テラでDJやってたけど感染したのでオペレーターになります。 作:ヘルメットのお兄さん
放送タワー前、セイロンはシュヴァルツの前にやって来た。
「やはりこちらでしたか、お嬢様」
「シュヴァルツ……」
「必ずこちらに来られると思っておりました。クローニン様に断られたからには、放送タワーを通じて市内全域に情報を拡散しようとすると……」
「……!」
「ですが、それはいけません、お嬢様。そんな事をすれば市内全体に大きな混乱を招くだけです。お嬢様は旦那様を……そして旦那様が心血を注いで作り上げた、この都市を恨んでおられるのかもしれません。だからと言って、この都市やフェスティバルを滅茶苦茶にしてもいいのですか?」
「わたくしの発表が大きな混乱を招くことも、多くの出来事の発端になる可能性があることは分かっております。でも、市民には真実を知る権利があるのです」
「確かに旦那様の過ちは私も存じ上げております。旦那様はこの都市の為にと、好ましくない事を何度もしてきました。しかしそれが無ければ、そもそもこの都市は存在していないのです」
「今回はそういうことではないのです!」
声を荒げるセイロンに対しシュヴァルツは冷静に、諭す様に語り掛けるがその話は平行線となっていた。
「何を長々と話している? たかが小娘一人だ。さっさと捕えたらどうだ?」
「あの方はドルクス家のお嬢様です。口の利き方には気を付けてください……それにあの方がここに一人だけで現れ、しかも目的を果たさずにこうして問答だけをしているという状況を考えれば……本気で放送タワーに侵入するつもりだと思いますか?」
「なんだと?」
時は同じくしてシティホール
「外がやけに静かだがどうした? 資材の搬出を急げと言ったばかりなのに、もう怠けているのか?」
「なんだ? それに先程の叫び声は、まさかまた揉め事でも? まぁいい、こちらはやるべきことを──」
「こんにちは。すみません、いらっしゃいますか! お荷物のお届けに上がりました!」
「(なに? 誰か心当たりのある者は? いない? 変だな……)間違いだ! ウチ宛てじゃない!」
「ですが荷物にはこちらに送るよう書いてありますよ?」
「立ち去れ! これ以上グダグダ言っていると痛い目に遭うぞ!」
「……」
「チッ、ガキか。まぁ金をだまし取りに来たってとこだろうな」
「あー、もういい! ドクター危ないからどいてて。このドア蹴破るから!」
「なんだぁ?」
クローニンの護衛が訝しげに扉に近づこうとした瞬間、ドアがひしゃげながら破られた。
「うわああ!? ドアが破られただと、くそっ、お前は一体……」
『配達員を雑に扱ったからだな』
「へへ、一回やってみたかったんだ。そしてこういうの……開けろ! 宅配だ!」
『いや、もうドアは蹴破ってるし』
ドクターとヴィグナがシティホールで暴れている最中、セイロン達の会話は続いていた。
「お嬢様、あなたがそうまでされる理由をお聞かせください。もしそれに納得できるのであれば、ロドスを追うのは諦めますから」
「……そうするしかないからよ。わたくしはお父様が血も涙もない人だなんて信じない。お父様がいたら絶対にこんなこと見過ごすはずないもの。お父様はこの都市を愛している。誰よりも。わたくしよりもそのことを知っている人などいないわ」
「もしかして旦那さまのこと、恨んでおられないのですか?」
「どうして? 恨むというのなら、お父様がわたくしを恨むのが正しいのではなくて? わたくしを生むために命を落としたお母様の事で……でもお父様は一度もそんな素振りを見せた事は無いわ。わたくしがお父様の事を嫌うとしたら何も言わずに全てをお膳立てしてしまうところだけよ。……周りからすれば、確かにお父様はわたくしを守っているように見えるでしょう。ですがその結果、私には何も知らされず、行動を起こすこともできないの」
「お嬢様……」
「今回だって同じよ! クローニンさんがお父様を騙して、火山が噴火する事を隠しているに違いないわ。だからお父様もクローニンさんにわたくしが警報を発信するのを止めさせようとしているに違いありません! これに恨みなんて関係ないでしょう?」
「えっ……お嬢様、今なんと? 火山が噴火? クローニン様が言うには、お嬢様は旦那様の過去に関わる機密事項を全て暴露することで旦那様を市長の座から引きずり下ろし、裁きを受けさせるつもりだと……」
「えっ? 違うわ。お父様は過去に何かなされたの?」
「い、いえ……なんでもありません……そういうことでしたか。ようやく分かりました」
一方ドクターとヴィグナも作戦は佳境に入っていた。
「ねードクター、まだ見つからないの? ライブに間に合わなかったら一生後悔しちゃうじゃない!」
『ああ、帳簿と債券を見つけたぞ』
「あ、見つけたの? やっぱり叩けばホコリって出るもんなんだね。メテオリーテ姉さんが言ってた通り、時には暴力も必要なんだね!」
「く、クソッ! まあいい、逃げられさえすれば後の事はどうとでもなる!」
「あ、ドクター、あいつ窓から逃げるよ!」
『構わない、この資料をすべて持っていこう!』
「オッケー。あれ、でも将軍のおじさんってまだ外にいたよね? あのクロ……なんちゃらとかいうヤツ、逃げない方がまだマシだったかもね……」
その後へラグにあっさりと捕まったクローニンはセイロン達の前に出されていた。
「シュヴァルツ……お前たち二人が一緒にいるという事は……」
『証拠はこちらにある、もう逃げられない』
「ドクター、油断はするなよ。窮鼠猫を噛むと言うからな」
「お前ら……お前ら……」
「貴女の計画はもうすべて露呈しているわ、クローニン!」
セイロンがクローニンに指を突きつける。
「……」
「つまり、全てを知ったということか」
「こんな分かりやすい嘘、元より長く保つはずがございませんわ」
「あ、ライブが始まる……」
ヴィグナが呟くと、ちょうどアーティストであるD.D.D.がマイク越しに声をあげる
『皆様! 黒曜石祭へようこそ!』
熱狂的な歓声が沸き上がる。
『こんなにアツーイ熱情を貰っておいてなんだけど、エブリバディはまだ黒曜石祭の真の魅力ってのやつを味わっていないんだよ! そう! メインディッシュは今夜なのさ! この黒曜石祭に招待したミュージシャン全員がここに集って、エブリバディの全身を興奮して爆発させるんだ!』
『もちろんメインステージだけじゃない。4つのビッグステージに12のミニステージ、各界のミュージシャン40人が勢揃い! 明日の朝日が昇るまで、18時間ぶっ通しのお祭りだ!』
D.D.D.の声と共に花火が上がり会場のボルテージが上がっていった。
「……セイロンお嬢様から火山のことは聞きました。火山の観測データを改ざんしたばかりでなく、お嬢様がデマを流すつもりだと口から出まかせを言うとは」
「お前も知っているはずだ! ヘルマンがやってきたこと、私達は全て知っている! あんな奴にこの都市を──」
「ほう、何を知っているのかな」
クローニンの叫びを遮るように一人の男が割り込んできた。
「クローニン君、続けなさい。だが私が「業務で出張」に行っている間に君がやったことも、全て話してもらう」
「パ──お父様!?」
「し、市長!? どうしてこちらに!」
「そんなに意外か? 私が火山での黒曜石の採掘を禁じたのにもかかわらず、市場には依然として新たに採掘されたと思われる黒曜石が流通している。採掘員と思われる者たちが、何度も火口で確認されているが、私には何の報告も上がってきていない。そして、彼らによって採掘された黒曜石は、複数の転送を経て、最後にはシティホールの配倉庫へと輸送されている。更には私がシエスタの鉱石病患者のために予算を立ててからというもの、彼らが不公平な待遇を受けたという噂が増え始めていた。それらのこと、君は変だと思わなかったのかね?」
「クッ……」
「私としては、この身が震えるほど、激しい怒りを覚えたよ。そして事態の真相を探るため、私は一時シエスタを離れるという偽情報を流し、シュヴァルツに私の代わりにこの街の真相を調査させたのだ」
「なるほど。では後はこれらの記録と、それに関わった者達を調査すれば良いというわけだな」
「へラグおじ様、そちらも無事で何よりです!」
「残念だよ、クローニン君、君とは様々な物事を分かち合ってきたが、君は急ぎ過ぎたのだ」
「私が? 急ぎ過ぎただと? 私は全て、アンタから学んだんだ……利益の為なら手段は重要ではない、結果がすべてだという事を。このみすぼらしい田舎に、私がどれだけの心血を注いできたと思っているのだ? それなのに、やっとの思いで黒曜石によって得た収益を、全て治る見込みのない疫病神のための予算にするなんて。それならいっそ火山の爆発に呑まれてしまえばいい! シエスタの物資と財産は私が守る、それさえあれば再興だって容易いはずだ!」
「私はこれまで正しいとは言えないこともやって来たが、一度たりともシエスタの運命を汚すようなことはしていない。採掘員と研究者の命を、君は何だと思っているのだ。君はもう今日限りだ……出ていきたまえ」
市長であるヘルマンがクローニンに解雇宣言をするがクローニンは不敵な笑いを浮かべる
「……それはどうかなボケ老人が! アンタが長々と無駄に喋っていてくれたおかげで、私の部下はもうここに揃った!」
その頃、外の騒ぎを感じ取ったアーティスト達はスタッフに声をかけた。
「ちょっと、どうしたのよ? 外でなにかあったの?」
「何でもありませんよ、こちらへどうぞ」
「ゲストは揃った。後ニ分半でスタートだ。急げ! さっさと外の騒ぎを鎮めろ!」
「今となってはヘルマンの名に威厳などありはしない! 彼らはここ数年で育てた私の部下だ。皆、私の命令を忠実にこなすことで、美味しい生活ができるというのを骨身に染みて知っているからな。ハハハ。今日がこの都市と音楽祭のクライマックスだ。ここ数年で私は十分に報酬を貯め込めたからな。もうこの場所などどうなってもいい。そうだ、心優しい私が何も知らずに最期を迎えるアンタに教えてやろう! アンタに見せて来た火山の観測データは全て偽物だ。あの火山はまもなく活性化し暴発するだろう。火山の噴火と共に源石も広範囲に拡散し、少なくともこの都市の半分は破壊されるだろう! アンタは全てを失う! だが私は何も失わない! そうだな……噴火が落ち着けばまたここに戻って採掘してもいいだろうな。ハハハ! シエスタはやはり私の宝だ! 私もこの都市の事は愛しているぞ! ヘルマン!」
「よくも言えたものだな」
「私は天災トランスポーターだ。火山の噴火から逃れるなど私には容易い」
「しかしアンタらはここで敗れ、シエスタが廃墟と化す様子をパニックと化した住人達に踏み潰されながら眺める事になる。もちろん最後にはアンタら全員が噴火に呑まれて名誉の死を遂げるだろうな。そして私だけが生き残るのさ」
『ロドスを甘く見過ぎだな』
「……オマエら……ロ、ド、ス」
「失望したよ、クローニン。君は今の自分が何をしでかしたのか、その目でよく見る事だな。そして自分が見たものを、檻の中でよく嚙みしめるがいい!」
直後、クローニンが、いや、この場にいる全員が大きく揺れた。
「なんだ?」
「これは……まさか噴火の前兆の地震!?」
「来た……来たぞ! この都市と共に灰となってしまえ! 今から放送タワーを占拠しても、もう遅い! 警報を出したところで市民がパニックになって事態が悪化するだけだ。火山の爆発はもう目前だ。あんな簡単なサンプルでは噴火時期まで読み取れまい。そして緊急避難用のルートは私だけが知っている! もちろん、オマエらには教えないがな! どれだけ偉そうにしていようが、もうオマエらには誰も救えない! 全てはこの都市と共に崩壊するんだ!」
高らかに笑うクローニンだが、ドクターとセイロン、へラグは冷静だった。
「ドクター、どうなさるの?」
『エリジウム、準備はできたか』
ドクターが端末に話しかけるとエリジウムの声がする。
『問題ないよん、まずはエイヤフィヤトラちゃん達からの連絡繋げるよ』
音声が切り替わるとエイヤフィヤトラの声が聞こえる
『先輩、聞こえますか! 火山の分析が完了しました! 今のうちに対処すれば、まだ間に合うかもしれません!』
すると今度はプロヴァンスの声に代わる
『ドクター、火山が活性化した原因を見つけたんだ。上手くいけば阻止できるかもしれないよ!』
『皆さん冷静に聞いてください。今から説明する方法を実行することで、必ず火山の活動を鎮静化できます』
「了解した。では、役に立てる事があるのなら、私達も手伝うとしよう」
「いえ、この件はわたくしたちにお任せください。クローニンはこれだけ長く秘密工作を続けていたんです。彼の手下が都市のいたるところに潜んでいると考えて間違いありませんわ。今が一番大切なときです。二人とも、やるべきことがある筈ですわ」
「それは別のものに任せても──」
「これは、わたくしたちが往くべき任務なの」
「セイロン……」
「僕も賛成かな、僕達はそれぞれ専門分野でプライドがあるんだ。それにそんな専門知識を使って自分ばっかり良い思いをしてきた人がいるなんて、絶対に僕は許せない」
「その意気やよし、では市長殿、観客を避難させる任務、私が手伝わせていただこう」
「……感謝する。しかしまずはこの混乱を収めなければ……」
『そちらは大丈夫だ』
ドクターの言葉にヘイロンは疑問を浮かべる。
「ハハハ! ……大丈夫? 既に怪我人も発生しているこの混乱を貴様らが話しただけで収められるのか!? 無理に決まってる!」
『やるのは私じゃない』
『ドクター、繋げるよ! 放送開始だ!』
エリジウムが声をあげた瞬間、放送タワーからシエスタ全域へ声が届く。
『あーあー、聞こえてるかな?』
パニックに陥っていた市民たちはその声に意識を傾けた、そして会場に居た者達は全員スクリーンに映っているD.D.D.の隣にいた人物に目を奪われる。
そこにいたのは3年前、行方不明になり数か月前奇跡の復活を遂げ、そして引退を宣言した者なのだから。
『俺の名前を知ってる人ー? いるなら呼んでくれー!』
「「「「N.N!!??」」」」
市民たちは驚きと感動が混じった叫びを放ちクローニンでさえ驚愕を隠せなかった。
「馬鹿な……アイツは今年の紹介状を断ったはずだ! ゲストメンバーにもいないはず! 何故シエスタに……!?」
そしてその驚きはスタッフも例外ではなかった。
「どういうことだ! アイツは招待状を断ったんじゃないのか!?」
「止めろ! 何にせよN.Nの登場は予定にない! ステージからつまみ出せ!」
黒服の男達がN.Nをつまみだそうと動き出すが、その言葉を聞いてしまったファン達が黒服たちを掴むと人の波に沈めてしまった。
驚いているD.D.D.の隣に立ちながら尚もDJ「N.N」は話す
『マジでサプライズ登場だぜ!! 俺の事はスタッフにすら伝えてないからな! 本当はこのままライブとしゃれこみたいんだけどその前に! 皆パニックになってるかもしれないから落ち着いて聞いて欲しい、さっきの地震が起きた原因は既に判明している』
その言葉に市民たちがざわめく、しかし市民達は不思議とそれ以上パニックにならずにいた。
『だが慌てる必要は無い、その原因を止める方法は見つかっているんだ! しかし見つかったとはいえそれだけで君達ファン達を危険に晒したくはない。一時的ではあるけど愛するファン達には安全の為避難を行ってもらいたいんだ。OK?』
その言葉に多くの人が頷いた、それを見たN.Nは嬉しそうに喋る。
『この騒動が終わったら!! 引退した身だけど俺もこの黒曜石祭に参加したいと思っている! 誰にも言って無い本当に突然の事だが皆良いかな!!』
ウオオオオオオオオオ!!!!
雲すら吹き飛ばしかねない歓声が響き渡るとN.Nの背中からD.D.Dが話しかけてくる。
「ちょっと君本当にN.N!? 今までどこ行ってたの!」
N.Nはマイクを外すと小声で話しかける
「やあディー、今ちょっとロドスにいてさ、鉱石病の治療中なんだ」
「鉱石病って……あ、だからあの一夜限りの復活って!」
「察し良いね、という事でちょっと君達アーティストにも協力して貰っていい? 避難誘導」
からからと笑うN.NにD.D.D.は諦めたようにため息を吐いた。
「そうだった、君はいっつもヘラヘラしてオイラ達を心配させようとしなかったね! いいよもう! AUSとエンペラーにはオイラから言っておくよ!」
「さっすがDJ仲間! 頼りにしてるぅ!」
「それよりこの地震が落ち着いたらオイラとコラボしてよ! それくらいの対価はもらっていいでしょ!」
「おうともさ、DJ「N.N」の腕が衰えていないってとこ教えてあげよう」
『……よし、エブリバディ! N.Nの言った事は本当みたいだ、慌てず協力して避難して!』
アーティスト達が、市民たちが協力して避難を行っている姿にヘイロンは感動すら覚えていた。
「あれがN.Nか……実際に目の当たりにするとその力がうかがえるな」
「馬鹿な……あの混乱をこうもあっさりと……」
『この後ぶっ通しでライブをする羽目になったN.Nには申し訳ないが、こっちも出来ることをしよう』
「そうですわね、では私たちは火山を鎮めますわ、オルフェ様の期待にお応えしなければ。シュヴァルツ、後はお願いね」
「ハッ! セイロン様、どうかお気をつけて」
セイロンはスカイフレア、プロヴァンスと合流するために火山へと向かった。