マイティ・トール 〜ブリテン・フォーエバー〜   作:ぷに丸4620

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盲信者

 

あまりにも想定外だった。

 

 

「どこに行ったんだ!!?」

 

「私が探しましょう!」

 

「ダメだ!今馬車から降りれば追いつかれる!」

 

「元より命を賭して妖精騎士に挑む算段だったのです! 本来であれば失った筈の命……!」

 

「……! だとしても、今からのはただの無駄死にだ!! 探すにしてももっと体制を整えてからでないと!」

 

 

 

経験をつませる程度のつもりだった。

 

 

 

「あの煙幕はいったい何者だったんだ!?」

 

 

 

妖精騎士の出現は予想通りとはいかなくともあり得るとは思っていた。無事とはいかなくとも、騎士の言った通り、彼が犠牲となって彼女たちを逃がしてくれるとさえも予想していた。

 

だと言うのに、最も必要な存在が消えてしまった。

 

あまりにも予想外。

 

影も形も見当たらない。

 

 

「わからない。反乱軍の人達かな……予言の子が現れるのを待っていたわけだし」

 

 

この世界を滅ぼす(救う)ために来たこの駒達を、彼女の為に有効活用するだけの手筈だった。コイツらを失うのはまだ良い。まだ許容範囲内だ。むしろ好都合とも言える。何せ最終的には滅ぼす相手なのだから。

 

 

 

「……少なくとも私達に害を与えようとはしなかった。彼女が予言の子だと知らないまま別の部隊が助けに入ったのかもしれないし、予言の子だと知って保護したのかもしれない……どちらにせよ無事だと良いけど……」

 

 

 

だが、最大最強の駒を失うのはあまりにも痛い。

 

 

 

「……わかった。僕の方にも反乱軍のツテはないわけでは無いから調べておくよ。今は……全力で逃げるしかない……」

 

 

 

 

人間牧場への偵察。

本来であれば殿を受け持った1人の騎士が消えゆく運命。

 

しかし彼らが失ったのは1人の少女、汎人類史を救い、この妖精國を滅ぼすために最も必要なファクター、予言の子。

 

 

「アルトリア……」

 

 

青年、カルデアのマスターの声が空へと消えて行く。

その声は決して届くことはなく。虚しく妖精國の空へと消えて行く。

 

それを耳にしながら、物語を紡ぐ作家は、苛立ちを内に秘めながら、逃走のためにその手綱を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

―― 数日前

 

 

 

 

『やめとけやめとけ、今女王の軍隊に入ってもイイコトないぜ! だって今年はエインセルの予言した年、『予言の子』があらわれる救いの年だ! 女王様も痛い目を見れば少しは税を下げてくれるさ!』

 

『そんなに文句があるならこの国を出ていけばいいんじゃないか? 女王様ははっきりお前たちを救わないって言ってんだろ? 寧ろ親切だろう。女王がいなけりゃどうせ殺しあって全滅してたんだから、予言の子がいなきゃなんにもできない無能はとっととこの國から出て行ってモースにでもなってろよ』

 

『ああ!?』

 

『すとーっぷ!! なんでもない、なんでもありませんよ~?』

 

 

 

 

『まったく、最近の妖精は鉄の武器なんぞ使いおって……女王も何をやっているんじゃ……だがまあ、それもあとしばらくの辛抱じゃな。『予言の子』がぜんぶ何とかしてくれる』

 

『モースにも触れない。武器も持てない。文句しか言わない無能なんて『予言の子』だって救いたくないだろうさ』

 

『貴様!』

 

『おっと、あっちで何やらお困りの妖精が!! 行ってみようか~!!』

 

 

 

 

『今夜の祭りはなんだろうね!また『予言のこと悪い魔女』の演劇かな! ボクはあれが大好きでねぇ! 女王と犬騎士がやられるとスカッとするヨ!』

 

『なんだそのセンスのないゴミみたいな演劇は、作った方も見るほうもクズみたいな奴らなんだろうな、お前みたいに』

 

『なんだお前!?』

 

『あ? もう一度言わないといけないのか?』

 

『いい加減にしてくれ――!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ソールズベリー。 

 

 

 

「ホープ、大丈夫?」

 

「う、うん……平気だよ」

 

 

ほんの少し、周囲におびえているように見える。

彼女は元々ここの住人だ。

だが何もかも捨ててコーンウォールに来たと言うことは、()()()()()なのだろう。

良い思い出なんてのもあるかどうか。

 

彼女の心情を思えばここに来たのは迂闊だったのかもしれない。

 

コーンウォールから脱出して丸1日歩き、ソールズベリーの宿屋に辿り着いてから一晩たった。

 

今は情報収集の最中。人間である僕はホープの奴隷――従者として同行させてもらっているという状態だ。

 

彼らは仲間を探す為、職や今後の生活の参考にする為に情報収集という名目で彼らと一緒に散策していたが、途中オベロンの提案で分かれる事になった。

 

 

 

『ゼハー、ゼハー……っ! 僕達の目的は仲間探しだ。君の求める情報は手に入らないだろうし、一旦二手に分かれよう――』

 

 

怒られた。

酷く疲れた表情のオベロンを見れば二手に分かれた本当の理由など明白だ。

迷惑をかけた自覚はあるが、あんな事を言う連中を許容する事もまた出来なかった。

 

自分でもわからない。記憶は未だ戻らない。

手首に付いている彼女も僕の記憶は自然に取り戻すのを待つべきだと言っていた。

 

この町の妖精達の言葉を聞いて、心の底から煮えたぎるこの怒りを僕は具体的に説明することは出来ない。

 

 

 

 

 

「魔女か……」

 

「……?トールさん?」

 

 

 

不思議そうな顔を向けるホープになんでもないと笑顔を向ける。

 

 

「にしてもこの町の雰囲気を少しでも体感しようと思ったんだけど。予言の子、予言の子、そればっかりだな」

 

「……うん、皆、女王様に不満をお持ちの方ばかりだから」

 

「ああホント、不自由もしてなければ相当贅沢な暮らしをしてる癖にな……」

 

「……トールさんは、この世界の女王様、モルガン様の事も好き?」

 

 

女王への非礼極まりない街の雰囲気や妖精達の不満への嫌悪に気づいたんだろう。

少し気を使わせてしまっているらしい。

 

 

「いや、会ったこともないし……でもそうだな……どこか贔屓目で見てるのは否めない。それに――」

 

「……」

 

「僕は女王の圧政を酷いものだとは思わない……」

 

「え……」

 

 

存在税と言う圧政。人間の生産を制限している現状。

一部を除けば妖精達からすれば女王は悪以外の何物でもないようだ。

 

だが、コーンウォールに入る前に妖精達に散々弄ばれ、村に入った後のあの待遇を受けたからこそわかるものもある。

 

正直なところ、女王の圧政はむしろ生温いとも言える。

 

 

「その、どうして?」

 

 

 

当然ながら質問が飛ぶだろう。

嫌われるかもしれないがこればかりは譲れない。

だからそう、正直に口に出そうとしたら――

 

 

「ホープ!? ホープじゃないか!!」

 

 

横合いから、声をかけられた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

トールとホープ以外の、コーンウォール脱出組のメンバー達はあらかたの情報収集を終え、宿に戻っていた。

 

汎人類史のモルガンを憎からず思っている点や、トールの言動からにじみ出る女王シンパの思考からモルガンを打倒するような会話を彼の目の前でするのはよろしくないと判断したオベロンとダ・ヴィンチによって、二手に分かれるよう計らったカルデア組。

 

 

モルガン討伐派の彼らは、情報収集もそこそこ宿に戻っていた。

 

 

途中やる事があると別れたオベロンも宿に戻り、会話に花を咲かせていた。

 

 

「だからさ、彼女がその『予言の子』なんだよ……」

 

 

色々と情報収集についての話をしていた中にアルトリアが予言の子だと言う話が飛び出し、認めてもらうためには氏族長に会う必要が有ると言う話題となったところで。

 

 

「オーロラへの謁見ならできるけど、どうする?」

 

 

オベロンから、そんな提案があった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

オベロンの提案によりオーロラのいる大聖堂へと入った一同。

 

そのまま謁見に入ると思われたが、建物の中には予想外の人物たちがいた。

 

 

「あ、アルトリア……っ」

 

 

「ホープ!?」

 

 

目尻に涙を浮かべたホープ。

 

 

 

「ト、トール君!?」

 

 

 

そしてもう一翅の妖精に挟まれて長椅子に座っている。顔面を冗談のように腫らしたトールだった。

 

 

「もまめま! まんめももに!?」

 

「顔が腫れ上がり過ぎて何を言っているかわからないよ!?」

 

「動かないでください! 貴方を治す為の秘蹟ですよ!?」

 

「む、むみまめん……」

 

 

ダ・ヴィンチがトールに叫ぶ中、ホープの反対側、トールを挟むように座る妖精が怒声を上げる。それに申し訳なさそうにトールが謎の言語を発する。

 

 

「しかし、ホープと私の秘蹟でもこんなに時間がかかるとは、貴方の身体はどうなっているのですか?」

 

「ま、ままみまめん」

 

 

ホープとその妖精は両側からその手をトールの顔に翳し、彼の体を治療しているところだった。

 

 

「貴方は――?」

 

 

出会った事のない妖精。藤丸立香から問いが出るのも当然だが、その問いに答えたのは本人ではなかった。

 

 

「やあ、コーラル。オーロラとの謁見の話は通ってると思うから来たんだけど、彼はどうしたんだい? キミが人間に施しを与えるなんて珍しい」

 

 

立香の問いに応えるようにその妖精の名を口にするオベロン。

 

 

「お知り合いですか?」

 

「ああ、まあね……」

 

 

どこか、含みを持たせるようなオベロンの答えに疑問を挟むものはおらず、コーラルは口を開いて。

 

 

「この人間は、この町の妖精と暴力沙汰を起こしたのです……」 

 

 

そんな、信じられない事を言い出した。

 

 

 

***

 

 

 

『なんだ、ホープじゃないか!!』

 

『あ……』

 

『傷ついた翅の輩ががいると思ったらそれがホープで、それもまさか人間の奴隷を連れているなんて!! 随分裕福になったじゃないか!! いやあ、うれしいよホープ!!』

 

『……』

 

『なんて都合が良い!! ちょうど良かった! 俺も人間の奴隷が欲しかったところだったんだ!!』

 

 

『なあ、その奴隷、俺に譲ってくれよ』

 

『え……?』

 

『いいだろ? いつも俺たちが欲しいって言ったら好きなものをくれるじゃないか、俺達になんでもやってくれる希望の妖精だろう?』

 

『それは――』

 

『――それとも、今回はダメだ。なんて言わないよな?』

 

『その……私は……っ』

 

『イヤだ……』

 

『――ハァ? お前、なん……』

 

『ト、トールさん……』

 

『聞こえなかったのか? イ、ヤ、だ。つったんだよ()()()()()

 

 

『お前――!』

 

 

 

「喧嘩の理由も伺いました。ホープにも事情を確認すれば言葉尻は汚かったものの彼は一度も手を出すことは無かったとの事。それが功を奏しましたね。反撃していれば場合によっては彼の罪が増えていましたから。それを加味して処罰の決定を進めていたのですが……」

 

 

『まあ、まあまあまあ! 人間が妖精のご主人様を身体を張って護ろうとするなんて――! 』

 

 

「それを聞いたオーロラ様がこの人間に強い興味をお待ちになったのです」

 

 

「成る程、彼女の珍しいもの好きが現れたのか……にしても君が人間を治療するとは珍しい。そもそも君だったらオーロラが許しても人間ごときがここにいるなんて私が許せない――なんて言いそうだったけど……」

 

 

「ええ、ですが彼は、牙の氏族の暴力に耐えきりました。それは例え妖精であっても困難な事。彼はただの消耗品ではないと私も認めざるをえません。それに醜い姿のままオーロラ様と謁見する事は許されませんから」

 

 

 

コーラルの視界の端にホープが写る。2人の会話で皆が事情を察する中。トールの体が修復され、顔の腫れも引いて来た。

 

 

「おお、治った!ありがとうホープ、コーラルさん! 凄い! 魔法使いみたいだ!」

 

 

魔法、という言葉に幾許かの反応を示す一同だが、それを気にもせずにパンパンに腫れから治った自身の顔をぺちぺちと叩くトール。

 

 

「トールさん……っ! 私……」

 

 

ひたすら明るげに礼を言うトールに対して悲痛な表情のホープ。

 

 

「私……の、せいで……! ごめ――むぎゅっ」

 

 

自分のせいでトールは傷ついてしまったと、責任を感じた彼女による謝罪の言葉は、しかしトールの手にのって塞がれた。

 

 

「謝るなよホープ……」

 

 

「ももむまむ……」

 

 

「あれは()があいつの従者になるのが嫌だから言っただけだ……」

 

 

「もがもが」

 

 

「それに言っただろ? 俺はホープのお陰であそこで生きてられたんだから」

 

 

「……っ……っ!」

 

 

 

「この程度貸しの足しにもならないよ……」

 

 

 

手でホープの口を塞ぎながら話すトール。

 

 

「ゴホン、良い話だとは思うんだけど――」

 

 

そこにオベロンが咳を嗜み、

 

 

「彼女、苦しそうだ」

 

「……っ……っ」

 

 

トールに口を塞がれ、息苦しそうにしているホープを指差しながら指摘した。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『謁見はまず彼からです。貴方がたも彼の友人という事でしたら私も認めましょう。その人間も彼と同じ異世界の人間なのでしょう?』

 

 

「オベロン、彼をどう思う?」

 

 

彼らの謁見を待っている中、問うのはダ・ヴィンチだ。

 

 

「さてね、記憶を少し取り戻したらしいけど、言ってる内容は相変わらずだし」

 

 

ホープとのコントを見届けた後、トールの口調やどことない態度の変化に疑問を感じたダ・ヴィンチが何事かあったのかとトールに問えば。

 

 

『ああ、頭を殴られたからかな。記憶が少し戻ったんだ。残念なんだけど、俺はスパイじゃなかったらしい。あれは好きなドラマの設定だったんだ……』

 

 

酷く寂しそうにそう言い出した。

スパイでない事がショックだったのだろう。

しかし――

 

 

『俺はどうやらスーパースパイじゃなくて、とある呪文を唱えると変身するヒーローだったんだよ!』

 

 

スパイである事以上に嬉しそうな彼を見て、一同は正直な所困惑した。

 

 

『へえ、それで? 一体どんな呪文なんだい?』

 

 

訝しげに聞くオベロンの露骨な態度にも臆さず、彼は自信満々に答える。

 

 

『――フ、よくぞ聞いてくれたオベロン。その呪文とは『シャザ――』ってこんなところで変身したら大変なことになる! あぶねぇ!』

 

 

続く判明する彼の()()は相変わらずめちゃくちゃで、信用に値しないもの。

 

 

彼は決して悪人ではない。

 

 

『この力があれば女王軍にも入れるぞ……! 厄災も祓って、恩知らずの反乱軍も倒して。いつか女王様にも会ってみたいな……!』

 

 

こちらの事情を知ってか知らずか、やたらと女王シンパである事を主張する彼の言動は、こちらの足並みを乱す。

 

彼の思想はカルデアの目的を邪魔するものだ。

 

汎人類史のモルガンに異常な程に心酔しているトール。

 

アーサー王に関しては憎からず思っているようだが、兎にも角にも円卓の騎士嫌いが凄まじい。

それを察しトリスタンの事は皆にアーチャーと呼ばせているが、トールから滲み出る円卓嫌いの態度の は、トリスタンの精神を乱しているようにも感じる。

 

そして、そのモルガンへの心酔ぶりはこの異聞帯の彼女に対しても同様らしい。

 

女王への不満を漏らす妖精に突っかかっていく姿はあまりにも短絡的で、まともな感性を持っているとは言い難い。

 

はっきり言ってモルガンを倒すと言う目的をもったカルデア陣営には彼はあまりにも邪魔だった。

 

 

「正直なところ旅に同行させるのは反対だ。そもそも危険だし、案の定の大怪我だ。彼の奇妙な思い込みで暴走してこちらまで危険に陥れられる可能性もある」

 

 

「思い込み。彼がスーパーヒーローって話? 君はどう思う?」

 

 

「十中八九ウソだね……そう思っていたいという感じではあるけれど」

 

 

「まあ、そうだろうとは思うけど、やけに自信があるじゃないか」

 

 

「なに、君と同じくらいの信頼性さ、ただ僕は曖昧な意見は好かないからね。言う時はズバッと言う! それが妖精王の生き方なのさ」

 

 

「……成る程」

 

 

「士気の問題も出てくるしね。汎人類史に関しての説明をしても良いけど、モルガンシンパが治らなかったらコトだ。あえて悪い言い方をするならば彼は切り捨てるべきだ」

 

 

「見捨てるって事かい? それは――」

 

 

「勘違いしないでくれ。当然彼の生活の補償はするさ。オーロラが謁見を許す程に彼に興味を持ったのは彼にとっても僕らにとっても好都合だ。僕が色々取りはからってここでの不自由のない暮らしを用意しよう。モルガンを倒した後、どうにか説得をして汎人類史に連れて行けば良いさ。女王軍に入るのは無理だろうしね」

 

 

「成る程……」

 

 

難しい表情を浮かべながらも納得するダ・ヴィンチはオベロンから離れ、緊張した様子を見せているアルトリア達の方へと向かっていく。

 

 

「まあ、それも今の謁見次第……気に入られるか、地雷を踏むか。まあどちらにせよ消えてもらうのは変わらない……」

 

 

囁かれた妖精王の呟きを、聞き取るものはいなかった。

 

 

 

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