ぱかプチ!!   作:フドル

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ぱかプチ!!

「これで良し……と、直りましたよ!ブルボンさん!」

 

「ありがとうございます。フラワーさん。」

 

 フラワーさんから手渡された私の姿を模したぱかプチを受け取ります。拾った時はかなりボロボロだったはずのぱかプチは私とフラワーさんの時間がある時に少しずつ直していき、今では綺麗な姿を取り戻しました。

 

「それにしても酷いですよね、あんなにボロボロにしてから捨てるなんて……。ブルボンさん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です。ありがとうございます。」

 

 フラワーさんが私を気遣うように見てくるので心配させないように返事をします。

 このぱかプチは私がお出かけの帰りに捨てられていたものを拾ったものです。ボロボロにされて捨てられていたことにショックが無いと言えば嘘になりますが、今の綺麗な姿を見ると少しだけ気分が和らぎます。

 

「多分オーダーメイドだと思いますけど、だとしたらあんなことなんてしないと思いますし……。」

 

 フラワーさんが一人考察している隣でぱかプチをふにふにします。はみ出したり、汚れた綿を全て入れ替えて一新した身体は従来の製品を遥かに凌ぐほどの触り心地です。

 更にこのぱかプチは着せ替えも出来ます。中の方もかなり精巧に……やめておきましょう。

 きっと大金を出して作ったと思うので本来の持ち主に返したいのですが、あのダンボールに書かれた文字からやはり捨てられたのでしょうか?

 気になることは多いですが取り敢えず今は──。

 

「フラワーさん、そろそろ寝ましょう。」

 

「え?もうそんな時間ですか!?」

 

 ぱかプチの修復に気を取られすぎて寝る時間の目前です。慌てて寝る支度を整えているフラワーさんを横目にぱかプチを一撫でしてからマスターが取ってくれたうさぎ人形の隣に置きます。

 

「それじゃあ、電気を消しますね?」

 

「お願いします。」

 

 カチッとスイッチが切れる音がして、部屋が真っ暗になります。その後にフラワーさんがベッドに入る音がして、疲れていたのか暫くすると寝息が聞こえてきました。

 それを聞いて私も目を閉じると、存外疲れていたのか、すぐに意識が遠のいていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やぁやぁやぁやぁ!オレだよ!転生者だよ!!テンプレ死亡からの神様遭遇テンプレムーブをかましてミホノブルボン姿のぱかプチに転生した転生者とはオレのことさ!

 転生当初は大変だった。ぱかプチの出荷作業中に目覚め、トラックに詰め込まれてから横に転がってきた神様からの手紙でこの世界のこととこの身体は何が出来るのかを知り、前世の思い出に浸りながら今世の飼い主さんのところで生きていくぞ〜、えい、えい、むん!ってやっていたら段差に乗り上げたトラックの振動で外に投げ出された。

 動けるからってトラック内ではしゃいだり、外の景色を見てたオレも悪いと思うけど、当時の心境は凄かったなぁ。

 神様特典のモードチェンジはエネルギーが足りなくて使えなかったから必死にぱかプチ状態で追いかけたっけ……。

 まぁ、ぱかプチがトラックに追いつけるわけも無く、オレはあっという間に一人になった。

 暫く呆然としていたけど、別に買ってもらわなくても拾ってもらえばいいじゃんと当時のオレは簡単に考えていたっけなぁ。

 その日から飼い主探しの旅が始まったんだけど全く上手くいかなかった。誰もオレを拾ってくれないのだ。人を見つけるたびに人形のフリをして待ち構えているのだが、誰も彼も誰かの落とし物かな?となってスルーしてくる。抱き上げてくれる人もいたが埃を払って結局は置いていった。更に運が悪いことにここから警察は遠く、落とし物として届けてくれる人もいなかった。

 それから猫と鳥。動くオレを見つけると襲いかかってくる。ぱかプチ姿でも人間の子どもくらいの力は出るので追い払うことは出来るのだけどそれでも限度がある。

 猫に引っ掛かれ、鳥に攫われかけ、オレの身体はボロボロになった。破れた部分から綿は出るし、泥で身体は汚れるしで大変だ。

 こうなりゃ多少は強引にいくしかないと子どもがいそうなサラリーマンにロックオンして、何度も先回りして拾って作戦を実行したが、最終的には気味悪がられて蹴り飛ばされたからやめた。

 ボロボロになった身体だと更に拾ってくれる人は減り、避けられるレベルになった。一度大きな学校みたいなところにたどり着き、沢山のウマ娘が出入りしているのを目撃したので拾ってくれる子がいるかもしれないと突撃したが清掃員に見つかりかけて慌てて撤退した。

 それから数日が経ち、活動に使えるエネルギーが無くなる直前まで来た時、オレは賭けに出た。ゴミ捨て場に置いてあったダンボールを拾い、丸めて捨ててあった紙とインクの出が悪くなったことで捨てられたペンを使ってある言葉を書き込む。

 文字を書き込んだら人通りがありそうな場所に移動させてから中に入り込み、このまま朽ち果てるのは嫌だなぁと考えながらエネルギー切れによる活動停止状態に移行した。

 

 

 

 そんな藁にもすがるような賭けに、オレは勝った。オレが今座っている棚の左右のベッドで2人のウマ娘が眠っている。そのどちらかがオレを拾ってくれて直してくれたのだろう。

 

(でもまさかオレの元になった子に拾われるとは思わなかったなぁ。)

 

 片側で眠っているウマ娘に目を移すとそのウマ娘はオレと瓜二つだった。

 ミホノブルボン、短距離に適性があり、三冠達成は困難といわれていたが厳しいトレーニングを積むことによって後一歩まで迫ったウマ娘。

 もし彼女がオレを見つけて拾ってくれたとしたら申し訳ない気持ちになる。誰だって自分の姿をしたものがボロボロだったら嫌な気持ちになるだろう。

 そんな彼女たちにオレは何を返せるか、助けてもらったのだから恩返しはしたい。幸いにも新たに綿を入れてもらったことでエネルギーは50%も溜まっている。

 

(一度面を向き合ってお礼を言いたいけど気味悪がられるのは怖いしなぁ……。拒絶されたら立ち直れなさそう。)

 

 考えた結果、一つ案が出た。彼女たちの身の回りの世話をしよう。2人は学生でありアスリートだ。朝や昼は勉学やトレーニングをするはず。当然、トレーニングをすれば汗が出るし、服も洗わなければならない。もしかしたら服を干したり畳む時間がない時もあるかもしれない。

 そこでオレの出番だ。2人が明日へと回した作業をオレが夜のうちに終わらせてあげるのだ。2人は暫くは疑問に思うかもしれないが楽になれば気にしなくなるだろう。

 

(よし、そうと決まれば早速行動……と言いたいけどもうすぐ朝だから明日からにしよう。)

 

 窓を見ると朝日が差し込んでおり、再起動してからかなりの時間考え込んでいたみたいだ。もうすぐ2人が起きてくると思うので違和感がないように、力を抜いてぬいぐるみ状態へと移行した。

 

 

 それから数日、オレは彼女たちを華麗にサポートすることが……出来ていなかった。仕方ないじゃん!2人とも寝る時には洗濯とか全部終わらせているんだから!

 洗濯物が多い日はやっとオレの出番が来たかと目を輝かせて見ていたのに2人とも凄い勢いで畳んでいって寝る時には何も残っていなかった。

 これだと恩返しが出来ないと他に何か出来ることはないかと慌てたが風呂掃除は寮の公衆浴場に行くからする必要が無いし、皿洗いは食堂で食べてくるのでこちらも不要。たまに軽食を作って食べている時もあるが食べてからすぐ片付けているため意味がない。

 ならトイレ掃除を!と思ったが危うくトイレに落ちそうになり、泣く泣く諦めた。

 そんなこともあり、今は静かに靴磨きをしている。それしかすることがなかった。靴の手入れは彼女たちもやっているが頻度はかなり少ない。汚れたらやるって感じだ。なので靴掃除がオレの仕事になっている。

 寝静まった後に動いて少し汚れた靴を磨いて、また定位置に戻る。何度か布団が動く音がしてヒヤッとしたことがあったが特に問題はなかった。

 2人も靴が綺麗になっていることには気付いていないようで、疑問に思うことなく毎日を過ごしている。

 

 そんな日々を過ごしていた時、その時はいきなり来た。

 

「それじゃあ、洗濯物は明日に畳みましょう。」

 

「それがいいでしょう。」

 

 ニシノフラワーがそう言い、ミホノブルボンが了承する。その後、本当に洗濯物を畳まずに2人は眠ってしまった。

 

(来た?オレ出番が来ちゃった!?ひゃっほーい!)

 

 2人がしっかりと眠っているのを確認した後に洗濯物に飛びついてせっせと畳む。畳み方は2人が畳んでいるのを見ていたので大丈夫。意外と量が多かったので大変だったが、その日は充足感を感じながら朝を迎えた。

 あの日からオレの出番が増えた。朝は2人が起きた布団をキレイにして、部屋に掃除機をかける。夜は2人の洗濯物をせっせと畳んで靴を磨く。

 その行為を2人は不思議に思うことはなく、ニシノフラワーが「素敵な子がいるんですね!」というだけだった。その時にチラリとオレを見た気がするが、多分気のせいだろう。

 それから少し気になるのがミホノブルボンが出かける時にいつもなら留守番をうさぎ人形に任せるのだが、あの日からオレにも頼むようになった。

 

「留守番ミッション、任せましたよ。ミホさんにも任せました。」

 

 今日もそう言ってからミホノブルボンが外へと出ていった。ちなみにミホさんとはオレのことだ。安直なネーミングだと思うがオレは気に入っている。

 部屋の外からウマ娘たちの挨拶などの声が完全に聞こえなくなり、静かになってから行動を開始する。

 いつも通りに2人の布団をキレイに畳み、掃除機を取り出す。しかし今日は掃除機をかける前にやることがある。

 2人共有の棚の一番下の段を開け、中から綿が入った袋を取り出す。折り畳まれた袋を開け、中の綿を食べる。そう、綿がオレの主食なのだ。というか綿しか食えない。それ以外は吐いてしまう。

 綿を食べることで綿エネルギーが溜まり、活動することが出来るのだ。更に神様特典のモードチェンジもこの綿エネルギーを使うため、意外と大事なのだ。ついでにいうとエネルギーが溜まれば溜まるほどふわふわでもちもちな触り心地になる。100%状態のオレを枕にしたらもう普通の枕じゃ眠れなくなるぜ!

 一時期はこの綿がなくなったらどうしようと夜中に細々と食べながら戦々恐々していたが、ニシノフラワーが定期的に補充してくれているので安心して食べられる。置いてある場所も何故か取りづらい三段目から一番下の段に移ったので更に嬉しい。

 食事が済んだので、掃除機の近くにまた移動した後、身体に力を込める。暫くするとボフンという音がなり、閉じていた目を開けると視界が高くなっている。

 これがモードチェンジ。最近になって安定したエネルギー補給が出来るようになったので使えるようになった。初期がぱかプチモードで次が子どもモード。最後にリアルモードだ。初期のぱかプチモード以外はエネルギーの消費が大きく、長時間は使えないが掃除機をかけるぐらいなら大丈夫だ。

 子どもモードのまま出来るだけ小さな音で鼻歌を歌いながら掃除機をかける。一度普通に歌いながら掃除機をかけていたらママを名乗る不審者がドアを叩いてきたのでとても怖かった。

 あの時の恐怖を思い出しながら掃除機をかけ終わると、次にトイレ掃除を行う。子どもモードならトイレ掃除だって簡単なのだ。

 それが終われば夜まで待機だ。おやつの綿をむしゃむしゃ食べながら2人が帰ってくるのを待つ。

 人によってはただ待つのは苦痛かもしれないが、幸いにもオレはそういうことはない。更にこの部屋の窓からはトレーニングをしているウマ娘たちが見えるため、暇になったことはなかった。

 そうしてボーっと待っていると2人が帰ってくる。それから寝る時間まで2人の会話を聞くのがオレの日課だ。

 

 

 

 

(よし、2人とも眠ったな。それじゃあ早速お仕事お仕事〜。)

 

 それから更に数日が経った夜のこと。いつものように2人が寝静まった頃に棚から飛び降りて洗濯物を目指して歩き出すが、その途中で身体が浮き上がる。

 とうとうオレは浮遊術を獲得してしまったか?手足をバタつかせながら試しに前に進めと念じてみるとその通りに前へと進む。

 

(おおっ!何これすごい!!)

 

 このまま暫く楽しんでいたいが、洗濯物を畳むのが先だ。遊ぶのはその後でいいだろう。

 スーッと前に進むことに興奮しながら洗濯物の近くにたどり着き、降りてと念じるが降りない。洗濯物を乗り越えて前に進む事態にクエスチョンマークを浮かべながら何度も降りてと念じているとカチッと音がして部屋が明るくなった。

 

「ふふっ、捕まえちゃいました!」

 

 頭上から聞こえてきた声に硬直する。恐る恐る後ろを向けばオレを笑顔で見つめているニシノフラワーがいた。

 その手はがっしりとオレを掴み上げており、オレが浮遊術だと思っていたのは、ただ単にニシノフラワーに持ち運ばれていただけだった。

 

(全然気付かなかった!)

 

 掴まれていながら気付かないとかある?と言われそうだがこの身体になってからは感情が些細なことで上下するので掴まれた感触に対する疑問よりか浮遊したことによる興奮の方が上回ったんだろう。

 

「ブルボンさん!捕まえました!」

 

 冷や汗をダラダラ流していると、ニシノフラワーがミホノブルボンに呼びかける。すると寝ていたと思っていたミホノブルボンがすぐに起き上がり、オレのことをジロリと見つめてくる。

 

(ふ、2人とも狸寝入りをしていたってこと!?)

 

 ど、どうしよう!?あわあわと慌てているオレを他所に状況が進む。いつの間にかベッドに移動したニシノフラワーの膝に乗せられてオレの目の前にはミホノブルボンがいる。

 

「洗濯物を畳んでくれたのはミホさんですか?」

 

 頭上からニシノフラワーが質問してくるがそれどころではない。オレの頭にはさまざまな考えが浮かんでは消えていた。

 まずは拾って直してくれた感謝?それとも一度ここから逃げる?そういえばニシノフラワーってアグネスタキオンと仲が良かったよね?差し出されないように懇願するのが先?

 そんな考えが浮かび、この身体はその時の感情をしっかりと顔に出す。表情がコロコロ変わり、頭に熱がたまる。それに慌てて別の考えをすれば、その感情を顔に出して、更に熱がたまる。それを繰り返すことでやがて限界が来て──。

 

「…………キュウ。」

 

「……気絶、しましたね。」

 

「えぇ!?し、しっかりしてください!?」




オリ主(ぱかプチの姿)……この後、キチンとお礼を言った。人形に転生した影響か、感情表現を全身を使って行う。誰彼構わず抱きついたりするため、人によってはかなりヒヤヒヤする。感情もかなり表情に出る。他所から見れば感情表現が激しいミホノブルボン。
綿エネルギーという未知のエネルギー器官を持っており、そこに溜まったエネルギーを使って活動を行う。エネルギーがたまるほど触り心地が良くなり、100%時にアドマイヤベガに捕まると離して貰えなくなる……らしい。
 外に一緒に出かける時はストラップみたいにくっついて出かける。作中では一度も話していないが、しっかりと声を出すことは出来る。

ぱかプチモード……通常モード。こんな形だがしっかりと力はある。エネルギーを使えばウマ娘並みのパワーを出せるので物運びの時は頼ってほしい。しかし小さいのでトイレ掃除などは苦手。

子どもモード……ウマ娘の平均身長の腰ぐらいの大きさになる。子ども版ミホノブルボン。身長が必要な時に使用する。この形態の時は常時エネルギーを使用するため、長時間は使用できない。

リアルモード……ミホノブルボンそっくりになる。しかし感情表現などは全力で行うし、嬉しい時は普通に抱きついてくる。男性トレーナーは内なる自分との勝負が始まる。
 レースを行う時に使用する。エネルギー消費がかなり激しく、一回しかレースを行うことが出来ない。人形なので体力という概念がなく、エネルギーがある限り常に全力疾走で逃げを行うし、ちゃっかり固有スキルも持っている。

ニシノフラワー……オリ主が動いていることはかなり早い段階で気付いていた。最初はタキオンに相談しようとしていたが、懸命に靴磨きをしているオリ主の姿を見てもう少し様子を見てみることにした。
 洗濯物を畳んでいる時にオリ主の目が輝いていることに気付き、家事が好きな子なのかなと判断。綿を食べていることを知り、補充や取りやすいように場所を変えたりもした。
 家事の手伝いをしてくれたお礼をしようと捕獲。持ち上げた時にオリ主が興奮気味に手足をバタバタさせていたのにほっこりした。しかしその後オリ主が気絶してビックリした。この後は2人で家事をする仲になる。

ミホノブルボン……救世主。自分の姿をしたオリ主を拾って直した。自分の姿を模したぱかプチが捨てられたことに密かにショックを受けていたが、オリ主から話を聞いて捨てられた訳ではないと知った。
 ニシノフラワーからオリ主が動いていることを聞いてからうさぎ人形と一緒に留守番を任せるようになった。
 オリ主からの提案で誰もいない時だけ併走をする関係になる予定。エネルギーが切れた?はい、新しい綿です。食べたらまた走りましょう。

 思いついたから書いたけど続きを何も考えていない……。

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