マイティ・トール 〜ブリテン・フォーエバー〜   作:ぷに丸4620

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お待たせしました。
色々とリアルが忙しくなってしまいまして。
時が経つとプロット等にも修正を加えたくなる病が発生してしまい。
展開に迷いが生じました。

執筆が滞ってしまっております。申し訳…

アヴァロンルフェシノプシスを入手し、フロムロストベルトも読み、色々と参考になりました。ここらへんの話も解釈として取り込んでいきたいと思っております。

今回原作の出来事をダイジェスト気味に入れております。



壊れ始めた運命

藤丸立香及びカルデアの面々は、マシュと思われる存在の調査の為、人間牧場に向かっていた。

 

 

「アルトリア? 大丈夫?」

 

 

ソールズベリーの兵士に案内され、数時間歩き続ける一同。

 

出発直後。人間と一緒にいることが初めてだと言う理由で調子の悪さを見せていたが、それに慣れることが無いのか、牧場が近づくに連れて更なる緊張を見せていた。

 

 

「い、いえ! 大丈夫です!」

 

 

それに気を遣って声をかけた藤丸立香だが、返ってくるのはそんな返事ばかり。

 

とは言え、これから敵陣への潜入だ。余計な事をしている暇も無い。

本人が言うのならばと、下がるしかなかった。

 

 

前を向く藤丸立香の背中を前に。アルトリアは下を向く。

今は彼の姿をまっすぐに見つめる事ができなかった。

 

 

アルトリアの緊張は人間に対してのものではない。もっと別の要因であった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

オベロン達によって女王シンパである彼に内密で語られていた今後の旅路。トールとホープをソールズベリーに置いていくと言う結論。

 

正直に言えば、別れるのは嫌だった。

 

カルデアの者達は確かに善人ではあるが腹に一物抱えていることは明白である。

 

一緒にいて気が休まっているかと言えばそうではない。

 

そんな中アルトリアにとって一緒にいる者達の中で最も安心できるのがホープだ。

それは彼女の希望の妖精という性質に起因するものではあるが、それ以上の何かを感じていた。

 

そんなホープと離れる寂しさももちろんだが、いくらオベロンによって安全が保証されていても別れる事で今後の彼女の動向がわからなくなるのが嫌だった。

 

そして、トール。

初対面からは考えられない程に快活になった彼。女王シンパである彼の予言に対する嫌悪感は正直な所気まずさがある。

だが、彼の、妖精達が予言の子に頼ろうとするコトへの嫌悪には少しだけ楽な気持ちにもなっていたのも確かだった。

 

彼の正体に関わる言葉は記憶の障害故か嘘か真かわかりにくい。本人自身が自分でも気づかないうちに自分の言葉を疑っているのだ。

 

だがそれ以外の、彼のある種考えなしのような行動から繰り出される言葉や行動は良くも悪くも正直さに溢れていて。それはある意味でひとつ安心できる要因ではある。

 

相手の言葉の真偽を見破ると言う妖精眼を持つ彼女はどうあがいても相手の嘘を見破ってしまう。

故に、彼女はいかなる理由であっても嘘が好きではない。

だが、今回ばかりは――

 

 

『――俺は、君を誘拐する事にした』

 

 

嘘であってほしいと思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

まさかこんな事まで正直に言われるとは思わなかった。

 

 

(どうしよう――)

 

 

『人間牧場へ行くんだろ? 大方そのまま俺とホープが寝てる間にでも置いていくんだろうけど――まあ別にそこはどうでも良い。元からついていく気もなかったから……』

 

 

ぐるぐると思考が巡る。

 

 

目的地へ向かう道中も彼とのやり取りが頭の中を巡り続ける。

 

 

『別に今じゃない。今攫ったらあいつらの仲間の救出どころじゃなくなるからな。そこは尊重するさ』

 

 

そんな心配も余所に、滞りなく人間牧場へとたどり着く。

 

 

『攫うタイミングはそうだな……』

 

 

彼の誘拐宣言に嘘は無かった。

彼の心変わりがなければ――

 

 

『人間牧場を脱出するタイミングで俺は動く。アイツらが脱出する時にキミを攫う。アイツらが捕まるようなら脱出に関しては協力するさ。その程度には思い入れはある』

 

 

 

 

――彼はきっと自分達の傍にいる。

 

 

 

 

 

『乗るか、抵抗するか、心の準備ぐらいはしておいた方が良い。どっちにしろやるコトは変わらない』

 

 

 

結局、決める事は出来なかった。

 

 

 

(どうしよう……)

 

 

 

キョロキョロと周りを見回すが自分達以外の存在は感じない。

 

アルトリアには使命がある。

選ばれし予言の子として、女王モルガンを倒すという使命。

それは、妖精國を救う事と同義だと言う。

与えられた情報はそれだけ。

 

モルガンを倒せば妖精達は救われるということに関してだけで言えばアルトリアは決して疑いはしない。

圧制に苦しむ妖精達。「お前たちを救わない」と言う彼女の宣言。

どうあがいてもモルガンは悪の魔女。

倒されてしかるべきの悪。

 

悪い魔女を殺せば、魔女の支配する妖精國は自由と解放の名の下救われる。

わかりやすい物語。

 

 

 

『俺は予言の子に頼って、しかも女王を殺そうだなんていう今の思想を認めない。』

 

 

 

それを彼は否定する。

 

 

 

『予言なんて曖昧なものに頼って、王を殺して救われる國に未来なんて無い。彼女が現れる前の戦乱の時代に戻るだけだ。そこでそのまま滅び去るか、他の国にやられるかの2択しかない。』

 

 

光に閉ざされた世界で言う他の国と言うのが何を指しているのかは理解できている。

 

予言の子であるアルトリアを全否定する彼の言葉は、彼女のアイデンティティを完全否定するもの。

その言葉に憤りを感じてしまうのは当然のことだ。アルトリアはその使命を完全に間違っているとは思っていない。

 

 

『そんな方法、俺は認めない』

 

 

 

 

 

 

 

――だが、なんで自分がそんな使命を果たさないといけないのかと思っていたのは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

彼の女王を殺し、予言の子によって救われようとするこの國の行く末を否定する言葉は。

むしろ予言の子の使命を億劫だと内心で思っている彼女にとってははんの少しの救いでもあった。

 

アルトリアは別に使命に燃えているわけでもない。

かと言って使命を全否定するほどの心の強さも持っていない。

 

 

だから彼女は迷うのだ。

 

 

 

(本当にどうしよう……)

 

 

 

アルトリアは考える。

 

考えて考えて考えて考えて。

 

 

『予言が嫌なら……予言を否定するなら、私を殺せば良いのに。 それが一番早いでしょ?』

 

 

彼と交わしたさらなるやり取りを思い出す。

 

彼の宣言に対する疑問、突然の誘拐宣言に半ば自棄になったが故の自虐的な自分の質問に対する彼の答え。

そこに、いっそ楽にしてくれと言う感情があったことは否定できない。

 

その自棄に対しての彼の答えは、理想通りというものではなくて、結局のところアルトリアは死ぬこともできなければ答えを導いてもらう楽をすることもできなかった。

 

 

 

(トール君……)

 

 

それを思い出しながらも結局決意を固めることはできなかった。

 

 

(今は足手まといにならないようにしないと)

 

 

今は、もう、先のことを考えることは出来ない。まさに今、女王に逆らい危険を犯そうとしているのだ。

トールの介入ばかりに気をやって、足手纏いにでもなったら最悪だ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

予想外の出来事が起こった。

 

それはカルデアにとっては追い風だった。

 

想像よりも手薄な警備。

 

なんとか撃退できた見張りの妖精。

 

ちょうど良いタイミングで現れた反乱軍達。

 

目的のマシュはいなかったものの。牧場にいた人間達を脱出させると言う善行を行う事が出来た。

 

 

反乱軍。

 

 

モルガンを打ち倒すと言う大義を掲げ、同じ志を持つであろう予言の子を持ち上げる為の下地を作っているのだという彼ら。

 

それはモルガンを打ち倒すとオーロラなどにも宣言しているカルデアの者達にとってはまさしく追い風だった。

 

この場での牧場での行いだけでない、これからモルガンを打ち倒すと言う目的においても、きっと役に立つであろう出会いである。

 

それを取りまとめるのが汎人類史では円卓の騎士の1人であった騎士と同じパーシヴァルという名前の男であると言うのだからますますその期待値は上がっていく。

 

悪の女王モルガンを打ち倒す正義の存在。

その代表がアーサー王の別存在であるのならば円卓の騎士は切っては切れない存在である。

 

敵も味方も定かではない異聞帯においてそれはまさしく希望の光。

 

だったはずなのだが。

 

それを、容易く打ち消すほどの存在が現れた。

 

 

 

「警備の隙を見ての襲撃とはな。小賢しい智恵だけは回る」

 

 

 

現れた炎の壁。

 

飲み込まれた反乱軍の人間達。

 

その一連の出来事は希望を絶望に変えるには十分だった。

 

新たな登場人物。

感じ取れる魔力はただでさえ圧倒的な妖精の中でもなお強力。

 

 

 

「この牧場はモルガン陛下の財産である。焼け野原にする事はできない。残りは我が角で潰す。抵抗するが良い人間」

 

 

 

白銀の甲冑。

見るからに巨大な体躯。

その相貌は人間的だが、存在感は格が違う。

 

 

妖精騎士ガウェイン。

 

妖精喰いの黒犬公。

 

反乱軍の1人が彼女の異名を語るものの。

 

 

 

「能書きばかりで剣を取らぬのであれば我が角と交えるまでもない」

 

 

 

最後に女王の懐刀と称した反乱軍の兵士はたった今殺された。

 

 

 

「ガウェイン様、逃げ出した人間どもは全て捕らえました」

 

 

 

またひとつ絶望が重なる。

 

 

目の前の反乱軍達が皆殺しにされた事だけではない。

 

脱出にあやかった牧場の人間達も結局捕らえられた。

 

 

 

「女王陛下から聞いている。男、おまえが汎人類史のマスターか。我ら妖精騎士は貴様らの事はみな陛下より賜っている――機会があれば捕らえよとな」

 

 

 

藤丸立香達も同様に処理されると思われたところで目の前の騎士から出た言葉は驚愕に値するもの。

 

 

この妖精國ではオベロンによって情報をもたらされた者以外は汎人類史の事を認識していないと思われたが、やはりと言うべきか女王に近しい者は認識しているらしい。

 

汎人類史である自分達を殺すのではなく捕らえろと命令されているという事に疑問を挟みつつ。

 

事態はカルデアの者達にとって最悪なものとなる。

どう言う能力か、令呪を通して魔力を奪われる藤丸立香。

 

 

「しっかり!だめだ、ひどく衰弱している!」

 

 

彼はカルデアにとってまさに要であり、例えそれを推してこの戦いに勝利しようと彼が死亡すれば終わりとなる。

 

彼を置いて目の前の騎士と戦闘など不可能。

 

 

「久しぶり。会いたくはなかったけど、またあなたに会うなんて」

 

 

一瞬、アルトリアとのなんらかの因縁があるような会話劇も始まったのだが。

 

 

 

「――知らんな」

 

 

 

容易く切って落とされた。

 

会話による引き伸ばしも終わり。

選べる選択肢は逃亡のみ。

その選択肢すら犠牲無くしては選べない最悪の状況。

瞬きしたその瞬間には全滅をしてもおかしくない。

 

そこに、一手を投じたのはもう1人の騎士だった。

 

 

 

「む、これは……弦、か?」

 

「いかにも」

 

 

 

汎人類史の円卓の騎士。

 

張り巡らされる弦は、妖精騎士を抑え、あわや打ち倒すための必殺の布石。

 

 

 

「それは自由自在にして縦横無尽。決して千切れぬ妖弦。貴方がどれほど頑強だろうとその弦を超える事は敵いません」

 

 

 

嘆きのトリスタン。

彼の投じた一手が、全滅という危機に待ったをかける。

 

 

 

「ダヴィンチ、アルトリア。ここは私が食い止めます」

 

 

 

彼が選んだのは自身を犠牲にした主の逃亡。

確実に全滅するこの状況において、自身を犠牲にするのが最善の手であると、彼はそれを選び取る。

 

戸惑うアルトリアを説得し、去ろうとするダヴィンチを背に、対峙するトリスタン。

 

 

この後トリスタンは妖精騎士ガウェインに敗れる。これが本来の運命

 

だが、その運命にわずかな綻びが生じることとなる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

妖精騎士と円卓の騎士。世界を取り合う第一戦。

それが始まろうとしたその瞬間。

 

 

 

 

――ポンッ

 

 

 

 

場違いなほど小気味良い軽い音と共に、

 

 

 

 

 

「――!これは?」

 

 

 

 

その場にいる全ての者の視界を奪う煙が唐突に現れた。

 

 

 

「――小癪な!」

 

「――今だ!」

 

 

 

鬱陶しげに声を上げたのは妖精騎士ガウェイン。

 

これ幸いと声を上げたのはレオナルド・ダヴィンチ。

 

 

 

互いに、煙幕の目眩し程度で動けなくなるようなタマでは無い。

だが、事態を動かすきっかけになった。

 

 

 

ダ・ヴィンチは何者の仕業かという思考を捨て、藤丸立香をアームで掴み、残りの2人は号令と共に一目散に逃走を図る。

視界はゼロ。だが足元の起伏具合と、出口までのルートならば把握している。見えずとも走り切ることはできる。

 

 

「――っ 舐めるなぁ!」

 

 

 

対してガウェインも何も動かないわけではない。

捕らえろとは言われたが傷つけるなとも言われていない。

 

目の前の弦の檻を無手で抜けるのは容易い事ではないが、剣を振るい、発生させる炎によって弦糸ごと広範囲で相手を薙ぎ払う事は難しくはない。

 

殺してしまうという万が一を考えるがたかだか煙幕程度で取り逃したとあっては妖精騎士の名折れである。

 

 

大雑把な自覚のある自身の力を可能な限り調整し、剣と共に炎を振るう。まさに今それを実行しようとしたその瞬間。

 

 

「――ッ」

 

 

 

ガウェインの側に、わざとらしいほどに突如現れた、何者かの気配。

 

 

浮かび上がるシルエット。

煙で全容は見えないがわざとらしく現れたそれは四肢のついている人間のもの。腕を伸ばせば届く距離、ガウェインの横合いにそれは現れた。

 

 

(この私を暗殺でもするつもりか!?)

 

 

思考はすれど身体は反応出来ない。

気づいたところで、振りはじめた剣は止まらない。

言葉を発する暇もない。

狙った獲物を仕留める事はできるが、それによって生じた隙を消す事はできない。彼奴に鎧を貫く何かがあるのならばガウェインに攻撃が届いてしまう。

 

それがどうしたとガウェインは歯を食いしばる。モース毒を仕込んだ武器か、あるいは魔術的な何か、どのようなものであれ耐えてみせると心を決める。

 

そんな中、影がとった行動は横凪に振るわれた剣の腹を素手で下から叩き上げる事だった。

 

 

「何――っ!?」

 

 

煙の中きら見える拳。重苦しい金属音。

 

 

振るわれるはずだった一閃は上に弾かれた。

ある種予想外の一手。剣を手から離さなかったのは流石の妖精騎士とも言える。

 

影はガウェインを仕留めることではなく、攻撃を止め、先の汎人類史の者達を守ることを選び取った。

 

 

 

「不意打ちとは言え素手で私の(けん)を弾くとはな。褒めてやる」

 

 

無手でそれを成し遂げたであろう目の前の人間らしき影に、賞賛を送る。

だが、それはそれとして目の前の下手人を許すつもりはない。

 

上に弾かれた腕と剣を、ガウェインはそのまま大上段の構えへと昇華する。

 

 

「だが捨て石があの男から貴様に変わっただけだったな」

 

 

放り損った炎は剣に溜まったまま。

元々加減するつもりだったそれをガウェインは遠慮しない。

 

 

「はあっ!!」

 

 

足元に伏せている影に向け、それを振り下ろした。

 

爆ぜる炎。

それは広範囲に広がり、煙さえも吹き飛ばす。

大地に向けられたそれは、地面を焼き尽くすものの周辺の建物の表面だけを焼け焦がすに留まった。

 

しかし向けられた爆心地はまさに地獄。人間であれば一瞬で灰になっているであろう威力。

その炎の最も側にいるガウェインは暑がるそぶりすら見せはしない。

放たれた絶対の一撃はしかし――

 

 

「……逃げたか。相当に素早いヤツだ」

 

 

下手人を捉える事は無かった。

感じない手応えに戦いへの渇望を募らせながら妖精騎士ガウェインは事態を冷静に分析する。

 

 

「逃げ出した人間とサーヴァントを追え、私はいささか足が遅い。足の速い者達を集め追跡しろ」

 

 

炎の範囲外、背後に控えた部下達に命令を下す。

 

 

「赤毛のサーヴァントには警戒しておけ、侮れば弦で四肢を失う可能性もある。取り囲んで動きを止める程度に抑えておけ」

 

 

先ずは、逃げ出した汎人類史の者達を追い詰めるための指示を出す。

 

 

「一部の者は周辺の散策を。唯一の逃げ道は侵略者どもが通ったあそこだけだ。空でも飛べなければ逃げきれん。この牧場のどこかに潜んでいる可能性が高い」

 

 

爆炎の風圧によって晴れた煙の先。牧場の門を差しながらさらなる指示を出す。

指示としては完璧だった。

あの戦力。足の速さ。それを加味しても全く問題なく捕らえられる状況。

 

 

――だが、誰の助けか突如現れた一部の上級妖精しか持たないはずの馬車によって汎人類史を取り逃す事になった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……用意の良い事だ。あの馬車の持ち主はわかるか?」

 

「不明です」

 

「煙幕を出した者は?」

 

「建物中も探したのですが魔力の痕跡も無く。影も形も見当たりません」

 

「飛んで逃げたか、あるいは姿を消す類の力でも持っていたと言う事か、あの時わざわざ姿を見せたのは自信の現れとでも言うつもりか?」

 

 

取り逃した報告を受けるガウェイン。

さまざまな思惑はあるが逃げ出した者達はネズミですらない虫であると言い捨て、キャメロットに帰還することを決める。

 

途中、部下による妖精騎士ランスロットに対しての発言によって一瞬緊迫した空気が流れたがそれも終わった。

 

取り逃しはしたが戦いによって人間牧場を破壊する事もなく、奴隷の人間も収容した。結局のところ反乱軍が全滅したのみでむしろ汎人類史の者達の情報を得たと言う意味では女王側にとっては得のあった一件となったのだが――

 

 

 

事態はここから動き出した。

 

 

 

「ひ、ひぃ……! 待ってくれ、違うんだ、オレたちは悪くない! アイツらが勝手に扉を開けたんだ……! オレはイヤだって言ったんだ!」

 

 

叫ぶのは牧場に収容されていた人間達。

反乱軍によって脱出を促されたものの、結局のところ捕まった者達。

 

 

「殺さないで、殺さないで……! もう二度と、自由なんて欲しがらない!」

 

 

その運命は決まっている。

 

 

――思い上がるな

 

 

その一言が最後。

 

 

――一度でも逃げ出そうと考えた人間は奴隷の価値もない

 

 

その理由と共にガウェインによって、忠実な黒犬(ブラックドック)へと変えられる。

それが、彼らの運命。

 

 

だが――

 

 

「思い上が「――おい」」

 

 

牧場の人間の末路を決定告げる妖精騎士ガウェインの言葉は最後まで紡がれる事はなかった。

 

 

 

「そいつの言っていた事は本当だ。断ったのを言いくるめられてただけだ」

 

 

 

運命を決める妖精騎士ガウェインの一言は、1人の奴隷の姿の男によって防がれた。

 

 

 

「そのぐらい許してやれよ。わざわざ殺すほどの事でも無い……」

 

 

「貴様! 奴隷の分際でガウェイン様に口答えとは!」

 

 

「反乱軍は全滅させた。侵略者の情報も掴んだ。アイツらは虫程度の認識なんだろ?  実質勝利だってのに自分で貴重な資源を減らして負け戦にしてどうすんだ。馬鹿なのか?」

 

 

 

妖精の警告を無視し、畏れることなく口を動かすその者は、このばにいる奴隷たちの運命を破壊する存在。

 

 

 

「貴様――」

 

 

 

わかりやすい挑発行為。

妖精騎士ガウェィンの纏う空気が一変する。

その者は命乞いをした者と同じ、奴隷の服を着込んでいた。

 

 

 

「そもそも恩知らずの反乱軍の薄っぺらい思想に乗せられかけたのは、教育不足のお前らが悪い」

 

 

「貴様、自分の立場をわかっているのか?」

 

 

 

この場にいる誰もがその男を見る。

奴隷や、妖精達でさえその挑発行為に絶句する。

 

 

 

「俺の立場とお前が思わず声をかけたくなるくらい馬鹿なのは関係のない話だろ?」

 

 

「お、おいアンタ! なんて事を!!」

 

 

恐れるのは男ではなく、その挑発で激昂するかもしれない妖精騎士に対してのもの。

ガウェインに罰を与えられそうになったその男でさえ更なる恐怖に男を静止しようと焦りを見せる。

 

 

「わざわざ殺すならモース対策の肉壁にでもした方が良いだろ。人間ってのは確かに無価値どころか害悪だが、使いようによってはお前みたいな馬鹿の判断で殺すなんて勿体無い程度には理はある。教育次第じゃ――」

 

 

 

だがその男は数多の妖精や、妖精國最強の一角を前にしても臆する事はない。言葉を止めることもしない。

 

 

「お前の連れてるしけた犬畜生より役に立つ」

 

 

しんと辺りが静まり返る。

誰も動けない。動こうとしない。

こに妖精騎士が発足それてから数百年。果たしてここまで妖精騎士に暴言を飛ばす者がいたのだろうか。

 

恐れ慄く奴隷と妖精は前代未聞の珍事にガウェインの動きを待つ他ない。

 

 

「――成る程」

 

 

その静寂の殻を破ったのは妖精騎士ガウェイン。

あわや激昂してこの場の全てを燃やし尽くすと思われた騎士は。

 

 

「おい、拘束を解いてやれ」

 

「は? ハ! 只今!」

 

 

何故かそんな事を言い出した。

 

 

腕の拘束を外す土の氏族の妖精、ガウェインは首を振り、男を移動させるよう促す。

 

()()()()()()()()()()男はスタスタと移動する。

 

誰もが男が見逃されるとは思っていない。

これから起こる惨劇を想像し、激昂した妖精騎士によってより残虐な方法で自分達もまとめて殺されるのだと絶望に染まる。

 

妖精に突き飛ばされる男は、たたらを踏むことも無く歩き、大した不安も見せずに彼女の正面に立つ。

 

数メートルの距離を挟んで相対する両者の距離は先の騎士同士の戦いの距離感と同じ。

決闘の様相を呈していた。

 

 

「確かに教育不足だった」

 

 

ガウェィンの言葉にどよめく妖精や奴隷達。

 

 

「へえ、非を認める知能はあるんだな。」

 

 

尚も挑発を続ける男にどよめきがさらに広がっていく。余計な事をするなと、懇願の目を向ける。

 

 

「――フ、魔力も持たん失敗作であれば力の差を察することもできんのは致し方のない事だ。女王陛下や妖精騎士がどういう存在か。ここの管理者に言って奴隷どもに叩き込むよう聞かせねばならんな?」

 

「え? あ、そうだった。あーまあ、アンタのことは知らないが女王の偉大さは感じてるよ。 全知全能の神でもないのにこの偉業。とんでもないお方だ。だが流石に多忙の身なんだろうな。末端の無能な配下の教育までは頭が回らないのは仕方がない」

 

「ほう、下等生物である貴様らにも陛下を敬う程度の知能はあるのだな」

 

「ああ、お前よりはよほど女王様の偉大さを理解してる自信はある」

 

「フ、笑わせる」

 

 

 

男の挑発を受け流し、ガウェインは嘲笑で返す。

舌線はこれまでと、ガウェインは鎖で繋いだブラックドックを前に出す。

 

 

「この者達を守るために前に出た気概は認めてやろう。その下らない言葉ばかり出る舌は問題だがな」

 

 

「おい、勘違いするな。生存競争に負けた以上人間が奴隷にされるのは当然だ。()()()()()()()()()()()()()()()()。むしろ妖精は優しいぐらいだ」

 

「ほう、人間の命そのものには興味はないと? この奴隷どもを救いたくて声を上げたのではないのか?」

 

「別にそういうつもりで口出したつもりはない。お前の行動が無能すぎて女王が不憫だったから見てられなかっただけだ。憐れに思ったのは奴隷じゃ無くて()()()だよ。」

 

「……私の前に立つ胆力は認めてやる。だが奴隷どもへの関心を逸らすための挑発だと想定したとしても、驕り高ぶったその態度は問題だ」

 

「敬ってほしいならそうしたくなるような態度をとるんだな」

 

「フン、教育を施すのにも労力はかかるということだ。逃げ出そうと考えた者はその時点で奴隷の価値すら持たん……そのような者どもに労力を捧げるのも馬鹿な話だ」

 

 

すっとぼけた男の態度を無視し、ガウェインは黒犬の鎖を外す。それはいかなる意味なのか。この場で察せない者はいない。

 

 

「この奴隷以下共がブラックドックよりは役に立つと言ったな? 小僧」

 

 

牙を剥く人間並に巨大な黒い犬。その筋肉質な四肢を曲げ、腹を地面に付ける。獲物を襲う前動作。

 

 

「貴様の見解が思い上がりでない事を証明して見せるが良い」

 

 

それが号令。

ブラックドックは折り曲げた四肢を引き伸ばす。バネのように躍動する体は悍ましい速度で以って、男へと飛び掛かる。

 

目の前で起こる絶対的な破壊を妖精達はショーとして楽しもうと笑い、奴隷達は男の後にはきっとあの犬に食い殺されるのかもしれないと悲鳴を上げる。

 

空気を突き破る黒犬の突進。牙と爪を備えたそれはもはや鋭利な斬撃力を所持した砲弾だ。

妖精ですら上半身を消し飛ばすであろう威力のそれは。

 

 

 

 

――凄まじい衝撃によって終わりを迎える。

 

 

 

 

 

それは拳だ。

斜め下からの振り上げ。

美しい曲線を描くアッパーカット。

 

放ったのは無様に肉片になると思われた奴隷。

 

砲弾と化したブラックドックを避けるでもなく、何らかの奇策を講じるでもなく、下から迎え撃つ形で鋭利な牙に直接拳を叩き込んだ。

 

 

爆音、爆風。

 

牙と骨の砕ける音がそれに混ざる。

 

 

その勢いは凄まじく、牙を砕き切っても止まることはない。

 

吹き飛ばされた黒犬は突風を撒き散らしながらガウェィンの頭上を超え、その背後にある宿舎の上階を破壊し、果てはその先の城壁を破壊し、牧場の外。

落下音すら届かない遥か彼方へと吹き飛んでいった。

 

遅れてきた衝撃による突風が奴隷や土の氏族の妖精をふらつかせる。

 

驚愕する一同。

 

 

「――悪かった。あんなに脆くて弱いとは思わなかった。吹っ飛ばしすぎたよ。想像以下だったな。お前の駄犬」

 

 

目の前で起こった出来事を理解することが出来ないのは妖精も人間も変わらない。

 

 

「で? 今度はどうする? ここにいる妖精を全員屈服させれば良いのか?」

 

 

目の前の男の凄まじい力と、訳の分からない宣言にたじろぐ一同。男の力に、嘲笑っていた妖精たちでさえ無礼な男の強気な態度に臆し始めた。

それも当然である。

土の氏族も奴隷達も、ああしてブラックドックを退ける者は存在しない。

 

 

 

1翅を除いてだが。

 

 

 

「――フッ」

 

 

 

今の男の力に一切動じない妖精が一翅。

 

 

 

「良かろう」

 

 

 

妖精騎士ガウェイン。

 

 

 

「ああ全く――はしたないことだが。あの虫どものおかげで激った熱を持て余していたところだったのだ」

 

 

 

妖精國を守る最高戦略の1翅。

 

その迫力は強靭強大。先の黒犬など比べるべくもない。

 

 

「激った熱の発散先がこうして現れるとは、感謝せねばならん」

 

 

獰猛な獣が牙を剥く。

 

 

「よくぞブラックドックを退けた。人間の分際で、さらに矮小な魔力で良くやったと褒めてやろう。奴隷どもは見逃してやる。だが――」

 

「――!?」

 

 

目の前の人間とは思えぬ異常を前にしても尚、動揺する見せず、二足歩行のその獣は(つるぎ)を構えて男へと肉薄する。

 

 

「次は私に付き合ってもらうぞ!異邦の男よ」

 

「――!!」

 

 

振り下ろされる剣を、拳で挟んで白羽取る。

巻き起こる衝撃波が再び妖精と人間達の肌に痛みを与える。

 

ブラックドックを吹き飛ばした男も余裕だった態度を崩し、ガウェインの一撃を止めるために力を籠める。

互いに歯を食いしばるほどの力の入れ様。

 

 

 

「先程と良い! その矮小な身と魔力で武具も持たずに私の一撃を受け止めるか! 興味深い!」

 

「楽しむのも結構だが! そんなんじゃ負けた時恥ずかしくなるぞ!?」

 

 

ぶつかり合った力が反発し、その衝撃が互いを弾き、間合いを開ける。

拮抗する力。その衝撃はこの場にいる誰も抗えない。

 

されどどちらも全力にあらず。

 

 

 

「殺しはせん。味見程度で済ませてやろう。先ほどの奴らと違い陛下に謙る心待ちのようだがその態度はいけすかん。逆らえんように調教した後貴様を捕らえ陛下に献上しよう。」

 

「それは願ったりだが立場が気に入らないな。お前が俺に平伏して女王様に紹介してくれるんなら従ってやっても良い。働き始める前の妖精國漫遊ツアー付きでな。 馬車を用意してもらおう。引くのは馬じゃなくてお前だけどな」

 

「――ハッ」

 

 

互いに口を開くのは余裕の表れか。

 

 

「抜かせ!」

 

 

ガウェインの方向の後、再び激突。

運命の歯車を壊す衝撃は果たしてこの妖精國にどれほどの影響をもたらすのか。

奴隷に扮した記憶なき異世界の男トールと、妖精騎士ガウェインの本人たちにとっても予定外だった戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 





カルデア組:逃亡中にアルトリアが消えていることに気付くものの原作通りに馬車到着。逃亡を図る。マシュが最優先でもあるため深追いは避けることに、メタ的見解としてはアルトリアの代替戦力としてトリスタン生存といったところ。

本当はそのまま隠れて逃げる予定だったトール:訳あって別行動なV2N、カンカン。

アルトリア:ムー!ムー!モガモガ!

ホープ:ハラハラドキドキ

ガウェイン:ワクワク

クソ虫:イライラ


にゃこる様、いとこんにゃく様、モブメガネ様、ソラカナ様、多木様、一般学生C様。
評価ありがとうございます。

評価、感想など色々とお待ちしております。




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