蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~ 作:イチゴころころ
どうもです。イチゴころころです。
今回のお話はサブタイトル通り『戦火を交えて(ドラクエ5)』を流しながら書き始めましたが、気付いたらジョジョ5部の処刑用BGMを流していました。何を言っているか(以下略)
我ながら『5』しか合ってないの笑う。
グランバニア北の大河。
平原を東西に割く大きな川は山脈を越えた先で海に出るが、現代のグランバニアの人々からは川の果ては認識されていない。その川は深く流れもあり、内陸国であるグランバニアの技術では到底、川を渡れる装備は製造できないからだ。
その川の北岸は森林地帯となっていて、同じくグランバニアの人々からしたら森林の奥は未知の領域だ。魔物の……、教団の拠点としてはうってつけの地形である。
『シュルルルルル……。第一陣が南岸に到着……。第二陣、進軍開始……』
北岸の岩場に立ち、夕闇の彼方に光るグランバニア要塞を見つめるのは1匹の“メッサーラ”。今回の強襲の指揮官を任命された、羊顔の悪魔である。
『北方前線に、人影……ナシ……? シュルルルル……。やはりグランバニアの連中、間に合わなかったようだナ……』
彼は頭部に装備した“呪いのマスク”を外す。それは彼らの主が調整した特注の呪具で、被ることで周囲の魔物の視界を借りることができる。普段なら最初にグランバニア軍と接敵するポイントに到達した先発部隊の魔物の眼には、どうやら何も映らなかったようだ。
『野営地も……倉庫も……前回のまま……。シュルッシュルッ! 派手に、派手にぶち壊したからなぁ……! 修復が、間に合わなかったみたいダ……。計画、通りダ……』
彼が笑うと土色の皮膚が歪み、ひび割れる。
『“隊長、なんかありましたぜ”』
呪いのマスク越しに、先頭を進んでいた魔物から呼びかけられる。彼の視界を借りて確認すると、前線基地の真ん中に奇妙な麻袋が置いてあった。
『……?』
『“ニンゲンどもの忘れモンですかね。どれ、中身はっと――”』
――そこで通信は切れた。借りていた視界は暗闇に染まり、音声もぶちりと切れる。
『ナ……!?』
慌てて魔力を練り、他の魔物の視界を探る。しかし、うまく繋がらない。ガリガリ、ガリガリと、岩を引っ掻いたような不穏な音。それは呪いのマスクの“音信不通”のサインである。
『馬鹿な!? 一体、一体何ガ起きたんだ!?』
一瞬、先発部隊の最後の1匹と繋がることができた。しかし一瞬だ。視界の端に映ったのは甲冑の人影。拾った音は獣の断末魔と――、
『だっ……第三陣ンンンンン!!!!!』
呪いのマスクを外し、後方の木々の間に向かって叫ぶ。
『今スグ川を渡れエエエエエエエ!! 間に合っている、奴らは“間に合って”いる!!もたもたスルナ!!! 行けエエエエエエエ!!!』
「――フンっ!!」
魔物の群れの最後の1匹を屠った兵団長パピンは、夜の色に染まりつつある川の方を見やった。既に次の群れが上陸しているのが確認できる。
* *
「奇襲をかけよう」
会議室でイーサンがまず初めに提案した言葉に、パピンは首を傾げた。
「何を仰るのだイーサン王。奇襲をかけられているのは我々だ。このままでは北方前線に十分な兵力も送れるか怪しい。今考えるべきは、この奇襲をどう掻い潜るか、ではないのか」
「パピン団長の言う通りだ。だから奇襲を掻い潜るために、奇襲で返す。送れる人数が少ないのなら、物陰に隠れるのにちょうどいいだろう。団長、貴方の部隊は魔物の一個大隊を相手取れるかい?」
パピンは少し考え、厳しい表情を作った。
「確かに不意を突けばある程度の物量差は埋められるだろう。しかしこちらも消耗は避けられない。敵の第二陣には対応できるかどうか……」
「その魔物の半数が、突然仲間割れを始めたとしたら――?」
* *
「……」
彼は後方の部下たちに目配せをし耳栓を入れなおすと、部下たちもそれに倣う。次の瞬間、真っ白な宝石袋が彼の目の前を横切り、上陸したての魔物の群れに突っ込んでいった。
「……計画通り、だ。イーサン王、先手は取れたッ!!」
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◎ロラン ??歳 男
・肩書き 先陣を切る宝石袋
・ステータス(A~E五段階)
HP:C MP:A すばやさ:A
ちから:C みのまもり:A かしこさ:B
・武器 宝石の加護
・特技 ラリホーマ、メダパニ、その他多数
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大河北岸。
完全に出鼻を挫かれたメッサーラは焦っていた。そして憤りも感じていた。
『クソッタレのニンゲンどもガぁ……! この俺をコケにしやがって!』
“マスク”を通して見る北方前線の戦況はひどい有様だった。第二陣のほとんどは上陸したそばから音信不通となり、甲冑に身を包んだ少数のニンゲンの部隊を、ひとりも屠れていない。相手がグランバニア軍のエースであるパピン隊であることをメッサーラは前情報から把握できたが、不可解な音信不通の正体がまるで見当もつかない。
『第三陣、第四陣!! 東から迂回シロォ!!! 川を行く速度は我々の方が速い!! 意味のワカラン前線基地を避けて進むのだぁあああああ!!!』
彼の指示通り、第三陣の先頭は程なくしてパピン隊から離れた川岸に到達。上陸を開始した。
『“タイチョー! こっちにも! いますぜ!! ニンゲンのブタイがっ!!”』
取り乱した先頭の声が聞こえるが、メッサーラは努めて冷静に返答した。
『先手を取れたから……後続の展開が間に合いやがったカ……!! シュルルル……想定内ダ! パピン隊より練度は低いッ! よく見ろ、奴らの顔を!』
マスク越しに見るその人間たちは、パピン隊に比べて腰が引けているようだった。知識に長けたメッサーラは理解する。このニンゲンどもは“若い”。
『戦い慣れしてねぇ!! 道端の草も同然ダ! 蹴散らして進めえええええ!!』
* *
「――君たちは、新人の兵士かな?」
あごに手を当てるイーサンに対し、新人兵士は震える声で肯定した。
「パピン隊が北方前線の主導権を獲ったら、きっと敵は横に広く展開するはずだ。君たちの部隊はこの中で一番若く、機動力がある。展開をした敵に追いつき、遊撃をお願いしたい。敵の全滅を目指さなくていい。少しちょっかいをかけて回るんだ。いけそうか?」
「で、でも自分たちは……実戦経験がないのであります」
「うーん……新人教育に適した頼れる先輩を知っているのだけど、良ければ一緒にどうだい?」
「先輩、でありますか?」
「うん。態度は厳しいけど、面倒見の良さは保証するよ。頑張って彼女に付いていってくれないか」
「彼女……?」
* *
「おっせえ!! オマエら揃いも揃って遅すぎニャ!!!!」
兵士たちのお尻が浅く引っ搔かれる。同時に前方に放たれた氷塊が、魔物の群れを押し返した。
「一緒に氷漬けにされたいのかニャ~~~~~~ン? 嫌ならみっともなく震えてないで、足! その無駄に長ぇ足を動かし続けるニャ!!」
「ひ、ひいいいいいいい!?」
「危ないニャ!」
氷塊を押しのけて兵士のひとりに飛び掛かったオークキングを、リズのツメが一閃。手負いの獣は俊足の一撃に沈む。
「リズさん……!」
「か、勘違いするニャ! ご主人に頼まれてるから仕方なく庇っただけニャァ!!」
「「「リズさん…! 俺たちどこまでもついて行きます!!」」」
新人兵士たちは後に、あのときは何者にも負ける気がしなかったと語っている。
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◎リズ ??歳 メス
・肩書き 頼れるプリズニャン
・ステータス(A~E五段階)
HP:C MP:C すばやさ:A
ちから:B みのまもり:D かしこさ:B
・武器 牙とツメ
・特技 ヒャダルコ、ベホイミ
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『グルアアアアアアアア……!!!』
メッサーラは怒りに顔を歪める。東から迂回した部隊たちは全滅こそしていないものの、若年兵士と侮っていた連中に上手いことはぐらかされ続け、進軍速度が一向に上がらない。
『奴らのォ……狙いは、時間稼ぎダ!! このままでは……クソがっ! これじゃあ、何のための奇襲ナンだァああああ!!!』
この襲撃はグランバニア軍から常に先手を取り続けることが想定された作戦だ。川を渡る時点で見張りには見つかるが、普段の周期より早いタイミングの襲撃に消耗したグランバニア軍は対応しきれない。そのはずだったし、実際に初手で投入された兵士の数は少ない。しかしその物量差は時間が経つごとに縮まっていく。パピン隊の奇襲返しや遊撃隊の撹乱を経て、グランバニア軍は既に後続の軍備も整えていると見て良いだろう。
* *
グランバニア城塞北口。そこには最終防衛ラインとも言える駐屯基地がある。イーサンはテントから出て北の方角を見つめた。既に陽は落ち、平原の先は見えない。しかし夜空の向こうから、一対の翼が飛来した。
「……トレヴァ。北方前線の様子はどう?」
「パピン たち 健闘。 一歩も 引いてないよ。 でも 敵も 途切れない」
「遊撃隊は?」
「少しずつ 押されていたけど みんな 無事だよ。 リズ すごい」
「了解だ。引き続き情報伝達を頼む。それと、もうひとつの頼み事も……」
「うん まかせて!」
再びトレヴァが夜空に舞い上がり、やがて見えなくなった。
「さて、後続の準備は整った?」
イーサンが振り返ると、息を切らしたサンチョが大勢の兵士、国民を引き連れて門から出てきたところだった。
「お陰様で、徴兵部隊も準備完了ですぞ!」
「よし……。みんな! 大体はサンチョから話してもらった通りだ! マービンの指示に従い馬車に乗り込み、最前線のパピン隊及び遊撃隊と交代してくれ! 北方前線は破られていないし、最年少の兵士たちが後続を押し留めているんだ!いいか、ここが腕の見せ所だぞ!!」
国民たちは怒号と共に武器を掲げ、マービンの駆る馬車隊に乗って出発していった。
「しかし……これは夢か何かですか、坊ちゃま……」
「ん? なにが?」
「毎回、魔物の襲撃はこの駐屯基地が最前線になるのです。そして決まってここも破られ……要塞の外壁を囲まれます。城下町まで入られたことはありません。魔物どもはいつも、執拗に外壁を叩き、国民を怖がらせるだけ怖がらせて去ってゆくのです……」
サンチョは俯き、そしてすぐに顔を上げた。
「ここまで健闘しているのは初めてですぞ! しかも今回は、奇襲に近い襲撃を受けているというのに!! このサンチョ、年甲斐もなく昂ってございます」
「はははっ! そうでしょそうでしょ! もっと褒めてくれてもいいんだよサンチョ!」
「本当に、逞しくなりましたね……。この程度の戦では動じない、貴方は
「……まさか」
イーサンの声色が沈んだので、サンチョはぎょっとする。
「国民全体の命を背負った戦いだ、無理やりにでも気分を上げないと。本当は今にも、口から心臓が出そうだよ」
「……」
サンチョはその表情に、幼き日のイーサンの面影を見た。人見知りが激しかったその少年は、いつも父親の背中に隠れていた。そして目の前の青年は“まだ”青年なんだと思い出し、サンチョは先ほどまで舞い上がっていた自分を恥じた。
「大丈夫です……。貴方には、パパス様が付いていますから……!」
「ああ……!」
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◎トレヴァ ??歳 メス
・肩書き 斥候キメラ
・ステータス(A~E五段階)
HP:B MP:A すばやさ:A
ちから:B みのまもり:C かしこさ:B
・武器 魔封じの杖
・特技 ベホイミ、氷の息
◎マービン ??歳 男性
・肩書き 馬車隊の監督役
・ステータス(A~E五段階)
HP:A MP:E すばやさ:E
ちから:A みのまもり:B かしこさ:B
・武器 素手(右手のみ)
・特技 毒攻撃、猛毒の霧
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おかしい。とメッサーラはひび割れた頬に汗を滲ませる。
既に第八陣まで南岸へ向かわせた。だが対応が早すぎるのだ。グランバニア軍の増援が間に合ってしまったのはわかる。後続のニンゲンたちは消耗しつつあったパピン隊及び若者の遊撃隊と交代し戦線を維持している。パピン本人や、何故か“向こう側”についている魔物など一部は戦場で戦い続けているが、グランバニア側の兵力は確実に増強されている。
『だガ、何故だ!? 増援があるのはこちらも同じこと! 夜目の利かないニンゲンが、何故我が部隊の上陸に迎撃を合わせラれるのだ!!』
第五陣から、川に深く潜って進軍するよう指示を出した。敵の目を掻い潜り、側面及び後方から敵部隊を叩けと命令もした。しかしその命令は機能していない。こちらの部隊が岸に上がるとほぼ同時にニンゲンどもは索敵を始め、たちどころにこちらの動きを見破り迎撃する。タイミングが合い過ぎている。
『どうなってんだ……なぜ俺が、奇襲をかけたこの俺がァ!! ……なぜどこまでも後手に回ってンだ!!』
* *
「……ジャック! また川から出てきたわ! 群れが……ふたつ分!!」
「あいよお、まかせなねーちゃん!!」
グランバニア要塞見張り塔にて、街の少年少女たちは双眼鏡片手に北の方角を見張っていた。姉の報告を聞いて、ジャックは力いっぱい鐘を叩く。数は二回、今日のお昼に、お話好きの王さまから教えてもらった通りに合図を出した。
「ね、ねえルーシー。それほんと? 大丈夫だよね? 間違っていたら僕たち迷惑に……」
「なによう、私の目を疑うってのピピン?」
「すごいのはねーちゃんじゃなくて双眼鏡な」
要塞の見張り塔付き兵士という少数にしか配備されていないその双眼鏡にはバニアライトを用いた特別な加工がされていて、通常の物よりより遠く、より鮮明に見ることができる。数は少ないものの“誰でも”扱えるという点にイーサン王は着目した。
「大丈夫かな……下手なことしたら王さまと、父さんの迷惑になるんだよ……。それに僕、何の役にも立ってないし、もう帰った方が……」
「もう! うだうだ言わないでよ! 王さま言っていたでしょう? 私たちがここで見張りの代わりをすれば、本当の見張りの人が戦いに出られるって。あたしたちはいつも大人に守ってもらってたけど、こうやって役に立つことだってできるのよ!」
「ハッソウリョクだぜ、ピピン。これが俺たちの戦いなんだ! それに見ろ、これ、ほら!」
ジャックに押し付けられた双眼鏡に目を通すと、川岸で魔物を相手取る甲冑の兵士の影が見えた。
「あ、父さん……!」
「グランバニアサイキョーの戦士は流石だな、おまえのとーちゃん! よぉく目ん玉と脳みそに焼き付けときなピピン!」
「ジャックもたまにはいいコト言うわね」
「へっへーん! 任せとけって!!」
* *
『第九陣!……クソ、もういい! 聞こえテいる奴、全員従え! 進軍はもう考えるな、ただ戦え! ひとりでも多くのニンゲンを殺せ! ソしてひとりでも多くを引きつけろ! シュルルル!! あとは
メッサーラはマスク越しに、もう何匹が聞いているかわからない命令を出しながら高速で川面を移動していた。目指すは大河南岸、魔物の軍勢とグランバニア軍のどちらも展開していない西寄りの川岸である。
『(指揮官ダ……、このグランバニア軍の動き方はいつもの及び腰オジロンの動きじゃねぇ! 指揮官が変わったんだ!! それもムカつくほど性格の悪い奴に!)』
そして上陸。こちら側の川岸は岩場が多く戦闘に適していないが、それはニンゲンにとっても同じ。お互い全くノーマークの地形である。そしてメッサーラの単独行動に加え岩場という視界を遮りやすい場所であることもあり、敵の謎の索敵にも引っかからないだろう。
『暗殺だ……暗殺しかねえ! この俺がニンゲン相手にコソコソするのは本当に癪だがな……! 指揮官以外はいツものグランバニア軍!! 最速で敵陣の最奥に突撃して指揮官を殺す!! そうして統率を乱し、この戦を制シテヤル!!』
「――同感だ。指揮官を潰せばこの戦は終わる」
……ある岩の裏手から声がした。その岩の影になった奥からきらりと光るものが見える。それは剣の切っ先だ。影に隠れたニンゲンはゆっくり姿を現す。青いマントを纏ったニンゲン。その顔をメッサーラは知らない。
「ただし、潰されるのは君の方だ」
『――ッ!!』
咄嗟に片腕を振り上げると、何か重い金属の塊が弾き飛ばされ、それは彼らから少し離れた地面に突き刺さった。……ブーメランだ。目の前のニンゲンは自身の姿と得物をチラつかせながら、既にブーメランを投擲していたのだ。
『こんな安い不意打ちに引っかかると……シュルルル……本気デ思っていたのか?』
「……ちょっとだけ」
必殺のブーメランを防がれて多少は狼狽えたようだが、彼はおどけて両手を振った。そしてメッサーラの瞳は確実に、彼の左手の傷を捉える。
『左手首を囲う傷……。キサマ、グランバニアの新しい王だな』
「ご名答。イーサンって言うんだけど知らない? てっきり君らにはもう伝わっているのかと」
『何故……俺がこっちカら回ってくるとわかった』
「優秀な斥候がいるんだよ。彼女からすれば情報伝達も、“魔物にしきりに話しかける魔物”を見つけることもたやすいのさ」
嬉しそうに夜空を見上げるイーサン王。――その隙を、メッサーラは見逃さなかった。
「んっ!?」
一瞬でイーサン王の懐まで距離を詰めると、渾身の力を込めた拳を一発。彼は持っている剣で何とか防ぐが、反動で数十メートルも後退、もとい吹き飛ばされる。
『ならその斥候には感謝だなァ!! おめおめとテメエの指揮官を俺の前まで連れてきてくれた!!』
メッサーラはマスクを外し、不気味に光る双眸をイーサンに向ける。対象周囲の空気の流れが歪み、イーサン王の呪文に対する抵抗を下げる。そのまま魔力を練って火球を生成し、まだ態勢を立て直していないその青年に“メラミ”を撃ち込んだ。この間は1秒にも満たない。無論、並のニンゲンはこの流れるような彼の動きについてこられない。彼は普通のメッサーラとは違うのだ。彼の主は今頃拠点の最上階で自軍の勝利を待っている。主に力を分けてもらい、地上の全てのメッサーラの頂点に立つ力を手に入れた彼はこの戦いに勝つ責務があるのだ。
『新たな王!! キサマがのこのこ、ひとりで現れたのは失敗だったな!! キサマはこの俺に、初手で不意打ちをした! それは、正面からでは俺には勝てないと公言しているのと同じだ!! 消し炭になりやがれ、このド畜生があああああああ!!!』
「……いや違う。のこのこひとりで現れたのは君だ。――
岩場の影から3発の火球が放たれメッサーラの“メラミ”と衝突。合計4つの火の玉は空中で爆裂し、周囲に火花を撒き散らして消滅した。
『は……?』
「ケケケっ。やはり安全地帯から一方的に撃つのがいいんだよなぁ、呪文ってのは」
声のした方、具体的にはイーサン王のさらに後方の物陰に目をやると、平たい岩に寝転がりながらメダルのような何かをいじるミニデーモンが1匹視認できた。
「……で、羊顔の悪魔さんよぉ。アンタんとこのボスからどんな力受け取ったか知らねえが、
口の端を吊り上げるミニデーモンに、メッサーラの眉間には皺が寄る。
『……なんだって?』
「俺様のメラミ三発分だぜ。……“たったの”な。どれほど作戦がお粗末でも一応敵さんの指揮官だ。どんな特別なチカラの魔物がやってくるかと思ったら“たったの”それだけだよ。魔力までお粗末たあ……所詮は下等悪魔だな、ええ?」
『グアアアアアアアアアアアアアーーーーー!!!!!』
怒りのあまり言葉も忘れたメッサーラが地面を蹴った。直前まで彼が立っていた場所が砕け、砲弾のような勢いで目の前の魔物を轢殺しようと突進する。当然、魔力に秀でている分腕力と敏捷に劣るミニデーモンには、この攻撃を避けることも防ぐこともできないが……。
「そういうとこだよ下等悪魔。――“イオラ”」
メッサーラが岩場に差し掛かった瞬間、彼の周囲の大岩が合計6つ、黄色い閃光と共に爆散した。爆発そのものと岩の破片、二重のダメージを受け勢いを殺された渾身の突進は、さらに割り込んできたイーサン王の剣に完璧に受け止められてしまう。
「シモンズ!」
「ほらよ“メラミ”」
さらにそんなイーサン王を避けるようにして放たれる追撃。絶妙な弧を描いた4つの火球がメッサーラの四肢をえぐる。
『ゲエエエエガアアアアアア!!』
飛び退くとともに咄嗟に唱えたのは“マホトーン”。対象の呪文詠唱を阻害する“魔封じの呪い”だが、こちらも華麗な足さばきで割り込んだイーサン王が代わりに受け止めた。そして火球がもう一発、メッサーラの顔面に直撃する。
『(か……勝てねえ。この俺が、ニンゲンと、クソみてえな魔物なんぞに……!)』
草むらまで吹き飛ばされた羊顔の悪魔は全身に火傷を負いながら、呪いのマスクを装着した。
『全軍、撤退だアアアアアア!!! 今すぐ戦いを辞め、撤退を――』
彼は叫ぶのをやめる。マスクと通じる部下の気配が――今度こそ本当に、全て消えてしまっていたからだ。
「……それを使って情報伝達をしていたのか。なるほどな」
振り返ると、そこにはグランバニアの新たな王の姿。そして……、
「だが君は俺との戦いにかまけて指示を出すのを辞めてしまった。敗因はそれだ」
イーサン王の周囲、否、メッサーラの周囲に彼を取り囲むようなニンゲンの気配を感じる。北方戦線、及び東のポイントで戦っていた彼の部下たちの消息は言うまでもないだろう。
「他にも色々あるが、それがトドメだろうな。君の言った通り、指揮官からの指示を失った部隊は崩壊する」
『ふざ……、ふざ……。オマエ、だって、俺と、戦っテいたじゃねえか……!』
「言っただろう」
イーサン王は再び空を見上げる。彼の隙をつく力はもう、メッサーラには残っていない。
「俺には情報伝達が得意な素晴らしい斥候がいるって、ね」
『……この、クソッタ――!!!!!』
憤怒の形相で立ち上がるメッサーラの首に、“既に”投擲していたであろうブーメランがめり込む。さらに真下の地面が閃光と共に爆裂し、視界が真っ赤に染まった。
そうして魔物側の指揮官である羊顔の悪魔は断末魔を上げる余裕もないまま宙を舞い、グランバニア北の大河に沈んでいった。
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◎シモンズ ??歳 きっとオス
・肩書き 王と契約した悪魔
・ステータス(A~E五段階)
HP:D MP:C すばやさ:C
ちから:D みのまもり:D かしこさ:B
・武器 バトルフォーク
・特技 メラミ、イオラ
◎イーサン 20歳 男
・肩書き グランバニア王
・ステータス(A~E五段階)
HP:B MP:C すばやさ:C
ちから:B みのまもり:E かしこさ:B
・武器 奇跡の剣、刃のブーメラン
・特技 バギマ、ホイミ
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* *
「おいイーサン。あいつ多分、まだ生きてるぜ」
「……?」
シモンズの耳打ちを受け、イーサンは川の向こうの暗闇を見やる。
「追って止めを刺すか、そうでないなら尾行でもつけて敵の拠点を割り出した方がいいんじゃねえのか?」
イーサンは少し考え、上空にいるトレヴァに“降りて”と合図をした。
「……それもアリだけど、今回は深追いはやめておこう。森の向こうは本当に未知の領域だし、陽も完全に落ちた。……それにこの戦はあくまで迎撃戦だ。こちらから仕掛けるのは、まだ先で良い」
「まあ、お前がそう言うならそうなんだろうよ」
「イーサン王!!」
息を切らしたパピンが駆け寄ってきた。交代の援軍が来てからも戦い続けた彼の甲冑は傷だらけにはなっているが、大きなケガは負っていないようだ。
「先発隊、援軍、合わせて死傷者はゼロです! しかもほとんどすべて、北方戦線で押し留めることができた! ……ああ、こんなことは初めてです! なんと、なんと感謝を述べたらいいか!!」
「……そうか、よかった。みんなが頑張ってくれたお陰だよ。もちろん、貴方も含めてだ、パピン団長。……こちらこそありがとう」
「王……」
「それからさ、やっぱりこの剣、防御にしか使わなかったよ。明日辺りから本格的に杖での戦闘術の指導、お願いされてくれるかな」
「もちろんですとも! ではでは今は帰投しましょう。一刻も早くこの歴史的勝利を国のみんなに伝えなければ!」
パピンの号令で、兵士たちが歩き出す。誰もが疲労困憊、満身創痍であったが、仲間を労う者、雄たけびをあげる者。誰もがまた、晴れやかな表情であった。
「言ったろ、シモンズ」
「フン」
「それにあのメッサーラだって。生きていればひょっこりこっちに来て、仲間になってくれるかもしれないだろ」
「……そういうとこだぞ。冗談も大概にしやがれ」
ケラケラ笑うイーサンにシモンズは肩をすくめ、手にしたチョコを口に入れた。
かくしてイーサン王の初陣は華々しい勝利に終わった。長年魔物に苦しめられてきたグランバニア国民はこの日、確かな自信を取り戻すのである。
* *
『ハアーーーーーッ、ハアーーーーーッ!!』
北岸にて。
瀕死のメッサーラはやっとの思いで岸に上がり、呼吸を整えていた。
『ほ、報告だ……。部隊は、全滅した……。アイツは、あの新たな王は、間違いなく、脅威だ。報告、せねば、ナラナイ……!!』
『“いらねえよ、このたわけ”』
這うようにして森の奥へ向かう彼の頭に、突如声が響いてきた。声の主は通信用呪いのマスクの制作者であり、メッサーラの主である。
『ジャミ、卿……!』
『“すべて見ていたぞ。お前がことごとく裏目に回り、グランバニアのクソ共に出し抜かれる一部始終をな”』
『……!!』
これまでにしくじった魔物たちは例外なく処分されている。その光景を、メッサーラは何度も目にしている。
『ジャミ卿、どうか私めに、力を――!! 力さえあれば、奴らに負けることはなかった!! あの新たナ王は想定外でしたがきっと……!』
『“イーサン王だろう。あんなもの想定外でもなんでもねぇ”』
『え……』
耳を疑う。その名前は今まさに、自分が報告しようとしていたニンゲンの名前だからだ。
『“まだ気付かねえのか? だからお前は下っ端止まりなんだよマヌケ。この戦はイーサンに勝たせるためのものだ”』
『な、ん……』
『“言い換えれば、お前は負けるための指揮官だ。あのニンゲンのガキが即位したことも、この襲撃を防ぎ切られることも、全て承知の上、織り込み済みってワケ。ハハッ、下っ端にしては良い待遇だろ? まあこれほど完膚なきまでに叩きのめされるとは思ってなかったがな。お前の負けっぷりが一番想定外だよ”』
みしっ、と脳の奥が軋む。視界の半分が暗転し、彼は頭を潰されかかっていることに気付いた。
『カ……グァ……』
声をあげることもできない。見開かれた両目からは黄ばんだ涙が流れ落ちる。
――いつもこうだ。
――俺たちメッサーラという種族は、いつもこうだ。
――平原に巣食う悪魔。魔界から弾かれた悪魔。バルバロッサのなりそこない。
『“お疲れ様、みじめで哀れな下等悪魔くん。作戦自体は成功だし、良い見世物にもなった。誇って死ぬといい”』
――ようやく、ここまでこられたと思っていた。
――結局のところ弱い魔物は、強い魔物に従って、媚びて、生きていくしかない。
――だが どうだろう
――もしも もしもの話だ
――そんな弱い魔物でも平等に愛し 育ててくれる存在がいたとしたら
――例えば“彼”のような そんな主に出会えていたら
『―――……』
――
* *
「さて」
反応を示さなくなったマスクを放り投げ、宣教師ジャミは柔和な笑みを浮かべる。
「……ここからが本番だ」
小窓から夜空を見上げると、暗雲が月明かりを隠したところだった。