わからない……。俺自身の気持ち、それを探るためにここまで来た」

 

 すると自分の姿をした『彼』は、その両目をすうっと細める。

 

『違うな。オマエの気持ちはもう、決まっている』

「……?」

『……力が、欲しいだけなんだろう?』

「なんだと……」

 

 思いもよらぬ言葉。そのはずなのに、胸の奥がざわつくのを感じた。まるで“よくぞ言ってくれた”とでも言うように。

 

『旅の魔物使いイーサン。魔物を従え、手駒として操る。自分の手を汚さずに、安全地帯から指示を出し、自分にとって都合の悪い敵を屠ってきた』

「俺はそんなつもりじゃ――」

『オマエには確かに王の素質がある。でもそれは心優しい「賢王」の素質じゃない。玉座に腰掛け、国民を手足のように動かす「暴君」の素質だ』

 

 自分の姿をしたその男はゆっくりと歩き出し、イーサンのそばを周りながら淡々と、言葉を零していく。

 

『たった数匹の魔物だった手駒が、一気に数えきれないほどの国民になるんだ。グランバニアの王となり、意のままに国を動かす。その強大な力を得、誇示するためにオマエはここに来たんだよ』

「違うっ!!」

 

 イーサンは『彼』を睨み付けた。握りしめた拳に、汗がにじむのを感じる。

 

「俺が旅をする目的は、母さんを救うためだ! いや、もうそれだけじゃない。教団の魔の手から世界を……多くの命を救うために、俺は旅をしてきたんだ!!」

『それが今まで、何百もの魔物の命を絶ってきた男の言葉かい?』

「……!!」

 

 膝が震え出すのを感じる。『彼』の不敵な笑みが、胸の奥に突き刺さる。

 

『魔物にも命があり、意思がある。ルラフェン地方で斬り殺したキラーパンサーにも家族がいて、船の上で首を刎ねたマーマンは己が生きるために人間を襲っていた。……本当はとっくに気付いているんだろう? 自分の生き様の、どうしようもない矛盾に』

「……っ」

『母のため、人間の世界のためと、オマエは数えきれないほどの魔物を殺してきた。当然かもな。いかなる理由があるとはいえ、魔物は人間を襲う憎き敵なのだから。でもオマエは違う。自分を慕い、ついてきてくれる魔物には手を出さない。なぜなら、彼らはオマエにとって“都合のいい存在”だからだ。違うか?』

「……ちがう。俺はみんなを、そんな目で見たことはない……」

『仲間の魔物が、愛する妻に牙を突き立てても同じことが言えるか? オマエは躊躇わず、そいつの首を斬るだろうよ』

「……ちがう」

『人間だろうが魔物だろうが、自分に都合のいいものは受け入れ、都合の悪いものは斬り捨てる。それがオマエだ』

「だまれよ……」

『結局オマエは、教団の連中となんにも変わらない。自分の目的のために、周りの意思を引きずり込んで利用する。それがイーサンと言う「自分勝手な王様」の正体なんだよ』

「だまれえええええええ!!!」

 

 イーサンは剣を振りかぶり、目の前の『自分』に叩き付けた。……そう。これは本物の自分じゃない。魔物の見せる幻覚か、魔物の化けた姿だ。耳を貸す必要はない。こいつを倒し、王家の証を取りに行く、それでいいはずだ。

 目の前の『それ』に剣が不自然にめり込んだ。半分になった自分の顔の断面から、真っ赤なゼリー状の液体が流れ落ちる。

 

「……!?」

 

 見開かれた眼球からゼリー状の液体を垂れ流しながらも、『彼』は喋りかけてきた

 

『……ほうら、やっぱり』

「あ……」

『斬った斬った。そうやって、自分に都合の悪い存在を全部斬ってきたんだ。自分自身でさえも、都合が悪ければ斬り捨てる。次はダレだ? ダレを斬り捨てる? ニンゲンか? マモノか? それとも……フローラか?』

「あああああああああああ!!!!!!」

 

 剣を振り抜いた。水風船が弾けたかのように真っ赤な液体が飛び散る。目の前にいた『自分』は跡形もなく消え去ったが、床に散らばった肉塊のような物体から、くすくすと笑い声が聞こえてくる。

 

 

――認めろよ。数えきれないほどの屍の上で、オマエの玉座が待っているぞ?

 

 

「うあああああああああ!!!!」

 

 イーサンは絶叫し、逆方向に走り出した。たまらず耳を塞ぐ。しかし耳障りな笑い声はずっと、イーサンの脳裏にこびりついていた。必死で足を動かし続けたが、『彼』がずっとついてきているような気がした。

 

 

 

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