蒼穹の花嫁 ~ドラゴンクエストⅤ:parallel~    作:イチゴころころ

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 こんばんは。暑いです。

 今更ですが、登場する仲間モンスターは実際に私がプレイしたときのスタメンたちから選んでいます。皆さんからすれば『へぇ……』って感じだとは思いますが名前なんかもそのときのものです。
 
 その関係でゲレゲレは消滅しました。相棒仲間モンスター枠はリズちゃんです。DS版でしか出てこないプリズニャンですが、使用感はベホイミの使えるゲレゲレって具合で結構強いんですよ。
 あと同じネコ科です(震え声)。

 ……え? ポートセルミ周辺でおどるほうせきは出てこない?
 そこはそれ! ご都合主義です! 何卒!




2-3. サラボナの娘

 

 

 南に向けてルラフェンを発つ直前、街角で宗教の教えを説いているカップルを見かけた。気になって話しかけてみると、彼らは数か月前に『光の教団』に入信し、こうして街を転々としつつ布教活動に精を出しているのだという。イーサンは”是非目を通すだけでも”と教団のありがたいご本(2冊目)を手に入れた。

 

 西の大陸でも、この忌々しい名前はよく耳にする。そのカップルに話を聞いた限りでは、教団の信仰する神とやらは近頃力を伸ばしている魔物からも信者を守ってくれるのだという。夢のような加護の力だが、組織の裏側を知っているイーサンには引きつった笑みしか返せなかった。

 

 ヘンリーの話では、ようやく経済が安定してきたラインハット王国でも少し前に思想の改革がひと段落ついたらしい。混乱が広まらないように少しずつ教団の根をつぶしていき、政府側が地盤を整えたうえで真実を公表したそうだ。結果、教団の信者のほとんどはその邪悪な魔の手を振り払い、改めてラインハット王家と手を取り合ったのだという。しかしながら、政府の必死の調査も教団のしっぽを掴むには至らず、結局のところその全容は謎に包まれたままだ。イーサンも旅をしながらそれとなく探ってはいるのだが、表向きはどこまで行っても善良な新興宗教で、そのことが逆に不気味さを引き立てている。

 

「アツいカップルだったニャン」

「リズはのんきでいいよな」

「そんなことないニャン。ご主人にひどい仕打ちをしたレンチュウ、リズだって許す気はないニャン。でもヘンリーたちの心配ももっともニャ。キョウダンのいけ好かない信者でさえお相手を見つけているのに、ご主人は宝石ヤロウ相手に振り回されてる場合ニャ?」

「お前ホントに生意気言うようになったよな……。しっかりと痛いところ突いてくるのも最高だよ」

「んーまあ? どうしようもなくなったらリズがケッコンしてあげるニャ?」

「じょーだん」

「ひどいニャ」

 

 イーサンたちは大陸の南、サラボナという街へ向かっていた。ラインハットを出る直前、デール王に気になる情報をもらったからだ。

 

『サラボナという街を目指してください。ラインハットのように王家が統治している国家ではありませんが、代わりに世界一と名高い富豪、ルドマン家が領主として統括している巨大な街です。ルドマン家は世界中の宝物を収集していると記録にありました。父上が亡くなって以来、我が国との交流も途絶えているので現状は私も存じ上げないのですが、なにか手掛かりが見つかるかもしれません』

 

 天空の武具とは、おとぎ話に出てくる勇者が身に着けていた伝説の品だ。イーサンも天空の剣をこの目で見るまでは全部架空のものだと思っていた。それらが実在していたとなると、間違いなく世界一の宝であろう。

 今度こそ天空の勇者に繋がる何かが得られると信じ、イーサンは馬車を駆る。

 

 

  *  *

 

 

 ルラフェンを出て16日が経過し、イーサンはサラボナの街に辿り着いた。このくらいの期間はもはや長旅とすら感じない。それよりも、丘の上から見下ろしたサラボナの街の規模に驚かずにはいられなかった。

 

「ラインハットの城下町くらい広いんじゃないか……? これで国じゃないっていうのが信じられないな」

「でも真ん中に城みたいなのがあるニャン?」

「あれ、たぶんアレなんじゃないかなあ……ルドマン邸」

「え、あれオウチなのかニャ……? ニンゲンのフゴウ、恐るべし……」

 

 街外れの馬車小屋に到着するや否や、ロランが馬車を飛び出していった。

 

「あ」

「英雄 ロラン! 新天地 に 降り立つ ナリ! いざ 征かん 未来を 目指して!」

 

 ストレスでも溜まっていたのだろうか。いつもの倍は高く跳ねながら街とは反対方面、草原の向こうに姿を消した。

 

「あっちゃあ、どうすんだこれ」

「旦那……オレたちに、任せてくれないか……」

 

 荷台の中からマービンが話しかけてきた。

 

「え、ロランを連れ戻してくれるってことか?」

「ああ……トレヴァの索敵力、リズ先輩の……機動力があれば、3人がかりでなら……追いつける、はずだ……。オレも…久しぶりに、体を動かしたいと……思っていたしな」

『キキキッ!』

「えぇ、リズはあんなヤツの尻拭いより、ご主人と一緒に街を巡りたいニャ……」

「これも……旦那の、ためだと思ってくれ……。旦那、あんたも……しっかりと聞き込みを、進めることだ……。この広い街でなら……良い手掛かりも、きっとある」

 

 彼が右手の親指を立てるのを見て、イーサンは思わず笑みを零す。生前はさぞ人望が厚かったんだろうなとか考えた。世界は惜しい人材を亡くしたものだ。

 

「みんな……。わかった、くれぐれも無理はするなよ。この地方の魔物のことも、まだそこまで熟知しているわけじゃないんだしな」

「ふん。リズたちは伝説の魔物使いイーサンの仲間ニャ。そこらのウゾウムゾウに遅れなんて取らにゃいニャン。あの宝石ヤロウもパパっと捕まえてやるニャ」

「ありがとうな。じゃあ、また夜。この馬車に集合だ」

 

 イーサンは草原に向かう仲間たちを見送った。こうして彼らから何かを申し出てくれるのは初めてのことだ。彼はそれが少しだけ嬉しかった。

 

 

  *  *

 

 

 サラボナはその広大さもそうだが、美しい街並みにも目を惹かれた。カラフルなレンガの道、色とりどりの屋根が並ぶ街並みは、さながら巨大な花畑に迷い込んだかのようだった。道行く人々もその個性を自慢のコーディネートで着飾っていて、領主のルドマン家だけでなくこの街の住人みんながちょっとしたお金持ちなんじゃないかとイーサンを震えさせる。

 

「ああ~~~~~~! 待って、待って~~~~~~~!!」

 

 風景に見惚れるイーサンの耳に飛び込んできたのは、そんな雰囲気をぶち壊す間の抜けた叫び声。いやいや、この優雅な街にはそんな、遊び好きな宝石袋を追いかける旅人さんみたいな声を出す人がいるのでしょうか? いないでしょうよ? と苦笑を噛み締めつつ声のした方を見ると、走り抜ける犬を必死で追いかける少女の姿が目に映った。

 

「――!」

 

 

 

 目が合った。

 彼女はつい一瞬前まで逃げ出したであろう飼い犬の方を見ていたのに。何故か、たまたま視線をやったイーサンと、目が合った。

 彼女の長髪は風になびいて蒼く輝いていた。頭の後ろの大きなリボンは、慣性に煽られてきゅっと後方に背伸びをしている。パステルカラーで彩られた可愛らしいワンピースに、小さなブーツ。どう考えても犬を追いかけるのに向かないその格好で、ふらふらと坂を駆け下りている。

 息を切らした彼女の頬は淡く紅潮していて、玉のような汗がするりと流れ落ちた。大きな両目はイーサンの視線と交わると、ほんの少しだけ、見開かれる。

 

――綺麗だな。そう思った。

 

 

 

 

 次の瞬間、びたーんというおよそ人体が出してはいけないような音と共に、少女の体が視界から消えた。数秒の間の後、イーサンも我に返る。

 

「ちょっ、ええ!? ええー!!」

 

 

  *  *

 

 

 気を失った少女を木陰のベンチまで運び、真っ赤に腫れあがった額に手を当てる。

 

「――“ホイミ”!」

 

 柔らかい光と共に額の腫れが引き、健康的な肌色が取り戻された。

 

「う、うん……?」

 

 少女はゆっくりと瞼を開けた。髪色と同じ蒼い瞳と、再び目が合う。

 

「あ、あの、大丈夫ですか……? 派手に転んだみたいですけど」

「あ……あ……!」

 

 彼女の唇がわなわなと震える。

 

「ごめんなさい! ありがとうございますっ! ごめんなさい!!」

「どっちですか」

「え、えっと、手当てを、してくださったんですね……! ありがとうございます。ごめんなさい、ご迷惑をおかけして」

 

 少女はぺこぺこと頭を下げる。

 

「飼い犬が急に走り出してしまって……わたくしもびっくりして…。あら、そういえばリリアンはどこに……」

 

 すると建物の影から、首輪をつけた大きな犬が姿を現した。名前を呼ばれたのが嬉しいのか、尻尾をぴこぴこ振っている。

 

「まあリリアン! 駄目でしょう急に走ったら。ほら、おいでリリィ。今日はお医者様に診てもらうんだから。嫌なのもわかるけど、お利口さんにしないとだめよ?」

 

 彼女が諭すと、犬は小さく鳴いて頭を伏せた。

 

「……どこか体が悪いんですか?」

「いえいえ、最近少し食欲が落ちているので診ていただくだけですわ。季節の変わり目で調子が悪いだけだって父は言うのだけれど、どうしても心配になってしまって……」

「なるほど。まあ飼い主を振り切る元気があるならきっと大丈夫ですよ。……よしよし、どこも悪くないといいな」

 

 イーサンが手を伸ばすと、リリアンは顔を摺り寄せてきた。

 

「はは、可愛いなぁ。うちのリズにも見習ってほしいもんだよ、もう」

「……驚きましたわ。リリアンがわたくし以外の人に懐くなんて……!」

「え、そうなんですか?」

「ええ、すごいわ! こんなの初めてですもの。ほら、貴方に撫でてもらってリリィもこんなに笑顔で……! なんだか、わたくしまで嬉しくなっちゃう……!」

 

 ころころとした声ではしゃぐ少女を見て、イーサンは首の下のあたりが脈打つのを感じた。

 

「あ、ご、ごめんなさい、わたくしったらはしたなく……。ああ、そろそろお医者様との約束の時間が……。わたくし、ここで失礼いたしますわ! 助けてくださって、本当にありがとうございましたっ」

 

 彼女は深々とお辞儀をして、通りへ出ていった。……しかしその後もきょろきょろと辺りを見回したり、うろうろ行ったり来たりするだけで、一向にその場を離れない。

 見かねて声をかける。

 

「あの……」

「あ……」

「大丈夫、ですか?」

「……広場への戻り方が、お恥ずかしながら、わからなくなってしまいました。幼いころからずっとこの街で暮らしてはいるのですが……どうもわたくし、道を覚えるのが苦手で」

「じゃあっ」

 

 思ったことが口をついて出てきた。喉の奥が、少し乾いている。

 

「一緒に、行きませんか? 俺もここに来たばかりですが、それでも良ければ。一緒に、探しましょう」

 

 言ってすぐに後悔した。こんな見知らぬ旅人に、しかもつい数分前に知り合ったばかりの人についてくるわけがない。なにを血迷ったことを、と。

 

「ありがとうございます……、本当に何から何まで、ありがとうございますっ」

 

 だから彼女の口角が上がったのを見て、心の底からほっとした。

 

 

  *  *

 

 

 聞き込みには慣れていたので、少女の目指す噴水のある広場を見つけるのにそれほど苦労はしなかった。道中何を喋ったのかよく覚えていない。サラボナの街にはいくつも広場があって少し迷いやすいんですとか、そんな内容だった気がする。

 

「本当にありがとうございました。ほら、リリィもご挨拶して」

 

 傍らにいる犬が優しく吠えた。

 

「お役に立てたのなら良かった。リリアンも、お大事にな」

「貴方は旅のお方、ですよね? サラボナにはどのようなご用があったのですか?」

「んー、ちょっとした探し物です、ね」

「そうですか! では、その探し物も無事見つかりますよう、お祈りいたしますわ。それでは、ごきげんよう……!」

 

 彼女は明るい笑顔をイーサンに向けると、彼の元を立ち去って行った。イーサンは人ごみに消えていく彼女の後ろ姿を目で追った。

 

「あ……名前、聞き忘れたな」

 

 そう言えば自分の名前も伝え忘れている。そう思い、すぐに首を振った。この街は広い。たぶんもう会わないだろう彼女と自己紹介をして、どうなるというのだ。

 

「名も知らぬ旅人にせっかくお祈りしてくれたんだ。俺は俺でちゃんと探し物、しないとな!」

 

 とりあえず何も考えず、この街の領主、ルドマンの屋敷を訪ねよう。それが一番の近道にして最も確実な道のはずだ。

 イーサンは街のどこからでも見える建物、ルドマン邸を見上げた。

 

 

  *  *

 

 

 玄関で出迎えてきたその人物がルドマン氏本人だとは一目でわかった。恰幅の良い体に、豪奢なマント、煌びやかな装飾品を身にまとう彼の姿は、まるで『世界一の富豪』という概念が服を着て歩いてるようなものだった。

 しかし彼はイーサンの姿をまじまじと見つめると、意味不明な言葉を口走る。

 

「君も求婚者かね?」

「……はい?」

「見たところ旅の者のようだが……うむ! 良い目をしておる、気に入った!」

「え、えっと?」

「さあ、入った入った。君のライバルたちは既に集まっておるぞ。運が良いな旅の青年よ!滑り込みセーフという奴だ!」

「な、なにがですか~~~!?」

 

 イーサンはルドマン氏に引きずられるように、屋敷に足を踏み入れた。

 

 

 

「ひいっ!?」

 

 客間に通されたイーサンは思わず小さな悲鳴を上げた。そこで待っていた2人の青年、彼らの視線が一斉に突き刺さってきたからである。

 イーサンはその視線を知っている。1年半前のラインハット王国で、たどたどしい演説を披露するデール王の背後で野心に燃える大臣たちがしていた視線にそっくりだった。

 

「よし……。挑戦者たちよ、よくぞこのルドマンの屋敷に集ってくれた! いまこの場に立つ君たちは紛れもなく――」

 

 一体何に巻き込まれたんだと肩を落とすイーサンの耳に、さらにとんでもない言葉が投げかけられる。

 

「――紛れもなく、我が娘フローラの花婿候補である!」

「はあぁっ!?」

「……何かね?」

 

 ルドマン氏を含む3人の目線を受け止めると、イヤ俺はそんなことこれっぽっちも聞いてなくて天空の武具をデスネ、なんてとてもじゃないけど声には出せない。

 

「いえ……なにも」

「うむ。……君たちはこのルドマンが直々に認めた花婿候補だ。それに関しては誇ってもいいだろう。だが当然、何の資格も示せない者に娘はやれん。フローラは世界でただひとり、君たちは3人だ」

 

 イーサンには少しだけこの先の展開が読めてきた。いやこの『前』の展開はてんでさっぱりだが、この先何を言われるのかだけ、残念ながらわかってしまった。

 

「よって君たち3人に試練を課す! 誰よりも早くこの試練を乗り越えた1名のみに、フローラへ求婚する権利を与えよう!」

 

 読み通りだ。読み通りなんだ、悲しいことに。

 

「そして我が娘と結ばれた暁には……。うむ、その者はもはや我がルドマン家の一員も同然である」

 

 さらにルドマン氏は、部屋の奥にある台座、そこに被せられている真っ赤な布に手をかけた。

 

「世界にただひとつの秘宝。この『天空の盾』をはじめとする、ルドマン家の財産を与える!」

「――え?」

 

 彼が真っ赤な布を放り投げると、純白の大盾がその姿を見せる。鏡のような輝きを放つ素体に、龍の翼を象った黄金の装飾。その堂々たる風格は、イーサンが背負っている剣と同じものであると直感で理解できた。

 

「ええええええええええええ!!!!」

 

 前言撤回。読めるかこんな展開。

 

 

 

 

 

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