空っぽの胸をどうか満たしてくださいお星さま。四四
◆◇◆
光を抜けた先には数十の兵士と、カルステン公爵家当主メッカ―ト・カルステン、そして──。
「ここで何をしている」
そのフェリスと似た
「──クルシュ、さん」
「私を知っているんだな。なら話は早い。我らはカルステン公爵家からの使者。この地の領主であるビーン・アーガイルが人道に反することを行っているという情報を得て調査に来た。それで──この惨状は貴様が原因で間違いないな」
「………」
クルシュはユウを鋭い目つきで睨んでいる。
「もう、そんな時期なんだ。時間が経つのは早いなぁ」
「何を言っている」
「ああ、クルシュ。クルシュ………クルシュ。ああ、駄目だ。ダメなんだ……そっか、僕はもう……」
「何を、何を言っている!」
「僕はもう──あなたを愛していない」
「──っ?!」
クルシュには理解できない。
ただクルシュはその瞳に秘められた悍ましい執念を、己の持つ『加護』によって垣間見た。
男は嘘を言っておらず、至って正気であること。
そして──重度に汚染された魂をもって濁った風を吹かせていることはわかった。
「訳の分からないことを言うな!貴様は何者だ!──総員、配置につけ!」
「「「「「はっ」」」」」
二十ばかりの兵士がユウを取り囲む。
「………」
ユウは周囲を漫然と見渡した。
皆一様にこちらを睨んでいてピリピリしている。
──なんで、こうなるかなぁ。
せっかく出た記念すべき日に、タイミング悪くクルシュたちの救出作戦と被るなんてことがあるのだろうか。いやありえないだろう。そんな偶然、もはや必然。
否、運命ではないか。
「───」
ユウはその腕に抱くフェリスを見る。
ここにクルシュがいることに、ユウの心は動かなかった。
もう、ユウは選んだ。
もう、ユウは定めた。
ユウは、もう、夢を見た。
だから──。
「投降するんだ。──その子を解放し、こちらへ引き渡しなさい。さもなくば──っ」
その言葉と同時、男は子供をその場に横にし、クルシュに斬りかかっていた。
「──やっと──やっと──やっと──やっとの思いで──ここを出たんだ。ここまで来たんだ。フェリスと──一緒にいれるんだ。だから──その邪魔をしないでくれ」
「──ッ!」
まだ技量の浅いクルシュなど剣聖に打ち勝ったユウには雑魚同然だ。
ユウは容易くその剣を弾き飛ばして切り裂かないよう最低限の手加減をしてクルシュを弾き飛ばした。
「クルシュ様!!」「このッ!」「覚悟!」
「──弱い」
「「「ぐあ─ッ!」」」
──邪魔だ。ジャマだ。めんどくさい。煩わしい。僕を煩わせないでくれ。僕の──。
何も感じないのに、ただ煩わしさを感じるユウ。その不快感ともどかしさが、怒りとなって溢れ出し、赤光となって瞳に表れる。
一刀で、襲い掛かってきた騎士たちを一蹴した。
「──落ち着け、皆のもの」
ここまで黙っていた。メッカ―トが口を開いた。
「見た目に騙されるな、奴は強い。油断せずに周囲を囲め、逃がす隙を与えるな」
「…当主さん」
「貴様が何者かは知らないが、我が領で蛮行を為すならば容赦はしない」
「あなた自身別に強くもないくせに、偉そうだね」
「ふむ、剣は久しく振るっていないが、私は領主。国よりこの地を任された領主である。ただ命令を下すだけの木偶の坊にあらず、舐めていると痛い目を見るぞ──若造」
「……あなたの実力なんて、ああ、よく知ってるさ当主さん」
「クルシュ、カイン、いくぞ」
「はい!」「ああ」
当主、クルシュ、そしてカインと呼ばれた選りすぐりの騎士がユウに襲い来る。
「──ッ」
一対一であればどうとでもなる雑魚たち、だが、三対一となれば有利は傾く、ユウは三対一の戦いなど適応していないのだから。
──やめてよ。
「はっ!」「は─ッ」「ふッ」
──やめようよ。
「──ッ!」
──やめてくれよ、そんな目で、見ないでくれ。
「ぁぁぁぁぁぁあ゛あああああああああ!!ヤメロォォぉォォォォ─!!」
両手で顔を覆って突如発狂するユウ。
「くっこれはッ」
凄まじい暴風が三者を吹き飛ばす。
怒りの狂風、荒れ狂う暴風。
しかしその中に悲しみが紛れていることを、クルシュだけが感知した。
「………」
「もう、いい。もういいよ」
男は後ずさるように後ろへ下がって、子供の前に戻った。
そうしてしゃがみ込み、優しい手つきで子供を抱え込んだ。
「あなたたちとは、ここでさよならだ。──ホクト」
『……ん』
何もない空中に突如、薄紫の板が出現し、ユウはそこに乗る。
「待てッ」
「その子をどうするつもりだ!」
どうするつもりも何もあるか。
僕はただ、一緒にいたいだけ、一緒にいるって約束したんだ。
足場が浮遊をはじめだんだんと地上から離れていく。
「奥さんによろしくね。──さようなら」
「っエルフーら──」
「クルシュ、やめなさい。あの子に当たるかもしれない」
「くっでは、どうすればっ」
「領地全土に厳戒態勢を敷く、絶対に逃してはならない──彼は危険だ」
「…わかりました──衛兵!!」
「………」
既に高度は遥か上空。すべてが小さく人は蟻のようだ。
何も感じなかった。きっともうユウはクルシュに思い入れなどないのだろう。ユウはもう決別したのだ。フェリスを選んだ。フェリスと一緒にいる。フェリスと一緒に生きていく。彼女を守り、彼女を幸せにする。
でも、なんだろう。
なんでだろう。
涙も、悲しみもないのに。
ただ、心に風穴があいたような。
そんな喪失感を感じた。
なんでなのだろう。──わからない。
ユウはルグニカ王国で指名手配された。
◆◇◆
■■■■■■は暗闇の中にいた。
そこには痛みがなく、苦しみがなかった。
静かで一人で慣れ親しんだ場所。
「………」
なのに、■■■■■■はどうしようもない拒絶を感じた。
──いやだ。
いやだ、ただその嫌悪感が胸を占めて、溢れ出した。
「いやだ、いやだよ………誰か、誰か──だれ?」
するとそこに、一陣の風が吹いた。
■■■■■■の頬を風が撫でる。
風は■の頭を撫でて■を包み込んだ。
「っ!」
暗闇は一転して明るく
──あったかい。
その風は優しく、息をするごとに空っぽの胸を満たす特別な風だった。
風は■とともにいてくれた。
その風は■を変えた。
その風は■に名前をくれた。
その風は■■の世界を変えた。
もう、その風なしでは■女は耐えられない。
彼女はもう、冷たくて寂しい元の世界には戻れない。
しかしその風が桃色の悪魔に奪われそうになった。
だから、彼女は、フェリスはその風を、いいや、ちがう。
風は、彼は──。
◆◇◆
「ユウ」
フェリスは目を覚ました。
とても嫌な夢を見ていた気がする。
──さむい。
身体ではなく心が冷え切っていた。
不安と寒気からフェリスは身体を抱きしめて声を出す。
「ユウ?ユウっ?どこ─っ」
「ここにいるよ」
返答はすぐだった。
フェリスは後ろから抱きしめられた。
──やっぱりあったかい。
この温もりが、フェリスのすべてだった。
「一緒にいるよ。絶対、一人になんかしないから。だから安心して、ね?」
「…うん」
その声音は優しさに満ち溢れていて。
その鼓動を聴いていると落ち着く。
頭を撫でるその手は温かかった。
フェリスはユウに身を寄せて暖を取る。
ふと、フェリスは気づいた。
──明るい……?
フェリスの手に透き通った白い光が当たっていた。
「──フェリス、気づいた?」
「え……?」
「じゃあ──さっそく行こうか」
「え、え?」
フェリスは浮遊感に襲われた。
上を見るとそこにはなにか緑色のものがあって。
その隙間から見たことのない白くてきれな光がさしていた。
ずっと暗闇にいたフェリスにはまぶしくて、少し目をつぶってしまう。
がさがさと音がした後、フェリスにも緑を超えたのが分かった。
そして、ゆっくり、明るさに慣れてきた猫目を開いた。
そこには。
黒い天井に、たくさんの宝石が輝いていた。
「わぁぁぁ……!」
フェリスの瞳が、夜空に浮かぶ満天の星々に照らされて、
わからない。
フェリスには
ただ、でも、その美しさに、その輝きに、ただ、魅入られていた。
「すごい……っ!
ねぇっユウっ! すごいよ!
すごいすごい……!」
そこに語彙力なんてなくて、ただすごいとしかわからなくて。
「うん……すっごいね」
「うん! すっごい! これ、なに……っ!」
「──これが空だよ」
「そら……!
そっかぁ、これがそらなんだ……きれい……」
「……っ!」
ユウは、泣きそうだった。
感動で、切なくて、胸が苦して。
でもそれ以上に嬉しかった。報われた。救われた。
ユウは今までの百に近い死をその瞳を閉じて想起する。
それは暗くて痛くて怖い、嫌な記憶。
たくさんのものを失った。
最初にクルシュを失った。フェリスを失った。
ここに来てからもいろんなものを失った。
痛い記憶が蘇る。
二年にも及んだ拷問の数々。
身体がバラバラになった。ぐちゃぐちゃになって。食われて、壊されて、治って、砕かれて、散々な目にあって、嫉妬の魔女に記憶を奪われて。この世界の記憶を失って、フェリスたちの記憶を失って。
それでもなんとか傲慢のおかげで取り戻して、でもその傲慢も失って。
一年も閉じ込められて、無力と孤独に蝕まれて。
そしたら今度は訳の分からないやつが自分の中に生まれた。
そいつは僕の身体を奪おうとして、フェリスを見捨てようとした。
かと思ったら今は助けてくれてる。
そこから意地張って、死にまくって、頑張って、ただ我武者羅に頑張って、そうしてやっとここに辿り着いた。
クルシュと決別した。もう、会えないのか、何も思わない、思ってないはずだ。何も感じなかったのだから。
でも胸が空っぽになった。
わからない。僕はどうなってしまったんだろう。
壊れてしまったのだろうか。僕はもう、クルシュとフェリスを想っていた『ナナホシ・ユウ』じゃない。
この世界で五年間も過ごした『ナナホシ・ユウ』の記憶が僕にはある。でも、僕には『ナナホシ・ユウ』がこの世界に来る前の記憶がない。
嫉妬の魔女に、奪われた。僕は取り返すべきなのだろうか。
僕は、僕だ。それに間違いはない。でも、僕は──。
そんな不安と喪失感があった。
──でも、フェリスの瞳を見ただけで。
僕の心は満たされた。
初めて見る、遮るもののない満天の星々は幻想的でとても綺麗だった。
でも僕には──。
それは、その透き通るような白い肌は月光に照らされて青銀に輝いていた。
夜風に優しく揺蕩うその絹のような髪も、その綺麗な笑みも、すべてが月光に染まる中、ただ一点、存在を主張するように金の星が浮かんでいる。
その幻想的な光景を前に、ユウは静かに感嘆するほかなかった。
そんな言葉にしつくせぬ感動を、世界で僕だけが見ることのできるこの奇跡を、静かに噛み締める。
……そのくらいの褒美があっても、いいよね。
ユウは、フェリスがはしゃいで疲れ果てるまでずっと、彼女を見ていた。
◆◇◆
◆◇◆
あぁ……!
この光景を、僕の中にあるこの尊い景色を絵にしたい……!
この目で見たい! あぁぁぁぁイラストAI買おうかなぁッいや絶対思った通りにはならないけどッ! あぁぁてことはこれは僕だけの景色ってこと!? くぅっ伝えてェ! 物書きなら文章で伝えろて感じだけど、伝わってるかわからねぇ! 超きれいなんだぜ! 背景の夜の青と黒のグラデーション! 月光に当てられて白く輝くセミロングの髪の毛! 柔らかな夜風に揺蕩うさらさらとした髪! 不格好で、でも隠しきれない笑顔! 笑わない彼女の八重歯の光る笑顔! 尊い! かわいい猫耳が尊い! その万物を魅了する金の瞳が、どこまでも奥深い、僕を魅了してやまないその瞳が
ふぅ、はい、ちょっと落ち着きました。
※クルシュ一行は、ユウが暴食の大罪司教みたいな邪気を放っている(死に過ぎたせいで魂の浄化が間に合ってなくてめちゃんこ魔女の残り香、というか瘴気?を放っている)ためピリピリしていマス。ちなむと瘴気の半分は憂鬱のセイ。
クルシュとフェリスと過ごした五年間のお話読みたいデスカ?
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ある程度
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そんなに
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それより話を進めてほしい
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どっちでもいい
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お好きにどうぞ