マイティ・トール 〜ブリテン・フォーエバー〜   作:ぷに丸4620

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カミナリ

「何で……!」

 

 

 

妖精に踏みつけられながら、青年は叫ぶ。

 

助けようと思った少女。

最も助かって欲しかった少女。

 

この騒動は元より本意ではない事態だったが、それを利用した事により、彼女にとってより良い未来に繋げられるのではとも思ったのだ。

 

共に逃げた者たちが、彼女を救ってくれると、そう信じていたのに。

 

それが何故ここにいるのか。

 

 

「お前! 何でライサンダーが森を出たのを知っているんだ!?」

 

 

分かりきった事を聞くのは、動転しているからなのか。

それに丁寧に答えるのは彼女の性質故か。

 

 

「ライサンダーさん達は、私が森の外まで案内しました。今頃丘を越えて、ソールズベリーに向かっているところでしょう」

 

 

戸惑いなく宣言する彼女に、最も驚愕したのは青年だった。

 

 

「なにを!!」

 

 

馬鹿な事を言っているんだと、言おうとしたところで。それ以上の怒号が響いた。

 

それは、ライサンダーが人間だと判明した時以上のもので。

青年を嬲る過程で疲労しきったはずの妖精達の熱気が、また再び再起する。

 

 

「なんてことを!!」

 

「せっかくの人間だったのに!!」

 

 

 

案の定だ。

そんな事を言えば怒りの矛先が彼女に向かうに決まってる。

 

 

「なんで……なんで……!!」

 

 

何故わざわざ戻ってきてそんな事をするのか。

 

 

「あの方たちは元々この村に訪れる予定のなかった人達です。 本来向かうべきところへ向かっただけ。妖精である貴方達なら理解できるでしょう?」

 

 

以前の彼女ならばこのような事態、おろおろと戸惑うばかりで、何もできないはずだ。

だと言うのに。

 

 

「そもそもあなた達では大切な人間を有効には扱えません。最初からバラバラにしてしまおうとしていたあなた達では、その場で楽しんで終わってしまうだけです」

 

 

なぜ彼女はこんなにも堂々としているのか。

 

 

「名無しのくせに知った風な口を!!」

 

「八つ裂きにしろ」

 

「殺せ!!」

 

 

おぞましい怒号の中でも凛とたたずむ彼女は、見たこともないような逞しさを放っているように見える。

 

 

だからだろうか。

 

 

「私を見てわかりませんか?」

 

 

確かに青年への暴行で興奮のピークは終えたという事はある。

人間がこの場にいなくなったことによって。酔いがさめたという事もある。

それでも、興奮のまま彼女を襲わないのは。

彼女の放つオーラに圧倒されているが故。

 

 

「名前の無い私が、記憶が曖昧で意識も朦朧としていた私が、こうしてあなた達の前に立っているのはなぜなのか、気になりませんか?」

 

 

ざわざわと、妖精達に動揺が走る。

確かに、これまでの彼女に比べれば、堂々としているのは明らかだし、妖精としての生気のようなものも感じ取れる。

 

 

「そのお方のおかげです。失敗作と言われていた彼もまた間違いなく人間。貴方達が見切りをつけるのが早すぎただけです」

 

 

だが、青年だけは気づいている。

確かに彼女は多少なりとも元気にはなった。

あれだけはっきりとした言葉を放つのは珍しい。

 

だが、震えている。

 

彼女の身体は間違いなく震えている。

 

あれは演技なのだ。彼女なりの必死の演技。

 

恐ろしいだろう、今にも逃げ出したいだろう。

 

というのに、自分をかばうような言動を放つ彼女に、開いた口が塞がらない

 

 

「そのお方のおかげで私は妖精としての矜持を取り戻しつつあります。このままその方を殺したら、今度こそこの村はおしまいです。この村に人間がやってくる奇跡はもう無いでしょう、厄災の時を待たずして、村中の妖精がモースになって終わります。楽しむこともなく、ただただ無為に終わるだけ」

 

 

青年からしたらそれはあまりにも暴論だ。

理屈が無いし、証拠も無い。

青年をかばうための屁理屈にしか感じない。

 

 

「本当か!?」

 

「でも確かにあいつは元気になってるぞ!?」

 

 

だが妖精は違う。

彼らはそんな暴論でも鵜呑みにする。

 

嘘か真か、ざわざわと妖精達が相談し合う中、彼女は青年へと歩み寄る。

戸惑いからか、これから起こる事への興味からか、彼女の進行を止めることはない。

 

いつの間にか、青年を踏みつけていた妖精もその場から離れていた。

 

 

「……ひどいケガ……」

 

「なんで……」

 

 

うつぶせに這いつくばる青年に、少女は膝をつき、頬に手を当てる。

君に助かってほしいから逃したのに、戻られたら意味がないのに。何故戻ってきたのかと意味を込めた疑問。

 

「私が助かったとしても、貴方が犠牲になっては意味がありません。貴方が私を助けようとしたように、私も貴方を助けたいのです」

 

そう返された。

 

「……っ」

 

言い返すことが出来なかった。

彼女の特性を知っていたというのに、本当の意味で理解できていなかった。

誰かの為に尽くす事を目的とする彼女が、大人しく助けられるだけのはずがないと気づくべきだった。

 

涙があふれる。

駆けつけてくれたことに対する喜びではなく、自身の迂闊な行為によって失敗したことに対する後悔の涙。

 

それを知ってか知らずか。

 

「どうか泣かないで。確かに私はそういう風に生きてきた妖精です。誰かのために働く妖精。でも、きっとこれはそれだけじゃない」

 

腫れあがった顔から流れる青年の涙を指で拭う。

 

「私自身がそうしたかったから来たのです。それは、その願いは、私に与えられた目的とは別のもの……だって私はもう疲れましたから。誰かの為に働くなんてできるはずもない」

 

尽くすだけの自分の為に、命までかけてくれた青年。

 

「これは私の押し付けです。だからごめんなさい……あなたの気遣いを裏切ってしまって……」

 

「でも俺は生きてほしいんだ! 醜くても、みっともなくても、あがいてあがいてあきらめずに生きるべきだって……! 君はもう頑張ったんだから、誰を犠牲にしたって生きる権利はあるって……!」

 

それはかつて彼女に伝えた訴え。

 

受け入れられるはずもない。

生きていてほしいのだ。生きて生きて生きて生きあがいて、いつか報われるまで死なないでほしいのだ。

それ自分の願いなのだ。

 

その願いを。

 

 

「それは貴方への、私にとっての願いでもありますから」

 

 

本人に否定されては立つ瀬も無い。

 

 

 

 

 

「確かに、この人間は必要かもしれない!!」

 

「でも、大事な人間を逃がしたのは間違いないんだろう!?」

 

「人間は閉じ込めておこう!!」

 

「だけど、こいつは罰として殺すべきだ!!」

 

 

 

妖精達の不穏な言葉に呼応するように森に影がさす。

 

それに呼応するように雲行きが怪しくなっていく。

ゴロゴロと、どこかで雷の鳴く音がする。

それはこれからの悲劇を暗示するような不穏さで……

 

 

目の前に膝をついていた彼女が、誰かに引っ張られるように、離れていく。

妖精達に突き飛ばされる彼女の表情は笑顔のままで。

それは先ほどの青年のように、なすべきことをやり遂げたという表情だった。

 

――あなたならきっと、この村を出ようと思えば出られます。

 

彼女の意思が伝わってくる。

彼女は本当に自身を犠牲にしようとしているのだ。

 

「ダメだ……」

 

一部の妖精が彼女を動けないように押さえつける。

 

「だめだ……!」

 

処刑前の手遊びとばかりに、彼女に暴行を加える妖精達。

 

 

 

「ホープ!!!!!!」

 

 

 

思わず口から飛び出た言葉。

 

それは、ずっと考えていた彼女の名前だった。

ずっとずっと、彼女をどう呼べば良いかわからないから頭の中だけで呼んでいた。

 

この村で生きることへの希望を与えてくれた彼女を体現するようなその単語。

 

ホーから始まる、希望を意味するその言葉。

 

それは決して、数少ないヒントから得たものではなく。

とある時間軸の経験が流れ着いたもの。

 

全てがリセットされるループにも、残るものは存在している。

 

それを聞いた彼女の表情が、驚愕に染まり、そして笑顔に戻る。

先ほどと違うのは、目じりに涙が浮かんでいる事だった。

 

――ありがとう

 

それは、彼女の最後の言葉なのか。

 

 

「やめろ……」

 

 

うつ伏せで寝ていた青年は足をつかまれ、引きずられていく。

 

 

「やめろ……!」

 

 

処刑の前の下準備とばかりに、殴られ蹴られ始める少女。

青年は地面に指を指し、足を引く妖精に抵抗する。

 

その力に驚愕する妖精だが、頭を殴られ力が弱まってしまう。

 

「ガッ」

 

意識が飛ばなかったのは奇跡だった。

 

かろうじて意識の残る青年の視線の先。いたぶり終わったのか、妖精達は暴行を止め、膝を付かせ、押さえつけていた。

その姿は、処刑台に括り付けられる罪人のよう。

 

……彼女にはもう、意識は残っていない。

 

「やめろ!!」

 

 

青年にも、もはや抵抗する力は残っていない。

 

 

「やめてくれ……!」

 

 

彼女の息の根を止めようと出てきたのは、牙の妖精の鋭利な爪だった。

確実に首を落とそうと、牙の氏族は腕を大きく振りかぶり――

 

 

 

「やめろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

 

―その瞬間に雷が落ちた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ハ、私は……」

 

風の氏族の妖精。ハロバロミア。

ライサンダーが人間と知り、暴徒と化しかけた妖精達を嗜めようとして、殺されかけたところを偶然にも助かった妖精。

 

この村のある種の理性ともいえる存在。

 

それが目覚めた。

 

ライサンダーはどうなったのか、妖精達はどうなったのか、突然現れ暴れ始めたマトの人間は?

 

次々浮かぶ疑問も、すべて吹き飛ぶ事態が起きていた。

 

 

「げひゃっ!!」

 

 

「がばぁつ!!」

 

 

阿鼻叫喚。

断末魔を叫びながら妖精達が次々と吹き飛んでいく。

 

何が起こっているのかと視線を巡らせれば、そこにナニカが存在していた。

 

 

 

それは光そのものだった。

 

それはヒトの形をした光だ。

 

 

バチバチと奇妙な音を鳴らしながら、光は、奇妙な動きを見せながら妖精達を殴り飛ばし、あるいは蹴り飛ばしていく。

 

「――ヒッ!!」

 

ハロバロミアからすれば、それは突然現れた怪物にしか見えない。

その迫力に、ほとんどの妖精が尻もちをつき、怯えている。

中には抵抗しようという妖精もいるが。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

牙の氏族の1翅がその光に斬りかかるが――

 

斬りかかった妖精の()()()に現れた光がその妖精を掌底で吹き飛ばす。

 

意味が分からなかった。

 

空間転移か、幻覚を見せられているのか。

 

戦いの最中。ついに別の牙の氏族が光にその鋭利な爪を突き刺したが……

 

 

「あばばばばばばばばばばばば!!」

 

 

おぞましい奇妙な叫び声をあげながら、小刻みに震え、煙を上げながら倒れた。

 

爪が突き刺さったというのに、何事もなかったかのようにたたずむ光。

 

あまりにも圧倒的な存在感。

人よりも世界の成り立ちに鋭敏な妖精をして理解不能であり。そして、世界そのものを滅ぼされてしまうような迫力。

 

 

「な、なんなのです……!?」

 

ハロバロミアのつぶやき。

それを代弁するかのように、一つの叫び声がこだました。

 

「お前、お前はなんなんだ……!! お前は……!!」

 

叫び声をあげたのは牙の氏族のドーガ。

彼は、尻もちを搗き、後ずさりながら光に叫んだ。

 

「さっきまで、マトだったはずなのに!! さっきまで、ただの人間だったはずなのに!!」

 

「あれが……マト? あれが人間……?」

 

意味の分からない事実に、数々の疑問を浮かべるハロバロミア。

 

ドーガの叫びに、光は、動きを止める。

意識のすべてがドーガに向き。勇敢な牙の氏族であるはずのドーガはあまりの恐怖に気を失った。

 

 

 

次いで、光の意識が向いたのは、ハロバロミアだった。

 

 

「ひぃぃぃっぃぃぃ!!」

 

目が合うだけで存在そのものが消えてしまいそうな感覚に陥ってしまう。

 

あまりにもおぞましい。

それは、モースよりも不穏で、女王など比べ物にもならない程に恐ろしい。

 

その光は、ゆっくりとハロバロミアへと近づいていく。

 

その恐ろしさはもはや意識を失う事すら許さない。

 

「一体、いったいあなたは……!?」

 

光はハロバロミアをしばらく見つめ続けた後。

 

 

「ワレハ――」

 

 

より強く発光しながら。

 

 

「我はカミなり」

 

 

そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

雷が落ちてからしばらくたった後。

 

「ハァ……ハァ……全く……」

 

村の外、森の出口へ向かう道を、青年が歩いている。

 

彼は、妖精の少女を背負い、獣道を進む。

 

 

「ピンチの時に力が出るのは定番かもしれないけど、そんなお約束は本人からしたら大迷惑なんだよ……」

 

 

ゆっくりと、ゆっくりと

 

 

「最初から出させてくれよ……!」

 

 

歩を進めていく。

 

 

「今度はちゃんと考えるから。もっと、ちゃんと考えて、うまくいくように頑張るから……!」

 

 

独り言ちながら進むその足取りは非常に重いものだったが。

 

 

「ここからだ……ここから……!」

 

 

彼のまとう空気は、何よりも力強いものだった。

 

 

 

***

 

 

 

 

森の外、美しい黄昏の空を見渡せる丘の上。そこに4人の人影があった。

 

名無しの少女が飛び去った後、戻ろうとするマシュを止めるようにライサンダー達の前に現れたのは汎人類史側の英霊だという、妖精王オベロン。

彼は、記憶を思い出させるために、とっとと丘を越えるべきだと提案したのだが、戻ろうとする金髪の少女、真名アルトリアの説得にてこずり、とうとう拘束して森の外まで連れ出したのだ。

 

記憶を取り戻したライサンダー。もとい藤丸立香たちに、オベロンは再び声をかける。

 

「君たちは聞き分けが良くて助かったよ。あのまま戻ったところで遺体が増えるだけ。苦しい選択だったろう。それでも決断してくれた君に感謝を」

 

「――わかりましたから。もう戻るなんて言い出しませんから、離してください」

 

「おてんば娘も納得してくれたようだね」

 

先ほどまでは大暴れと言った感じだったが、森を抜け、記憶を取り戻した影響か。とうとう観念したのか、彼女は非常に大人しくなっていた。

 

あそこに戻れば命が無いのは事実。

戻ったところで彼らを救うことなど不可能だ。

 

その上で互いの現状の確認を終え、出発と相成った。

 

 

「さて、では気を取り直したところで出発しよう! ……情報交換はその際に――」

 

妖精王オベロンが出発の号令をかける。

 

 

「……名前、結局お互いに名乗れなかったな……」

 

捨てようとしていた名前、渡そうとしていた名前。

それでも最後、彼女に呼ばれたのはきっと、そういう意味なのだろう。

 

だからこそ改めて互いの名前を伝えあいたかった。

 

そんなつぶやきは風に消え……

 

彼らとの交流は終わってしまったことだと切り替えるため、最後の最後に森を見つめたところで――

 

 

「え――?」

 

 

そこに、影が、現れた……

 

 

それは、どう見ても見覚えのある影で。

 

 

自然と、足が進んでいた。

 

 

駆ける。

 

 

影のもとへ駆ける。

 

 

後ろから自分を呼ぶ声が響くが、それどころでは無かった。

 

 

影は大きくなり、確実に誰か分かるほどの距離になる。

 

 

青年だ。あの時のマトの青年。

助けてくれた妖精の少女を背負っている。

 

駆ける自分と目が合った。

 

ボロボロだった。

顔は愉快な程にぼこぼこで、足は変な方向に曲がっている。こちらへのあいさつの為に掲げたその腕も関節がいくつもあるような曲がり方をしていた。

一歩一歩があまりにも遅く、万が一気が付かなかったら一生会うこともなかっただろう。

 

生きているのが不思議なほどの負傷具合。

 

その状態に、心苦しくなりながらも、無事でいてくれたことに感極まったころには、彼らの姿は目の前に。

 

「――やあ、マシュ……」

 

あのような別れだったのにも関わらず、こんな状態なのにも関わらず。

この気軽さはなんなのか。

だが、それよりも、そんな事よりも。

 

「アルトリア……」

 

「……え?」

 

「アルトリアなんです。私の本当の名前」

 

「そうなんだ……」

 

それを聞いた青年はその名を自然と受け入れ。

 

「うん、いい響きだと思うよ」

 

まぎれもなく心のままにそう言った。

 

「あなたは?」

 

知りたいことがあった。

 

「あなたの名前を教えてください」

 

本当の名前、自分たちを救ってくれた、背負う少女の為に命をかけた、勇気をもった青年。

マトではない、本当の名前を。

 

「僕は、『スタールート』」

 

「え?」

 

アルトリアはその名乗りに心底驚いてしまった。

 

だってそうだろう。

 

「昔は家電量販店「バイ・モア」の店員で」

 

話の内容が理解できないのもそうだが。

 

「とある事情で『インターセクト』っていう特殊な力を手に入れてしまった……今はシー、アイ、エーのエー、ジェントで……」

 

彼の言葉。

 

「え、あの……!?」

 

そのすべてが真っ赤な嘘なのだから。

 

「そ……れ、と……」

 

色々と問い詰めたいことがあったが、しかし。

ふらふらと今にも倒れそうなその体。問い詰める暇はない。

 

それでも。

 

「皆からは名前から抜き出してこう呼ばれてる――」

 

気絶する直前の最後の名乗りだけは嘘ではなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

コーンウォール。

青年が去った後。意識を失っていた妖精達が続々と起き上がってきた。

 

「あいつはなんだったんだ……」

 

「あんな人間がいるなんて……」

 

 

起き上がり、やられる直前の記憶を思い起こした妖精達は口々に恐怖を告げる。

 

あまりにも圧倒的。

 

殺されなかったからこそ刻み込まれる恐怖という感情は、それこそ死んでしまった方がマシなのではないかと思うほどで。

口々に不安を口にする。

 

恐怖のあまり頭を抱えていまだに震えている者も要るほどだ。

 

そんな中、だれよりも震えているハロバロミアに、恐怖のあまり意識を失う前後の記憶を失ったドーガが声をかける。

 

「おい、アイツは? あの化け物はどこへ行ったんだ? ここからいなくなったのか?」

 

ドーガの言葉にハロバロミアは、蒼白な顔面を向け。

 

「あのお方はもう、ここを去りました」

 

「あのお方? おい、そんなへりくだるようなマネ――」

 

「いけません!!」

 

それは常に上品であろうとしていた彼らしからぬ大声で。

 

「お、おい、どうしたってんだ……」

 

突然の大声に戸惑うドーガ。

ハロバロミアは構わず言葉を続けていく。

恐怖のあまり叫び続けるその姿はまるで……

 

「いけません、そのような無礼な態度はいけません……!」

 

 

『―はカミナリ』

 

 

「変わらなければ……私たちはより一層、上品に、美しく、規律を守って生きなければ……!」

 

 

 

「そうしなければ……そうしなければ……!」

 

 

 

「モースでもない、女王でもない、厄災でもない。本当の……!」

 

 

 

「彼の怒りを買えば、滅びよりも恐ろしい終末がやってきてしまいます!!!!!」

 

 

天罰に怯える、人間のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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