蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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こんばんは。イチゴころころです。

遅ればせながら、ドラクエⅤ30周年! おめでとうございます。
おかげさまでこうして二次創作も楽しめています。


SNSで投稿されている色んなイラストを見ると、ああーいいねえこういうの描きたいねえってよく思います。素敵なイラストが多くてすごいほんと。




7-8. デモンズタワー③ ファースト・サーバント

 

 

「トレヴァ。実はずっと言ってみたかったセリフがあるニャ」

 

 デモンズタワー、東の塔屋上にて。

 

「セリフ?」

「『ここは俺たちに任せて先に行け。安心しなすぐに追いつく』ってやつニャ」

「ああ…… さっき 言ってた」

 

 青と白の毛並みを持つプリズニャンは、傍らのキメラが首を傾げるのを横目で捉えた。

 

「いろんな小説によく出てくるお決まりのセリフニャン。だいたい犠牲になっちゃって追いつけないニャ」

「ええ…… 聞きたく なかったなぁ……」

 

 東の塔屋上、その端からは一本の跳ね橋が架かっていて、西の塔に続いている。リズとトレヴァはその跳ね橋に立ち塞がるように並んでいる。そして彼女らの目の前には、

 

『おい』

「大丈夫ニャ。リズたちは実際、さくっと()()()()をシバき倒してご主人たちに追いつく。……みんなで生き残って帰るニャン? トレヴァ」

「そうだよ ワタシは マスターのあの考えを 全部認めた訳じゃ ないから」

「それでいいニャ」

『おい……!』

 

ずしんと足踏みをする巨体。隣にいる“もう一体”も苛立たしげに翼を揺らす。リズとトレヴァ、彼女らの数倍の体躯を持つ“オーク”と“キメラ”が、憤怒の形相でこちらを見据えていた。

 

『儂らを前にしてのんきにお喋りとは、ずいぶんと舐めた真似をしてくれるじゃないか……!』

「リズたちの連携にたじたじになってご主人たちの先行を許すような雑兵、舐め散らかしても足りないくらいだニャン?」

『貴様――!』

「……そういうわけでトレヴァ。あっちは任せたニャ」

「うん。 リズも 気をつけてね」

 

 夜の暗闇にトレヴァが飛び立つ。ワンテンポ遅れて敵の“キメラ”も彼女を追い、闇夜に姿を消した。東の塔の屋上には2匹のけもの系モンスターが残された。

 

「ンじゃあ、こっちも始めようかニャ。言っとくけど――」

『……確かに貴様らの連携は素晴らしいものがあった』

「ニャン?」

『だが戦力を分散させたのは大きな間違いだ。全員ならともかく、たかだかプリズニャン一匹にこの儂が後れを取るわけがない。儂は一方的な殺戮は好まん。命乞いをするなら見逃してやってもいい』

 

 “オーク”はヤリを持ったイノシシ型の獣人だ。魔物の中でも珍しい社会性を持った種族で、ニンゲンを凌駕するフィジカルとそこそこの知能を併せ持っている。しかし目の前の“オーク”は通常のそれよりも二回りほど巨体で、リズと人語で会話ができているあたり知能も『そこそこ』では収まらないだろう。グランバニアを襲撃した“メッサーラ”と同様、あるいはそれ以上に強化を受けた個体であることは間違いない。

 

 当然、気性も穏やかで危険度も低く、平原にしか現れない“プリズニャン”には万に一つも勝ち目などないだろう。

 

「命乞い?」

 

 ただそれは、“普通のプリズニャン”相手の場合だ。

 

 

 

「するわけニャイだろうが、このクソッタレが」

 

 

 

『な――』

 

 オークがまばたきをする一瞬の間に放たれた3つの氷塊。弧を描くそれらは目の前の巨体を押しつぶそうと高速で飛来する。

 

『ちぃっ!?』

 

 咄嗟にヤリを振り回して氷塊を弾く。しかし、

 

『お……重い!!』

 

見た目以上に強烈な衝撃に顔をしかめた。しかも冷気の余波でヤリの柄と腕がところどころ凍り付いている。

 

「ン~~~? 雑兵に“ヒャダルコ”は早すぎたかニャン?」

 

 オークの周囲を円を描くように走りつつ、リズは2発目の“ヒャダルコ”を発射した。そしてそれを追うように走り出す。

 

「ッシャアアアア!!」

 

 氷塊とツメの同時攻撃。オークは先に飛来した“ヒャダルコ”は防ぐも、その隙をついたリズのツメが首元にヒットする。分厚い毛皮が削れ、焦げ茶色の毛が宙を舞った。

 

「フン。さすがに防御は硬そうニャ。それに……」

『いってえ……やってくれるじゃないか……』

 

振り返るオークはたった今傷ついた首元を片手でさすっている。その手の指先には淡い光が宿っていた。

 

「――っ! “ヒャド”!!」

 

 すぐさま呪文でその腕を凍らせるも、彼の首元の傷は既に塞がっていた。

 

『残念。少しだけ遅かったな』

「いっちょまえに“ベホイミ”が使えるなんて、伊達にここの守りを任されてないってことかニャ」

『儂の方こそ驚かされた。ここまで強いプリズニャンがいたとはな。前言撤回、楽しめそう――だッ』

「ぬかすニャ!!」

 

 再び激突する両者。オークは絶え間なく高速の突きを繰り出す。リズはそれを正確に躱し、往なし、舞うように跳ねながら氷の呪文やツメの攻撃でカウンターを仕掛けていく。

 

「(デカい図体に似合わず速いニャン――! でも捉えられないほどじゃない、リズの方が速い! ダメージは小さそうだけどリズの攻撃はちゃんと“入っている”ニャ! あとはベホイミのタイミングだけ注意して――)」

『――ベホイミさえ潰せば勝てる、とか思ってるだろう?』

「な――」

『ところで貴様は“ヒャダルコ”以外に何が使える? 回復呪文は覚えていそうだが、実は儂にももうひとつ、得意な呪文がある』

「(まず――!?)」

 

 オークが詠唱する直前に床を蹴って飛び退く。その瞬間、()()()()()その呪文の名を聞いた。

 

『――“ピオラ”』

「ぐ、あ……?」

 

 勢いのまま距離を取った。リズの背中、青と白の縞模様が裂かれ、決して浅いとは言えない傷がそこには刻まれていた。

 

「(危なかったニャ……。“ピオラ”か……敏捷とドータイシリョクを上げる呪文……。今のはたまたまかすっただけで済んだけど……()()()()()()のはさすがにヤバいニャ……)」

『さて……』

 

 顔を上げると片手でヤリをくるくると回すオークの姿。“ピオラ”によってブーストされた素早さで回されたヤリからは不気味なほどに高い風切り音が発されている。もう片方の手は呪文によって凍らされていたが、彼が軽く腕を振ると氷は砕けて剥がれ落ちた。そのまま“ベホイミ”を唱え、先ほどの打ち合いでリズが負わせたダメージも回復されたようだ。

 

『改めて勝負と行こうか。小さき者よ』

「……!」

 

 咄嗟に再び呪文を詠唱するリズ。同時に床を蹴ったオークは凄まじい速度で彼女に襲いかかる。

 

 

  *  *

 

 

 同時刻。教団の刺客をリズとトレヴァに任せ、中央の塔最上階をめざすイーサン・ロラン・シモンズ。

 

「――っしょ、っと」

 

 イーサンは大岩を押し、ドラゴンの顔を象った像の前に設置した。直後、ドラゴンの口から炎が噴射されるも、大岩に阻まれて散っていく。

 

「このトラップ好き過ぎるだろ、ここの設計者。これで何回目だよ、ったく」

「よほど自信があったんだろうね。これ見よがしに大岩をちりばめて、これ使えば防げるって思わせておいて、“ばくだん岩”を忍ばせておく2重のトラップ」

 

 東の塔攻略の際にも何度か遭遇したトラップであるが、ばくだん岩の存在に気付いたロランによって見事看破。得意技が自爆とかいう迷惑極まりない魔物とは一度もエンカウントせずに、火炎放射だけを綺麗に防いでここまできている。

 

「これに関してはロランとの相性が悪かったねえ。設計者には申し訳ないけど、食らってやる道理もないしこのままサクサク進ませてもらおう」

「ぜんぶ ばくだん岩 なら 進めなかった ナリ?」

「そこはアレだろうね。教団お得意の“遊び”って感じ。侵入者の排除を最優先にしたいなら、そもそも最初の部屋に釣り天井でも仕掛ければ済む話だ。戦力を削った上で、最上階まで来てほしいんだろう。そう考えるとあそこでリズとトレヴァと別れたのは敵の思うつぼかもだけど……こちらも時間が惜しい。一刻もはやくフローラのもとに行かないと」

 

 階段をのぼりながら、シモンズは首を傾げた。

 

「なあイーサン。あの猫娘、大丈夫だよな?」

「ん?」

「アイツの強さに関しては俺様も疑ってねぇ。間近で味わわされたこともあるしな。でもそれでも種族の限界はあるし、相性もある」

「……」

「あのでっけぇ“キメラ”にトレヴァをぶつけるのはわかる。空中戦できるのはアイツしかいねえしな。だがあの“オーク”、相当な使い手だぜ」

 

 通常のオークなら何度か戦闘したこともある。通常種の時点で、パワフルかつ素早い攻撃が得意だったと、シモンズは記憶している。

 

「相性で言うなら間違いなくロランが適任だ。ああいうパワータイプには妨害呪文が効く。オークには呪文が使える個体もいるが、ロランなら“マホトーン”でカバーできるしな」

「まあ……言いたいことはわかる」

 

 リズの素早さは間違いなく一級品で、彼女自身の攻撃性能も高い。しかし『パワーとスピードに長けたオークの強化個体』相手にパワーとスピードに定評のあるリズをぶつけて、もしその得意分野で競り負けた場合……待っているのは一方的な敗北だろう。

 

「ハン……わかった上での采配ってヤツかよ?」

「理由はふたつ。ひとつはまあ、ロランは最上階まで連れて行きたいから、ってところかな。待ち受けているのがジャミであれゲマであれ、もうひとりの奴であれ、教団の幹部クラスがいるのならロランはそこまで温存させておきたい」

「へえ」

「ナリ?」

「ちなみにシモンズも“温存組”だからな。そういう意味でも、さっきの2体は好都合な相手だった」

「何か策でもある風じゃねぇか。そっちはあとで聞かせてもらおうか」

「で、もうひとつの理由だけど……たぶんリズなら勝てる。そう思ったからだ」

 

 シモンズの片耳がぴくりと持ち上がる。

 階段をのぼりきると外。西の塔の外縁に辿り着いた。中央の塔へと向かう跳ね橋が上がっている。中央の塔に遮られ、件のリズたちのいる東の塔はここからでは見えない。

 

「……根拠は?」

「あいつは俺についてきてくれた初めてのモンスターだ」

「感情論……ってワケでもなさそうだが」

「ああ。オラクルベリーから、アルカパの街、ラインハット、ビスタの港……。彼女は俺と一緒に、最も多くの村・街・国を巡った。彼女にしかできない経験がある」

「ほう」

「彼女はたくさんの『ニンゲン』に会ってきている。そして彼らがどんな生活を営み、どんな考え方をし、どんな生き方をしているのかを、君たち仲間モンスターの中で最も多く見てきてるんだ」

「へえ……戦闘の経験値に加え、ニンゲンの強さや賢さを知ったあのリズだからこそ勝てる戦いがある、と」

「逆だよ」

「――は?」

 

 イーサンがレバーを倒すと、跳ね橋がゆっくりと降りていく。

 

「彼女はニンゲンの醜い部分と、愚かな部分をよーく知っている。その醜さや愚かさが、ときには最も有効な要素であることも含めて、ね」

 

 

 

 

 






次回 《デモンズタワー④ 『リズ』》

10/9(日) 18:00~更新予定


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