テラでDJやってたけど感染したのでオペレーターになります。 作:ヘルメットのお兄さん
現在バー「テラーマーティン」、騎士競技が始まるまでまだ時間がある中男たちは集まっていた。
「……こんな時間からみんなで集まる必要はあるんじゃろうか?」
「何言ってんだ! 後たった一時間半で嬢ちゃんの試合が始まるんだぞ? 本格的に訓練を開始して以来、初めての戦いなんだ! 当然みんなで応援しなきゃいかんだろう……って言いたいが、オルフェはまだ来ていないのか?」
「ああ、彼なら映像だとわからないから現地で観戦するらしいよ」
「なんと、てっきりわしらと応援するものだと思っておったわい」
「ゾフィアもいるしあっちはあっちで盛り上がるだろうさ」
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同時刻、試合会場。
オルフェはゾフィアと共に観客席に座っていた。
「二アール! 俺の全財産がお前にかかってるぞ!」
「*口笛*耀騎士の後継者だ!」
「この空気、ほんと大袈裟なんだから……ねえちょっと! 座ってくれないかしら、邪魔なんだけど!」
「俺と席代わる?」
「……いえ、いいわ。それより貴方は背を丸めた方がいいわよ」
ゾフィアがオルフェの後ろを見ると観客の一人が怯えながら試合を見ようと背筋を伸ばしていた。
「あ、すみません」
「(随分……随分と長い間、観客席から試合を見てなかったわね。マリア……絶対にこの空気に吞まれちゃダメよ)」
「ねぇゾフィア、マリアの対戦相手って誰だっけ?」
オルフェがsound-Mを介して対戦表を確認しているとゾフィアが説明してくれる。
「相手は合成樹脂。武器はボウガンで……『冠する称号はチープ、しかし実力派エクスクルーシヴな競技騎士────合成樹脂“プラスチック”シェブチック!!』……後は聞いての通りよ」
「なるほどね……しかしあの司会の声、もしかしてビッグマウスモーブか」
オルフェの言葉にゾフィアは質問を投げかけようとしたがそれを遮るように最新素材のアーマーで身を包んだシェブチックは話しかけてきた。
「ほう、まさかこんなところでお前に会えるとは……しかも舞台から観客席にいるお前を見ることになるとはな」
「……シェブチック」
「“ウィスラッシュ”ゾフィア……負傷してメジャーを去ったはずのお前が、まさか自らあの屈辱を思い出すために戻ってくるとはな。隣のミュージシャンはスポンサーか?」
ゾフィアはオルフェの事を一瞬見るが彼は問題ないというように笑っている。
「いいえ? 彼とはちょっとした繋がりがあるだけでただの友人、口だけは達者な君と違って気の良い人よ」
「どうも、ミュージシャンというよりはDJです」
「それは失礼……お前が二アールの末娘を鍛えたんだろう? この一か月の間に────」
「観客と喋ってないで、ちゃんと自分の対戦相手をご覧なさい。でないと、またこっぴどく負けることになるわよ」
「なるほど、少しは楽しませてくれそうだな……」
シェブチックはオルフェを横目で見るとすぐに舞台に上がっていった。
『おおっ! シェブチックが舞台に上がる前に観客と話していたそうですが、あれは“ウィスラッシュ”のゾフィアです! 間違いありません。これがいわゆる……?』
ゾフィアを見つけたビッグマウスモーブは彼女を使い場を盛り上げようとするがふと隣の大男が視界に入る。
その姿にモーブは数日前読んだ新聞を思い出した。
『あ、あのゾフィアの隣に座る大男はN.N……!? 何という事でしょう! かつて音楽会を震撼させ誰もが記憶に残る引退をした伝説のDJ“N.N”が“ウィスラッシュ”と共に観客席にいます!? まさかマリア・二アールの応援に来ていたのか!?』
モーブの声にオルフェの周囲だけではなく実況カメラさえも動揺が起き、試合が始まろうとしているにも拘らずカメラはウィスラッシュとN.Nをカメラに収めようとし始めていた。
「あー、まぁバレるか……」
「君、本当に有名なのね……サインの一つでも貰った方がいいかしら」
「良いけど後でね」
オルフェがカメラに視線を向け、人差し指を舞台に向けるとカメラもモーブも気づいたのか慌てて動き出す。
『……あっ、これは失礼しました! それではこれより選手の入場です!』
「支援物資っていくら?」
「物によって値段は変わって来るわ、でも闇雲に支援してもしょうがないから買うなら気を付けて」
「わかった…………オッズ高いなぁ、もっとマリアに期待して貰っても「あの……本当にN.Nさんですか?」うん?」
「あの、5年前からファンです! サイン貰ってもいいですか……?」
「いいよー、良かったら俺の推してるマリア・二アールも応援してあげてね」
「……ちゃっかりしてるわね」
そして試合開始の合図が鳴り……甲高い声援から僅か数分の後。
『さぁさぁ! 皆さま! ご注目ください! 試合開始前に、一体だれがこの展開を予想できたでしょうか? その名がとどろく二アール一族と「合成樹脂」騎士の対決、果たして誰がこんな状況になると想像していたでしょうか!
マリア・二アール! 誇り高き、二アールの名を受け継ぐ少女が、まさかの完・全・試・合! シェブチックに完全に抑え込まれています! 全く反撃できな──―い!!』
マリアはシェブチックの遠距離からの攻撃に対応できずにいた。
「マリア……! 左よ!」
「……凄い音だ、モーブも言ってたけど地形の使い方が上手い。俺達地形の利用法なんてあんまり教えられてないしな」
ゾフィアは傷こそ受けていないが防戦一方のマリアの状況に歯噛みしていた、オルフェの言う通り地形の使い方は教えられていないし遠距離から戦って来る相手との戦い方も満足に教えられなかった。
ふと、オルフェは遠くから自分達を噂する声が聞こえそちらを向くと赤と灰色の髪のザラックの少女たちがいた。
「……?」
「ちょっと、どうしたの余所見なんて」
「……いや、なんでもないよ。──マリア!! ゾフィアの言葉覚えてる!!?」
オルフェは大声を出すとマリアの耳に届き、数日前の稽古を思い出す。
「(オルフェおじさんの声……言葉? ……そうだ、よく観察し、よく考える……)」
マリアは動きを止めるとその瞳を動かした。
「……」
「攻撃の隙を伺っているのか? 愚かな!」
シェブチックの放つ矢がマリアの腹部を狙うが反射とも言える速度で矢を逸らす。
「あのデザイン……試してみよう」
『突っ込んだ!? これまで“プラスチック”シェブチックに棒切れのように弄ばれていた二アール家のご令嬢が、ここで初めて自ら攻撃に出たぞ!!』
素人が見れば愚直な突撃にも見えるマリアの行動は、決して侮るものではなかった。
互いが交錯する直前、鋭い矢が放たれマリアの頬を掠めさせたが彼女は剣を抜かない。
彼女は敵の肩に手を置き空高く舞い上がった。彼女の突撃が余りにも「友好的な」ものだとは誰も予想していなかった。
その変化にいち早く気付いたのはオルフェだった。
「……妙な機械音がする」
「え?」
「多分、マリアはあのスーツの欠陥を突いた。排熱音か? デザイン性重視にしたせいかあいつの装備に排熱性能が最悪なんだ」
オルフェの言葉にゾフィアも理解する、二人の会話の間にマリアもまたシェブチックとの対話を終わらせたのか間合いを取り、ステージを駆け回り始めた。
「小賢しい!」
シェブチックが矢を構える瞬間、またマリアは突撃する。
「*警報音*なっ!? 使えない冷却システムがっ……!」
「ごめんなさい!」
「調子に乗るな!」
シェブチックはクロスボウのスパイクでマリアを振り払おうとするが、不意に膝裏を蹴られ体制が崩れた。
「なに!?」
マリアは目を瞑った。
過去に何度も目に焼き付けたあの動き……ずっと繰り返し、憧れて真似してきた動きをトレースしていた。
「あの逆袈裟斬り……あれは確かマーガレットが優勝した時の……」
「貴様……こんな……こんな馬鹿な……」
どさり────と倒れる音と共に今日一番大きな歓声が沸いた。
「こっ、これは予想外の結末だ────!!! ついさっきまで優位に立っていたシェブチックが、たったの一振り──剣を一振り浴びただけで意識を失いました! これで決着! 間違いありません! 勝者は……マリア・ニア──ール!!」
「よっしゃー!! マリアの勝ちぃ!!」
「マリア……やり遂げたのね。でも……本当にこれでよかったのかしら?」
「今は喜んでいいでしょ! ほらゾフィアも!」
「きゃっ……!? ちょっと!?」
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後日、とあるバー
「「「「かんぱーい!!」」」」
「いやぁ、おめでとう嬢ちゃん! 素晴らしい試合だったな。今の老いぼれたフォーより断然強いぞ!」
「そりゃ、わしより強いのは間違いないが……お主に言われる筋合いはないわ!」
「ああ!?」
ガタン、と席を立つと二人は腕相撲を始めだした。
「最後の逆袈裟もよかったけどその前の足技もよかったよ! あれ俺の盗んだ?」
「オルフェおじさん、うん。何回も転ばされたから体が覚えちゃったみたい……えへへ」
「しかしあの劣勢だった状況下で見事な逆転劇を見せるとはね……実に大したものだよ、この一杯は君に捧げよう」
「あ、ありがとう! もし彼の装備が欠陥品だったら打つ手なかったかもしれないし、大袈裟だよ」
「Jack2モデル……冷却システムがアーマーの機能を一時的に止めるなんて聞いたことが無い。あんなのただの欠陥品だよ」
「それでも君は勝ったんだ、君の長所で。もっと誇るべきじゃない?」
「そ……そうだね!」
「……マリア!」
「はい!」
「自惚れるにはまだ早いわ!」
「は、はい!」
「これからは、感情を意識的にコントロールする事を学ぶのよ──平常心を保つだけじゃ足りないの。自省を繰り返し、常に冷静でいないと……」
「……あれ、ゾフィア酔ってる?」
オルフェが問うとゾフィアは顔を赤くしたまま答える。
「よってらいわよ! ちょっと、マリアまで何笑ってるのよ!」
「ゾフィアおばさん? それジュークボックスだよ?」
「マリア、おばさんってよばないれ……!」
「あー、酔ってるなこれ。ちょっと二人ともー」
オルフェは腕相撲で一喜一憂している老人たちに声をかける。
「水道管で鍛えられた腕には勝てなかったな?」
「ちっ……おおどうしたオルフェ?」
「酔ってる?」
オルフェが指をさすと二人は珍しいものを見たという表情をする。
「おお……これは酔ってるな、珍しい」
「酔ってらんか……らいわよ!」
「はいはい。マリア、あんたのおばさんを後ろのソファに寝かせといてやってくれ」
「え……あ、うん。おばさん……少し足をあげてくれる……?」
「らからおばさんって呼ぶら……!」
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マリアがゾフィアを寝かせた後、オルフェは一人外にいた。
そんなオルフェの前に、やつれた姿の男がやってきた。
「このバーに何か用かい?」
「あっ……もしかして……あなたはオルフェ様でしょうか……」
「おっ、ニックネームじゃなくて本名の方を知ってるんだ、基本非公開なのによく知ってるね」
「私も熱狂的なファンでしたので……よければサインを頂いても……」
「いいよ、でもその前に……目的はマリアの勧誘でしょ」
「! ……ご存じでしたか……」
「うん、まぁご存じって言うか……予想は出来るよ、突如現れた耀騎士の妹、そして結果を残していた合成樹脂騎士の撃破。広告塔としては今が一番ベストだもん」
「……」
その言葉に企業職員は押し黙る。
「俺はマリアじゃないから断定はできないけど、多分断られるよ? 彼女はお金の為じゃなくて名誉のために競技に出てるんだから」
「……予想はしてます、ですがこれも仕事なので……」
「……まぁ、どうしようもないよね。ごめんね、引き止めちゃって。はいサイン、転売は駄目だよ?」
「あ、ありがとうございます……では失礼します……」
企業職員は礼をするとバーに入っていった。
「……仕事って大変だなぁ」
オルフェはため息を吐くとその場を後にした、そしてオルフェの表情は、錆銅騎士との試合で起きたマリアの怪我によってより暗くなるのだった。
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「マリア、大丈夫かなぁ」
オルフェはバーにて、一人酒を飲んでいた。
「錆銅騎士相手に引き分けで、しかも五体満足なんだ。それに大丈夫だからここで飲んでいるんじゃないのかい?」
「うーん……そう言われたらそうなんだけど、治療にも立ち会ったし大丈夫なのは確かだけど、それでも心配になるよ」
「君はお人好しだね、マーガレット……彼女の姉と同僚なんだろう? だが関係性と言えばそれだけじゃないのかい?」
「そうだね、でも理由はそれだけでもいいんじゃない?」
「それだけ、か。うん、彼がマリアの剣を手入れしたのも、君の影響なのかもね」
「え?」
「コーヴァル、彼は今、剣は触りたがらないんだけど君が頼んだ時はすんなり引き受けたから私としても驚いたよ」
「そうだったんだ、悪いことしたかな」
「大丈夫だよ、彼が引き受けた以上彼も心境の変化があったのかもね」
マーティンがそう言うとふと扉の音でバーに新しい客が入って来るのがわかった。
「おや、あの二人が居ないと店は忙しくなる説は正しかったかな」
入ってきた男は弓を携えていた、髪は青い……濃い青色をしていた。その男にマーティンは見覚えは無かった、しかし何かを感じていた。
「なんとなくで決めたバーだけど結構悪くなさそうじゃん、マスター? この店で一番いいワインはあるか?」
「そうだな……今彼が飲んでいる『マーティンスペシャル』はどうかな」
「じゃそれで、ついでにつまみもくれないか……それで、そこの兄ちゃんは何か用か?」
「いや……何でもないよ、ちょっと珍しい髪色だと思ってね」
「あ? そうか? 目が見えないのによくわかるな」
オルフェは僅かだが、閉じている目を開いた。サングラス越しでその目は見えない筈だった。
「……別に俺は盲目じゃないよ?」
「何言ってんだ、隠してるつもりだろうがそのガタイでアンタが誰かなんて一目でわかるだろ」
「そこには私も同意するよ」
「……何が目的?」
「いや、今日は本当に飲みに来ただけだぜ? だが新聞で見たが本当に生きてたとはな。俺アンタの曲何度か聞いてたぜ?」
「それはどうも、サインいる?」
「お、じゃあモニークさんへって書いてくれよ」
「いいよ…………はい、世界に一つのサインだ」
「サンキュー、……そうだ、兄ちゃんこれやるよ」
オルフェに渡されたのは一枚の紙だった。
「……読めないんだけど」
「マスターに読んでもらいな」
そう言うと男は店を出て行ってしまった。
「……あれ、ワインは?」
「おや、残念だ。しかしその紙……何が書いてあるんだい?」
「ああ、そうだ……マーティンさん読んでもらっていい?」
オルフェが紙を渡すとマーティンはしばしメモを読むが、読み進めるほどに彼の顔付きが怪訝なものになっていく。
「……? マーティンさん?」
「……暗号みたいだね、場所と時間が書いてあるけどこれは……」
「場所……? どこなの?」
オルフェが問うとマーティンは躊躇うような仕草をするが、すぐに答えた。
「……商業連合会と一番大きな競技場の丁度中心、それも深夜だ」
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時計の針が十二を指す時、オルフェは、マーティンの指し示す場所へ向かうにいた。
「……特に何かがある訳でもないのかな」
sound-Mに周囲を探知させるが深夜だからか人の反応も無い。
『──―撤回します、オルフェ様。後方50m先に不審な人影を探知しました』
「何だって?」
オルフェが足で地面をたたくと反響する音がオルフェに地形を認識させる。するとsound-Mの言う通り人のシルエットを見つけた。
オルフェは身を隠しながらそちらに近づいていく。
「……(あのモニークって言ってた男、何者なんだろ)」
30──20──―10mに達するであろう直前、オルフェの足は止まる。そして聞こえてきたのは複数の声。
「──―B部隊は待機、残りの部隊は……」
話し声からわかる情報は、リーダーらしき少女は凡そ三つ程の部隊を引き連れている事、あの男と同じように背には弓を携え無冑盟と名乗っている事だけだった。
「……無冑盟? 軍事組織か……?」
これ以上の干渉は不味いと感じ、オルフェはその場を離れようとするが足元の石を蹴ったのがいけなかった。
石は金属のパイプに当たると甲高い音を鳴らし存在を彼女たちに知らせてしまう。
「……!」
相手が即座に反応し自身を消しに来たことを感じたオルフェは走り出す姿勢と共に石を複数広い、周囲のビルの窓ガラスに投げ込んだ。
「な、なんだ!!?」
ガラスが割れる大きな音で住人が電気を灯し、その一帯はたちまち明るくなる。
無冑盟は姿が見られるのが不味いのか、それ以上オルフェを追うことなく姿を消していった。
「ふぅ……後で弁償しないとな……それにしても、無冑盟にあの男。目的は何なんだ……?」
ふと見上げると商業連合会の建物が見えた。
「商業連合会か……」
そして次の日の朝、マリアの団体混戦が始まる。