テラでDJやってたけど感染したのでオペレーターになります。 作:ヘルメットのお兄さん
朝、それは全ての者に等しく訪れる時間の概念。
光を感じ取ることが出来ないオルフェも日の暖かさを身に受ける事で朝を感じ取ることが出来る。
「……朝か……うん?」
サングラスをかけ自分の欠伸の音を起点に周囲の状況を確認するとすぐ傍に聞き慣れないものがあった。
今度は指を鳴らししっかりと確認すると
「お……おはよう、オルフェ……?」
マンティコアが部屋の真ん中で座っていた。
「うわいっ!!? ……たぁ……」
思わずベッドから転げ落ち頭を打ってしまう。
「ご……ごめんなさい、挨拶しようと思ったて来たけど……」
「いや大丈夫! おはよう! 全然痛くないから何の問題もないよ!」
無理矢理起き上がりマンティコアに挨拶をするとベッドに置いてある端末から音が鳴る。
それを取り内容を確認するとオルフェはしまった、というような顔をする。
「あぁそうだ……今日は定期検査か……ごめんマンティコア、来てくれたばかりで悪いけどちょっと医療室行ってくるよ」
「定期検査……うん、行ってらっしゃい」
マンティコアが手を振りオルフェを見送るとオルフェは通っている医療室に向かう。
いつもは決まったオペレーターがいるのだが今日の診察相手は普段と違っていた。
「オルフェさん、お待ちしてました」
「ウィスパーレインさん? 珍しいね、君が診察なんて」
「今日はワルファリンさんが不在なので代わりに私が診察しているんです」
「なるほど、それじゃあお願いするよ」
「……はい、これで診察は終了しました」
「うん、ありがとう……さてとこれからどうしようかな」
検査後、オルフェが椅子から立ち上がるとふと椅子の下に何か小さな紙が落ちていることに気づく。
「これは……映画の半券?」
半券を摘まみ取るとウィスパーレインは自分のポケットを探りだした。
「えっ? あ……ごめんなさい、それ、私のです」
「返すよ、いつも半券を集めてるの?」
「はい、映画館で映画を見る時、いつも記念に残しているんです。もし私が忘れてもこれはずっと残るので……」
そう話すウィスパーレインを見てオルフェは彼女の略歴を思い出す。
「思い出を記録するか、いいねそれ」
「ありがとうございます。……よければオルフェさんも映画、見てみませんか?」
「いいね、それなら昔俺がOPを作曲したアニメ―ション映画があるからそれを……」
その時、オルフェの脳内にある発想が浮かんだ。
「……? オルフェさん?」
「ごめん、今ちょっと作りたいものができたから映画についてはまた話させて!!」
そう言うとオルフェは風の様に医療室を去っていった。
「……?」
「ただいま!」
「! ……おかえり」
マンティコアが迎えてくれるが珍しくオルフェは急いで部屋の中にあるケースを探りだす。
「オルフェ、どうしたの……?」
「ごめんね、今ちょっと思いついたことがあって……あった!」
マンティコアはオルフェが取り出したものが少し埃の被った小さなつまみや機械がついた鍵盤にしか見えなかった。
「それは……楽器?」
「シンセサイザーっていう楽器、久しぶりに出したけどこれ……動くかな」
オルフェは言いながらも手慣れた手つきでそれを組み立てるとスイッチを入れる。
するとシンセサイザーから甲高いピアノの音が聞こえた。
「!」
「よし、問題ないっと……それじゃこうして……」
オルフェがボタンを押すと今度はヴァイオリンの音が鳴る。
その後も様々な楽器がシンセサイザーから鳴り響く。
「良かった、ちゃんと動く……あれ?」
ふとマンティコアの方を見ると先程よりずっと近くで音を聞いていた。
「……一曲弾いてみようか?」
「……いいの?」
「いいのいいの、人を楽しませるのが音楽家の性分だからね」
オルフェは音源をピアノに設定すると前世で何度も引いた名曲を演奏する、それは非常に難易度が高くプロでも人によっては敬遠するような曲だったがオルフェは完璧に弾き切った。
「どうだった?」
「……凄かった、とっても……綺麗な音だった」
「ちゃんとした楽器を使えばもっと綺麗な音が出せるよ、さてそろそろやるか……」
「何を、するの……?」
「曲を作るんだ、世に出たことのない新しい曲を」
その言葉にマンティコアは尻尾が揺れた、どうやら気になるらしい。
「……見てていい?」
「勿論、と言っても面白いかはわからないよ?」
それからオルフェは曲を作り続けた、同じ個所を細かい所まで何度も直し、一つの音階に数時間思考し続けた。
「オルフェ、君さっきからずっと端末を弄ってるけど流石に食事中は止めた方が……」
「エリジウム、お前背中に何か貼られているぞ」
「え!? 嘘ほんとだ! ちょっと剥がしてよ相棒!」
時には食事中も考え続け、
「~~♪」
「なんだアイツ!? 歌いながら戦ってやがる!」
「あいつの槌に触れるな! 装甲を貫通して吹き飛ばされるぞ!」
時には作戦中も考え続け、
「よし、次は採血をしてもらうぞ。腕をまくってそこに掛けておけ」
「~~~♪ ~」
「おい、妾の話を聞いておるのか? 腕をそこに……人の話は聞かんか!!」
「痛っだあああああぁぁ!!!!??」
時には検査中にも考え続けた。
そして一か月後、オルフェはウィスパーレインのいる図書室へやってきていた。
「あの……オルフェさん、このレコードと端末は……?」
「新曲」
「え、新曲って……ええ?」
「一か月前映画の半券を集めてるって聞いた時思いついたんだ、すっごく久しぶりに曲作れて満足してますはい」
オルフェはやり切ったような顔をしていたがウィスパーレインは何故これを自分に渡したのかがわからなかった。
「あの……どうしてこれを私に?」
「音楽もさ、残るんだよ」
「え?」
「映画の半券みたいに、誰かが作った曲って言うのはずっと残るんだよ。忘れてしまっても、思い出は音に入っているんだ」
ウィスパーレインは手に持った端末をじっと見た、そこには音楽プレーヤーのアプリに『
「これを、私に?」
「初めて聞いてもらう相手は選びたくてね、俺って普段あまり曲作らないから珍しいんだよ?」
ウィスパーレインは端末に繋がれたイヤホンを耳に入れ、再生ボタンを押す。
実の所ウィスパーレインは一度N.Nの曲を聞いたことがあった、その時はなんてことはない気まぐれだったが重音が激しくはっきり言って人を選ぶような曲だった、そのせいかそれ以降彼の曲を聞いた事は無かった。
しかし、今彼女が聞いている曲は静かな空間に一つのピアノが旋律を奏でるような優しい音楽だった、雨の音に包まれる中緩やかな音色が静かに踊り彼女の耳を撫でていった。
実時間にして四分程度の曲が終わるとウィスパーレインは笑顔でオルフェに向いた。
「……ありがとうございます、凄く……素敵な曲でした」
「こちらこそありがとう、おかげで自分でも良い物が出来たと思ってるよ」
「……ふふ、それは良かったです」
小雨が降るある日、ウィスパーレインはいつも通りの生活をしていた。
患者達の診察と治療、他の医療オペレーターとの情報交流、仕事の合間に映画を嗜む。
しかし何人かのオペレーターは彼女が普段持たない端末を持ち歩いていたことに気づく。
一人のオペレーターが聞くと彼女は大切な思い出の一つだと答えた。