七星 憂は自殺した。
七星 憂は運命の『翡翠』に出会った。
憂は五年の時を過ごした。
ユウは『翡翠』を庇い下半身を失って、死んだ。
ユウは『嫉妬の魔女』と出会い、五年前に戻ってきた。
ユウは『翡翠』を失い、『黄金』を求めた。
憂は捕まった。拷問され、尋問された。
憂は『翡翠』に救われ、感謝を述べて自決した。
ユウはこの世界記憶を失い、七星 憂は『傲慢』に目覚めた。
七星 憂は運命の『黄金』に出会った。
七星 憂は『黄金』に救われ、『黄金』を救うと誓った。
ナナホシ・ユウは『獅子女』と契約を結んだ。
ナナホシ・ユウは『黄金』に依存し、『黄金』はユウに依存した。
『黄金』は命を差し出し、ナナホシ・ユウは拒んだ。
七星 憂は『傲慢』となり、好きだと言って死んだ。
七星 憂は『嫉妬の魔女』と再会し、彼女を殺すと誓った。
さぁ、あなたは今、だぁれ? 二八
『Who is you』
◆◇◆
「――フェリスッ!!!………はぁ、はぁ…」
戻ってきた。
辺りを見渡せば暗い牢獄の中。横には、フェリスがいた。
「んぅ~………どうしたの…?」
どうやら起こしてしまったようだ。
でも、それより。
「…フェリス。――あぁ、よかった…覚えてる」
心を満たすのは安堵だった。
「…だいじょうぶ?」
「ああ、大丈夫だ。ごめんな、起こしちゃって」
「うぅん、だいじょうぶ。――おやすみ、ユウ」
「ああ、おや、すみ………?」
―――違和感。違和感が■の脳内を満たしていた。
わかっているはずなのに、知らない。
理解しているはずなのに、納得できない。
気づいてしまえば疑念を抱く。
疑念を抱いてしまえば、確信してしまう。
―――あ、れ……『ユウ』って、――誰だ?
■は己の記憶を失っていた。
◆◇◆
「あのッくそ魔女ッ」
再び眠ったフェリスを起こさないよう小さく悪態をつくユウ。
覚えている。フェリスのこともクルシュのことも、『嫉妬の魔女』に記憶を奪われたことも、この世界がリゼロの世界であることも覚えている。
なのに。
――オレは誰だ!?
思い出せない。この世界に来るまで、自分がどうやって生きてきたのか、なにも思い出せない。
記憶にぽっかりと穴が開いている。そこにあるのは事実だけ。
母親がいたということ。父親がいたということ。そして自分がこの世界の異物であるという事実だけが残っている。
家族の顔も、自分が誰なのかもわからない。
「オレ、はっ『ユウ』だ…『ユウ』、『ユウ』、『ユウ』」
何度も繰り返しその名前を呼ぶ。己に思い込ませるように、何度も、何度も。
しかし何度繰り返そうと、それが己の名であると感じられない。逆効果だった。人は何かを思い込もうとすればするほど、それが誤っているという認識を強くしてしまう。その違和感が、不一致が、ユウの脳に甚大な負荷をかける。
それでも。
「オレは、フェリスを…」
―――助ける。
ユウの中にはもうそれしかない。
クルシュと過ごした五年も、もはや昔に等しく記憶は朧気。更に、その時の自分をも自分とは思えなくなってきている。
その後に受けた強烈な拷問の記憶がそれを加速させている。
そしてそれを更に上書きするのが、フェリスの記憶。フェリスとの思い出。
この世界が創作の世界であるということを忘れてフェリスと過ごした日々は明確にユウの無意識に変化を与えた。フェリスは物語のキャラクターではなく、この世界に生きる一人の人間、小さな子供、ユウが本気で本当に助けたいと思える大切な人になった。
――ユウはフェリスに救われたのだから。
今度はユウが救わなければいけない、フェリスを。
愛には報いなければならないのだから。
それだけがユウの寄る辺。フェリスだけがユウの縋る居場所。
故に。
―――絶対、助ける。
それは傲慢ですらない。――ただの執着。
◆◇◆
コツンコツンと、歩く音が響く。
明かりに乏しい暗く冷たい廊下を一人の女が歩いている。
桃色の髪に小学生程の背丈の女の子だ。その手には木製の杖を持ち、老人のように歩行を補助している。身体が弱いのだろうか。見るからにいたいけな少女である。
しかしそんな少女が行くのは、じめっとした地下の道。あまりに似合わない光景だ。
少女は進む。その先にあるのは暗闇。しかし少女には輝いて見える。そこには少女の希望があるのだから。
数分も経たずに着いたのは最奥の部屋。入り口を檻で封鎖された牢獄だ。中には一つの影が見える。否、そこにいるのは二人。中学生程の男の子と小学生程の子供。
男の子は座って瞳を閉じその懐に子供を収めている。子供はその腕の中で安心したように眠っている。
仲睦まじい光景だ。――ここがそんな子供を閉じ込める牢獄でなければ。
「仲が良いようでなによりだね」
しかし少女は言う。少女は疑問を抱かない。ここに二人を監禁しているのは他ならぬ彼女なのだから。
「……」
そんな少女の声を聴き、静かに少年はその瞼を上げ、少女を睨みつける。その手に子供を抱き剣呑な気配を漂わせる。
「おや、起きていたのかい?」
それを少女は気にも留めずにそう微笑んで話しかける。そこには驚きも躊躇いもない。彼女の表情は微笑んでいるが、その実少女は何も感じていない。
「……」
「まただんまりかい?いけない子だな。仕方ない、――『話すんだ』」
少年は黙って少女を睨んでいる。その瞳に宿るのは『殺意』。そんな少年の態度を見て少女は表情を消す。いや、戻す。
そうしてそう命令する。それは絶対。破れぬ理。世界の支配。
少女はその履行を疑わない。他でもない、少女が破れない鎖なのだから。
少年は口を開いた。当然だ。一人の人間が世界に抗うことなど不可能なのだから。
そして、少年は言った。
「――『死ね』」
◆◇◆
少年、ユウは漆黒の『殺意』を込めて言い放った。それは世界の理。神の力。凡人には持ち得ぬ権利。すなわち『権能』である。
命令。それは『傲慢』たる人間が決する命の
何物にも逆らうことを許さぬ支配者の権利。
――そのはずだった。
「――随分と嫌われたものだね」
「―――。」
ユウは言葉を失った。それほどに驚愕していた。
ユウは今、確かに『傲慢』の権能を行使した。そのはずだ。
『権能』はこの世界において『加護』よりも強大な力。大罪司教が持ち『ナツキ・スバル』が手に入れる力。
ユウは知っている。『権能』が如何に凶悪な力か。
ユウは覚えている。『権能』を行使した感覚を。
故に少女、スピンクスはその魂を自壊させ死に至るはずだった。
彼女を殺してここを抜け出すはずだった。
なのに。
「隈が酷いようだけれど、もしかして眠れていないのかな。ワタシが言うのもなんだが、睡眠は生命の維持に不可欠だ。思考力も落ちる。いくら君の力で誤魔化せるとはいえ実験に支障が出る可能性もある。そうなれば実験は長引き、フェリックスの消耗も……?どうしたんだい?――そんなに驚いた顔をして」
あり得ない。あってはならない。
(まさか。まさかそんな。そんなはずが、そんなのッそんなことッ!あってたまるかッ!!!!)
ユウは認めない。受け入れない。許さない。
――ソレがなくなった、なんて。
「――『フーラ』ッ!!!!!!!」
例えソレが失われようとユウに諦めるという選択肢はない。ソレが、その資格がなくなってもまだ、ユウには魔法がある。
あの人と同じ力が。ユウに勇気を与える慈悲なる奇跡が。
ユウは唱える。
心中にあるのはただ一つ。
『こいつを殺す』という殺意のみ。
静寂。
なにも、起こらない。
「――ふむ。」
先ほどの言葉をただの戯言だと認識していた少女は認識を改める。
「なんで、なんでッ。『フーラ』!『エルフーラ』!ッ!!――『アルフーラ』ッッ!!!」
何度も、何度も、そう唱えるユウ。しかし何も起きない。何も変わらない。
ユウはその
「――推測するに、もしかして君――」
その小さな頭に叡智を収める少女、否、少女の皮を被った魔女は、答えを導き出す。
「――『傲慢』の資格を、――失ったのかな?」
その瞳は失望を写していた。
◆◇◆
『アイデンティティ』
⇒同一性を意味する。心理学において『自分は何者なのか』という概念をさす。これが損なわれた状態を解離性同一性障害という。俗にいう二重人格である。
wikipediaより
クルシュとフェリスと過ごした五年間のお話読みたいデスカ?
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ある程度
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そんなに
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それより話を進めてほしい
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どっちでもいい
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お好きにどうぞ