蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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 どうもこんばんは。イチゴころころです。

 今回は短いです。ほぼインタールードです。このくらいの長さの方が読みやすかったりするのかなぁとか思ったりしています。
 読みやすさと言えば、会話の行間を詰めてみました。何度もプレビューで比較してはいますが、結局甲乙つけ難いなぁと思ったのでとりあえずお試しです。


 紅白まんじゅう食べたい(今回予告)。



2-2. 少しだけ大人になった君に

 

 

 翌日、王宮を訪問してきたイーサンとリズを見て、デール王は驚きと喜びを隠しきれないようだった。そして流れるように、ヘンリーの私室へ案内される。

 

『俺のことは……気にするな。ここで新米たちの…面倒を見るさ。ただ、ヘンリーにはよろしく……伝えておいてくれ』

 

 ラインハット王国の人々は比較的魔物にも寛容に思える。やはり数年前のイーサンたちの活躍が大きいのだろう。マービンを連れてこられないのは残念だが、人ごみを嫌がっているだけのトレヴァはともかくロランを街中に解き放つわけにはいかない。例のごとく、馬車で待ってもらうことにした。

 

 ヘンリーの私室に入ると、それほど広くないことに驚いた。仮にも王族だというのに、家具も思ったほど豪華じゃない。

 

「いや、驚いた。これほど驚いたのも久しぶりだぜ、相棒!!」

 

 ヘンリーは少し背丈が大きくなってはいたが、その少々品に欠ける口調も軽いノリも、1年半前と変わっていなかった。

 

「政治家なんて国民の前に立つ仕事してるとよ、喋り方が堅苦しくてたまらねえんだよ。俺にはこっちの方が性に合う。部屋だって少し狭いところに変えてもらったんだぜ?洞穴で過ごした身じゃ、だだっ広いキラキラした部屋なんて1日も持たずに気が狂っちまう」

「なるほどね、納得したよ」

「お前は変わってないようで安心したぜ。少し背が伸びたくらいか?」

「え、そうかな」

「冗談だよぉ逞しくなりやがってこの! リズちゃんもなんか喋れるようになってるし、お前らどんな旅してきたんだよ! おらおらあ!」

 

 ヘンリーがリズの首元をくすぐると、彼女は抵抗もできずフニャフニャとへたり込んだ。

 

「まあ詳しい話は、今夜にでもゆっくり語らせてもらおうかな。どうも俺の話は、お前たちに好評らしいから」

「当たり前よ! 晩餐が楽しみでならねえぜ!」

「せっかくだからマリアも呼びたいな。最近彼女とは連絡とってるの?元気にしてるといいけど」

 

 何気なく尋ねると、ヘンリーの表情が固まる。

 

「まさかとは思ったが……何も知らないで帰ってきたのな」

「え、なにが?」

「街の様子で気付く気もするが……本当に何も知らないんだな?」

「今朝は一直線にここまできたし……。街は縁日とかもあってなんか賑やかだったけどね」

 

 そうするとヘンリーは深く長い溜息をついた。

 

「え、ちょっと。一体何があったっていうのさ? なあ――」

 

 そのとき、部屋のドアがガチャリと開いた。振り返ると、意外な顔が姿を見せた。

 

「イーサン、さん……?」

「え……マリア!?」

 

 彼女は修道女姿ではなく、澄んだ青色のドレスを着ていた。白い頬は年頃の女性らしい薄めの化粧で彩られていて、美しい金髪は横側で可愛らしく束ねられていた。全体的に大人の女性、に近づいた印象がある。

 

「戻っていらしたのですね、イーサンさん!」

 

 彼女の右手にはやや無骨な杖が握られており、片足を少し引きずりながらもイーサンの元へ器用に歩いてくる。

 

「久しぶり! 足、良くなってるみたいで安心したよ」

「ああ、ああ! 会えて嬉しいわ!」

「うん、俺もだよ! 本当に! ……でも、どうしてここに?」

 

 嬉しさが勝って流しかけていたが、南の修道院で修行をしているはずのマリアがこの場にその姿でいるということがどうにも連想できない。

 

「え、イーサンさん? てっきりそのことで戻ったのかと」

「偶々らしいぜ。まあ、こいつらしいっちゃあこいつらしいが」

 

 マリアはヘンリーに支えられ、ゆっくりとソファに腰掛けた。

 

「実はな……結婚、したんだ。俺たち」

 

 目の前で、ふたりの頬が赤く染まった。

 

「へえ、なるほどね」

「……」

「………」

「……今、なんて?」

 

 数秒後、旅人の絶叫が王宮中に響き渡り、兵舎の警備員は約半年ぶりに出動することになった。

 

 

  *  *

 

 

 夜。ささやかな宴を終えた後、ヘンリーたちの私室に集まった3人は昔と変わらず会話に花を咲かせていた。ちなみにリズはというと、珍しい遊び相手を見つけた王宮内の子供たちに連れ去られてしまったためここにはいない。

 

「リアクションが完璧だったぜ。さすがイーサン、腕を上げたな。危うく笑い死ぬところだった」

「その話はもういいだろ……俺だって心臓が止まるかと思ったよ」

「ふふふっ……」

「式は先月挙げたんだっけ。俺もちょっと来るのが遅かったな……。改めてだけど、結婚おめでとう。ヘンリー、マリア」

「なんだよ、照れるな、まったく」

 

 ヘンリーは襟元をぱたぱたと仰いだ。こんな普通に照れる姿なんて見たことない。

 

「私たちとしても式には是非来てほしかったのだけれど、連絡が取れなくて……」

「仕方ない。ひと月前と言えば、カボチ村から追い出されててんやわんやな時期だったし」

「ひどい話だよなぁ。イーサンたちが村に危害を加えたわけじゃないのによ」

「ほんと、魔物使いにとって厳しい世の中だよ」

 

 イーサンは肩をすくめた。

 

「……で、どうだ。天空の勇者の行方、お前の母上の手掛かりは?」

「そっちも進展なし。天空の武具の『て』の字も聞きやしない」

「くぅ! もどかしいなちくしょう!」

 

 少しの沈黙の後、マリアが改まって口を開いた。

 

「本当は、少し迷ったんです。『イーサンさんは頑張って旅を続けているのに、私たちだけ幸せになっていいのかな』って」

「マリア……」

「なんだか、イーサンさんを置いていくような気がしちゃったの。だからちょっと、こうして顔を合わせるのが少し怖かった。……でも、いざ会えるとそんな気持ちもどこかへ行ってしまうわね! 本当に嬉しかったんですもの! 貴方には、申し訳ないこと、かもしれないけど」

「いや、そんなことはないよ。俺もふたりに会えてすごく嬉しかったし、結婚したって聞いて……、まあ驚きもしたけど、それも素直に嬉しかった」

 

 それが親友というものだと、イーサンは胸を張る。

 すると今度はヘンリーが口を開いた。

 

「なあイーサン。お前は、どうだ? いい相手とか、見つかったか?」

「え、ちょ、なに!? 急に真面目な口調でどうしたのかと思ったら……」

「真面目な話さ。いいか、俺は結婚して、良かったと思ってる。心底な。相手が気心知れたヤツだってのももちろんだが、これからの人生を共に歩めるパートナーがいるってのは、俺たちが思っていた以上に、その、素晴らしいことだ」

 

 夫のそんなセリフに、マリアが恥ずかしげに顔を伏せた。

 

「お互い少し大人になった。お前もいい年なんだし、隣に立って支えてくれる相手を、考えてもいいと思うぞ?」

「……旅人で魔物使いな俺の、お嫁さんになる人ってこと?」

「とても素敵だと思うわ」

「はは、どうかな……。ただでさえ俺は人に白い目で見られるのに。そんな人がいるなんてとても――」

 

 ヘンリーとマリアは一瞬、目配せをした。イーサン自身に自覚はないが、やはり彼の精神が少しすり減っているように見えたのだ。この1年半という期間で、彼の『人間』との会話は数を減らす一方だ。人の住む街に定住しない旅人のサガと言えばそうだが、仲間の魔物たちと言葉を交わすことの方が圧倒的に多い。それに加えカボチ村の一件だ。知らず知らずのうちに、イーサンは人間としての豊かな感情を削られてしまっている。彼の無二の親友であるふたりにはそれが語られずとも理解できた。

 

「逆に考えろ、イーサン。もしそんなお前にも心を寄せてくれる女性がいたとしたら……。それは間違いなく『運命の女』ってやつだぜ」

「運命の女、かあ……」

「ねえイーサンさん、もしあなたの旅に付いてきてくれるような方、例えば私たちみたいな……いいえ、私たち以上に、貴方に寄り添ってくれる女性がいたら、それってとても、素敵なことだと思わない?」

 

 船上の少女のことがイーサンの頭をよぎる、彼女のことも未だに何もわからないが、ビスタの港を出てからもずっと、定期的にあの夢を見ている。

 

「うん……ちょっと、いいかも、ね」

 

 ヘンリーとマリアは胸を撫でおろした。母を探すイーサンの旅の過酷さは、安定した暮らしを手に入れたふたりには到底わからない。それでも、ほんの少しでも良いから、イーサンにも人間らしい幸せを求めてほしかった。

 

「母上殿を助け出すのは当然最優先だ。でもお前の母上だって、息子であるお前の幸せを願ってるはずだぜ?」

「それは……間違いないね」

「よしっ! じゃあ俺たちがお前の花嫁候補を見繕ってやる!!」

「はあ!?」

「まずはアルカパの街の元カノからだ! お化け退治編、改めて聞かせてもらうぜ~」

「だからビアンカはそんなんじゃないって!! それに今どこにいるのかもわからないし……」

「あの妖精族の女の子はどうかしら? 春風のフルート編、また聞きたいわ!それに種族を越えた結婚というのもロマンチックだと思うの!」

「え、べ、ベラぁ!? いやダメでしょ、どれだけ歳の差あると思ってるの!?」

「妖精族は長生きなんでしたっけ? ベラさんはおいくつなのか聞いたことはあるの? 覚えてる?」

「覚えてる覚えてるよぉ笑顔でブチ切れられたからすごーく覚えてる!」

 

 3人は結局、夜中まで語り合った。そしてこれもいつものことだが、楽しい時間はあっという間に過ぎていくのである。

 

 何はともあれ、ひょんなことで手に入れた魔法によって、イーサンはいつでも親友に会いに行くことができるようになった。旅路の合間なので機会自体は少ないだろうが。しかしその事実は確実に彼の乾いた心に潤いを与えていたのだ。

 

 そして親友たちに2度目の別れを告げ、再び旅に出たイーサン。すぐに人生最大の転機が訪れることは、誰も知り得なかった。

 

 

 

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