マイティ・トール 〜ブリテン・フォーエバー〜   作:ぷに丸4620

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誰かを救おうと言うのなら、その方法を間違えてはならない。

「うぐっ!」

 

 

腹を蹴られる。

 

 

「があっ」

 

 

頭を殴られる。

 

 

「ぎ……っ」

 

 

背中を切り裂かれる。

 

やられているのはこの村で唯一の人間だ。

 

マトと呼ばれ、遊戯のマトにされていた彼は、とある理由で反乱を起こした。

 

しかしマトにしてやるなどという強気な言葉は、どこへ行ったのか、多勢に無勢。そもそも、荒事自体経験のない青年では抵抗も素人並。一方的に痛ぶられてしまったのだ。

 

 

「失敗作の癖に、失敗作の癖に!」

 

 

飛び交う怒号は。暴徒と化した妖精達によるもの。

ライサンダーが人間と発覚してから、数刻。

彼を求めるあまり、暴徒とかしていた妖精達。

 

よりにもよって下等な人間以下の存在が自分達に歯向かい…暴力を振るったのだ。

到底許せるものではない。

 

本来であればとっくに壊れているはずのそいつは思った以上に頑丈で。

あまりのしぶとさ故に半ばムキになった妖精達は元の目的すらも忘れてその下等生物を壊してしまおうと暴力を振るう。

 

意外なのは、青年の反撃によって意識を失っている妖精達がいることで。

 

その反抗もまた妖精達に熱を籠める。

 

例外は、元より大人しい性質の妖精達のみ。

初めはそのうちの1翅、風の氏族のハロバロミアが嗜めようとしたのだが、苛立った別の妖精に襲われてしまった。

それはまさに命を刈り取る暴力であったが、暴行されている青年の抵抗がその襲った妖精ごと意識を失わせたのはいかなる偶然か。

 

ライサンダーという真っ当な人間の取り合いによる殺し合いになるはずだったコーンウォールの惨劇。

その全ての暴力が青年に向いていた。

 

それはある意味青年の企み通りで。

 

件の者達は、とうにこの村を脱出していた。

 

暗がりだった村は一晩明け、すでに日が差し込んでいる。

 

時間がたったこともあるが、人間がこの場にいなくなったことによって、まるで御香のように漂っていた幸福感を与える力は霧散し、酔いが醒めてきた。

そして思いのままに暴れていた彼らも、いつかは疲労を迎えてしまう。

 

あまりの頑丈さに疲労を感じて来た一部の妖精は、落ち着いた様子を見せていた。

 

そして、冷静になった一部の妖精達が、ようやく気づき始めた。

 

 

「おい! 人間達が! ライサンダーがいないぞ!!」

 

その叫びに、ガヤガヤと騒ぎ始める妖精達。

 

 

「いつの間に!?」

 

 

「見張りはどうしたんだ!?」

 

 

「お前だろ!?」

 

 

「違う、今の時間はあいつだったはずだ!!」

 

 

元より興奮気味だったところに訪れた青年の反抗。

火に油を注ぐその行為によって半ば理性を失った彼らに見張りなど務まるはずもない。

 

なすりつけあいが始まり、再び妖精同士の諍いに発展するのではないかと思われたところで。

 

 

「――プッ」

 

 

吹き出す声がやけに響く。

 

 

「ククッ アハハハハハッ!!」

 

 

笑っているのは、青年だ。

 

身体は傷だらけ、骨は折れ、顔面は腫れあがり、ほとんど原型はとどめていないというのに、大声で笑う姿はむしろ不気味で。

 

 

「お前、何を笑っているんだ!?」

 

 

その態度に1翅の妖精が問いを投げかけた。

 

 

「い、いや、ぷくくっ、本当馬鹿だよなぁって……」

 

 

それに笑みを崩さず答える青年。

 

 

「この状況で彼らがいない理由なんて、僕が原因に決まってるじゃないか……」

 

 

その言葉にざわざわと妖精達の熱が再び上がっていく。

 

 

「そんなんだから簡単に獲物を逃すんだ。全員でもっと強力しあえれば、逃がすこともなかったし。あの人間を皆で幸せに分け合えたかもしれないのに……」

 

「なんだと……!?」

 

 

馬鹿にされ憤慨される妖精達。

 

「たかだか人間一人の為に。馬鹿みたいに興奮して。食べることしか考えてない。それじゃあ獣畜生以下だ」

 

 

その言葉に、疲労で消えかけていた妖精達の興奮がまた活性化しかけていく。

 

 

「お前たちに人間があてがわれなかったのは女王が厳しいからじゃない」

 

 

迸る殺意に、青年は臆さない。

 

 

「もったいないからだよ。頭も悪くてこらえ性のない君達には、人間がいくらあっても無駄だ。命がもったいなさすぎる……」

 

 

「お前――」

 

 

「君達みたいな頭の悪い負け犬には、いいとこ失敗作の人間がお似合いだよ」

 

 

冷めかけていた熱が、再び燃え上がる。

 

再びの暴力。

それを青年は身体を丸めながら、身を守る。

 

「殺すなよ!! どこに逃がしたか吐かせるんだ!!」

 

それでも、どこか冷静なのは酔いが冷めたからだろうか。

 

「言うわけな――グフッ!!」

 

よってたかって打ちのめされながらも、青年は笑みを絶やすことは無い。

それは、彼の強靭な精神力故か、あるいは恐怖が裏返っての物か。

 

それでもわかるのは、青年のまとう空気には絶望的な雰囲気が無いことだ。

 

 

(時間は稼げたかな……)

 

 

彼の心の内にあるのは、絶望ではなく願い。

 

青年が行動を起こしたのは、別に彼らの無事を願ったからではない。

 

もちろん、彼らがバラバラにされるのを止めたかったのもある。

村人同士の無意味な殺し合いを止めたかったと言うのもある。

 

だがその行為は副次的なもので。

 

全ての行動は彼女の為。

 

(どうか……)

 

どこまでも他人の為に尽くそうとする風の氏族の少女。

 

この村にいては本当にそのまま消費されてしまうか。あるいは妖精としての存在意義を全う出来ずに死んでしまう少女。

 

金髪の優しい妖精、マシュとならば……きっと今よりも良い生活を送れるはずだ。

 

全てを捨て、この村に流れ着いたであろう割には未だに全てを捨てていない少女。

どこかでまだ、希望を持ちたいと考えている少女。

 

マシュならばきっと彼女を無駄に消費する事もない。そして彼女もまた、どこか影のあるマシュの心の薬にもなってくれるはずだ。

 

 

(どうか、無事で――)

 

 

それは希望。

 

 

彼が、彼女によって与えられたもの。

 

それを思いながら、彼女に幸せでいてほしいと、そう考え、彼女達が無事に、この森を脱出出来ているようにと希望を込めた願いを頭の中で反芻したところで。

 

 

「やめて下さい!!」

 

 

声が、響いた。

 

 

それは、件の少女のもので。

 

 

「なんで……」

 

 

ここからとっくに逃げなければならないヒトで。

 

 

「ライサンダーさん達なら、もうこの森を抜けました!!」

 

 

誰よりも無事でいて欲しかった妖精で。

 

 

「だからもう、その人を痛めつけるのはやめてください……っ!」

 

 

自分よりも他人を優先する。誰よりも優しい少女だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

青年には落ち度があった。

 

 

「うわああああああああああ! うるさい、うるさい!」

 

 

それは妖精という存在を根本から熟知していないが故に、彼女の状態を把握できていなかった事だ。

 

 

「さわるな、わたしにさわるなぁあああああああ!」

 

 

彼女はもう、手遅れだった。

 

 

「いたい、いたい、いたいの……!」

 

 

ほんの少しのきっかけで、とっくにモース化してしまう程にもう手遅れだったのだ。

 

 

「できない事ばかり押し付けられて、無理な事ばかり溜まっていって!」

 

 

「いままで助けてくれなかった癖に、一度も見てくれなかった癖に!」

 

 

忘却の森にいたが故に押さえつけられていた絶望が、一気に溢れ出す。

 

 

「今更! 良かった事なんていらなかった!!」

 

 

後はモース化を残すのみ。

 

 

「バカじゃないの、気づかないの? 騙されたのよ、あなた達!!」

 

 

「ダメ、ダメだよ……」

 

 

誰が見ても手遅れに見えるその状態。それを最も分かっている少女はしかし諦める仕草を見せなかった。

 

頭を抱え、膝をつく名無しの少女の肩を掴む。

 

 

「ふれ、ふれるな!!」

 

 

「ねえ、本当にそれで良いの!?」

 

 

「ふれるなあああああ!」

 

 

「ダメ、モースになんかなっちゃダメだよ!! それじゃあ、あの人は何の為に残ったって言うの!?」

 

 

「ああ、ああああああ!!」

 

 

「貴方をいつも守ってくれた人がいたでしょう!? ずっと、貴方を、庇い続けた人が!」

 

 

「――あ?」

 

 

動きは止まる。憎しみばかり浮かんだ表情は呆けたものになっていく。

 

 

「苦しいかもしれない、難しいかもしれない。それでも、お願いだから、ほんの少しだけでも、貴方を守ろうとした人を思い出してあげて――」

 

 

マシュの言葉に名無しの少女は、動きを止めるが、しかし効力は無い。少女は頭を抱え、苦しそうにマシュを跳ね除ける。

 

そして体から黒いモヤが滲み出て来た。

 

 

「! ダメ……!」

 

 

「わからない、わからない! だって、だって!」

 

 

頭を抱え、苦しみ始める少女。

 

 

「あああ、ああああああ――!!」

 

 

あるいは、青年がこの世界における妖精に幸福を与えるしっかりとした人間であるならば、このように迷わせることはなかったのかもしれない。

 

ただそこにいるだけで幸福感を与える人間であるならば、ここまで拗れることはなかったかもしれない。

 

だが、汎人類史ですらない完全な異世界人であり、更に言えば特殊な生まれである彼は、根本的に人間としての作りが違う。表立って認識されようとも、根本的な意味ではこの世界には受け入れられていない。

いるだけで妖精に幸福を与えるような力も無い彼を自身の名前すら忘却した妖精がどうして思い出すことができようか。

 

それだけでは、自身の生きる意味を失った彼女のモース化を止めることは困難だ。

 

 

「あぁああああ!!」

 

 

『目的がなくたって別に良いじゃ無いか! 目的が果たせなくても、無駄な時間を過ごしてても良いじゃ無いか!』

 

 

 

だが――

 

 

 

『そんな事に文句を言う奴なんて放っておけば良い! 別にそいつに迷惑がかかってるわけじゃないんだから!!』

 

 

何度も

 

 

『それに、君は何にもできてないわけじゃない!!』

 

 

何度も

 

 

『君は僕を助けてくれたんだ! 僕の命を救ってくれたんだ!! 君は僕にとっての救世主だ!!』

 

 

何度も何度も。

 

 

『君が僕にしてくれた事はこれから一万年たったって色褪せない価値のあるものなんだから……!』

 

 

何度も何度も何度も

 

 

『君はもう、これからただ生きていくだけでもお釣りが来るくらいの事を僕にしてくれたんだ!』

 

 

何度も何度も何度も

 

 

『だから――頼むから、自分に価値がないだなんて、このまま消えても良いなんて、そんな事言わないでくれ……!』

 

 

 

何度も何度も何度も何度も。

 

 

 

繰り返される時の中、何度も何度も言われた言葉は、何度も何度も守られたという事実は……

 

 

「あ、私…………」

 

 

少なからず影響をもたらす。

 

黒いモヤが消えたわけではない。

モース化収まったわけでは無い。

 

だが、意識を取り戻した彼女は蹲っていた身体を立ち上がらせた。

 

「行かなきゃ……」

 

「――え?」

 

彼女はそう呟いて

 

「行かないと」

 

その翅を広げ。

 

「ありがとう、()()()()()

 

その場から去った。

 

 

 

 

 




ザック177様、ぽるんが13様、ローウェン77様、ドチョラ様、何処ぞの奴03様。
評価ありがとうございます。
 
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